開幕5連勝をかけたこの日の朝、つい興奮していて、メシを食いながら妻に話しかけてしまったのが失敗の元。
「優勝できそうなんだよ、優勝」
「えっ? あっ、カップ戦じゃなくてリーグ戦でってこと?」
何だか嫌な言い方だ…。それでも我慢して会話を続ける。
「そうだよ、セカンドステージだよ、今4連勝中なんだよ」
「あっ、そうなの?」
「そうなの?って、ほんとに知らなかったわけ?」
旦那が毎週毎週赤いユニフォームを着て、雨にも負けず、風にも負けず、ときたま富士山に負けつつ、スタジアムに通っているというのに、この妻は、サッカーに関心がない。
関心がないどころか、コイツはトンデモナイ奴で、かつてJリーグが発足した当時、なかなか取れないチケットを命がけで手に入れ、その頃はまだ結婚していなかったから、エサのひとつとしてレッズ戦に連れていったことがあったのだ。そして試合が始まり十数分。何気なく隣をみたら、なんとコイツが、ぐっすり寝ていたのである。あのうるさい大声援の中で。
あまりの驚きに瞬間呆然としてしまったが、さすがに神聖なるレッズ戦の最中に睡眠なんて許せるはずはなく、肘鉄で起こした。するとあくびをかみ殺しながら漏らした一言を僕は一生忘れない。
「だって、パスがつながらなくてつまらないんだもん」
思わず「その通り!」と叫びそうになってしまったが、いやはやそれ以来、妻をサッカーに連れて行かないようにしている。
さて今朝の会話の続きだ。
「お前、もしかして何も知らないんだろ?」
「えっ? 知ってるって…」
「じゃあ、神様エメルソン様は?」
「外人でしょ?」
帰化する可能性はあるけれど、エメルソンなんて日本人はいないだろう。
「じゃあ、達也は?」
「達也って下の名前じゃわからないわよ」
「だから田中達也だよ」
「ああ、とおる君がいつだか家具の大川で会ったって興奮していた人?」
当たっているけど、サッカーとまったく関係ない。
「売り出し中の、山瀬と長谷部は?」
「それは難しすぎるね」
「じゃあ、山田は知ってるだろ」
「ああ、新人ね」
それは何年前の話だ。
「じゃあ、三都主は知っているだろ? 日本代表なんだからさ」
「三都主? あんたそれは狡いじゃない。他のチームの選手を言ってひっかけ問題出すなんて」
結婚7年目にして初めて、わたくし声を荒らげてしまいました。
「おい! コラァ! 三都主はレッズの選手じゃ! そんなんも知らんで、お前は浦和に住んでるんか!!!」
もちろんその後、家を叩き出されました。
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家を叩き出されても、僕にはスタジアムがあるから無問題。ここさえあれば、他は別にどうでもいい。しかも現在は、負ける要素のほとんどないレッズだから、幸せ以外の何物でもない。
さて本日の敵は、アルビレックス新潟だ。こちらも熱心なサポーターが多く、埼玉スタジアム周辺でやたらとオレンジ色を目にするが、思わずその姿に「ありがとう」とつぶやいてしまった。やっぱり敵サポがいないと面白くないのだ。新潟の皆さん、一緒にJリーグを盛り上げていきましょう。
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試合開始してすぐ、ちょっと嫌な予感がした。
当然と言えば当然なのだが、新潟が妙に引いていて、エメも達也も攻めづらそうだったのだ。今までのレッズだとこうなると攻め焦って……なときが多かった。これはマズイかも、なんて考えていたら、なんと信じられないことに大苦手のセットプレーから新加入のネネがあっけなくゴールを決めてしまうではないか。オイ!!!! しかも次の2点目もセットプレーからの得点で、いやはやどうしたレッズ?
相変わらずレッズのサッカーは素晴らしい。
何が素晴らしいって、前回も書いたけれど、その献身的な動きから生まれる守備が素晴らしいのだ。そのなかでも山瀬と啓太のオリンピック落選組の信じられない運動量とパフォーマンスは驚愕に値する。山本昌邦よ、このことしっかり「備忘録」に書いておいた方がいいぜよ!
DFラインの手前でボールを奪えば、その分早く前線のエメや達也にボールが渡せるわけで、だから相手のDFも結果として後手後手に回ることになる。。ゲームの主導権を完全に握り、レッズの選手は気持ちよさそうにサッカーをしているのが印象的だ。
新潟のオウンゴールも手伝って、前半終わって3対0。観戦仲間の某取次店勤務Yさんが叫ぶ。
「俺たちをもっとイカせてくれぇ~」
Yさん、スミマセン。僕はもう前半のサッカーだけで十分昇天しておりました、ハイ。
そのYさんの願いが叶ったのは、後半始まってすぐの神様エメル尊のゴール。信じられない足の振り。Jリーグでエメルソンのプレーが見られる、これってスゴイ幸せなことなんじゃなかろうか。4対0。
最後はいつもの悪い癖で1失点してしまったが、まったく危なげのない勝利で5連勝。単独首位。残り10試合、この短い2ステージ制では、1試合も負けて良い試合はない。「負けないよ」ではなく「負けられない」のだ。
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9時30分。家に着くと真っ暗。逃げられたかと焦って部屋に飛び込むと、すでに布団を敷いて眠っていた。あーあ、今ならパスも繋がるし、興奮する試合を見せられるのになぁ…。