11月30日(火)
朝から机に向かって様々な資料を開きつつ、悩みに悩む。しかしその表情は事務の浜田に「気持ち悪い」と指摘されるほどニヤけていて、まあ幸せな悩みである。
悩んでいるのは、本日印刷会社に発注する予定の『増刊 おすすめ文庫王国2004年度版』の初回刷り部数。この増刊も6年目ならある程度実績もわかっていていつもなら悩む必要もなく発注していたのだが、なんと今年は初回注文〆切の10日も前に、昨年の初回注文部数を越えてしまったのだ。集計結果が出た時「これから10日間休んでいいか?」と荷物をまとめてしまったが、会社というものはなぜか常に昨対を100%以上越えることを目標にしているそうで、そういうわけにはいかないらしい。くそ!
それにしても年度ものの出版物は、通常年を重ねるごとに落ちていくものが多く、こうやって上向きになるのは珍しいのではなかろうか。しかし初回注文が増えた理由はしっかりあって、前年の2003年度版の実売があがっているのである。
うう、去年の今頃、たぶんこの日誌でも書いたと思うけど、編集の金子とかなり苦労して作った成果が、こうやって1年経って数字が出てみるときちんと表れているんだ。金子はすでに退職してしまってこの場にいないから、一緒に手を握り合って喜ぶことが出来ないのがとても残念だけど、とにかく朝からそのことがうれしくてニヤついていたのである。
さて今年だ。今年はその相方・金子が退職しちまって、新しい相方・荒木と作っていかなきゃならなくなった。いや荒木も優秀で編集を任すのはまったく問題ないのだけれど、何せ金子と性格が180度反対で、それは企画の打ち合わせをしているときに顕著に表れる。例えばこんな感じ。
<金子の場合>
杉江「こういう企画思いついたんですけど…(資料を出しつつ、企画を話す)」
金子「ケッ」
杉江「ダメ?」
金子「ダメ!」
杉江「どうして面白くない?」
金子「面白くない! 杉江君さぁ、僕のところに持ってくる前に一晩寝かせて考えてくれない?」
杉江「えっ? これ3日前に考えたんだけど」
金子「……。じゃあさ、小出しに持ってこないで、みんなまとめて持ってきてよ。そしたら50個に1個くらい使えるのがあるかもしれないかな」
<荒木の場合>
杉江「あのさ、企画思いついたんだけど」
荒木「いいっすねぇ」
杉江「まだ話してないんだけど」
荒木「ハハハ」
杉江「でね。(資料を出しつつ、企画を話す)」
荒木「いいっすねぇ、最高っすよ。いやー笑っちゃう」
杉江「ほんと?」
荒木「ほんとですよ」
杉江「じゃあ、こんなのは?」
荒木「うわー、最高っす。それ行きましょう!」
この極端な違いにどう対応したら良いのかわからない。金子は金子で僕のようなバカ野郎にはちっと小難し過ぎたし、荒木は荒木で僕以上にインチキくさい。うーん、編集者って普通の人いないのか?
まあ、どんな相手だろうととにかく面白い本が作れればいいわけで、秋から何度も荒木と打ち合わせしてきた『おすすめ文庫王国2004年度版』も、あと20日ほどで出来上がる。
目玉の企画のひとつは、なんといっても『文庫めった斬り』で、いやはや『本の雑誌』の夏の特大号でやって話題を集めた『出版社めった斬り』より恐ろしい座談会になってしまったではないか。果たして僕と荒木に2005年がやってくるのだろうか?
そんなことより刷り部数だ。
出版社にとってはお金と等しい、注文短冊(書店さんからの注文書)の束を何度もめくりながら熟考。
そしてしっかり部数を載せて発注する。
荒木よ、頑張るぞぉ!