WEB本の雑誌

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5月30日(水)

 通勤読書は、『鯨の王』藤崎慎吾(文藝春秋)。装丁を見た瞬間に「これは絶対面白いのではないか!」と我が読書レーダーが鋭く反応したので、即買即読。まだ冒頭の20頁くらいしか読んでいないのだが、この先上下2段組480ページをめくるのが楽しみで仕方ない。

 と思っていたら幻冬舎の編集者であり、元・本の雑誌社の助っ人であるSくんが6月発売のあさのあつこさんの新刊『ランナー』のゲラを送ってきてくれたではないかっ! ありがとうSくん。ここのところなぜか続いている陸上ものの取りを飾る作品になるのか、早速読み始める。

 本日は遅れに遅れてしまった椎名編集長のエッセイ『らくだの話ーそのほか』の事前注文〆作業。デスクワークに勤しみつつ、何だか途中で疲れてしまったので、新宿の書店さんへ。そのまま中井の伊野尾書店さんを訪問し、取り置きしておいてもらった『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の6巻を購入。「伊坂幸太郎さん絶賛!」なんて帯が付いているからではないか。

 店長の伊野尾さんから、5月25日の日記は「なんかあの感じだとすごい仕事にハツラツとした本屋みたいで、知らない人に大いに誤解を与えそう。 あれは、あくまで杉江さん個人の感想であり、伊野尾の評価は個人差がありますと一筆入れおいて置いてください」と頼まれる。こういう自然体な感じが伊野尾さんの魅力だと思うのだけれど、皆さんどうでしょうか。

 いつまでも逃げてられないので、夕方に会社に戻り、〆作業。そうしていると印刷所から見本が届き、和田誠さんの素晴らしい装丁に頬ずりしてしまう。さあ、売れてくれ〜。

5月29日(火)

 昨日が途中で終わってしまったので、銀座へ。その前に赤坂見附に立ち寄ると「帰らない男」フェアに続き、今度は「他人の日記を読む」と称して日記フェア。ようは『笹塚日記』を売るためのフェアを2ヵ月間に渡って開催してくれているのである。

 店長のMさんに深く感謝すると「でもさ、売れたのよ。『笹塚日記』もそうだけど、『酒と家族は読書の敵だ』も売り切れたし、茶木さんの『帰りたくない』も売り切ったのよ。うれしいなぁ」と素晴らしい報告を受ける。しかしうれしいのはそこまでで、その後とても哀しいお知らせを聞く。残念無念。

 銀座を営業し、六本木へ。
 青山ブックセンターのMさんは文庫担当一筋でいらしたのだが、今年から文芸書に移り、しばらく哀しそうな顔をされていたのだが、なんのなんの。なかなか売れない文芸書をあの独特のPOPで紹介し、しっかり売られているではないか。本日も予想外の外文がベスト2をしめていて、その実力を改めて思い知る。Mさんとは個人的上半期ベスト1の『ミノタウロス』佐藤亜紀著(講談社)の話で大いに盛り上がる。

 ちなみに青山ブックセンター六本木店では、6月1日から「伊坂幸太郎さんの本棚」というフェアが開催されるとか。伊坂さんがセレクトした21冊の本がコメントつきで紹介されるそうだ。ファンの方ぜひどうぞ。

 そんなこんなしているうちに18時となり、神保町の東京古書会館へ。なぜかわからないけれどこちらで開催されている「アンダーグランド・ブックカフェ」というイベントで永江朗さんと往来堂の笈入さんと僕で「『本屋』の現在と未来を語る一夜」という公開座談会を行うことになってしまったのだ。

 うーむ。僕、極端なあがり症で、しかも話下手。何度かこういうお話をさせていただいてきたのだが、自分に向かない仕事ナンバー1であることに気づき、できればというか、かなりはっきりとお断りしたいのである。しかし、今回のイベントは編集の藤原が大層お世話になっている人からの依頼なので、仕方なく恥をさらすことにしたのであった。

 で話なのであるが、いかんせんテーマが広範囲過ぎるのと、なるべく明るい話にという無謀な条件を突きつけられつつ、司会の永江さんがうまくコントロールしていただいたので、どうにか1時間30分が無事終了。しかしやっぱり自分にはこういうことは向いていないと深く反省。お越し頂いた皆様、スミマセンでした。永江さんと笈入さんの素晴らしいお話だけを胸に、何かの役に立ててください。

 というわけで打ち上げを終えて、帰宅したのであるけれど、後悔と反省の嵐で一睡も出来ず。見分不相応なことをやってはいけません。

5月28日(月)

 東京出張に来ていた京都の化学同人のYさんと昼飯。会う度に大きくなっているような気がするのだが、あと少しで体重が三桁の大台に乗るとか。

 このYさんはこのHPを見てメールしてきてくれた同業者なのであるが、僕が関西に出張に行く際、本の雑誌社が1泊分しか宿泊費を出してくれなかったので、Yさんの部屋に泊まらしてもらったことがある。とんでもないような気がするが、本当にとんでもない会社であり、僕だ。そして一宿一飯の恩義をいまだ返せず、友達になって誤魔化そうとしている今日この頃。

 出張といえば、親友のシモザワがなんと名古屋に転勤になってしまった。しかも単身赴任で、とても淋しい、ひとりじゃ寝られない、と毎夜メールしてくる始末。「うちに泊まっていいから名古屋出張に来てくれ」とうるさいので、急遽、名古屋を重点営業地域とし、これからしょっちゅう名古屋に行こうかと考えていたりする。

 本日の営業は、関西でも名古屋でもなく東京。ビルが建ちまくる東京。大手町のK書店さんは担当者が変わられていてひとまず新担当者さんにご挨拶。次に訪問した丸の内のM書店さんで久しぶりにUさんとゆっくりお話。江國香織さんや堀江敏幸さんのトークショーが開催されるとかで、いやはや活気がある。

 線路を越えてY書店さんへ。こちらも時代小説の棚が増えたりして、よりY書店さんのお客さんにあった商品構成を追求されている様子。KさんもMさんもいらっしゃらかったので、再度訪問することにして、銀座へ移動。K書店のYさんから「4月の文芸書は本当に酷かったのよ。あれで本屋大賞がなかったらどうなったことやら。本屋大賞様々よ。ありがとうね」と優しい言葉をかけていただく。涙。

 新宿や銀座などの若い女性が多い場所では『東京てくてくすたこら散歩』伊藤まさこ著(文藝春秋)が絶好調! 小説ではないけれど、少し売れる物が出てくるといいなと思う今日この頃。

5月27日(日) 炎のサッカー日誌 2007.08

 ああ、この糞詰まり感、どうしたら良いんだ。千葉から始まった引き分け街道は、大宮、インドネシアを経由し、大阪に辿り着き、途中名古屋のサービスエリアで休憩。これで一気に連勝街道へ乗り換えるかと思ったらまだまだ続く。オーストラリアを越えて横浜へ。

 6月の成績、1勝6分けってなんじゃらほい。それってもしかしたら3勝4敗と同じ勝ち点なのではなかろうか。4回負けていたら大変だぞ。それになんか今日の試合もそうだけど、先制されて追いつく同点が多いから、何だかちょっと満足感があったりして、すっかり騙されてしまうではないか。まあ負けないことは良いことだけど、勝てないことはよろしくない。ふげー。

 ブチぎれて家に帰ると、妻もブチ切れていて、最悪の展開へ。レッズが勝たないといろんなもんがうまく廻らなくなるので、頼む、勝ってくれ。そしてこの糞詰まり感をなくしてくれ。嗚呼。

5月25日(金)

 ゴールデンウィーク前のこと。中井の伊野尾書店を訪問すると、店長の伊野尾さんから「あっ今から神田村に仕入れに行くんですよ。もし時間があるなら一緒に行きませんか?」と魅力的な誘いを受けた。神田村というのは神保町界隈にある小さな取次店さんの総称で、都内の書店さんは急ぎの商品や大手取次店に発注してもなかなか手に入らないような本をこちらで仕入れていたりする。以前から神田村の話は聞いていたのだが、実際、覗いたことはなかった。その日は都合良くそれほど急ぎの仕事もなく、というかチビ版元のひとり営業なんていつも急ぎの仕事なんてないわけで、二つ返事で了解し、伊野尾さんの車に乗り込んだのである。

 中井から早稲田通りを通って神田村へ。意外と道は空いていてあっという間に到着。まず向かったのは日書連の建物。もしかして若手書店員代表として何か意見を申しにいったのかと思ったらビニール傘を仕入れに来たそうで、「ほら、うちは地下鉄の出口の脇にお店があるでしょ。だから売れるんですよ」と伊野尾さん。なるほど傘はここで売ってるのね。

 次は大洋社の店売へ。1階には新刊がずらっと並べられていて、一見、普通の本屋さんと変わりない。伊野尾さんは手にした短冊を眺めつつ、該当する本を抜き、他にもめぼしい新刊がないか真剣な表情で店内をうろつく。その日は『鹿男あをによし』万城目学(幻冬舎)の重版がちょうどあがった日らしく、平台の一番良いところに10数冊積まれていた。

「あっ」と嬉しそうに伊野尾さんが手を伸ばす。
 僕はてっきりガバッと全部取るのかと思ったら3冊のみ。

「そんなもんでいいんですか?」と聞くと、「まあ」と呟く。そうなのか? もっと売れるんじゃないか?なんて勝手に想像してみるが、そうじゃないのかもと考えを改める。

 なんていうかもっとシビアなのかもしれない。この神田村の取引は、通常取引のある取次店との取引ではないから現金商売なのだ。だから伊野尾さんはこの後、腕に抱えた本をレジに差し出し、お財布からお金を出し購入したのだ。それは当然返品できない「買い切り」を意味するわけで、ならば売れるかもの部数ではなく、売り切る自信のある部数の発注になるのは当然か。そういえば、町の本屋さんを廻っていると多くの店長から「俺たちは、そんな無謀な発注しないって。売れる数わかるからさ。だから買い切りにして指定にしてもらった方がいいよ」なんて意見を聞くんだよな。

 またこの辺の感覚の違いは町の本屋さんと大きな書店さんの違いかもしれない。というのは町の本屋さんは、不本意かもしれないが、本が「ない」というのをお客さんに伝えるのにそれほど恐怖感がない。お客さんだってなくたってそうは怒りはしないだろう。ところが大きな本屋さんはそうはいかない。「わざわざここまで来たのに」とお客さんから怒られるし、隣のライバル書店にその売れ筋商品があったらたまらない。うーむ、これは役に立つ社会科見学だ、と必死にサボっているわけじゃないぞ、と自分に言い聞かす。いや笹塚方面に向かって呟く。

 次はすぐ近くの八木書店へ。こちらはてっきり古本だけ扱っている取次店さんなのかと思っていたのだが新刊がしっかりあって、不勉強を恥ずかしく思う。結構人文書のシブイものが並んでいたので「こんなんどうですか? 面白いですよ」と調子に乗って伊野尾さんに薦めるが、「それは大きな本屋さんで買ってもらいましょう」と、ここでも無理はしない。

 その後は官報で急ぎの客注を抜き、神田村の核心である東京堂書店の裏手にまわる。まるで普通の町の本屋さんのようなたたずまいなのだが「一般のお客さまには販売しません」の札が堂々と掲げられている。この感じどっかで見たことがあるぞ、と思ったら、そうか小学生時代にガンダムのプラモデルが買えなくて、御徒町かどっかの問屋街を歩いたときの雰囲気だ。そこにあるのに買えない、あの悔しさ。僕は大人になったら問屋に入れる人間になろうと固く決意したのであった。

 これらの神田村の中小取次店には得意ジャンルというか、取引している出版社が微妙に違っているようで、○○は角川の新刊が入るんだよねとか、××は文春があるからさ、なんて毎日神田村をバイクで仕入れに行っている飯田橋の深夜ブラス1の浅沼さんが話していたっけ。

 そのせいなのか、伊野尾さんもまるで目的買いをするような感じで、いくつもの取次店を廻り
、目当ての本を仕入れていく。とある取次店から出てきたときちょっと悔しそうな顔をされていたので「どうしたんですか?」と聞くと、「いやー新潮文庫の『憑神』浅田次郎著と『深追い』横山秀夫著が欲しかったんですけど、前の人に取られちゃって。他のはみんなあるんだけどなぁ」と。なるほどここはここで書店さんが生に在庫の奪い合いをしているわけか。それにしても浅田次郎や横山秀夫はやっぱりベストセラー作家なのだと実感する。

 最後に立ち寄った取次店は、間口の狭い取次店さんだったので、僕は伊野尾さんの車の前でしばし考える。

 例えば僕が本屋さんに客として行くする。その際、購入するのは当然ながら自分の欲しい本だ。どんなに頑張っても息子に小学館の図鑑NEOの『のりもの』を買ってやるか、妻に『田中宥久子の造顔マッサージ(DVD付)』田中宥久子著(講談社)をプレゼントするくらいだろう。

 それでできれば二人に喜んでもらいたいし、妻にはありがとうと本の代金といくばくかの交通費をいただけたら幸せだ。いや金、金、いうような奴だと思われたくないので、その日の晩は発泡酒ではなくビールを注いでもらいたい。

 いやそういう話でなく、とにかく普通、人が本を買うのは自分のためだ。当たり前だ。しかし本日伊野尾さんが購入した(仕入れた)本はすべて自分のためでなく、他人のためだ。この誰かのために本を買い、それが目の前で売れていくというのはかなりの快感なのではないかと思うのである。

 そんな難しいことでなくって全然難しくないか。なんていうか人間みんな買い物欲というのがあるではないか。僕はまだまだ本が買いたいし、買ったら気持ち良い。でも欲しくない本は買えないし、お金もない。それが本屋さんになれば仕入れで解消し、なおかつその仕入れたものが売れるというのは二重の喜びを生むのではなかろうか。

 そういえばとある書店のコミック担当者さんが、某出版社から引き抜きの誘いを受けたときに話していたのがこんなことだ。「出版社はさ、自社の本しか売れないじゃん。でも書店はすべての本から選んで売れるんだよね。その醍醐味は手放せないよね」と。

 おそらくこの辺にも書店という仕事の面白さの秘密が隠れているように思う。

 最後の取次店から伊野尾さんが出てくると片手に妙に赤い本が握られていた。

「杉江さん、いります?」 その本は『決定力 なぜ日本人は点が取れないのか』福田正博著(集英社)だった。「おお!出たんですね!」とあわてて財布を出し、その場で購入。その瞬間、伊野尾さんは出会ってから一番素敵な笑顔になった。まさに書店員の顔である。「楽な商売だなぁ。もう1冊店で売りたいから仕入れて来ますよ」

 うーん、やっぱり面白そうだな。夜、バイトしようかな。伊野尾さん、時給は本の雑誌助っ人価格720円でいかがでしょうか? 試用期間は3ヵ月その間は680円で可です。そんな甘くないか。スミマセン。

5月24日(木)

 昨日は直帰して、埼玉スタジアムへ。いかにも仕事のフリをして会社に直帰の連絡を入れたのだが、事務の浜田はなぜか浦和レッズ系のホームページを確認しており「すごいですね〜、今日は家庭も仕事も捨ててスタジアムへですって、さっそく捨てましたか、仕事?」なんてバレバレだった。人間GPSか? 恐ろしい。

 試合は埼玉スタジアム恒例になりつつある引き分けに終わるが、とりあえずAFCチャンピオンズリーグのグループリーグを突破し、決勝トーナメントに進出!

 その記念すべき試合にアジアどころかJリーグで勝てない頃に一緒に観戦していた相棒とおるを無理矢理誘う。こいつは8年前の大阪転勤以来、生観戦から足を洗い、今じゃ正しい家庭人に成り下がってしまったのだが、やっぱり今宵はこいつと観たい。あの頃、お前は試合終了の笛を待たずに「もう我慢できねーっちよ」と叫んで、何度も途中退席していたよな。それが今じゃアジアだぜ。うれしいな。ついでにお前もレッズサポに帰って来いよと腕を引っ張るが、我が家以上に妻が恐ろしいようで、ザリガニのように後退し、去っていってしまった。

 通勤読書は『マネー・ボール』マイケル・ルイス著(ランダムハウス講談社文庫)。「おすすめ文庫王国2006年度版」で大矢博子さんがオススメしていて、いつか読もうと購入してあったのだが、ついに積ん読の山から本日解放となる。

 それがそれが、オススメどおりの面白さ。貧乏球団のアスレチックスが、なぜ毎年のようにプレーオフに進出できるのか? それはGMのビリー・ビーン等の独特なデータ解析&解釈にあるのだが、いわゆる三冠王なので騒がれる打率や打点をまったく重要とせず、出塁率が最優先されるなんて、いやはや驚きだ。思わず出版業界にもビリー・ビーンみたいな人が現れないかなぁと夢想してしまった。いや違う。僕自身に第9章「トレードのからくり」で暗躍するビリー・ビーンくらいの交渉力があれば、今頃、本の雑誌社は浦和美園に自社ビルを建てていたことだろう。

 営業は、田園都市線へ。
 ここのところ10年の澱を洗い流したような気分で、東へ西へ営業を楽しんでやっているのだが、本日はそんななかでもとっても楽しい一日。

 青葉台B書店さんでは、かつて別の書店で親しくさせていただいたSさんとよもやの再会を果たし、二子玉川のK書店さんではお母さんが定期購読者という書店員Iさんに出会え、そこから路線変更した自由ヶ丘では、Yさんが産休から復帰されているではないか。

 僕は人見知りで、言いたいことがうまく言えない口下手だけど、でもやっぱり本と同じくらい人が好きだ。だからきっと今の仕事は天職だろう。誰に感謝したらいいのかわからないけど、とにかく誰かに感謝したい一日。そんなことを呟いていたら助っ人アルバイトの鉄平が寄ってきた。

「いいですよ、僕に感謝して」

5月23日(水)

 ページをめくろうとするはやる気持ちを必死に抑え、ゆっくり丹念に読み続けてきた『ミノタウロス』佐藤亜紀(講談社)を読了。間違いなく傑作だと思うのだけど、僕の知識や能力ではこの本の面白さを伝えることは到底不可能。どこかで素晴らしい書評があがることを願うばかり。そして僕のなかの『ミノタウロス』に対する気持ちをうまく言語化して欲しい。

 昨日の営業は小田急線へ。

 ところが新宿駅で京王線からJRの改札を通って小田急線に乗り換えようとSuicaをかざしたえバタンと閉まってしまう。まだ1000円以上チャージがあるはずだしと近くにいた駅員に文句をいうと「京王線との提携はしていないので通れません」というではないか。しかたなく一度京王線の出口から出て、小田急線の通常の改札から入る。非常に面倒くさいし、意味がわからない。

 そのときふっと今日はこのルートの営業を控えた方がいいかもと閃いたのだが、いや予定を組んでいるんだから、ずらすわけにはいかないと特別急行に乗り込んだのである。しかししかしその嫌な予感に従っておけば良かったと町田で深く後悔するのであった。何とほとんどの書店で担当者さんがお休みだったのだ。嗚呼。

 哀しみにくれつつ訪問した町田のY書店さんでは、『逆境を生き抜く「打たれ強さ」の秘密』岡本正善著(青春出版社) がベストス3にランクインしていた。そういえば先日訪問した恵比寿店さんで仕掛け販売に成功し、チェーン各店で展開してみることになったと話されていたっけ。確かに打たれ弱い人が多い昨今、このタイトルは多くのお客さんの気を引くだろう。そしてこうやって別のお店で売れているのを見ると、これは今後、青春出版社の掘り起こしベストセラー『日本人のしきたり』飯倉晴武著に続くヒット作になるのかも。

 7年前の本がベストセラーになるってどんな気持ちなのかなぁ…と担当者さんにも会えない淋しいひとり営業は夢を見るのであった。

5月22日(火)

 昨日は、筋肉痛を抱えて常磐線を営業。階段を登るのが一番苦しいのだが、ここまで来て寄らないわけにはいかないだろうと、松戸R書店の文庫売り場のTさんを覗くと、いきなり足に地獄突きを食らわしてくるではないか。「今ちょうど日記を読んだんだよね〜」大人とは思えない、そのいじめっ子ぶりに思わずこちらも学生時代に戻ってしまい、長時間の無駄話をしてしまう。スミマセンTさん、そして順番待ちをしていらした出版社様。

 その後、新松戸、柏と営業。柏のW書店さんがリニューアルされていてビックリ。ヨーロッパの書店をイメージしたという素晴らしい雰囲気は一見の価値あり。残念なのはリニューアルのコンセプトを考えたO店長さんが長期休業中であること。O店長さんがこの売り場に立つ日をお待ちしております。

 さてその後は、今までだったら新松戸に戻って武蔵野線の乗り換え、そちらを営業するというのが、僕の営業ルートだったのだが、おおたかの森に紀伊國屋書店さんが出来たので、野田線に乗る。

 相変わらず平日でもそこそこお客さんの入っているショッピングセンターなのに驚く。しかもジャスコに包囲された浦和に住む僕から見て、ここは高島屋が運営しているので、ちょっと毛色の違うとっても楽しいショップが多く、何だか「油を売る」どころでなく、何か買ってしまいそうな気分になる。ヤバイ!とあわてて紀伊國屋さんに向かう。

 このお店、以前も書いたと思うのだけれど、豊洲店と同じ有名なデザイナーさんが店舗をレイアウトしていて、ギザギザの什器やら他のお店で見たことがない形の什器が森のように立ち並ぶ。しかしそれがあまり奇抜にならず、今までの書店の延長線上の変化で、僕は結構好きだ。何だか発見がありそうな気にさせられるのだ。

そういえば田口久美子著『書店風雲録』(本の雑誌社)のなかで、リブロの山型の不思議な什器「CONCORDIA」について、その設計者である中村さんが「無制限の書棚なんてないんだ。枠の中にどんな本を入れるか、どう入れるか、が書店員の腕の見せ所だ、使いづらいぐらいが緊張感があっていいのさ」といっていたっけ。緊張感、意外とこれがお客さんに伝わるり、真剣に棚を見る気持ちさせるのかもしれない。

 ショッピングセンターの誘惑に負けず、紀伊國屋書店さんを後にする。

 書店の数が減っているというけれど、営業マンの目からするとそれほど減っているような気はしない。いやもちろん駅前の町の本屋さんはどんどん減っていて、訪問してみたら無かったなんてことはざらにあるんだけど、こういうSC内や中規模都市の駅前などに大型店がどんどん出店するものだから、何だか増えているような錯覚を起こさせられる。しかも首都圏でも広範囲になっているし、電車で行けないようなお店も増えつつある。果たして営業ひとりでいつまで保つのだろうか。

5月21日(月)

昨日は一ヶ月ぶりにフットサルがあり、張り切って参加したのだが、まったく動けず。気持ちと身体に2mくらいのズレがあり、パスを出しても通らず、もちろんドリブル突破も出来ず、ここ数年で最悪のでき。

しかもすっかりヤジラー(スタジアムで野次ばかり飛ばす人の俗称、他に指示ばかりするシジラーもいる)になってしまった我が娘からは、「おい! そこの10、全然動けてないぞ!」とか「10、10、今のは決めろよ!」なんて背番号で呼ばれるという屈辱的なダメだしをされてしまった。ぐやじぃ。

通勤読書は当然サッカー本だ。『決定力 なぜ日本人は点が取れないのか』福田正博著(集英社)。田中達也やゴン中山との対談に読みごたえがある。できればカズやラモスなどとも対談して欲しい。

嗚呼、それにしても筋肉痛で節々が痛い。本日、ロボットのような動きをする営業マンを見かけたら、それは僕です。

5月14日(月)

アジアチェンピオンズリーグの影響で今年の浦和レッズは日曜日の試合が多いのだが、これがちょっとつらい。なぜなら叫びすぎた喉の回復が間に合わず、月曜日はガラガラ声になってしまい、営業ができない。

通勤読書は、『本の雑誌』6月号の巻頭「今月の一冊」で紹介されている『日本でいちばん小さな出版社』佃由美子著(晶文社)。

知人から「僕の本作らない?」と頼まれ、なんとまったくの門外漢ながら突然出版社を立ち上げてしまった人の話である。よくぞ取次店が取引をしてくれたなと驚いてしまうような状況なのだが、本作りも出版業界のこともまったくわからない著者が、あっちこっちで感じる疑問は、おそらく出版業界で長く勤めている人も、疑問に思いつつもそのままにしていることが多いのではなかろうか。そして片意地張らずに始めた著者が、いつの間にか出版に誇りを感じ始める辺りの記述は、思わず汚れてしまった僕のココロをうつ。営業、編集、経理、総務と出版社のどの部署の人が読んでも楽しめる一冊であろう。

しかしいきなり出版社を立ち上げ、編集からレイアウトまで見よう見まねでやってしまうバイタリティー溢れる著者が、唯一できなかったのが、出版営業だったとは。そうかそうなのか。僕ら営業はそれだけ大変な仕事をしているのか。ならばもう少し待遇を良くしてもいいのではないか、とおそらくこの本を読んだであろう発行人の浜本に呟いてみる。

営業は山手線の西側。相変わらず不景気な話が続く。

「文芸書は酷いね。もう前年クリアなんて高望みはしないから、せめて90%に乗って欲しい。でもどうしようもないから先に手を打って、棚減らしちゃった」

確かにもはや文芸書の棚は必要ないかもと思うほど文庫化のスピードが速くなっており、常備に入った頃にはす、でに同じ本が文庫として文庫の棚に並んでいる可能性も高い。

うーむ、ならばいっそ文芸書の棚は文庫になったけど、あえなく数年で品切れ絶版になり、もはや新刊書店で手に入らない本を、古本(単行本)で並べるというのはどうだろうか。例えば僕の好きな山口瞳や丸山健二なんてほとんど品切れ絶版なわけで、その辺が文芸書の棚で古本として並んでいたら僕は間違いなく通うけど、ってやっぱりそれは紛らわしいか。

しかしそうやって文芸書の棚が減らされていくと、本の雑誌社のような文庫を持たない出版社は非常につらいことになるわけで、ならばいっそ本の雑誌文庫創刊!なんて思うが、そんなもんひとりしか営業マンがいない出版社でやったら死ぬのは僕だ。

参った参ったと呟きつつ、ひとり営業はそれでも書店さんを廻り続けるしかない。

5月13日(日)炎のサッカー日誌 2007.07 

 前夜遅くまで、妻はパートしているドラッグストアーの送別会で酒を飲み、子供ふたりに夕飯を食わしたり寝かし付けたのは僕だった。これは年に数回あるかないかの強気に出られる瞬間ではないか。ドラクエ用語でいう「ガンガンいこうぜ!」だ。というわけで、いち早く埼玉スタジアムに駆けつけようと思ったのだが、なんとその妻が朝になっても布団から出てくる気配がない。
もしや二日酔いか? と問いただすと布団から手だけ出してヒラヒラさせる。あっちに行けということらしい。「おい! オレはサッカーがあるんだぞ、昨日は子供の面倒みたぞ」そう呟くと、妻はガラガラの声で布団のなかで叫ぶ。「あんたいつも飲んでるでしょ、その間はいつも私が世話しているのよ」

 結局、妻が復活したのは、お昼。どうしてご飯が出来上がった頃にきっちり回復したのだろうか。まあ、そんな疑問はさておき、いざ埼玉スタジアムに出陣!と思ったら今度は、小学生の娘が足にまとわりついてくる。

「パパ、わたしもいく」

 およー、お前さぁ、今年になってから何度もサッカー行くか?って誘ってきたのに「いかない」ってつれない返事してきたじゃねーか。それがどうしてこの前半戦の山場であろう、ガンバ大阪戦になったらそんなことを言い出すんじゃ。今日はさぁ、気合いを入れて歌いまくり、選手を後押ししようと思っていたのに。

「でもさ、わたしが行くと負けないよ」

 そういえば娘を連れて行って負けたことがない。先日、敗北を期した川崎フロンターレ戦の後には観戦仲間のN出版Uさんがそのことを指摘し、「杉江さん、娘さん連れて来ないからですよ」と呟いていたのだ。

 うーむ、ならば観戦の邪魔にならないことを約束し、お守り代わりに娘を連れて行くしかなかろう。何せ今日は絶対負けられない試合なのだから。


<対 ガンバ大阪>

 キックオフと同時にワシントンが惜しいシュートを外したが、その後はガンバ大阪に攻められまくる。遠藤、二川の中盤で好きなようにボールを回され、前半17分には、闘莉王不在のDF陣のマークがズレ、フリーのバレーに決められる。これはゼロックススーパーカップの再現か。

そのとき抱っこしていた娘が歌い出す。
「うらーわれっず」
去年までは恥ずかしがって歌わなかったのに、今年は場所や仲間にも慣れたのか、夢中になってサッカーを観ているではないか。試合開始前にコールリーダーのKさんがペットボトルの水を撒いたのに激しく反応したり、もしや娘のなかで浦和レッズ魂が目覚めたのかもしれない。

 いったい何点獲られるのだろうと心配してしまったが、失点後は前線からプレッシャーをかけ、ケガから復活した相馬が、ガンバ大阪の穴である右サイドを果敢に突破し、チャンスを作る。攻めるレッズ、カウンターを狙うガンバ大阪というかたちで前半が終わる。

 後半開始早々、We are Redsコールが埼玉スタジアムにこだまし、僕らの気持ちが選手に乗りうつる。絶対負けられない。PKをワシントンが外すが、それでも僕らはあきらめない。そして右サイドでボールをキープした交代出場の長谷部から阿部にボールが繋がり、絶妙なクロスが、ゴール前に供給される。

 すると一瞬DFの視野から消えたワシントンが右足を差し出す。ボールはゴールネットを揺らし、いざ同点。こうなると負けられない、ではなく、勝ちたい。勝って首位に立ちたい。右腕に娘を抱っこしながら声を出すのは大変だけど、歌わずにはいられない。

★   ★   ★

 残念ながらこの日浦和レッズは勝つことができなかったが、後半の頑張りは素晴らしかった。娘を自転車の後ろに乗せて帰路に着く。

「ねえパパ。わたしが行くと負けないよね」

We are Reds!

5月11日(金)

 通勤読書は、『小さな町』小山清著(みすず書房)。
 戦前に新聞配達をされていた著者の、そのなかで出会った人々との交流を描く短編集。普通に生きる人々の暮らしが胸に迫る。

 一日社内に残ってデスクワーク、というよりは、社内にある倉庫を整理する。

 夜は上大岡のY書店Mさんたちと飲み会。10代にアルバイトしていたときの大先輩なので、未だに話を伺うときは思わず正座してしまう。駄洒落を飛ばしながらも、ときおり話す本に対する真剣な言葉を胸に刻む。そして最後に呟いたこの言葉が「オレ、もう51歳なんだ。定年まであと9年、良い本作って食わしてくれよ。こっちも頑張って売っていくからさ」がぐっと来る。

 そうなんだよなぁ、書店、取次、出版社、三位一体なんていうけれど、まさにお互い食わし合っていく関係なんだよな。その歯車をうまく回す方法を考えないと。

5月10日(木)

朝、沢野さんの新刊『ありふれた思い出なんてないさ』の見本が出来あがりましたと、わざわざ新風舎の編集者Nさんが届けてくれる。こちらは、デーリー東北に連載されていた「四季の風」をまとめたものなのだが、沢野さんのイラストがカラーでたくさん入っており、素晴らしい。ありがとうございます。

ちなみにこの本の出版を記念して、青山ブックセンター自由ヶ丘店でサイン会とトークショーが行われるとか。(http://www.webdoku.jp/event/070519.html)ぜひ、どうぞ。

午後から営業開始。突風と雷雨なんて予報だったので、長い傘を持って出かけるが、とりあえず天気はもつ。

しかし書店さんの売上はひどいようで、4月のことは聞かないで! なんて飛ばせるものなら記憶を飛ばしたい様子。しかも5月は前年に『ハリーポッター』があったので、もはや話もするなという感じだ。

確か3月までも販売額は6ヵ月連続でマイナスで、本日お話したとあるベテラン書店員さんは「出版不況なんて騒いでいた頃は、まだ良かったね。とにかく酷い、何をしてもロクに反応がないし、売れるものが全然見つからない。なんかもう業界全体一回壊して、作り直すくらいしないとダメなんじゃないの」と絶望的な言葉を呟かれていた。

なるほど毎日書店店頭を廻っているけど、活気がないというか、「あの本が手に入らないのよ〜」なんて話はほとんど聞かなくなって久しい。○○が売れてる!なんて話もほとんど聞かないし、逆になんか売れてる本ない?と聞かれることばかり。何だか世の中の人が一斉に本から興味を失ってしまったのではないか。本屋大賞なんかでは、とてもリカバー出来ない状況で、いったい何をどうしたらいいんだろうか…。

そんななか『四万十川3 ムラに生きる<田辺竹治翁聞書>』永澤正好著(法政大学出版局)が出ていることに気づき、あわてて購入。3600円もする高額本だが、まるで日本昔話のような田辺竹治の狩りや暮らしの話に、僕はとても癒される、というか一番行ってみたい古き良き日本を旅しているような気分にさせてくれるので、この値段はまったく安いというものだ。

夜は、中井の伊野尾書店さんや往来堂さんと神宮球場へ。前日までの暖かさはどこへやらで、突然冷たい風が吹き出し、そして雨が横殴りで降って来るではないか。一応ヤクルトファンなのであるけれど、寒さには弱い人間でしきりに「帰ろうよ」と呟いてみたが、熱血ヤクルトファンのO出版のMさんが頑として受け付けてくれない。そりゃそうだろう。僕だってレッズ戦の途中で連れが帰ると言いだしたら、受け付けないどころか、蹴りをくれてやる。

 そんなわけで9回表まで見て(そこで3点目を横浜に入れられた)、暖かいものがある飲み屋へしけ込む。楽しかったけれど、ちょっとつらかった。

5月9日(水)

 釣りもしないのに、なぜか釣りの本が好きで、しかも山も登らないのに山の本が好き。その二つがくっついた源流釣りなんてまったくしたことがないのに、その手の本が大好き。そんななか雑誌『渓流』(つり人社)が発売されるたびに楽しみに読んでいたのが、黒田薫さんの文章だ。

 洒脱が利いていて、初期あやしい探検隊を彷彿とさせる抱腹絶倒の旅模様。その連載分と書き下ろしや別雑誌に書いていた原稿をまとめたのが『焚き火の焚き付け』黒田薫著(つり人社)。いやー面白い。

 会社に付くとすぐ事務の浜田に給湯室へ呼び出される。えっ? またそこで社長の悪口でも言い合うんですか? それならいくらでもありますよ、なんてのぞき込んだら、いきなり缶切りを突きつけてきた。

「わたしぃ。缶のフタって、開けられないの〜」

 深夜2時のオカマのように身をくねらせてそんなことを言いやがる。なにが開けられねーだ。酔っぱらうと歯で瓶ビールの王冠をこじ開けるくせに。しかもその王冠をプッと飛ばして鉄平のおでこにぶつけるくせに。

 しかしその缶のフタを開けないとコーヒーが飲めないので、大人しくガコガコやる。

 それが終わって机に戻ろうとすると、今度は「ヒャー」なんて声が聞こえてくる。そして「杉江さ〜ん」の呼び声。

 声の主は編集の松村で、コヤツは滋賀出身のいちおう関西人だからなのか、年がら年中こける練習をしているのだ。パソコンの電源に躓いた(フリをして)転び、ダスキンのマットに引っかかった(フリをして)転び、机の角にぶつかった(フリをして)転ぶ。社内に一日いると、3回は松村の叫び声と、まるで吉本のようなガラガラガッシャーン音響を聞くことになる。相手にしないと関西人はしつこいので、一応松村が転んだ(フリをした)コピー機の方にいくと、片手にそのコピー機のコンセントをプラプラさせてきた。

「どうした?」
「転んだら、コンセントが抜けて、それでその先っぽが歪んで入らなくなってしまいました」

 随分手の込んだボケをしやがる。仕方ないと二股の先っぽを踏んで矯正し、席に戻ろうとすると、今度は、社長の浜本が「すぎえぇー」と叫ぶ。

 せめてこの人くらいは仕事を話をしてくれよ、と願いつつ、本に囲まれた社長机のところにいくと、自転車のライトを手に持っているではないか。

「昨日ね、僕のマイチャリ、名付けてメタボリックシューマッハー号がジャスコから届けられたの」
(僕のマイチャリって、「頭の頭痛が酷くて」何度も何度も記者会見で言っていた栃東か?)

「でね、明日から自転車限定一斉取り締まりなんだけど、このカッチョイイライトに電池入れる方法がわからないんだよ」

 説明書はどうしたんですか? と聞くと、すでに捨てたという答え。どうして機械に弱い人ほど説明書の扱いがずさんなのだ。あんたに質問はその説明書に全部書いてあるのだ!!

 仕方なく、というか機械をいじるのが大好きなので、そのライトを奪い、ぐりぐりいじっていたら、スポッとフタが外れ、無事、電池装着。

 僕はいったいなんなのか? 何でもやりますマツモトキヨシにしても、この扱いは酷いのではないか。つうか用務員さんとして雇い直していただけないだろうか。とにかく会社にいるとこんなことに一日中振り回されてしまうので、そそくさと営業に出る。埼玉は暑かった。

5月8日(火)

 5月病なのかイマイチ気分がパッとしない。僕はこういうときには決まって『木曜日のボール』近藤篤著(NHK出版)を読む。

 この本は、近藤さんが世界各国で撮られたサッカーボールのある風景とそこで体験した短い文章が寄せられた本なのだが、サッカーの本質を見ぬく洞察力のある近藤さんはジンセイや人間の本質を見ぬく力も兼ね備えていて、また文章力も素晴らしい。その文書を読んだり、写真を眺めていると不思議と元気になってくるのだ。

 ただし残念ながらただいまこの本品切れ絶版扱いのようで、嗚呼、もし本の雑誌社に文庫があったら、いの一番に文庫化するのに…。あっ文庫といえば先日ジュンク堂書店池袋本店さんを訪れた際、新潮文庫在庫僅少フェアをやっていて、そこになんと我が妄想「サッカー本W杯」のチャンピオン本である『ぼくのプレミア・ライフ』ニック・ホーンビィが並べられているではないか。

 いやもうこういう出版状況だから品切れ絶版になるのは仕方ない。僕だって毎年そういうことを決断せざるえないし、出版だって経済だから採算に合わない商品はそうなるだろう。だから愚痴は言わず、ただ一言サッカーバカな人に伝えておきたい。『ぼくのプレミア・ライフ』を見かけたら、絶対買っておくべき! とりあえずすぐそこにいたサッカーバカの田口さんにも押し売りしておいた。

 営業は京王線の奥。八王子は三省堂さんがブックファーストさんになっている。ある書店さんが閉店し、別の書店さんが同じ場所で開店する、というのは結構よくあることなのだが、果たしてどういうカラクリがあるのだろうか。

 聖蹟桜ヶ丘のときわ書房さんでは、同じくサッカーバカの出版営業マンL社のNさんに遭遇。Nさんつい最近お子さんが生まれたばかりでとても幸せそう。しかしそのNさんに言われた言葉が胸に刺さる。

「杉江さん、俺、子供が出来るまで、杉江さん子煩悩で偉いなって思っていたけど、自分に子供が出来てみて見方がまったく変わったね。子供置いてサッカーに行くなんて信じられないな。俺なんてホームも我慢しているのに」

 その話を隣で聞いていたTさんが「で、杉江さんゴールデンウィークはどう過ごしていたんですか?」と鋭く聞いてきたが、まさかアウェー鹿島も含め、レッズ戦に3回行って、1日は一人実家に帰って旧友と麻雀してなんて正直に答えられない。「えっ? 子供の世話してましたよ」とお茶を濁し、退散する。

 うう、やっぱりダメオヤジかなぁ…。大きな声じゃいえないけれど、置いていく子供は二人だし、例え病気だったとしてもサッカー行ってるし。でもでも愛情は負けないと思うけどな。

5月7日(月)

 何度も書いているような気がするが、若者が今後このような間違いを起こさないよう何度も書く。

 10年前の採用面接の際、丸顔の鼻の脇にほくろのある発行人と呼ばれる人が早口で緊張している僕に向かって言った。

「うちの会社はね、威張ることはないんだけど、給料がとっても安いのね。でもね休みはドーンとあげますから。年末年始とかゴールデンウィークとか1週間くらい休めるからね」

 確かにそれは事実で、今年も4月28日から5月6日まで書店さんには顔を向けられないほど休みをいただいた。ありがたいことです。

 しかししかしである。ほくろのある発行人は大切なことを隠していたのだ。確かに年末年始とゴールデンウィークはそれぞれ1週間ほど休めるが、なんとこの会社には夏期休暇も有休休暇もなかったのである。これでは休みが多いとはいえないのではないか。しかし僕が入社したのは、10月の半ばで夏休みがないと気づきのが半年以上過ぎてから。今さら辞めますともいえず、今にいたっているのだ。

 若者よ、人の話は良く聞こう。そして言わないことはしつこく問いただそう。

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 9日間も休むとどうなるか?
 まるで昨年の我が娘のように登社拒否になってしまった。布団から出るのがつらい。スーツを着たくない。家を出たくない。しかし大人も子供もそうはいかない。

 気持ちを奮い起こし着替えをし、久しぶりにヒゲを剃り、重い足取りで自転車を漕ぐ。こんなんじゃとても営業なんかできやしないと、モチベーションをあげるため電車のなかで『オシムの言葉』木村元彦著(集英社)を再読。1時間後、やる気バッチリになって呟く。「廻って廻って廻れ! 廻りすぎて死ぬことはない!」(本当は、走って走って走れ! 走りすぎて死ぬことはない!)

 営業は清澄白河の愛すべき町の本屋さん、りんご屋を訪問。店長のHさんの「自分が買いたくなるような本屋を目指している」という言葉が胸に沁みる。その後は東西線を営業し、直帰。

 モチベーションは『オシムの言葉』であがったのだが、体力が保たなかった。こりゃ本当に走らないとダメか。

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