WEB本の雑誌

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7月30日(金)

 33歳の誕生日。

 30代というはもっとカッコ良くて、楽しい時間を過ごせると考えていたのだが、自分を取り巻く悩みや問題が、自分ではとても対処できないようなシリアスなことが増えていき、かなりツライ年代だと感じている。

 ただしそのシリアスな問題から逃げるわけにもいかず、手探りのまま真っ暗な道を歩いていくしかないのだろう。キツイけど歩き続けるしかない。

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 会社からお祝いとして5000円分の図書カードをいただく。本の雑誌社唯一の福利厚生だ。

 早速何の本を買おうかと「欲しい本リスト」を眺めていたところ、3歳の娘から携帯に連絡が入る。

「パパ、たんじょーび、おめでと。それでね、それでね、帰りに『幼稚園』買ってきて!」

 まだ発売になってないんじゃないか? それよかな、父ちゃんはな。お前が早く『バッテリー』あさのあつこ著を、読める歳になって欲しいんだよ。そしてな、二人で、どう読み、どう感じたか、話し合いたいんだよ。ああ、まだまだ先だ。その前に付録を作らなきゃな。

7月29日(木)


 よくよく考えてみたら10年以上も出版営業という仕事をしておきながら、誰かにまともに教わったことがなく、今現在やっている本の雑誌的な方法に疑問を感じてきたので、とある出版社の現役営業マンをお招きし、第1回目を本日開催。午後いっぱい、あれやこれやと質問を繰り返す。

 その結果、やはりかなり足りない部分があることがわかり、とても意義深い勉強会になったのだが、結構へこんでしまった。「ひとりだから」を言い訳にしていたんだな。それに知らず知らずのうちに楽をしていたんだ…。30歳を過ぎて、今までのやり方を変えるのはキツイけれど、転職したと思えば同じことだし、売上を上げるためなら何でもやりましょう。

7月28日(水)


 当HPの制作をしているB社を訪問し、新企画の打ち合わせ。
 僕自身、勢い余って提出した企画だったのだが、結構、みんなその気になってしまったようで、うれしい限り。それにしてもプログラミング会社(?)というのは、恐ろしいほど静かで、10数人がデスクに張り付いているのに、聞こえてくるのはマウスを押すカチリカチリという音ばかり。

 おまけにこのB社、壁の至るところに人差し指と中指を突き出したマークが描かれたシールが貼られていて、そこには『GO SMOKING』と書かれているではないか。不思議に思って聞いてみると、なんと社長さんが超愛煙家で、喫煙運動をされているそうなのだ。いやはや、世の中いろんな会社があって、いろんな人がいるもんだ。

7月27日(火)


 昨春、助っ人(アルバイト)を辞めていった木村君が、沸き立つような匂いのする桃を持って遊びに来てくれた。彼は今、青果の仲卸業者に就職し、市場で働いているそうで、青果・仲卸・市場と通常の僕の世界ではまったく知る機会のないその仕事がとっても面白そう。思わず小一時間ほど質問を繰り返してしまった。ちなみに木村君は、果物部輸入果物課グレープフルーツ係という肩書き。


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 本の雑誌社のアルバイト募集に応募してくるような学生は、出版業界への就職希望者が多い。この会社がそのために役立つとは思えないし、元々門戸の狭い業界だから、ほとんどの学生が希望叶わず他業種へ就職していく。まあ、長い目で見たらそれはそれで幸せなことだと思うけれど、自分も必死になってこの業界へ潜り込んだ口だから、無念さもよくわかる。

 そんな助っ人学生のなかで、木村君はちょっと異質であった。まず何により理系であることだ。それも農学部。いや理系で、農学部で応募してくるのに何の問題もないのだが、それまでほとんど理系の応募者というのがいなかったので履歴書を見て驚いた。初めて接する学部というかタイプの人間になりそうなので、とりあえず面接に呼んでみたのだ。

 会ってみるとこれが面白い。こちらは勝手に細っこい人間を想像していたのだが、身長175センチ、ガタイはガッシリ系だった。ガッシリの理由が陸上部に所属していたそうで、いまだに毎日10キロは走っていると話した。

 応募動機は、たまたま友だちに薦められて「本の雑誌」を読んでみたら、たまたまアルバイトの募集が載っていて、たまたま暇だったので応募してみたら、呼び出されたとのことで、やたら「たまたま」を連発する奴だった。まあ、こちらだって気まぐれで呼び出してみたんだから同じことか…。挨拶もしっかりできるし、受け答えも問題なし、本も好きで、特にライトノベルが好きだという。ならばとその場で採用を告げた。

 木村君は、それから1年、週1程度で、コンスタントに会社に顔を出した。しっかり仕事が出来る奴だったので、あっという間に頼れる存在に成長していった。だから4年になったらリーダーを任せられるなと考えていたところ、突然、アルバイトを辞めると告げられた。そのときはかなりショックを受けた。しかし理由を聞いてみると、気持ち良く送り出してやりたくなった。

「もうすぐ4年生で、やはり就職を考えなければなりません。今のところ出版、イベント、それから大学で学んでいる農業系に興味があります。そのなかからこれを仕事にしたいと思うものを探さなければならず、そのために4年生の1年間、いろんなことを試してみたいと思うんです。」

 うん、うんと僕は深く頷いた。木村君は目をきらきらさせて、真剣に希望を語っていた。その姿は10歳年下とはいえ、とてもカッコ良かった。


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 今年の5月。
 約1年ぶりに木村君から連絡があった。

「初めての給料が出たので、フルーツの詰め合わせをお送りさせて頂きます。」そのとき初めて彼が市場で働いている事を知った。なぜ市場になったのか、そのことが気になっていたので、いつか遊びに来いよと誘うと「夜中の1時から昼くらいまでが仕事なんですよ。杉江さんが起きている時間に寝ています。でも時間を見付けて顔を出します」とのことだった。いろんな仕事があるんだなと今更ながら驚いた。

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 本日、久しぶりに平日休みが取れたのでと、律儀にその約束を守って、会社に遊びに来てくれたのだ。
 
 詳しく話を聞くと、市場の仕事の先、5年後、10年後の彼はしっかり考えていた。
「お前、ほんとカッコ良いよ」僕は素直に言った。社会に出れば、もう同じ人間だ。
 しかし木村君は浮かない顔をして僕を見つめる。
「どうした?」
「そういってくれるのは杉江さんだけで、女っ気がまったくないんです。どうしたら良いでしょうか?」

 それは僕に答えられる答えではなかった。

7月26日(月)

 禁煙から約3ヶ月が過ぎた。
 いまだにこのタイミングでタバコを吸うとうまいんだよなと思うことが1日3回はあるけれど、だからといって吸いたいというほどの欲求はとうに消えた。

 タバコを辞めて良かったこと。小遣いが減らない。よく眠れる。打ち合わせや会議でいらついたり(禁煙の場合)、気を遣ったりしないで済むようになった。そしてなによりタバコに支配されず、自由になった気がする。特に駅の立ち位置など。

 タバコを辞めて悪かったこと。仕事をサボれなくなってしまった。

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 ここ2ヶ月、残業がまったく出来ない状況なので、その代わりといっては何だが、朝早く出社するようにしている。8時頃には出社しているのだが、ただしだからといってその差2時間を仕事だけに利用しているわけでなく、本を読んだり、音楽を聴いたり、誰もいない社内でぼんやりしていたりしているのだから決してエライ訳ではない。

 ちなみに残業が出来ないということは、同じような時間帯に行われる飲み会もすべて辞退しており、それはそれでちょっとキツイのだが、致し方ない。


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 最近ずーっと考えているのは、編集とはいったいなんだろうということだ。いや、もちろん企画を立て、書き手を捜し交渉し、本にしていく作業のことを言うのだろうが、その企画を立てることと本にしていく作業は同一の人である必要があるのだろうか? あるいはそれはまったく別の才能を必要とするのではなかろうか? と疑問を感じているのだ。

 実は前単行本編集の金子が転職していった理由がまさにこの辺にあって、金子自身は「本というものを作っていく作業はとても好きだったけれど、企画と立てるとか、著者と交渉したりするのは苦手」なことに気づき、現在は本を作るだけの仕事に就いているのだ。

 あるいはまた、ある出版社では、営業も企画を出すのが当然で、その企画した本の販売部数によって給料が変わったりするなんて話も聞いた。

 そういう例から考えると編集のなかにある「企画」と「制作」という仕事は、分けた方が健全なんじゃないかという気がしている。いやもう他の出版社は分けているのかもしれないけれど。

 1冊の本を出す。その際、やはりその企画から販売まですべて見て、責任を取る人というのが必要な気がする。何せ企画を立てたのだから、どこで、どのような人に、その本が読まれるかわかっているだろうからだ。そしてそれはもちろん役職というよりは、1冊ごと企画を出した人の責任制で、その際は利益によって給料を変えるなんてことがあってもいいかもしれない。

 うーん、何で朝早くからこんなことを考えているのだろうか…。仕事した方がいいな。
 

7月21日(水)


 青山ブックセンターショックを引きずりつつ仕事をしていたら、出版業界の知人から『青山ブックセンターの維持・再建署名運動』というメールが届く。集まった署名を青山ブックセンターの代理人を通じて、再建に向けて交渉されるそうで、まあ、署名をして企業が再建されるなんてことがあるのかわからないが、とにかく署名し、メールを戻す。

 ちなみに僕の青山BC再建案は、入場料を取るということなのだが、社内で話しても誰にも相手にされず、悲しい。

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 昨日、観測史上最高の暑さのなか、銀座を営業したのだが、あまりに街に人がいないのにビックリしてしまった。いつもは平日でも銀ブラする人たちであふれる歩道に人影がほとんどない。歩いているのは僕同様に営業マンらしき人で、これではとても…と恐れつつ書店さんを覗いたら、やはりお客さんは雨の日以上にまばらな様子。

 店員さんに話を伺うとやたらと「在庫確認」の電話が増えているという。そして在庫があれば夕方にでも買いに行くと話すお客さんばかりだとか。いやはや、そりゃ気温40度を越えているアスファルトの上なんて、営業マン以外は外に出ないってもんか。それにしても7月の売上が観測史上最悪の結果にならないことを祈るしかない。

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 その昨日同様の暑さのなか、発行人浜本が取材で船橋に向かった。その背中に「くくくく、たまには外で働くことの恐ろしさを知り、僕の偉さを実感しなさい」と憎まれ口を叩き見送っていたら、予定変更、僕自身も外に出なければならなくなってしまう。たはー。

 しかも数十冊の単行本を抱えての納品だ。しかしこの暑さのなか、数万円の売上はでかい。お互い頭を丸めあった及川くんとお茶の水へ向かった。40度を経験してしまうと35度がなんてこともなくなるのが不思議だ…。

 

7月20日(火)

 どこへ行っても青山ブックセンターさんの閉店の話題。

 「明日は我が身」書店員さんも出版社の営業マンも、誰もが他人事とは思えない本気さで話している。

 ただし解決策というか、打開策というか、何かそういうものがまったく浮かんでこない。というか、細かい方策はすでに多くの書店員さんや各営業マンが取り組んでいるわけで、もう抜本的に何かを変えない限り、出版業界は食っていけない業界になってしまうんじゃなかろうか。いやもしかしたら元々食っていけない業界なのかもしれないが…。

 どうしたら本が売れるようになるのか? あるいは現状程度の売上で食っていける方法はないのか? その辺を誰か自分の利益だけを見つめるのではなく、大きく見て変えていかないと未来はないような気がするのだがどうだろうか。

 今年に関しても9月の「祭り」を待つのでなく、すこし真剣にもう少し先のことを考えていかないとマズイと思うんだけど、うーん、でももうその体力もないのかもしれない…。

 それにしてもいち客としても悲しいニュースだった。
 僕自身、会社帰りに一番頻繁に立ち寄っていたのが、青山ブックセンター新宿店とルミネ2店で、この2店に立ち寄り、しばし営業中では絶対目につかないあのセレクトされた棚を眺め、購入して帰るのがストレス解消法のひとつだったのである。

 青山ブックセンターはそういう意味で代えの効かない書店であり、これからどうしたら良いんだろうか。また、よく企画されていた著者と読者を近づけるイベントも、かなり大きな意味があったと思う。

 青山ブックセンターの閉店により、これで、僕が10数年前、初めて本を読む喜びを知り、そして書店というものの奥深さを教えてくれた3店の書店がみんな消えてしまった。その3店とは、リブロ池袋店(経営権が変わってしまった)、パルコBC渋谷店(名称をリブロに統合)、そして青山ブックセンターの数店舗だ。

 これらのお店で、背伸びし、カッコつけ、無理をして買った本。それらの本によって僕はずいぶんと成長させてもらったと思う。書店で勉強する、あるいは書店が何かを発信するというのは、もう商売にならないのだろうか。

 田口さんの『書店風雲録』のなかで書かれていたように、やはり80年代、90年代の終焉ということなのかもしれない。

 ああ、こうなると初期の青山ブックセンターを築いた書店員さんが作る、東京ランダムウォークの挑戦が楽しみであるが、それにしても愛すべき書店が閉店してしまったこの悔しさ…。

 でも一番悔しいのは、青山ブックセンターで働いていた人たちであろう。ぜひぜひ、またどこかで、青山魂のこもったキラリと光る棚を作ってください。応援しています。

7月17日(土) 炎のサッカー日誌 2004.07


 ここのところいろいろとあって、サッカー(レッズ)に行っていなかった。
 それは別に家族に行かないでと言われたわけではなく、ただただ100%レッズに向かい合えないならば行くべきではないと、自主的に控えていたのだ。そして当然まだゴタゴタを引きずっている本日もTV 観戦で済まそうと思っていた。

 ところが夕方になって、自宅でビールを飲んでいたら、猛然と駒場スタジアムに駆けつけたくなってしまった。テレビ画面に映る赤いユニフォームではなく、目の前で駆け回る選手たちを、そしてスピーカーを通して聞くサポの歌声ではなく、スタジアムの熱気と震えをどうしても感じたくなってしまったのだ。

 酔った勢いで妻の目を見つめ、無言で訴えかけると「早く行きなさい。でも興奮してけがをしないように」と手を振られる。ありがとうと言葉を残し、玄関を乱暴に開け、通勤で使っているママチャリに飛び乗る。時刻は6時15分。急げば選手紹介までに間に合うだろう。そのとき僕のママチャリは、荒馬フェラーリに変身した。すさまじい排気音と高音のエンジン音をうならせ、スタジアムへ爆走した、はずであった。

 しかししかし、なんということだ。我が荒馬フェラーリ(ママチャリ)がいきなりストップしてしまうではないか。ペダルを漕いでもまったく空回り、ジャラジャラジャラと妙な音が聞こえてくる。あわててチェーンを確認すると、思い切り外れているではないか。

 そのとき一瞬の躊躇もなく、僕はギアに指をつっこんだ。そしてチェーンを引き出し、かみ合わせる。こんなこと今まで一度もしたことない。治せるのか? と思った瞬間、治っているではないか。成せば、成る。

 スタジアムにたどり着き、チケットを入り口で差し出すと、もぎりのおねえちゃんが僕の手を見つめる。不思議に思って自分の手を見ると真っ黒だった。いやはやごめんと謝りつつ、駆け足でスタジアムへ飛び込んでいった。


 そこには仲間がいた。
 そして歌声があった。
 叫びがあった。
 
 ここさえあれば、どんなツライことだって乗り越えられる、そう感じられる興奮があった。
 そして最後まであきらめてはいけないという、気持ちのこもった選手がいた。

 駒場スタジアム、浦和レッズ、そして一緒に叫ぶ仲間。
 僕はそれらがあるから生きていけるのだ。
 ありがとう。そして、WE ARE REDS.

7月15日(木)


 今月の新刊『青木るえかの女性自身』青木るえか著の見本を持って取次店さんを廻る。この本の装丁は青木さんの希望もあって『孤独のグルメ』(扶桑社文庫)や『小説 中華そば江口』(新潮oh文庫)でおなじみの久住昌之さんにお願いしたのだが、その仕上がりを見て思わずぶっ飛んでしまった。

 これほど内容をうまく表し、しかもインパクトがある装丁、なかなかないでしょう。ほんとありがとうございました、久住さん。でも、この本、もしかしたらネットでの売上比率が高くなるかもしれません。なぜなら、わたくし自社本に初めてカバーを巻いて電車に乗りましたから…。

 もちろん内容も最高だ。下に適当に各文章の1行目だけ抜き出してみたのだが、るえかさんも飛ばし過ぎです。わたくし、自社本でこんなに笑ったことありません、たぶん。

『私はおっぱい星人だ。』
『うちのだんなは男性器を「タマキン」という。』
『昔からエロマンガが大好きで大好きでしょうがなかった。』
『私は痛いのがすごく苦手だ。』
『平口広美が大好きだ。ほんとに好きだ。』
『小学生の時のペンネームが金玉満子。』

 思わず書き出しながら叫んでしまった。「今年の本の雑誌社の営業は、青木るえかに全部だぁ!」

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 そんな自信の1冊を持ってとある取次店に顔を出すと、新刊採点員でもある古幡さんとバッタリ。「見てくださいよ~。この新刊」と水戸黄門の印籠のように『青木るえかの女性自身』を差し出したところ、古幡さん、絶句。そして足早に逃げ去られてしまった。くくく、もしかしてセクハラになるのか?

 しかししかし地方小出版のKさんには思い切り太鼓判を押され、自信回復。行きましょう、青木さん! 行きましょう、前年アップ! 売りたい本を手に入れたときほど、営業マンうれしいときはありません。さぁ、この夏は、がんばるぞ!

7月14日(水)


 搬入してすぐなのに『本の雑誌』8月特大号の追加注文が入り出す。さすが出版業界内で「神様、仏様、村上春樹様」と言われるだけあるな、なんて喜んでいたら、ピコンピコンと業界内の知人からメールが届き出し、みんな『出版社めった斬り!』の方を興奮気味に書いてきているではないか。ぬふ~。

 昼間、顧問の目黒が降りてきて、とある文庫の帯を見つめながら「東京創元社って今年で50周年なのか。うちとあんまり変わらないんだな」とつぶやいたのにはビックリ。

 あんまり変わらないって、本の雑誌社はまだ来年で30周年であって、その差20年、つまり創刊から今頃ぐらいの年月の差があるんですぜ。

 それに世間では「20年もった会社は30年はもつが、50年はなかなかもたない」って言われているんですよ。僕も正直いってこの会社が20年後、すなわち僕が53歳になるまであるとは想像もできないんですが、いかがでしょうか? 目黒さん。ちなみに目黒さんはそのとき77歳になっているんですよ。

7月13日(火)


『新宿のお嬢』の連載でお馴染みのながしまさんのお店(山下書店新宿店)に顔を出し、『バッテリー』話。僕自身、久しぶりにこんなに熱くなれる本に出会えそれだけで幸せなのに、目の前にその本をこれから思い切り売ろうとしている人がいるのだ。いやはや幸せ過ぎる。というわけで思い切り長話。

 ながしまさん曰くこういう本を売るときにネックになるのは、分類コードにあると指摘される。
 たとえば通常POSレジを通して『バッテリー』を販売した場合、1巻と2巻を文庫で購入されれば文庫の売り上げに、そして3巻から5巻を単行本で買った場合は、児童書の売り上げにカウントされていくのだそうだ。

 こんなもの読者から見たら、全体で売上があがるなら関係ないじゃないかと思われるだろうが、そこそこの大きさのお店では、それぞれジャンルによって担当者が分けられており、そのジャンルごとに予算(売上目標)が設定されているのだからジャンル分けは大問題なのである。自分の管轄の棚には自分のジャンルの本を置き、1冊でも多く自ジャンルの売上が上がることを望むのは当然のことだろう。

 たとえば9月に出る『ハリーポッター』。これだってPOSレジを通して分類していけば、児童書の売上にカウントされていくわけで。だからどんなに売れようと他ジャンルの担当者書はあまりうれしい顔をしないし、その置き場所が自分の担当の一番良いところだったりすると「どうせどこに置いても売れるんだから、あそこは空けて欲しいのよ」なんて声が上がってくる。また出版社側もその辺の考慮して、一般書の平台で本を売りたいときは、分類コードをあえて文芸の売上になるように変えてくるところもあるほどだ。

 その辺の理由があって、『バッテリー』も文庫は文庫、児童書は児童書で展開しているところが多いのだろう。

 しかしそれは読者にとってまったく利益にならないことである。あの本を2巻まで読んで我慢できる人はそうそういない。現に本の雑誌社の社員だけで、3巻~5巻が4セットあるし、当ホームページの運営担当者も結局単行本で買い揃えたと話していた。

 そして今、現に『バッテリー』を読み出したのは、いわゆる普通の本読みであろう。ならばここで立ち上がるべきは、文庫担当者でも、児童書担当者でもなく、文芸書の担当者なのではないか。ぜひぜひ、他ジャンルではありますが、この『バッテリー』を文芸の平台でドーンと揃えてあげてください。ほんとにほんとに面白いんです。

 ちなみに、ながしまさんは文庫担当でも児童書担当でもなく、コミックの担当なんです。だから当然今後ながしまさんのところで始まる『バッテリー』フェアの売上は、ながしまさんの成績とは関係ないんです。これを愛と言わず、なんと言う。

 みなさん、ぜひこの半年、『バッテリー』で熱くなりましょう!(来年1月に最終巻が出るとのことです)

7月12日(月)


 健康診断の結果が届く。
 何の恐れもなく開封したところ見慣れぬ文字があるではないか。
 「C」脂質代謝。

 あわてて、総コレステロールの数値を見ると基準値を上回っていた。いつかこういう日が来るだろうと考えていたのだが、30代半ばで出たか…。ああ、たばこをやめてもダメだったか…。ついに偏食を治さなければならないときがやってきた。本日より野菜と魚を食べよう。かなりショックだ。

 調布のL書店さんを訪問し、実用書担当のTさんと『バッテリー』あさのあつこ著(文庫:角川文庫 単行本 教育画劇)の話。

 このTさん、1日1冊本を読むようなかなりの本好きで、しかも小さな頃から本に親しんで来た人だから、23歳という年齢が信じられないほど知識も深い。あさのあつこに関しても相当前から入れ込んでいたそうで、まあ、「おじさんは仕方ないですよね」と笑らわれてしまった。

 Tさん、今でもこの辺の子供向けというかヤングアダルトと呼ばれる本を読み続けているそうで、その理由は「いつまでも子供時代の気持ちを忘れないために」だそうだ。

 すっかり僕もその気にさせられ、Tさん曰く、あさのあつこ一番のオススメである『ほたる館物語』1~3巻(ジャイブ)を購入する。生まれて初めてこんなイラストの本を買ってしまったが、早速電車のなかで読み出すと、やっぱりあさのあつこはあさのあつこで、まっすぐなストーリーとキャラの立ち方が見事!

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 暑くなりビールがうまい季節。まあ僕自身は、未だちょっとゴタゴタを引きずっているので、飲み会への参加は自粛しているが、出版営業マンは、書店員さんとの飲み会が多い。

 それはもちろん友好を深めたり、情報交換の場としてとても大切なことだと思うのだが、その3回に1回をその飲もうと思っている書店員さんのオススメ本を買うことにしてみてはどうだろうか? 売上も上がるし、オススメ本から人間性もわかる。次回の訪問で感想を話せば、一挙両得というか、飲み会以上に友好を深められるのではなかろうか。

 いや実は僕、あまり深い意味もなく、ただただ読む本がないと、その場で書店員さんにオススメを聞いて購入しているのだが、そうすると本当に書店員さんがうれしそうな顔をされるのだ。そんな笑顔を見ていると、やっぱりこの人たちは本を売ることを愛しているんだなって実感できるし、こちらにも元気が出る。おまけに未知との本との出会いが待っている。

 どうだろうか? と書きつつ、こういうのはやはり経理が経費と認めてくれないとなかなか進まないだろう。いかがでしょうか? 経理部の皆様。

7月9日(金)


 日本橋丸善さんを訪問する。

 こちらの丸善さん、今年の秋に丸の内側に1700坪の新店を出す。1700坪ですよ、1700坪。誰に対して驚いているのかわからないが、この坪数の書店さんが一気に開店するなんてことは、そうそうないんじゃなかろうか? 2000坪の池袋・ジュンク堂さんでさえ、初めは1000坪ちょっとに増築したのだ。

 その棚詰め作業が7月末から始まるという。50万冊? いや100万冊? まったく想像もつかないが、とにかく棚詰め機械があるわけでないから、「人」がそれだけの本を棚に詰めるのだ。果たして、それはどんな景色なんだろうか。

 それにしても新規出店が多い。
 そして、そのほとんどがチェーン書店である。
 もう独立書店をオープンすることは、不可能な時代なのだろうか…。
 

7月8日(木)

 暑い、アツイ、アヅイ。
 とにかくほんとに暑い。

 いつから日本はこんなに暑くなったのか?
 僕が小さかった頃(ってもう25年も前なんだけど)は、30度を越える日が8月に数日あって、32度なんていうとみんなでビックリしていたような気がするのだが、ここ数年34度とか35度が普通になって、埼玉県民なんて38度という数字にもビックリしなくなってしまった。うーん、大丈夫なのかこの国は? しかも7月でこの暑さだ。8月はどうなってしまうのか?

 そんなことを嘆いていても、社員の誰一人として「今日は外に出ない方がいいんじゃないですか?」なんて優しい言葉をかけてくれる人はいない。営業部の机は南側の窓際に配置されているから、とても座っていられる状況ではないし、そういえば先週、事務の浜田が通販生活に助っ人及川を走られ『高機能サンシェード』とやらを買ってきたのだが、なぜか僕のところには設置してくれなかった。果たして今後設置してくれるのか、それとも…。泣く泣く営業へ。

 暑さの影響か、日中の書店さんも妙に空いているのが気にかかる。ただし店員さんに話を伺ってみると、確かに5時くらいまで来客数が例年より落ちていて、売上も悪いが、それ以降の時間帯にぐぐっと上がっていて、まあ例年通りになるんじゃないかとのことで一安心。いやでも、自分自身を顧みてみると、あまりの暑さで本を読む気にもならないし、雨も暑さもホドホドにしてもらいたい。

 ふらふらになって会社に戻ったら、事務の浜田がポツリと漏らす。
「なんか、杉江さんが、暑いです」

7月7日(水)


 七夕。
 朝「少しは良いことがありますように」と短冊に書いたら、妻にそんなことばかり言っているから良いことに気づかないのかもとつぶやかれ、確かにそのとおりだと気づく。顔を上げろ! そして前を向け!

 暑い。とても外回りできような気温ではない。
 しかし営業マンは外に出なければ仕事にならない。仕方がない、外に出る。うだるような暑さ。スーツを着ているのが、もう理不尽というより、アホに思えてくる。誰か法律で禁止してくれ。

 書店さんの中はクーラーが効いていて、まさにオアシスだ。このまま、ただただ涼んでいたいがそういうわけにもいかないし、書店員さんと話すのは楽しいことであるから、通常どおり営業をする。

 とある書店さんで、残念な話を聞く。
 それはとてもやる気があって、有能な書店員さんがこの秋で退職されるということ。本は好きだし売るのも大好きだけど、人生の区切りにちょっと別のことを始めることにしたという、ある意味、今時珍しい前向きだ退職だった。しかし、別れの悲しみはもちろん、その書店員さんの仕事ぶりにいつも影響を受けてきただけに、非常につらいものがある。

 出会い、別れ。その繰り返しばかり。この7年でいったい何人の人と出会い、別れてきたのだろうか。夕方会社に戻って、古い名刺入れを見る。

 皆さん、元気ですか?

7月6日(火)

 
 僕の前の前の前の代の営業マン、野口さんから荷物が届く。いつも野沢菜を送って来てくれるので、たぶん今年もと思いつつ荷物を見ると、届け先が僕個人宛になっているではないか? なんじゃ?とあわてて開いたところ、なんと「本の雑誌」の古い号がドーンと詰まっていたのである。いやはや、あひゃひゃ?である。

 同封されていた手紙を読んでみたところ、野口さん、この『炎の営業日誌』を読んでいて、僕が見本としても社内に残っていない古い別冊を古本屋で購入していたのを知り、ならば自分が持っている古い『本の雑誌』も、自分が持っているよりも、次の世代の本の雑誌スタッフの手元にあった方が良いんじゃないかと送ってくれたのだ。ほんとにほんとにこんな大切なもの、ありがとうございます。

 さっそくペラペラと10号やら15号やら、不定期刊の頃の号を読んでいると、その間に『本の雑誌 創刊10周年記念文集』というのが、挟まっているではないか? 何じゃこれ? こんな号というか文集の存在も知らなかったぞ!とあわてて取り出すと、いやはや本当に記念文集なんだな、これが。

 創刊当時から10年間の間に本の雑誌に在籍していた助っ人さんが、それぞれ本の雑誌との付き合いや思い出などをつづっているのだが、いやはやこの文集が出された約15年後にその本の雑誌社で働いている者にとっては、胸にこみ上げてくるものがある。

 事務の浜田なんて目に涙を溜めて「わたしたちが働いているこの小さな会社は、こんなにいっぱいの人の想いのなかにあるんですね」なんてことを声を震わせながらつぶやいていた。一瞬茶化そうかと思ったが、僕もまったく同じ想いで文集を眺めていたので、そうだねと素直に頷いた。

 その後、発行人の浜本が出社してきたので『本の雑誌 創刊10周年記念文集』の制作秘話を聞く。

「阿部くんというのが、出始めのワープロで一日中打ち込んでいたんだよ、かわいそうだったなぁ。いやそれでこれね、売る気なんてまったくなくてパーティで配ろうと思っていたのに、あれよあれよと購入希望が届いて、確か増刷したんだよ。良い時代だったなぁ。あれ? 俺、何書いてる? 『僕にとって本の雑誌が思い出になる日はいつかやってくるのだろうか?』だって。教えてやりたいね、この頃の自分に。結局やめられなくて、思い出どころか、二代目の発行人にさせられるって」

 そんなことを話していると、いつでも真っ黒な編集長椎名が顔を出し、輪に加わる。そして掲載されている目黒や浜本の写真を見つめ「うわー、気持ち悪いなぁ、見たくないなぁ」とつぶやき、逃げ出してしまった。椎名さん、あなたもずいぶん若いです…。

 大騒ぎが終わり自分の席に着く。
 向かいに座っている浜田がつぶやく。
「あの頃、会社に入っていたら楽しかったですかね?」
「うーん、どうだろう、今以上に金も貰えないしなぁ」
「でも、みんなすごい楽しそうですよね」
「……」
「あっ、自分たちで楽しくしなきゃいけないんですよね、今は私たちが当事者なんですから。もっともっと楽しい雑誌にして、楽しい会社にして。わたしがんばります。杉江さんもがんばってください」

7月2日(金)

昨日の横浜といい、本日の立川といい、街中はバーゲンですごい人混みだ。いったいぜんたいこの鼻息を荒くした女性のすべてが、平日の日中に好き勝手に時間がとれる人なんだろうか? 女性というのはもしかして、僕がサッカーのために会社を休むように、バーゲンのために会社を休んだりするもんなんだろうか?

 いやはやとにかくこの様子を眺めていると不況なんて大嘘としか思えない。ショップによっては外まで行列ができているほどで、レジも長蛇の列。しかし、それも書店さんに着くまでの話。バーゲンとは無縁の本や雑誌の売り場は、いつもとそれほど変わらぬ人混みで、誰も本の奪い合いなんてしていない。あまりの違いに少し寂しくなる。出版業界もなにかできないか…。

 本日一番ビックリしたのは吉祥寺のパルコ。ここには元々パルコBC(現・リブロ)が、書店として入っているビルなのだが、いつの間にかヴィレッジ・ヴァンガードがオープンしているではないか。同じテナントビルに2軒の書店が同居するなんて…。まあ、ヴィレッジ・ヴァンガードはセレクト系の書店さんだから、まるまるバッティングするわけではないだろうが、こんなことが今後は増えていくのだろうか?

 またもうひとつ気になったのは、書店員さんにやたらと渡すようになって来ている新刊のゲラのこと。もちろん新刊(ゲラ)を読んだ上で、発注数や販売展開を考えるのはとても良いことだろ思うのが、いくつかの出版社はゲラを読んで感想を送った書店さんに対して、初回の指定注文がつくようにしているらしい。そうなるとさすがに「つまらない」という感想を送るわけにもいかず、それなりのコメントを書くようになってしまうこともあるだろう。

 そのようなコメントがもし広告等で使われるようなってしまったら、せっかくここまで気づいてきた書店員さんとお客さんの信頼関係が壊れてしまうのではないか。うーん、どうだろうか…。

7月1日(木)

 悲しみを抱えているのは何も僕ら家族だけでなく、誰だって悲しみを抱えて生きているわけだから、しっかり前を向いて歩いていかなければならない。昨日も営業中に励ましの言葉をかけて頂いたが、人の優しさに胸が熱くなる。ありがとうございます。でも大丈夫です。しっかり仕事します。そして家族を支えていきます。

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 先週末で退職していった単行本編集の金子は、5日の休暇を挟んで、本日から新しい勤め先に出勤しているはずだ。今頃、ぎこちなげに自己紹介をして、新しい会社のルールを教わっているのだろうか?

 今度はきちんとした9時5時のサラリーマンになるはずで、今までみたいな昼過ぎ出社終電帰り(あるいは徹夜)とはまったく違う生活に慣れるまでは大変だろう。しかし新天地でも、がんばって欲しい。そして僕ら後輩がしっかり「本の雑誌」の看板を守って行きますので、暖かく、いや厳しく見守ってください。

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 昨日、半年前にこの業界を去っていった営業の大先輩Aさんと久しぶりに顔を合わせ昼食をともにした。その際、Aさんに最近どんな本が売れているの?と聞かれ、思いつくまま書名をあげたところ、何だか半年前とあんまり変わってないなぁと苦笑されてしまった。

 そんななか、気合いを入れてというか、かなり戦略的にベストセラーへの道を進んでいるのが『グッドラック』アレックス・ロビラ著(ポプラ社)だろうか。書店さんへの事前の営業もかなり本気だったようだし、出版後の広告展開もすごい力の入れようだ。今現在各書店さんのベスト10に入っているようだが、これからどこまで売れるのか? あるいはベストセラーが戦略的に作れるものなのか? ちょっと注目している。

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 昨日廻った書店さんでオススメは?と聞いたところ、二人の書店員さんが同じ本を挙げた。それは『バッテリー』あさのあつこ著(単行本:教育画劇 文庫:角川文庫)で、実はこれ僕もただいま、というかここ5年くらいでナンバー1の本だと思っている。

 しかししかし、そんなことを前日また別の書店員さんに電話で話していたところ「目黒さんも、杉江さんも、遅すぎます!」と叱られてしまった。僕も目黒も文庫が出て初めてこの小説、この著者に気づいたのだが、その書店員さんは単行本時代にしっかり読み込み、平積みして販売していたそうなのだ。

 その書店員さん、2巻の文庫の帯で目黒が書いているように「猛烈に反省してください」といっていた。

 『バッテリー』を未読の方。
 一緒に「猛烈に反省」しませんか?

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