WEB本の雑誌

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6月27日(金)

 書店さんを廻っていると、自社出版物に対しての様々な意見を伺う。

 例えば今だとフェア展開用に「本の雑誌」8月特大号で発表になる<上半期ベスト10>の事前情報を渡しているのだが、そのベスト10のラインナップが良いとか悪いとか、新刊の中味や装丁についてだったり、あるいは本の雑誌社とは本来関係ないことなのだが、北上次郎推薦帯があまりに多すぎるとの批判であったり…。

 難しいのは、ある書店さんでダメだしを喰らったものが、次の書店さんでは高評価を得たりすることで、どちらの批評も聞けば納得なのだが、結局自分たちにしっかりとしたポリシーというか方針を持っていないと、何を信じて良いのか分からなくなってしまう。

 あとひとつ非常に残念なのは、この批評が直接編集者に届かないってことだ。結局多くの出版営業マンが、編集者に対してストレスを溜め込んでいくのは、この辺の話が伝わらないからだろう。

 作り手と売り手の間。そこはかなりキツイ立ち位置でもある。

6月26日(木)

 毎晩明け方近くまで続けている「サカつく」バカから一瞬抜け出す。

 なぜなら「サカつく」よりも面白い本に出会ってしまったからだ。それがまたサッカー本というのが僕らしいといえば僕らしいのだが…。

 その本を紹介する前に2003年上半期のサッカー本出版状況に触れておきたい。

 昨年はワールドカップイヤー、それも自国開催ということで、サッカー本が大量に出まくった年だった。しかし、中味はかなり間に合わせのものが多く、安直本や水増し本、乱造本ばかりで、とても推薦できるような本が見つからず苦労した。

 ところが今年になって、サッカー本は過去に例を見ないほどの豊作シーズンとなる。例年ならサッカー本大賞間違いなしの有力作が、ここ半年ですでに3冊も出版されているのだ。そちらをまず紹介したい。

◎『山本昌邦備忘録』山本昌邦著(講談社)
トルシエ監督時代、コーチとしてチームに帯同していた山本氏が、あのワールドカップの興奮の内部で、チームがいかなる状況だったのかを克明に描く。トルシエの異常さと、それでもW杯に出場するために言うことを聞かざる得ない選手達の苦悩が赤裸々に綴られている、まさに衝撃の1冊!

○『ナノ・フットボ-ルの時代』サイモン・クーパー著(文藝春秋)
ただいまサッカーを書かせたらNO. 1のライター。とにかく辛口、しかし本物。日本じゃ「様」など付けられ、祭り上げられているベッカムが、ヨーロッパではどのように扱われているのか? 本物による本物のサッカー批評。

▲『ミスターレッズ 福田正博』戸塚啓著(ネコ・パブリッシング)
これはレッズサポ必読の書である。だからかなり個人的な趣味でしかないかもしれない。しかし涙なしに読めないし、読後、一段と福田を愛してしまうのは間違いない。福田の歴史=レッズの歴史。こんな選手はもう出てこないだろう…。

 ところがところが、この大賞級の3冊を、マラドーナの5人抜きのような華麗さと力強さで抜き去り、ゴールネットを揺らしてしまう<超弩級>面白サッカー本が出版された。

『狂熱のシーズン ヴェローナFCを追いかけて』ティム・バークス著(白水社)

 本書は、その副題にあるとおり、セリエAの(今はセリエBにいるのだが…)ヴェローナFCを、作家であり何よりもヴェローナサポである著者が、一年間に渡ってホームもアウェーも全ての試合を追いかけた観戦記である。

 何がスゴイって、まずクルヴァ(一番熱く応援する場所)で見続けるってことだ。(一度だけチームに帯同して取材するが、そのときすぐクルヴァに戻りたくなる)これがもし日本の作家であれば、出版社に用意されたメインスタンド中央の椅子にどっかり座って、偉そうに観戦記を書くことだろう。

 ところが、しかし、この著者は本気になってクルヴァで興奮しているのだ。チームの不甲斐なさに怒鳴り、怪しい審判の判定にブーイングし、もちろん敵チームの選手やサポーターを罵る。作家である以前にサポーターなのだから当たり前といえば当たり前。まさに本物のサッカーバカ。

 おまけにそのヴェローナFCのクルヴァがスゴイ。僕は海外サッカーにあまり詳しくないので、これは本書を読んで初めて知ったことなのだが、ヴェローナFCのクルヴァはイタリア国内でも鼻つまみの悪者なのだ。南への罵倒、人種差別コール。読めばわかるが日本人なら1歩どころか100歩くらい身を引いて、そのまま家に帰り厳重にカギをしたくなるようなコールをする。そのコールの凄さはひとつひとつが衝撃的だ!

 しかし、そういうとんでもない集団の近くにいて、しかもサッカーに熱くなっているにも関わらず、この著者の考察は鋭く冷静だ。それはサッカーに対してはもちろん、社会に対しても、政治に対しても、人間に対してもである。一見人種差別でしかないようなコールの奥に潜んでいるものを的確に指摘したりするその鋭さには思わず感服してしまう。

 今までニック・ホーンビィの「ぼくのプレミア・ライフ」(新潮文庫)がサッカー本のオールタイムベスト1だと考えていたのだが、それを超える衝撃の1冊。

<まさにサッカーバカによる、サッカーバカのための、サッカーバカの本>

 とにかく、このようなたぶん売れないであろう本物のサッカー本を翻訳・出版してくれた白水社に深く感謝!もしかしたら『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が売れたから出せたのかもしれない…。それなら村上春樹氏にも感謝しなくては。

 白水社、アレッ!
 村上、アレッ!

6月25日(水)

 年に一度の健康診断。

 僕は、健康保険証を5年に1度しか使わないことが認められて、本の雑誌社に採用された人間だから、健康だけには自信がある。過去10年間、検査の結果はすべてオールA。これが通信簿の成績だったらどんなに親が喜んだことだろう。

 さて、今年の健康診断も、レントゲンと血液検査以外(こちらはその場ではわからない)は、視力も聴力も血圧も問診も何も問題なし。社内で一番話題になる体重も、ビックマックの食い過ぎで600g増えた某Hさんと違って、なんと前年比2kgダウン! これはまさに『FLY,DADDY,FLY』金城一紀著(講談社)の効果だろう。

 ああ、しかし。
 いつまでこんな風に健康を自慢していられるのか?
 目黒だって浜本だって昔は痩せていたし、今よりずっとずっと元気だったのだ。きっとその境目の日が僕にもやってくるだろう。そしてそのときは逆に「病気自慢」をするときが来るのだ。いやだ、いやだ…。

6月24日(火)

 今年から8月号で行うことにした『本の雑誌』の特大号の定期改正書を持って、取次店を廻る。

 取次店仕入窓口のタイムスケジュールが、午前までが今日、午後からは明日という変則的なものなので、日頃は午前中=今日に間に合うよう駆けずり廻ることになるのだが、定期改正は余裕があるから気楽な午後訪問。しかし午後は空いているわりに、新刊点数の多い出版社がじっくり仕入部数の交渉をしているので待ち時間が長い。まあ、仕方がない。

 それにしても書店さんから注文をほとんど取らず、仕入交渉している出版社があまりに多いのに愕然とする。例えばこの日僕が待っているときに交渉していた某出版社は、手元に持っている書店注文分が10件分くらいで、配本は数千部を希望しているではないか。それが出版界の常識といえば常識なのだが、実際の注文がないものをこれだけ勝手に動かしていいのだろうか?

 かつてとある書店員さんは「勝手に送られきた新刊はそのまま返品しても気にならない。でも自分が注文した本は、すぐ売り切れなくても、あっちに置いてみたりこっちに置いてみたりしながら意地でも売ってやろうと気持ちになる」と話していたっけ。

 パターン配本が、楽なのはわかるけれど、あまりに依存し過ぎるのは危険じゃないか。

 また先日訪問した、とある書店の仕入担当者さんは「最近おたくのチェーンにこれだけ配本するから、あとはそちらで各支店の振り分けを決めてくれっていう出版社が多い」と嘆かれていたっけ。これなんかまさに出版社が楽をする方策のひとつで、また配本に関しての責任逃れでもあるのだろう。

 今は書店さんを廻らなくても、ネット上の売上が見える。しかし、それでもメーカーである出版社は絶対に書店店頭を訪問すべきだと僕は考えている。なぜならネットを通して見られる数字なんかよりも有益な情報が売場にたくさん転がっているからだ。

 売れた理由も、売れない理由も。そして何よりそこにお客さんがいるのだから…。

6月23日(月)

 大好きな書店員さんのひとり、池袋のL書店Yさんを訪問。

 しかしYさんは忙しそうに新刊出しをしているではないか。
 仕方ない今日は挨拶だけして退散しようと考えつつ声をかけると、ちょうどその新刊を出し終われば休憩に出るところとのことで、一緒にお茶に行くことに。いやはや絶好のタイミングだった。

 しばらく脇に立ってYさんの新刊出しを見つめる。

 Yさんは台車の新刊と、既に平台に積まれている新刊を交互に見つめ、外す本と新たな置く本の場所を頭の中で描いていく。目は真剣そのもの。そして、新たに積む本を平台に置くと、隣合う本に下敷き一枚入るくらいの隙間を開けていく。

 かつて、その<隙間>についてYさんに質問したことがあった。
 「ハードカバーの本が背と小口が噛み合っちゃうと取りづらいし、あとあと平台がぐちゃぐちゃになるからイヤじゃん。」と当たり前のように説明してくれた。
 そのとき僕は思わず「LOVE!」と叫びそうになった。

★   ★   ★

 新刊を出し終わり、二人でお店を後にしようとしたところ、とある出版社の営業マンがYさんに声をかけて来る。

「○○社ですが」と名刺を差し出し、Yさんはその社名を確かめると、もう間もなく休刊になる雑誌名を挙げた。

「そうなんです。で…」
 同じ営業マンであるからこの後に何か注文を取ろうとしている本があるのだろうと考えつつ、僕は邪魔にならないよう2、3歩離れようとした。その瞬間Yさんが先制パンチを繰り出す。

「あっ、バックナンバーフェアだったらやらないよ!」

 いきなりのカウンター。それもクリーンヒットしてしまったようで、営業マンは呆然とし、言葉を無くす。1R開始3秒のKO負けか…。

 しかしダウン寸前の営業マンに向かってYさんはそっと肩を貸す。

「そういうのはどこも一緒で面白くないじゃん。違う切り口のフェアをやろうよ」

 僕は心の中で「LOVE! LOVE! LOVE!」と叫んでいた。

6月20日(金) 炎の代休日誌

 有休か代休かわからないけれど、とにかく会社を休んでディズニーランドへ。
 サッカーのオフシーズンくらい家族サービスしておかないと、観戦禁止例を出されるてしまうのだ。

 久しぶりに訪れたディズニーランド。

 入場すると同時に嬌声が聞こえてくる。「7人の小人だぁ!!!」
 うるせぇ、こっちはひとり営業だぞ! 妻も娘もそのひとり営業を捨て、小人に駆け寄る。
 そして一言「写真、撮って!」。
 悪夢だ。

 どんなアトラクションに入っても、2歳半の娘は泣き叫ぶ。
 「コッワ~イ、おうち、帰る~」
 速攻で同意する。
 「うん。早く帰ろうね」
 しかしアトラクションを出ると、娘は笑顔に戻り「ディズニーランド、すき!」
 悪夢だ。

 パレードになる。
 日本中の大きい女性を集めたのではないかと思わされるダンサーが叫ぶ。
 「さぁ、一緒に踊りましょう」
 何を思ったのか、娘がそのダンサーの元へ。
 ということは…。
 悪夢だ。

 帰りの電車のなかで無性にビールが飲みたくなる。
 途中下車し、15年以上通っている気心知れた飲み屋へ向かうことにする。
 娘が生まれて約2年半、飲み屋に一歩も足を踏み入れていなかった妻がはしゃぐ。
 そして飲みまくる。
 悪夢だ。

6月19日(木)

『実録・営業マンの会話』

ビジネス街・大型書店

杉「こんにちは、本の雑誌の杉江です」
書「あっ、こんにちは」
杉「この間、資料をFAXさせて頂いてんですが、ちゃんと届いてますか?」
書「しっかり届いてます。どうもありがとうございました」
<その資料についてしばらく話す>
杉「あっ、すっかり頂いていた気になっていた新刊の注文を営業し忘れていたようなんで…」
<とチラシを渡し、新刊の説明>
書「すみませんでした、僕も渡した気になってましたね。えーっとじゃあこの部数で」
杉「ありがとうございます。レジでお忙しいところすみませんでした」

同じ店の他フロアーへ移動。
古くからツキアイのある書店員さんを探すが見つからない。

杉「こんにちは、本の雑誌の杉江です。Mさんいらっしゃいますでしょうか?」
書「あれ? Mさん…。あっ、健康診断で席外しているんですよ」
杉「健康診断なんですか? 先日一緒に酒を飲んだんですけど、大丈夫なんですか?」
書「酒はいつものことですから。健康診断の数値が悪いと、それでまた飲みに行くんですよ(笑)」
杉「ハハハ。ほどほどにとお伝えしてください」
書「伝えても無駄ですよ」

繁華街・中規模書店

杉「Oさん、こんにちは」
書「こんにちは~」
杉「(ベスト10を眺めながら)丸谷才一の『輝く日の宮』(講談社)売れてるんですね 」
書「それがね、追加注文した分が入ってこなくて売り切れちゃってるの。出版社は出したって言ってるのに、取次担当はないっていうし。ほんと、みんないい加減で困っちゃうのよ」
杉「またアレですかね?」
書「……。最近ひどいのよねぇ」
<その後は新刊の売れ行きや他店の売れ行きの話が続き、新刊と補充の注文を頂く>

繁華街・中規模書店

杉「こんにちは、本の雑誌の杉江です。Wさんはいらっしゃいますでしょうか?」
書「あっ、こんにちは、今日はW、定休なんですよ」
杉「ああ、そうでした、どうもすみません、勘違いして訪問しちゃいました」
書「いえいえ、暑いところ訪問して頂いたのに、申し訳ございませんでした」
<こういう何気ない一言が営業マンの心を潤す>

繁華街・小規模書店

杉「こんにちは、Hさん、この前はどうもありがとうございました(先日酒を飲んだ御礼)」
書「いやいや、飲み過ぎちゃって記憶が飛んでるんだよねぇ」
杉「あっ、そうなんですか?」
書「最後に誰がいたのかも覚えてない(笑)」
杉「ハハハ」
<しばらくそのときの飲み会の話が続く>
書「あのさ、棚替えしようと思って」
杉「えっ? どう変えるんですか」
書「いやー、あまりに売れないから、在庫を減らさないことにはどうにもなんないだよ。だからあそこの棚をなくして平台にしちゃって、あとは棚も今みたいにギッチリ本を差してないで、面陳とか多めにしていこうとね」
杉「そういうお店、多くなってますよね、やっぱり今在庫を減らさざるえないですもんね。」
書「まあ、そうネガティブな意味ばかりじゃなくて、うちはこんな小さいお店だから、誰もがパパッと目に付いたものを買っていくんだよね。棚で売れない本でも良い本だなぁってのを平台に載せるとすすっと動くからさ。」
杉「そうですよね、Hさんのところのお客さんはかなりシブイ本でもしっかりあるってわかれば買っていってくれますからね」
書「そうそう、だからそういうお客さんにちゃんと置いてあるってのを知ってもらうためにも、もうちょっと平台が欲しいんだ」
杉「次回の訪問でどれだけ変わっているか楽しみにしていますから」
書「でもさ、こう言ってて棚変えるの怖いんだよね(笑) 一応今でも売上はあがっているんだから。さーて、どうなるか」

駅へ戻る途中、先ほど不在を伝えられた書店さんの前を通ると、別支店の店長さんとばったり。

書「杉江く~ん、やってるんだって?」
杉「えっ、何をですか?」
書「『サカつく』(笑)」
杉「えっ、何で知ってるんですか? ああ、HPですか。そうなんですよ、今も『サカつく』のこと考えながら歩いていたんです」
書「実はさ、オレもハマっててさぁ…」
<そこから延々『サカつく』の情報交換>

本日最後の営業先
繁華街・大型書店・仕入

杉「こんにちは、本の雑誌の杉江です。資料お届けに来ました」
仕「ああ、どうも。(資料を眺めながら)なるほどねぇ」
杉「(資料を説明しながら)いちおうこんなかたちになりましたので、よろしくお願いします」
仕「ねぇ、寝てないんでしょ?」
杉「あっ、ハイ。昨日はコンフェデの日本戦とフランス戦があったんで」
仕「フランス戦の方は面白いねぇ。やっぱりパスやトラップが全然違うもんね」
杉「そうですね。まだまだあの辺は差がありますね」
<しばらくサッカー談義の後、注文を頂く>

 何だかこうやって書き出してみつろ、仕事してないのバレバレだ。この日はタマタマってことで…。

6月18日(水)

 DM作りと骨折浜田の仕事を手伝いをするため社内に残る。いやはや小さな会社はひとりの社員の意味が大きいのでこういうときは大変だ。二階の倉庫へ在庫を取りに行ったり、荷物を棚に上げたり、それこそお茶入れもコピーも何でもござれ。

 それにしても、事務の浜田。よくこうやって毎日会社にいることにストレスを感じないんだろうか? 発行人の浜本は仕事に厳しいし、顧問の目黒は相変わらず訳がわからないし、編集部の人使いの荒さはトンデモナイし、おまけに同僚の僕は鉄砲玉でほとんど外に出ずっぱり。

 この会社でいちおう浜田とふたり「営業部」という名の下に働いている。そういう環境にいて数年前までは、お互いに事務と営業を分けずに互いに両方の仕事をした方がいいんじゃないかと考えていた。

 しかし最近になって気づいたことがある。僕は外にいっていろんな人に会うのが好きで、浜田は会社にいてじっくり仕事をするのが好きなのだ。僕が浜田の仕事をしたら請求書もまともにあがらなくなるだろうし、浜田に僕の仕事をしろっていっても書店さんの前で一日中じたんだを踏んでいるだろう。この辺はもう人間性の違いで、それを無理して互いにストレスを感じ、仕事へのモチベーションが下がるくらいなら、適材適所で働いた方がよほど良いってこと。

 浜田の指示通り、様々な仕事を手伝っていく。
「なんかわたしこういうの好き。鵜飼いの鵜匠っていうの? もしかして偉い人に向いているかも…」

 思わず骨折している足を蹴りそうになってしまった。

6月17日(火)

 先週の木曜日に腹痛でダウンした営業事務の浜田。しかし、その翌日になるとケロッとした顔で出社し、いつも通りキーキーガーガーとうるさく仕事に復帰した。たぶん何か悪い物でも食ったのだろうとバカにしつつ、とりあえず何事もなかったことに一安心。

 ところがところが、その浜田が月曜日の朝に松葉杖をついて出社してくるではないか。ビックリ仰天で社員一同浜田の周りに集まる。

「食中毒で歩けなくなっちゃったの?」
「違います! 日曜に階段から落ちちゃって、救急病院に運ばれたんです。そしたら、足を骨折してて…」
「えっ!! 骨折~?」
「そうなんです、全治1ヶ月って言われたんで、しばらく迷惑をおかけします」

 すると、そこへ顧問の目黒が降りてくる。

「あれ? 浜ちゃんどうしたの?」
「今話していたんですけど、階段から落ちて骨折しちゃって」
「骨折? あれ浜ちゃん、そういえば厄年じゃなかった?」
「あ、ハイ。前厄だと思います」
「それだよそれ! オレ、厄年のとき麻雀も競馬も一年間まったく勝てなくてさあ。厄って怖いんだよ」
「……」

 社内には、ラジオの音と目黒の話し声だけが響いていた。

6月16日(月)

 今月の新刊『記憶の放物線』北上次郎著の見本を持って取次店廻り。

 この本のカバーに中年男性のイラストが描かれているのだが、それがあまりに北上次郎(目黒考二)に似ておらず、ということは太ってなく、寝間着姿じゃなく、魚焼きロースターが似合わないということなのだが、そのイラストがあがってきたとき思わず僕「詐欺だぁ!」と叫んでしまった。

 そう叫んだとき、たまたま北上次郎(目黒)が近くにいて、北上次郎はそのまま無言でイラストと僕を見つめ、自分の部屋へ戻っていってしまった。これできっと僕の昇進も昇給も遠のくのだろう…。

 その詐欺カバー本を持って本日取次店を廻ったのだが、TA社の仕入窓口で、担当者に本を渡すと「あっ!……」と、約3秒間の空白の時間が生まれてしまった。きっと、この担当者も、本物の北上次郎(目黒)を知っていて、あまりの違いに絶句したのだろう。

「スミマセン、ウソついてます」と謝りそうになったが、担当者さんが「いや何でもありません、失礼しました」と通常の対応に戻られたので、その言葉は飲み込んだ。いやはや。セーフ。

 ところが、やっぱり騙せない人はいるもんで、古いツキアイの地方小出版流通センターのKさんは見本を見た瞬間、いきなり爆笑される。「ハハハ、何これ? 目黒さん? あまりに違うんじゃない」。こうなったら一緒に笑うしかないので、僕も一緒に笑ってしまう。

「アハハハ、そうですよね、あまりに違いますよね。これが目黒だっていうなら、僕やKさんが描かれたらマッチ棒みたくなっちゃいますよね、もしこれでファンが増えたら許せないですけど、でも実物を見てすごいショックを受けますよね、その顔が見たいですよね」

 そんなことを5分間、話続けてしまった。
 ああ、昇進は遠のくばかりだ。

6月15日(日) 涙のサッカー日誌

 日本にはサッカーの文化がないという人もいるし、まだまだ根付いていないという人もいる。あるいは100年以上続いているヨーロッパのリーグと比較し、一生追いつけないだろう話す人もいる。そのどれもが正しいのかもしれないが、しかし、Jリーグが出来て10年もの月日が経っていることを忘れてはならないと思う。その10年を決して軽く扱ってはいけないだろうと。

 この日埼玉スタジアムで、5万人を超える観客を集めたミスターレッズ・福田正博の引退試合は、まさにその10年の重みを凝縮したものであった。

 去っていく福田への声援はもちろんスゴイ。ありがとう、いつか共に闘おう。しかし、それに負けないくらいレッズ歴代選抜という、いわばこの10年の間に在籍したオールスターチームへ声援が飛ぶ。ギド、ウーベ、ペトロといった活躍した外国人選手はもちろん、ほとんどトップで試合に出ることもなかった選手にまで声がかかる。

 それらの選手が年を経て、例え動きがスローダウンしてしまっていたとしても、選手はそれぞれ自分の魅せ場を知っているから、得意のプレーをする、観客は大声援と拍手で賞賛を与え、その頃を思い出す。ノスタルジックと言ってしまえばそれまでだが、ノスタルジーを5万人が共有できるほどJリーグは継続しているのである。

★   ★   ★

 本日は福田への感謝の言葉を書くつもりはない。
 それはスタジアムで散々声を枯らして伝えたからだ。

 そうじゃなくて、僕は僕自身に感謝したい。
 家族や友達から今まで何度も「いい加減にすれば」と言われながら、それでもずっとレッズサポを続けてきたことに。

 この日のスタジアムの光景はその苦労をすべて吹き飛ばすほどの「幸福」そのものだった。
 WE ARE REDS

6月13日(金)

 とある書店さんを訪問したら、店長さんが大手出版社の名前を挙げて、怒り心頭でこんな話をし出す。

「売れる本を作ってくれるのはありがたいけど、全然商品が来ないんじゃ仕方ないよね。パラパラ10冊とか5冊入ってくるだけで、そんなんじゃ全然足りないのは営業マンも来ているからわかっているはずなんだよ。もうさ、ここまでヒドイと対抗措置を取りたくなくなるよ。文庫を返すとか新書の棚を外すとか、その出版社の本は売る気がしなくなるね、それしかこっちには出来ることないし」

 いつもは大手出版社はいろんな企画が立てられ、広告も出せて楽しいだろうな、なんてある種羨望の眼差しで見つめいる僕なのだが、こういう話を聞くと、どっちもどっちなんだなと考え直してしまう。

 きっとその大手出版社の営業マンも、その書店さんにドーンと納品したいだろう。人間誰だって文句を言われるより、役に立って感謝されたいのだから。でもでも、会社として思い通りにならなくて、こんな結果になっているんだろうな。

 いやはや、可哀相だなぁ…と思いつつ、その空いた棚にうちの本を入れてくださいよ、なんてとんでもない事を口走ってしまったが、「杉江くんのところは文庫も新書もないでしょ」の一言。やっぱり大手が良いか…。

6月12日(木)

 朝、会社のカギを開けていると、扉の向こうで電話が鳴っていた。スーツの上着を投げ捨てあわてて電話に出ると事務の浜田からで「ちょっと具合が悪くて、今病院に行っているところです」という連絡。だったら休みなよと伝えるが、今日は経理の小林が休暇を取っているから、遅れてでも出社すると言い張る。

 というわけで、午前中はひとりで会社にいることになる。たまにはこういう静かな日も良いなと暢気にコーヒーを煎れていたが、次から次に電話が鳴り(その多くがセールスや金貸しなのにはビックリ)まったく飲む暇がない。会社って忙しいんだなあ。

 午後になって、無理を押して浜田が顔を出すが、顔色が非常に悪く、とても会社に一人残らせられる状態ではないことがわかる。実は本日は〆日前で、かなり激しくジグザグ営業をしたかったのだが、こうなったら仕方ない。電話で事情を話し、訪問出来ない書店さんから注文を頂くことに…。

 しばらく仕事をしていた浜田はうううと唸り、ちょっと二階のソファーで横になると言いだす。
「だから来なくて良いって言っただろうに」
「でも迷惑をかけちゃうから…」
「来た方が迷惑なんだよ」

 浜田はじっと下を向き、涙目になってしまった。
 うーん、伝えたいことがうまく伝わらずもどかしい。

6月11日(水)

 直行で横浜へ向かう。
 が、途中の上野駅で一旦降り、駅中B書店さんに立ち寄ることにした。

 実は、昨夜、このお店のUさんからメールが届き、待望の新刊『ミスターレッズ 福田正博』戸塚啓著(ネコパブリッシング)が入荷したと連絡があったのだ。別に予約注文をしていたわけではないのだが、Uさんは大の福田サポで、やっぱりこの本はそういう人がいるお店で買いたいもの。ちなみにUさんとは会えず、残念無念。

 購入後、京浜東北線に乗り込み、『ミスターレッズ 福田正博』を開く。
 いきなり冒頭の一行を読んだだけで思わず涙が溢れ出す。

「10年間、共に夢を追い続け、闘い続けたサポーターに捧げる」 福田正博

 この1文だけで、上野駅から蒲田駅まで様々な想いが僕の頭のなかを駆けめぐる。駒場や埼スタ、あるいはアウェーのスタジアムで見た福田の姿が蘇り、とてもページをめくれなくなってしまった。

 果たして、本当にこの本を読み進んで良いのか? これを読むことによって福田正博が過去の存在になってしまうのではないか? 不安というか悲しみというか、現実をいまだ受け入れたくない僕としては、ちょっとつらい選択を迫られる。しかしプレーですべてを語るタイプの福田にはレッズバカとして聞きたいことが山のようにあるのだ。

★   ★   ★

 読了までかかった時間は約2時間。各営業先に入る寸前まで歩きながらむさぼり読んだ。そして僕は何度も涙を流し、何度も憤りを感じ、何度も強く頷かされてしまった。スタジアムで感じていた多くの疑問が、晴れていく。

 本書は、福田正博の自伝ではあるが、同時に浦和レッズの10年史でもある。

 創設当時、Jリーグのお荷物と呼ばれるほど低迷し、ギドやウーベ、監督オジェックが来ていくらか上向き、しかしまたその後低迷し続け、最悪なJ2落ちも経験する。浦和レッズのそのもがき苦しみ続ける過程をミスターレッズ・福田正博の説得力ある言葉によって紐解かれていくのだ。もちろん福田の見方だけが真実ではないだろう。しかし常にレッズの中心にいた人間の言葉は重い。

 また、その中心にいる重圧の凄さ。その重圧から逃げず、敵チームはもちろん、フロント、数多くのケガ、自分と闘い続けた福田正博の凄さ。行間から沸き上がってくるレッズへの愛。僕らは決して片思いではないということがわかる。

★   ★   ★

 この本を読む前の不安なんてぶっ飛んでしまった。それどころか、一段と福田正博を愛してしまう。もちろん浦和レッズも…。

 レッズサポのみなさま、福田に興味のある方、黙って読みましょう。

6月10日(火)

 相変わらずの「サカつく寝不足」が続く。が、寝不足も慣れるものなのか、5日目になると頭は普通に動き出す。

 小田急線に乗って、一路本厚木Y書店さんへ。こちらの担当SさんとYさんはとっても本好きで、ひとり営業マンにはなかなかお伺いすることが出来る距離ではないものの、いつも本の話が出きるので、たまの訪問を非常に楽しみにしているお店だ。

 本日、お店に入ってしばらく店内をうろついていたのだが、手書きのPOPが様々な本に付けられていて、活気に満ちあふれていた。もちろんそれらのお薦め本が売上ベストのかなりを占めているのだけれど、果たしてこれでいいのでしょうか? 

 というのも、他のお店を廻っていても同様の傾向があって、もちろん既刊本が売れるのは素晴らしいことだと思う。でも、あまりにその傾向が強まり過ぎていて、下手したら新刊がベスト10に入らないなんてこともあるわけで。……。

 そんな不安を感じつつも、担当のYさんと本の話題で長話。
 Yさんから「今日読む本が何もない!」と切実に訴えられるが、ただいま僕も特にお薦めしたい本がなく、またお薦めしようとする本は、ことごとくYさんが読了済みで、いやはや困る。ならば偏屈好きというキーワードで山口瞳をお薦めする。次回の訪問を楽しみにお店を後にする。

 次なる訪問先は、相模大野の書店さんでこのお店の担当者さんもとっても本好き。おまけにもひとつサッカー好きが加わって、こちらでもトコトン長話。

 こうなったら予定なんてどうでも良い。
 今日できることは、明日だって出来るのだ!

6月9日(月)

 先週金曜から『サカつく3』に没頭しており、この週末は徹夜続き。
 昨夜は早めに寝ようと考えていたのだが、いくら寝かしつけても10時過ぎまで子供が寝てくれず、それから電源をオンにしたところ、気づいたら2時を回っていた。

 その結果、今日は意識朦朧、足腰フラフラ、おまけに右目のまぶたは、けいれんのしっぱなしと体調最悪。これじゃ、『サカツク3』が終わる前(ゲームとしての終わりはなく飽きるまでやる)に、僕の身体が壊れてしまいそう。ああ、それでもやっぱり例えゲームだとしても、僕の一番の夢<プロサッカーリーグ設立>が叶うわけで、しばらくこの状態が続くだろう。

 ちなみに僕の夢は3つあって、
 その1 本の雑誌の自社ビルを安藤忠雄氏に設計してもらう。
     場所は経費的なものと、僕の通勤を考え、浦和美園あたりを考えている。
 その2 浦和レッズのスポンサーになって、胸に「本の雑誌」と入れる。
 その3 自前のプロサッカーチームを作り、エンブレムは沢野ひとしに書いてもらう。
 以上である。いやはや、書いて気づいたけれど、あまりにアホ過ぎる。アホ過ぎるけど夢なんだから仕方ない。

 とにかく今日はボロボロな状態で、でも仕事は待ってくれるわけではない。待つどころか、ただいま新刊営業を3本も抱える超多忙時期であり、ぼんやりしている時間なんてまったくない。

 社会人はツライ、なんてことを考えながら、冷たい水で顔を洗って、営業に出かける。ああ、何をやっているんだか…。とほほほ。

6月6日(金)

 今週は何だかとんでもなく忙しくなってしまい、この日記を書く時間がまったく取れなくなってしまった。その忙しさの原因が仕事であればカッコイイのだけれど、そうではないものも多く、またこういうときに限って書きたいネタが山ほどあるというのは悔しい限り。おまけに日頃さっぱり更新しない『さざなみ編集日誌』が嫌がらせのように更新されている。くー。

 そんなどうしようもない状況なのに、本日はサッカーバカにとって至福のゲームである『J.LEAGUE プロサッカークラブを作ろう!3』発売日であり、もちろんサッカーバカの端くれの僕は、生まれ故郷「春日部」に新チームを設立し世界に羽ばたこうと夢が広がっている。いやはや、本日以降、僕の睡眠時間はどうなってしまうのでしょうか?

 そんなどうしようもない心配をしていると、このHPの制作会社B社のSさんから「『今日売れていた本』の更新をするように!」とのキツイメールが届く。こっそりあのコーナーを削除してしまおうかと考えていたのだが、それは能力的に不可能なので、スミマセン、スミマセンと30回ほどコピーペーストしたメールを返す。

 手帳を広げ、本日の予定を確かめると、会議と飲み会のダブル・ブッキング!
 何だかもうこんな自分についていけないので、心のオアシス・営業に出かけることにする。
 来週は、頑張ります。スミマセン。

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