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11月26日(月)

 通勤読書は『世界ぐるっと朝食紀行』西川治(新潮文庫)。そのタイトルどおり世界中の朝食をルポしたものなのだが、ランチでもなくディナーでもなく「朝飯」というところが素晴らしい。なぜならその簡単な食事にこそ、お国柄が出るからだ。パン、粥、飲茶、フォー。飲み物もオレンジジュースにチャイにコーヒー。その国の気候や暮らしにあった朝食がそこにある。またあてどなくメシ屋を探すその姿は、名作マンガ『孤独のグルメ』(扶桑社文庫)に似ているかも。

 営業でつらいことといえば、いるのを忘れられることか。

 書店さんを訪問し、担当者さんにご挨拶をしたのは良いけれど、そのとき担当者さんは別の営業マンと話していたり、お客さんの応対をしていたりすると「ちょっと待っててね」なんて言われることがある。たいていはその要件が終わると、欠本調査などして時間を潰していた、こちらにいらしていただけるのだが、その間にお客さんの問い合わせや電話応対などが入り、すっかり存在を忘れられることがある。いや状況を考えたら仕方ないことなのだ。

 で、何がつらいかというと、自分が忘れられているのか、それともまだ待たされているのか、わからないということだ。もし忘れられているならまた声をかければ良いし、もしこちらも先を急いでいるのであれば、忘れられたままお店を出れば済むのだけれど、それがハッキリしない。

 しばらく棚前でボーっとしつつ、担当者さんの姿を探すが、下手するとバックヤードに行ってしまわれたりして、どうなっているのかわからないこともたまにある。しつこく追って行って「まだなんですよ」なんて何だか催促してしまったような感じになることもあるし、この辺の判断は非常に難しい。

 あとツライといえば、お店に訪問したときに担当者さんが見あたらず、他の方に「○○さんいらっしゃいますか?」と尋ねたところ、「あっ先ほど休憩に出たばかりなんで、戻りは1時間後ですね」なんて言われることがある。

 いやツライのはその1時間ではない。そんな時間は近隣の書店さんを営業したり、棚を見ていればあっという間に過ぎていく。ツライのはそうやって1時間を過ごし、目的の書店さんに向かったときに、また担当者さんが見あたらず、たまたま近くを通り過ぎようとしている、さっき尋ねた書店員さんとは別の方に尋ねたら「あっ、○○は今日お休みです」なんて衝撃の事実を知らされること。

 うわー!! 思わず声を挙げそうになるが、こんなことで声を挙げたり不満顔をしたら営業はやっていられない。「あっそうでしたか」とさも今初めてこのお店を尋ねたような顔をして、新刊情報などをお渡しし、お店を後にしなければならない。

 まあ、でもしょせん我らは営業マンだ。基本的に邪魔者と思った方が良い。もちろんプライドはあるけれど、プライドってもんはこういうことでへし折れるようなヤワなものではない。10軒廻って3軒くらい良いことがある……かもしれないと信じて、今日も営業先に飛び込むのである。

11月24日(土)炎のサッカー日誌 2007.22

 僕が買っている浦和レッズのシーズンチケットは、開催順にホチキスで留められ郵送されてくる。試合毎に上から順にむしり取り、スタジアムに向かうのだが、今日はもうむしる必要がなかった。J1リーグ、ホーム最終戦。そしてそのホーム最終戦、真っ赤に染まった満員のスタジアムで優勝が決まる!!

 夢、描いた結果は、退場によって一人少ない鹿島アントラーズの野沢のゴールによって打ち砕かれる。

 その瞬間、思わず自分自身にブーイング。
「お前、アジアチャンピオンになって満足してんじゃねーか?」

 そのつもりはないけれど、どこか気が抜けていると言われたら否定はできない。というか毎年最終戦まで何かしらある我ら浦和レッズだから、消化試合なんて作らないだろう…と心のどこかで思っていたかも知れない。

「アホ! アホ! アホ!」と自分を罵る。サッカーの神様はいつだって言霊を最優先してきたじゃねーか。お前が思っていること、お前が言葉にしたこと、それを聞き、ボールを転がすのだ。お前が浦和の勝利を120%信じなくてどーすんだよ!!!

 でもでもほんとにほんとにJリーグが獲りたい。
 だって一年間このために闘って来たわけだし、もしこれでJ王者になれなかったら、鹿島サポから「アジアチャンピオンより強いJ王者」なんて言われるだろう。僕が逆の立場だったら絶対言うし、そういいそうな出版業界の鹿島サポの顔がたくさん浮かぶ。

 とにかくあとひとつ勝つのみ!
 決戦の地はJ1リーグ最終戦、日産スタジアム。敵は三浦カズ率いる横浜FCだ。

11月22日(木)

 通勤読書はもちろん『Number』692号。Jサッカー特集なのだが、ほとんど浦和レッズアジアチャンピオン特集。「サッカーダイジェスト」や「サッカーマガジン」あるいは「Urawa Reds Magazine」で出たアジアチャンピオン増刊号と読み較べてみると、内容はピカイチなのではなかろうか。とくに熊崎敬さんのセパハン戦アウェールポが素晴らしい。思わず電車のなかで泣いてしまった。

 営業に出るが、瞬く間に『MICHELIN GUIDE東京 2008』が売れていくのを目撃。昼にはほとんどのお店で売り切れとなり、残っているお店も今日保つかどうかという。す、すげー。こんな勢いで本が売れていくのを見るのはいつ以来だろうか。まさに台風ミシュラン。

 しかし残っているお店で中身を確認したら、既存のガイドブックの方がよほどしっかり作られていて、いやはやフランスの出版文化というのは、この程度なんだろうか、なんてちっと考えてしまった。お客さんが知りたいのは★の情報だけだとしたら、これはこの後の売り方が難しそうだ。

 藤沢、戸塚、横浜、川崎、最後は神保町に駆け込むという、かなりハードな営業を終えると外は真っ暗。ハードなのは僕だけでなく書店さんも超大量の新刊大洪水にフラフラの様子。

ほんとかウソか知らないけれど、本屋大賞狙いで、ギリギリの11月に話題書を出すという流れになっているとか。でも投票する書店員さんは「こんな新刊が多いんじゃ、平台に置いておけるの2日くらい?」なんて。いやはや。

11月21日(水)

通勤読書は『ニセモノ師たち』中島誠之助(講談社文庫)。こちらは文庫王国史上最強の『おすすめ文庫2007年度版』のなかで紹介される1冊。(12月5日搬入です! 今年は本当にこれ以上面白いモノは作れないんじゃないかと思うほど面白いです!)

骨董業界のニセモノのやりとりを描いたノンフィクションなのだが、同じ骨董の世界を描いたエンタメ・ノンフ『魔境アジアお宝探索記』島津法樹(講談社+α文庫)とともに、モノ(骨董)よりもとにかくその廻りにうごめく人間が面白い!

★   ★   ★

どこの書店さんを訪問しても『MICHELIN GUIDE東京 2008』と『 関ジャニ∞「えっ!ホンマ!?ビックリ!!TOUR2007」密着ドキュメント写真集』の話題ばかり。しかも両方とも大ブーイング。

『MICHELIN』は事前に発売日協定なんて言われてなかったから「今日の夕方には…」とお客さんに伝えていたのに、突然22日発売の協定品と言われ、本はあるのに売れず、お客さんには謝りっぱなしだとか。関ジャニ∞の方は、かなり前に締め切っているはずの客注予約すら入ってこない状況で、お客さんにどう謝っていいのかわからないという始末。久しぶりに血走っている書店さんを見るが、両書とも発売となる明日の売上は、大変なことになるのではなかろうか…って本が入ってこなければ売上は立たないけど。

★   ★   ★

前日に書いた娘の話に関していくつかメールをいただく。
やっぱり「単行本を!」というアドバイスがとても多く、昼飯代を節約し、単行本を購入することを決意。父ちゃん頑張るぞ。

しかし改めて気付かされたのは、これだけ市場は文庫&新書に流れていても、単行本の魅力はいまだ根強く生き残っているいうことだ。文庫が古典名作の器から消費物になっていった今、もしかしたら単行本こそが、古典名作の器になるのではなかろうか。ならば現在、定年を迎えているあたりの人達が学生時代などに読んでいた本を、改めて単行本で(かつての装丁のまま)出したら売れるのではなかろうか。

ついでにもうひとつ反響があったのが、ガソリン代の話で、こちらは地方都市の書店さんから報告いただいたのだが、ガソリン代があまりに高くなっているので、来客数が減っいるという話。車社会の地方は、都心以上に打撃が出ているのか。うーむ。

11月20日(火)

 朝、本棚から今日読む本を抜き出そうとしたら、娘に「パピプペポ! そこを触って本を出しちゃダメなの!」と大声で叱られてしまった。パピプペポとは、最近の僕の呼び名であるが、なぜそう呼ばれるようになったかは不明である。

「えっ? 何で?」
「その上の部分(背の上部)を触って本を取り出すと本が壊れちゃうってこの間図書館の先生に教わったの。だから本と本の間に指一本分くらい隙間が空いているから、ちゃんと指を入れて抜くようにしなきゃダメなの!」

 僕の本棚には本と本の間に指一本分の隙間もないのだが、娘の言うとおりなので素直に謝る。
 学校って本を大切にしてくれているんだなぁ……。

★   ★   ★

 その娘は毎週土曜日に近所の図書館へ連れて行っていたら、思い切り活字中毒になってしまった。土曜日に20冊本を借りてもその日のうちに全部読んでしまい、日曜日にまた図書館に行こうと言い出すのだ。ツボにハマると「これ面白いよ」なんて薦めてくれるのだが、今、ハマっているのは松谷みよ子の『ちいさいモモちゃん』シリーズとあまんきみこの『車のいろは空のいろ』シリーズで、これは何度も読み直しているので今度買ってやろうと思っている。

 しかしどちらも単行本と文庫(新書サイズ)が出ていてどっちを買うか悩んでいる。いや金がないから経済的にとってもお得な文庫と思うのだが、せめて子供の本くらい単行本で買い与えてやりたい気持ちもある。もしかしたら子から孫へ受け継がれるかもしれないし……ってそんな夢みたいなことはないか。

 ちなみに先々週の土曜日が学校公開日(いわゆる参観日)になっていて、学校は大嫌いなのだが娘がどうしても来てくれというので嫌々顔を出した。すると各クラスに「私のおすすめ本」なんて感想文とPOPの間みたいな100字程度のものが貼られていた。

 我が娘は、ゾロリの本でそれを書いていたのだが、最後の一文に泣けてくる。「とっても面白い本なのでみんな読んでみてください」。うーむ、既に父親と同レベルではないか。娘のレベルが高いのか、父親のレベルが低いのか。間違いなく後者だと思うけれど、でもな、娘よ。そういうときは、文の最初に「いやはや、すごいぞ、ぶっとぶぞ!」で書き出さなきゃいかんのだ。

★   ★   ★

 通勤読書は、北極繋がりで、『旅をする木』星野道夫(文春文庫)。どう考えても好きなはずなのに、今まで星野道夫の著作に触れて来なかったのはなぜなんだろう。本物過ぎて怖かったのか……。

★   ★   ★

 青山ブックセンター六本木店を訪問すると、なんと「金城一紀さんの本棚」なんてフェアをやっているではないか!! 金城さんがセレクトした約30点の本がコメント付きで紹介されているのだが、うー、このコメント全部コピーして欲しいんですけど……。12月上旬までは開催されているようなので、金城ファンはぜひ。

 その後は地下鉄をうろつくが、半蔵門と霞ヶ関を間違えて下車してしまう。実はこれで3度目。ついでに白状すると大井町で京浜東北線を逆方向に乗り間違えたのは4回あって、このふたつの場所は僕の思考及び方向感覚を狂わす魔の地である。

 大手町のY書店Kさんとしばしお話。
「コミックがあまりに売れるんで広げたんですけど、今度は単価が下がってしまって難しいですね」とのこと。この辺、本当に2007年の出版界を象徴する話で、本はそこそこ売れているけど、文庫、新書、ケータイ小説とほぼ1000円以下の本ばかり。書店さんは冊数は前年比を越えているのに、金額が前年比を越えないという状況なのではなかろうか。

 しかししかしである。カップヌードルやその他の生活用品が材料費高騰で値上げしている今、実は出版業界も紙代が上がっていて、ハッキリ言って値上げしないとやっていられない状態なのである。営業である僕は、ことあるごとに発行人の浜本に「そろそろ雑誌の値段あげてもいいんじゃないですか?」と申告しているが、やはり雑誌の値段を上げるというのは相当抵抗があるようで、なかなか決断できずにいる。

 そんなことを印刷会社の営業マンと話していたら、「いやー紙代もそうなんですけど、ガソリンの値上げで輸送コストがめちゃくちゃ上がっているんですよ。そろそろ出版社さんにお願いしないといけないかもしれません」なんて耳を塞ぎたくなる話をされる。参った。

11月19日(月)

Jリーグにお願い。
頼むから日曜の開催は辞めてくれ。喉の回復が追いつかず、月曜日に声がまったく出ないのだ。営業マンは足と喉が命。営業先で「えっ??」と何度も聞き返されてしまうのだ。

オシム監督の回復を祈る。

★   ★   ★

通勤読書は、古本屋で見つけた『エスキモーになった日本人』大島育雄(文藝春秋)。大学卒業後、グリーンランドに赴き、そのまま永住し、猟師となった日本人の話なのだが、セイウチや白クマなどの猟の話が克明に描かれており、そういうのが好きな僕にはたまらない1冊。

出社し、みんなの机を拭いていたら浜田の机の上に新たなパソコンが設置されていた。しかしかつて使っていたパソコンもそのまま置かれているので、浜田は「デイ・トレーダーみたいでしょう?」となぜか威張っている。確かに仕事中に「うきー」とか「あげー」とか叫ぶ様子は、サブプライムローン問題で急降下する株価を前に絶叫している人そのもの。というか先週までwindows95を使っていたというから恐ろしい。何も年齢と一緒にサバ読む必要もないのに。

お昼に沢野さんがやってきて、新刊『スケッチブック』のサイン本を作っていただく。
「ほんと良い本になってうれしいよ」と何度もおっしゃっていただき、こちらも感激。「よーし椎名くんにもプレゼントしちゃおう」と椎名さん宛にサインし出したのには爆笑してしまった。ありがとうございます。

そのまま会社に残って、来月の新刊チラシや注文書などを作成。
相変わらず一日中会社にいると具合が悪くなる。

11月14日(水) 炎のアジアチャンピオン!

 ACL決勝に進出したチームの県民はその試合日は休日とする。

 そんな法案を勝手に作成し、埼玉スタジアムへ駆けつける。ところがそこにはすでに人人人。いや赤人赤人赤人。いつもの休日の試合よりもよほど素早い出足で、そのなかには僕も含めて大人がたくさんいる。冒頭に書いた法律が本当に施行されているのではなかろうか。

 スタジアムに入場すると、とても大手通信会社に勤めているとは思えない時間にスタジアムに到着していたオダッチが呟く。

「なんかさぁ、去年のJリーグ優勝の最終戦ほどは緊張していないよね」

そう言いながらも缶ビールを口の開いてない方から飲もうとしたり、サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の同じところを何度もめくったりしていた。

 僕が着くと同時にS出版のニックがやってくる。ニックは片手に持ったカツ弁当を掲げ「これ食べると負けないんですよ」と笑う。「験担ぎなんかすんなよ」と突っこんだが、僕はパンツから時計やカバン、靴下に至るまですべて勝率の高いもので身を固めてきていた。その服装を選ぶのに昨夜1時間近くかけていたのだ。

 ゴール裏に陣取るが、もはや通路も人、人、人。その隙間を縫って小柄な母親が顔を出した。「お母さんさあ、寿命があと5年だとしたら、2年くらい短くなっていいから、今日優勝したい」その計算でいくと70歳で死ぬことになるのだが、確かに浦和レッズがアジアチャンピオンになるのを目の前で見られたら、もはやこの世に思い残すこともないだろう。葬式は紅白黒のレッズカラーの幕をかけ、音楽はWe are Diamondsで送り出してあげよう。お墓は埼玉スタジアムの近くに立てよう。サッカーボールのかたちの墓石でいいか。

 キックオフ!

 セパハンがボールを持つと、後ろで応援しているネット書店B社のY社長が怒鳴る。「なめんなよてめーら。ぶっ殺すぞ!」死んでもこの人の部下にはなりたくない。

 前半22分。ロブソン・ポンテのパスが絶妙なコースで走り出した永井雄一郎に繋がる。永井は我が妻の友人が勤めるスポーツジムに数年前から通い出したようだが、去年までは「試合に出られないんだ」と愚痴っていたらしい。しかし今年は、天皇杯の決勝に、Jリーグ開幕戦、天王山のガンバ大阪戦と大事なところでゴールを決めてきた。試合に出たい! 活躍したい! 彼が初めて切実にそう願い、そして努力した結果が、アジア優勝に近づく先取点を生んだ。

 そのときK取次店のAさんが言葉にならない雄叫びをあげた。「あごぎぐへぺぽびひゃー」。Aさんの突き上げた腕からは、この闘いのために彫られた勝利の女神のタトゥーが見え隠れしていた。

 後半、満身創痍の阿部がゴールを決めると、アジアチャンピオンの栄冠はすぐそこになった。そしてロスタイムがホイッスルが鳴ると、埼玉スタジアムは絶叫で爆発した。爆発のなかからコールが聞こえてくる。「浦和レッズ、カンピオン 世界に輝け! レッズ!」

 隣で観戦していたN出版の浦ちゃんは、「凄すぎて実感がわかない」と鳥肌を立てていた。そのまた隣で観戦していたS書店に勤める奥さんは「これで増刊号がいっぱい売れる」と笑っていた。

 試合が終わるとぶっ殺すぞ社長が「明日の朝はサイトの一面真っ赤にすんだ! 社員に言ってあるんだけどよ、あいつらアジアチャンピオンになることの意味がわかってねーんだよ。」やっぱりこの人の下で働きたいかも…とちょっとだけ思い直した。

 埼玉スタジアムを出たところの売店でビールを買う。アル中のKさんが乾杯の音頭を取る。「オイッ!」この日のために、この人が費やした酒と時間は、並大抵のものではない。

 そして僕は、後半途中からずーっと涙が止まらなかった。しかしその涙は今まで15年間に流してきた涙とはひと味違った。喜怒哀楽の涙ではなかった。畏怖の涙であり、敬愛の涙であった。

 2007年11月14日。
 浦和レッズの選手が、僕らを越えた。

 浦和レッズ! カンピオン! 世界に輝け! レッズ!

11月11日(日) 炎のサッカー日誌 2007.21

 アジアチャンピオンズリーグを闘ったと思ったらもうJリーグ。
 イランから帰って来て中三日。選手もサポもボロボロだろうが、ダブル(天皇杯を入れてトリプル?)目指して闘うしかないのである。

 といってもほぼ同じメンバーで戦い続けている我が浦和レッズ。蓄積疲労のせいかどうしても一歩が遅れ、もうJリーグしかない元気な川崎の防戦一方。必死に守ってカウンターというのがこのところの展開なのだが、ポンテへのマークも試合毎に厳しくなり、想い通りに攻められない。そんななかやっと本来のパフォーマンスに戻った長谷部が、カカばりの縦への突進で再三チャンスを作るが、かつて同じ市にいたはずのゴールキーパーに止められる。

 セパハン戦同様、こらえてこらえてどうにか1対1の引き分けに持ちこむ。ガンバ大阪との勝ち点差は5に縮まってしまったが、これだけ必死に闘っている選手に誰がブーイング出来よう。

「We are Reds」「赤き血のイレブン」のコールが等々力競技場に鳴り響く。

 決戦は水曜日。
 世界に見せつけろ! 俺たちの誇り!

11月9日(金)

朝から事務の浜田がプンプンしている。

「まったく今週は郵便物を取りに来るって行っていたのに!」とまったく会社に顔を見せない目黒さんのことを罵り続ける。「嘘つき! ドラえもん! デ○ちん!」

腫れ物に触らぬよう、助っ人用デスクで仕事をする。

ところが昼になったら「こんにちは〜」と目黒さんがやってきた。一段と太ったような気がするが、本人は「歯にばい菌が入っちゃって」と意味不明の言い訳。

そんな会話するかしないかのうちに猫撫で声どころか、トドの吠え声のような雄叫びをあげて浜田が目黒さんに擦り寄っていくではないか。擦り寄っていくというよりは、がぶり寄りか。そして我が浦和レッズの坪井のようなスッポンマーク。本の雑誌社のチーママ恐るべし。つうか目黒さんに擦り寄る理由がよくわからない。

あまりに気持ち悪いので営業に出かける。

出版前から話題になっていた池澤夏樹個人編集の「世界文学全集」の第1回配本『オン・ザ・ロード』が、書店店頭にドーンと積まれていた。欲しい。けれど金もないし、場所もない。ああ、新訳流れで、文庫で出してくれたら良かったのに……。もしくはDS同時発売とか……。

金曜日はお休みの担当者が多いことをすっかり忘れて立川を訪問してしまう。子供が生まれたSさんにお祝いを渡したかったのだが、そのSさんも公休日。今頃病院で赤ちゃんを抱いているのかな?なんて思ったら、自分の子供が生まれときを思い出しポカポカとなる。

本日はマックロクロスギエに打ち勝ち遅くまで営業。

11月8日(木)

昨夜は結局BS朝日の映る実家に行ってテレビ観戦。
途中から本気で胃が痛くなり、くの字になって応援を続ける。セパハンと高地と固そうなピッチをどうにか乗り越え1対1の引き分け。

ヨシッ! 一緒に闘うことができる14日のアジアチャンピオンを手にするぜ!

★   ★   ★

本日は沢野ひとし渾身の作品集となる『スケッチブック 沢野ひとし画集』の印刷立ち会い。

沢野さん独特の淡い色合いは、印刷で表現するのがとても難しいそうなのだが、デザイナーの藤本さんと印刷会社の職人さんに手により、忠実に再現されていく。まるで本物のスケッチブックのような仕上がりに感動を覚える。

印刷が終わったのが夜の7時。ジャスコフリークの浜本はそのまま隣りにあったジャスコに消え、デザイナーの藤本さんはライブへ。僕はひとり感動に浸りながら祝い酒。

出版部初制作のこの本は素晴らしい出来になりそうだ。

11月7日(水)

金が欲しい、車が欲しい、身長が欲しいと、36年間いろんなことを求め続けてきけれど、私が今一番欲しいのは、アジア王者の栄冠である。それ以外は何もいらない。本当に何もいらない。とにかくアジア王者になりたい。

イランに行きたかった。イランで叫びたかった。イランで「WE ARE DIAMONDS」を歌いたかった。しかしいつもチキンな俺はイランに飛べなかった。おそらくこの日を一生悔いることになるだろう。

あと10時間後くらいに決戦は始まる。
闘え! 浦和レッズ!
俺は、お前を信じてる!
We are Reds!

11月6日(火)

11月6日(火)

朝9時に出社し、メールの返事などを書いているとあっという間に10時になっていた。事務の浜田や松村が出社。コーヒーをいれつつ、本日の予定を確認していると事務の浜田が大きな声で松村を呼ぶ。この人、外部の人からの電話なぞには小さな声しか出せない典型的な内弁慶タイプで、内部の人間と酔っぱらったときだけ大魔神化するのである。

「松、松これ見て!」
「なになにおやびん」
「この広告見てよ。史上最大級の谷間をプレゼントするブラ、ブラリッチだって。うげげげげ。カップの内側にもうひとつカップが入ったダブルカップシステムだって。これは反則だろ」
「うへーすごいあげ底…じゃなかったあげ胸じゃん。すごいねー。買っちゃう親分」
「クリスマスギフトだって。うげげげげ」

嗚呼。文字というのはなんて素晴らしいのだ。これを読んでいる人のうち、関口鉄平のような妄想男子はもしかしたら朝から女性が下着話をしているとてもドキドキな会社なのではないかと興奮するかもしれない。しかしそれは文字の上だけであって、現実は私と関口鉄平がそのモクモクの想像を完全否定するほど、美しい話ではないのである。ムフフフどころか、怒り! そう怒りしか湧いて来ない。衝動的に辞表を書こうかと思った。

通勤読書は『錏娥哢(た)』花村萬月(集英社)。ここ1ヵ月、年末のベスト10用に積ん読になっていた本や、めぼしい新刊を必死になって読んでいたのであるが、最後の最後に超ど級のエンターテイメント作品にぶち当たる。それがこの『錏娥哢た』! 花村萬月が山田風太郎と半村良へのオマージュとして書いた忍者小説なのだが、これがもう荒唐無稽しっちゃかめっちゃか何でもありの作品で下品と言えば下品、しかし読みだしたら止まらない、物語世界を堪能。

営業は本日オープンとなったGRANTOKYOの大丸へ。店内は60代と思われる男性&女性でごった返していた。そして中のテナントは、僕のような頑張ってもGAPな人間にはまったく手の出ないブランドばかり。うーむ、お隣有楽町にできたITOCiA(イトシア)もすごい人出だったが、日本のどこかに金があるんだな。できれば本を買って欲しいのだが、そうはいかんのか。ドーナツの代わりに本を! 年輪バームクーヘンの代わりの本を! さっぱりわからないが、三省堂書店さんはとってもきれいなお店になって生まれ変わっていた。

八重洲ブックセンターにてKさんとお話。「うちのお店に合う」という理由で1階で展開し出した講談社文芸文庫と新潮の朗読CDは順調に売れているとか。また「面白い本見つけたんだよ」と教えていただいたのが『原宿ブルースカイへブン』遠藤夏輝(世界文化社)。「文章はまだ…ってところがあるけど、クールス世代にはたまらない」とのこと。

このKさんやその下で働くUさんのすごいところは、文芸誌や週刊誌をきっちりチェックしているところだ。○○新人賞読んだ? なんて単行本になる前からKさんは話かけてくるし、本日もUさんから「今年の吉田修一先生と桐野夏生先生は素晴らしかったけれど、今「週刊新潮」で連載している「さよなら渓谷」(吉田修一)と「週刊文春」で連載している「ポリティゴン」(桐野夏生)はもっとすごいんですよ。来年あたり単行本になるかと思いますが、期待してます」と教えていただく。

僕が八重洲ブックセンターでアルバイトしていたのはかれこれ16年以上前なのだが、いまだにここの先輩達にはまったく追いつけずにいる。悔しいけれど、僕にとっていつまでも目標。

11月1日(木) 第5回本屋大賞スタート!

本日、第5回本屋大賞がスタート。
http://www.hontai.or.jp/

記念すべき第5回なので、翻訳部門やノンフィクション部門を作ろうと半年近く議論してきたのであるけれど、結局これ以上仕事が増えたら片手間の実行委員では、とても手に負えない。そうすると結果、多くの人に迷惑をかけることになるだろう、というわけで、例年通りの開催になってしまった。残念。ただし5周年記念特別企画として「この文庫を復刊せよ!」という投票を受け付けることにしました。

飲み会での話から始まった本屋大賞が、5年も続くなんて思っていなかったが、5年続いて気付いたのは、実行委員一同みんな年をとったということだ。あの頃、実行委員の面々は20代半ばから30歳くらいが中心だったのだが、それが5年経ち、何だか日常の仕事や生活にがんじがらめになりつつあり、月に一度集まるのも大変だ。しかし全員にとって我が子でもある本屋大賞のために今年も頑張りますのでよろしくお願いします。

ちなみに本屋大賞…。参加していただければわかると思いますが、とっても楽しいです。自分が読んできた一年間の読書の蓄積をここで吐き出し、それが全国の書店員を数で二次投票にまわり、そこではまた未読本を知ることにもなり、再度投票する。これから4ヶ月間の長丁場で、しかも二次投票は期間が短いので大変だと思いますが、それでも毎年参加していただいている書店員さんはすでにどれに投票しようか、あるいはこれから出る新刊、積み残している未読本などを前にワクワクされているのではなかろうか。って投票できない僕がとてもワクワクしているんだけど。

とにかくまだ参加したことのない書店員様、ぜひ参加してみてください!

ちなみに本屋大賞をやっていてとても嬉しかったことが今年あって、それは『床下仙人』原宏一(祥伝社文庫)のブレイクである。このブレイクのきっかけになるPOPを作られたのが町田のY書店のSさんなのだが、そのSさんが書かれている『天下り酒場』(祥伝社文庫) の文庫を読んだら、なんとSさんが『床下仙人』を知るきっかけになったのが『本屋大賞2007』に収録されている発掘部門の投票だというではないか。本屋大賞の投票から大賞作品以外のヒットを産む、というそういう関係こそが、実行委員が目指していたひとつのかたちなのだが、こうやって利用されていくのは本当にうれしい。

来年の4月8日。
明治記念館の舞台にどの作家さんが立つのか。それを決めるのは書店員のみなさんです!

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