WEB本の雑誌

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10月30日(火)

ネット書店A社でエディターをされているHさんと、面白本の情報交換をときどきさせていただいているのであるが、メールの追伸みたいな感じで書くだけで、まだ一度もゆっくり顔を合わせて話はしたことはない。両者を知るロッキングオンの編集者Tさんから一緒に飲みに行きましょうよとお誘いを受けているのだが、今のところ実現していない。とても残念。

で、そのHさんが、10月初めのメールで「素晴らしくて素晴らしくて」と絶賛されていたのが『グレート生活アドベンチャー』前田司郎(新潮社)である。

この本、書店店頭で見かけた際、何だか面白いんじゃないかオーラが漂っていて、とても気になっていたのだ。だが、そのときは「芥川賞候補作」だから自分の趣味というか、自分の読解力では読めないかもなんて考え、購入を控えてた。

しかしHさんのオススメである…って今までHさんのオススメで本を買った記憶はないのだが、自分のアンテナにちょっとだけ引っかかっていたものを、誰かが背中を押してくれると勢いがつく。というわけで昨日給料日前に少しだけ金が残っていたので購入したのである。

実は、そんな本との出会い話はどうでもよくて、僕が何を書きたいかというとこの『グレート生活アドベンチャー』がいかに素晴らしいかということだ。物語は無職の30歳の男がやることもなくTVゲームばかりしている生活に行き詰まり、スーパーのレジ打ちしている彼女のところに転がり込むのである。

そこで何が起きるかというと何も起きない。ただただその生活の中で主人公がどんなことを考えているかが描かれているのだが、これがもう僕が日々生活しているなかで考えていること、あるいは考えていたこととピッタリなのである。

すなわち大したことでなく、主にくだらないことばっかりなのだが、いやはやもう大笑い。いや大笑いというよりは「くくくくっ」と腹の底の方からこらえることのできない笑い。おそらくドラゴンクエストだと思われるゲームをやっているときのこの思考、とてもよくわかるし、最後の魔王と闘うシーンなんてついに抑えられず吹き出してしまった。

しかし吹き出していると、突然物事の本質を突くような文章に出会いグッと胸をさされるのである。なんだろう、僕が大好きな『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫)を文学にした感じといえばいいんだろうか。あるいは宮田珠己が文学を書いたらこんな感じかも。

あるいは村上龍の『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)は確かに面白いんだけど、1971年生まれの僕にはどこかのめり込むことのできない昔話で、僕らの時代にはアメリカもドラッグ(ドラッグは都内の私立高校に行ったやつらがもたらしていたけど)も遠い存在で、身近にあったのはゲームと妙な自信だったりするのだ。その雰囲気を、1977年生まれの著者が的確に描いているのだ。金城一紀の『GO』(角川文庫)を読んだときに「僕らの物語」が生まれたと思ったが、今回『グレート生活アドベンチャー』を読んで「僕らの文学」が生まれたと思った。

何はともあれ背中を押してくれたHさん、ありがとうございました! そし既刊全部読まないと!

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事前注文の〆日前なので駆け足で営業。神保町、渋谷、恵比寿など。
本日一番ビックリしたのは、神保町のとんかついもやが閉店していたこと。

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システム担当のYさんからのメールで、この更新が1500本目の日記であると知る。足かけ7年、来る日も来る日も書き続けた結果である。しかし別に報酬があるわけでもないし、賞賛もなかろう。いいんだそれで。

10月29日(月)

通勤読書は『私の男』桜庭一樹(文藝春秋)。
こちらも『サクリファイス』近藤史恵(新潮社)同様、ゲラ配布の段階で書店さんで話題になっていた1冊。しかし『サクリファイス』のときと若干違うのは「私は無茶苦茶面白かったけど杉江さんはダメかも…」なんて妙な薦められたかだったことだ。

なるほどなるほどこの禁じられた愛は、確かに娘を持つ僕にはキツイかも。でもどうしようもない男の書き方とかそのから抜け出せない女の子の気持ちとか、うまく書けていて、とても途中で辞められるような本ではない。一気読み。好きか嫌いかでいえば、好きじゃないかもしれないが、あやしく恐ろしい世界を堪能。

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『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹(文藝春秋)が、文芸書では久しぶりのベストセラーになっている。

書店さんも「やっぱり1冊引っ張ってくれるのがあると、気分が全然違うよね」と話されるようにうれしそう。それにしてもエッセイが売れない昨今、これがベストセラーになるというは、依然強力な村上春樹人気を証明しているのだろう。まさに文芸書業界では、神様仏様村上春樹様って感じか。できることなら、本の雑誌社からも本を出してくれないかなぁ。そのためだったら発行人の浜本も走るのではなかろうか。

また『ザ・シークレット』ロング・バーツ(角川書店)も海外で800万部も売れているとかで、書店さんは『ダ・ヴィンチ・コード』の再来か、なんて期待を寄せている。何部発注すればいいかなぁ…なんて相談されたが、そんなこと二桁の注文しかいただいたことのない僕には到底わからない。

上陸といえば、来月は「ミシュラン」日本版が発売で、こちらもとある書店さんで、4桁の発注でも足りないかも…なんて心配されるほどの大物。これが出たあとは料理書の本もミシュランで三つ星シェフの料理ブックとかいっぱい出るのかな。

思わず会社に帰って「本屋ミシュラン」とか「作家ミシュラン」とか「書評家ミシュラン」とか作りましょうよと企画を出したが一切無視されてしまった。

それにしても年末を控え、書店さんは強力な新刊を前に、ドキドキしている様子。そういうなかを営業で廻るチビ出版社の営業も何だか楽しくなってくる。やっぱり本が売れるってうれしい。うちの『翻訳文学ブックカフェ2』とこれから出る沢野さんの画集『スケッチブック』も売れてくれると、よりうれしいんだけど。

10月28日(日) 炎のサッカー日誌 2007.20

「パパはどうせもう帰りたいんでしょ? いいよひとりで帰りなよ」
「試合夜なんでしょ? どうしたこんな早く行くの? バカなんじゃない?」
「ねえ、私も行きたい、連れてって」

すべて娘に言われた言葉である。嗚呼、いつの間にか娘は女になってしまったのか。そしてどうして妻同様、小うるさくなってしまったのか。今まで妻のDFを振り切ればサッカーに行けたのが、これからは娘のマンマークもふりほどかなくてはならなくなってしまった。とりあえず本日は午前中公園に連れて行き、半ば呆れられながら振り切った。

前日2位のガンバ大阪が負けたため、どこか余裕のある気持ちで埼玉スタジアムに着く。これではいけないと気合いを入れようとしても水曜の余韻も残っていて、うーん、ダメだ。かつてこんな気分でナビスコカップ決勝を応援し、FC東京に負けたことがあったではないか。そんな僕の気分を知ってか知らずか、コールリーダーのKさんは試合開始前に叫ぶ。「勝ち点3取るぞ。ここはホーム浦和だぜ」そうだ、そのとおりだ。

しかし選手はあまりに疲れている。名古屋にボールを支配され、パスをカットしてもその後が続かない。ただ、それでも選手たちが必死に闘っているのがわかる。今できる100%の力は出しているのだ。

そして90分、スコアレスドローにスタジアムは拍手とコールを送った。勝ち点9と勝ち点7差は、勝ち点6差と勝ち点7差ほどの違いはない。そのことをスタジアムを埋めたサポーターもわかっていたのだろう。

それでも試合終了後、コールリーダーのKさんは叫ぶ。
「俺は勝ちたかった!」

10月26日(金)

銀座のY書店さんを訪問すると、懐かしいIさんの姿を見つける。Iさんがかつて新宿店にいらしたときとてもお世話になったのだが、その後羽田に異動され、現在は本部で全店を見ている立場になられており、ここ数年お会いする機会がなかったのだ。折に触れて「どうしているかなぁ」なんて思い出していたのである。

「ご無沙汰です」

と声をかけると、厳しい顔で店内を見ていたIさんが笑顔になった。「うわー久しぶりです」それから今の売り場の話や本の話になり、お互い年をとりましたね、なんて話題になる。僕がIさんに出会ったのは恐らくまだ20代で、Iさんもあの頃、30代前半だっただろう。「無理、出来なくなりましたね、徹夜なんて考えられない」互いにそんな話をして別れた。

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前の会社に勤めていたとき、2年目くらいに会社を辞めようと考え、辞表を出したことがあった。今ではなぜ辞めようとしたのか理由も思い出せないから、おそらくゴールディンウィークに出張が組まれたとか、毎週学会の展示販売で休みがないとか、誰もが入社数年に抱える不満のあらわれだったと思う。

辞表を渡した直属の上司であるH課長は、その日の午後になって「ちょっと夜、空けてくれ」と言ってきて、その夜は御茶ノ水とは思えない格好いいバーに連れてかれた。そして公私に渡ってつき合ってくれていた編集部の先輩Yさんも同席された。

「俺はさ、古い人間なんだと思うけど、『石の上にも三年』だと思っているんだよね。だから杉江君が今辞めたら、そういう奴だったんだなって思うよ。済まないけど、もう駒場スタジアムとかであっても口を聞かない」

 職人のように仕事をするY先輩はそういってバーボンを飲み干した。隣でH課長も頷いている。僕は休日をなくすことより、この人たちとの関係を失いたくないと思い、それから約1年半仕事を続けた。その後、本の雑誌社に転職したのだが、そのときは先輩との約束である3年を半年過ぎていた。だから僕の送別会で下手くそな浜田省吾の歌を朝まで歌い続けてくれた。

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最近、やたらこの先輩の言葉を思い出す。

なぜならこの後訪問したK書店のMさんやYさんは、僕が入社以来の付き合いだから11年にもなるのだが、顔を出せばすぐ「杉江くん大丈夫? 働き過ぎじゃない。おいしい大福あげる」なんて心配してくれるし、「娘さん大きくなったでしょう?」なんて話かけてくれるのだ。

あるいは次に訪れたS書店のNさんとは、お互いサッカー好きで、担当が変わっても時間を見つけては顔を出し、レッズがどうしたジュビロがどうしたなんて話をしている。こういう関係は1年や2年ではおそらく築けないだろうし、またその間信用を裏切らないように、それこそ薄い紙を一枚一枚重ねていかなければならない。

仕事で出会った人達と、仕事を越えて付き合えるようになるのはとてもうれしいのだが、その基本に仕事があることを絶対忘れてはならないと思っている。

そういう蓄積が、今を築いていることが、最近よくわかるようになった。そして、あの頃の自分と先輩に言いたいことがひとつ生まれた。「仕事は10年やらないと、面白くならない」ってこと。

10月25日(木)

『オシムの言葉』木村元彦(集英社)を読んで以来すっかりジェフサポーターになってしまった池袋ジュンク堂の田口さんを訪問。「あらあら、頭のなかは昨日のレッズのことばかりなんじゃないの」なんてしっかりサッカーバカの心理を見透かされていたが、阿部阿部阿部と呟かれ、これで水野も獲ったらと脅される。

その後リブロの矢部さんを訪問し、一緒に昼食。その後、お茶を飲みに行ったら、その喫茶店に田口さんがいて、3人でお茶。田口さんと矢部さんは僕がもっとも尊敬している書店員、いやもっとも尊敬している人間で、このふたりの対談(?)をひとりで聞けるなんて、信じられない幸運。

池袋営業後、高田馬場と新宿の続きを営業し、帰社。本日も沢野ひとし『スケッチブック』の色校正立ち会い。これが終われば一山越えるが、年末までにまだ平山夢明さんと吉野朔実さんの異色対談集『狂気な作家の作り方』もあるし、『おすすめ文庫王国2007年度版』もある。無事、年が越せますように。

10月24日(水)炎のサッカー日誌 アジア激闘篇

仕事をしていても、心ここにあらず。心だけでなく、魂も、マブイもすべて埼玉スタジアムにある。そして気が付けば夢遊病者のようにそちらに足が向いている。何時に埼玉スタジアムに着いたって? そんなこと聞いちゃ行けない。なぜなら我らは、サラリーマンである以前にレッズサポなのだから。登山家が「そこに山があるから登る」ように我らレッズサポも、そこに試合があるから駆けつけるのである。当然なのである。

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見慣れないユニフォームを来たチームがピッチに顔を出すと、まるでバレーボールの応援のようなバルーンスティックを叩く「バンバン」という音が響き出す。その音をあっという間にかき消すように我らがレッズのコールが始まった。ゴール裏は真っ赤に染まり、そこに白地で「WE ARE REDS」の文字が作られる。自分たちでは見えないけれど、選手にはこの気持ちきっと届いているだろう。闘っているのは君たちではない。僕たちすべてなのだ。

最悪1対1の引き分けで決勝戦への扉は開くのであるが、そう簡単ではないことは、城南一和の激しいタックルや正確なパスを見ればすぐわかる。ここ最近のJリーグでは味わうことのできなかった「闘っている感」がスタジアムを覆いだすと、コールの声量もいつも以上に増し、サイドスタンドに取り付けられた屋根に反響しこだまする。埼玉スタジアムのゴール裏は、飛び跳ねるサポーターによって揺れていた。誰も彼もが真剣に闘っていた。

僕は前半の半ばからすでに意識が飛んでいた。心と身体がもはや自分のものではない感じ。とにかく声を出し、選手を鼓舞することしか頭にない。先制し、追いつかれ、逆転され、そして追いついた。2対2になり延長戦に入った頃には、自然と涙が溢れて止まらなくなってしまった。

目の前で闘っている赤いユニフォームを来た僕らの選手は、1%足りとも力を抜くこともなくボールを追っている。フラフラの阿部が身体を投げ出してボールを奪えば、闘莉王に変わって入った堀之内が恐れることなくヘディングでボールをクリアする。そこにはかつて負けて、負けて、負けまくった浦和レッズの姿がみじんもなく、ただ勝つことだけを宿命として背負った選手たちが、僕たちの声を背に受け、ピッチを走り廻っている。

結局90分+30分の延長では決着は着かず、非情なPK戦に突入する。古くからのレッズサポなら誰もがPK戦に不安を感じたし、かつての名古屋戦や鹿島戦の哀しみが走馬燈のように駆けめぐったはずである。隣で観戦していた67才の母親は「お母さんもう耐えられない。死んじゃうかも」ともらしていたが、しかしたったひとりボールをセットし、ネットに突き刺すことだけを考えている選手にはそんな弱い気持ちはなく、ポンテ、阿部、ワシントン、永井、平川の全員が決め、ついに決勝の扉を開けた。そして僕たちは泣き、叫び、抱き合い、拳を振り上げ、アジアナンバー1を目指す。あとひとつ。アジアのチームを倒す。

10月23日(火)

原稿をカネコッチに入れると、数日してカネコッチからレイアウトされたものが届く。ほとんど言葉を交わしていなくても、期待したもの、いや期待以上のものが画面上に現れる。それがうれしい。とてもうれしい。

午前中は「おすすめ文庫王国2007年度版」の原稿やらゲラやらの処理。

午後は、「作家の読書道」の収録。なんと11月に我が偏愛するエンタメ・ノンフ作家、宮田珠己さんにご登場願うのだ。果たして宮田さんはどんな本を読んで来たのか。乞うご期待!

夜は11月21日搬入予定の沢野ひとし「スケッチブック」の色校立ち会い。一歩ずつ素晴らしい本になっていくのを眺めるのは楽しい。

10月22日(月)

紀伊國屋書店新宿本店さんを訪問。実は僕、このお店の名物コーナー「私のバトルロイヤル」に挑戦し、なんとなんとうっかり優勝してしまったのである。だから現在「チャンピオン本」コーナーに僕が推薦した『日本の生きもの図鑑』(講談社)が置かれ、次なる挑戦者たちと闘っているのである。果たして今月も防衛できるだろうか……ってそんなことはまったく関係なく、この図鑑は動物、鳥、魚、樹木、花、昆虫など生きものすべてが、その住む場所ごとにカテゴライズされた素晴らしい図鑑である。しかもイラストもきれいで、説明も過不足がない。今、僕が一番大切にしている本だ。

その後、ジュンク堂さんや紀伊國屋書店新宿南店さんを伺うが担当者さんにお会いできず、ブックファーストルミネ1店でやっと担当のSさんとお話ができる。ほっ。

10月20日(土)炎のサッカー日誌 2007.19

こっそりアウェーのジェフ戦のチケットを持っていることが妻に発覚し、「あんた鹿島にも行ったじゃない。今年のアウェーはあれで終わりでしょ」と叱られる。こうなったら開き直るしかないと「そんなの関係ねー、そんなの関係ねー、オッパピー」と踊り出したら、隣で2歳半の息子も「しょんなかんけねー、しょんなかんけねー、おぱぴー」と踊り出す。その姿があまりに可愛かったおかげで、どうにか今年2回目のアウェーに飛び出すことが出来た。息子よ、ありがとう。実はこの後のアウェー(川崎戦、横浜FC戦)も行く予定なので、そのときも一緒に踊ってくれ。

キックオフ!

フクダ電子アリーナのアウェーゴール裏は、まさに人で埋まる。コールに合わせて腕を上げれば、隣のおばさんの腕とぶつかるほど。息苦しいが、しかし十数分そうやって飛んだり跳ねたり叫んだりしていたら、隣りのおばさんとの境界線が消えてなくなり、どれが僕の腕かもわからなくなる。まさにゴール裏が、ひとつのレッズサポという固まりになった。

ワシントン、ワシントン、ポンテのゴールで3対0と圧勝モードになるが、そこから一気にジェフの反撃が始まり、3対2まで迫られる。よもやゴールかというシーンもあったが、最後は長谷部のルーレットから達也が決め、4対2の勝利。

いつの間にかこんなにサポが増えたのかと驚いてしまうジェフサポーターのブーイングが響くなか歌う「We are Diamonds」の気持ち良さ。恐らく人生で一番幸福感を味わえるのが、アウェーの勝利であり、ブーイングのなかの勝利の歌ではなかろうか。最高!

10月19日(金)

来月に入るとすぐ「本の雑誌」1月号と『おすすめ文庫王国2007年度版』のベストテンを決める会議があるため、あわてて積ん読にしていた本や話題作などを読み出している。それなのに読書の秋ということか、面白そうな新刊が毎日出ていて、これも一応というか、思い切り〆切期日(10月末奥付)に入るので読まなければならない。『アマゾニア』粕谷知世(中央公論新社)のように、ベストテンを発表した後に名作だと気付いても後の祭りなのだ。だからくたくたになって帰り、明け方まで読む。

本日は積ん読になっていた『静かな大地』池澤夏樹(朝日文庫)を読了。650頁を越える北海道開拓とアイヌの歴史小説なのだが、いろいろ考えさせられる良い本だった。しばし余韻に浸りつつ、次いで同じく池澤夏樹の著作『きみのためのバラ』(新潮社)を読み始める。こちらは先日浦和にオープンした紀伊國屋書店浦和パルコ店のSさんが、オープン作業の忙しいなか、この本だけにはPOPつけなきゃ!とオススメしていた本なのである。

バタバタと事務処理を整理しつつ、午前10時には会社の隣のファミマへ。2007年J1リーグの最終戦、横浜FC戦のチケット発売日なのだ。もう少し繋がりづらいかと思ったら、あっけなく繋がり観戦仲間の分も余裕でゲット。そうかぁ…大半のレッズサポは、その前に決まると考えているんだな。

いや僕もそう信じているけど、やっぱりリーグ最終戦は生で見たい。そんなことを考えていたら2005年のリーグ最終戦、アウェー新潟戦を思い出す。妻に土下座し、雪の高速に怯えつつ新潟へ。逆転優勝の可能性を持ちつつ、現に数十分間首位に立っていたのだが、最後はG大阪に優勝されたのだ。ああ、懐かしい。

営業は、一路、錦糸町のB書店さんへ。ただいま改装工事中で、Sさんもお忙しそう。そう思いつつも本の話やら販売の話やらで長時間お邪魔してしまう。しかしお邪魔をするなら、せめて有効なお話をしなければならないと、他の書店さんの展開の仕方や面白本の話などを話す。話すためには他の書店さんでいろんなことを観察しておかなければならない。

ただこういう情報収集の話をすると、勘違いした営業マンは「○○書店は危ない」とか「○○がどこそこに新店を出す」とかそういうことだと思っているようで、歩く噂の真相のような営業マンもいないではない。まあ、それはそれで面白いんだけど、ただ、そういう話をしている人は裏返すと今正対している書店さんの悪口や情報を他店で流す可能性もあるわけで、だから結局その書店さんも距離を置くようになる。

先日とある書店さんが閉店したのだが、そのことを近くの書店さんで「これからは○○書店さんの時代ですよ」なんて言っていたら、そこの書店員さんと閉店した書店員さんが仲良しですっかりばれていた。で、新規店では棚を外されてしまったなんて怖い話もある。

ようは自分が言われて気分の悪いことは、人に言わないってことが大切なのだろう。

その後は錦糸町から一気に聖蹟桜ヶ丘へ。森見登美彦応援団まなみ組や各種ペーパーのまとめ役として有名な書店員、ときわ書房の高橋さんが明日一杯で退職されてしまうのだ。次の仕事はとある出版社の編集部なのだが、Tさんとはすでに10年以上の付き合いで、元々僕の師匠であった書店員さんが「うちに一生懸命やっている面白いアルバイトがいるから会いに来なよ」と連絡を頂いたのが最初の出会いだった。

Tさんの、本への愛情や売ることへの気持ちは、もはや書店員という枠を越えたようなところにあるので、今度の転職は活躍の場を広げる良い機会だと思うけれど、もう棚や本を間に挟んでTさんと話すことはないのかと思うと哀しい気持ちでいっぱいになる。いろんなことを思い出してしまいそうになったので、「また!」といって別れた。

10月18日(木)

忙しい。毎朝9時には出社し、夜の9時いや10時過ぎに会社を出る。12時間以上働いても仕事は終わらない。ただ好きなことなので苦にはならないのだが、せめて労働分の金が欲しい。我も大人だ、金で解決しようではないか。

しかし残念ながら本の雑誌社には残業代という文字はない。目黒も椎名も浜本も、経営陣が誰ひとりとしてそんな難しい計算ができず、給料は年俸を12で割るという至ってわかりやすい方法がとられている。だから何時間働こうが、休日に出勤しようが、月にもらえるお金は一緒。だっからこの4時間、本屋さんでバイトがしたい。

うーむ。松村もアホみたいに働かされているし、ここはひとつ組合を作って交渉しようではないか。とりあえず社長の浜本に組合結成の談判しにいくと「そうかぁ。ならばさぁ、杉江も松村も役員にしてあげるよ」と言い出すではないか。

役員? それって偉いんじゃないの? 「偉いよ〜。経営陣の仲間入りだよ」経営陣??? おいしい響きについ頷きそうになってしまったが、そこは本日で入社12年目を迎えた僕。今まで騙され続けてきたので、待遇が良くなるのか問いただす。「杉江もかしこくなっちゃったなぁ。経営陣になったら組合には入れないんだよ。惜しかったなぁ。ハハハ」

松村の深いため息とともに、我ら二人の残業は今日も続く。

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本日、ブックファースト渋谷公園通り店がオープン。かつて旭屋書店さんがあった場所だし、渋谷店からすぐ近くの引っ越しだったから、何だかまったく違和感がないのは面白い。すでに5年くらいやっているお店のような完成度だった。

10月17日(水)

直行したかったのだが、浜田が夏休みなので、一度会社に顔を出す。毎朝、処理しなければならないものがあるのだ。メールをそのまま返信し、FAXを2枚送るだけなのに…。

その後は今月の新刊『翻訳文学ブックカフェ2』の見本を持って取次店廻り。自社本を誉めるのはなんだか恥ずかしいのでほとんど書いたりしていないのだが、9月の新刊『作家の読書道2』とこの『翻訳文学ブックカフェ2』は、どちらも本の幅と深さが増す大好きな本である。読みたい本を見つからない人や、翻訳ものに興味のある人には是非手にとって欲しい2冊。

取次店は、混んでいた。しばし並んで順番を待つ。毎日毎日、この営業マンの数×何冊かの新刊が出るのだ。その数、年間8万点ともいわれ、いやはやこのなかで本を埋もらせずに読者へ届けるなんてまるで奇蹟なのではないかと思えてくる。書店さんで平積みなっていなかったり、棚に切れていたりすると、経営者や編集者は怒るけれど、このずらりと並ぶ営業マンと新刊を見たら現実がわかるのではなかろうか。

レッズ仲間の取次店O社のKさんと食事。社食でカツ丼を奢って頂く。社食のある会社…夢です。午後は市ヶ谷の地方小出版流通センターを訪れ、商談後はすぐ近くにあるJTBパブリッシングを訪問。こちらの編集Hさんもレッズ仲間で、とある出版社の人から譲って頂いた今週末のジェフ戦のチケットを渡す。

するとHさんが「るるぶ大宮浦和与野」を差し出してくるではないか? およ、我らが山田暢久が表紙に載っているではないか。おお!思い出した。Hさんはすっかり公私混同し、この「るるぶ大宮浦和与野」の取材と称して、レッズの試合のときに取材申請をし、FC東京戦のときにあろうことかピッチに降りて取材をするというトンデモナイことをしたのである。思い出しただけで羨ましくてヨダレが出て来てしまったが、「ほらここ見てくださいよ」と指さされたページを見つめると、何とアホ面をして僕が写っているではないか。えっ? もしかして試合前に写真を撮ったのってこういうことだったの。「そうですよ〜。一族郎党分買って下さいね」。こんなアホな写真、人様に見せられるか。

会社に戻って、「おすすめ文庫王国2007年度版」のゲラを高野秀行さんに送る。今年の文庫王国は、もう本当にトコトン好きなように作っているのだが、高野さんには去年に引き続き原稿依頼してしまった。それもなんと藤沢周平の著作からベストテンを選んでいただくという、とんでもない大仕事。果たしてどんな原稿が届くかと期待と不安でお待ちしていたのだが、これがもう素晴らしい原稿で、こういう原稿を誰よりも先に読めるというのが、編集者の喜びなのだろう。

夜は浜本と、こちらも文庫王国の取材。酒飲み書店員大賞を主催している千葉会プレゼンツ「第1回文庫スター誕生」。こちらが大盛り上がりでまさに取材して良かったと思えるものだったのが、詳細は誌面にて。ほんとにほんとに今年の文庫王国は面白い! って作って売る奴がいってもまったく信用されないだろうけど。

10月16日(火)

 本日は一日中会社。
 沢野さんの最強画集『スケッチブック』(11月21日刊)のダミーを見つつ、沢野さんとFさんと打ち合わせ。なぜか沢野さんはスチールギターを弾いている。

「ほんとうれしいよ。こんな良いものになって。ありがとう杉江くん。」

 沢野さんがとっても喜んでくれているのがうれしいが、実は僕自身が欲しかった本なので、いろんな意味で喜びいっぱい。特に問題もなく、あとは印刷がうまくいくかどうか。

10月10日(水)

『本の雑誌』12月号の搬入日。特集は坪内さんと目黒さんの書店で遊ぼう対談と大槻ケンヂさんと高野秀行さんのマンセー・ムーノ人間対談。どちらも非常に面白い。

助っ人の鉄平は寝坊で遅刻。悪びれないのが今時の学生だ。

搬入後は一路、小田急線へ。

かつてからそうだったけれど、本厚木の有隣堂さんが面白い。手作りのPOPや独自のフェアが展開されてる。今は坂木司さんが熱烈プッシュされており、担当のIさんが大好きなのだとか。いやもちろん好きなだけでなく、しっかり売れているそうで、坂木さんや大崎梢さんはジワジワとファンが増えている、とのこと。

海老名のS書店ではOさんが『女王国の城 』有栖川有栖著(東京創元社)を「売りたいんですよ〜」と叫び、町田のYさんでは久しぶりに文芸&文庫の担当に戻られたSさんが、「あっという間に心がすさんだ」と苦笑い。この数年で、文芸書、一段と売れなくなりましたよね……。

その後はL書店さんやA書店さんを廻った後、小田急のH書店を訪問し、僕が尊敬するベテラン書店員さんのひとり、Cさんとお話。

ここ最近の名作復刊の動きを喜ばれているようで、ケイタイ小説も売るけど、10年、20年後も残るだろう作品をしっかり置いていきたい、しかし書店をめぐる状況は一段と苦しくなるだろう。おそらく今、百貨店や電器屋で起きている合併と再編成のようなことがナショナルチェーンの間で起こるのではないか、取次店が株を公開したらどうなるか、などなど、本の面白さだけに留まらず、書店業界、出版業界の全体を俯瞰した話がぽんぽん飛び出す。

 そういえばこの「炎の営業日誌」を読んでくれている若い営業マンの方から「杉江さんは業界全体のことを考えているから偉い」なんて言われたことがあるけれど、10年くらい前までは、わざわざ勉強会なんてしなくても、飲み会でこういった業界全体に関することを真剣に議論していたのである。僕はその受け売りであって、全然偉くもなんともない。現にこのCさんをはじめ、ベテランの書店員さんは、視野がとっても広いのだ。

 Cさんとの話を終えて、しばし考える。

 数年前まで自分のなかで「斜陽産業」で働いているという実感があったが、今や斜陽ではなく、崩壊した産業で働いているという認識になりつつある。

 書店の現場を見てみると、本は売れていない。しかし取引条件は変わらない。どこを削ってお店を存続させるかといえば、書店に削れる経費なんて人件費しかない。社員は減り、店舗の人数も減っていく。かつてはベテランの書店員さんのサブ担当について経験を積んでから担当を任せられるような書店員という仕事は、アルバイトさんが初日から担当を持つようになる。そういう人にも維持できるようにコンピュータ化が進む。社員は社員でそういう状況に疲れ切り、多くが30歳前後で辞めていく。

 あと数年したらネット書店のリアル版のような書店ができるのではないか。店員さんはレジにしかおらず、お客さんはお店に入ってきたらすぐ検索機を叩き、表示された棚番に向かう。隣りに並んでいる本なんて関係ない。文芸書の隣りに実用書や医書が並ぶかもしれない。とりあえず入荷順に並べればいいのである。いや並べるしかできないくらい人員を削減せざるえない。そんな恐ろしい売り場が誕生するまでもう一歩のような気がしている。

出版社は出版社で売れないことを出版点数を増やすことで誤魔化すしかなく、編集者も営業マンも、もはや1点1点手をかけるなんてことができなくなっている。営業も編集も疲労困憊。薄口の本が何の工夫もなくどんどん世に出て行く。お客さんは本に魅力を感じなくなる。

一部の大手出版社以外、この出版業界で働く人間、そして作家もみんなカツカツでしか生活していけない。いやもうカツカツでも食えない業界になりつつある。

しかしなぜそんな今も真っ暗、お先は暗黒な業界で、妻子ある身なのに働いているかというと、本が好きだからである。それ以外ない。本を触っているだけで嬉しくなってしまうのだ。

 電子書籍などから端を発した電子化の流れなかで「本は生き残れるのか」という議論がされてきたが、おそらくこれからも本という物体は残るだろう。ただ本や雑誌を売ることで商売をする出版産業という産業は、衰退絶滅するのではないか。

 小田急線に揺られながら、そんなことをずーっと考えていた。
 妻よ、子よ、本が好きな父ちゃんでごめんね。

10月9日(火)

 家を出ようと思ったら大雨。尽きがない。
 雨合羽を着て、自転車に乗り、駅へ向かう。

 通勤読書は、『警官の血』上下・佐々木譲(新潮社)。『悪果』を読んだら引き続き、警察ものが読みたくなってしまったのだ。こちらは戦後から三代に渡り警察官となった安城家の物語。祖父が残した謎を父、息子が追うのであるが、その背景で起こる事件が歴史性に富んでいて、いやはや読みごたえ十分の傑作。面白い小説と読むと、ついその場所に行きたくなるのだが、時間があったら上野や根津あたりを彷徨きたくなってしまった。

 会社に着くと、文庫王国のレイアウトをお願いしているカネコッチからメールが届いていて、その設定に悪銭苦闘。本来営業用として使っているPCなので、フォントなどがまったく足りないのである。2時間ほどかけて設定し、その後はレイアウト候補を選ぶ。カネコッチとの仕事は常に頭を使わないといけないので大変だけど、楽しい。

 午後、出張で上京された長岡のB書店Hさんと食事。東京近郊の出店は一段落したような感じだが、長岡や新潟、あるいは金沢・鹿児島などの地方都市が現在大変なことになっている。こんなことがいつまで続くんだろう…と話していたら、ジュンク堂書店さんが秋田に出店するとのニュースが……。うーん……。

10月7日(日) 炎のサッカー日誌 2007.15

 娘が卒園した幼稚園の運動会に行く…と妻と娘はいうが、どうしてそんなもんに行かなきゃいけないのか。そもそも自分の娘が出ている運動会だって、面白くも何ともないのに。僕はワシントンや田中達也やポンテのスーパープレイが見たいのだ。娘よ、運動を見て欲しいと思うなら、あれくらい上手くなってから声をかけたまえ。

 なんてことをブツブツ言っていたら、妻も娘も愛想が尽きたようで、勝手に幼稚園に行ってしまった。そうかこの手があったっか。というわけで、久しぶりに前抽の集合時間にスタジアム到着。同じく恐妻家である取次店K社のYさんは、今日も仕事とウソを着いて出てきたようで、どう見てもスタジアムに似合わない姿で待機列に並んでいた。

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 久しぶりの駒場である。ここかしこから「やっぱ駒場はいいよね」という呟きが聞こえてくる。自由席が1階という浦和ならではの配慮。2階スタンドに反響する声と拍手。立ち見ひな壇のコンクリートのひんやりとした感触。さいたまスタジアムもゆっくり「僕ら」の場所になりつつあるけれど、やっぱり駒場は僕らにとって聖地であり、もしここを誰かに攻撃されたら僕らは武器を手に取り戦士になるだろう。

 キックオフ!

 開始早々、山田暢久に代わって今日は左サイドで先発している永井雄一郎が、長谷部と絶妙なパス交換をし、サイドを突破する。山田だったらこねくり回しそうなものをワンタッチでクロスをあげると、調子の出て来たワシントンがDFの背後から襲いかかり足を伸ばす。ゴールネットが揺れる。

 あっけないほどの先制点に駒場が揺れるが、その後はJ1リーグとアジア・チャンピオンズ・リーグでふらふらの選手が、大分トリニータに攻められまくる。前半はどうにか保ったが、後半になってもその状況は変わらず、早いスローインからクロスをあげられ、平川の足より前にトリニータの選手が足を投げ出し、同点。やばい…。2位のガンバ大阪は昨日勝っているのだ。ここで負けると勝ち点差3になってしまう。

 ピンチをチャンスにするのが我らサポーターの仕事である。声のかぎり叫び、跳ね、手拍子を打つ。絶対勝つ! 勝ってJ1とアジアを制するのだ!

 その声が届いたのかワシントンがスーパーなゴールを決め、逆転。疲労困憊の選手が、最後の最後まであきらめることなくやってくれた。強い、本当に強くなった。

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 久しぶりに「愛さずにはいられない」を駒場で歌い、家路に着く。
 家には鬼と子鬼が待っていた。

10月5日(金)

相棒とおると月一のフットサルで会う時、10冊程度の本を勝手にセレクトして貸し出している。とおるとの付き合いも15年になるので、嗜好はだいたいわかっているつもりで、そんななかで絶対これはハマるだろうと思いつつ、先月こっそり仕込んでおいたのが黒川博行の著作である。

建設コンサルタントの二宮と桑原を主人公にした『疫病神』(新潮文庫)、『国境』(講談社文庫)、『暗礁』上下(幻冬舎文庫)の3作。とおるは一時期関西に転勤していたことがあったから、僕以上に地名に詳しいし、この関西弁のやりとりに、ハマるのではないか。

しばらくするととおるから頻繁にメールが届きだした。

「疫病神良いね〜、だいたい地名もわかるし、二宮の事務所は転勤時の勤務先徒歩1分だよ。通勤にはありがたいかぎり、感謝感謝」
「ああ早く先が読みたい、でも通勤で眠れないから眠い」
「『国境』本日からスタート。帯見て喜んで、上下二段で二度喜んだ」
「『暗礁』でまたふたりに会えました。最高です」

予想どおりにはまったようで大笑い。電話をしたらすっかり関西弁に戻っているではないか。

そのとおるも愛する黒川博行の新刊『悪果』(角川書店)が本日の通勤読書。これは二宮・桑原のシリーズではないのだが、どうしようもない捜査四課の暴力団担当の刑事ふたりを主人公とした警察ノワール小説。

前半部分のまともな捜査シーンだけでも充分楽しいのに、後半から一気に事件が自分の身に降りかかりだすと、最後の最後まで息がつけない展開に。もちろん黒川博行の専売特許である関西弁も相変わらずで、こちらも満員電車の通勤が苦にならないほど集中の一気読み。たぶん誰かが僕のケツを撫でたとしても、今日はずっと撫でられていたことだろう。いやー、面白い。早くとおるに貸してやらなくては。

会社に着いて、バタバタとデスクワーク。そして営業へ。今日は千葉から船橋を回る。
船橋のA書店では安田ママさんがアルバイトで復活していて、再会を喜ぶ。

「この二年半くらいで書店の仕事が様変わりしていてビックリしました。それと一段と売れなくなりました?」

あまりに恐ろしい感想に思わず何も返せなくなってしまった。そうなんですママさん。文芸書はまったく売れなくなりまして、書店さんもコンピュータ化が進み、人も減って……。

 夜は飯田橋に戻って、第一七回鮎川哲也賞(山口芳宏『雲上都市の大冒険』)と第四回ミステリーズ!新人賞(沢村浩輔『夜の床屋』)の受賞パーティへ。毎年のことだけれど、作家や評論家がいっぱい集まり大盛況である。本屋大賞も頑張らないと。

10月4日(木)

営業、編集、営業、編集、飲み会、営業とまるでJリーグとアジアチャンピオンシップを闘う浦和レッズ並に過密スケジュールな日々で、日誌の更新がなかなか出来ない。ごめんなさい。

とりあえず出版部初の制作となる11月の新刊『スケッチブック』沢野ひとし著は、沢野さんの画家としての才能を伝える渾身の画集になりそう。昨日、本日と会社にこもってデザイナーさんと絵選びから代割りまで一気に進め、ダミーで作ったものの素晴らしさといったら、今すぐお金を出して買いたいくらいので出来である。

 うーん、普通の編集者だったらこの辺でちょっとは喜びも湧くのだろうが、営業も自分でやる出版部の場合、その本から利益を出すことを考えなければならないわけで、今度は別の頭を使って皮算用しなければならず、まだまだ喜べないのが現状だ。ゆりかごから墓場まで、すなわち企画から断裁まで責任を持つことになるこの仕事は、喜びも哀しみも大きそう。嗚呼、心と身体はいつまで保つだろうか。

 そうはいっても友はもっと過酷で、プレッシャーの強い仕事をしていたりするので、とても弱音なんて吐いてられない。本のために、頑張ろう。さあ、今日はこれから飲み会だぁ!!

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