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3月27日(土) 炎のサッカー日誌 2004.03

 朝、駒場スタジアムへ向かうため、バイパス463号線を自転車で飛ばしていると、真正面に富士山が見えた。その雄大さ、荘厳さに胸を打たれ、しばし自転車を停め、鑑賞。

 一、富士。二、鷹。三、なすび。間違いなく、これは吉兆であろう。

 しかし再度自転車に跨り、駒場スタジアムに向かっていると、妙なデジャブ感に襲われる。前に一度まったく同じようなことがあったぞ。うん? これはデジャブなんかじゃない。確か昨年の天皇杯初戦も綺麗に富士山が見えたのだ。あの時の勝敗は……。

 非常によろしくない災いを呼ぶ、前日抽選一ケタと富士山が揃った。ヤバイヤバイ。胸のうちに秘めておこうかと思ったが、人間心の準備というものも必要だろう。観戦仲間の疫病神オダさんにこっそり告げると「早く、帰れ!」と出口に向かって背中を押されてしまう。疫病神に追い出される僕って何?

 そうはいっても帰るわけにもいかず、試合開始とともに声を張り上げる。が、しかし…。

 すでに2004年浦和レッズ名物になりつつある、前半早々のあっけない失点が、本日も繰り返される。サッカー観戦中に「シュウチュー(集中)」と叫ぶ人たちが大勢いる。特にフリーキックやコーナーキックのときには、ここかしこで、シューチューの声が飛ぶ。

 しかし浦和レッズの選手達、特に前半に集中している選手なんてひとりもいないんじゃないかという気がしてくる。ボールへの反応が遅い、あるいはどこにボールがあるのかもわかっていない。うーんこのチームに一番必要なのはカウンセラーか催眠術師なのではないか。

 あっけない失点の後、またもやあっけない失点。ここまで来ると自由席に「怒」の文字がふわふわ漂いだす。コールよりもヤジが増えてくるのだ。

 その後、これまた2004年レッズ名物となりつつある、追い上げで2対2と同点に追いつくが、逆転することはなく、最後の最後にまたもやシューチューが切れ、大分・高松にゴールを決められてしまう。

 04年、初の敗北。
 疫病神オダから、お前が本物の疫病神だとののしられつつ、富士を振り返ることなく競技場を後にする。クソー、負けるのがこんなに悔しいなんて忘れていたぜ!!!

3月26日(金)

 6時起床。
 ここのところ「本屋大賞」が佳境を迎え精神的な緊張感から連続3時間以上の睡眠ができなくなってしまっている。だから6時起床がちょうどいいかも。

 すぐに着替えて、駒場スタジアムへ。明日の試合の並びの順番を決める前日抽選へ。なかなか良い番号が引け喜ぶが、並びの順番が良い時に限って負けるというジンクスを思い出し、不安になる。頼むぞレッズ。

 9時30分出社。すぐに営業に出ようと思ったのだが、またもや電話やメールの処理で足止め。やはり朝から思い切り営業をするには、直行する以外なさそうだ。

 昨日の失敗を取り返すため「編集後記」を書き、なぜか最近流行っている社内メールで送信。そこにいるのに何で声をかけないんだ…。

 昼飯はファミマのおにぎりとカップ焼きそば。プレステ2版「ドラクエ5」が売っていて思わず手に取るがこんなのやっている時間はないんだ。ああ悲しい。

 1時。会社を飛び出し、まずは下北沢へ。1軒(0)。そのまま渋谷へ移動し5軒(3)。非常にうれしかったのは、かつてお世話になっていたY書店のIさんが羽田のお店から異動で渋谷にいらっしゃったこと。3年ぶりくらいの再会だ。まあ、本来であれば羽田店に営業に行くべきなんだけど、なかなかモノレールに乗れず、ずいぶん月日が経ってしまっていたのだ。うれしい。

 恵比寿へ向かうが2軒(0)。どうもいつも恵比寿は運がない。肩を落としつつ移動し、代々木・新宿と営業。3軒(1)。やはり本日は、朝イチで運を使い果たしてしまったようだ。

 5時30分、会社に戻り、事務作業及び案内状の送付。電話2件。そのうち1件は深夜+1の浅沼さんで、『クラカトアの大噴火』サイモン・ウィンチェスタ-著(早川書房)を早く読めと押し売りならぬ、強烈なオススメ。わかってます、すでに買っているんです。でも時間がなくてと言い訳するが、本を読まない営業はお店の出入りを禁止するぞと脅される。週末の読書が決定。

 金子、浜本と打ち合わせ。9時終了。ああ、飲み会をドタキャンしてしまった。スミマセン。
 さすがに疲れ果て、冷蔵庫からビールを取り出し、グビリと飲みつつ「日誌」を書き終えたのが9時30分。ああ、疲れた…。

3月25日(木)

 この日記の連載を始める際に、いわゆる行動記は書かないようにしようと目標を立てた。その日あったことのなかから、心の引っかかった事柄をなるべく起承転結のあるものにして書こう、あるいはオチのある話をと努力してきた。それを僕は、営業マンのサービス精神と呼んでいるが、編集の金子は生粋のウソつきと非難する。

 まあ、とにかくそういう目標を持って当日記を書いてきたのだが、さすがに半年以上にわたって精力を注いで取り組んできた『本屋大賞』が活況に入ると、起承転結やオチなんて考えられない状況になってしまった。でもずーっと休みにするのも嫌なので、たぶん読んでいる読者の方は、いつも以上にツマラナイ日記になっていると思うけれど、とりあえず来週いっぱいまではここ数日のような行動記で許してください。

☆   ☆   ☆

 9時30分出社。
 デスクワークを片づけ、すぐに営業に向かう予定だったのだが、「本屋大賞」がらみで数本の電話を受けているうちに、今すぐ片づけなきゃいけない仕事に取り囲まれてしまった。うーん、『増刊 本屋大賞2004』の営業期間が過去最短の3週間しかなく、営業を最優先しなければならないのに、これではどうにもならない。昨日やり残したリリースを作成し、メール5通。その間K書店本部、大阪のK書店と立て続けに本屋大賞フェアの打ち合わせの電話が入った。各書店さんかなりフェア展開してくれそうで、うれしい限り。

 それらの処理を終えると11時30分とあまりに中途半端な時間。もうどうすることも出来ないので、そのままデスクワークを続け、昼飯はささ屋の「塩サバ弁当」。サバはコレステロールを下げるのに良いらしい。それを食べながら本屋大賞発表会の案内を手直し。顧問・目黒が降りてきて『ウエルカム・ホーム!』鷺沢萠 著(新潮社)を薦められる。

 1時、神保町へ。1軒(1)を営業したところで、アポを取っている日書連へ。今さらながら書店を巻き込んでやっている『本屋大賞』のご報告。まあここまで本当に形になるかわからなかったので、仕方ないか。「とても良い企画だと思います」とお褒めいただき、ありがたい限り。

 神保町4軒(3)。東京ランダムウォーク神保町店でYさんにしみじみ「良いお店ですよね、ずーっとここにいたくなっちゃいました」と話すと「じゃあ働く? 時給安いよ」と誘われる。思わず即決で頷きそうになるが、家族の顔が浮かび断念する。うう、家庭を持つと自由にならないことが多いなあ。

 昨日敗退した池袋へ。本日は幸運に恵まれ3軒(3)。そのなかのとある書店さんの仕入れで「口が裂けてもいいたくないことなんですが、口を裂いて言います」と僕の一番嫌いな営業方法をお願いしてしまった。ああ、俺はついに悪魔に心を売ってしまったとかなり落ち込んだのだが、仕入れ担当のYさん、笑いながら快く引き受けてくれたのが救いだ。

 高田馬場1軒(1)を終えて、会社に戻ったのが6時。注文の整理と処理。7時過ぎ、ほぼ出来上がった『増刊 本屋大賞2004』のゲラを金子が大机に持ってきて、浜本も交え、いろいろと確認。初めての製作であり、かなり急ピッチな編集作業だったため、不安いっぱい。しかし書店員さんの熱い気持ちは伝わるのではないかと話し合う。

 その後、今度は松村が5月号のゲラなどを持って大机にやってきたので、唐突に僕が考えている来年の連載企画などをぶつける。本日挙げた企画は珍しく受け入れられたのだが、「でも連載を始めるってことはどれかを終わらせなきゃならないんですよ」と松村。「いいじゃんページ増やせば」と言ったところで社内に何かが切れる音が鳴り響く。

 あわてて帰宅の準備。8時30分。

 かつてツライときは『本の雑誌風雲録』目黒考二著(本の雑誌社・絶版)を読み直していたのだが、最近は『書店風雲録』田口久美子著を読み直すことにしている。車内にて、拾い読み。

3月24日(水)

 朝9時。通勤途中駅で印刷会社の人と待ち合わせし、伝票を受け取る。
 電車のなかで、その伝票を確認し、自分の大失敗に気づく。足から力が抜け、そのまま死にたくなるが、運良く(悪く)すでに電車に乗っていたので、扉に頭をしたたかぶつけただけで済む。

 トラブルを抱えたとき、気分転換で本が読めれば良いのだが、文字を追ってもまったく頭に入らない。車窓の風景もやけに暗く感じ、会社までいつもの倍以上の時間がかかった気がしてくる。

 会社について早速取次店の担当者さんに謝りの電話を入れる。「申し訳ございません。朝イチから面倒なことを…」。担当者さん、すぐに関連の部署に連絡を入れてくれ、どうにか何事もなく済む。ほっと胸を撫で下ろすが、確認事項を怠った自分が悪いわけで、深く反省。

 メールチェック。本日はメールも少なく返事が必要そうなものもない。電話3件。10時30分に会社を飛び出す。

 新宿3軒(1)で昼時になり、池袋へ移動。なるべく昼間を移動の時間に充てたいため。

 さて昼飯をどこで食べるかと考えるが、昨日の恨みを晴らすべくファーストフード店に足を向ける。当然のごとく混雑している。激しい偏食家の僕にとって、食事は美味しい、まずいの区別ではなく、食べられるものか、食べられないものかの区別しかない。ふらふら歩いていると吉野屋があり、妙に空いていたのでそのまま入店。牛丼に変わる豚丼を注文。空いていた理由をなんとなく理解する。

 まずは池袋駅外の書店さんを訪問。実はこの決断が本日最高の選択だったのだ。それは4軒(3)を廻って駅に戻ってきたところで雨が降り出したからだ。しかししかし、幸運はそこで尽き、駅近郊の書店4軒(0)という悲惨な結果に終わる。

 夕方5時にとある出版社の知人が会社に来ることになっていたので、4時30分帰社。取次店N社のYさんから「新刊展望」に載せていただく「本屋大賞」の原稿催促。あわてて書き出しているうちに、知人が来て、6時30分まで情報交換。交換といってもこっちは教わるばかりなのが情けない。

 「新刊展望」の原稿を書き終えたのが、7時。メールで送信。本日の注文の整理と確認し、その後は、本屋大賞のプレスリリースをプリントアウト。助っ人オイカワくんに手伝ってもらいつつ、封筒にラベルを貼り、ハンコをバンバン押す。しかしその数分後、その封筒のサイズが間違っていたことに気付く。本日2度目の臨終。

 集中力がまったくなくなっているので、午後8時に退社。

 9時40分に家に辿り着くと「うらーれっじゅからゆーびんでーす」と娘の声。娘を蹴散らせあわてて開封。えっ?! 採用通知?

 その中身は、なぜか東浦和駅・駒場スタジアム間のバスチケット。その数18×3セット=54枚。なになに? シーズンチケット10年継続購入への感謝の印だと。

 うーん、僕は浦和レッズのために自転車でスタジアムに通える場所にわざわざ引っ越しているからバスチケットなんて不要なのだ。まあ、父親と母親はバスで来るから二人に進呈しよう。

3月23日(火)

 直行で営業。
 東京4軒(3)、銀座2軒(2)を終えたところで、正午の鐘が銀座の街に響き渡る。するとビルの中から一斉にサラリーマンやOLが吐き出されてくる。こうなると書店さんは混み合うし、担当者さんも昼休憩に出られたりするので1時半頃まで仕事にならない。

 僕もあわせて食事をとろうとウェンディーズを覗くが長蛇の列。ハンバーガーを頬張りつつ、のんびりコーヒーを飲みたかったのだが、とてもこれでは席が空きそうにないと断念。前に一度食べたことのある有楽町ガード下のおそば屋さんへ。

 こちらも4、5人並んでいたが、めんどくさいのでその列に並ぶ。嫌いだけど野菜を摂らないとまずいので、かき揚げそば(400円)。ここのかき揚げ、安い割に厚さがあって食い応えがあるのだ。5分ほど待ち、5分で食事を終える。どうするんだ、あと1時間。

 ぶらぶらとウィンドーショッピングしていたが、歩き疲れたので缶コーヒーを買って、銀座インズの外のベンチに腰を下ろす。もし今、銀座名物テレビの街頭インタビューを受け「あなたの夢は?」と問われたら「屋根と椅子のあるところで仕事をすることです」と答えるだろう。浜田よ、屋根と椅子のある生活はどんなもんだ?

 しばし、マンウォッチング。銀座はやはり渋谷や池袋に比べると年齢層が高い。それは本の売れ方にも影響しており、保守的だ。

 1時を過ぎ、銀座のまだ営業しきれていない書店さんを訪問。4軒(1)。次なる営業先大手町へ移動。2軒(2)。『小説新潮』3月臨時増刊『警察小説大全集」にあわせてフェア展開しているお店があった。売れ行きを確認すると、横山秀夫と高村薫ばかりが売れていて、なかなか他が…、とのこと。面白いのにな。

 御茶ノ水へ移動し、駅周辺を営業。2軒(2)。本屋大賞の話をすると「4月はなかなか売れそうな本がなくて困っていたんです。ぜひこれを大きく展開してプッシュしていきたい」。うれしい限り。

 四谷へ。1軒(1)。既刊の注文を頂く。「久しぶりに追加が出せてうれしいな」。僕もうれしいです。

 赤坂見附。2軒(1)。東京ランダムウォーク赤坂店を訪問したのだが、2月に行った洋書のバーゲンが大好評だったそうで、なんと初日には開店前に人が並んでいたとか。いやはやスゴイ。実は僕も狙っていた本があったのだが、バーゲンをすっかり忘れていて購入出来ずにいる。5月のバーゲンに来てねと渡辺さんは笑っていた。

 5時30分。TBSへ。本屋大賞の売り込み。
 テレビで思い出したが、昨日の朝日新聞で、時代劇がほとんど打ち切りなるという記事があった。理由は固定層しか見ないためと書かれていたので、ビックリ。出版社のほとんどが、その固定層<だけ>をターゲットに商売しているのだから、いやはや同じメディアでも、まったく違う発想なのだ。

 6時30分帰社。本日の注文の確認と処理。メールをチェック。返信2通。電話2本。浜本と打ち合わせ。地方の営業について。殺す気か俺を…。

 5月号の特集「営業の星」の座談会に赤入れ。あまりに面白いので吹き出していると、浜本と松村がそんなに面白いですか?と不思議そうな顔をする。あんたらが作っているんだろう…。

 書けずにいる編集後記を書き出すが、まったく書けず。気分転換に日誌を書く。なぜか日記はすいすい書ける。

 午後8時37分退社。娘は夢のなかだろうと思いつつ電車に揺られ、『空海の風景』(下)司馬遼太郎著(中公文庫)を読む。

3月22日(月)

 9時30分出社。試合が日曜日だったため、のどがまったく回復せず声が出ない。

 土日のうちにFAXやメールで届いた注文をチェック。メール受信。本屋大賞の件多し。返信6通。電話3本。

 〆切を越えている5月号の編集後記を書くが、つまらないのでゴミ箱へ。松村に代打を頼むが、あそこは杉江さんの欄ですとあっけなく断られる。早く営業に出たいのだが、処理しなければならないことがありすぎる。その間、電話注文4件、定期購読者の方の住所変更1件。

 あっという間にお昼になり、カップラーメンをすすりながら、自宅で書いておいた当日誌の原稿に手を入れ、アップする。ホームページ制作会社のB社のSさんは、アクセスの増える昼前にアップしてくれというが、そうはうまくいかない。

 1時前に会社を飛び出したかったのだが、本屋大賞受賞作の代行注文受付の〆切が本日昼までだったので、その集計及び出版社への連絡で1時45分までかかってしまう。郵送を浜田に任せ冷たい雨が降る外へ飛び出す。

 本日の営業ルートは京王線。聖蹟桜ヶ丘1軒(1)、府中2軒(1)、調布2軒(1)、下高井戸1軒(1)、笹塚2軒(0)。カッコ内は担当者さんに会えた軒数。本屋大賞を見て、とある店長さんの言葉。「書店員に対するお客さんの信頼度は増しているけど、スタッフになかなかゆっくり仕事をさせてやれない自分が悲しい」。また別の店長さんのカミングアウト。「うちのチェーンは結構サッカー好きが多いんですよ、場所柄FC東京のファンなんですけど…」。とにかく飲みましょう。

 午後5時30分、帰社。取次店の知人に電話。本屋大賞の授賞式で使うPOPスタンドの手配。営業中に電話のあったところに折り返しの電話3件。印刷会社C社のTさんが、『リコウの壁とバカの壁』の重版分を持って来社。助っ人あかえ~と雑談。

 浜本と打ち合わせ。あっという間に7時30分。雨が降っている時は、家庭の雰囲気が非常に悪くなる。機嫌取りのためあわてて退社する。

 通勤電車のなかで『空海の風景』(上)司馬遼太郎著(中公文庫)を読む。

3月21日(日) 炎のサッカー日誌 2004.02


 前日の季節はずれの降雪から一転して、清々しい青空が広がっていた。
 こんな日程を組んでくれたJリーグに感謝しつつ、ビクトリーレッドのジャンパーを着て、自転車に飛び乗り、本日の決戦の地さいたまスタジアム2002へ、いざ出陣。

 僕が住んでいるのはさいたま市緑区という地名なのだが、緑区というその名のとおり緑の多い地域である。これはひとえに開発に遅れた地域であるのだが、自転車を走らせるには気持ちの良い景色が広がっている。

 つかの間、勝負を忘れ、そんな芽吹きだした木々に目をやっているとウグイスのさえずりが聞こえてくるではないか。春だ。ちなみに浦和のウグイスは「ホーホケキョ」と鳴かず、「ウーラワレッズ」と鳴く。

 ホーム初戦、あるいはU23代表がいなくてもこれだけしっかりした選手がいるチームになったことへの期待感からか、ゴール裏は身動きが出来ないほどの混雑ぶり。

 コールリーダが始めた一発目のコールで、数千人の拳が突き上げられる。
 そのカッコよさを僕は言葉にすることが出来ない。言葉にできない変わりにそのとき僕の体に起こった現象で言う。鳥肌が立ち、背筋に電気が走り、そしてちょっぴり失禁した。

 試合は、レッズ同様に前線に攻撃的な選手を配置したセレッソ大阪と激しい打ち合いになるかと予想していたが、それぞれほぼ同様のシステムのため、対面同士が素早いプレッシャーを掛け合い膠着した状態が続く。こうなると1対1の勝負で勝った方が勝つ…という非常にわかりやすい状況になるだろうと考えていると、セレッソのコーナーキックが異様にデカイ選手の頭をかすり、セレッソFWとレッズDFがぐちゃぐちゃになっているところへボールが落ちる。

 いち早く反応したのが、日本一突っかけサンダルと原チャリが似合うでろうサッカー選手、改心大久保である。青いユニフォームでどれだけ活躍しようが、ピンクのユニフォームを着た時はとにかく小憎らしい敵である。その小憎らしい大久保がゴールをあげ、前半29分で0対1。

 静まりかえるゴール裏。そのそれぞれの頭の中には、やっぱりどんなに選手を揃えても浦和レッズは浦和レッズなのかという疑心暗鬼な想い。しかししかし、その5分後、再度を駆け上がったイケメン男永井のクロスがセレッソ大阪のDFにあたりゴールネットを揺らすという幸運を目にし、その疑心暗鬼を吹き飛ばす。ゴール裏は歓喜の爆発。とにかくサポーターは忙しいのだ。

 ハーフタイム。僕は考えていた。このあまり調子の良くない前半なら、後半は生まれ変わったレッズがまた見られるだろう。なにせ僕らのチームは45分は素晴らしいサッカーをするのだから。

 そしてその予想どおり、後半にゴールラッシュが生まれる。ウーベ・バイン、小野伸二の血をいつの間にか受け継いでいた長谷部が、素晴らしいコース取りでゴール前に出没すると、ムラっ気山田がビューティフルなパスを通し2対1。小憎らしい大久保に再度同点となるゴールを決められるが、そこからはエメ神様の独壇場。エメエメで、4対2。

 僕、本日よりとある新興宗教に入信した。
 その宗教はエメ教。本尊はもちろんエメル尊である。

 今年のレッズのサッカーはとにかく全選手がポジションを変え、勝負を挑むので楽しい。こんな楽しい気分でサッカーを見るのは、現監督であるギドがピッチに立ち、そしてウーベが、岡野と福田に絶妙なパスを出していた95、96年以来かもしれない。

 しかししかし、ひとつだけ大きな不満がある。こんな楽しいサッカーが繰り広げられているのに、観客がたった4万3067人てことだ。みんな、スタジアムへ来なよ!!!

3月19日(金)

 夜、助っ人の卒業式(送別会)。
 知らぬ間にやたら酒を飲まされていて、気付いたらロレツが怪しくなっていた。「オイカワくん」と声をかけようとしたら「ホヒカワくん」になってしまい、「アカエ~」と呼ぼうとしたら「ハカヘ~」になっていた。

 そんな僕を見つつ、事務の浜田は「たまには自分を解放しなさい」なんてよくわからないことを言っていた。

 それにしてもいつの間にか助っ人学生と年の差が広がっていることにショックを受ける。入社した頃は3,4年の差しかなく、それこそ同級生のように付き合っていたのだが、今ではほとんど干支で一回りくらい差がある。

 ちなみに本日卒業していく助っ人学生を代表して小山めぐみが挨拶。
「本の雑誌で働いて…、えーっと社会をかいま見えて、ほんとに勉強になりました。ありがとうございました。」

 めぐよ。ここで感じた社会は、世間の社会とはまったく違うぞ。気をつけろ!!

3月18日(木)

 ネット予約分のサインをしに、kashiba@猟奇の鉄人さんが来社。

 あんなに古本を買いまくり、そして古本に取り憑かれている人が、いったいどんな人なのだろうかと興味津々でサインの立ち会いをしたのだが、いたって普通の人でビックリ。しかし古本の話になるとやはり「猟奇」であり「鉄人」であったが…。

 この新刊を持って書店さんで営業していると、書店員さんから「王様の次は鉄人か?」と笑われる。確かに昨年は『未読王購書日記』を出版しているからそのとおり。果たしてこの後はどんな古本者の本を営業することになるのだろうか。古本神であろうか、古本ジャーだろうか…。

3月17日(水)

 激しい風が吹く中、今月の新刊『あなたは古本がやめられる』を持って取次店さんを廻る。その見本を入れた袋が風で煽られ、危うく飛ばされそうになる。僕、地震も雷も火事もオヤジも怖くないけれど、風が怖い。小さい頃、マンガのように風に飛ばされ門柱に激しく額を打ち、3針縫ったことがあるからだ。

 嫌な予感がしていたのだが、やはり年度末、決算期の3月のため、各社から吐き出される新刊が大量にあるようで、ある取次店さんでは予定の日にちの搬入を断られてしまった。いやはや。

 昼飯を深夜+1の浅沼さんととり、午後は地方小出版流通センターへ。我が先生である川上社長に「お前、子供が3歳なんだろ。まだまだ働かなきゃならないんだぞ」と川上さんらしいハッパをかけられる。

 そうなのだ、まだまだこの縮小傾向の強い出版業界で30年くらい働かなければならないのだ。そのためには、とにかく嘆いてばかりでなく、霧で覆われまったく先の見えない道を進んで行かなきゃならないのだ。川上さん達、前の世代の人たちも、そうやって道を作って来たのだから。

3月16日(火)

 直行で千葉方面へ。
 午前中から書店さんを訪問出来ると、非常に営業がはかどる。ただし午前中は書店さんも品出しなどで忙しい時間帯なのでそこが難しい。

 電車に揺られているとき、ふっと人間の3大欲求と営業の関係を考える。
 食欲、性欲、睡眠欲。結構知らず知らずのうちにこれらに左右されて、営業マンは動いているのではなかろうか。

 まず食欲。
 営業マンの昼食はどうしても外食に頼らざるえない。僕自身あまり食事に興味がないのだが、それでもたまたま飛び込んだお店が美味しかったりすると、そのルートを営業する際には、そのお店のある駅にたどりつくのを昼時に合わせ、移動していたりする。そしてそういう美味しいお店があるルートは結構しっかり営業に向かったりしているんじゃないか。

 これは逆説的に考えるとなかなか営業マンが訪問して来ない書店さんは、たまたま来た営業マン(今後来て欲しい場合)に近所の美味しいお店を紹介するという手があるのではなかろうか。

 次に性欲。
 これはこの言葉ほどやらしい意味でなく、先日助っ人に直納させたとき書店さんがイケメンだと騒ぎ、今後彼に担当させろなんて言われた、その逆パターン。カワイイ女性店員さん、カッコイイ男性店員さんがいるお店というのはもしかしたら営業マンが訪れる頻度が高いのではなかろうか? 

 最後に睡眠欲。
 これは本日、出版サッカーバカ飲み会という集まりに参加し、周囲の人も同意したのだが、例えば前日夜遅くまで、あるいは明け方にサッカーを見たその翌日はなるべく遠いところに営業に
向かうということ。もちろんその電車のなかで爆睡してだ。首都圏沿線の終点近くにある書店さんはもしかするとサッカーやゴルフ、あるいはF1の翌日に多くの営業マンが訪問している可能性がある。

 しかししかしそんな人間の3大欲求よりも、強く営業マンを動かすのは、何を隠そうやはり商売になる!というのが一番大きい。そう、売れているお店には、とにかくあしげく通うのである。

 うーん何だかなぁ。情けない習性を晒してしまった気がする。

3月15日(月)

 営業から戻ると、事務の浜田に「K書店に行きましたか?」と問いただされる。

 えっ? どうして? 確かにその書店さんは訪問したんだけど、なんでバレてるの? もしかしてもしかして…。あわてて背中をまさぐるが、発信器なんてついてないし、電話があったようなメモもない。

「どうして?」と逆に問いただすと浜田はあっさり「事前注文の〆切間近なのに、K書店さんからまだ注文が入ってなかったから…」との答え。完全に行動がバレているではないか。恐ろし過ぎる。

 このままK書店さんでいただいた注文書を渡すと「わたしにはわかるのよ」なんて怪しげに頷かれてしまう。とっさに今日は行っていないと嘘をつき、K書店の注文書を机のなかに隠す。

 しかし実はその机のなかも把握されているようなのだ。僕が何か捜し物をしていると、浜田から「右側の2番目の引き出しじゃないですか?」なんて言われ、本当にそこに捜し物があるからビックリ。まあ、僕も営業中に資料や名刺の肩書きなんてのを知りたいときに、電話して浜田に調べてもらうことがあるから、それで知っているんだろう。ほんとにそうなのか?

 それにしてもこうも行動がバレるのでは、僕に残された唯一のオアシスは通勤電車のなかしかない。

3月13日(土) 炎のサッカー日誌 2004.01

 昨年末、我らが浦和レッズはあっけなく天皇杯で敗れ、選手達は自主的に年末年始休暇に突入してしまった。何だ何だと嘆いていると、浦和レッズらしくない大きな補強を立て続けに発表し、いつの間にか日本代表に多くの選手を送るチームに変わっていた。

 他チームのサポーターからは、そんななりふり構わぬように映った補強を「ナベツネ」と言われたが、何をおっしゃるウサギさん。何も巨人軍のようにFWばかり集めているわけではないし、。そもそもサッカーでは補強によってチームを強くするのは当然のこと。

 この日対戦した横浜Fマリノスだって、補強によって多くの選手を集めているのだ。今年入団した安貞桓、中西はもちろん、奥だって、久保だって、中澤だって、みんな補強で取った選手じゃないか。その資金のために我らがサポーターもお金を出してチケットを買っているのだ。多くのサポーターが集まるところに、金が集まり、選手が集まる。何が悪い!

 と書きつつ、正直、僕自身もこのシーズンオフの間、違和感を感じなかったわけではない。元々弱いもの好きの人間だから、優勝よりもそれぞれの成長を、あるいは気持ちの入っていない勝利よりも、負けてもいいから激しいスライディングを見たい、なんて気持ちもある。

 しかししかし、チームから甘えを排除しようというのであれば、僕のそんなノスタルジーも甘えのひとつであろう。とにかく優勝、それもカップウィナーでなく、リーグチャンピオンである。

 横浜国際競技場の7階スタンドには強い風が吹いていた。この日のために3ヶ月ほどかけて探した真っ赤なアウターだけでは寒すぎる。しかしこのアウターの赤色を、そのメーカーであるアディダスではビクトリー・レッドと呼んでいるそうなのだ。ならばこの「赤」で今年は攻めるしかない。

 2時キックオフ。
 ついにベールを脱いだ2004年ギド・レッズ。
 アンダー23に4人の選手が招集されているとは思えないほど、選手はみんなまともだ。ただし坪井、三都主、エメルソンの坊主コンビは7階の遠い席からは見分けが付かないが。

 ホーム横浜Fマリノスのサポーターよりも数多く駆けつけた我らがレッズサポは、そんな強くなりそうな予感がする選手達に熱いコールを送る。

 監督がギドになり、システムも変わった。この日は3-3-3-1というかなり珍しいシステム。中盤に大きな隙間があるのは気のせいなのかと思っていると、それは気のせいではなく横浜Fマリノスのボールが簡単に前線の久保や安貞桓に繋がってしまう。

 うーん怖いなぁと頭を捻っていると、柳沢なき後、ムカツク選手筆頭の安貞桓にミドルシュートを決められてしまう。どうしてこいつらはレッズ戦だと活躍するんじゃ! 暗雲立ち込めたところでハーフタイム。出てくる言葉が「うーん」だけである。もちろん45分で判断できるわけではないのだが、微妙なのである。

 うーん、うーんと唸っているうちに後半が始まる。
 そこで目にしたのは、浦和レッズの得意技。舞台の早変わり並に、まったく違うチームになってしまう。同じ選手のはずなのにだ。理由は7年以上調査中である。

 前半では、奪うことの出来なかった中盤でボールを奪取し、素早い縦への展開で前線へボールをつなげる。多分これがギドの言う「早く攻める」ってことなんだろう。エメが、三都主が、永井がDFと勝負する。そんな感じで攻めていると、横浜FマリノスのDFもずるずる下がり始め、いっそう中盤でボールを奪いやすくなる。

 そしてエメが追ったボールが外に出て、我らがサポーター席に向かって「盛り上げてくれ」のジェスチャー。エメ神様に言われたら盛り上がるしかない。大声を張り上げているうちに、スローインのボールがエメ神様の前にこぼれ落ち、あり得ない体勢からのダイレクトボレー。そしてゴールネットが揺れる。まさに予告ゴール! すんげぇ~。

 結局、結果は1対1の引き分け。負けなくて良かったというのが本音だけれど、どれをとっても微妙な状況だ。アンダー23組が戻ってきてどうなるか? うーん…。  

3月12日(金)


 なんだか世間はサッカーのオリンピック代表がどうしたなんて騒いでいるが、明日にはJリーグが開幕するのだ! ジーコも山本もどうでもいいし、欧州組が体調不良だって関係ない。そんなことより我が浦和レッズの新監督ギド・ブッフバルトがどんな監督なのか? そこが何より一番大事。

 ああ、明日開幕。しかもその初戦の相手が優勝候補筆頭の横浜Fマリノス。一応補強をしまくった我が浦和レッズもサッカー雑誌などでは優勝候補に挙がっているのだが、とにかくこの初戦が何より大事なのは間違いない。そのことを考えるととても仕事どころではないのだが、仕事をしないとサッカーも見られないわけで、僕にとってこれ以上のアメはないだろう。

 文芸担当者さんが数ヶ月前に変わったとある書店を覗いたところ、いやはや妙に棚や平台の商品構成が薄くなっていることに気付く。うーん、クセがない。

 前任の担当者が月に30冊以上本を読む人だったから仕方ないのかもしれないけれど、この落差は大きい。こういう変化を目にすると非常に落ち込む。やはり書店は人なのだ。

 その後また別のお店に向かう。
 こちらも何だかここ数ヶ月薄くなっているような感じがしているお店だった。しかし担当者は変わっていない。何気なく聞いてみると、なんと店長さんが変わって出版社から届くファックスやら郵便物を全部捨ててしまうのであるという。

 思わず驚きで目を点にしていると、担当者さんはもっと悲しげな顔になり、「今まで当たり前ですけど新刊案内を見て、これは!って本を注文していたわけです、それがまったく出来なくなってしまって、最近は毎日ゴミ箱を漁ってます」との答え。いやはや。

 ちなみにどちらのお店もいわゆるナショナルチェーンの支店である。こんな感じでチェーンの網の目を広げて、そこに意味があるのだろうか。

3月11日(木)

 本日もふたつの打ち合わせが入っており、その合間をぬって営業を続ける。

 事前注文の〆日間際になると5分、10分が惜しい。「どこでもドア」があったら良いなと思うけれど、あったらあったで一日30軒くらいは廻れるようになるわけで、それでは身体が壊れる。

 夜、会社に戻ると顧問目黒がどっしりと座っていた。何だかその目が妙に充血している。そういえば1月程前、白内障だか緑内障だと騒いでいた。もしかして悪化でもしてしまったのではないかと心配になってしまう。もし目黒が視力を落としてしまったら、まったく仕事にならないではないか。

 ところが心配になって確認したところ、帰ってきた言葉は「いや~、重松清の『卒業』(新潮社)を読んでいたら泣いちゃってさ」であった。ガクっ…。

 しかししかし。実は僕も数日前、その『卒業』(新潮社)を読みつつ営業をしていて、目黒同様「杉江さん? 目、真っ赤ですよ」なんて書店員さんから指摘されていたのである。さすがにそのときは恥ずかしくて「花粉症なんですよ」と誤魔化したが、いやはや同じ本を読んで泣いた者同士なら何でも話せるではないか。その後は目黒と『卒業』のなかの4篇中、どれが良かったか?で大いに盛り上がる。ちなみに僕は「まゆみのマーチ」で目黒は「仰げば尊し」だった。

 それにしてもこの『卒業』。タイトルから勝手に重松清お得意の少年もので、定時制高校とか不登校の生徒が卒業を迎えるなんてパターンかと想像していたんだけど、読んでみるとまったくそういう話ではなく、全編、親の死がテーマの短編集であった。

 30歳を過ぎて、そして親も還暦を越え、考えたくないけれど「親の死」が一歩一歩近づいていきているそんな僕には、どれもこれも胸に刺さる話だった。寝床で読了後、思わずもう一度起き出し、ゆっくりと梅酒を飲みながら、明け方まで「その日」のことを考えさせられてしまった。

 重松清は、どうしてこうもいつも一番考えたくない、けれど考えなければならない部分をついてくるのだろうか。

3月4日(木)~10日(水)

 本屋大賞も二次投票の締め切りを迎え、ああこれで一件落着と考えていたのだが、これが大間違い。いやはや、これまで大変だったのは参加した書店員さんであり、裏方の事務局は、これから集計やら交渉やら授賞式の用意など、やらなきゃいけないことがてんこ盛りの状態だったのだ。

 早速4日の夜に実行委員で集まり、ご好意で貸していただいている会議室にて、仕事の分担を決める。その分担を見つめつつ、己の通常の仕事を思い出すと、頭のなかでは「GAME OVER」の文字が点滅し出す。

 そうか、そうなのか…。
 何で誰もこの「本屋大賞」のような企画を今までやらなかったのか謎に思っていたのだが、こうやって仕事が山のように増えるから手を付けなかったのか。ああ、いつものことだけれど、気づくのが遅すぎる…。

 でもでも、これだけ多くの書店員さんが投票してくれたのだがら、その恩は絶対返さなければならない。

 というわけで、先週末から今週にかけて、連日営業に加えて会議やら打ち合わせが続いている。おまけにこんなときに限って2月に出版した『リコウの壁とバカの壁』が売れてしまったりしていて、増刷の手配やら、直納やらとさらに忙しさに拍車がかかっている。

 そんな僕に向かって事務の浜田は「何も手伝えなくてスミマセン」と謝るが、なーに俺だって決算の手伝いはできないのだ。来月は君が大変なのよ。

 シラフで夜遅い電車に乗ると、周囲の酒臭い息にうんざりするが、たぶんあと少し経てば、相当うまい酒が飲めるだろう。そのときまで柄に合わないけれど、仕事を頑張ろう。

3月3日(水)

 待ちに待った飯嶋和一氏の新刊がついに出た。
『黄金旅風』(小学館)だ。

 傑作『始祖鳥記』(小学館)から約4年。飯嶋節に触れたくて、首どころか全身を長くして待ち望んでいたのだ。

 こうとなったら『模倣犯』のとき同様、仕事を投げ出してしまいたい。そしてどこかの喫茶店に入り、飯嶋和一の世界の没頭したい。しかししかし、今月の新刊『あなたは古本がやめられる』kashiba@猟奇の鉄人著の営業が佳境を迎えており、とてもサボっている暇はない。古本は辞められるかもしれないけれど、家族を想うと会社はなかなか辞められない。ううう。

 電車の中はもちろん、書店さんに入るそのギリギリまで二宮金次郎ばりに『黄金旅風』の人となる。ただいま152ページまで読了。間違いなく、またもや傑作だ。

 娘よ、頼む。今日は早く寝ておくれ。出来れば帰ったときには寝ていてくれ。ひな祭りは『黄金旅風』を読み終え次第、盛大にやってやる。もし望むならホテルでやって良いぞ。でもここ数日は早く寝てくれぇ!

3月2日(火)

 とある書店を訪問したら、いきなり店長さんに「ああ、呼んでるなぁ」と呟かれる。てっきり『リコウの壁とバカの壁』の注文を出そうと思っていたところに僕が訪問したのかと思ったが、それはまだ平台にしっかり積まれていた。

「いやさぁ、実は来週半ばで退職なのよ、リストラ…」

 世間では年末あたりから景気が良くなってきたと声高に叫ばれている。株が上がった、増益、V字回復。しかし、出版業界は一見芥川賞効果などで活気づいているように思えるが、それは文芸書という限られたジャンル内の話であり、全体としてはまだまだとても回復の兆しまでは現れていない。

 特にこのリストラにあってしまった店長さんのお店のような町の50坪程度の書店さんは、一段と単行本の配本が渋くなり、またかつては一番の柱だった雑誌も送品が減らされる一方で、景気回復どころか、冷え込み続け凍りついているような状況だ。

 あるところで書店さんの適正件数というのが話題になったことがある。
 そのとき挙がった数字は、なんと驚くことに今の半分以下であった。それはもちろん読者にとっての適正ではなく、出版社や取次店から見た適正件数だった。そして閉店していくのは小さなお店からになるのだろうと。

 小さなお店が苦しむ原因はの多くは、やはりどれだけ努力しても、即現金になる可能性の高いベストセラーが手に入らないからだろう。努力はしているのだ。毎日毎日ファックスを流し、電話注文もする。足があれば神田村や転売を廻る。それでも本が入らない。

 特に最近は、出版社側が刷り部数を極端に抑えるため、町の書店さんへそれらの本が入ることはほとんどない。いや、町の書店と書いてしまうと語弊があるか。100坪、200坪のお店だってそうそう簡単に本が手に入らなくなっているのが現状だ。僕は多くの書店で、もう買い切りでも良いから、本が欲しいという叫びを聞いているし、努力しても無駄なら辞めた方が良いという悲鳴も聞いている。

 結局、出版社側は利益を圧迫する返品を抑えるために、見える範囲、見えやすい範囲へ、配本する傾向が強くなっている。それは結局オンラインで在庫数が見えたり、あるいはチェーン展開しているところとなる。となればやはり初期投資やランニングコストがかかるPOSレジなどを入れられない書店さんは苦しい。

 誰に向かって言えば良いのかわからないけれど、みんな一度しっかり考えた方が良いんじゃないか。本当に今の流れで良いのかと。

 書店さんの数が今の半分になって、そうなればきっと本を買うためにわざわざ電車や車に乗らなきゃいけなくなるだろう。子供や主婦はどうやって本に接するのか。都心部にいれば不自由を感じることはないだろうが、地方の人はどうするのか? 

 今、売上が悪いなら、今後良くなる可能性を増やさなきゃいけないんじゃないか。今の流れが、本当に良くなる可能性を増やしているのか。

 そしてこれは出版社全体にいえることだと思うけど、自分が減数しているそのスリップ、あるいは注文を無視して捨てているスリップ、その1枚1枚がお店を閉店に追い込み、店長さんや社員さんあるいはアルバイトさんから職を奪っていることを想像するべきだろう。

 店長さんは最後にこんな話をした。

「やっぱり本が好きなんだよなぁ。だから生活していければ何でも良いという考えで次の仕事を探したくはないんだ。49歳、そうそうこの業界に仕事はないだろうけど、僕、あきらめないよ」

3月1日(月)

 2月の新刊『リコウの壁とバカの壁』ローヤー木村を、本の雑誌史上初の半5段広告というとんでもないことをやってしまったので、その注文の電話が朝からひっきりなしにかかってくる。うれしいと叫びつつ電話応対をしていたのだが、さすがに午前中いっぱい受けていたら疲れてしまう。こうなりゃ後は浜田に任せるに限る。分業万歳。横殴りの雪の降る中、こっそり営業に逃げ出した。

 広告効果というものは、やはりしっかりあるようで、本日廻った京王線の一部及び立川では、売れ行きも伸び、お客さんの問い合わせも受けているといわれる。良かった良かったと胸を撫で下ろすが、しかし。「リコウの壁」という問い合わせを受けると、ついつい「バカの壁」じゃないんですか? なんて聞き返してしまう店員さんもいるようで、ムー、その辺は弱小出版の哀しみだ。ガンバレ、ローヤー。ってオレが頑張るのか…。

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