2月25日(月)
我が本の雑誌社の出版物でいちばん大笑いできるのは、「発作的座談会」のシリーズなんだが、そのなかでも私がいちばん笑ったのは『沢野字の謎』。これは沢野さんが本の雑誌の表紙にいつも書いている不思議なつぶやきコピーをボツになったものからすべて一同に集め、椎名さん、目黒さん、木村さんが、どれが一番素晴らしいコピーであるか、決めるとんでもない座談会である。
でそのコピーのなかでいちばん私が印象に残っているのは、「階段のあかりをつけたら妻がいた」である。玄関でないところがリアリティーがあって、いやはや怖い。そしてこんなコピーを捻り出せる沢野さんがおかしい。
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「会社の扉を開けたら新入社員がいた」
あービックリした。
営業を終えてフラフラと会社に戻ったら、見慣れぬ男が席に座っていた。新しい助っ人かと思い「お主何者ぞ?」と誰何したところ、「来週から入社するタッキーです」というではないか。
そういえば先日浜本から「編集者に求めることはなんぞや?」と聞かれたので、「本作りとは、すなわち狂気。だから私のような立派な社会性は必要ありません。オタクでもなんでも一芸に秀でた人間」と答えたのだが、それがこの目の前に現れたタッキーなのであろう。
「タッキーか。よろしく。私は翼だからこれから本の雑誌のタッキー&翼を名乗ろうではないか」
「翼ですか……。す、杉江さんですよね?」
「いや、所属しているサッカーチームFC白和では、翼と呼ばれているんだ」
そう教えていたら、年下の男子が入社しただけで鼻息を荒くしている事務の浜田が、「ウソ!? 翼?? 私そんなの知りませんでしたよ」と茶々を入れてきた。知るわけないだろう。私だって、3秒前まで知らなかったのだから。
「ついでに教えてあげるけど、俺の所属しているサッカーチームの名前が、なんでFC白和だか知っている? あのね、だいたいサッカーの試合っていうのは土曜にあるのよ。でねチームメイトはみんなサラリーマンで金曜日は飲んだくれているの。そうするとね、試合が始まってもまだ二日酔いで、5分もするとみんなタッチライン沿いでゲロを吐くのよ。だから(ハクワ)なの。」
すでに新入社員のタッキーも浜田も私の前から姿を消していた。
おっと、大切なことを聞き忘れていた。
「タッキーよ、サッカーは好きかい?」
「いえ別に」
「特に応援しているJリーグのチームはあるかい」
「いえ、ありません」
思想上の問題はないようだ。彼とはうまくやっていけそうだ。