WEB本の雑誌

9月30日(月)

 記憶に間違いがなければ5年前の今日、本の雑誌社から採用の連絡があった。
 その電話を受けて、普通の転職希望者であれば喜ぶのが当然なのだろうが、あの時僕はそれほど転職する気がなく記念受験のような気分で履歴書を送っていたし、おまけに行ってみたら会社とは呼べないほどの小さな所帯に、尻込みしてしまっていたから、正直「採用になりました」と言われ困惑し、焦って保留ボタンを押してしまったのだ。

 その電話で伝えられた給与額も、普通の転職にはあるまじきダウン掲示だった。まあ、それまで僕がいた専門書の出版に比べ、本の雑誌社は商いが小さいからそれは仕方がないことだろう。しかし、そのとき僕は結婚してまだ数ヶ月でお金がかかる時期だったから、数十秒とはいえ、かなり深刻に悩んだ。生活と希望を両立することは、やはり不可能なことに近い。

 しかし僕は、保留を解除し「お世話になります」と伝えた。それは面接の冒頭で、発行人だった目黒さんに聞かれた「なぜ応募してきたのか?」という質問に対して答えた自分自身の言葉が、心の中で蘇ったからだ。

「書店営業がしたいんです」

 それまで働いていたのも同じ出版業だったが、医学書の専門出版だったためその営業先の多くが医療商社であった。どうもそれが僕には馴染めず、大好きな本屋さんを仕事場にしたいと考えていた。その願いが叶うなら、例え小さかろうと、給料が下がろうといいじゃないかと「了承」の結論を出したのだった。

 あれから5年。
 今日もダラダラと雨が降る中、書店さんを廻った。あいにく担当者がお休みの書店さんが多く、あまり良い営業が出来たとは言えない。それでも茗渓堂さんや東京ランダムウォーク神保町店を訪れ、公私含めていろいろな話が出来た。これこそ僕が求めていた人と人の間に本を挟んだ仕事であり、とりあえずサッカーも観られ、メシも食っていけるから、5年前の選択は間違いではなかったのだろう。

◆今日売れていた本
神保町地区 『山の上ホテル物語』 常盤新平著(白水社)
「担当者不在のためコメントなし さすがご当地…なのか、ベスト10入り。ちなみに僕も買ってしまった」