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1月28日(月)

土曜日から悪寒、全身倦怠、高熱、下痢、ゲロに襲われ、本当はフットサルの蹴り初めと、高野秀行さんの怪獣記&ムベンベDVD酒飲み書店員上映会があったのだが、二日間布団にくるまっていた。

隔離された部屋の扉を息子が何度も開け、「パパ、ダイジョーウ?」と聞いてくる。おそらく私は幸せだ。具合は悪いけど……。

サラリーマンの悲しいサガで、月曜日には熱が下がってしまった。

本日は大井町、大森、蒲田、川崎と営業。

あおい書店川崎店で「うぎゃー」と驚いてしまったのは、なんとあの山口瞳の幻の名著『世相講談 上』(論創社)が復刊され、平積みされているではないか。

私が山口瞳の魅力に気付いたときには、とっくのとうに品切れで、全集もすでに品切れ、しかし向田邦子や沢木耕太郎が、山口瞳作品のなかで一番とどこかで書かれていた作品で、それはもう読みたくて読みたくて、古本屋を彷徨きまわったのである。

灯台もと暗し。数年後、我が町・浦和の古本屋の、しかも100円文庫棚にささっていたときのあの感動は今も忘れない。ドキドキ手にとり、誰かに奪われないように胸に抱え、古本屋のオヤジに差し出した。「あっ値段間違えてました」と言われないかそれでもドキドキし、たった200円(上下巻)で手にした時、なぜか罪悪感を持ったものだ。そして一読、確かにこれは小説であり、ルポであり、山口瞳の魅力が詰まった、素晴らしい一冊だった。

しかしこの復刊は、素敵過ぎる。
論創社にパチパチ!!
持ってるけど買っちゃう!!!

1月25日(金)

通勤読書は、昨日の『自分で釣って、自分で開く』に引きずられ、海魚もの。『漁師町のうめぇモン!』西潟正人(生活情報センター 2007/2:倒産)。こちらは通勤途中のバーゲン本のなかで発見した本なのだが、そのタイトルどおり、日本中の漁師町を歩き、うめぇ地魚を食うルポ。見開きで一地域・一うめぇもんなのだが、読みごたえ充分。こういう旅がしてみたい。

本日は総武線を新小岩から千葉まで営業。

船橋のときわ書房・宇田川さんに指摘されて、気付いたのだが、翻訳ミステリの出版点数は激減の一途なのだ。かつては翻訳ミステリで平台をにぎやかにしていた新潮文庫や文春文庫ですら毎月1点出るかどうかで、下手すると文庫の新刊ラインナップに翻訳ものが入っていないこともある。私が本の雑誌社に入社した10年前は、トマス・H・クックやロバート・ゴダードの新刊が出るたびに書店員さんと大騒ぎしていたのに……。しかしなぜか外国文学は好調だったりするのが不思議だ。

某書店さんで、必死になって売り場を駆けずり廻っている書店員さんを見かけ、何だか涙が出てしまった。先月訪問したとき「自分が休みでも来たいお店にします」と話していたのだ。

いったんお店を出て、涙を抑え、再度訪問。でもダメだ。真剣なその表情、その言葉を聞いているだけで、涙が出てしまう。頑張ってください、いやお互い頑張りましょう!!

長渕剛の「Myself」をi-podで聴きながら帰社。

1月24日(木)

5月号の特集を担当することになり、その依頼で一日が終わる。猛烈に神経を使う仕事だったので、終業時間の18時にはフラフラとなる。しかも、いくつか決定的なミスを犯してしまい、ぐったり。深い深い自己嫌悪に陥る。

一昨日営業で廻った埼玉は、ショッピングモールの大進出の影響で、書店さんの開店と閉店が続いている。出版社の民事再生法の申請や倒産が騒がれているが、書店の閉店も多い。

それにしても埼玉。平日と休日で、人の流れがこんなに違う都市も珍しいのではなかろうか。平日は駅近辺、休日は郊外のショッピングモールに渋滞の列。もはや駅前だからといって商売ができるものではないし、しかしショッピングモールだって、これだけ出店が進めば過当競争が始まるだろうしで、いったいこの先どうなってしまうのか?

長年廻っていたお店が閉店になるのは、本当に淋しい。在庫の減らされている店内を眺め、深いため息をついた。まだ担当者さんと別の店で会えるだけ幸せかな。

通勤読書は、『自分で釣って、自分で開く。—嵐山光三郎の史上最強の干物』嵐山光三郎(SUN MAGAZINE MOOK 別冊つり丸)。

こちらはもうまもなく発売となる、椎名編集長の10年ぶりの怪しい探検隊シリーズ『わしらは怪しい雑魚釣り隊』と交互に「つり丸」に連載されていたもので、嵐山光三郎さんが、魚を釣るだけでもなく、食うだけでもなく、釣った魚を、その舟の上で開いて干して干物にしてしまうというルポである。アジから始まり、ヒラメの観音開きやら、ついには鯛の開きまで作ってしまうのには驚いた。うう、美味そうであり、楽しそう。

1月23日(水)

雪。

営業に向かおうとしたら、社内の面々から「どこへ行くんですか?」と聞かれる。営業に決まっているではないか。「こんな雪なのに?」と哀れまれるが、営業を5年も10年も続けていると雨だろうが、雪だろうが、雷だろうが、天気のことなんて気にならなくなる。本は作っただけでは商売にならないのだ。売ることがあって初めて商売=仕事になるんだよ。そう言い聞かすと「雪でも来ましたって、トークですか?」 アホ、そんなに甘くないわい。その証拠に、柏のS書店さんで「今日は営業が多いなぁ」と言われてしまった。

しかし天気は気にならなくても、寒いのは寒いわけで、年々装備が増えていく。
手袋から始まり、マフラーにいき、靴下の2枚重ねに行き着いた。それでも我慢できず一昨年より股引を穿くようになってしまい、これでもし夜のお誘いがあっても、ズボンは脱げなくなってしまった。

ところがそれでも耐えられなくなり、今年からタートルネックのセーターをジャケットの下に着ている。もうこれ以上着ることはできないのではない。あとは目黒や浜本のように太るしかないのか。

夜。
松戸良文堂の高坂さん他、出版社、取次店の人と飲む。
出版営業が一番ツライのは「いつまでも前任者宛に電話がかかってくることだぁ」となぜか叫んでしまう。

1月22日(火)

事件は22時32分、我が家の居間で起こった。

この日は私、埼玉営業で、浦和の紀伊國屋書店Sさんとお話を終えたのが、18時ちょうど。まさかここから会社に帰る気にはなれず、連絡を入れ、直帰したのである。

日頃週末以外は朝しか顔を会わせることがない私が突然早く帰ってきたことに、娘と息子は大変喜び、喜び過ぎて、20時には布団に入って、眠ってしまった。夢かと思った。なんとぽっかり私の時間が出来たのである。0時に布団に入るとしたら4時間は自由になるのである。4時間といえばサッカーの試合が2試合見られるではないか。良い夢見ろよ、子供たち。

というわけで、布団から這いだし、お茶を入れ、週末に撮り溜めておいたプレミアリーグを見だしたのである。まずはチェルシーVSバーミンガム・シティ。その後はアーセナル対フラムである。

アーセナルは現在恐らく世界で一番組織的なサッカーをしていると思うのだが、もうパスが繋がる繋がる。そして1対1も素晴らしく、私はプレミアではマンチェスター。ユナイテッドを応援しているのだが、アーセナルの試合はヨダレどころか失禁ものである。

ニヤニヤしながらそのプレーを見ていたのであるが、ふと顔を隣に振ると、唯一の愛読書である生協のカタログを見ていた妻がテレビに釘付けになっているではないか。しかもあろうことか、アデバイヨールのヘディングで、先制点が生まれた時なんて、「わっ!」と声をあげたではないか。

おい、お前、サッカー嫌いじゃなかったのか? Jリーグが出来た頃に、浦和レッズの試合に連れていったことがあるのだが、そのときあの大歓声のなか思い切り寝ていたではないか。

ちなみにあの頃Jリーグのチケットでナンパが出来る、といわれるほどのプラチナチケットで、私は好きなサッカーで彼女がゲットできるなんて、と喜んで彼女候補の女性をサッカーに連れていっていたのである。しかしスタジアムに着いたら彼女候補どころでなく、ひとつのボールと赤いユニフォームに夢中になってしまい、ロマンチックな言葉でなく、野卑な言葉で相手チームを罵倒し、スタジアムを後にするときには、女の子は私の顔を真正面から見なくなり、そして背中を向けて離れていったのだ。

いやそんなことはどうでもよくて、とにかく妻はサッカーにまったく興味がなく、スポーツはラグビー専門で、だからサッカーで素晴らしいスルーパスが通ったときなんか、スローフォワードじゃん!なんて怒るやつなのである。その妻が、2点目もヘディングで決めたアデバイヨールのゴールにまた声を上げた。

そして事件が起きたのである。中盤でボールをカットしたセスクが、前方を走るエドゥアルド・ダ・シウヴァに背筋がゾクッとするようなスルーパスを出す。それにギリギリで追いついたエドゥアルド・ダ・シウヴァがディフェンダーを振り切り、マイナス気味のクロスをあげると、そこにはセンターラインから走りつづけていたロシツキーが、足を投げ出すように飛び込んでいた。その足が、ドンピシャでボールを捉え、ゴールネットを揺らしたのである。奇跡のようなゴールである。いやゴールはすべて奇跡である。

その瞬間、妻は「ウワーーー」と叫び、「サッカーって面白いね!」と私の顔を見た。

あの妻がサッカーを面白いって? そしてこう問いかけてきたのである。「浦和レッズも、面白い?」

私の頭のなかを埋めていた「?」と「!」は、その質問を受けた瞬間消え去り、まるで川らあがった犬のようにブルブル顔を振った。

「いや全然面白くないよ。闘莉王はギャラスほどうまくないし、クリシーみたいな左サイドもいないし、当然アデバイヨールもいないし。唯一このなかに入ってもおかしくないのはポンテだけど、ポンテは今年ケガで出られないし、ほんと浦和レッズのサッカーなんて面白くない!!!」

なぜ私が最愛の浦和レッズをこんな否定しないといけないのか。泣きそうである。しかしこれでもし妻が浦和の試合に行くなんて言いだしたら最悪ではないか。

なぜなら私にとって埼玉スタジアムで過ごす時間は、唯一自分をさらけだせる時間であって、だからこそ「ホーム」なのである。そこに一番気を遣わないといけない妻がやって来たら、完全アウェー、駒場の出島状態になってしまうのだ。

しかも1家庭1人で行くならそれだけの支出で済むが、もしこれで妻と行くとなると、家族全員でいかなければならず、妻プラス娘分の金がかかる。収入が増えない以上、そのマイナスを補うために観戦数が減らされるのは必至で、そんなことは絶対阻止しなければならない。

高速で廻り出した私の脳みそが、危険信号を発し、大きなサイレンを鳴らす。

「とにかく浦和レッズは全然面白くないよ。だからそう、アーセナルをテレビで見ているのが一番!!!」

そう言い切ると妻は「じゃあ、なんであんたは毎週毎週そのつまらない浦和レッズを見に行くのよ」と冷静に切り返してきた。

「うー、そっ、そっ、それはさ……、あのな、オレの血には、浦和レッズの血が流れているんだよ。血液検査すればわかるんだけど、オレの血液型はURAWA+のO型なの。でお前はね、URAWA−A型なんだよ。だからもうしょうがないの。」

妻はそう抗弁する私に愛想が尽きたのか、テレビの方に顔を向けた。
「ねえ、この13番の人、フレブっていうの? すごい上手いよね。ボール絶対取られないし」

1月21日(月)

一次投票の集計が無事終了し、2008年本屋大賞のノミネート作品を発表するところまでこぎ着ける。(http://www.hontai.jp/)

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹(東京創元社)
『悪人』吉田修一(朝日新聞社)
『有頂天家族』森見登美彦(幻冬舎)
『映画篇』金城一紀(集英社)
『カシオペアの丘で』重松清(講談社)
『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(新潮社)
『サクリファイス』近藤史恵(新潮社)
『鹿男あをによし』万城目学(幻冬舎)
『八日目の蝉』角田光代(中央公論新社)
『私の男』桜庭一樹(文藝春秋)

一次投票に参加していただいた426人の書店員の皆様、ありがとうございました! そして二次投票、よろしくお願いします。

それからこんな勝手に作った賞のノミネートを快く受けていただけました作家様、出版社様、ありがとうございます。

また、二次投票に参加する書店員さんだけでなく、読者の皆様もぜひこれら10作のうちから1冊でも自分に会いそうな本を読んでみてください。ちなみに本屋大賞の発表は4月8日。インターネット中継してくれる会社絶賛募集中!

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早速相棒とおるからメール。

「本屋大賞が始まってから初めて自分がすでに読んでいる本が入ったよ。しかも杉江から借りた本でなく、自分で買った本だよ。うれしー。」

さて、私も未読本と格闘だ!

1月18日(金)

通勤読書は『ワーキング・ホリデー』坂木司(文藝春秋)。元ヤンキーのホストのところに突然現れた息子と名乗る子供の一夏の交友録。夏休みの昼ドラにピッタリなのではなかろうか。というか、うちの娘に読ませたい。

読者の予想と少しずらしたところに話を展開させるその技が憎い。思わず埼京線のなかで泣きそうになってしまった。

恵比寿の有隣堂さんを訪問すると「THE BEST BOOKS OF THE YEAR 2007」なんてフェアが開催されたいた。こちらは有隣堂さんの店員さんだけでなく、出版社や取次店の人も参加し、2007年のオススメ本をPOPとともに展開。カラーコピーの小冊子が配られていたので、思わずゲット。

その脇を担当のKさんが忙しそう品だしで走っている。こういときは邪魔してはいけないと、挨拶だけしてお店を後にする。会社から「何をしてるんだ!」という声が聞こえて来そうだが、営業というのはそう簡単なものではないのである。

広尾に移動すると駅前の銀行から中山秀征が出てくるではないか。さすが広尾! 流水書房さんを訪問し、Tさんとお話。直木賞を受賞した『私の男』桜庭一樹(文藝春秋)にしっかり「直木賞受賞」の帯が付いて並べられているのを指摘すると、「ちょうど入って来たんですよ」とのこと。受賞から二日で並ぶということは、重版しておいて帯だけ巻き直すのだろうか。一度も経験がないのでわからないけれど、その日の営業は大変だろうな。

六本木、銀座と営業。

銀座の書店さんはフェアが面白い。
例えば私の大好きな教文館さんの階段正面のフェアは、「日本語っておもしろい ことばの不思議」で、これは『広辞苑』の発売に合わせて日本語関連の本を集めたもの。日頃棚に埋もれてしまうような本にこうやってスポットライトを当てられると発見がある。

それからブックファーストさんでは「あの作家の出身大学は」なんて文庫のフェアが組まれていたのだが、大沢在昌さんが慶応大学(中退)なんて知らなかった。

多くの書店員さんが指摘していることだが「お客さんにとって初めて目に付いたときが新刊」のとおり、こうやっていろいろな形で本が紹介されるのはうれしいし、楽しい。

1月17日(木)

私が大好きだったときわ書房聖蹟桜ヶ丘店さんが15日に閉店してしまった。個性だけにとらわれず、お客さんの欲しがるものをしっかり置く理想的な売り場作りをされていたお店だっただけにとても残念だ。売上はきちんとあったようなのだが、ビルのオーナーが交代し、家賃の大幅な値上げを通告され、残念ながら閉店することになってしまったとのこと。

そういえばいつだかとある書店の経営者の人と話していたら「これから怖いのは家賃と借り入れ金の金利上昇だ」と言われたことがあったが、まさにその怖いことが今起きているのだろう。

閉店の翌日、本屋大賞の会議で、そのときわ書房のTさんにお会いした。

「こんなこと初めてなんでビックリなんですけど、閉店の日にほんとたくさんのお客さんにプレゼントや花束をいただいちゃって…。あるお客さんはこのお店がなかったらあの本に出会えなかったよありがとうと涙ぐみ、また別のお客さんは、このお店ができるまでうちの息子は本なんて読まなかったのに、今じゃ大の本好きになってちゃってなんて。ほんと閉店は悲しいけど、本屋というものを見直しちゃいました」

そう話すTさんの顔はものすごく輝いていたし、そういう関係がお客さんと築けたのは、Tさんだけでなくスタッフの方々が一生懸命売り場を作って来たからだろう。Tさんはひとつの区切りとしてときわ書房さんを退職されるそうだが、できればまた、いや絶対この業界に戻ってきて欲しい。

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夕方から高野秀行さんと単行本の打ち合わせ。
年末年始の宿題を見て頂くが、花丸はもらえず、再度検討へ。

打ち合わせ後、吉祥寺のいせやで、しばし酒。飲み終えて外に出ると、一気に酔いが覚めるような冷たい風が吹く。この風が暖かくなる頃には本が出来るか。頑張ろう。

1月16日(水)

 午前中はまもなく記念すべき300号を迎える「本の雑誌」の企画会議。昼は、宮田珠己さんと打ち合わせ、営業で書店さんを廻った後、夜は本屋大賞実行委員会の会議で、クタクタになって帰宅する。

 その帰りの電車で、肩をトントンと叩かれあわてて振り向くと、ご近所のパパ友達で、飲み友達にもなったSさんが立っていた。

「また飲み会でしょ?」
「いや今日は会議で」
「ウソばっかり。奥さんには秘密にしておくから」

なんて笑われるてしまったが、仕事とはまったく関係ない人と会話したことによって、ストレスがゆっくりと溶け出していくのを感じた。

同じ駅で降り、自転車置き場に向かう道すがら、まだ開いている居酒屋が目に入る。

「ちょっとだけ、飲んできますか?」
「いいですね。でも妻には秘密ですね」

ふたりで居酒屋の扉を開けると「ラストオーダーがすぐですよ」と声をかけられたが、カウンターに腰を下ろした。

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私の父親は家でほとんど酒を飲まなかったし、酒に弱い体質なのだが、家の近くに行きつけの居酒屋があった。そこは所属していたソフトボールチームの仲間のお店で、だからそのメンバーが集まる飲み屋だった。

父親の帰りが待ち遠しかった頃、19時過ぎに家の電話が鳴ると途端に悲しくなった。なぜならそれは父親からの電話であり、間違いなく居酒屋に寄って帰るという連絡であったからだ。母親は笑いながら「ハイハイ、飲み過ぎてまたU字溝に落ちたりしないでくださいね」と答えて電話を切る。本当は父親とプロレスをしたかったのだが、そんな夜は兄貴か布団を相手に格闘した。

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Sさんと娘の学校の話やランドセルの話などをしていると、溶け出していたストレスが、飲み干すビールとともに消えていくのがわかった。そして、もしかして父親もあの居酒屋で私や兄貴の話をして、一日の疲れを癒していたのだろうか。そういえば、いつもはほとんど口を聞かない父親も、居酒屋に寄って帰ってきたときだけは、ニコニコと私の話に耳を傾け、いつもはしないような話をしてくれたいた。

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30分もするとお店の人に「閉店になりますので」と声をかけられ、Sさんと雪の降り出した外へ出た。

帰宅するとすぐに風呂に入った。ゆっくりと身体を温め、すでに寝ている家族が待つ寝室へ向かう。まずは一番手前に寝ている息子の匂いを嗅ぎ、妻をまたぎ、娘の隣りに横になる。すると私の気配を察したのか、娘が私の布団に入り込み、ぎゅっと抱きしめてきた。その瞬間、身体の芯にあった最後に残ったストレスの固まりが、消えていく。

私の父親と母親も、私や兄貴の寝顔をこうやって見つめたことがあったのだろうか。

1月11日(金)

2008年本屋大賞の一次投票が、本日終了。

これで精神的には一段落ついたが、これから集計やら発表やら出版社への交渉やら様々な雑事があり、ここからが実行委員にとっては本番である。

私はFAX投票を打ち込む係りなのだが、その推薦コメントを読みつつ打ち込んでいると、どうしてもその本が読みたくなってしまう。1月はいくら金があっても足りない。

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年末年始にBS放送で何気なくプレミアリーグを見ていたらそのまま思い切りハマってしまい、ついになけなしの小遣いから3000円を出し、ケーブルテレビに加入。本当はスカパー!のサッカーチャンネルに入りたかったのだがJ1と世界サッカーを足して約6000円はさすがに払えず、またサッカーしか映らないものを導入することに、妻子に猛烈に反対され泣く泣く諦めたのである。

しかしプレミアだけでも充分だ。何が良いって精神的に落ちついてサッカーを見られるってことだ。

これがもし我が浦和レッズの試合だったら、例えテレビの向こうで起こっていることだとしても、ワンプレー、ワンプレーに声を張り上げ、ときにはテレビのリモコンを叩き壊し、もはや楽しむどころか苦しむことになるし、他のJリーグの試合だったら試合中ずっと「死ね」とか「ぶっ殺せ」とか怨念を放出しなければならない。疲れるのである。それに引き替え、はっきりいって他人のものであるプレミアや世界のサッカーは、単なる鑑賞として楽しめる。サッカーってこんな楽しいものだったのねと再発見。

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池袋のジュンク堂さんを訪問すると、休憩から戻られた田口さんが読み差しの本を手にして「良いのよ〜」とオススメいただく。その本は『医者、用水路を拓く—アフガンの大地から世界の虚構に挑む』中村哲(石風社)。

「あれ? その著者前は井戸を掘ってませんでしたっけ? 『医者井戸を掘る—アフガン旱魃との闘い』」
「そうなのよ、でも井戸だけじゃどうにならなくて、ついに用水路まで切り開いちゃったのよ、すごいよね」

早速、購入することにするが、1階でもう1冊気になる本を発見する。

『銭湯遺産』町田忍(戎光祥出版)。全国の銭湯の写真集であるのだが、いやー昭和的というかとにかく懐かしく美しい。しかし6090円もする高額本なので、こちらは給料が出てから購入しよう。

(この日記を書くためにアマゾンで書誌データを確認したら、マーケットプレイスで19000円と約定価の3倍で販売されているから驚いた。というか最近このアマゾンで新品品切れ→アマゾンマーケットプレイスで高額販売が、私の周囲では問題になっているのだが、出版業界として野放しにしていていいのだろうか? 出品者のいう「新品未読」とか「希少品のため定価より高額な設定となっております。アマゾン注文画面右上の参考価格(定価)を参考にして頂き、ご理解・納得頂いた上でのご注文をどうか宜しくお願い致します」なんていうのはどういう意味なんだろうか。その本はどこから手に入れているのか?)

ちなみに『銭湯遺産』に興味を持たれた方、リアル書店で定価で普通に売ってますから、間違ってもこのような金額で買わないようご注意ください。

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今週の一番大きな出来事は、草思社の民事再生法申請であるのが、その報を出版営業仲間のヤマちゃんから携帯に連絡をいただいた瞬間、もう何も言葉が出ず、ただただ呆然。

我が営業の目標であるKさんやSさんが元気でありますように。そして支援企業とともに新しい草思社を創られますことを心より願っております。

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夜、本屋大賞のFAX投票が落ちついたので、前の会社の先輩が「飲んでるから来い」と連絡のあった新橋へ。今夜は飲むぞ。

1月8日(火)

 通勤読書は『賢者の山』遠藤ケイ(山と渓谷社)。年末年始に読むはずが、子供の相手で1冊も本が読めず、引き続き遠藤ケイさんの著者を読み続ける。白神山地や屋久島、熊野などを訪れ、その山や森に抱き込まれるルポであるが、とにかく文章がうまく、考察が深い、しばらく私のバイブルになりそう。野田知佑さんのファンや、私の大好きな『山の仕事、山の暮らし』(つり人社)や『古道巡礼』(東京新聞出版局)の高桑信一さんに相通じるものを感じる。

 しかしこの手の本を読んでいると、どうしても柳田国男や南方熊楠に向かっていくもので、今年の読書のテーマは、このふたりか。しかし20年前、八重洲ブックセンターでアルバイトしていたとき南方熊楠が読めず、しかもおバカな私は著者名なのかジャンルなのかもわからず、お客さんに怒られたっけ。

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 出版業界が世の中の社会・経済状況から10年遅れているというのであれば、今から10年後が今の社会・経済状況になるということか。返品改装した本を売ること新品として売ることを「偽装」と呼ばれる時代になったりして。

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 もろもろの日程を調整し、いざ営業へ。

 まずは異動になられたと聞いた三省堂書店Uさんの新天地・成城店を訪問。Uさんは千葉会のメンバーでもあるのだが、チェーンの書店さんは異動が激しいので、なかなかその土地に根付くことは難しい。それでも千葉会に参加し続けてくださいねとお願いすると、もちろんですけど「吉っ読」の吉祥寺まで電車で30分なんですよ、なんて意味深なことを言われてしまった。

 渋谷へ移動し、年末お会いできなかったブックファーストのHさんにご挨拶。Hさんとの会話は、ヒントにあふれていて、いつもお話したあと考えさせられることになる。本日もたくさんのヒントをいただき、頭をフル稼働。

 こちらも年末にご挨拶出来なかった南口・山下書店のFさんを訪問し、新年のご挨拶。売上ベスト10の8位に『シネマ・ハント ハリウッドがつまらなくなった101の理由』柳下毅一郎(エスクァイア マガジン ジャパン)が入っているではないか! F店長さん曰く「いやーうちのお店、映画批評の本が売れるんですよ」とのことなのだが、「へえ」ボタンを30回ほど押してしまった。

 青山ブックセンターを覗きつつ(担当者さんに会えず)、やはり新年は『いそがなくたって、そこに本屋があるじゃないか』(サンブックス)などの著作がある書店員・高津淳さんに会わないと年が明けないだとうとお店を覗くが、こちらもあちこち飛び回って仕事をされている方なので、お会いできず。うう、私の2008年はいつ明けだろうか。

 神保町へ移動し、書泉さん、東京堂書店さん、三省堂書店さんを訪問。三省堂書店さんで営業する際には、入館証明のバッチが必要で、その際、社名などを記入するノートがあるのだが、それが本日分だけで、何枚にも渡っていてビックリ。各社年始の挨拶に訪れているのだろう…がこちらは挨拶どころでなく、すでにフル営業モード。1階のAさんとお話した後、4階へ。こちらは完全な趣味なのだが、今、三省堂書店さんの4階、人文書等の売り場は非常に面白いと思う。というか、紀伊國屋新宿本店さんやリブロ池袋店さんなど、人文書の売り場で面白い試みをしているお店が多いと思うのだ。ちなみに三省堂さんは、12月からはアクセス閉店後の地方出版物を支えるために、新たな地方小出版物の売り場が作られていた。

 坂を登って、本の雑誌社としては一番最初に挨拶へ行くべき書店さんである、茗渓堂さんを訪問。店長のSさんにご挨拶。

 そして丸善さんを訪問。
 とにかくビックリするくらい本やゲラを読んでいるYさんから早速オススメ新刊情報をいただく。
「1月はもうなんといっても新潮社から出る竹内真さんの新刊『ワンダー・ドッグ』!!(1月22日発売予定)高校のワンゲル部を舞台に、少年と少女とそこで飼われている犬の物語なんだけど、もう最後のところなんて涙でウルウルよ。」

 そういえば随分に前に竹内真さんとは飲んだことがあるのだが、同じ年で作家なのか…とただただひれ伏すような気分であったのを思い出す。

 それからこんなの作ったのと渡されたのが『坂木司●女子応援隊ときどき男子』という小冊子。坂木さんを応援するために全作品の読みどころを現役【女子】(ときどく男子)書店員が紹介されている。この小冊子のスゴイところは、なんと丸善さん、三省堂書店さん、有隣堂さんが経堂で行っているということだ。いやー、なんだか売り場はネット社会のようにどんどん繋がっていっているんだなぁ。ということは私、営業マンは書店さんに役立つ、ネットそのものになればいいのか。リンクを繋げる役目とでもいうか。

「だってさ、坂木さんみたいに1作1作しっかり面白い作品を書いている作家さんは応援していかなきゃいけないじゃん。賞とかとは別に、書店員は売り場でそういうことをしっかりアピールしていかないと、それが仕事でしょう」

 Yさんの言葉は、新年早々身を奮い立たせるような重みがあった。

1月7日(月)

明けましておめでとうございます。
本年も「本の雑誌」及び単行本、それからこのWEB本の雑誌をよろしくお願いします。

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直木・芥川両賞の候補作が発表になったが、2008年本屋大賞の一次投票の〆切は、今週金曜日が〆切。今回でよくぞ続いたの5回目なのであるが、本屋大賞があるかぎり、私の年末年始は休みのようで休みでない。果たして今年の投票数はどれくらいになるのだろうか、どんな本がノミネート作品に選ばれるだろうかと落ち着かないのである。しかしおそらく落ち着かないのは投票をまだ終了していない書店員さんも一緒で、どうせなら早く落ちついた方がいいと思いますので、最終日まで引っ張らずに、今夜にでも投票してください。お願いします。

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2008年、初出社日の新聞の一面が、新風舎の民事再生法申請であったのには、何だか今年の出版業界を象徴するようでいやな感じを受けた。いや今回の新風舎の状況と昨年から続く出版社の倒産を一緒に考えてはいけないのかもしれないが、出版業界は世の中の経済状況から10年遅れる…というのが定説であることを考えると背筋が凍る。なぜならあのバブル崩壊の象徴的だった山一証券の自主廃業は97年だったし、日本長期信用銀行などの銀行破綻は98年だったのではないか。となるとこれから一気に出版業界のクラッシュが始まり、壮絶な不況が始まるのではなかろうか。その先にあるのは、勝ち組とか負け組とか、吸収合併とかそういうものなのだろうか……。

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そんな暗い気分で出社するが、仕事が始まれば、3月号から始まる新連載の宮田珠己さんの連載原稿が届き、大喜びで読んだり(とても面白いです!)、まもなく更新予定の矢部さんのパルコブックセンター渋谷店を振り返る対談の著者校を読んだり(こちらもとても面白いです!)、高野秀行さんと画策している企画をまとめたり(年末年始はこれをずーっと宿題にしてました)、書店さんを廻れば、年末年始の状況などを聞き、今年はこれをやって、あれをやって、といろんな楽しいことが走りだす。

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明日があるかなんて誰にもわからないけれど、明日があると思わないと生きて行けないから、今年も頑張って、楽しい本、楽しい雑誌を作って行こうと思います。よろしくお願いします。

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