WEB本の雑誌

9月27日(水)

 通勤読書は酒飲み書店員大賞候補作『にぎやかな湾に背負われた船』小野正嗣(朝日文庫)。これが予想以上に面白く、ぐいぐい読み進む。候補作で未読なのはあと1冊。どうにか投票〆切に間に合いそうだが、しかしどれを推すかは相当悩みそう。本屋大賞の二次投票ってもっと大変でもっと面白いんだろうな、それを少し実感する。

 来るはずの連絡が来ず、しばし落ちこむ。来週だ、来週だ。

 本日校了の編集部を覗くと、すでに編集後記が出来ているではないか…って当たり前なんだけど。その浜本の原稿をのぞき込むと、てっきり封印していたのかと思っていたブログの話題。なんだ公表していいのか。

 というわけでトーマス浜本改めブロガー浜本は、こちらで(http://blogs.yahoo.co.jp/honzatu1976)で『「本の雑誌」発行人の活字業界どたばた日記』なんてのを連載しております。皆様ぜひ覗いてやってください。

 なんてことを書いていたら編集長の椎名さんがやってきて10月の新刊『ONCE UPON A TIME』の校正。「うんうん、いいぞいいぞ」著者兼編集の椎名さんは満足げにゲラを眺めていた。確かにページを埋めるモノクロ写真は、椎名さんの小説同様の世界観が出ていて、じっくり見つめていたくなるものばかり。思わず「いいですね」なんて呟いたら「炎の営業でしっかり売ってくれよな」なんてことを言われてしまった。というわけで、椎名誠直筆サイン本予約の〆切は、10月12日(木)になってますので、よろしくお願いします。(http://www.webdoku.jp/kanko/yoyaku_shiina.html)
 

9月26日(火)

 通勤読書は『ボトルネック』米澤穂信(新潮社)。
 こちらは『一瞬の風になれ』佐藤多佳子(講談社)とは、別の意味で僕の周囲に包囲網が出来ていた。「たぶん杉江さんはダメだと思うけど面白い」。いったい何人の人にそういわれたことか。そこまで言われたらまずにおれないだろうというわけで、「いざっ!」と覚悟を決めて読んだのだが、普通に楽しめた。青春ノワール?

 営業は小田急線。しっかし僕はアホだ。調べもせずに飛び出すから、開いていると思っていたあおい書店町田店さんは28日オープンだし、三省堂書店成城店さんも29日オープンで、結局新規書店さんは覗けずじまいではないか。そういえば丸善川崎ラゾーナ店も28日オープンで、関東圏は新刊ラッシュ同様、新店ラッシュだ。まあ、その影でニュースにもならず閉店されていく小さな本屋さんが山ほどあり、これでいいのか?という思いは常にある。

 それにしても町田の書店さんの変遷は面白い。今回あおいさんが入るお店は確かかつて三省堂さんが入っていた建物で、その三省堂さんが今入っている建物は、昔、有隣堂さんが入っていた建物ではなかったか。でも山下書店さんがあったところは書店さんじゃなくなってしまったな。

 会社に戻ると鉄平が残業して『助っ人クロコダイル日誌』の原稿を書いていた。
 僕も鈴木先輩の「なんですかこの会社はっ!」 支持に1票。(9月25日分)

9月25日(月)

ハァ~。朝からため息の連続。それもこれも昨日やったサッカーで人生で3本指に入るはずのボレーシュートを外してしまったからだ。嗚呼。

相棒とおるからあんなドンピシャなセンターリングが上がることは今後ないだろうし、そのボールに僕のへなちょこ右足がキレイにヒットすることもないだろう。どうしてボールは、バーの下に当たらず、上に当たってしまったのか? 悔しい、悔し過ぎる。

ため息ばかりついていてもしょうがないので、この悔しさを仕事にぶつける。

錦糸町のD書店さん訪問すると、ここにもいました、『一瞬の風になれ』佐藤多佳子(講談社)の3巻待ちのつらい人が。文芸担当のSさんもすでに1,2巻を読み終わっていて「早く読みたいですよね~」なんて遠い目をされる。わかります、その気持ち。

 このSさん、『文芸担当者シロー君の読書感想文 これ読みました! 桜通信』という店頭配布コピー誌を作られているのだが、その今月号(16回目)で、すでに『一瞬の風になれ』を取り上げていた。

 そこでは「『スラム・ダンク』『YAWARA』『キャプテン』辺りにハマった人、是非!」と書かれているんだけど、確かに僕のベストマンガは『キャプテン』と『プレイボール』だ。そういう人はゼヒゼヒ!

 その後、亀戸Y書店Kさんを訪問すると「ゴメンね、いつも1冊で。」なんて謝られるが、そんなことはない。これだけ新刊が出ているなかで、1冊置いていただけるだけで感謝だ。

 そりゃ面陳、平積み、多面積みがいいかもしれないけれど、お店に合う合わないはあるし、そもそもベストセラーになるような本も作ってないし、ほんと欲しいと思ったお客さんにしっかり届けられればいいんだ。そのために1冊でも置いていただけるというのはとても大きいのだ。ありがとうございます。

 ポツポツと総武線を途中下車しつつ、本日最後の営業先は船橋。A書店Hさんはご不在の様子で残念無念。しかしT書店Uさんは、ここに来ての新刊ラッシュに大わらわ。

「『狼花 新宿鮫IX』大沢在昌(光文社)に『愚者と愚者』<上・下>打海文三(角川書店)に『ブルー・ローズ』<上・下>馳星周(中央公論新社)。もうすぐ『邪魅の雫』京極夏彦(講談社)が出るし、うちみたいな小さな店は置き場所がなくて大変ですよ」

 毎年のことだけれど、この9月の決算&各種ランキング狙いの新刊ラッシュは、どうにかならないものなんだろうか? 読者はかなり重なっているだろうし、8月に少しずらせば棚枯れの8月がもうちょっと活気づくのにって、たぶん去年も同じこと書いているんだろう。

 ちなみにUさんは『一瞬の風になれ』は3巻出てから一気読みするのを楽しみにしているとか。そのときは朝まで語り合う約束をして本日の営業終了。

9月23日(土) 炎の営業日誌 2006.018

金曜の晩。テレビ埼玉の浦和レッズ情報番組「GGR」を観ていたら、隣でカレンダーを片手に妻が呟いた。

「幼稚園の運動会なんだけど…」

聞こえないフリをして、おお、ワシントンは大丈夫だけど、伸二がダメなのか?なんて呟いていたら、テレビを消され、顔をわしづかみされ、正対させられた。

「幼稚園の運動会があるのよ」
「だっ、だからそれは去年もいっただろう。俺は、娘が大好きだけど、別に娘が走ったり、踊ったりするのには興味がない。生きていてくれたらそれで充分なんだよ。うーん、なんて良い親なんだ、だろ?」
「結局、エメルソンの走りの方が大事ってことでしょ」
「アホ、エメルソンはオイル王のところに行っちゃったよ。今はワシントン!」

 言うべきことは言っておかないと、雪だるま式に「レッズ行けない理由」が増えていってしまう。そういやレッズサポ仲間のS出版ヤタベッチ改めヤタ公は「妻はさぁ、子供二人欲しいっていうけど、二人もいたら絶対運動会とかでレッズいけない可能性増えるじゃん。だから俺はひとりで充分」なんて力説していたっけ。そうだよね、そうだよね。うちは二人いるけど、やっぱり運動会や父兄参観よりレッズだよね。

 僕やヤタ公からしてみると「普通」のことが、どうして世の中では通用しないんだろうか? つうか、なんで世の中そんなに子供の運動会で盛り上がるの? 大して早くないかけっことか見て何が面白いの? それだったら坪井の爆走の方がずっとカッコイイし、闘莉王の怪しげな走りも最高だ。うーん…。

「大丈夫、安心しなさい。運動会は8日だからジェフ戦の後だし、バザーは28日で、これはジュビロ戦と重なるけど、アウェーだからね。良かった良かった。幼稚園最後の運動会にお父さんがレッズで来られないなんて娘に言わないで済んで。とにかくこの2日は開けておいてね。」

 そのカレンダーを覗きこむとまるでぼくの手帳とそっくり。レッズのスケジュールが書き出されているではないか。

「お前、何? レッズ戦のスケジュール知ってたの?」
「え? それはそうよ。あんたこの前さいスタって嘘ついて、川崎に行ったでしょ? あの日から怪しいと思って調べているのよ。だからこれからこっそり京都とか名古屋とか行けないのよ。わかってる?」
「ハ、ハイ…」

中学、高校時代、尾崎豊の歌を聴きまくり、いつも親友のシモザワと「自由になりて~」なんて叫んでいたが、今思い返せば、あの頃なんて自由だったのだ。


★   ★   ★


 優勝するための第一の山場・清水エスパルス戦は、ワシントンのゴールと我らサポーターの力によって勝利した。今日は選手、サポーター共に気合いが入っていて、まさに一緒に闘っていた。これから毎試合これくらいの緊張感をもって試合に望まないと去年の二の舞だ。

 その去年だったらこういう大切な試合で負けていた。そのことを考えると今日の勝利は大きな壁を突き破ったことになるのだろうが、何だか今の浦和レッズはイタリアサッカーのようで、イマイチ攻めに迫力がない。いや闘莉王を中心とした守りには猛烈に迫力があって面白いんだけど。うーん、難しいなぁ。とにかく勝とう、勝ち続けよう!!

9月22日(金)

 昨日帰りの埼京線で読み出した『一瞬の風になれ 1』佐藤多佳子(講談社)。帰宅し、娘と息子を寝かしつけるのにしばし中断した以外、もはや本を置くことができず、久しぶりの一気読み。ストーリ自体はまだたいして動き出していないのに、とにかく人物造形が見事で、もうこの物語から目を離すことが出来ない。

 僕、面白本を読んでいるとゲロを吐きそうになる。何て言ったらいいんだろう。その物語の世界から現実世界にうまく戻って来ることができず、気持ち悪くなってしまうのだ。汚い表現でなんだけど、『一瞬の風になれ 1』はゲロゲロの傑作。
 
 そして何と運の良いことか、本日営業中に『一瞬の風になれ 2』がちょうど新刊台に並べられ出したではないか。思わず購入しようと思ったが、ぐっと我慢。この本を一番最初に教えてくれた新宿K書店Hさんのところで買わなければ…。くう、このしばしの時間すら苦しいぞ。

 そしてやっと営業がひと段落付いたので駆け足でK書店さんに向かう。ほんとはこっそり買おうと思ったのだが、Hさんの同僚Iさんに見つかってしまい、思わず苦笑い。そしてHさんと『一瞬の風になれ』談義。そうこの『一瞬の風になれ』、読むと誰かと語り合いたくなるんです。

 そのHさん、手書きの大きな看板を作られたそうで、これから店頭で熱烈プッシュされるとか。いい光景だなぁ。1冊の本を売るために一人の書店員さんが創意工夫する。そしてその本をお客さんが手に取り、新たな感動が生まれる。直接感謝されることはないかもしれないけれど、本と出会う場をしっかり作られている書店員さんはなんて素敵なんだろう。

 その2巻を読み出したのが、やはり帰りの埼京線のなか。昨日同様、娘と息子を寝かしつけ一気読み。うぉー、これはやっぱり傑作だぁ! 今年のベスト級(北上次郎)どころでなく、これは今後何度も読み直すであろうオールタイム級のベストなのではなかろう。

 僕自身ちょっと斜に構えて読み出したのだが、たんなる青春モノなんて思ったら大間違い。『バッテリー』同様、ぶっとい魂がこの物語には入っている。そう『バッテリー』読者は必読で、そうでない人は『バッテリー』と『一瞬の風になれ』をすぐ読むべし。でもでもほんとゲロどころでなく、胸が苦しくなるほど愛おしい小説が、今、生まれようとしているのだ。

 ああ、3巻の発売が待ち遠しい。

9月21日(木)

 先週、有隣堂藤沢店の加藤さんにお会いしたとき「早く読め~」と脅迫されたのが『一瞬の風になれ 1』佐藤多佳子(講談社)。今週、御茶ノ水のM書店Yさんを訪問したときに「杉江さん全巻出るまで読まないのよね、ふふふ」なんて言われたのも『一瞬の風になれ』。渋谷B書店Hさんが「これをいかに売るかが私達の闘いですね」といったのも『一瞬の風になれ』。元々発売されてすぐに、新宿K書店Hさんが、レジから飛び出し追いかけてきて「絶対読んで」と大推薦されていたのだ。僕の周囲には『一瞬の風になれ』包囲網が完全に出来上がっていた。

 でもでも読めないのだ。なぜなら巻数モノはやっぱり全巻揃ってから一気読みしたいではないか。というよりそんな面白そうな本を途中でストップさせられ、次巻発売まで1ヵ月待てなんて耐えられるわけがない。あまりに逆上して版元に火を付けにいったりしたら洒落にならんではないか。というわけでこの1ヵ月どんなに良い噂を聞いても手に取らず、営業中もなるべく新刊平台の『一瞬の風になれ 1』を見ないようにグッと我慢してきたのだ。

 ところが、その『一瞬の風になれ 1』が、なぜか昨日会社に戻ったら、僕の机の上に置いてあるではないか。何で?

 するとのんびりっち藤原が、すすすっと近寄ってきた。

「スンマセン。本来なら『文庫王国』の相談料で焼肉1回、無くした原稿発見で焼肉以上1回、杉江さんに奢らなきゃいけないんですけど、大きな声で言いますが、金もなく、ロト6も当たらずで、これで勘弁していただけませんか?」

 お前なぁ、そりゃうれしいよ。買おうと思っていた本をプレゼントされたんだから。でもな、その本は今、読んじゃいけない本なの。お前、悪口ばっかりだと思ってこの日記読んでねーだろ? いや読まなくてもいいけど、社内でも散々騒いでいたんだから気付よ。これ、最高で最低のプレゼントなんだよー。

 手元にあって読まない、なんてことが出来るほど意思が強いわけがない。
 ついに禁を破って『一瞬の風になれ 1』を読み出してしまったのである。

9月20日(水)

 通勤読書は、雑誌2誌。『新潮45』と『小説トリッパー』。

 買い物や整形している頃の中村うさぎにはほとんど興味がなかったのだが、『女という病』『私という病』(共に新潮社)あたりから猛烈に気になりだした。そしてこの『新潮45』の「続・セックスをお金で買ってみました!アイタタ篇」を読んでぶっ飛んだ! 今これほどまでに自意識や自己と向かいあっている人は、いないのではないか。あるいは女性、男性の性と真っ正面から闘っている人は、いないのではないか。うーん、すごいの一言。

『小説トリッパー』には発行人の浜本のインタビューが掲載されている。「本屋大賞の真実」。何を話すかとても心配だったのが、かなりまともで思わず見直してしまったではないか。何だかなぁ…。写真写りといい、原稿といい、ホンモノよりも良く見えるのが浜本のズルイところだ。

 なんてことを出社後事務の浜田に話したら、中村うさぎに興味津々。読ませてやったら大興奮で、僕同様、中村うさぎを見直した様子。おまけに『新潮45』に惚れてしまったようで、毎月定期購読しようかな、だって。恐ろしい。

★   ★   ★

 昨日訪問したお茶の水のM書店Yさんから「『書店風雲録』売れているよ! みんな『書店繁盛記』と一緒に買っていくよ~」なんて報告を受けた。売れているのはとても嬉しいのだが、何だか複雑な気分。やっぱり本の雑誌社の販促より、ポプラ社さんの方が上…か。うちの本には気づいてくれなかったのか。だって営業ひとりだし、広告費もないし、仕方ないかな。

 なんてしばらく落ちこんでいたのだが、もしやこの3年で田口さんの知名度も書店に対する興味も増えたのではと、とても調子の良いポジティブシンキングを発見。そうだよそうだよと思い込むことにする。ひとり営業は、というかチビ会社の社員はポジティブじゃないとやっていけないのだ。

 複雑な気分といえば、その『書店繁盛記』の出版記念パーティで名刺交換させていただいた白夜書房の営業マンKさんとの会話。Kさん、この日記を読んでいただいているようなのだが、僕の年齢が35歳だと話したら、相当驚かれていたのだ。「もっと上だと思ってました」。そういえば高野秀行さんにお会いしたときもそう言われたし、初対面の書店員さんにもっとデカイ人だと想像していたなんて言われたこともある。

 うーむ。かなり気を遣って書いているつもりなんだけど、やっぱり偉そうな文章になってしまっているのだろうか。これは反省しないと。

 ちなみにわたくし杉江由次は、35歳でチビで薄毛でとってもチキンで人見知りの弱弱野郎で、今日も事務の浜田から「サボってる暇があったら『ku:nel』と『Arne』買ってきて」と頼まれ、赤面しつつその2冊を買って帰ったほどのパシリです、ハイ。

 しかし『新潮45』と『ku:nel』と『Arne』を同じ日に読むって、どういう神経なんだろう。

9月19日(火)

 祝日のせいで、営業する時間が足りない。というわけで3連休明けながら、直行。

 通勤読書は、『いらっしゃいませ』夏石鈴子著(角川文庫)。今週から読書は完全に第2回酒飲み書店員大賞推薦作シフト。ただいま8作中2作読了で、あと10日で6作読まなければならない。これがいつも自分で読んでいる本なら何でもないのだが、読み慣れていない作家の本となると意外と苦戦する。だったらもっと早く読んでおけば良かったのにと思うが、それは夏休みの宿題と一緒だ。

ちなみに第2回酒飲み書店員大賞の推薦作はこの8冊。
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『お母さんという女』益田ミリ(光文社知恵の森文庫)※浅野書店チーム推薦
『笑う招き猫』山本幸久(集英社文庫)※旭屋書店チーム推薦
『にぎやかな湾に背負われた船』小野正嗣(朝日文庫)※紀伊国屋書店北千住マルイ店三輪さん推薦
『いらっしゃいませ』夏石鈴子(角川文庫)※三省堂書店千葉そごう店内田さん推薦
『かび』 山本甲士(小学館文庫)東西書房仁礼さん推薦
『花の下にて春死なむ』北森鴻(講談社文庫)ときわ書房チーム推薦
『日本ぶらりぶらり』山下清(筑摩文庫)堀江良文堂書店高坂さん推薦
『ハイ・フィデリティ』 N・ホーンビィ(新潮文庫)本の雑誌社杉江推薦
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 果たしてこの中から、次なる『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫)が生まれるのであろうか? ってこんな遊びを喜んでくれるのは高野さんくらいなのではなかろうか…って高野さんが喜んでいるとは限らないのだが。


 その酒飲み書店員の事務局長である、良文堂の高坂さんを訪問すると「何冊読んだ? 俺、まだ3冊残っているんだよ」と苦しそうに話される。とても自分はあと6冊も残っているなんて言い出せず、他人ごとのように「頑張ってください」なんて言ってしまった。とほほほ。

 その高坂さん先日取次店さんの広報誌から取材を受けたそうなのだが、そのとき取材者が「いまだに本を鮮度で売っているお店が多くて」と話されていたという。

 鮮度で売るというのは、例えば文庫の場合、今月の新刊、先月の新刊、先々月の新刊をただ並べているだけ、ということらしいのだが、確かにそれではお客さんも楽しめないだろう。

 もはや文庫に限っては新刊も既刊もあまり関係がなく、面白いかどうかを上手に伝えることが大事なってきているように思われる。そしてそういう棚づくり、売り場づくりが出来るかどうかが売上に大きく関わってくるだろう。

 そういえば先日お会いしたとある書店員さんは「良い時代になったよねぇ。出版社が本を出荷してくれないなら、別の本、売れば良いんだから」なんて話していたな。

 全部が全部そうではないだろうけど、確かに売り場の展開次第で、自分たちの売りたい本が売れるようになったのだから、変に世間一般の売れ行き良好書に惑わされることはなくなったかもしれない。

 うーん、これは版元営業にとってみれば、ある意味手強くなってきているわけで、その書店員さんは確か「酷いよ、最近の版元営業のレベル」なんて漏らされていたのだ。いやはや、頑張ろう。

9月16日(土) 炎のサッカー日誌 2006.17

 サッカーの試合観戦で一番気分が良いのは当然、良いサッカーをして、勝つことだ。最悪なのは悪いサッカーで負けること。これも当然だろう。判断が難しいのは、悪いサッカーで勝つのと、良いサッカーで負けるのと、どっちが上かってことで、これは順位や状況によって違うのではないかと思うのだ。

 そういう意味でいうと今の浦和レッズは、とにかく首位・ガンバ大阪に引き離されないよう勝つことが大事だと思うけれど、ここ数試合の内容のなさには悲しくなってしまう。いや、もちろん数年前まで毎試合こんな試合でしかも負けていたことを思えば天国なんですが。

 高い位置でのボール奪取が出来ず、DFラインでカットしたボールを前線に繋げるまであまりに時間がかかる。しかもサイド攻撃…と思ってもそのサイドで運動量が少なく数的優位が作れない。ただダラダラとボールを回している状態が多く、ポゼッションとはいえこれではあまりに意味がない。

 うーんと唸りつつ観戦していると、我が愛する漢・闘莉王が、怪しげなフェイントから放たれてミドルシュートがサイドネットを揺らす。1対0。お前はほんとにDFなのか?

 これで少しはペースがあがってくれればと思ったが、今度は広島のショートコーナーからいつのまにか再就職していたウェズレイにミドルシュートを決められあっけなく同点にされる。

 昔の駒場だったら怒号が飛んでいただろうと思いつつ、ジリジリと後半を見つめていると途中後退で出場した我らがキャプテン山田暢久が、ゴールを決めて、広島を撃沈。

 しかししかし。こんな酷いサッカーで勝って良いんだろうか? いや良いんだよね。今はとりあえず。これからエンジンかけて10月、11月に絶好調になれば。なるよね?浦和レッズ。おいらは信じているぜ。

 それにずーっと負けてる編集の藤原君がいるのに、勝って不満なんてとてもいえないよなぁ…。

9月15日(金)

 藤沢の有隣堂さんを訪問。この秋の異動で横丁カフェでお世話になっていた加藤泉さんが異動になられたのだ。その辞令を受け取ったとき結構戸惑っていた様子だったので心配していたのだが、本日お会いすると「実用書って面白いですね~」ととっても明るく話されたので一安心。おまけに茶道の棚に並べていただいた『千利休』が売れていて追加注文までいただいてしまった。うれしく思いつつ、やっぱりこのジャンルに営業をかけなきゃいかんなぁと反省もする。ちなみに加藤さんは横丁カフェでの任期終了後、有隣堂さんのホームページで「本の泉」という連載を開始されている。(http://www.yurindo.co.jp/izumi/izumi.html)

 藤沢の駅のホームに降りたところで、会社からメール。「上大岡のY書店Mさんから電話あり。折り返しお願いします」。これはグッドタイミングと戸塚を経由し、初めて横浜市営地下鉄に乗車。上大岡へ。Mさんに驚かそうと声を掛けたら思ったら、「何だ来ちゃったの? いや今晩飲もうと思って電話したんだよ」。うう、大笑い。

 実はMさん、私が書店でアルバイトしていたときの親分で、その誘いは当然断るわけにはいかない…なんてことはなく、久しぶりに飲めるのがうれしく、夜、東京で再開することを約束。その後は路線変更しつつ、営業を続け、約束通り東京で他のY書店さんの面々と別の版元さんも加わり、夜遅くまで大酒。楽しい酒?

9月14日(木)

 夜、田口さんの『書店繁盛記』(ポプラ社)の出版記念パーティに参加。同僚、部下、出版社からとても愛されているのがわかる素晴らしい会に思わず涙しそうになってしまった。柴田元幸さんがスピーチで「本当に頭のいい人」と田口さんのことを賞賛していたのが印象に残っている。

 そういえばポプラピーチ(http://www.poplarbeech.com/)で連載が始まったとき田口さんから「ごめんねぇ、よく考えたら『WEB本の雑誌』でそのまま連載を続ければ良かったのよね」なんて謝られたのだが、それは確かにそうかもしれないけれど、でもでも僕個人としては、別の会社から田口さんに連載依頼が届いたことが素直に嬉しかった。

 書店員さんの本というのは結構あるけど、2冊目の本が出るのはとても稀なのではないか。というか2冊といわず、今後も田口さんの原稿、本を読み続けたい。まだまだ引退と言わず、現場の最前線で頑張って下さい!

9月12日(火)

 妙に早くやって来た藤原が僕を呼ぶ。

「『文庫王国』の件なんですけど…」
「だからそれは昨日の晩も話したとおり、今年は自分で考えろって。それが出来ないなら時間制で相談に乗ってやるから焼肉で返せよ。昨日の夜の分だけでレバーとハラミとタマゴスープが確定してんだからな」

 目黒、浜本、そして浜田とあまりに甘えさせ過ぎて 失敗してきたので、藤原にはより一層厳しくあたることにしているのだ。

「いえ、それはそうなんですけど、焼肉じゃ済まないことになってしまいまして…」
「えっ? 焼肉じゃ済まない?? つうことはお前、それはあとはクビしかないんじゃないか?」 
 ぼそぼそと藤原が顔面蒼白で告白し出したのは、随分前に取材しテープ起こししたその原稿をなくしてしまったということだった。当然テープもすでに消去していた。

「あーヤバイです。ほんと。どうしましょう?」
「そういえば前の会社で症例写真を酔っぱらってなくした人はクビになったなぁ…」なんて呟いてみると、まるでおしっこを我慢している子供のようにモジモジし出す。

 しかしそのときふと思い出す。うん? その原稿、確か一度見てくださいって僕にメールして来なかったっけ? だったらまだ僕のパソコンに残っているんじゃないかと確認するとありました、ありました。ハハハ。

 ということで藤原はすっかり一件落着な気分になっているが、お前終わってないぞ! 焼肉じゃ済まないって自分で言ったんだからな。何奢ってもらおうか?

こんな藤原の顔を見てみたい方は「うりこみ堂」でご確認ください。

9月11日(月)

 一生に一度くらいは長髪にしたいと思っているのだが、子供の頃からスポーツ刈りに慣れしたしんで来たせいで、耳に髪の毛が被さってくると、耐えられなくなってくる。うう、鬱陶しい。もう切ろう。でも伸ばしたい。僕の考えている長髪とは、別に腰までかかるような長髪ではなく、浦和レッズの鈴木啓太くらいなんだけど、それがなかなか我慢できない。そうやっているうちにおでこが年々拡張工事をし、長髪どころか毛髪がなくなりそうな今日この頃。嗚呼。

 そんななか夏前に坊主にした髪の毛が随分伸びてきた。今回こそは夢の長髪へとぐっと我慢。俺もサッカーやるときにあのゴムのバンドをするんだ。きっと上手くなるぞ~。あっでも宮本は上手くならなかったな?

 ところが本日自信満々のおバカな特集「活字の人体実験」を慣行した『本の雑誌』10月号が、搬入となったのだが、その手伝いに朝からやってきた助っ人・鉄平の頭を見て、心が揺れる。

 鉄平、事務の浜田が撫で回すほどの刈り上げっぷりだったのだ。

(つうか頭を撫でるのはセクハラになるんじゃないか?と浜田に指摘したら「だって気持ちいいんだもん」の答え。それってセクハラどころか痴漢と一緒なのではないか。鉄平が辞めないことを切に祈る)

「鉄平、頭、スッキリ?」
そう質問すると、自分でなで回しながら
「最高ですよ。顔と一緒に石鹸で洗えますし」
ととても気持ちよさそうな顔をしていた。

 うう…。それでも営業の間は我慢していたのだ。長髪長髪ゴムバンドでレッツ!サッカーなんて呟いて。でもでも目の前をあの鉄平の頭よぎるのだ。うー我慢できない。

 というわけで帰りに笹塚10号通り商店街の1000円床屋の椅子に座り「バッサリいっちゃってください」なんて言ってしまった。くそ~鉄平、次はもっとひどい人体実験してやるぞ!

9月10日(日)炎のサッカー日誌 2006.16

 ダービーダービーと一生懸命騒いでも結局大宮という土地に何の恨みがないために、いまいち盛り上がりはしない。おまけにアッパー(2階席)を解放しないというなんとも情けない大宮主催のさいスタで、何だかなぁという気分でダービーという文字を見る。

 何度も書いていることだけど、やっぱり廃藩置県はしない方が良かったのではなかろうか。大宮は関係ないけど、長州VS会津とかJリーグで実現したら相当面白かったはずだ。

 小野伸二と鈴木啓太を累積イエローで欠き、すっかり忘れていたけど大怪我あがりの田中達也も、さすがにJリーグと日本代表の疲れからか本日は有給休暇申請か。

 というわけで代わりに入ったのがMF酒井、MF山田、FW永井なのだが、3人が必死に代役を果たし、意地もプライドもまったく見せない大宮アルディージャを2対0で撃破。

 それでもやっぱりこれはまだまだ優勝を狙えるチームではない気がするぞ。前日に勝っていたガンバ大阪や川崎フロンターレに較べるとチームとしての完成度に問題が大ありだ。うう、どうなるレッズ。でも俺たちは、強いときも弱いときも応援するしかできないわけで、来週末も大きな声で叫ぶだろう。ウラーワ! レッズ!!

9月8日(金)

 朝8時。さいたまスタジアムへ。日曜日に控えた大宮アルディージャ戦の並びスタート。キックオフまで59時間もあるというのに、果たして俺たちは何をしているんだか…。

 会社に行く時間もないので、そのまま直行営業。大宮のジュンク堂さんがコミック売り場の大拡張に加え、文芸書の売り場もかなり変わっていてビックリ。しばし観察。

 そして不思議だなと思ったことがひとつ。こういう多層階(といってもここは2フロアだけど)のお店の場合、ライトノベルというのは、コミック売り場と同じ階に併設されることが多く、それはもちろんお客さんが近いのだから当然なんだろうけど、小説を読むという行為から考えると、新潮文庫や角川文庫のいわゆる文庫売り場に置かれて欲しい気もする。でもやっぱり違うのかなぁ? 

 夕方会社に戻って、業界誌「新文化」からインタビューを受ける。「僕はただただ巻き込まれているだけで…」と話したら、インタビューアーであり編集長であるIさんに「いつもそうやって逃げられますけど、今日は本当のところを聞きますよ」なんて目をキラリとさせられる。そしてすっかりのせられて余計なことをしゃべり過ぎてしまった。深く反省。

 その後は京王ブラザホテルに向かい、新潮社さんの新刊発表会を取材。これは半年に一度新潮社さんがこれからこんな本を出しますよとマスコミに紹介する場で、プルーフや本そのものを手に出来る会。こんな立派な会を一度は本の雑誌社でもやってみたいが、そんなに新刊を出したら僕は間違いなく死ぬだろう。

 とりあえずその場で紹介された主な小説は下記のとおり。注目は読み切りの書き下ろし小説を掲載するという新創刊の『yom yom』だろうか。このダミーの表紙がカワイイのと、雑誌では初のしおりひもがつくとのことで、一応取材らしく写真を撮ってきたので、そちらはトップページから入れる「南台だより」でご確認ください。


<新潮社さんの主な新刊予定>

小川洋子『海』
G・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出 コレラの時代の愛』
保坂和志『小説の誕生』
酒井順子『都と京』
柴崎友香『その街の今は』
ジェイ・ルービン『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』
ポール・オースター『ティンブクトゥ』
蓮實重彦『赤の誘惑』
角田光代・鏡リュウジ『12星座の恋物語』
ルル・ワン『睡蓮の教室』
辻原登『夢からの手紙』
多和田葉子『時差』(仮)
加藤幸子『家のロマンス』
西村賢太『暗渠の宿』
三浦しをん『風は強く吹いている』
有川浩『レインツリーの国』
荻原浩『四度目の氷河期』
西條奈加『芥子の花 金春屋ゴメス』
小路幸也『東京公園』
森見登美彦『きつねのはなし』
東野圭吾『使命と魂のリミット』
畠中恵+柴田ゆう『みぃつけた』
仁木英之『僕僕先生』
堀川アサコ『闇鏡』
宮城谷昌光『風は山河より』第1巻、第2巻
真保裕一『最愛』
楡周平『ラスト ワン ワルツ』
恩田陸『中庭の出来事』
高杉良『小説 巨大生保』(仮)
伊坂幸太郎『フィッシュ・ストーリー』

9月7日(木)

 先日『酒とつまみ』の編集長であり、『中央線で行く東京ホッピーマラソン』の著者でもある大竹聡さんが、浜本のところに原稿取りにいらっしゃったのでご挨拶。

「営業はどうされているんですか?」と伺うとなんと今まで主に営業をされていた女性が、本業のタレント業で忙しくなってしまって、ほとんど何も出来ていないとのこと。

 それと大竹さん自身も営業が好きなのだが、それ以上に酒が好きで、例えば川越とかに営業に行くと、「これがビールがうまいんでついつい飲んじゃうわけですよ、そうすると本業の編集業が出来なくなってまったくお金が稼げなくなってしまう、そうすると生活できないんで」なんて、本が読めないから会社を辞めまくり中途半端な定期券をいっぱい持っていたどこぞの顧問とそっくりな、ろくでなしぶりではないか。

 いやこれもちろん誉め言葉で使っていて、こういう人が21世紀にもいるんだと感動。思わずボランティア営業マンにと名乗りでてしまった。

 というわけで、本日より椎名誠の『Once upon a time』と坪内祐三さんの『本日記』の新刊営業に加え、『酒とつまみ』及び『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』の営業活動をしている。本の雑誌社の本より酒とつまみ社の本の方が多く注文取れたらショックだな…と思いつつ。

9月6日(水)

 通勤本は、いまさら恥ずかしい開高健の『私の釣魚大全』(文春文庫)。無茶苦茶面白いし、このたたみかけるような日本語が素晴らしい。

 昨今、作家のエッセイが売れなくなったというけれど、そりゃ当然のことか。だってこんな蘊蓄があって、表現力をもった作家なんていないんではないか。手抜き原稿丸出しで、家を建てた話をどこにでも書きまくっている人とは雲泥の差だ、って今さらこんな本を読んでいる僕が言っても説得力がまったくないんだけど。

 社内に着くと、珍しく早く来ていたみんなが大騒ぎしているではないか?

「どうしたん?」
「えっ? 本日創刊された『tom sawyer WORLD』(ワールドフォトプレス)なんですけど、本の雑誌社が載っているんですよ。ほら」

 なんとそこには見開きで、この小汚い社内と小汚い野郎どもが微妙な立ち位置で写っているではないか。おお! そういえば助っ人の鈴木先輩が妙にはしゃいでいた取材ってこのことだったのか。

 しかしこの写真、顧問・目黒じゃないけど笑っちゃうね。浜田と松村は変に横向いているし、なぜか藤原は写真に撮られることを意識したのか、オススメ本の『ベルカ、吠えないのか?』古川日出夫著(文藝春秋)の表紙と合わせたTシャツを着ているし、浜本は丸いし。

 ああ、こうやって好き勝手書けるのも、自分が写ってないからで、良かった良かった営業に出ていて。
 

9月5日(火)

 昨日、今日とロト6のキャリーオーバーの話で会社は大盛り上がり。今回当たれば最高4億円となるそうで、顧問目黒にいたってはすでにその4億円を手に入れたかのごとくしゃべっているではないか。変な人だ。

 ちなみに昨日は4億円当たった場合何に使うかで盛り上がり、本日は「もし藤原が4億円当てた場合、藤原と結婚するか?」が話題であった。

 氷結・松村はその問に即「無理です」と答え、仕事に戻った。事務の浜田は「うーん」と3秒ほど悩んだ末に「やっぱり無理かな」と回答。「4億だよ、4億! 嘘? 我慢できないの? じゃあさ40億は?」って目黒さんその40億円はどこから出てくるの?

 しかし二人の回答は40億円になっても一緒。これはさすがの藤原もショックだろうと顔を見つめたら「僕は浜田さんが4億持っていたら結婚してもいいですよ」だって。負けるなよ、お前。

 そんなことより君たち、4億円の売上を上げる本を作ってくれないか? 1600円だったら25万部だよ。おお、なんか宝くじ買うよりありそうな話でないか。本屋大賞取ればその倍だよ! あれだけ売れてるじゃんって言われた『東京タワー』リリー・フランキー著(扶桑社)だって、本屋大賞受賞後4,50万部部数を伸ばしているんだから。

 あーーーーーーーーっ!!!! もしかして今年、うちの会社小説出してないじゃないか? ということは宝くじを買ってないのと一緒だし、文春にもなれないぞ。おい、藤原11月末までに小説出してくれぃ!

9月4日(月)

 夏、とある大学生からメールをいただいた。

 その方は大学3年生で、まもなく始まる就職活動で出版を目指しているのだが、ここに来て出版社で何をしたいのかわからなくなってしまった。さて、どんな仕事をしたいのか考え直すために、僕の営業に一日同行させてもらえないかとのことだった。

 気持ちは何となくわかるのだが、そもそも僕の営業について廻ってもまるで参考にならないだろうし、営業活動自体、僕に取ってとても大切な、例えそこでサッカー話で盛り上がっていたとしても、その裏で非常に気の張りつめた真剣勝負をしていたりするので、とても誰かを連れて歩くなんて考えられず、申し訳なくも断りのメールを入れた。

 それからずーっと考えているのだが、出版社に入ろうとした場合、やっぱり編集者になりたいとか営業マンになりたいとか具体的に考えていた方がいいんだろうか? ということだ。なぜなら新卒採用する大きな出版社なんて、それこそ入社した後にどこぞの部署に配属されるかわからないし、例え初めに希望が叶ったとしても3年くらいで異動になったりするのではなかろうか。

 そもそも出版社だって会社だから編集や営業がいるだけでなく、そこに経理がいて、宣伝がいて、庶務だって、総務だって、人事だってある。そういう部署があって初めて会社は成り立つわけで、本の雑誌社で一番偉いのは経理である、というのは代々伝わる会社の家訓だったりする。

 そう書きつつ、自分のことを思い出す。

 本が好きになり出版社で働きたくなった。そのときは「編集者」という仕事以外出版社にあることを知らなかった。とりあえず出版社に入る前に本のことをもっと知ろうと本屋さんでアルバイトを始めた。そこに毎日やってくるおじさん達がいて、「営業の人」と呼ばれていた。おお、そりゃ当然出版社にも「営業マン」がいるよなと改めて気づく。

 その後紆余曲折ありつつ、医学書の出版社に就職することになるのだが、その際応募には「編集希望」と書いたと思う。医学書に作りたいものがあったとは思えないので、ただただ極度の人見知りなので、コツコツ机で何かする仕事が向いていると思ったからだ。しかし採用してくれた社長から「入社してすぐ編集は無理だからまずは営業で」と言われ、まあそうだろうなと思いつつ、営業マンになった。そこから転職し、本の雑誌社にいるわけだが、今は営業とかそういうことは関係なく、マツモトキヨシになっていたりする。

 で、ようは何が大事なんだろうか?ということだ。

 僕はやっぱり本が好きかどうか、あるいは本の力を信じられるかどうか、なのではないかと思っていたりする。その気持ちがあればどんな部署になろうと続けられるだろうし、そうじゃなければ薄給過労働のこの仕事はあまりにツライのではなかろうか。

 しかしきっと大きな出版社の面接では、会社に入ったら何がやりたい?とか具体的に聞いてくるのだろう。そんなこと聞いても無駄なのに。だって藤原が入社する際の面接で20人くらいの人に企画を3つづつあげてもらったが、正直ひとつも使えるようなものはなかったし、気を引かれるモノすらなかった。本作りは、そんな甘くないだろう。

 うう、答えになってないなぁ。ごめん、大学生。
 とりあえず本が好きなら、本の力を信じるなら、飛び込んでみれば…と思います。で合わなかったら別の仕事に就けば良いんだから。

9月1日(金)

 いつの間にか9月。

 のんびりっち藤原はそのニックネームどおり秋も待たずにのんびりしているが、そろそろ12月発売の『おすすめ文庫王国』を作り出さなきゃならないことをわかっているだろうか? 去年の12月、死にそうになったの覚えてるかな? 小さな会社は誰も助けちゃくれないぞ。

 通勤読書は、昨日の翻訳文学ブックカフェで購入した『巡礼者たち』エリザベス・ギルバート著(新潮文庫)。アメリカの田舎町に住む何でもない人の何でもない日常のなかのちょっとした変化を描く短編集。1編1編読み終えた後、しばらく埼京線の車窓から外を眺めてしまった。良い小説だ。

 吉祥寺へ。
 
 駅中K書店さんは雨だと逆に通路を通るお客さんが増えるそうで、相変わらずの混みよう。L書店さんは毎月1日のペックカードの日のため混雑。本当は1日が土日の方が有難いんですけどとTさんは話されるが、5%オフというだけでこれだけの人が本を買うのか…。

 もし再販制がなくなり、本のバーゲンなんてことが出来るようになったら、こうやってバーゲンの日にお客さんが殺到するんだろうか。それはきっと通常時の買い控えを生むだろうし、バーゲン時の仕入れは出版社と書店が直接交渉するようになるのだろうか。そうなったらこれは別の職種くらいの気持ちで臨まないと仕事にならないだろう…なんてことを考える。

 アーケードのあるR書店さんも駅すぐ地下にあるK書店さんも妙に混んでいる。うーむ、7月、8月はどこも相当悪かったようなのだが、9月は持ち直してくれるといいんだけど。