9月2日(火)
珍しく午前中に出社した発行人浜本改めトーマス浜本が、会社に入ってくるなり大声をあげる。「今日は助っ人の及川君は出社するのか?」
事務の浜田があわてて助っ人出勤予定表を確認すると○がついていたようで「来ますよ」と答える。トーマス浜本は「そうかそうか」と嬉しそうに呟き、及川君を予約し自分の席へ向かう。
しばらくすると顧問目黒が降りてくる。こちらも開口一番「今日は及川君来るの?」と同じことを聞く。今度は確認する必要がないので、すぐさま事務の浜田が「ええ」と答えるが、浜本が席から声をあげる。
「目黒さん! 及川君は僕が先に予約しているからダメですよ!!」
「え~~、ちょっと貸してよ、部屋掃除するんだからさぁ」
「しょうがねぇなぁ~。じゃあ、3時以降にしてください」
現在、助っ人及川君は大人気だ。浜本や目黒はもとより編集部も何かがあると「及川く~ん」と叫ぶし、校正のIさんも及川君を一番に指名する。
仕事が速い。何せ彼にお届け物を頼むと走って向かうのだから。
それから非常に礼儀正しい。大きな声で挨拶が出来る。
話をちゃんと聞く。もちろんこちらの目をしっかりみて、しかもメモも取る。
だから間違いがない。
などなど彼の良さをあげたらキリがない。そんな彼だからこそ、いつもは人の名前を一切覚えない目黒までもが彼の名前を覚え、指名するのだろう。
ちなみに僕は目黒に名前を覚えてもらうまで3年かかり、普通に話せるようになるまで、5年かかった。
……。