WEB本の雑誌

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2月24日(土) 炎のサッカー日誌 2007.01

「サッカー日誌はやっぱり負けて、負けて、苦行だなんて言いながらも、レッズを応援している杉江さんが面白かったんですよ。だから今は…」なんて言ってきたのは、マリノスサポのL社Nさんで、確かに巨人ファンが勝った勝ったと喜ぶ日記なんて面白くもなんともない、というか気分の悪い。深く反省し今年から「サッカー日誌」は封印しようと決意していたのだ。

 ところがこの日行われたゼロックススーパーカップでは、久しぶりにそのサッカー観戦=苦行な状態に陥り、いきなり禁を破って書かずにいられない。0対4って何だ? まさにガンバ大阪サポが歌ったように「うんこレッズ」だ。

 しかしである。良いんだこれで。サッカーはやっぱりそんなに甘くないし、連覇なんていうのはよほどの精神力がないと達成できないだろう。その難しい目標をクリアするために今日のような「うんこレッズ」があったのだ。この日から選手もサポーターもまた挑戦者になれたはず。来週を見ていろよ。

2月23日(金)

 通勤読書はついに用心棒シリーズ最終巻となる『凶刃 用心棒日月抄』藤沢周平著(新潮社)。この巻のみ前3作とは違い長編となっている。そして老いや別れが端々に語られ、読んでいる方もつらくなる。

 千葉会で会っているけれど、しっかり昼間も会いましょう、ということで、千葉(総武線)を営業。千葉、津田沼、船橋。

 営業の合間、集中力が切れそうになると、まず思い出すのは家族の顔だ。妻、娘、息子、あるいは父親や母親。みんな必死に働いているから負けるわけにはいかないし、娘や息子には胸を張れるような仕事をしたい。

 そしてその次は友の顔だ。相棒とおる、親友シモザワ、子分のダボなど。奴らだってつらいことに歯を食いしばって、立ち向かっているのだ。俺だって逃げるわけにはいかない。

 くじけそうになったときは、そうやってモチベーションをあげ、次のお店に向かう。

2月22日(木)

 発売が延びに延び、3月5日搬入となった『世界文学ワンダーランド』牧眞司著の書き下ろし部分<はじめに>を読んで胸を熱くする。「文学は最高のエンターテイメントだ!」と主張する牧さんの魂の叫びが炸裂しているのだ。僕はその<世界文学>に疎いけれど、この本を参考にこれからその大海を漂流しよう。そういう人間には本当に素晴らしいブックガイドになっている。うーん、初回分の〆切間近だが営業を頑張ろう。

 というわけで恵比寿から浜松町を各駅停車で営業。夕方にはこの本がピッタリだろうと思われる書店&担当者さんのいる青山ブックセンター六本木店へ行き、Mさんに再営業。<はじめに>や<目次>を見せると外文ツウのMさん「素敵!」と声を漏らし、以前いただいていた注文部数を上乗せしてくれる。うれしい。

 営業を10年以上続けているけれど、結局その本以上の営業はできない。僕に出来るのはその本の良さを伝えることだけだ。

2月21日(水)

 朝、武蔵野線に乗り込んだところでしばし悩む。やっぱり早く読みたい『ラスト・イニング』あさのあつこ著(角川書店)。藤沢周平の用心棒シリーズもあと1冊だから、ここは一気に読み進んでしまいたい。しかししかし、あさのさんの新刊が鞄に入っているのに我慢するのは、至難のわざだ。えーい、ここはひとつ一度又八郎に引っ込んでいただき、巧や豪そして今作の主人公らしい瑞垣に登場願おう。

 というわけで読み出した『ラスト・イニング』。これは非常に紹介しずらい。なぜならどれを書いても『バッテリー』のネタバレになってしまうのだ。ここでは彼らのその後の物語を瑞垣の視点で描かれているとしか、いいようがない。

 しかし巧という強烈な個性が際だっていた『バッテリー』のある意味脇役であった瑞垣が、これほどまでに深い登場人物だったとは。いや違う。瑞垣こそがもしかしたら『バッテリー』の中心だったのではないかと思えるほどだ。それはもしかしたらあさのさんから「誰だって主役なんだよ。自分の人生を歩いているんだよ」というメッセージなのではないか、なんて思わず深読みしてしまったほどだ。朝日新聞に掲載された「いじめ」に関してのあさのさんのメッセージはあまりに素晴らしく、いつか子供に読み聞かせようと取ってあるけれど、この『ラスト・イニング』にも同様な想いが込められている。

 そしてどの視点からでも良いから、彼らのその後の物語を読み続けたいと思った。

★   ★   ★

 飯田橋・深夜+1の浅沼さんと昼食。浅沼さんの現在のイチオシ本は、『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』だそうで、探査ロケット「はやぶさ」 の開発とその後を追った素晴らし
い大興奮のノンフィクションだとか。うーむ、面白そうではないか。というわけで即購入。

 その後は神保町を廻るが、三省堂さんの5階でも非常に面白そうな本が展開され、売れているとか。

『宇宙から見た日本 地球観測衛星の魅力』新井田秀一著(東海大学出版会)
『スパイ的思考のススメ』ジャック・バース著(日経ナショナルジオグラフィック社)

 そしてT書店のSさんが今年還暦だと知り驚く。もしかして書店業界にも2007年問題があるのか。これ以上ベテランの書店員さんがいなくなってしまったらどうなるのか。

 夜は、酒飲み書店員及び営業マンの集団、千葉会へ。

 千葉会は、ここ1年くらい月に1回集まって、酒を飲んでいるのだが、よくよく考えてみると不思議な集団だ。先日新年会のあったネット21会のようにきちんとした組織でもないし、本屋大賞実行委員会のように目的があって集まっているわけではない。しかし酒だけで終わらず、互いに協力して販促活動をしていたりして、有志団体としては理想的な姿なのではないか。

 そしてこの日も各テーブルで口角あわを飛ばすじゃないけれど、本やその他の話で大いに盛り上がる。そこには版元だからとか書店員だからなんて遠慮や傲慢もなく、言いたいことを言い合える。人と人としての付き合いがここにはある。会社で少しツライことがあったので、思わず途中その光景を見ていて涙が出てきてしまった。

2月20日(火)

『ONCE UPON A TIME』の重版が出来上がり、無理を言って朝イチで納品してもらう。早速椎名さんにサインをしていただき、某所へ送品。その椎名さんの「すばる」の新連載「いいかげんな青い空」が非常に面白かったのでその感想を伝える。こんなこというのは大変おこがましいけれど、最近の「本の雑誌」の連載や「週刊文春」も往年のパワーが戻ってきたようで、非常に面白いのだ。

 ちなみに通勤読書は用心棒シリーズ3作目『刺客 用心棒日月抄』藤沢周平著(新潮文庫)。またまた江戸に戻る又八郎。こうかくとマンネリ系の小説かと思われるがそんなことはなくて1作、1作、手を変え品を変え楽しませてくれるのだから、藤沢周平おそるべし。

 営業は渋谷から銀座線。しかしなかなか担当者さんに会えず撃沈。やっときっちりお話出来たのは戻ってきた新宿でのK書店さん。Kさんと中堅の作家さんの売り出し方を悩み、読書傾向の似ているHさんからは『ラスト・イニング』あさのあつこ著(角川書店)を激烈に薦められる。いや当然もうそれは買っているのだが、とりあえず用心棒シリーズが終わるまで取ってあるのだ。しばしお待ちを!

2月19日(月)

 月曜の朝。寝間着からスーツに着替えていると自然と笑みがこぼれてしまう。変人か? いや違う。何も今日から始まる仕事が楽しでなんて奇人変人大集合な話ではないのだ。

 そんなことでなく、なぜ月曜の出社が楽しいのか? それは土曜、日曜の子供べったり一人が三人人状態から48時間ぶりに抜け出せることがうれしいのだ。そしてゆっくり通勤時間約1時間を読書にあてられることが。

 土、日だって時間をみて…と思われるかもしれないが、子供と朝から晩まで遊んでいると向こうのエネルギーが切れる頃には、こちらも事切れ、夜の9時には三人揃って寝てしまい、気づけば朝。そのときすでに娘と息子が僕の身体の上に馬乗り状態になっているから、本なんて一冊も、いや1ページたりとも読めないのだ。金曜の晩に、あれも読もうこれも読もうと未読の山から取り出しているのに。

 その苦しみからやっと抜け出せると思うと、つい微笑んでしまう。そして月曜で空っぽの鞄のはずが、文庫を2冊に単行本も2冊と読めやしないのに本を詰め込む。ぐふふ。幸せ、なんて。

 というわけで通勤読書は、先週末から読みたくて読みたくて仕方なかった藤原周平の用心棒シリーズ二作目『孤剣 用心棒日月抄』(新潮社)。またもや江戸に戻られた又八郎、シリーズ第一作の最後に出てきた佐知と手を結び、密命を遂行できるか! うーん、面白すぎる。

 書店さん向けダイレクトメールの制作にまごつき、出来上がったのが3時。このまま社内でデスクワークをしてもいいのだが、それでは何だか消化不良な一日になりそうなので、えいっと飛び出し、新宿へ。南口のK書店さんへ向かうと担当替えがあったようで、新しい担当者さんにご挨拶。Sさんはとっても外文や古典に詳しそうで、これからいろいろとお話を伺っていこう。

 夜は「尾道坂道書店事件簿」の児玉さんが上京されていたので酒。とことん本と本屋の話を堪能するが、東京(大都市圏)と地方と同じ販促をしていていいのだろうか…なんて疑問が浮かんでくる。それは接客のことだったのだが、東京で正解の方法が、児玉さんのいる啓文社さんでは不正解だったりするそうで、その辺は狭い日本といいながら一筋縄ではいかないということを理解する。

 そうなると販促方法や展示スタイル、あるいは在庫だってその土地その土地のやり方があるのではないか、なんて気がしてきたのだ。どうだろう。

2月13日(火)

 とある書店さんにて。

「杉江さんさ、本の値段どう思う? 高い? 安い? えっ安いと思ってる? ほんと? だってさ、例えばテレビゲームがあるでしょ。杉江さんは僕と同じくらいの歳だから、初めから知ってるよね、テレビゲーム。そのゲームの値段、この20年でどう? 同じくらいか安くなってるよね。でさ、内容はどう? ゲームが出来た頃のギザギザの画面と今の画面、すごい進歩してるよね? じゃあさ、携帯電話はどう? 値段も下がっているし、中味もどんどん進化してるよね。でね、本や雑誌はどうかっていうと値段は同じか上がってるよね。ジワジワと。でもさ、中味はずーっと同じままだよね。活字や写真が印刷されているだけでさ、進歩してないよね。その同じものが同じような値段で売ってるって、お客さんはどう思うかな。やっぱり高いと思うんじゃない。

例えばさ、今の単行本がだいたい1500円くらいだとして、これが500円とか800円で売っていたらどう思う? 杉江さんだって今は我慢している本を買うでしょ? やっぱりね、今は割安感がないと売れないと思うの。それくらいシビアになってるの。お客さんすぐ『文庫になってませんか?』とか聞いてくるし、パラーっと見て後ろの値段見て置くよね。だいたい新刊が段ボールで届いて、僕たち書店員が、これいくらだと思う?ってやったらほとんどの値段当てられるよね。もしくは思っているより高いか。

だからね、売れない売れないといいつつ、この10年ほとんど何もやってきてないわけでしょう。いやもちろんPOSとか入れてデータって叫びだしたけど、それをやっても売上は下降しているんだからもしかしたらそういう方法が失敗だったのかも?って考え直す時期が来たんじゃないのだかな。それでね、値段のことなんだけど、これからはもっと値段を下げて、それで買わすような戦略も必要だと思うんだよね。僕が思うのはだいたい今1500円の本を1000円とか800円でね。その分売れるようになればいいわけだし、出版社はもっとその辺のコスト削減を努力した方がいいと思うんだよね。

でもね、安くするために今のクオリティーを下げちゃダメだよ。まあ本文用紙くらいは安いものにしても良いけど装丁や表紙まわりは大事だからね。これがこんな安いのか!ってお客さんに思わせないとダメだから。

なんでこんなこと言っているかっていうとさ、このままいったら10年先はあっても20年先はないと思うんだ。だからさ、これからもっともっと攻撃的に変えていかないといけないと思って。でもさ、今、上にいて権利を持っている人たちは、あと5年とか10年自分さえ逃げ切れればいいと考えている人が多いんだよね。そりゃそうだよね。僕らだってその歳になったら、そう考えるかもしれないし。でもさ、僕らの年代はもっと闘わないといけないよね、そういうおっさん達と。

なんかさ、僕ら割りと保守的で黙っちゃうじゃない。でもそれじゃ未来がないよ。コンビニの雑誌販売に関しても、新古書店に関しても、図書館に関しても、出版社はもっと本を大事にして闘っていかなきゃ。昔はもっと威張っていたんだよ、出版社って。どうしてこうも数字数字、今だけ売れる方になびいていくようになっちゃったのかな? とにかくもっと本と本屋の力を信じて、未来のことを考えて動いて欲しいのよ。杉江さんも頑張ろうよ」

2月9日(金)

 直行で印刷会社へ。通勤読書は、高野秀行さんの作家の読書道(http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi63.html)に刺激され、『たそがれ清兵衛』藤沢周平(新潮文庫)を読む。実は4,5年前に購入し、何篇か読んでいたのだが、そのときは藤沢周平の面白さがわからず挫折積ん読になってしまっていたのだ。ところがそれから月日が経ち、読んでみるとあら不思議! 無茶苦茶面白いではないか! というわけで一気読み。清兵衛の愚直な愛とちょっとしたおかしさに涙しつつ、他の作品も素晴らしい。

 うーん、サッカーボールと女の子ばかりを追いかけるアホ少年は、30歳で司馬遼を知り、35歳で藤沢周平を知ることになるとは。いったいいつになったら一般教養が身に付くのだろうか。

 そんなことよりなぜ印刷会社に直行したのか? なんと椎名編集長渾身の写真集『ONCE UPON A TIME』の重版がかかったのだ!

「ビバ!! 重版!」

 なんて響きの良い言葉なのだ。しかしどうして我が社は制作単価の高い本ばかり重版がかかるのだ。『千利休』もあの七色に光る表紙がとっても高いのだ。おかげで僕が重版を宣言しても、社内がイマイチ盛り上がらない。

 しかしどんなに制作単価が高くても、やっぱり自分たちが作った本が自分たちが思った以上に受け入れられるのはとてもうれしくて幸せなことだ。職人魂炸裂の印刷会社の人と大きな機械から刷り出される重版分の色を浜本と二人で確かめる。

 夜、会社に戻って、デスクワークに勤しんでいると、伝説の助っ人・及川くんがやってきた。おお! 2年振りか?! 何してた? ハワイの農場で働いていた?

 というわけでその及川くんと現役助っ人とそれから事務の浜田を連れて、新宿・海森2で酒。日頃、僕のいうことなんてまったく聞く耳を立てないどころか耳を塞ぐ鉄平含め現役助っ人が、世界を旅する及川くんの話は耳を立てるどころか食い入るように聞いているではないか。チクショー、どうせ僕は世界なんて行けなくて、首都圏をうろつく営業マンさ。増えるのは目尻のシワばかりで格好良くねえよ。

 とイジけつつ、シークワサーサワーを飲んでいると、だいぶ酔っぱらった事務の浜田が、及川くんの肩を抱きつつ「人生はさぁ、好きなことやるのが一番だよ」なんて叫んでいる。まるで自分に言い聞かすように大声を張り上げているのだが、彼女は最近こればっかり。大丈夫かな?

2月8日(木)

 通勤読書は『失われゆく鮨をもとめて』一志治夫著(新潮社)。

 我がサッカー本ベストイレブンで殿堂入りしている『狂気の左サイドバック』の著者である一志さんの新刊だ。鮨が食えない僕だけど、これは読まねばならない。

 というわけで今回は東京・目黒にある「世界一幸福な食事」を提供する鮨屋さんをスタートにそのネタを提供する日本各地を親かと一緒に旅するノンフィクションなのだが、親方はもちろん、漁師や酒屋、米屋のこだわりが想像を超えている。鮮度が一番とはいえ、魚によっては絞めてからからの時間によってうまみがどう出るかとか、もしかしたらネタによって酢飯を変えた方がいいのではとか、小鰭も漬ける時間によって何種類もあるとか、料理が、そして食べるということがどれほど奥深いものなのか教えられた1冊。素晴らしいノンフィクションだ。

 そんな贅沢な気分をぶっ飛ばすのが相変わらず片づかないトトロの森。そのあまりの汚さに清掃業者に頼むことにしたのだが、せめて冷蔵庫の中味や、飲みかす食べかすだけは先に処分したいとのことで、ホットケナイ浜田が、清掃に向かった。

 約5時間の格闘の末、とりあえず床にぶちまけられていたゴミの片づけを終える。その量東京都推奨ゴミ袋12袋。そして意気揚々と戻ってきた浜田であったが、手にしていた段ボールを覗き、ギャーと叫ぶ。なんとその段ボールのなかにゴキブリが潜んでいたのだ。

「鉄平!! 早く!!!」
「早くってなんですか?」
「早く退治して!!」
「ヤですよ」

 おいおい、いくらアルバイトとはいえ、ゴキブリ殺すのは仕事にならんのではないか? 

 しかし逆上した浜田にそんなことを言っても通じるわけがなく、編集の松村が隣のファミリーマートに殺虫剤を買いに行き、それを鉄平に渡し、鉄平はブツブツ不平を漏らしつつ、手袋をはめ、いざゴキブリ退治。しかしゴキブリはそうそう簡単にころりといかぬ。しかもあろうことか段ボール1箱に3匹を潜んでいたもんだから、鉄平も大わらわ。しまいには浜田に「手でつかめ!」なんて言われたが、そんなことできるわけがなく、大騒ぎしつつ、足で潰す。 

 こんな段ボールに3匹もいたんじゃ、部屋にはどれほどのゴキブリがいるのだ。今度はバルサンを買ってきて、こいつを一気に退治じゃ!と思ったのだが、なんとなんと火災報知器が作動してしまい、あわてて消すという顛末。しかも4階だけ退治しようとすると、下の階に移動してくるというとんでもない話も飛び出し、何と掃除業者が入る前に、害虫駆除会社が入るという噂。

 3月号の「笹塚日記」最終回で泣いたという感想を多くの読者からいただいておりますが、本当に泣きたいのは僕たちなんです。

2月7日(水)

 新しく入った助っ人アルバイトが妙にイケメン男子揃いで、ここのところ事務の浜田の歌声は1オクターブ上がっている。

 ならば元々いた超イケメン男子の橋本君と合わせて、アイドルグループを作ってしまおうということで急遽「BMAP」結成を叫ぶ。しかしこの名称には、アイドルグループには絶対入ることができないであろう鈴木先輩デザイン室の鈴木先輩から「つまんないっす,それ」とあっけなく却下されてしまったので、BMAP(仮)で進めることにする。

 まずセンターは少女マンガの主人公のようなメガネ男子・橋本くん(通称ハッシー)。右はちょっとやんちゃ顔の石川くん(イッシー)、そして左は理系男子の宮家くん(ヤッシー)だ。もう鉄平の日誌は終わりにして、写真入りでこいつらを売り出し、女性読者を増やす方向に行こうか。デビューシングルは『返品ノムコウ』だ。朗読とかさせてユーチューブにのせちゃうか。いやほんと僕がいうのも変ですけど、カッコイイんです、こいつら。

 そういえば昔からなぜか美形男子が集まるバイトで、数年前に卒業していったツバサに直納させたときなんか折り返しで女性書店員さんから電話があって「もう杉江さんは来なくていいから」なんていわれたことがあったっけ。こうなったらBMAPOBなんてのも結成し、卒業生ユニットも誕生させよう。

 そのメンバーのセンターはツバサで、右はあさのあつこさんも思わず原稿依頼を受けてしまったというジャニーズ系美男子G社のシノピー、左は伝説の助っ人肉体派の及ちゃんだ。ここで難しいのは大手出版社K社にいったヨコチンで、こいつは美形は美形なんだけど、アイドルって感じじゃないんだよな。去年卒業していったタテノも二枚目なんだけど、唯一の女子助っ人本池からダメ出しがでたので、BMAPOB入りは見送る。

 ちなみにBMAPジュニアは、現役助っ人の松倉君と原田君で、これからの成長に期待。マネージャーは僕、プロダクションの社長は浜本だ。浜本はすっかりその気になっていて「もういいじゃないですか」なんて日影忠雄になりきっている。

 BMAP(仮)の初舞台は本屋大賞発表会か!? 乞うご期待! って鉄平そんなに拗ねるな。

2月 6日(火)

 やばい、と思ったときには時すでに遅く、涙と鼻水がドッと出て来てしまった。

 中場利一さんの新刊『シックスポケッツ・チルドレン』(集英社)を読んでいたら、涙が止まらなくなってしまった。大阪の漁師町を舞台にした不良の物語だから設定的には『岸和田少年愚連隊』と似ているのだが、もうちょっと物語的になっており、特に6章あたりからの完成度は素晴らしい。小道具も利いているし、何よりおとんがカッコイイのなんの。岸和田ファンにはもちろん、中場さんを読んだことのない人には特にお薦めの作品だ。

 昼飯にラーメン屋に入ると、そこは太麺と細麺を選べるお店で、僕はすぐさま好きな太麺を頼んだ。ところが隣りに座った若者は、店主から「どっちにしますか?」と聞かれても、うーんと唸り黙り込んでしまう。おい! 太麺か細麺でそんなに悩むな。と思っていたら「どっちがおすすめですか?」なんて店主に聞き返し、店主も鬱陶しく思ったのか「どっちも一緒です、お客さん好みですね」と突き放す。それでもしばし悩み、やっと出した結論は「細麺で」。お前には自己主張とか決断力とかないのか!と頭を叩いてやろうかと思ったら「麺は堅めで」と付け足しやがったからビックリ。そこはこだわるのか…。

 川崎を営業。駅直結の大型商業施設ラゾーナが出来て以来、まったく人の流れが変わってしまったが、書店さんの売れ行きも当然その人の流れに左右されるわけで、既存店は大変だ。蒲田、大森、大井町と営業し、夜は角川書店さんのご厚意で映画「バッテリー」の試写会に参加させていただく。

 本を読んで映画を見ると、大概ガックリしたりするのだが、この「バッテリー」は登場人物もだいたい想像どおりのキャスティングだし(瑞垣が素晴らしい!)ストーリも原作を大切にしているのが伝わってくる出来映えで、充分、楽しめた。そしてそして何より小説『バッテリー』の僕にとっての一番大切なところ、それは巧の一直線な気持ちから伝わってくる「お前は今のままでいいのか? 妥協して生きてないか?」というメッセージが映画からもしっかり伝わってきたので大満足。最後の方は試写室にすすり泣きの声がもれていたが、涙腺を刺激されるシーンも少なくない。「バッテリー」読者の皆様、ぜひどうぞ!

2月5日(月)

『おすすめ文庫王国2006年度版』では、すっかり無視されてしまった僕の大推薦本『海のふた』よしもとばなな著(中公文庫)。いまだにあきらめきれず、目黒や浜本の顔を見る度『海のふた』と呟いている。『DIVE!!』も『楊家将』も確かに良いけど、同じくらいこの『海のふた』もいいのに。

 その著者である、よしもとばななの新刊が出たのですぐさま読了。『チエちゃんと私』(ロッキングオン)。

 中年女性の同居生活を描いたストリー的には何でもない話なんだけど、一行一行、心の襞に染み渡ってくるような文章と、ときおりその心の扉をガバッと開けてくるようなメッセージが隠されていて、気づいたら涙が溢れているような物語! 一見癒しのように思えるけれど、実はもう少し突き放していて、自我を一度ぶっ壊して再生するような、強烈な物語だと思う。

 そういえば、以前、新百合ヶ丘の有隣堂さんに「よしもとばななはロックンロールだ!」というPOPとともに『海のふた』が多面展開されていたことがあったけど、この『チエちゃんと私』もロックンロールだ。

 それにしてもよしもとばななはどうしてこうも、日常で言葉にできないような気持ちや気分を的確に言葉に置き換えられるのだろうか。男性も女性も老いも若きも関係なく、もっともっと読まれていい。

 赤坂見附のR書店Mさんを訪問。ここの1階文芸棚のフェアは天才的な切り口とネーミングでいつも訪問の楽しみにしているのだが、今回も女性論客のエッセイを集められていてそのセンスの良さに感動。うまいなぁ。

 銀座に移動。S書店さんは文芸書の担当が変わっていたが、新しい担当のKさんはかつてから付き合いのある書店員さんだったので一安心。ひとり営業の、そして10年も勤めている利点か。『フィッシュストーリー』伊坂幸太郎(新潮社)、『無銭優雅』山田詠美(幻冬舎) とベストテンに入っていて、やっとなんか季節が変わったというか、文芸に変化が出て来たかなという気分になる。

 次に訪問したK書店ではYさんから「うちに古くから来ているお客さんが、今はもう直木賞も芥川賞も興味がなくなって、唯一気になるのが本屋大賞だ、って言っていたよ」と嬉しい話を聞かされる。大抵耳に届いてくるのは悪口ばかりなので、こういう意見を聞くと泣きそうになってしまう。

そうなのだ。本屋大賞は、業界人やいわゆるプロのためにやっているのでなく、お客さまと本屋さん自身のためにやっているのだ。今年も頑張ろう。

 そのYさんに「少しずつ売れ筋の文芸書が出て来ましたね」と話を振ると「そうそう。この辺で2月はひっぱってもらって、3月は村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』、4月は本屋大賞で頑張らないと」とのこと。こうやって4月の売上に数えてもらえるようになっただけでも本当にやって良かったと思う。

 その後は六本木に移動し、A書店さんを訪問。長年、文庫担当だったMさんが「文庫に戻りた~い。文庫はやればすぐ反応があったのに、文芸はどうしてこうも重いの~」なんて嘆いていたが、ほんとに1500円を人様に出していただくのは大変なことです。ぜひ一緒に頑張りましょう!ってやけに警察が多いな?


「売れてる本、気になる本」

『つまらない手みやげですが』葉月二十一(小学館)ー「『ラビタ』で長年連載されてきたエッセイ集。銀座・教文館で9位にランクイン。思わず買ってしまいました」

『ブルース飲むバカ歌うバカ』吾妻光良(ブルースインターアクションズ)ー「幻といわれていた名著が増補改訂で復刊されたらしい。12月の発売ですでに2刷。羨ましいかぎりです」

『世界屠蓄紀行』内澤旬子(解放出版社)ー「今のところ2007年ノンフィクションナンバー1。 素晴らしいの一言」

2月2日(金)

 椎名誠写真展の会場から送った荷物が届いたのでその整理。

 それにしてもひとりひとりのお客さんの滞在時間の長い、そしてリピーターの多い写真展だった。うーむ。あの雰囲気で喫茶店でも開いたらいいのではないか。店名はもちろん「ONCE UPON A TIME」 。椎名さんの写真を飾り、BGMはアンドレ・ギャニオンの「静かな生活」だ、ってそれじゃ倉本聡のドラマになっちゃうか。

 世界の貧困を「ほっとけない」と活動しているのはU2のボノだが、本の雑誌社の顧問をほっとけないのが事務の浜田。トトロの森のあの惨状を見て「もういい!」と怒っていたくせに、昨日ちょろっと顔を出して退散してしまったのがよほど淋しかったらしく、朝から目黒さんの話ばかり。しかし相手の目黒さんは浜本には1時間おきにメールをしてくるのに、浜田が送ったメールには返事がない。結局夕方には我慢できず電話してやがる。

 昨日訪問したジュンク堂書店池袋本店では、『オシムの言葉』を読んで熱狂的なジェフサポになった田口久美子さんから「アベ~」と散々罵られる。平身低頭、謝る。実はその前に訪問したS書店ではYさんが鹿島サポだということを初めて知り、こちらでも「アベまでとってどうすんですか?」と怒られたのだ。弱いときはあんなにみんな優しかったのに…。

 地下に降りてコミック売り場のTさんが絶賛していた『クレイジーカンガルーの夏』誼阿古著(GA文庫)を購入。GA文庫デビュー!なんてひとりで騒いでみたが、そういうことは関係なく面白そうな青春小説だ。しかもあとがきを読むと僕と同じ佐野元春ファンのよう。期待大。

 インド行きの願掛けでなぜか自転車で日本を南下し、いろんな神様にお祈りしに行っている高野秀行さんの『神に頼って走れ! 自転車爆走日本南下旅日記』(http://bunko.shueisha.co.jp/takano_diary/)がすこぶる面白い。発想自体最高だし、やっぱり高野さんの文章は味がある。

 こういうのを読んだり、あるいは椎名さんと長い間過ごしてみてわかったのだが、僕には文才はもちろん、人間的魅力も思い切り欠けているってことだ。何だかこういう公の場で、日記を書き続けるのがちょっとつらい。うーむ。

2月1日(木)

 椎名誠写真展は無事終了。スタッフ一同、椎名さんから「写真展もイベントも100点満点の仕切りだった」と誉めていただき、感無量。椎名組のみなさん、デザイナーの呉さん、お疲れさまでした。撤収作業終了後、池林房で打ち上げ。片づけ要員として参加していた関口鉄平が、妙にはしゃいでいたのはなぜなんだろう。

「今日くらい代休を取ればいいのに」といろんな人から言われたが、一番疲れているはずの椎名さんが朝から北海道へ取材に行くとのことで、とても休んでなんていられない。おまけに日常の仕事は山盛りだし、2月の新刊『世界文学ワンダーランド』牧眞司著の営業は佳境なので、本日もいつも通り9時30分にキッチリ出社。同様に疲れきっているであろう事務の浜田もフラフラと自転車でやってくる。「俺たちは偉い」と自画自賛しあう。小さい会社は誰も誉めてくれないからこうやって自分で誉めるしかないのだ。

 しかしこんな忙しいときに引っ越していった目黒考二の辞書には「立つ鳥跡を濁さず」という文字はなかったようで、トトロの森は酷い有様。あまりに酷いので、3月号掲載の笹塚日記最終回の文面に涙し1Fへの机移動を許したことを深く後悔する。この人は決して甘えさせてはいけないのだ。

 というわけで「笹塚共同生活11箇条」を急遽作成。

一、仕事の邪魔をしない
一、整理整頓を心がける
一、荷物を増やさない
一、あくびは一日3回まで
一、首タオル禁止
一、使った食器は自分でかたす
一、冷蔵庫使用禁止
一、社員を助ける
一、靴、鞄、傘、キャリーカートはすべてひとつに限る
一、居候であることを忘れない
一、お家に帰ること

 まだいくらでも出てきそうだが、とりあえずここまでをプリントアウトし、目黒の机にビッタリ貼る。読者はなんて厳しいんだと思うかもしれないが、ほんとにほんとにこれくらいビシッと伝えておかないと、大変なことになるのだ。

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