WEB本の雑誌

1月30日(火)

 連日、営業と写真展会場での売り子。土日もなく、仕事が続く。だいぶ疲れがたまってきたが、出版社の営業マンとはいえ、直接読者にお会いする機会はほとんどないわけで、目の前で本が売れ、お金をいただき、そして椎名さんにサインを貰って感動している姿を見ていると、疲れよりも喜びの方が大きい。

 しかも毎日椎名さんがやってきて、僕の隣で原稿書きや新作の構想などを練りつつ、ボソボソといろんな話をし、これはもはや僕にとって財産になること間違いなしだ。モノクロの、哀しみのなかに希望のある写真とアンドレ・ギャニオンの音楽がマッチしたこの会場のことを、おそらく今後何度も思い出すことだろう。

 そんななか熊谷達也を読み続ける。山岳冒険小説の『漂白の牙』、ある種成長小説となっている動物小説の『ウエンカムイの爪』、自然のなかで暮らす人間ドラマを描いた『山背郷』(すべて集英社文庫)。僕は特にこの『山背郷』が気に入った。地味ではあるけれど、ここに描かれているような実直な人間になりたい。さて次は史上初の山周賞と直木賞をダブル受賞した『邂逅の森』から続く<森シリーズ>だ。

 写真展も残すところ、あと二日。まだいらしていない方は、ぜひ!

1月24日(水)

 椎名誠写真展『ONCE UPON A TIME』(http://www.webdoku.jp/event/shiina2007.html)が始まり大わらわ。会場設営からトークショーの入場整理、そして会場での写真集販売の売り子として、日常業務とは別の仕事が、土曜も日曜も関係なく押し寄せる。

 しかし日常はほとんど役に立たないサッカーバカ営業マンなのだが、なぜか生来のお祭り好きというか、攻められれば攻められるほどアドレナリンが噴出してしまう超M気体質のせいか、こういった有事になると俄然やる気が湧いてくる。職人さんに混じって鉄骨を組み上げ、入場整理では大声を張り上げる。それを見ていた椎名さんを始め、椎名組の面々、あるいは助っ人の松ちゃんにまで「杉江さんカッコイイっす」とほめられてしまったが、もしかして仕事を選びを間違えたのかも、なんて。

 基本的に僕は遅番で会期中16時~20時まで売り子として会場にいるので、営業は直行で15時程度に切り上げざる得ない。何だか消化不良な日々が続くが仕方なし。『ONCE UPON A TIME』を売ることに専念しよう。

 そして会場に座っていると非常に本が読めて、これはこれで幸せだ。

 『獣の奏者』上橋菜穂子著(講談社)は、もし児童書の括りで大人の目に触れられないまま過ぎてしまってはあまりに勿体ない小説で、ファンタジー小説をロクに読んできていない僕なので他と比較ができないのが残念だが、取次店N社のFさんや大森望さんが「ページをめくりだしたら止まらない」と言うのがよく分かる面白さ。僕自身も上下巻一気読みで王獣や闘蛇のいる世界にドップリ浸かってしまったほど。

 また、おそらく自分はこの作家の作品を好きになるだろうと思っていながら、今までなぜか未読だった熊谷達也を読み出す。『漂白の牙』(集英社文庫)。そしてなぜ今まで読んでいなかったのだと激しく後悔することになった。

 というわけで、写真展売り子のため、しばらく日記の更新が滞ると思います。

1月 16日(火)

 日曜日のことだ。日用品の買い物を終え、車から飛び降りた娘が「ハラヘッタ音頭」を踊り出す。時計をみると12時半だった。幼稚園では11時過ぎには給食になるのだからそれは腹が減るだろう。買い物の整理を妻に任せ、僕は焼きそばを作り出す。肉を炒め、キャベツともやしを投入し、麺をその上に覆い被せる。こうやると野菜から出た水が水蒸気になって麺をほぐすんだ、と教えてくれたのは中学校のときに通っていた塾の先生だったか。

 かれこれ20年以上前のことを思い出しつつ、焼きそばを炒めていると電話が鳴った。

「お母さんだけど。今ね、お父さんが売り切れたら大変だから早く行くぞってランドセル買いに行っているのよ。そしたらさ、あんたの頃は赤と黒しかなかったのに、何色もあるじゃない? ねえ、ユキは何色がいいのか聞いてよ」

 電話を受けた僕から妻が菜箸を取り、焼きそばにソースを混ぜた。香ばしい匂いが部屋を満たし、その匂いに誘われたように娘の「ハラヘッタ音頭」は激しくなっていた。その娘に聞く。

「今ジジとババがお前のランドセル買いに行ってるんだって」
娘はハラヘッタ音頭を辞め、今度はランドセルサンバを踊りだした。
「うれしいなったらうれしいな」
「でさ。お前ランドセル何色がいいの?」
「えっ? ピンク。ピンクで絶対決まり」

 そのことを母親に伝えると、電話の向こうでしばらく沈黙があり「ねぇ、あんたピンクっていってもいろんなピンクがあるのよ。困ったわね。あんまり激しいピンクも目立ち過ぎるし、こんなんでいじめられたらたまらないし。ねえ店員さんこれ一度買って孫が色が違うっていったら交換にしてくれる? ああ、いいのね。じゃあ、こっちで選んで持っていくわ。気に入らなかったら交換してね。」

★   ★   ★

 僕が小学校にあがるときに渡されたのはボロボロのランドセルだった。それは5歳離れた兄貴が使っていたランドセルで、兄貴はそのとき6年生だけが許される肩掛け鞄で登校していた。兄貴の書いた落書き、さび付くボタン、それでも僕は何とも思っていなかった。教室で数日過ごすまでは。

 入学式を終え、クラス分けが発表になり、教室で数日過ごした帰りの会のあとだった。さて帰ろうとランドセルを背負ったとき、まわりの奴からテッパンと呼ばれている、ちっこくてすばしっこい奴が、僕に向かって「お前のランドセルはボロボロだな。カッコワリイ」と囃し立てた。そのとき初めて僕はクラスの連中のランドセルがみんな新品で、僕だけが新品でないランドセルを背負っていることに気づいた。「お前ん家、ビンボーなのかよ?」テッパンはしつこく囃し立ててきたので、ポカーンとそいつの顔をぶっ飛ばし、僕は教室を飛び出した。

 学校の真正面にある家にはあっという間につき、母親を大声で呼んだ。
「かーちゃん、俺のランドセルなんでお古なんだよ。新品買ってくれよ」
「え?! だってまだ使えるじゃない」
「やだよ、こんなの。学校中でお古なんて俺だけだよ」
「使えるものは使うの。もし壊れたら買ってやるから、それを使いなさい」

 その夜、帰ってきた父親にも必死に訴えたが、帰ってきた言葉は一緒だった。
「使えるものは使え。壊れたら買ってやる」

 次の日から僕はランドセルを乱暴に扱った。投げ捨て、蹴飛ばし、ときには砂場にこすりつけた。それでもランドセルはなかなか壊れなかった。やっと壊れたのは、乱暴に扱うのを忘れた小学校3年のときだった。肩から提げるベルトが切れたのだ。

「あら、壊れちゃったね。仕方ないわねー。買いに行こうか」
 そうやって近所の学校指定の洋服屋に向かおうとする母親を僕は慌てて止めた。

「あのさ、もうみんなランドセル、ぼろいんだよ。今さら新品の背負っていったら今度は『一年生』なんて言われるよ。頼むからこれを治してよ」

 そうやってぷらぷらと揺れる肩ひもを母親に見せると、確かにそうね…と呟き、ハッと何か閃いたのか、隣の家に歩いていった。しばらくすると笑いながら別のボロボロのランドセルを持ってきた。それは隣の家の兄ちゃんが使っていたランドセルだった。

 そして僕は結局一度も新品のランドセルを背負うことなく、小学校を卒業した。

★   ★   ★

 熨斗のついた箱を空け、薄紙に包まれたランドセルを娘が取り出した。娘の背中でローズピンクと呼ばれるあまり激しくなく、でもキレイに輝くピンク色のランドセルが踊っていた。最近はちゃんと感謝の気持ちが伝えられるようになった娘は、父親の前に立ち「じじ、ばば、ありがとう。この色かわいい!」と頭を下げた。父親は目を真っ赤にしてその姿を追っていた。

 そんな父親に僕は聞いた。
「あの頃さぁ、やっぱ俺ん家、貧乏だったからランドセル買えなかったんでしょう?」
「違うよ。あの頃はまだサラリーマンだったからお金はあったんだよ。貧乏になったのは、あの後、独立してからだよ。そうじゃなくて俺はやっぱり物をこさえてお金を稼いできた人間だろう。だからさ、やっぱり使えるものを捨てるってのがどうしてもできなかったんだよ。まあ、お前には悪いことしたと思ってるけどな」

1月15日(月)

 サッカーのない週末が2週も続き、禁断症状が現れる。スカパー!に入るか年末からずっと悩んでいるのだが、経済的な問題とこれ以上サッカーバカになるのが不安で、踏ん切りがつかない。仕方なく朝から家の前でボールを蹴る。

 そういえば飲み会の席で、編集の藤原からジェフ千葉・阿部の浦和移籍について「金の力」なんて散々嫌みを言われたが、阿部よ、良かったね、金だけで選手が動くと思っているようなサポーターがいるチームにいかなくて。浦和レッズは厳しいけど暖かいよ。なんていったって俺たちは浦和レッズというファミリーだからね。

 通勤読書は『獣の奏者 1闘蛇編』上橋菜穂子著(講談社)。『本の雑誌』2月号の「新刊めったくたガイド」欄で大森望さんが4つ★半の高評価で「正統派児童文学ファンタジーの傑作」、、「<十二国記>や『七王国の玉座』の愛読者には絶対のお薦め。」とまでの薦めよう。

 実は僕、そのどちらも未読の上、いわゆるファンタジーもまったく読んでいないような男なのだが、非常に面白く、またもや会社をサボって読み続けたい症候群に陥ってしまう。うーむ、本が読めないから会社を辞めてしまうような人間が作った会社のせいで、本が読めないというのは二重の苦しみだ。

 本日が助っ人アルバイトがおらず、事務の浜田から地方小流通センターさんへのおつかいを頼まれる。その地方小さんへ伺い川上さんにご挨拶すると「日誌読んだぞ。売る人がいなくなるってのは恐ろしいなぁ。でもそうやって人件費を落とさないとやってられないところに書店を追い込んじゃたんだよな。世間は景気が良いみたいだから、そっちの業種に働き手が流れるだろうし。しかしこの後、土地代が上がりだして、賃料が上がったらもっと大変だぞ」と教えられる。小さな書店さんだけが大変なわけでなく、大きた書店さんも非常に細い綱を渡っているんだな。

 お茶の水のM書店Yさんを訪問すると「ゲラで読んだ中場利一さんの新刊がすごい面白かったのよ」と薦められる。『シックスポケッツ・チルドレン』(集英社)。1月末発売のようだが、早く読みたい。最近は書店さんにゲラが渡ることが増え、これはとても良いことだと思うのだが、その話題を先にされると何だか自分だけ遅れているようで非常に悔しい。山田詠美の新刊も、朱川湊人の新刊も面白いらしい。何だか今年は面白い文芸書がいっぱい出そうだな。

 夜は本屋大賞の会議。
 一次投票の集計をするわけだが、果たしてどの本がノミネート作品に選ばれるのか、乞うご期待!! つうか投票者数はいったい何人なんだろう…。

1月12日(金)

 泣いても笑っても本日が本屋大賞の一次投票締め切り日。
 思わず投票人数が減った場合の言い訳を考えてしまう。書店数が減っていて、おそらく書店員さんも減っているのだから減っても不思議なないんだけど。そんな言い訳はへなへななった新聞記者さんには伝わらないんだろうな。

 そんな心配のなか書店さんへ営業に向かう。すると会う人会う人、「ごめん!」とか「今日帰ってやるから」なんて、まるで夏休みの宿題を8月31日までやっていない子供のような顔をするではないか。こんな威張れる機会もないので「なーに最後の日までぐずぐずして。早くしなさい!」なんてお母さんのように叱ろうかと思ったが、投票してもらえなかったら元も子もないので、選挙前の政治家のように「よろしくお願いします」と頭を垂れる。しかし、どうも僕が直接知っているような書店員さんほど、投票が遅いのはなぜなんだろう? 

 夜は「翻訳文学ブックカフェ PART21」。沼野充義さんをゲストに、スタニスワフ・レムの『ソラリス』(国書刊行会) をテキストにお話を伺う。満員御礼。翻訳家の方というのは、どうしてこうも地に足が着いていて、出版の現実を知った上で(ほとんど金にならないのに)、それでも熱心に面白い本を紹介(翻訳)していこうというモチベーションを保てるのだろうか。感動。

 その後は、打ち上げ。しかしここで藤原力教育係りの浜田がブチ切れる。ホスト(主催者側)であるはずの藤原は席についたらまったく動かず、つがれるままに酒を飲み、だらだらとお話。同席者の空いたグラスもビール瓶も我関せずで、そして周りのゲストに酒をついでもらう始末。

 それを見て浜田が「チッ!」と舌打ちし、腰を上げ、酒やつまみをオーダーし、空いたグラスにビールを注ぐ。ちなみに浜田と藤原は入社年度で9年も違うのだが、それも関係なく「あっ。ビールください」なんて浜田に注文しているではないか。般若・浜田よ。藤原力教育係に任命したのは僕だけど、もう無理だと思うよ、再教育するの…。

 そういえば、浜田公子を姓名判断したとき、適正職業が水商売だったんだよな。じゃあ、文句良いながら、結構楽しんでるのか?

1月11日(木)

 今年こそ平常心で本屋大賞を運営しようと思っていたのだが、一次投票の〆切を間近に控え、期待と不安で胸が張り裂けそうだ。晴れ時々雨じゃないけれど、躁と鬱の繰り返しのなか、エントリー書店員さんにメールを送る。

 直行で横浜。年末年始も文芸書の売上はよろしくなく、とある書店さんでは「これが普通だと思うとたまに売れたとき嬉しいし、注文しても満数入ってくるからね」なんて言われてしまったほど。

 売れるものがない、というよりは、ここ数年の文庫化へのスピードアップと新書の出版点数増加の影響が大きいんじゃないかと思うのは、文庫も新書も抱えていない出版社の僻みかな。

 また以前当欄で書いた「本が売れない時代から売る人がいない時代が来るんじゃないか?」という危惧はまさにすぐそこに来ていて、ある書店員さんは「もう本を触ってられないのよ、レジの人間が足りないときは自分で入らなきゃならないし、シフト作ろうとしてもバイトさんが足りなくて、あっちこっと電話して入れる子探さなきゃならないし」なんて感じだそうだ。

 去年の年末にベスト10のポスターを配り歩いて気づいたけれど、以前だったら本の雑誌のベスト10はともかく、「このミス」のベスト10は各書店ランキングボードを掲げたりして結構派手に展開していたのに、そういうものを作る余裕がないようで、ただ平台に集めてあるだけのお店も多かった。もはや物理的に人手が足りないのだから仕方ない。

 こういった人手不足も当然売上ダウンに繋がっているわけで、ならばどうやって改善するのか?

 このお店の方は、時給はなかなか上げられないし、学生のアルバイトは集まらないし、年齢層をあげて募集したり、以前勤めていて方に出戻ってもらったりと工夫はしているようだ。もちろんそれでもまったく人手が足りず、今日もシフトと関係なく朝から出勤されていた。それでも「仕事ってつらいから楽しいんだよね」なんて言葉が洩れ、僕もそうなんだけど結局「本が好き」だからたいがいのことは我慢できちゃうし、楽しんじゃうんだよな。

 でも本当にこれでいいのかわからないんだけど。

1月10日(水)

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹著(東京創元社)、決して仕事はサボらず、通勤と自宅読書で読了。
いやー面白い!

 第一部「最後の神話の時代」を読み出したときはてっきり池上永一の『風車祭』(文春文庫)とか粕谷知世の『アマゾニア』(中央公論新社)みたいな話が始まるのかと思いきや、第二部の「巨と虚の時代」では中場さんの『岸和田少年愚連隊』ばりの不良小説に突入し(個人的には自分の過ごしてきた時代・世界とほとんど同じこの第二部が大好き)、そして最終の第三部「殺人者」では島本理生ばりのナイーブな現代小説となり、一粒で三度おいしいというか。いや違うな。鳥取県紅緑村の製鉄会社を経営する赤朽葉家という血の流れのなかでは、まったく違和感のない一編の長編小説として完成しており、これは顧問目黒考二のいうとおり傑作だろう。

 もうちょっと違う時期に出でいたら去年の本の雑誌ベストテンに大推薦したのになあと残念に思いつつ、個人的には2007年最初の一冊としては幸先の良いスタート。次は取次店N社のFさんが「読み出したら一気読みでしたよ」と興奮されていた『獣の奏者』上橋菜穂子著(講談社)だ。

 新宿に営業に出るとB書店さんが新規出店の影響でバタバタと人事異動されていて、あらビックリ! ただしこういうときにひとり営業は強いのだ。新たに着任された方も以前のお店でお世話になっていたりする機会が結構あって、ルミネ1店に新たに配属されたSさんも自由ヶ丘店でお世話になっていたから、特に名刺交換も必要なく、すんなりお話ができた。そして「営業マン推薦の本のフェアでもしようかな」とおっしゃるので、早速『赤朽葉家の伝説』をプッシュ。

 Y書店さんは残念ながら撤退してしまったが、J書店さんは増床だし、新宿は相変わらず激戦区。うーむ、自社本もちゃんと営業しないとな…。

1月9日(火)

 昨年末、顧問の目黒考二から「杉江、年末に読む本決まったの?」と聞かれ、僕は北方謙三著『水滸伝』(集英社)を一気読みするつもりですと答えると、「じゃあ、いいや」なんて何だか言いたげな様子で目黒はトトロの森に消えて行きそうになった。

 その雰囲気。「もしかしてなんかすごい面白いものを見つけたんじゃないですか? 本の雑誌の社訓をお忘れですか? 面白い本は独り占めするなですよ!!」とあわてて追いすがると、「そうなんだよ」ととても嬉しそうな表情で頬を揺らしながらいつもの早口で1冊の本についてしゃべりだす。それは桜庭一樹著『赤朽葉家の伝説』(東京創元社)だったのだが、あまりしゃべらせると全部喋ってしまうので、途中から耳をふさぎ、年末に書店さんで購入したのであった。

 ところがよくよく考えてみると休みといっても、僕には二児の子の世話と天皇杯という大変な役割があり、年末年始の休みが8日間あったにも関わらず、本を読む時間なんてまったくなかったのだ。というわけで本日の通勤より目黒考二大推薦の『赤朽葉家の伝説』を読み出したのだが、いやはやこれが面白い。まだ第1部を読み終えたところなのだが、このまま仕事をサボっちゃおうかな…なんて黒杉江が顔を出す。

 しかしそういうわけにも行かず、京王線を営業。調布のS書店Nさんに「ノロは大丈夫だったの?」なんて心配されつつ、L書店Tさんとはフェアの打ち合わせ。また府中のK書店さんでは担当者さんにお会いできなかったのだが、入口で『月の扉』石持浅海著(光文社文庫)が大きく展開されており「文庫ダントツの1位」とある。そこについていた手書きPOPが店員さんが書かれたものなのか出版社が制作したものかわからなかったのだが、いやはや文庫はこうやっていろんなアプローチで販売出来ていいなと、ただただ羨ましく見つめてしまった。単行本の販促どうにかしないとまずいよな…。

 その単行本の販促を必死になって挑戦しているのが、聖蹟桜ヶ丘のときわ書房のTさんで、こちらでは『向日葵の咲かない夏』道尾秀介著(新潮社)や『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著(角川書店)をPOPだけでなく独自のパンフレットも制作し、また他に応援書店さんを募り展開しているのだ。うーむ、これって本来出版社がやらなきゃいけないことを書店さんがやっているんじゃないか…なんて思わないわけではないけれど、その気持ちが通じたのか両書ともしっかり売れており重版もかかっているようだ。単行本もまだまだやりようによっては売れるということなので、やっぱり気持ちが大事と新年早々気を引き締める。

 気を引き締めていたら別の担当のAさんが「2巻が出ましたよ~」と『万福児』下吉田本郷著(集英社)を持ってきていただく。このマンガ、1巻が出たときにAさんにオススメいただき、そのあまりの面白さにハマってしまっていたのだ。クレヨンしんちゃんをもうちょっとシュールにしたようなギャグマンガで、しかもこの主人公万福がうちの息子に似ていたりして、もはや目が離せない。帰社する電車のなかで読み出し、思わず吹き出してしまった。

 会社に戻って「作家の読書道」のインタビューに立ち会う。今回は高野秀行さんで、その読書道は、そのままの部分とえっ?!という部分があって非常に面白かった。まあそれが高野さんの魅力なんだと思うけど。

 その高野さんから「杉江さんも営業に本屋大賞にこういうインタビューの立ち会いだったり大変ですね」なんて心配されてしまったが、営業も本屋大賞も高野さんも好きなことだし、1冊でも多くの本が売れたり、面白い本を紹介できるなら、まったく苦にならない。

 しかし木村晋介落語会や椎名誠写真展などのイレギュラーな仕事もあり、その用意で22時まで残業。おう! 終電があぶねーぞ。

1月8日(月)

 休日出勤。

 以前勤めていた会社が土日の出社(学会での販売)の多い会社だったため、休日や祝日に仕事をするのは慣れており、もはや苦にもならない。しかし前の会社は一応代休と休日手当があったりしたのだが、本の雑誌社には当然ない。いやもしかしたらあるのかもしれないが、僕は入社10年間一度も職務規程を見せてもらったことがないので、どうなっているのかわからない。ただそんなことを気にしていたら、こんな会社に10年もいられるわけがない。

 その休日出勤中にちょうど福岡から書店員さんがやってきた。

 その書店員さんとは僕がずっと会いたかった高倉美恵さんで、昨年11月に出版された『書店員タカクラの、本と本屋の日々。…ときどき育児』(書肆侃侃房)は、もう出てすぐ地方小出版流通センターで見つけ狂喜乱舞。その後どうしてうちで出せなかったのだと悔しい思いを噛みしめたほどの、書店員魂炸裂な1冊。ミエゾウとムギを題材にした育児マンガも面白いし、書店員としてのコラムは猛烈に熱く、特に本書の最後の方に収録されている『なら一度「ホーカイ」してみせたまえ」は何度も何度も読み直してしまったほどだ。

 ついに本人にお会いできたわけだが、本人もそのまんまの人で、格好良すぎる。ああ今度絶対福岡に会いに行きますと中野に向かうバス停の前で熱く握手しながらお別れしたのであった。

 その後は「本の雑誌」の座談会に立ち会う。別に僕がいなくてもいいんだけど、実は座談会に立ち会うのが好きだったりするので無理をいって同席。

 座談会で予想外にこれはという話が出たとき僕は「神が降りた」という表現を使うんだけど、この日も数度、神が降り、楽しい座談会であった。乞うご期待。

1月5日(金)

 明けましておめでとうございます。今年も『本の雑誌』及び小社単行本、またWEB本の雑誌をよろしくお願いします。

 元日。家族が起き出す前にこっそり国立競技場に向かい、憎らしいほど強くなった我らが浦和レッズの優勝に大興奮。いつものメンバーでないこのメンバーでの優勝は価値があるぞ。今年はJリーグを飛び出し、アジアで勝負だ! ってもちろんJリーグもナビスコも来年の元日も狙うけれど。

 さてその結果、我が家の2007年は非常に怪しい雰囲気のなかスタート。近所のショッピングモールのバーゲンでどうにか機嫌を取ろうかと思ったが、いまいちだったようで、いまのところ雨のち曇りといったところか。まあ、浦和レッズのためなら仕方ない。

 本日より仕事始め。

 今年の目標は自己を捨て、立派な中間管理職になること…だったのだが、事務の浜田から矢継ぎ早に仕事を出されるは、相変わらず郵便物及び年賀状の仕分けはするは、やっている仕事はぺーぺーそのもの。

 モチの食いすぎて一段と顧問としての貫禄を見せだした目黒は「やっぱり家にいると飽きるなぁ。9日から出社しようかと思ったけど、みんな今日からだと思ったら会社に来ちゃった」なんて呟いていたが、家よりも会社が落ちつくなんて、発行人の浜本と目黒のふたりくらいではなかろうか。

 バタバタするのは今日に限ったことでなく、気づいてみたら椎名編集長の写真展もすぐそこに迫っているではないか。(http://www.webdoku.jp/event/shiina2007.html)しかもシフト表が配られたら、僕は遅番で会場に張り付くことになってしまった。むー、こりゃ大変だ。

 大変といえば、本屋大賞。こちらは1月12日が一次投票の〆切で、今年も例年どおり書店員の皆さんギリギリまで悩み投票はまだ…。胃が痛いのなんの。本屋大賞をやっているかぎり、僕及び実行委員には落ちついた年越しはないのだろう。

 しかし年始の朝日新聞で綿矢りささんが本屋大賞に言及していただけたほど浸透してきているのだから、がんばらねばならない。ちなみに昨年も出版業界はマイナスだったようで、本屋大賞だけでなく、新たなことを考え、行動に移していかなければならないのではないか、なんて思っているんだけど、そうそうないか。

 とりあえず、今年も当炎の営業日誌をよろしくお願いします。