第81回

 フォトコンテストで大わらわの9月号の入稿が終わる頃、異動の発表があったのだが、今回も異動者の中にオレの名前はなかった。こうなると定期異動はもちろん、どこかの編集部の中堅が辞めることになっての臨時異動でさえ、いつ声がかかるかわからない。そんな状況を察してか、編集長から「IDOL SCRAMBLE」を三橋とシェアするようにいわれた。

(どうせなら、忙しかった9月号からにしてくれたら、どれだけ助かったか...)

 とも思ってたが、負担が減るのはなんともありがたい。オレが引き継いだ時にそうだったように、三橋には無理な事務所はどことかの情報は一切教えなかった(決していじわるしたわけではない。自分がそうだったようにその方が打たれ強くなると思ったからだ)。

 これが、功を奏してか、三橋がいきなり大物を釣り上げる。

「西田ひかる('72年8月12日生まれ、神奈川出身)が出てくれますよ!!」

 事務所に見本誌を届けて帰って来た三橋が、喜び120%の報告をする。

「そりゃ、凄いじゃん」

 オレは、三橋のビギナーズラックともいえる快挙に驚いた。西田ひかるの事務所は、マナセプロダクション。'86年の日航機墜落で亡くなった坂本九が所属していた事務所で、国内では吉本興業に次ぐ老舗中の老舗。レコード会社のポニーキャニオンもそれほど親しくはなかったし、オレは最初から出てくれないものと踏んで、一度もアポを入れていなかった。

「いや~、見本誌を持って行ったら、いきなり女性の社長が出てきて、えらく気に入られちゃったんですよ」

 少しニヤけた感じだが、三橋はちょいとハーフがかった面構えで、オバサン受けしそうなタイプだった。おそらく、オレが見本誌を持って行ったら、気に入られることはなかっただろう。

「この調子で、頑張ってくれよ」

 オレは、三橋をねぎらいながら、これならいつオレが抜けても大丈夫そうだと少し安心した。

 

 そんな頼りになる後輩の三橋だが、妙に人のプライバシーに干渉するのにはヘキエキした。

 オレが、外泊してそのまま出社すると、三橋が近寄って来て耳元でささやく。

「大橋さん、昨日と服が同じですね。どこか泊まったんですか?」

 オレは、自分の性生活を朝から吹聴する趣味はない。

「別にめんどいから、着替えなかっただけだよ」

 適当なウソをついた。

「大橋さん、イイコトなんかあったんじゃないですか」

(大きなお世話だよ!!)

「別に...」

「ほんとうですか~」

 しつこいことこの上ない。

 

 この一年後、オレにも彼女ができた。オレは、前で懲りているので、三橋のチェックに引っかからないよう、彼女のアパートに泊まる時用に着替えを置いておいた。しかし、三橋のチェックは厳しい。

「大橋さん、昨日と靴下が同じですね。どこか泊まったんですか」

(大きなお世話だっちゅーの。お前はおれの女房か!?)

「同じのを何足か持ってるんだよ!!」

 オレは、怒鳴り散らしたいのをグッとこらえて、平静を装いながらボソッとした声で答えた。それにしても、なぜ三橋がオレの夜の行動にそんなに執着していたのか、未だにわからない。