第89回
「投稿写真」8月号が発売された頃、「あぶないマガジン」が校了した。
「よーし、大橋の編集長就任記念の打ち上げをやろう!!」
久々の新雑誌の製作が終わって浮かれたのか、堀川編集長が突然打ち上げを決め、たまたまフロアにいた社長(現会長)のOKを取りつけてしまった。確かに表4の編集人の欄には、オレの名前がしっかりと印刷されている。しかし、実質の編集長は、堀川編集長だったので、オレ的には編集長をやった気は全くしなかった。
打ち上げは、西荻窪の店で開かれた。オレは、帰る方向と完全に逆なので難色を示したのだが、
「タクシーで帰ってもいい」
編集長の大盤振る舞いの一言で、承諾に翻った。
西荻での打ち上げが終り、森(伸之)さんとただのかずみとオレの3人で、さあどうしようかと思っていると、森さんが、
「善ちゃん(上原善二)が近くに住んでいるから、店を教えてもらって一緒に飲もう」
と言うや公衆電話に向かう。タイミングよく、上原さんがつかまったようで、5分ほどで合流した。
その2次会の席でその時、「噂の真相」に秘かに取材を進めていたネタを披露した。
「コミックマーケットって、年に3回ぐらい開かれてるイベント、知ってます? 結構盛り上がってるみたいなんだけど、いろいろあるみたいでね。万部サークルといって、一万部以上売り上げて、大儲けしているサークルとかがあったり、そんなサークルを潰すために大手出版社がパロディ本に法外なキャラクター使用料を請求して、払うか解散かと追い込んだり...」
「それって、儲かるの」
森さんは興味津々のようだ。
「売れるものさえ作れば、ウハウハだと思いますよ。64ページ程度の本で800円から1000円で売ってるんだから。部数にもよるけど、原価は200円くらいでしょ。万部サークル(同人誌を万単位の部数、売り上げるサークルのこと)のスタッフは、マンション買ったり、車買ったりしてると豪勢な話がゴロゴロしてるくらいだから。税務署が調査に動いてるなんて話もあるけど」
「俺達もやらない? ここにいる4人で作れるじゃん」
「はあ?」
(森さんは、単行本を出しているれっきとしたプロだ。そのプロが、アマチュアのコミケに参戦!? まあ、最近はプロもコミケで売ってるって話もあったな。上原さんはデザイナーだし、ただのさんは編集もできるし、もちろんオレも...)
「で、何の本を作るの」
「前から、ミッションスクールだけでまとめた制服図鑑を作ろうと思っててさ。今まで描いたイラストと原稿にすこし足せば一冊作るのには十分な材料があるんだ」
(エロパロディを買いに来る客は、制服マニアも多いかも)
オレは決断した。
「やってみましょうか。どうです、上原さん、ただのさん?」
二人ともうなずく。
「じゃあ、オレはこのネタで「噂の真相」に書くの辞めるわ。それじゃあ、カンパイでもしますか?」
4人でグラスを合わせた。こうした話は、酔ってた時の勢いでその場では盛り上がっても、翌日にはなかったことになっている場合の方が多いものだが、ここでの話は現実のものとなった。