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5月29日(木)

 理由あって、この「炎の営業日誌」を第1回から読み直している。
 あまりのつまらなさにビックリし、ちょっと泣く。

 聖蹟桜ヶ丘、八王子、立川と営業。

 立川のO書店さんで手に入れた『本の旅人』6月号(角川書店)の「漂う小舟のように」と題された近藤史恵さんの書店エッセイに号泣。本屋大賞をやっていて良かったと思えるのは、こういう瞬間だ。

5月28日(水)

 理由あって、この「炎の営業日誌」を第1回から読み直している。
 あまりの下手くそさにビックリし、じんわり泣く。
 
 大宮のジュンク堂書店が入っているロフトの前で、浦和レッズの闘莉王に遭遇す。
 あわてて追いかけるが、スターバックスのコーヒー片手に車に乗り込み、私の視界からあっという間に消え去ってしまった。

 あんなのに怒鳴られたらオレだって働くよ。

5月27日(火)

 午前中、三省堂書店神保町本店にて、『辺境の旅はゾウにかぎる』の刊行記念のイベントの打ち合わせ。夢のようなイベントを行うのである。詳細はしばしお待ちを!

 東京駅のM書店でTさんと再会。
 再会といっても本屋大賞で会っているのだが、売り場で会うのは聖蹟桜ヶ丘のT書店閉店以来。再就職が決まるまで、かなり本気で出版業界から離れることを考えたらしいが、やっぱりTさんには書店が似合う。

 茗荷谷のA書店さんでKさんと再会。
 東京駅のY書店を退職し、新規オープンの町の本屋さんに再就職されたのだ。1000坪から30坪であるけれど、お店はやっぱりKさんらしいお店になっていてうれしい。オススメPOPの付いていた『四十八歳の抵抗』石川達三(新潮文庫)を購入。

 その後、直帰して神宮球場へ。
 元助っ人のY君がヤクルト対楽天のチケットを「手に入れたので一緒に行きましょう」と送って来てくれたのだ。

 しかしそれにしても球場が静かである。試合開始10分前なのに、鳴り物の音も場内アナウンスの音も聞こえて来ない。やっぱりもう野球は終わったな……と思ったのであるが、終わっていたのは僕たちだった。

 なんとY君から送られてきたチケットをよく見ると「雨天予備券」と書かれているではないか。これは昨日か一昨日の楽天戦が中止になり、順延となった際にのみ使用できる券である。そして昨日も一昨日も試合があったということは、まったく意味のない券なのである。あわててY君にメールを送ると、Y君もすでに外苑に着いていて、こちらに向かっているという。

 しばらくするとY君が向こうからやって来る。
 はははははっ。

5月26日(月)

 週末に集中して読んだのが『人類が消えた世界』アラン・ワイズマン(早川書房)。

 理由はともあれ、今、突然人類だけがこの世から消えたらどんなことになるのか。ビルは崩壊し、地下水は溢れかえり、動物は人類のいなくなった世界を謳歌し、また進化する。そういったことがひとつひとつ細かく丁寧に描かれるので僕のような無教養な人間にも「その後」の世界がよくわかる。『沈黙の春』レ−チェル・ルイス・カ−ソン(新潮文庫)を読んだときの興奮ふたたび。

 夜、五反田のA書店Fさんやほか出版社の方と新宿・陶玄房にて酒。

5月23日(金)

 DTPに関してはまったくわからないので、入稿作業は松村にお願いする。

 約束通り、ぴったり6時に『辺境の旅はゾウにかぎる』を入稿。ふつうの編集者ならこの辺で一段落つくのであろうが、営業も兼ねているというか、営業が本職の僕の場合、ここからが勝負であったりする。休む暇などないのである。

 そうはいっても気持ちが若干軽くなったので、私に前田司郎の面白さを教えてくれたネット書店A社のHさんとR出版を退職されたばかりのTさんと池林房で酒を飲む。

 1時間ほどして、我々の脇に座ったふたり客(男性)の会話に私の名前があがっているではないか。

「本の雑誌の杉江さんが……」。

 まあ、ここは池林房であるから誰か知っている人が来ることもあるだろう。現に先ほどまで私の後ろで椎名編集長が飲んでいたのである。

 もしや今度は沢野さんでも来たのかと思って横を向いて確かめるが、見たことあるようなないような人であり、僕が見ても向こうも何の反応もしないところを見ると、おそらく二人も僕を直接知っているわけではないのであろう。

 さて問題である。
 たいてい今までの人生でこうやって名前が挙がった時、その後に続くのは悪口である。自分の悪口を自分で聞くというのは結構つらいことで、その場合の反応は以下の4つである。

1)カーンというゴングの音が脳内に鳴り響き、ファイト!
2)他人のフリをして会話に割り込み、「そう見えて杉江さん、結構いい人なんですよ」と汚名返上に協力する。
3)一緒になって悪口をいう。
4)無視する。

 ここは我らが太田篤哉さんのお店なので、こんなところで問題を起こすわけにはいかないので1)は却下。2)の汚名返上は、ぜひとも協力したいところなのだが、いい人なのかどうか自分でもわからないのでやめておく。3)の悪口ならいくらでも言えるのであるが、こちらはこちらで前田司郎とドラゴンクエストの話が盛り上がり出したので、それどころではなくなってしまった。

 いったいあの二人の男性は、何を話していたんだろうか。
 いやもしかしたら「今野サッシの関根さん」だったのかもしれないが……。

5月22日(木)

 通勤読書は『ジャガイモのきた道』山本紀夫(岩波新書)。
 ジャガイモ発祥の地、アンデスからどのように世界に広がっていったのか、そして今後の役割と非常に勉強になる1冊。こういう本は私のような無知な人間には大変ありがたい。

 またこの本のあとがきで、著者がなぜジャガイモに関心を持ち、研究者になったのかというのが書かれており、そこで『栽培植物と農耕の起源』中尾佐助(岩波新書)という本が紹介されているのだが、こちらも俄然読みたくなる。

 その後、リブロの矢部さんに、次の「坂の上のパルコ」の日程調整でメールし、何気なく『ジャガイモのきた道』が面白かったですよと書いたら、「ワタシはだいぶ前に出た文春文庫『野菜探検隊世界を歩く』池部誠著でじゃがいもは勉強したわよ〜。」とお返事をいただく。

 うお! こちはジャガイモだけでなく、ナスやキュウリの原種の自生地を探索する話だそうで、それは私が今いちばん読みたいと思っていた内容の本ではないか。すでに品切れのようなので、古本屋で探そう。

★    ★    ★

 あとがきで指摘された本やあるいは参考文献、そして同好の士から本を教わり本を購入することがよくあるけれど、先日訪問した際、錦糸町のB書店Sさんが話していたことが頭から離れない。

「今、単行本がどんどん売れなくなっていて、でも文庫はまあ売れているでしょう。これって値段とかサイズの問題が当然あると思うんだけど、オレはあの表紙の裏に書かれている“あらすじ”が大事なんじゃないかと思っているんだよね。自分もそうだけどお客さんも文庫買うときあそこ読んで判断しているし、なんで単行本に“あらすじ”がないのか不思議だよね」


 確かにそうなのだ。僕も文庫を買う際に、まずは“あらすじ”を読んで判断し、気持ちにGOが出たら目次や内容を見る。

 しかしなぜかもっと値段の高い単行本には“あらすじ”がついていない。どちらかというと高い方にこそ、読者の興味を引くものを付けたり、親切にするのがほかのものでは当然だと思うが……。なんだったら解説を単行本に付けるというのもありなのではないか。

★    ★    ★

 なんてことを書くならまず自分で作る本でそうするべきなのだが、そこまで思い切れず、カバーの折り返しに著者略歴とともに著作リストを付けるに留まる。

5月21日(水)

 昨夜は、地方小出版流通センターのKさんにお誘いを受け、秋田の無明舎出版の安倍さんと酒を飲んだ。

 安倍さんといえば、佐野眞一の『だれが本を殺すのか』(新潮文庫)のなかで地方出版の代表として取材されており、そのなかのひとつひとつの発言がとても格好良かったので、実は密かに尊敬していたのである。

「うちの本作りは5年、10年スパンで考えているから、1冊1冊丁寧に作っている」
「良い本なんていうのはこっちが決めることじゃない。お客さんが決めること」
「出版という仕事の面白いところは、大手も中小も面白い本を作れば関係ないというところ。他の業種でこんなことは考えられない」
「本を作ると誰かが見ていてくれている。それが書評に上がったりどっかしら反応がある。それを信じてやっている」

 などなどもう出版人としてのというか、本とともに生きてきた男の魂の叫びが、バシバシ飛び出してくるではないか。

 ずっと話を聞いていたかった。

5月20日(火)

 どうしてこんな大雨と強風の中、僕は自転車に乗って駅に向かうのか。
 たった一言、妻に「車で乗せていって」と言えないのはなぜなのか。なぜ、なんだろうなぁ。

 珍しく武蔵野線も埼京線も動いていたが、トロトロ運転のため、会社に着いたのはいつもより1時間遅い10時過ぎ。

 入稿前の最後のチェックで『辺境の旅はゾウにかぎる』のゲラを読んでいると、浜本が寄ってきて「杉江さぁ、昨日、あの後、家でメシ食った?」と聞いて来る。あの後とは、昨夜WEBの打ち合わせで、浜本ともにH社の方々と赤坂の宮崎料理屋で酒を飲んだのだ。酒を飲めば、当然ツマミも食うわけで、しかも〆に宮崎名物の冷や汁を食べたのである。

 おそらく僕がその冷や汁を食べなかったから、僕は家で食事したのかと聞いてきたのであろうが、僕は10時以降は食べものを口にしないようにしているので、食べてないことを告げると浜本はぎゃっと飛び跳ねた。

「ほんと? ほんと? 腹減らないの? オ、オレなんか腹減って、家でメシ食っちゃったよ」

 そういえばその打ち合わせに行く前に、浜本が前夜の夕食がマクドナルドで、ダブルチーズバーガーとマックポークとポテトのLを食べたというのを聞いて驚いたのである。10代ならともかくハンバーガー2個食うなんて僕には考えられない。しかもそれが7時半くらいのことだったから後に腹が減り、パスタを食べたというのでいちだんと驚いていたのだ。

 我が社の健康診断は来月。果たして浜本の体重は?!

★    ★    ★

 ゲラを読み終えた頃、表紙の色校が上がってきたのでデザイナーさんのところに持っていく。そのまま恵比寿、広尾、六本木、青山と営業。

 なんと恵比寿の有隣堂さんでは、『しずこさん』佐野洋子(新潮社)に今年のベスト1との手書きPOPが立っているではないか! 担当のKさんとしばし『しずこさん』談義。

 そして青山ブックセンター本店さんを訪問すると、ちょうど昨日読み終わった『文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編』大森望×豊崎由美(PARCO出版)のイベント告知が出ていた。(http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_200805/2008_2008525.html)

★    ★    ★

更新1600回!

5月19日(月)

 頭の中は土曜日のことでずーっとモヤモヤ。

 溝の口で東えりかさんと単行本の打ち合わせなど。

 その足で田園都市線を営業。
 二子玉川のK書店の売れ行きベスト1が、『夢をかなえるゾウ』水野敬也(飛鳥新社)なのに思わず驚いてしまった。いや100万部を超える大ベストセラーなのだから各店で当然1位を獲得しているのであるが、二子玉川で、僕が見たことのないようなベビーカーに子供を乗せて、お買い物が出来るのは、夢がかなったからなんじゃないのか。

 二子玉川や成城学園を営業していると、何だか無性に妻に済まない気持ちになる。もしかしたら妻は、こういう暮らしを夢見ていたのではないか。

5月17日(土) ぼくのJリーグライフ 09

 僕は、イライラが募ると、頭の回りが、ぼうっと発熱してくる。その発熱する場所が「サザエさん」に出てくる波平さんの髪の毛の生えているところとピッタリなので、ぼくは「怒りの波平さんゾーン」と名付けている。

 この日は試合開始前にガンバサポーターがペットボトルのようなもの(のちに水風船と判明)を浦和のサポーター席にボカボカ投げこんでいるのを目撃し、発熱どころか、孫悟空のような締めつけられる痛みを覚えた。もし僕に如意棒があれば、ぐいーんと伸ばし、ガンバサポーターを引っかけ、摘み出すのであるが、なぜか警備員も警察官もそうすることなくキックオフ。

 試合が始まると今度は正義という名のもとに、不正義を働くレフリーの岡田が誤審をし、しかもそれが浦和レッズの失点の繋がるという展開で、もはや僕の頭は割れそうであった。

 試合が終わるとこんどは選手同士が小競り合いとなり、その間もガンバサポーターから物が投げ込まれており、そしてついに堪忍袋の尾が切れた浦和レッズサポーターの一部が、アウェーゴール裏との緩衝地帯に向かい応戦。

 僕はそれを反対側のゴール裏で見ていたのだが、もはや理性とかそういうものはぶっ飛び、波平さんゾーンは燃え上がっていたのであった。妻よ、娘よ、息子よ、父ちゃんは闘うぜ!

5月16日(金)

 今月の新刊『どうして僕はきょうも競馬場に』亀和田武の見本を持って、取次店廻り。
 今になってこの本のキャッチコピーが思い浮かんだ。
『どうして僕はきょうも競馬場に』は「競馬版『孤独のグルメ』」なのである。

 飯田橋の取次店さんを廻り終え、深夜+1に顔を出すと、そこへ白夜書房の藤脇さんがやってきた。以前も書いたことがあるけれど、一時期、僕にとって藤脇さんが書かれた『出版幻想論』や『出版現実論』(ともに太田出版)はバイブルだったのだ。お茶をしながら、現在の出版について諸々話を伺う。

 午後、地方小出版流通センターのKさんを訪問すると、「杉江くん、ムチャクチャ面白い本が出たよ」と『中国低層放談録 インタビューどん底の世界』廖亦武著(中国書店)を見せていただく。

「1989年6月の天安門事件後、4年間の投獄生活。出獄後、簫を奏で自作詩を詠ずる大道芸を生活の糧としながら、中国の最底辺の人々を訪ね歩く聞き書きの旅へ!」

 いやー面白そうではないか!! 給料が出たら買いに来ますので、取り置きしてもらった。ああ、早く読みたい。

 夜はN出版社のNさんにお誘いをいただき、恵比寿にて、Y書店さん方々と飲み会。日頃お会いすることのないジャンル担当者の方と話ができ、とても有意義な飲み会だった。

5月15日(木)

 例え本を作ろうと、僕の仕事の基本は営業にあり、営業の基本は、一も二もお店を訪問することだと思っている。やっぱりお店を見て、担当者さんにお会いして話をすることで、わかることがたくさんあるのだ。事件は現場で起こっているのである。

 本日は満を持して横浜方面を営業。
 さっそくM書店のYさんに昨日読み終えて興奮状態の『しずこさん』の話を振ると、すでに読まれていて「これは絶対売らないとね!」としっかり平積みされていた。さすがだ……。

 またY書店ルミネ店では、店頭の面陳台がまるで恵比寿店のような使われ方に変わっていて、「ワガママくらいがちょうどいい ~だってオンナノコだもん~ 」なんて素晴らしいネーミングの女性の本フェアが大きく展開されていた。しかもその脇でオトコノコだもんフェアというのも小さく展開されていて、そこには白洲次郎などにまじって高田純次の本が並んでいたのが妙にうれしかった。いいなあ、こういうフェア。それから文庫では『ワーキングガール・ウォーズ』がパネル付きで展開されていて、ベスト10の4位に入っていた。

 また西口のY書店さんでは、Uさん独特のPOPで『しずかな日々』椰月美智子(講談社)を大プッシュされているし、やっぱり横浜は面白い。

 いや面白いのは何も横浜だけでなくこの後、訪問した川崎、蒲田、大森、大井町と各店それぞれいろんなことをされていて、営業でなくてもハシゴしたくなるお店がたくさんあるのだ。

 そしてこのところずーっと感じていたことが確信に変わる。
 それは今、本屋さんがものすごく面白くなっているということだ。
 僕はこの業界に入って17年になるのだが、おそらく80年代のリブロなどの全盛期の頃と比べて遜色がないくらい、面白い本屋さんが増えていると思う。

 まあ首都圏200店舗を営業という名のもとに定点観測しているだけの人間がこんなことを言っても正しくないかもしれないけれど、最近、営業に出て書店さんを覗くのが本当に楽しい。そして想像以上の売り場をみて感動して帰ることが多いのだ。

 こうなったら僕ら出版社の人間は、書店さんを信じて、面白い本を作っていけばいいのではなかろうか。全部の店がとはいわないけれど、誰かがきちっと売ってくれる……という気がするし、誰かがきちっと売ってくれたものは、またどこかに飛び火するのであろう。ここで信頼関係がガッチリ出来たら、出版業界は次の一歩に進めると思う。

5月14日(水)

 5月3日、朝日新聞のインタビューで「人生なんてほとんど無駄に過ごしているわけじゃん。その中でちょっとびっくりすることがあれば大もうけみたいなもの」とあまりにカッコイイ話をされていたので読み出した佐野洋子さんの『シズコさん』(新潮社)なのだが、これがもう5月の時点で断言してしまうが、今年の僕のベスト1で決定だ! いやここまで魂のこもった本に対して、ベスト1とかそういう評価をして良いのか悩んでしまうくらい素晴らしいのである。

 手も繋いでくれなかった、情というものが欠落してしまったかのようなお母さんと佐野さんの関係は、程度の差こそあれ、すべての親子にあてはまるだろう。まさに<家族とは非常な集団>なのである。それをとことんあけっぴろげに、毒舌とユーモア溢れる文章で描いたこの『シズコさん』は素晴らしい。すでに名作であろう『八日目の蝉』角田光代(中央公論新社)を読み終えたときと似たような感動を覚えた。

★   ★   ★

 目黒、五反田と営業し、一路ブックストア談錦糸町店さんへ。担当のSさんに『辺境の旅はゾウにかぎる』のゲラをお渡していたのだが、今朝こんな感想メールが届いたのだ。

「既刊、殆ど未読なんで順番の良し悪しなんかてんで判断出来ませんが、無性に他の高野作品読みたくなります! そういう意味で、今まで高野秀行さんを全く知らなかった人にこそ私は何とかして届けたい!!! なんだか「!」がやたら多いけど、一人で勝手にウルトラ盛り上がってるんで抑制効きません。」

 孤独な編集者兼営業マンにこのようなメールが届いたら、そりゃどこにだって飛んで行くだろう!

 というわけで、Sさんとふたりで『辺境の旅はゾウにかぎる』緊急拡販会議。

 しかしほんとこの半年、何度も何度も原稿を読み返し、もはや面白いとかそういう感覚がすっかり麻痺し、僕のなかには客観というものがなくなってしまっていたのだが、いやはやついにこの本の面白さを分かってくれる人が現れたのだ。これを同志と呼ばず、なんと呼べばいいんだろうか。

5月13日(火)

ゲラを持って宮田珠己さんのところへ。本誌の連載もそうなのだが、スットコランド日記も大変面白く、毎回原稿が届くのが楽しみなのである。しかしあまりに宮田さんの原稿が面白いので、この日記を書くのが実はつらくなっていたりする。まあプロとアマチュアで比べる必要はないんだろうけれど、クリスチアーノ・ロナウドと一緒にサッカーをしているような気分である。

打ち合わせを終えてから、京王線を営業。調布のリブロさんで、矢部さんの連載の話。現在の店長のTさんは当時、広島のパルコブックセンターにいらしたのだが、部数はともかく、やはり渋谷のパルコブックセンターで売れていたものが、広島でもしっかり売れていたそうだ。印象に残ったのはこの言葉。

「出版社と書店員とお客さんの3者の協力というか、想いが一緒になるのが大事なんですよね。出版社の協力がなければ本は来ないし、書店員が独りよがりでこだわりの棚を作っても売れなければ仕方ない。やっぱりお客さんに合わせてお店は作らないといけないです。最近は数字を追う方にどうしてもいっちゃいますけど、でもやっぱりどこか遊びを残しておきたいですよね」

遊びといえば、同じ調布のS書店さんも入口の面陳台で、昭和フェアを並べているところで、その手の雑誌を中心にサザエさんや写真集や昭和を感じさせる作家の作品を並べていた。

「もう少し経つと夏100とか並べなきゃいけないフェアが始まっちゃうんで、それまでの間、ちょっと面白いフェアでもと思って。」

こういう遊びというか、余裕のなかにこそ、本屋さんや本の面白さがあるような気がしている。

5月12日(月)

「アンタ! サッカー行き過ぎだよっ!!」

 結局消え去るように土曜日が川崎へ向かい、その翌日の日曜日が自分のサッカーに出かけ、フラフラになって戻った自宅の玄関を開けたところで、大きな声で怒鳴られた。

「ご、ごめんなさい」

 思わず頭を下げたその向こうに、仁王立ちしていたのは妻ではなく、7歳の娘だった。

「ほんとさ、いい加減にしたほうがいいよ。土曜日だけならまだしも、今日もでしょ。まったく、あたしはパパとカーネーション買いに行こうと思っていたのに」

 妻と同じ口調でプリプリしながら2階に上がっていたのであるが、その姿はもはや妻そのもの。そして2階にはもっと恐ろしいホンモノの妻がいるわけで、しかも僕は母の日なんていうのもしっかり忘れていたもんだから、もはやどうすることもできない。レッズの勝利も、サッカーで3点取った喜びもすっかり消え去り、閻魔様の判断を仰ぐ列に並ぶのであった。

★    ★    ★

通勤読書は『聖域』大倉崇裕著(東京創元社)。2時間ドラマの原作にピッタリな山岳ミステリー。

ロックな本特集の「本の雑誌」6月号の搬入を終えてから新宿を営業。

昼、いったん会社に戻る。戻ったのは何も女子学生が3人もアルバイトに来ているからでなく、当WEB本の雑誌の会議のため。

会議終了後、改めて営業に向かう。出入りが忙しいのだが、5月の新刊『どうして僕はきょうも競馬場に』亀和田武の事前営業〆切日が近づいているので、時間が惜しいのだ。

南口K書店を訪問すると、担当のSさんから「もう読みました? すごく良いんですよ!!」と『食堂かたつむり』小川糸(ポプラ社)を薦められる。実は読もうと思ったときにはすでに北上次郎が読んでいて、しかもその後、王様のブランチで取り上げられベストセラーになってしまったのでもういいかと思っていたのだが、金城一紀や西加奈子など本の趣味が合うSさんに薦められたら読まないわけにはいかない。帰りに購入す。

その足で、中井の伊野尾書店さんを訪問し、先日行われた、業界初、そして今後も誰もできないであろうイベント、本屋プロレスの話しを伺う。なんと『俺たち文化系プロレス DDT』(太田出版)の発売を記念して、本屋さんの店内でプロレスをしてしまったのだ。

当日の映像を見させていただきあまりの迫力とまさに“プロレス”に感動する。そういえば先日プロレスファンなら読まないとと西加奈子の『こうふく あかの』と『こうふく みどりの』(共に小学館)を伊野尾さんに薦めておいたのだが、両著作とも大変気に入っていただけたようでうれしい。……って本の雑誌社の本じゃないんだけど。

5月9日(金)

 当WEB本の雑誌にて、我が愛するタマキングこと、宮田珠己さんの新連載「スットコランド日記」がスタート。これから毎週更新の予定。乞うご期待!

★    ★    ★

 実は明日、等々力競技場で川崎フロンターレ戦があるのだが、そのことを妻にまだ言っていない。いや水曜日の夜に消え入るような小さな声で伝えたのであるが、妻から戻ってきた言葉は「ふーん」だけで、その後は互いに視線を合わさず、僕は撮り溜めていたプレミアリーグを見ながら、果たしてその「ふーん」は了承の意味なのか、不満を指し示した意思表示であったのか悩んでいた。いやいまだに悩み続け、もうこのまま帰宅せずに、等々力競技場に向かった方が、幸せなのではないかと考えたりしている。僕に未来はあるのか。

5月8日(木)

 6月11日搬入予定の新刊『辺境の旅はゾウにかぎる』に合わせ、高野秀行フェアやエンタメ・ノンフフェアなどしませんか?と書店さんに営業しているのであるが、さっそく立川のO書店さんや錦糸町のB書店さんから快い返事をいただく。うれしい。

 というわけでそこで飾ってもらう色紙やPOPを作りに、高野さんのところにお邪魔する。こちらも快く引き受けていただく。ありがとうございます。

 午後は渋谷から246沿いを営業。途中の古本屋の100円均一ワゴンを何気なく覗いたら、探していた『豆腐屋の四季』松下竜一(講談社)があるではないか。早速購入。

 6時過ぎに会社に戻る。営業仕事の整理した後、新人・タッキーが大変そうなので、仕事を手伝う。8時30分にある程度、カタがついたので帰宅。

5月7日(水)

 通勤音楽は昨日のレッズ戦の際にキリーが「ぼくの青春の音楽です」と貸してくれたManic Street Preachersの「Forever Delayed」。キリーと僕は身長にして30センチ、年齢にして6歳違うのだが、この音楽がカッコイイのはよくわかる。

 ただし問題は、キリーがCDを貸してくれるときに「マジ、歌詞がたまんないんですよ」と言っていたのだが、英語をはじめ3カ国語を話せるキリーが持っているCDは、和訳の歌詞カードがついていない輸入盤であった。僕にはまったく歌詞が理解できない。すまん、キリー。こんど同時通訳で唄ってくれ。

★    ★    ★

 営業も4日空けると緊張感がハンパじゃない。

 お店に入る前には心臓がドキドキし、足が震え、お店も覗かずに帰っちゃおうかな…なんて一瞬考える。これが上司がいて営業報告書のあるような会社なら、ウソ八百並べて本当にそうするのだが、ひとり営業ではサボったツケは、自分に返ってくるだけなので、勇気を沸き立たせ、お店に飛びこんでいく。しかし書店員さんにお会いしても、言葉がうまく出てこない。別に書店員さんが怖いわけではないのだが、いったいいつになったら「営業」に慣れることができるのだろうか。

 浮きつ沈みつしつながら小田急線を営業。
 厚木のY書店さんは「二人が熱い」などというオリジナルフェアをやっていて相変わらず面白い。

5月6日(火) ぼくのJリーグ・ライフ 07

 負けた選手がゴール裏に挨拶に来たときの対応はいくつかある。

1、内容に満足し拍手を送る
2、沈黙で悔しさを伝える
3、ブーイングで選手を鼓舞する
4、見ずに帰る

 などが基本であるが、開幕してから11試合勝てないチームの場合、どうすることが正解なのだろうか。

 この日の千葉サポーターは、足取り重く、それでも挨拶をしっかりしようとする選手たちに、盛大な拍手を送った。おそらくそれは、問題はピッチ(選手)にあるのではなく、外(フロント)にあることがわかっているからこその拍手だったのだと思う。敵サポーターながらその姿に胸を打たれてしまった。阿部を獲っておいて言える立場じゃないけれど……。

5月2日(金)

 昨日、一昨日と「休み」と聞いた瞬間にやる気がなくなり、結局会社に来なかったのだが、2日行かないと今度は会社が気になって仕方ない。休みの日取りを教えてくれないくらいだから、知らぬうちに引っ越している可能性だってあろう。

 不安にかられながら笹塚10号通りを駆け、会社に着くと……。おおきちんとありました。良かった良かった。

 その二日間に読んだ本はこの3冊。『赤めだか』立川談春(扶桑社)、『サウスポイント』よしもとばなな(中央公論新社)、『失われた手仕事の思想』塩野米松(中公文庫)。

『赤めだか』は目黒さんのイチオシ本なのだが、落語本なら僕は『江戸前の男 春風亭柳朝一代記 』吉川潮(ランダムハウス講談社文庫)が好きだ。それとよしもとばななはの新作は僕にはちょっとわかりにくかった。結局一番気に入ったのは『失われた手仕事の思想』。僕はもうこういう「手仕事」の職人にはなれないけれど、こういう職人さんが持っていた気持ちというか姿勢で本と格闘していきたい。

 これから営業。その合間に内澤旬子原画展「神奈川近代文学館 個の中」を覗く予定。内澤さんの、凝りに凝った手を抜かない仕事ぶりは、まさに職人さんだ。

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内澤旬子原画展「神奈川近代文学館 個の中」
4/30(水)〜5/6(火)
12時〜20時
Gallery 花影抄
〒113-0031 文京区根津1-1-14
らーいん根津202
TEL&FAX 03-3827-1323
千代田線根津駅徒歩1分
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4月29日(火) ぼくのJリーグライフ 06

 物心つかないうちにスタジアムに連れて行かれ、真っ赤な洗礼を受けた我が娘であるが、昨年はまったく観戦することがなかった。小学生となり、自我に目覚め、興味のないものに時間をとられるなら友達と遊んでいたほうがいいらしい。父親である僕は淋しいかというとそうでもなく、ひとりで行ける気楽さを堪能していた。まっ、趣味なんて家族で分かち合う必要なんてないのだ。

 ところがである。この日の朝、突然、娘が「サッカーに行きたい」と言いだしたからビックリだ。どうしたお前!? 「暇だから…」まあそういうなら連れていくのもやぶさかでもないし、そもそも子供ふたりの面倒を妻に見させておくと、再来週のアウェー川崎フロンターレ戦に行けなくなってしまうかもしれない……と危惧していたわけで、娘を自転車の後ろに乗せ、いざ! 出陣!!

 しかしいつの間にか成長し20キロを超えている娘を腕に抱え、ゴール裏で叫ぶのは大変だ。腕も腰も痛いし、足下もふらついてくる。しかし途中からは娘も「フォルツァ!! 浦和レッズ!!」なんて声を出し始めるではないか。ついに洗脳に成功。これで杉江家は親子3代に渡ってレッズサポ。これを江戸っ子ではなく、赤っ子という。

 しばらく親子二人でコールを送っていたら、「パパ、明日学校で声が出ないかも」なんて娘が呟いた。「なーに声なんて出なくてもいいんだよ。パパだってサッカーの翌日は会社で声出なくて仕事にならないんだから」「それで大丈夫なの?」「大丈夫も何も、仕事より大切なの」「そっか」

 試合の方は、娘が来た時は負けないというジンクスどおり、コンサドーレ札幌に4対2の逆転勝利。

 自転車の後ろに娘を乗せ、一気に国道463号線を駆ける。
 後ろから風の音に負けない大きな声が響く。

「パパさ、3対2で勝っている時に、審判に怒ったでしょう。ああいうときは勝っているんだから我慢しないと」

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