WEB本の雑誌

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11月30日(水)

 朝イチでレッズ仲間のヤタ公からメール。
「『NUMBER』667号超浦和主義を買うように! おいらたち写ってるぜ」

 あわてて東浦和駅のキオスクで購入し、ページをめくるといたいた! ついに『NUMBER』デビューだぁ!ってこれじゃウォーリーを探せじゃないか。でもまあ見る人が見ればわかるわけで、うれしいぞ。

 しかもこの『NUMBER』、久しぶりに内容もしっかりしていて、元サッカーダイジェストの記者島崎英純の批評性の強いレポートはあるは、『Goalへ 浦和レッズと小野伸二』(文藝春秋)の小斎秀樹は丁寧に選手のコメントを拾っているし、そしてそして日本一のフットボール写真家にしてライターの近藤篤の鈴木啓太へのインタビューと写真は、特筆ものだ。朝の埼京線で号泣してしまったではないか。

 仕事は直行で『おすすめ文庫王国2006年度版』の見本出し。12月搬入とはいえまだ上旬は空いているようで、あまり並ばずに済み助かる。

 とりあえずこれで年内の新刊は終わり。来年のことはまだ考えないでおこう。

11月29日(水) 炎のU2日誌

 中学生のとき、5歳離れた兄貴の部屋に潜り込み、兄貴の高校進学祝いで買ってもらったステレオに1枚、1枚レコードを載せ聴いていた。兄貴は大学を自主休校したバンド野郎の楽器店アルバイト店員で、いわばニック・ホーンビィの『ハイ・フィデリティ』(新潮社)の主人公ロブみたいなヤツだったのだが、その兄貴の持っているレコードで唯一気に入って、のちにかっぱらったのが、U2だった。

「War」や「Under a Blood Red Sky」の向こうから聞こえて来る、まさに魂の叫びに、サッカーボールと女の子ばかり追いかけていた男の子(僕)はビンビンに感動したのである。そしてこの人たちはいったい何をこんなに向きになって歌っているんだろうと辞書を片手に翻訳に挑戦したのが「Sunday Bloody Sunday」で、その意味を知って、さらにU2にのめり込んだのであった。

 そのU2の「VERTIGO//2006 TOUR」にレッズ仲間のキリとさいたまスーパーアリーナに向かったのであった。キリ曰く「なんでFC東京戦にU2にガンバ大阪戦と週に3回も杉江さんと会わないといけないんですか?」なんだけど、たとえ身長差は30センチ以上あっても趣味が似てるんだから仕方ねえだろう。

 チケットにはアリーナ立ち見と書かれていたのが果たしてどこだ?と思いつつ会場に入ったのだが、いやービックリした。なんとそこは舞台の前で、すぐそこにボノが、エッジが、いるではないか。もはやもうまったく現実感がなく、しかも過去2回の来日より気合いが入っているようで、静から動へ一転するまるでカウンターサッカーのような各曲に失禁寸前。ボノ~。

 しかも「Sunday Bloody Sunday」の曲後には、バックモニターに「共存」の文字が出るし、世界人権宣言の条文が流れたり、ホットケナイメッセージなど、U2はいくつになっても戦っているんだと実感しつつ、その頭の良さというか、人間としてのあまりの器(経験値)の違いに打ちのめされる。

 約2時間の講演を聴き終え、外に出ると興奮冷めやらぬキリが呟いた。
「ああ明日も行きたいなぁ。チケットないかなぁ」

 キリよ、週に4回、俺と会うか?

11月29日(水)

 昨夜、神保町で酒を飲む機会があったのだが、その待ちあわせまでの間に三省堂書店さんをうろつく。そしてそこで何気なく手にとった本の値段を見てビックリする。その本とは『アジア、幻境の旅 日野啓三と楼蘭美女』鈴村和成著(集英社) で、これ四六版のハードカバーで243ページのいたって普通の体裁の本なのであるが、なんとなんと本体3,300円もするのだ。ほげっ!

 いや僕、驚いているだけで別に本は高くてもいいと思っている。それは安くできないから出版されないよりも、高くても出版され本当に必要としている人に喜ばれればいいと考えているからだ。しかしそこはやはり同じ仕事をしている身。この判型、この厚さで、この値段とはどんな原価計算がされているのか非常に気になるところだ。

 なんてことを考えつつ、別の棚をうろついていたら『地底の太陽』金石範(集英社)を発見。面白そうだな…なんて思いつつ値段をみたら、また驚いてしまった。本体3000円もするではないか。ちなみにこちらも四六版のハードカバーでページ数は320ページ。出版社は同じ集英社。若干厚いけど、それにしても文芸の単行本で、国書刊行会とかでなく、大手出版社で3000円を越える時代が来るとは。うーむ。文庫の値段はジワジワ上がっている気がしていたけれど、その影で単行本もこうやって値段があがっていたのか…。果たしてこれがスタンダードになるのだろうか。

 しかし、こんなことを発行人の浜本に報告したら大変なことになるだろう。なにせすぐ本の値段をあげたがる人なので、うちの本もこれから全部3000円以上だぁ! なんて叫びだすこと間違いなし。マル秘事項その36だな。

 ちなみに本の雑誌社の本は、僕と浜本が原価計算し(藤原は入社以来原価計算をしたことがないし、自分の作った本が何部売れているのかも知らないと思われる。大丈夫か?)僕がもうちょっと下げよう、浜本がもっと高くと言い合い、そのときそのとき落ちつくところに落ちつく。ただ本を出した後に「もっと安ければ」「もっと高ければ」と互いの目を見ないで呟き合うことはしょっちゅうである。まあ営業は売れてナンボだし、経営者は最低限の売上確保に走るのだから仕方ないだろう。というか各出版社の原価計算の方法を知りたいところだ。

 そういえば高いといえばマイケル・ケンナの写真集で、以前から欲しい欲しいと思っているのだがまだ買えずにいる。いつか何か良いことと、お金があったときに買おうと考えているけど、そんな日、来るかな…。

11月28日(火)

 昨夜、帰宅途中の京浜東北線のなかで、武蔵野線全線が不通になっていることを知る。参った。我が東浦和駅は武蔵野線でしか帰れないのだ。他の方法は、蕨からバス、浦和からバス、あるいはタクシーか妻に迎えに来てもらう、であるがどれも面倒くさいのと怖いので却下。結局、浦和駅から徒歩で帰宅することにする。いったいどれくらい時間がかかるんだ?

 トボトボと雨のなかを歩いているときに閃く。そうだ、我らが聖地・駒場スタジアムに寄っていこう。ちょうど通り道だし。

 ということで、コンクリートに水が染みこみ、まるで廃墟のようになった駒場スタジアムへ向かい、アウェー席の<出島>とメインスタンドの隙間のネットからピッチを覗く。

 92年のナビスコカップから始まる浦和レッズの歴史。僕は前の会社の先輩敏さんや、相棒とおるとこの駒場スタジアムへ通いつめた。その後は兄貴と、そして母親と父親が加わりいつの間にか杉江家一家全員がここへ通うようになった。母親と父親はいまじゃ生きる糧として浦和レッズを大切にしている。しばらくすると出版関係のレッズ仲間が集まり、今じゃ20数人の観戦仲間とともに、ここやさいたまスタジアム、そして妻の許しの出たアウェーで喉が潰れるまで叫び、戦っている。

 いろんなことがあった、本当にいろんなことがあった駒場スタジアムに、今は誰もいない。
 選手も観客もいない。

 しかし魂はあった。
 僕ら浦和レッズの魂がそこにあった。

 きっとここで流した多くの悔し涙が、今度の土曜日にうれし涙と変わることだろう。
 僕は駒場スタジアムに住む、サッカーの神様に、そう祈って、家路に着いた。
 浦和駅を降りてから1時間30分後に家を扉を開けた。

★   ★   ★

 もはや本なんてとても読めない。
 先週から1冊の本も読了していない。

 電車の中ではサッカー専門紙「エル ゴラッソ」とi-Podで音楽を聞くだけ。
 仕事は、浜田が夏休み中なので会社から一歩も出られず、電話番とデスクワーク。
 頭の中は当然、浦和レッズ!

11月27日(月)

 朝、藤原から電話。
「風邪を引いてしまったので休ませてください」
 思わず電話を切りそうになったが「お前なあ…ボケコラ」と昨日の怒りをぶつけたら藤原が切りやがる。チクショー。

 そんなところに椎名さんがやって来て
「お前のそのガラガラ声はなんだ? ああ、またサッカーか?」
 と苦笑いされる。

 椎名さん、野球と相撲は見ているようだが、まだサッカーの魔の手には落ちていないようで、いつかサッカーをと考えているのだが、もし何かの間違いでFC東京のサポーターにでもなってしまったら困るので、誘わずにいる。

 その椎名さんが先週行っていた広島での写真展では、『ONCE UPON A TIME』がバカ売れしており、急遽追加送品の手配。

 でバタバタしていたら、今度は池袋のA書店さんから『二人目の出産』の追加注文。早速鉄平に直納指示…しているところにジュンク堂池袋店さんから間もなくオープンの盛岡店分の追加発注。

 およ! これも直送だ! うう、浜田がいないときに限ってどうしてこんな忙しいのだ。そういえば『ONCE UPON A TIME』の書評が朝日新聞に出て、その客注やらの注文の電話も多いし、もしかして浜田が貧乏神だったのか? ならばそのまま30年くらい上海に行っていてくれないか…って違うか。いつもこれくらい忙しいのを浜田がこなしているってことか? 

 なんだかわからないけれど売れるのは嬉しい。そういえば『千利休』清原なつの著がまた品切れになってしまったので増刷の手配もしなくちゃいけない。ロングセラーっていうのはこういう商品をいうのだな。忙しい。キィー。

11月26日(日)炎のサッカー日誌 2006.19

 入場列を歩道に並ばせる、あるいはトイレの数が少なすぎ小便するのに30分も並ばせられたりと、運営の滅茶苦茶な味の素スタジアムで行われた浦和レッズ対FC東京。我らが浦和レッズが勝つか、ガンバ大阪が引き分け以下なら浦和レッズにとっては初めての「その日」になるはずだったのだが、試合が開始してすぐ我が浦和レッズが引き分けでもいいやという感じであることがわかる。

 それに引き替えアホアホ藤原が応援するFC東京は目の前で優勝されたくない一心で中盤での激しいプレッシャーから右サイドの石川、徳永へボールを供給。もはや4バックのようなかたちになってしまった三都州はディフェンスでいっぱいいっぱいの状態で、我ら浦和レッズはなかなか攻める事ができない。

 後半15分過ぎから攻め疲れてしまったFC東京の足が止まり、いくらか浦和レッズにもチャンスが生まれるが、ゴールは決まらない。

 そんななか何度も携帯が尻のポケットでブルブルし、おそらく妻が気を利かせて途中経過をメールしてきているのだろうが、そんなもんとても見ている場合ではない。ガンバ大阪がどうなるとかでなく、とにかく勝って我らの手で優勝カップを手に入れるのだ。

 しかしお互いゴールネットを揺らすことなく0対0の引き分け。その瞬間、味の素スタジアムを埋めた約4万人のうちの7割近いレッズサポはしーんとなり、裁きを待つ。

 でもでもどうだっていいや、ガンバ大阪の結果なんて。そりゃ早く優勝を決めたいけれど、やっぱり目の前の試合で勝ちたいぜ。しばらくするとオーロラビジョンに「ガンバ大阪3対2京都サンガ」の結果が写り、大きなため息。うーん、浦和レッズの辞書には「消化試合」なんて文字はないんだな。

 というわけで「その日」は、12月2日(土)の最終戦まで持ち越しだ。今度こそ勝ちに行こうぜ!レッズ!!

 ワタクシ、カンゼンニテンパッテシマッテオリマシテ、トテモシゴトドコロデ、アリマセン。

11月24日(金)

 本日より事務の浜田は夏休み。転勤で上海にいる弟さんのところへお父さんお母さんと訪問するとか。散々タイミングを考えていたくせに、文庫王国の〆前などという一番忙しい時期に行くのが浜田らしいといえば浜田らしい。

 しかしそれにしてもこの会社はオソロシイ。たった三日の夏休みを未だ誰も(社長以外!)消化しきれていないのだ。みんなそんなに仕事が好きなのか? って終わらないだけなんだけど。

 その浜田の仕事を片づけようと思ったら、机の上にメモ。

「一切触るな! 触ったらぶっ殺す!」

 本当にオソロシイ会社だ。

★   ★   ★

 ならば心おきなく営業に出ましょうと、電話番を終え、午後になって外に飛び出す。そしてオープン後初訪問の三省堂書店成城店さんへ。

 この営業で、この夏から秋にかけて開いた首都圏の新店はだいたい覗いたのだが、ほんとこれからは大型ショッピングモール(豊洲の紀伊國屋書店さんや武蔵村山のオリオン書房さん)か駅前駅中の商業施設(三省堂書店成城店さんやあおい書店町田店さん)、両方買え備えた丸善ラゾーナ川崎店さんのような立地をチェーン書店さんが奪い合っていき、地元の独立書店はジワジワと追いつめられていくのだろう。

 しかししかし実は僕が一番期待している新店は、新宿にオープンした山下書店センタービル店だったりする。あの山下書店さんと屋号は一緒だが、のれん分けのようなかたちで独立した店舗になっているそうで、まだ入口側に看板や照明がついてないから目立たないと思うが、この人通りを捕まえたら相当売上があがるのではなかろうか。

 それにしても山下書店さんか、ときわ書房さんくらいの品揃えのお店が、自分の住んでいる町にあったらどれほど幸せか。難しいのかなぁ。

 なんてとっても混んでいる三省堂書店成城店さんの棚を見ながら考えていたら、携帯電話が鳴り出す。会社からだ。

「広島でやっている椎名さんの写真展での本の売れ行きが素晴らしく、『ONCE UPON A TIME』」
 を大至急送って欲しいそうです」

 というわけですぐさま会社に戻って、荷造り。うーむ。浜田不在の間は落ちついて営業が出来そうにないな。

11月23日(木)炎のサッカー日誌 2006.18

 試合開始前。緊張感がビシバシ伝わってくるゴール裏のその中心で、コールリーダーのKさんが両脇の仲間の手を取り、曇り空の天に向かって突き上げた。その行為を見ていたサポーターは、一瞬の戸惑いの後、中心からゆっくりと手に手を取り、同じ行動をした。僕も左手をニックと右手を父親と握り会い、天に向ける。父親の隣では母親がやはり同じように手を掲げ、その母親の隣は通路に立つ知らない兄ちゃんだ。そして「威風堂々」を歌う。ゴール裏はひとつにまとまった。

 「結束」

 一見いつもひとつのように思われている浦和レッズのゴール裏だが、そんなことはなく、サポーターグループはひとつではなく無数のグループ、あるいは個人によって形成されている。だから感じ方や応援の仕方は千差万別、コールリーダーが発したコールに反応しないときだってある。決していつもまとまっているわけではないのである。

 しかし今日はそんな想いとか考えなんて関係なく、願いはただひとつ。浦和レッズの勝利、そして優勝だ。今まで以上の結束をもち、ゴール裏は、いやスタジアムがひとりの選手となって、そこへ進む。

 だからこそワシントンがPKを2度外しても、スタジアムに失望は湧かなかった。それどころか、14年間で手に入れた「信じる力」がスタジアムを支配していた。勝つ! その気持ちが声に、拍手に、揺れるスタジアムに乗りうつる。

 そんななか活躍したのは、今やミスターレッズといってもいいほど成長し、まさに浦和レッズの歴史を自らで表現しているかのような山田暢久。ワシントンの1点目のクロスは素晴らしい精度だったし、自らあげた2点目のドリブルと唯一空いたコースを狙うシュートは素晴らしかった。あの山田が…、あの浦和レッズが…。

 試合終了後、やけにはしゃいだスタジアムアナウンサーが、各地の試合結果を伝える。
 ガンバ大阪△
 川崎フロンターレ●

 ついにそのときがそこまでやってきた。

 ALL COME TOGETHER!
 共に闘い、共に頂点へ

11月22日(水)

 『二人目の出産』の見本が出来上がった翌日(11月15日)、著者の安田ママさんがいる松本に、8時ちょうどのあずさ2号(現在は5号)に乗って会いに行く。

 自分が企画した本が出来たときには、やはり著者に手渡しし、感謝の気持ちを伝えたい。しかしサイン本作成分も含め40冊はちょっと重かった。

 その車中、本も読まずに、ここ最近ずーっと思っていたことをじっくり考える。
 入社して10年、いつの間にか営業だけでなく、企画に、広告に、WEBに、と担当は雪だるま式に増えている。これで経理をしたらたぶん杉江商店になるのではないかと思うけれど、それにしたって僕の仕事って何だ?

 いや僕の仕事は正真正銘、絶対に営業マンだ。その部分がこうやっていろんな仕事によって疎かになってくるのがどうしてもツライ。ツライというか、哀しい。なぜなら僕は営業がしたくてここにいるのだから。たぶんきっと多くの書店員さんも僕と同じようなジレンマを棚を前にして感じているのだろう。棚を触りたいのに、その時間がない、いや会社は棚なんて触るな、というと。

 しかしやっぱり自分の仕事をきっちりこなしたい。20代のときのように書店さんを駆けずり回って、ひとつひとつしっかり関係を築きたい。怒られたって、失敗したって、そこから人と人の繋がりができればいい。そう、その結果が、こうやって安田ママさんとの関係になっているのだから。

 そう気持ちが落ちついた頃、列車は松本駅のホームに滑り込む。
 列車を降りると、東京よりずっと冷たい風が、僕の身体に吹き付けてきた。
 顔上げると、頂きが雪化粧された山が壁のように立っていた。

★   ★   ★

 その日以来、営業以外の仕事を極力排除し、朝から晩まで書店さんを駆けずり回っている。
 どうしたって体力は落ちているから電車の座席に座ると大きなため息がでるし、久しぶりの孤独感に打ちのめされそうになる。

 でも充実している。そして楽しい。

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