2月27日(金)
月末が給料日なのだが、本の雑誌社も生意気に給料を銀行に振り込みやがり、給与明細の紙っぺら一枚しかもらえないから面白みも何ともない。おまけにその給料が振り込まれる口座の通帳やカードは妻が管理していて、僕はハンコの隠し場所も暗証番号も知らないから、どうすることもできない。
そういえば父親の会社はいまだに給料を現金渡ししていて、それは経理を担当する我が母親が「父ちゃんが給料を持って帰らないと子供が父ちゃんを尊敬しないから」と頑なに続けている習慣だ。じゃあ、僕が父親を尊敬したのか?と言われるとそこは微妙な問題なのだが、バブル期に見た父親の給料袋の厚さは忘れられない。あれくらい稼げるようになりたいが、出版業界にいたら無理だろう。
とりあえず、今朝、妻から渡された小遣いで財布を微妙に厚くし、早めに仕事を切り上げ、書店へ向かう。サッカーがないときのストレス発散は「本を買う」に限る。酒も好きじゃないし、ギャンブルも顧問目黒を見て以来辞めているのだ。
それにしても今日だって、散々書店さんを廻っているのに、やはり「客」として書店に入るのはまったく気分が違う。肩から力が抜け、頭がスッキリしていく。書店の癒し効果、なんと素晴らしい。
何も考えず(考えないようにし)ただただ棚を眺め(自社の本や奥付を見ないようにし)、面白そうな本を抜き取っていくこの喜び。営業中はどうしたって急いでいるから、かなり多くの新刊を見逃している。そんな本を平台や棚で見つけ、「おお、こんな本が出ていたのか」と頬ずりしながら胸に抱えるこの幸福感。やっぱり読者が一番幸せなんじゃないか、なんてことを考えそうになるが、そんなこと考えるとまた仕事モードに突入してしまうので、頭から追いやる。
買おうと思っていた本を、2、3冊見つけたら、もう歯止めが利かなくなる。まるで棚差し中の書店員さんのように、左手を折り曲げ本を積み、次から次へと棚から本を抜いていく。
興奮のあまり単行本を7冊、文庫本を9冊、レジに差し出す。オイ! ちょっと待て、いきなり今日の今日で小遣いの半分近く使ってしまっていいのか? でもでも、みんな欲しいんだ…。ああ、これだから通帳もカードも持たせてもらえないんだろうな。