第80回
そんな大騒動もオレ自身の仕事自体にはほとんど影響はなかった。せいぜい悪ふざけで「噂の真相」7月号の発売日当日にライター達を集めて飲み会を企画したら、当日来なかった小川範子ファンのライターが、翌日編集長に
「もう、「投稿写真」には書きません」
と電話して来たことがあったくらいだ。もちろん、オレが「噂の真相」に流したことは、「噂の真相」の編集部とオレ以外知らないことなので、単にオレの悪ふざけに抗議しての行動だったのだろう。飲み会に関してはオレも大人げなかったと思うが、それで仕事を辞めるとオレにではなく、告げ口みたいに編集長に連絡するのもいかがなののか? 編集長も突然辞めるという電話の理由がずっと分からなかったそうだ。
実は、そんなことに構っていられないくらい忙しかった。8月号で前フリし、9月号で大々的に告知する「夏休み新人アイドルフォトコンテスト」の準備に大ワラワだったからだ。以前にも佐藤恵美のフォトコンテストで実績はあるものの(それには関わっていなかったが)、今回は、北岡夢子、パンプキン、姫乃樹リカ、藤谷美紀、レモンエンジェルの5組合同の一大イベントで、それぞれが所属する事務所やレコード会社からスケジュールの情報や賞品提供の協力を仰ぐ一方で、広告部を通して賞品を出してくれるスポンサーを探してもらい、オレ自身も「ここはこう撮れ特訓セミナー」でお世話になっているカメラ・レンズメーカーを普段着ることのないスーツ姿で企画書を持って、「なんでもいいから、(商品を)何か出してもらえないか」とお願いして周った。企画書はワープロで作った貧相なもので、今考えると、高価なレンズやカメラをよく出してくれたものだと思う。
慣れぬスーツを着て走り回った甲斐もあって最終的には、原付スクーターを筆頭にカメラにレンズにCDプレイヤーなどなど、雑誌を挙げてのイベントとして体裁を保つには十分な賞品を集めることができた。
その最中だというのによく30枚以上の原稿が書けたものだと思うが、「噂の真相」8月号にアイドルテレカ業界の裏話の記事が載った。
発売翌日のこと。
「大橋、今月の「噂の真相」読んだか?」
気難しい顔をした編集長に聞かれた。
「ええ、読みましたよ(書いてもいますけど)」
「テレカの記事があったよな」
「(書いたのバレたかな? ヤバ!!)ああ、ありましたね」
「プレゼント用のテレカさ、業者を通して作るの。あれ、もう辞めよう」
「その方がいいかもしれませんね(エッ!?)」
てっきりバイトがバレて怒られるのかと思っていたのが、意外な朗報となった。業者に景品テレカをタダで作らせる手法は、かなりおおっぴらにやっていた学研の話を中心に書いたのだが(「投稿写真」のことは一言も触れていない)、違法ではないとはいえ、コレクター側から見れば、眉をひそめたくなるだろう。編集長もそれがバレた時のことを考えて、辞める決断をしに違いない。
(これで、ダーティなテレカを作らなくて済む)
バイト原稿の思わぬ結果に、オレはほくそ笑んだ。
実際には、毎月どこかのレコード会社が販促用に新曲が出るたびにテレカを作って、提供してくれたので、わざわざお金をかけたり、あぶない橋を渡らなくても、プレゼント用のテレカに困ることはなかった。バブルの恩恵はこんなことにまで及んでいた。