『おすすめ文庫王国2006年度版』では、すっかり無視されてしまった僕の大推薦本『海のふた』よしもとばなな著(中公文庫)。いまだにあきらめきれず、目黒や浜本の顔を見る度『海のふた』と呟いている。『DIVE!!』も『楊家将』も確かに良いけど、同じくらいこの『海のふた』もいいのに。
その著者である、よしもとばななの新刊が出たのですぐさま読了。『チエちゃんと私』(ロッキングオン)。
中年女性の同居生活を描いたストリー的には何でもない話なんだけど、一行一行、心の襞に染み渡ってくるような文章と、ときおりその心の扉をガバッと開けてくるようなメッセージが隠されていて、気づいたら涙が溢れているような物語! 一見癒しのように思えるけれど、実はもう少し突き放していて、自我を一度ぶっ壊して再生するような、強烈な物語だと思う。
そういえば、以前、新百合ヶ丘の有隣堂さんに「よしもとばななはロックンロールだ!」というPOPとともに『海のふた』が多面展開されていたことがあったけど、この『チエちゃんと私』もロックンロールだ。
それにしてもよしもとばななはどうしてこうも、日常で言葉にできないような気持ちや気分を的確に言葉に置き換えられるのだろうか。男性も女性も老いも若きも関係なく、もっともっと読まれていい。
赤坂見附のR書店Mさんを訪問。ここの1階文芸棚のフェアは天才的な切り口とネーミングでいつも訪問の楽しみにしているのだが、今回も女性論客のエッセイを集められていてそのセンスの良さに感動。うまいなぁ。
銀座に移動。S書店さんは文芸書の担当が変わっていたが、新しい担当のKさんはかつてから付き合いのある書店員さんだったので一安心。ひとり営業の、そして10年も勤めている利点か。『フィッシュストーリー』伊坂幸太郎(新潮社)、『無銭優雅』山田詠美(幻冬舎) とベストテンに入っていて、やっとなんか季節が変わったというか、文芸に変化が出て来たかなという気分になる。
次に訪問したK書店ではYさんから「うちに古くから来ているお客さんが、今はもう直木賞も芥川賞も興味がなくなって、唯一気になるのが本屋大賞だ、って言っていたよ」と嬉しい話を聞かされる。大抵耳に届いてくるのは悪口ばかりなので、こういう意見を聞くと泣きそうになってしまう。
そうなのだ。本屋大賞は、業界人やいわゆるプロのためにやっているのでなく、お客さまと本屋さん自身のためにやっているのだ。今年も頑張ろう。
そのYさんに「少しずつ売れ筋の文芸書が出て来ましたね」と話を振ると「そうそう。この辺で2月はひっぱってもらって、3月は村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』、4月は本屋大賞で頑張らないと」とのこと。こうやって4月の売上に数えてもらえるようになっただけでも本当にやって良かったと思う。
その後は六本木に移動し、A書店さんを訪問。長年、文庫担当だったMさんが「文庫に戻りた~い。文庫はやればすぐ反応があったのに、文芸はどうしてこうも重いの~」なんて嘆いていたが、ほんとに1500円を人様に出していただくのは大変なことです。ぜひ一緒に頑張りましょう!ってやけに警察が多いな?
「売れてる本、気になる本」
『つまらない手みやげですが』葉月二十一(小学館)ー「『ラビタ』で長年連載されてきたエッセイ集。銀座・教文館で9位にランクイン。思わず買ってしまいました」
『ブルース飲むバカ歌うバカ』吾妻光良(ブルースインターアクションズ)ー「幻といわれていた名著が増補改訂で復刊されたらしい。12月の発売ですでに2刷。羨ましいかぎりです」
『世界屠蓄紀行』内澤旬子(解放出版社)ー「今のところ2007年ノンフィクションナンバー1。 素晴らしいの一言」