3月25日(火)佐藤正午『熟柿』

  • 熟柿
  • 『熟柿』
    佐藤 正午
    KADOKAWA
    2,035円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

佐藤正午『熟柿』(KADOKAWA)は、震えがくるほどすごい小説だった。

産んだばかりの息子と会えなくなってしまった母親。しかも世間に背を向けて暮らしていかねばならず、住む場所と職を転々としていく。まるでロードノベルのようでもあり、子を想う母性を描いた歪な家族小説のようでもある。

それにしても破格で別格の傑作だ。

小説としてまったく格が違うのだ。去年、角田光代の『方舟を燃やす』(新潮社)を読んだときにも思ったけれど、ベテラン作家が本気で小説を書いた時の凄みと、それでいて軽やかに読者を物語の世界に没頭させる技術、そういうものが頭抜けている。

母と子のお涙ちょうだいの物語になってもおかしくない展開であるがしっかり踏みとどまり、小説に大きな迫力を生み出している。

さらに、章ごとに少し時間を経過させ、そこから過去を振り返りつつ現状を語る構成が見事だ。果たしてこの物語はどこへ行き着くのかと、夜になっても眠るのを忘れてページをめくってしまった。

タイトルの『熟柿』には、帯にあるとおり「気長に時期が来るのを待つこと」という意味があるそうだ。

善悪をすぐに判断する世の中を、一度の誤りを許さぬ世界を、そしてすぐ結果を求める現代への、アンチテーゼの物語でもあるのだろう。

2025年を代表する小説だ。

3月24日(月)ZINE神保町

介護施設のお迎えの車に母親を預け、春日部から出社。

白水社のKさんとNさんが来て、コロナ以来ゲリラ的に開催している神保町ブックフリマの打ち合わせ。今年は念願だったスタンプラリーを開催するらしい。

その打ち合わせをしているところにDRUM UPのNさんがやってきたので、白水社の面々を紹介する。雑談しているうちに「じん」だけに神保町のZINEを作ろうと盛り上がる。

くまざわ書店さんから届いた『酒場とコロナ』のFAX注文に「3/29 朝日」とメモ書きがあり、慌てて「次回の読書面」を確認すると『酒場とコロナ』が掲載されているではないか。

毎週のように『酒を主食とする人々』の書評掲載が続き大わらわしている中に、今度は『酒場とコロナ』の書評が朝日新聞に掲載されるとは! 本の雑誌社、確変タイム突入か。

3月23日(日)母親譲り

終日介護。午後、母親の友達がやってくる。「旦那が死んで話相手いないから日本語忘れそうだったのよ」と3時間ノンストップでおしゃべりし、「あースッキリした」と帰っていった。

そういえば母親はいつも聞くばっかりで、もしかすると私の営業スタイルは母親譲りなのかもしれない。

3月22日(土)アイス

朝、妻と一緒に母親を介護施設へ迎えにいく。晴天。25度近くまで気温があがる。午後、車椅子を押して父親の墓参りと散歩。母親の友達の家でアイスを食べながらおしゃべり。

3月21日(金)春の古本まつり

昨日から開催されている春の古本まつりを覗くと、盛林堂書房さんのところに当然のようにして古ツアさんこと小山力也さんが店番をしており、小山さんには現在5月刊行予定の『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』の再校ゲラを預けているので、こんなことをしている場合ではないですよ!と説諭していたところ、大量に本を抱えて隣で棚を物色しているのが日下三蔵さんであった。

日下さんは同日刊行予定の『断捨離血風録』の初校(!)ゲラを見ていただいているところであり、小山さん以上にこんなことしている場合じゃないですよ!と叫んだところ、なんと初校ゲラを持ってきたところだったそう。失礼しましたと謝りつつもそれなら初校ゲラを先に届けて、その後古本を物色するということにはならないところが、日下三蔵さんであり、古本者なのである。

午後、その日下さんが初校ゲラを持ってきて、諸々打ち合わせ。

結局古本まつりで50冊ほど本を買ってきたというのだが、あれだけ蔵書があるのにまだ買う本があるのかと驚く。どんな人生を送っても、欲しい本がすべて手に入るということはないのだ。

「本の雑誌」4月号の山本貴光さんの書斎のカラーグラビアを見て、「結局こうなるんですよ」とうれしそうに笑っていた。まさしく「同類相憐れむ」。

« 前のページ | 次のページ »