まもなく退職されるという連絡をいただいた、銀座A書店Oさんを訪問。
いまだまったく心の混乱は収まっておらず、何を話したら良いのかもわからないまま、いつもどおり棚差ししていたOさんに声を掛ける。すると「杉江さんには殴られるんじゃないかと思って…」を身を固くされてしまったが、確かにそのとおり、これが学校だったり部活だったりしたら殴ってでも止めたであろう。それくらい残念で、そして同志だと考えていた。
Oさんには本当にお世話になった。
仕事に関してはとっても厳しい人で、自信のあまりない新刊を持って行くと、その自信のなさがしっかりバレてしまい思い切り突っ込まれた。しかしその逆に良い本を作ったときは、まるで自分の本のようにかわいがってくれ、そしてしっかり売ってくれた。
だからいつも新刊のチラシができると、一番に銀座に持って行った。Oさんの反応をみて自信を持ったり、あるいは反省したり、そしてそれを原動力にしてその後の営業に向かったのである。
Oさんに認められる本を作りたい、営業したいと考えていたように思う。
だから良い本ができた時に銀座に行くのは本当に楽しかったし、またその本が売れてOさんから電注をもらった時は、まるで犬のようにしっぽを振りながら、直納に向かったものだ。その逆も当然あって、そういうときは銀座のお店に入るのが本気で恐かった。この新刊なかったことにできないかなんて考えたこともあるが、でも、ほんと「仕事している」って気持ちを心底味合わせてくれる書店員さんのひとりであった。
また「本屋大賞」のときも、Oさんは実行委員ではなかったけれど、影で必死に支えてくれた。当然投票もしてくれたし、つまらない批判が起こったりしたときは、僕以上に怒ってくれた。そして発表会には仕事で来られなかったけれど、夜遅く「お疲れ様でした」と電話してきてくれたときは涙が溢れた。
ああ、書いているうちに思い出がもくもくとわき出してきて止まらない。金城一紀さんや竹内真さんを紹介してくれたのもOさんだった。そうOさんは若手の作家さんをしっかり見ていて、面白い本が出たときにはドーンと勝負し、必死になって売っていたっけ。
ああ、やっぱりダメだ、殴ってでも止めたい。
けど、同い年だから、辞めたくなる気持ちはすごくわかる。僕だって…。
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これはOさんの話ではないのだけれど、他の同い年の書店員さんとも話していて思わず深く頷いてしまったのだが、本当に今の30代は、会社のなかでツライ立場にいることが多い。それはなぜか多くの組織で40代が消えていて、50代の管理職の下がすぐ30代になっていて。それだけでもツライのに、この30代はまさに不況の中、就職した年代であり、その後はその不況がもっとどん底に陥ってしまい新入社員採用なしなんて会社ばかりなのだ。
となると上もおらず、下もおらず、結局、管理職的な仕事もしつつ、現場の仕事もしなければならない状況に追い込まれる。しかし、その仕事量がツライのではない。その中途半端さがツライのである。どちらの仕事も100%できない、その精神的な疲労ですり切れてしまうのだ。
ああ、こんなことをここで書いても仕方ない。けどこの業界だけ見ても、そんな30代の働き盛りがどんどん消えていっているのだ。特に書店さんの現場にその傾向が強く、まあ、それは結局、今の出版の仕組みの無理が、一番弱いところに出ているってことだろう。
書店員さんをクローズアップするのは良い。しかしそれならばこの状況をもっとしっかり見つめて、もう1歩進めなければならないのではないか。それができなければ、書店員という本来経験が物を言う仕事が、単なる使い捨ての仕事になってしまうのではないか。
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結局、Oさんとの別れは踏ん切りがつかず、また15日に顔を出しますといって、お店を後にした。