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11月30日(土) 炎のサッカー日誌 2002.11

 前日抽選、そして当日朝6時の再集合と仲間とともに苦労し、手に入れた立ち見最前列。
 目の前のフェンスに飛び上がり、最終戦後のセレモニーで場内一周する選手を前に、僕は吠えていた。

「フクダ~、フクダ…。ありがとう…」

 声は声に成らず、涙が頬を伝う。ミスターレッズ・福田正博への十年分の熱い想いは山のようにあるのに、この5文字を叫ぶのがやっとだった。愛する福田正博のレッズで戦う最後の姿を前に、走馬燈のように思い出が駆けめぐる。

 初年度の不甲斐ないチームで孤軍奮闘する姿。責任を背負い過ぎ、プレイに精彩がなくなっていく翌年。ドイツ代表天才パッサー、ウーベ・バインから二人にしかわからない呼吸でボールが渡り、ゴールラッシュが始まる95年。この年の得点王タイのゴールを決めた等々力競技場のヘディング。サッカーを観ていてあれほど興奮したことはない。思わず観戦仲間のYさんと強く抱擁してしまったこと、未だ忘れていない。その後はケガと出場を繰り返し、なんといってもJ2降格が決まった延長戦で、世界で一番悲しいゴールを決めたのも福田だった。

 福田の思い出は、まだまだとても書ききれない。思い出して書いている今も涙が止まらない。

 僕は、この日になって気づいたことがある。
 それはレッズを応援する気持ちの大部分が福田を応援することであったと。でなければ、これほどの喪失感を味わうわけがないし、落ち込むこともないだろう。10年間片思いしていた相手が、いきなり目の前から消えてしまったような感じだ。サポ仲間から叱咤されたが、来シーズン以降も同じように応援し続けられるのか、不安さえ感じているほどだ。

 僕にとって、福田正博が象徴していたのは「めちゃくちゃ弱いし、うまく行かないけれど、強くなろうぜ」という前向きな意志であった。福田は多くを語らないが、プレイや取り組む姿勢でそれを表現していた。そして僕はそんな福田の姿を見て、何度も何度も自分の人生に照らし合わせ、顔を上に向けて来たのだ。

 その福田がレッズのユニフォームを脱ごうとしている。
 涙が止まらない。

 その涙の理由は離別の悲しみだけでなく、福田を優勝させることができなかったことへの悔しさも含まれている。僕は日本一ダメなサポーターだ。

 フクダ、ありがとう。
 そしてごめんね。

11月29日(金)

 小田急線の奥を営業。

 本厚木のY書店Yさんとお会いすると開口一番「最近面白い本ないですか?」と聞かれる。もちろん只今どっぷり浸かっている高橋克彦著『火怨』上・下(講談社文庫)から続く東北3部作<『炎立つ』全5巻(同文庫)と『天を衝く』上・下(講談社)>をオススメする。

 しかし、前回Yさんを訪問したとき、Yさんから薦められたのがJ・アーヴィングだったのを思い出す。外文好きに「誇り」と「熱き戦い」の時代小説なんて薦めていいもんだろうか?と考え直しつつも、話しているうちにドンドン興奮してしまい、アテルイだとか藤原経清だとか源義家だとか、とにかく止まらなくなってしまった。ああ、アホだ…。

 それでもYさんは外文好き編集者金子のように嫌悪感を表さず、「気になっていたんで、買ってみますね」と優しい一言を漏らす。思わずこちらが「えっ!」と驚いてしまったが、詳しく話を聞いて、当たり前のことに気づく。何も外文ファンだからといって、外文だけを読んでいるわけではないということ。金子は度量が狭いのさ。

 この日Yさんから
「わたし、泣きたいときに読む本があるんです。学生時代に手に取ってから、何度も何度も読み返しているんです」と紹介されたのが『侍』遠藤周作著(新潮文庫)であった。

 そういえば、いつだか渋谷の南口Y書店さんで、絶対泣くと薦められたのも遠藤周作氏の『わたしが・棄てた・女』(講談社文庫)であった。あれは確かに泣きまくって、人生について深く考えさせられる1冊だった。それ以外遠藤周作氏の本は読んだことがないのだが、もしかしてほとんど泣ける話なのだろうか。ちなみに『わたしが・棄てた・女』を読み終わったとき思ったのは、この著者の本、もっと若い頃に読んでおけば良かった…と後悔であった。薄汚れた心の30代には、あまりに言い訳ばかりしたくなる純粋な物語だったからだ。

 しかし、この日も素直に『侍』を買って、次なる書店さんへ向かった。
 出版営業という仕事に就いて一番の幸せは、このように書店員さんと本の話ができ、そして読む本の世界が広がっていくことだろう。

11月28日(木)

 浜田が顔を腫らして出社。おっと、こう書くとケンカとかおたふくとか大泣きとかそういう大きな腫れだと思われそうなので、早めに否定しておくが、そういった腫れではなく、これは前夜の酒によるちょっとした腫れだ。

 彼女はかつて二日酔いで早退したことのある逸話の持ち主で、酒と酒宴が大好きなのだ。たぶん昨日もどこかで大がかりに酒宴があったのだろう。それがハッキリ顔に出ている。しかしここは武士の情け。深く聞かずに見逃してやろうと営業の用意をしていた。

 すると経理の小林がいきなり核心をつく質問をした。
「昨日は楽しかったですか?」
 オイオイ。イヤミにしても、それはヤバイだろう。女性同士のケンカほど面倒なものはない。と僕は身を固くした。しかし浜田はアッケラカンと答える。
「すごい楽しかったです」

 その後二人に続いた会話を盗み聞きしていると、どうも僕の勘は当たっていたものの、その酒宴は周知の事実のようであった。直帰を繰り返していると会社の話題に非常に疎くなるもので、こういうとき何もわからず<?>だらけになってしまう。二人の会話は勢いを得て、果てしなく続く。

「吉田さんの料理がおいしくて、もう食べて飲んで楽しかったですよ」
「そうですよね、吉田さん上手ですもんねぇ」
「松村さんも久しぶりに栄養満点の料理で身体に良かったんじゃないですか。わたしは飲み過ぎちゃいましたけど」

 なんだ。吉田(伸子)さんの家にお呼ばれしての酒宴だったのか…。吉田さんは、人をもてなすのが好きな人で、おまけに面倒見がイイ。ときたまこのようにして後輩である浜田や松村を呼んで、おいしい食事とお酒を振る舞い、愚痴を聞いてあげつつ、叱咤激励をしてくれているのだ。昨日もそんな酒宴だったのだろう。

 冷やかしも茶々もいれる余地がなさそうなので、僕は自分の仕事に向かった。しかしあることが思い浮かび、その手がふと止まる。

 吉田さんの家にお呼ばれされているのは浜田と松村。それからたまに金子が原稿を受け取る方々、ご馳走になっているようだ。むむむ。そういえば、超ベテラン助っ人のヤノッチと旧・タカもよく吉田さんの家に遊びに行っている。おぉ、呼ばれていないのは僕と浜本だけではないか……。うん? そういえば、ここのところ顧問目黒の「笹塚日記」で『吉田伸子から電話』という記述が多いような気がする。もしかして、もしかして。

 吉田さん! 「本の雑誌新社」を立ち上げようとしているんじゃないのか!?

 吉田さんは『本の雑誌』を誰よりも強く愛していることは間違いない。助っ人時代・編集者時代と一心に本の雑誌に身を捧げ、退職後も何かと面倒を見てくれていた。それに本人の出版記念パーティーのスピーチですら「わたしのことより『本の雑誌』をよろしくお願い致します」と頭を下げていたのだ。きっとその愛情が深まり過ぎて、そして今、どうも自分の愛していた『本の雑誌』が変わってきたと思い、ついに立ち上がることを決断したのではないか。

 そうか、絵が見えたぞ。顧問目黒から設立資金を引っ張り、顧問よりも偉い会長職なんていうのを与えておいて、現・本の雑誌社の柱である3人を一気に引き抜き、おまけに何も言わなくても次の仕事がわかるベテラン助っ人まで懐柔し、『新☆本の雑誌』なんていうのを創刊する気なんだ。

 ヤバイ、ヤバ過ぎる。てっきりこの会社で出世するためには、社長である浜本と仲良くしておくのが一番だと考え、毎日肩を叩いたり腰を揉んだり車を洗車してあげたりして、ご機嫌を取っていたのだ。これで椎名と浜本と3人で残ってしまったら僕はどうすればいいんだ。どう考えても恐ろしい毎日ではないか。

 ああ、時代小説の読み過ぎなのか…。それにしてはやたらにリアルな吉田さんの豪快な笑いが頭のなかで響いている。

11月27日(水)

 出社すると『本の雑誌』1月特大号の下版日で、徹夜明けの編集部が真っ赤な目でハイテンションになっていた。浜本は歌い、松村は踊り、補助の石山は机に突っ伏しブツブツ独り言。大きな作業机の上にはゲラやら写真やら赤鉛筆やらおいなりさんやらが雑然置かれていて、まさに出版社地獄絵図。

 こういうところに長くいるとロクなことがないのは経験的に知っているので、通しのゲラを持って2階の応接間に上がる。同様に身の危険を感じていた浜田が既に避難していて、即席営業部の出来上がり。

 基本的に『本の雑誌』の連載は1年、あるいは2年が目安になっているからその入れ替わり時期の1月号は執筆陣が大きく変わる。だからこの1月号のデキが非常に気にかかる。営業マンとしてはどの原稿が強みになって部数を増やすか、またその中からどの連載が本にして商売になるか考えなくてはならない。もちろん一読者としての興味もある。

 おお、今回はかなり大きく変わったなと興奮しつつ、ゲラを読み進める。編集会議でああでもない、こうでもないとここは営業マンの強みでムチャクチャ言っていた意見もいくらか通っているようでちょっと満足。

 それにしても、もう1月号の下版だ。一年が早すぎる。

11月26日(火)

 総武線千葉方面を営業。

 多くの書店さんで「やっぱり11月は売上が悪い」と聞く。『ハリーポッター』の大きな落とし穴があったのか、どうも文芸書はポッカリ穴に落ちたような下降線。確かに各店ベスト10を見ても売上を引っ張っていくようなものもなく、日野原先生ブームも日本語ブームも下火になってしまった感がある。

 閑散とした新刊平台を呆然と眺めつつ、売れ方の変化を考える。

 かつて文芸書はある程度作家名で売れていた。○○さんの本は△△部、□□さんの本は××部とある程度数字が読めたし、そういう売れ行きを示すからこそ「ベストセラー作家」という肩書きがあった。

 それが今では作家名に関係なく、旬な作品だけが売れていく。○○さんの本だから売れるのではなく、たまたまその作家が書いた本が話題になっているから売れていくというような感じだ。こういうのは例えを出すとわかりやすいのだが、出すと問題が起こりそうなのでちょっと控える。ただ数年前にベストセラーになった小説を想い浮かべ、その作家がその後出した本がベストセラーになったか?と考えればわかるだろう。

 結局ベストセラー作家というのはほとんど存在しなくなり、言葉は悪いが(決して作品の質のことではない)売れ方を見ていると「1発屋」ばかりになってしまっている。

 本が著者という縦の軸で売れなくなってしまった。だから既刊書も売れない。かつてなら○○さんの本がベストセラーになったら、その作家が今まで書いた作品も一緒に売れていた。そういう興味の持ち方をしている読者が多かった。しかし今はその作家への興味が続かない。次に買う本は、また話題になっている別の作家の本である。

 これでは出版社も本の作りようがないし、書店さんも発注しようがない。もちろんデータを基本にした配本もうまくいかない。前に○○さんは10万部売れたから今度も同じようにと配本したら、目も当てられない返品率になるだろう。

 こういう時代が続けば、作家という職業は成り立たなくなるのではないか。例え一度は売れたとしてもそれが続かなければ仕事はなくなる。出版不況とやたらに騒ぐが、作家の生活にまでその話は及ぶことはない。果たして、文章を書くだけで生活していける作家はどれだけいるのだろうか?

 流行廃りは昔からあった。しかしそれがあまりに加速してしまって、出版社も書店さんもとても追いつかない。

 ああ、話が大きくなりすぎてしまった。ただ、売場の現象として、本が縦に売れなくなったことを伝えたかっただけなのだが、結局、僕も何だかわからないということ。まとまりもなく今日は終わる。

11月25日(月)

 ここしばらく週明けは最悪な気分で仕事に向かわざるえない。それもこれも連敗を続けるレッズのせいで毎週末ごとにストレスが2倍、3倍に増幅されている。

 本来サッカー観戦で大声を張り上げ、かなりの部分のストレスを発散できるのだが、こうも不甲斐ないプレーと敗北を繰り返されると、発散どころか蓄積する一方。おまけに我らが浦和レッズは大将・福田正博と来季契約しなことも決まってしまい、大きな喪失感が僕を襲っている。ああ、そろそろ潮時なのか…。

 そうはいってもこちらもプロである以上、レッズの連敗を会社の誰かにぶつけるわけにもいかず、忍の一字でデスクワークに勤しむ。DMにチラシに編集後記と書き仕事は山のようにあり、とにかく怒りを仕事にぶつけ、キーボードを叩く。

 それなのに、それなのに…。顧問目黒が降りてきて、僕を見つけてニヤリと一言。
「良いときは続かないんだよ。悪いときは続くのに」
 思わず咄嗟に
「目黒さん週末の競馬はどうだったんですか?」と聞きかえそうと思ったが、こういうときに限って軽やかなステップで4階へと消えていく。

 くそ、またストレスが溜まってしまった。

11月22日(金)

 とある書店員さんがいる。

 僕が出会ったのは十年近く前で、その頃は単なる売場の担当という肩書きだった。初めから何となく気が合って、それ以来、ほとんど仕事を抜きにしてつき合いを続けているのだが、その間、その書店員さんは異動を繰り返し、本部仕入や、支店の店長を経験し、今ではエリア長という偉い肩書きが付いてしまった。

 これは出世なのだから「付いてしまった」なんて書き方が間違っているのはわかっている。しかし、その書店員さんの本質が売場仕事にあることを知っていると、こういう管理職への出世はあまり喜ばしいことではないと思えてしまう。

 書店員さんの出世の仕方というのは、上にあがるほど<本>から離れていくものだ。本を触らなくなり、売上や人のマネジメントに仕事の主体が動いていく。本人もそのことを寂しく思いつつ、いちサラリーマンとして仕方なくそちらをこなしていく。もちろん出世するような人は何かに長けているわけで、マネージメントをやらしてもしっかりこなしてしまう。そしてそれがまた<本>から距離を取らされる理由になるのだが…。

 その長いつき合いの書店員さんと早めの忘年会をやった。今まで見たこともないくらい憔悴していて、それは仕事量の多さと思惑とは違う仕事をしているからなのだろう。しかし、それでもヤケを起こすことなく、こんな言葉を呟いたのが印象的だった。

「何でこんなにまで仕事をするのか…。部下のことを思うとね、やっぱり気持ちよく仕事させてあげたいんだよね」

11月21日(木)

 ウエちゃんのテレビ放送のことを書いていたら、発行人浜本が一人拗ねている。どうしたのかと思って話を聞いてみると、なんと浜本がラジオ番組に出演したという。えっ? 誰か知っているの? 他の社員も一同にクビを振る。浜本はすっかり落ち込み、いじけた様子で机に泣き伏す。何だかあまりに可哀相なので、詳しく話を聞いてみると、今月から東海ラジオで月一回レギュラーで本の紹介をしているというのだ。

 そういえば、数ヶ月前、タイトルがどうとか言って『王様のブランチ』で本を紹介している松田哲夫さんに対抗し『茂ちゃんの気になりすぎて禿げちゃった1冊』はどうかな? なんて呟いていたのだ。あの時、何のことだかまったくわからず、いつものように別世界の住民になっているのかと考えていたが、ラジオ番組のタイトルだったのか。なるほどね。

 しかし、よくよく考えてみたら東海ラジオが関東で聴けるわけがなく、社員が知らなくて当然なのだ。そうなると今度はいったい浜本がどんな声で何を話しているのか気にかかる。僕らの悪口…なんてことはないだろうが、まったくキャラクターを変えて格好つけているかもしれないではないか? うーん、気になる。いやそれよりも番組タイトルが本当に『茂ちゃんの気になりすぎて禿げちゃった1冊』なのかもっと気にかかる。

11月20日(水)

 昨夜放送された『タモリのグッジョブ!』にウエちゃんが出演したのだが、いったいどれほどの人が気づいたのだろうか? 今のところこちらのHP宛てにメールをしてくれた方はひとりのみ。他にどなたか気づきませんでしたか?

 その出演内容は、タクシー運転手5名がスタジオに登場し、タモリやナイナイと仕事について意見を交わすといった趣旨なのだが、しかし。そのコーナは30分近く取られていたにも関わらず、なんとウエちゃんの発言はたったの1回だけ。それも一番答えずらいだろう「ヤクザ」のお客さんについてコメントを求められたシーンだった。ウエちゃん、ちょっとボケに失敗し、滑っていたのが痛ましい。

 それにしても、わざわざ大阪から人を呼び出しておいてこれはないだろう! と本の宣伝にならなかったことはひとまず置いて、その理不尽さに怒りが沸く。思わずテレビに向かって座布団を投げつけ、あまりに可哀相なウエちゃんに同情してしまった。

 とにかくこの放送でわかったことはひとつだけ。ウエちゃん、太り過ぎです。テレビは太って映るということをさっ引いても、顧問目黒どころじゃありません。ここのところ、本の売れ行きには著者のビジュアルも関係してきますので、営業マンとしてウエちゃんがダイエットすることを望みます。でも、あれじゃ10キロくらい落としても意味がないだろうなぁ…。

11月19日(火)

 午前中、新潟から書店員さんが来社。
 本来は僕が出張してお店に顔を出すべきなのに、逆に毎年訪問頂き、尚かつ新潟の書店情報などを教えてくれる。非常に有り難い。

 その書店員さんのお店は本とCDを扱っているお店で、実はこのふたつの商品、商取引がかなり違うのだ。基本的に、本は委託商品(返品可)でCDは買い切り(返品不可)になっているし、正味(卸し値)も約10%ほどCDが低いらしい。

 ならばお店にとってどちらの方がいいのか?尋ねると、即答で返される。
「そりゃCDみたいに分かりやすい方がいいですよ、300枚頼んだらきちんと300枚入ってきて、それを売るための努力をすれば良いんですから。本の場合100部欲しいのに500部って書いてそれでも50部しか来ないとかざらですからね。CDには、だいたい月に3,4回発売日っていうのがあって、その日に出るものが一覧になってくるんです。1ヶ月半前にはほとんどわかる。そのリストを見ながら過去の実績やお店の傾向を考えて、バァーっと仕入数を入れていくわけです。」

 それで返品に対しての恐れはないのか?
「何%って返品枠はあるんですけど、まあそれはそれで仕入で勝負してるって感じですかね。あと時限再販ですから、最悪のときは値引きして売るっていう手もありますし」

 何だかCDのシステムの方がベストではないにしてもベターな気がしてくる。出版業界がこれだけどうにもならなくなっている原因のひとつは返品の問題が大きいからだ。何でそれがこちらの業界で出来ないのか。
「僕もそうだったらいいなと思うことがあるんですけど、とにかくアイテム数(新刊の種類)が多すぎますね。CDは1回の発売日で、300~400アイテムなんですけど、本だったら1日でそれくらい新刊が出てますから、書店員が全部チェックするなんて無理ですよね。発売日ギリギリになるまで出るのか出ないのかわからないし」
 
 ★   ★   ★

 今年の初め、再販制度についての見直しが行われ、昨年末辺りは出版業界もその答えに恐れを抱いていた。しかしフタを空けてみれば、ほとんど今までと変わりなくの、灰色の決断が下され胸をなで下ろしたのだ。

 僕自身は再販問題よりも、委託配本制度と取引格差をどうにかした方がいいと思うのだが、どうもそういった議論はあまり起きていないようだ。いや、こういうことを誰がどこで議論して決めていくのかもわからない。

 このままで良い…とは、ほとんどの出版業界人が思っていない。しかし、自分たちが血を流して変えるほど、出版社・取次・書店とも体力がなくなってしまった。「座して死を待つ出版業界」。誰が言ったのか忘れてしまったが、その通りの気がしないでもない。

11月18日(月)

 一日遅れで『話はわっしょれ~』の見本が届き、あわてて取次店さんへ持っていく。

 この本、本の雑誌社としては初めての試みなのだが、なんと中場さんの写真を表紙カバーに使用。その写真もこの本のためにプロのカメラマンに撮影してもらうという本の雑誌らしくない真剣さで、渋くカッコ良く、中場さんの魅力がしっかり伝えられている素晴らしい出来だ。

 うん? ちょっと待てよ、表紙が写真の本って『ガクの冒険』のガクもそうか? いやあれは著者じゃないからやっぱり初の試みか。

 そんなことはさておき、中味(原稿)も自信があって、叱ることで人が伸びると未だ信じ込んでいる発行人浜本も「これは面白い! 杉江しっかり売れよ」と珍しく絶賛しているではないか。是非、書店店頭で見かけた際は手にとって頂き、レジへ直行してください。

 さて、取次店さんに無事見本を届けた後は、新宿で単行本編集の金子と落ち合い『おすすめ文庫王国2002』の対談の立ち会い。毎年恒例になっている文庫担当書店員さんの匿名座談会なのだが、3時間以上無駄話も一切なく、非常に濃密な対談に。いやはや興味深い話ばっかりで、金子と二人大満足の収録。

 それにしても慣れないことをしたせいか、非常に疲れてしまった。今日は勝手に「ノー残業デー」と決め、定時の6時で会社を飛び出す。しかししかし。こんなときに限って、京浜東北線と武蔵野線に事故や故障があってダイヤが大幅に乱れ、結局、家に辿り着いたのは、いつもと変わらぬ時間帯で、何のためにノー残にしたのかわらない。疲れを引きずったまま、本も読めずに就寝。

11月16日(土) 炎のサッカー日誌 2002.10

 昔、大洋ホエールズか横浜ベイスターズが11連勝だかした後に、同じくらい連敗して勝率が元に戻ったことがあったけど、今の浦和レッズはまさにそんな状態だ。

 なぜにこのチームで「優勝」なんて口走ってしまったのか? と、クビを傾げてそのまま逆立ちしてしまいそうなダメさ加減。あの時僕は完全に夢見ていたし、もちろん現実になると信じていた。

 しかし、夢はいつか覚めるもの。恐怖のスリートップだったエメとトゥットと永井は、単にピッチで孤立した3人衆に成り下がっているし、残り8人で守っていてもポロポロ穴が空き、失点を繰り返す。2ヶ月前にジュビロ磐田に勝った…なんてことはとても信じられない。いったいどうしてこんなチームで連勝できたのか? なんて質問は「人がなぜ生きているのか?」と同じくらい哲学的な質問だ。まさにこれぞサッカーの面白さなのであろうが、その現実に立ち会っているこちらはたまったもんじゃない。嗚呼、ツライ。

 本日もまったく得点できる気配がなく、シュートを打ってもキーパー真正面をつく不幸をいまだ引きずり、延長突入間近88分にガンバ大阪のマグロンに決勝点を決められ、あえなく敗退。

 駒場スタジアム・アウェースタンドからは、ガンバサポから「ウンコレッズ」のコールが沸き起こっていたが、反論する気にもなれず、またあまりの幼稚さに怒りも起きず、しずしず黙って帰る。

 嘆いていても仕方ないのだが、一度、禁断の果実(優勝争い)を囓ってしまった僕に、この体たらくを見せられては、とても気合いを入れて応援しろと言われてもその気になれない。J2落ちもないし…。ああ、よく考えたら選手も同じ気持ちなのか? 残り試合が2試合だから、連勝分の連敗がないのが救いか…。ああ、覚めない夢を見たいもんだ。

11月15日(金)

 朝イチで会社を飛び出し、神保町のS書店さんを訪問。担当者さんがお休みだったので営業らしい営業は出来なかったのだが、かつて新宿のK書店さんで働いていたYさんが前日からこちらの書店さんで働いていることを知り、ビックリ仰天、旧交を暖める。いやはや、こういう再会は嬉しいものだ。

 昼飯を移動時間にあて、千代田線に乗り込み、一路柏へ。久しぶりにお会いできたW書店のO店長さんと「恥ずかしくて人には言えないけれど新刊が出ると絶対買ってしまう作家」について話を咲かせる。もちろんここにその答えは恥ずかしくて書けないが、互いに挙げた作家が意外に店頭で売れていることを知り、でもそれらの本が書評に載ることもないのでやはりみんな隠れて読んでいるんだと納得。

 それから駅の反対側に移動し、文芸書から人文その他沢山の担当になってしまったS書店のMさんを訪問。いつもはMさんの元気にこちらが癒されるのだが、とてつもない仕事量にMさんもさすがにグッタリしている。いつもと逆に僕が励ます展開になったのだが、何せ役不足のため効果は不明。うーん、人を勇気づけられる人間になるには、付け焼き刃の人間性ではダメということだろう。とにかく年末に忘年会を開くことを約束。

 その後、新松戸、綾瀬、千駄木と営業。会えたり会えなかったりするが、とにかく訪問することが大事と気を引き締める。

 そんなこんなであっという間に6時となり、予約を入れていた歯医者へ向かう。既に治療は終わっていて、残すは歯石取りだけなのだが、これが予想以上に痛いのなんの。ただMっけの強い僕にはかなりイタ気持いい快感。ちなみに注射も大好き。

 さてさて妙に濃密な一日はここからが本番で、この後、池袋へ移動し、L書店のYさんやKさんと酒を飲み交わしたのだ。

 僕、かつてからこのYさんを尊敬していて、いつかYさんの下で働いてみたいと考えているだが、今日の話を聞いて考え直す。なぜならYさん、平積みのハードカバー丸背本が、平台から取り上げるときに引っかかるのが嫌いで、平台に積むときは下敷き一枚入る隙間を作るというのだ。その話は前にも伺ったことがあったけれど、さまかそれを本当に実践しているとは信じていなかった。

 ところがところが、部下のKさんに話を聞くと、Yさんは本当に下敷きを持って店内をチェックしているというではないか。その心遣いに尊敬の念は一段と増したが、とても僕のような適当で大ざっぱな人間にYさんの部下として働く資格はないことを悟る。

 ああ、秀でる人というのは目に付かない努力をしているんだ…と納得しつつ、終電で帰宅。

11月14日(木)

 出かけるタイミングが、調べものに行く助っ人学生と一緒になり、肩を並べて笹塚駅へ向かった。

 ケラケラ笑う元気印の新・タカ(タカハシミホという同姓同名の学生がいるので、後から入ってきたタカハシミホは必然的にこう呼ばれるようになった。ちなみに元々いたほうのタカハシミホは旧・タカと呼ばれている)とのんびりした口調が特徴的なコンドー。二人とも女子学生。

 閑散とした午後の商店街を歩いていると突然思いだしたようにコンドーが話し出す。
「この前、調べもので図書館に行ったとき、突然<おっさん>が寄ってきて話しかけてきたんですよ」
「えっ?」
「すごい怪しくて、何を調べているんだ?とかそういうのが好きなのか?とかしつこいんですよ」
「それで、大丈夫だったの?」
「ええ、でもちょっと気持ち悪くて。余計なこと話すの面倒だから、大学のレポートって答えたんですけど、ずーっとつきまとわれました。あの<おっさん>何だったんでしょうかね」

 僕には重松清の小説に出てくるような寂しい中年が思い浮かび、つい意志疎通ができない自分の娘とコンドーをダブらせ、話しかけてきたのだろうと考えた。

「寂しそうな<おっさん>だった?」
「うーん…。30代半ばくらいの普通の<おっさん>だったんですよ」

 オイ!!、ちょっと待て! 30過ぎを形容するのに<おっさん>という言葉を使うなら、オレも<おっさん>じゃないか? 確かに<おっさん>だけれど、それは小学生や中学生から見たら<おっさん>で、君たち20代前半からみたら、<お兄さん>程度の認識じゃないのか? だって年だって10歳も違わないんだぜ。

 しかしそのことは口に出さなかった。あまりにビックリしてしまって声にならなかったのと、ツッコミを入れたら自分が<おっさん>扱いされたことを白状することになるからだ。ここはひとつ話を流してしまおうと、違う話題を振ろうとした瞬間、新・タカがお得意のケラケラ笑いをして、とびきりのツッコミを入れた。

「コンドーちゃん、ダメだよ、30半ばを<おっさん>って言っちゃ。杉江さん、ドンピシャなんだから、傷つくよ! ほら真顔で焦ってるよ。ケラケラケラ」

 その後、何度も何度もコンドーは謝りつつ、フォーローを入れてくる。「杉江さんはおっさんじゃないです」と。しかし、その言葉を繰り返されれば繰り返されるほど、あまりにこちらは惨めな気持ちになっていく。

11月13日(水)

 久しぶりに明るい話題が飛び込む。書店さんの新規オープンだ。それもナショナルチェーンの出店ではなく、完全な独立店舗。小さな書店さんの閉店の報ばかり伝わってくる昨今、これほど嬉しいことはない。

 護国寺の駅を降り、講談社の目の前に面したまだ真新しいマンションの1階にその書店さんはオープンした。ブックス音羽。S店長さんは、元々こちらの世界で名の通った書店員さんで、かつて別の書店に勤めていたとき、僕はとてもお世話になっていた。その縁もあり、『本の雑誌』の注文を頂き、直納へ向かった。

「今、ないでしょう、小さい店開ける人。みんなオープンは大きい店で、珍しいって取次店でも言われたよ。難しいのはわかっているけど、でもやっぱり本屋をやりたいし、いつか自分の店をって、ずーっと考えていたんだよね。25坪の小さい店だけど。まぁ、これからだね」

 S店長さんはオーナーになった喜びと、またその分大きな責任を背負い、何だか不思議な笑顔で話してくれた。ここへ辿り着くまでの道のりは、僕にはとても乗り越えられない険しさだし、またこれから向かう先も決して楽な道ではないだろう。けれど、S店長さんが浮かべている笑顔、僕もいつかそんな表情を浮かべられるような人生を歩みたい。

「休みがね、ないんだよ。とにかく今のところ無休で開けていて、店が開いている限り、例え自分が休んでも休めないんだよね」

 今後の成功を心から祈り、そして「体調には気をつけてくださいね」と声をかけS店長さんと別れた。

 地下鉄の出入り口に降りる前にもう一度振り返る。
 講談社の大きな大きな建物と、25坪のお店。何となく出版界の象徴のようなその光景に、しばらく見入ってしまった。

11月12日(火)

 今月の新刊『話はわっしょれ~』の事前注文短冊を持って、取次店さんを廻る。これでとりあえず抱えていた仕事がひとつ減る。いつもならここでちょっと気が抜けて、3日間くらいのんびり営業をするのだが、今年はすぐにも年末増刊の『おすすめ文庫王国』の営業に走らなければならないから気を抜いている時間はない。相変わらず仕事に追われ、なおかつその仕事もただ「こなしている」状態に陥っていて不完全燃焼。何だかなぁ…と嘆きつつ御茶ノ水にあるN社へ。

 するとビルの入り口に大きな段幕が貼られていて「防災訓練実施中」と書かれているではないか。これってもしかして出入りの業者の僕もいきなり火災ベルが鳴り出したら避難階段で駆け下りたりしないといけないのかとちょっと焦る。いやそれよりも、もしかしてエレベータが突然停まったりして、そこに乗っていた場合あのマイクで防災センターとお話しする訓練をさせられるのか?

 僕は非常にアドリブに弱い人間なので、ちょっと困る。訓練とわかっていてもあわてるるだろうし、訳のわからないことを叫びそうな気もする。仕入窓口のEさんと話しつつも、ベルが突然鳴り出さないかと気にかかり上の空。結局、何も起こらず無事終了したのだが、あの後訪問した出版営業マンの方々はどのように対処したのか気にかかる。

 その後、飯田橋に移動しT社へ向かう。その道で顔見知りの出版営業マンW社のAさんとバッタリ遭遇。先日、互いの会社で出している本の著者が思わぬリンクをしていることが判明し、ちょっとした営業企画を相談し合う。

 その後T社と市ヶ谷の地方小出版流通センターを訪問し、今日は早めに会社に戻ってデスクワークを片づけようと都営新宿線に乗って笹塚に。

 しかししかし。僕の机には助っ人が座っていて、原稿の打ち込みをしているではないか。おお、ついに窓際族から、机なし族になってしまった。後はクビを洗って待つだけか。ああ。

11月11日(月)

 土曜日、我が浦和レッズはまた負けて、リーグ優勝の夢ももはや宇宙の彼方へ。日曜日にあった自分のチームの試合では、まったく活躍することが出来ず、シュートが宇宙の彼方へ向かってとんでいく。最悪の週末を引きずり、憂鬱な気分で出社する。おまけに今日は『本の雑誌』12月号の搬入と新刊『話はわっしょれ~』の事前注文の〆日だから忙しさはレッドゾーンを振り切れるだろう。

 重い足取りで会社の扉を開けるといきなり事務の浜田が駆け寄ってくる。
「すみません、わたしとんでもないミスをしてしまったようです」と動転した様子でいきなり早口に話し出す。人が言う「とんでもないミス」というは、意外とどうにかなるようなミスなことが多いし、頭も寝ぼけているから、気軽な気持ちで聞いていた。

 しかしそれが本当に書店さんを巻き込む「とんでもないミス」だとわかり、思わずこちらも血の気が引いていく。あわわわ、これは参った。とりあえず対応策を考え、迷惑をかけてしまった書店さんに謝りの電話をいれる。

 そして自分の仕事は自分でするべきだと深く反省する。仕事上のほとんどのミスが、受け渡しや引継の段階で起きるもの。そして、こういうことが起き、結局、自分に帰ってくるものだ。

 僕が出版営業マンとして一番欲しいのは、注文ではなく信用だ。その信用はいきなり生まれるのではなく、ゆっくりと着実に作られていく。酒を酌み交わし、へりくだれば出来るものではなく、日々の訪問でのちょっとした会話や対応によって薄い紙を積み重ねるるようにして形成される。

 また、その信用の紙は何気ない一言によって全て吹き飛ばされることはあっても、いきなりドンと増えることはない。その緊張感がたまらなく僕は好きだ。まさに営業の醍醐味かもしれないと思う。

 今回はミスは、書店さんの好意でどうにか許して頂いた。
 しかし信用の紙は減ったであろう。どんなに忙しくても注意を怠ってはいけないってことだ。

11月8日(金)

 昨夜、太田篤哉さんと「どん底」で酒を飲んだ。あと数年で開店50周年を迎える古いお店で、そのたたずまいがたまらなく良い。そして篤哉さん自身が19歳のとき北海道から上京し、働きだした思い出のお店でもある。感傷的な感じの篤哉さんの話をただただ静かに聞いていた。

 そこへ浮き球△ベースの新宿チームの面々が合流。隣に座ったRさん、よくよく思い出してみるととある出版社の編集者。この「炎の営業日誌」を読んでいただいているようなので、「本にしてくれませんか?」と何気なく探りをいれる。

 間髪入れずの即答は
「2000部買い取ってくれますか?」

 おいおい、誰がどうみてもそれは自費出版だし、僕も一応、原価計算やら印刷経費の管理なんかをやっている身だから、本がいくらで出来るのか知っている。それは編集経費を抜いてもかなりおいしい商売ではないか…。

 しばし沈黙。そして話題を変える。編集者はやっぱりそれほど甘くないってこと。

11月7日(木)

 〆日前のドタバタ営業が続く。ルート通り廻るのではなく、前回廻ったときに会えなかった書店さんをジグザグに移動する。効率は悪いが、仕方がない。

 10月は『ハリーポッター』の影響で多くの書店さんが前年を上回った様子。しかし予想していたどおり『ハリーポッター』の売上が通常の売上にまるまる乗るではなく、かなり通常売上を食った上での前年越え。もちろん出版社への返品も急増したようで、これはハリーの売上のまったく関係ないこちらにとってはツライ状況。

 その『ハリーポッター』の売れ行きで面白いのは、発売週は4巻ばかりが売れていて、一緒に既刊を揃えた書店さんが「参った」と嘆いたのに、落ちついた今は既刊が動きだしたということ。ニュースや新聞であまりに大きく取り上げられたから、あわてて読み出す人が増えているのだろうか。それにしても既にあれだけ売れているのに、まだ1巻やら2巻が売れるというのが恐ろしい。

 それにしてもあの興奮と怒濤の発売を終え、あまりに多くの書店員さんが燃え尽き症候群&体調不良に陥っているのが気にかかる。いつもは元気な書店員さんが「もうなんか疲れちゃって、やる気がね…」なんて下を向かれると思わず何も言えなくなってしまう。そりゃあの重さであの量を売るのは大変だろうし、お客さんの妙な熱気にやられてしまうのだろう。

 そして、その燃え尽きの理由のひとつは、いくら地道に棚や平台を作っても、結局売れ筋さえあれば良いのかというあきらめが含まれているのかも知れない。

 何だか「買い切り」や前フリの使い方や当日の販売方法など、いろいろと考えさせられることの多い『ハリーポッター』フィーバーだったのは確か。書店さんも今回の状況を見て5巻に対応できるし、これから話題の本が出るときは、売場からかなりの仕掛けができることがわかったのではないか。それに、早いお店は既に5巻の注文を取っていたりする。

 まあ、本の雑誌社じゃ何にも活かせそうにないんだけど…。

11月6日(水)

 師走の気ぜわしさを迎える前なのに、何だか信じられない忙しさ。入社以来最高といっても過言ではない。営業、デスクワーク、交渉事、企画、打ち合わせ、そして溜め込んでしまったこの日記の原稿など、とにかくいっぱいいっぱいの状態だ。

 これは何も3日間の出張の影響でなく、追い込まれなければ気合いの入らない怠惰な性格と余計なことについ口出しして己で仕事を増やしてしまう性格が災いしてのこと。ああ、後悔先に立たず。

 実は出版営業マンの営業できる時間というのは、かなり限られた時間しかない。午前中は書店員さんがその日届いた新刊や雑誌を品出ししていて、それが一段落つくまでとても声をかけられないし、午後は午後で夕方の混雑時間は避けざる得ない。

 結局、一日延べ5時間程度のなかで、どれだけ営業活動ができるかが勝負の分かれ目なのだが、その時間だって書店員さんは暇なわけではない。様子を伺いながら声をかけ、邪魔にならないように営業する。

 ただただ効率だけを求めようとすると単なるご用聞きになってしまい、いわゆる5分間営業で終わってしまう。さすがにそれはやりたくない。書店員さんと面と向かっているときは決して焦らず、そのなかで商売のヒントになるような情報を交換しつつ、あるいは時間がとれれば無駄話の中で人間関係を築いていきたい。

 しかしここ数日の忙しさだと気が焦る。どこかで時間を短縮しないとどうにもならないのはわかってる。

 結局一番無駄な移動の時間を省くため、ほとんど駆け足に近い足取りで今日も都内の街を駆け回る。季節は冬となり、街ゆく人はコートにマフラー姿。しかし、こちらは身体の中から熱くなり、額にはうっすらと汗が流れ落ちていた。

11月5日(火)

 昨日のナビスコカップ決勝で、あまりに大声を張り上げて応援してしまったせいで、本日はまったく声が出ない。いや、僕は声は出してるつもりなんだけど、それが音になっていなくて、空気がガスガス漏れている。

 元々ハスキーボイスといわれるけれど、それを通り越してこれではノイズ。声が命の営業マンとしては完全に失格で、話をしている書店員さんに何度も「えっ?」と聞きかえされてしまったほど。どうもご迷惑をおかけしました。

 そんななか、とある大型書店さんでかなり大きなフェアを受注した。思わず飛び上がりたいほどのうれしさで、いや実は本当にお店を出た後、飛び上がってガッツポーズしてしまったほどなのだが、しかし営業マンが一人の会社では、誰もこの価値がわからない。大声で自慢げに報告したにもかかわらず「良かったですね」なんて他人事のように話されてそれでお終い。

 別に給料を上げろとか言う気はないけど、せめてもうちょっと興奮して誉めて欲しいものだ。

 上司や部下に囲まれ、不満を抱えているサラリーマンの皆様。例え、理不尽な叱責だろうと誰かがどこかで自分の仕事を見ているということは、僕のような孤独なサラリーマンからみたら、それだけで幸せなことだと思います。

11月4日(月) 炎のサッカー日誌 ナビスコカップ決勝スペシャル

 眠れない。ひつじを何匹数えても眠れない。

 いつもだったら子供を寝かしつけると同時に堪えきれず自分も深い眠りに落ちていくものなのだが、今日はまったくその睡魔がやってこない。明日は早朝4時起きで始発電車に乗り込み、国立競技場に駆けつける予定だから、出来れば早く眠りたい。でも一向に眠れない。

 いや眠れるわけがない。浦和レッズを応援しつづけ、かれこれ10年。その間いつも我が浦和レッズは低迷し、J創設時期は片手で数えられるほどしか勝つことが出来ず、Jリーグのお荷物なんて悪口も言われ、その後J2落ちの苦渋も味わった。そんなオンボロチームのレッズがついに明日、ナビスコカップの決勝のピッチに立つのである。こんな日に眠れるわけがない。

 布団に潜り込んで、監督でもないのにゲームプランを考えてしまう。鍵はサイドの争い。山田とアウグスト、平川と名良橋の対面勝負に、その空いたスペースを誰が埋めるかなんてことを延々考えてしまう。そしてその思考の行き着く先は、優勝カップを堂々と掲げる大将・福田の歓喜の姿である。ああ、一度でいいからそれが見たい。

 ほとんど眠れずそのまま4時を迎え、あまりの寒さに震えつつ完全防寒姿で駅へと向かう。プラットホームに降りてビックリしたのは、同好の士の多さ。なんとこの日、武蔵野線東浦和駅で始発を待っていたのは、ほとんどがレッズサポであった。さすがにレプリカは着込んでないけれど、どこかに赤が入った服装をしていて、レッズの旗を手にした人ばかり。結局、その後、埼京線、中央線各駅停車と乗り継いで行ったのだが、乗り込んでくる多くがレッズサポであった。

 千駄ヶ谷駅にたどり着いてもっと驚く。この時点で国立競技場代々木門から伸びたレッズサポ自由席の列が、なんと駅の目の前に辿り着いているではないか。その間東京体育館をぐるりと一周しているから(もしかしたら2周かも…)いったいこの行列を直線にしたら何百メートルになるかなんてことはとても見当がつかない。とにかく長年国立競技場に通っているけれど、ここまでの行列は初めて目にする光景だ。

 行列の上空でモクモクうごめいている想念はたったひとつ。数時間後の爆裂な歓喜。真っ赤が飛び上がり、そして涙する優勝あるのみだ。

 僕もそれだけを考え、先に来ていた観戦仲間KさんやOさんに合流した。

  ★   ★   ★

 その後のことは、テレビや新聞で報道された通りである。

 何かうまいことを書きたいと思うけれど、とてもそんな気分じゃない。もちろん冷静になんかなれない。

 僕は試合終了15分前から涙が溢れ、それでも必死に声を出し、レッズコールを送り続けた。
 とにかく我が浦和レッズは02年ナビスコカップ決勝で負けた。

 J2落ちのときの悲しみとはまったく異質で、でも同じくらい大きな悲しみを受けた。傷つくことの多いレッズサポは、また新しい傷を負ってしまった。

 その夜、久しぶりに、ひとりになりたくないと思った。

11月1日(金)

 昼間、吉祥寺のブックス・ルーエで撮影があり、アポを取った身として立ち会う。

 何だか本の雑誌的でないマスコミな仕事に思わず書いている僕もドキドキしてしまうが、実はこれ本の雑誌の仕事ではなく、正式には朝日新聞の仕事なのだ。そう、今年の夏、朝日新聞で一度発刊した『be book』の評判が良かったようで、その冬版を作ろうということになったらしい。そして、そのなかで数ページ、またこのHPと連動したコーナーがあって、今日は吉田伸子氏が本を買う姿の撮影だったのだ。

 いやはや驚いたのは吉田さんの女優魂というか、思いきりの良さ。普通に営業している書店さんで、お店に入ってくる様子や本を選ぶ姿なんてのをパシャパシャ撮っていくのだが、吉田さんまったく動じることもなく、自然な姿でカメラマンの要求をこなしているではないか。僕なんか立ち会っているだけでも恥ずかしいのに、思わずそのプロ根性に脱帽。

 どの写真が使われるのかわからないけれど、吉田さんのそのカッコイイ姿、皆様お楽しみに!

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