10月30日(火)
ネット書店A社でエディターをされているHさんと、面白本の情報交換をときどきさせていただいているのであるが、メールの追伸みたいな感じで書くだけで、まだ一度もゆっくり顔を合わせて話はしたことはない。両者を知るロッキングオンの編集者Tさんから一緒に飲みに行きましょうよとお誘いを受けているのだが、今のところ実現していない。とても残念。
で、そのHさんが、10月初めのメールで「素晴らしくて素晴らしくて」と絶賛されていたのが『グレート生活アドベンチャー』前田司郎(新潮社)である。
この本、書店店頭で見かけた際、何だか面白いんじゃないかオーラが漂っていて、とても気になっていたのだ。だが、そのときは「芥川賞候補作」だから自分の趣味というか、自分の読解力では読めないかもなんて考え、購入を控えてた。
しかしHさんのオススメである…って今までHさんのオススメで本を買った記憶はないのだが、自分のアンテナにちょっとだけ引っかかっていたものを、誰かが背中を押してくれると勢いがつく。というわけで昨日給料日前に少しだけ金が残っていたので購入したのである。
実は、そんな本との出会い話はどうでもよくて、僕が何を書きたいかというとこの『グレート生活アドベンチャー』がいかに素晴らしいかということだ。物語は無職の30歳の男がやることもなくTVゲームばかりしている生活に行き詰まり、スーパーのレジ打ちしている彼女のところに転がり込むのである。
そこで何が起きるかというと何も起きない。ただただその生活の中で主人公がどんなことを考えているかが描かれているのだが、これがもう僕が日々生活しているなかで考えていること、あるいは考えていたこととピッタリなのである。
すなわち大したことでなく、主にくだらないことばっかりなのだが、いやはやもう大笑い。いや大笑いというよりは「くくくくっ」と腹の底の方からこらえることのできない笑い。おそらくドラゴンクエストだと思われるゲームをやっているときのこの思考、とてもよくわかるし、最後の魔王と闘うシーンなんてついに抑えられず吹き出してしまった。
しかし吹き出していると、突然物事の本質を突くような文章に出会いグッと胸をさされるのである。なんだろう、僕が大好きな『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫)を文学にした感じといえばいいんだろうか。あるいは宮田珠己が文学を書いたらこんな感じかも。
あるいは村上龍の『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)は確かに面白いんだけど、1971年生まれの僕にはどこかのめり込むことのできない昔話で、僕らの時代にはアメリカもドラッグ(ドラッグは都内の私立高校に行ったやつらがもたらしていたけど)も遠い存在で、身近にあったのはゲームと妙な自信だったりするのだ。その雰囲気を、1977年生まれの著者が的確に描いているのだ。金城一紀の『GO』(角川文庫)を読んだときに「僕らの物語」が生まれたと思ったが、今回『グレート生活アドベンチャー』を読んで「僕らの文学」が生まれたと思った。
何はともあれ背中を押してくれたHさん、ありがとうございました! そし既刊全部読まないと!
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事前注文の〆日前なので駆け足で営業。神保町、渋谷、恵比寿など。
本日一番ビックリしたのは、神保町のとんかついもやが閉店していたこと。
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システム担当のYさんからのメールで、この更新が1500本目の日記であると知る。足かけ7年、来る日も来る日も書き続けた結果である。しかし別に報酬があるわけでもないし、賞賛もなかろう。いいんだそれで。