« 2008年5月 | 2008年6月 | 2008年7月 »

6月24日(火)

 大変なものが届いてしまった。
 なんとこの『炎の営業日誌』の単行本のゲラである。

 ということはこの日記を本にしたいという奇特な出版社がついに現れたのである。その日本一奇特で、勇気のある出版社は、秋田の無明舎出版である。その出会いは5月21日の日記に書いているのだが、その日、酔っぱらった僕に向かって安倍さんは「あの日記、本にさせてください」と言ってきたのであった。

 僕は一気に酔いが覚め、安倍さんの気が変わらないうちにハンコでも拇印でもなんでも押しちゃおうと思ったのであるが、当然そこには契約書なんてものはなく、とにかく何度も首を縦に振り(間違っても横に振らず)、その晩は秋田に向かって、頭を垂れて寝たのであった。

 そうはいってもおそらく酔っぱらいの戯言だろうと半分思っていたのであるが、安倍さんは秋田に戻ると早速メールをよこし、素面でも本気のようであった。恐ろしい人である。その時点では、まだあの幸せな日々に戻ることが出来たのに……。

 しかし僕はこの勢いに乗らぬ手はないと1600本分のテキストデータを送り返してみた。たぶん僕ですら、読みかえしたくないものをまさか読むわけないだろうとここでも高をくくっていたのだが、それから約ひと月後の今日、全部読んだ上で、半分まで削ったゲラが届いたのであった。

 安倍さんは「ここからあと半分くらい刈り込んで欲しい」というのである。本にしてくれるなら刈り込もうが、植え替えようが、何でもしてやろうと思うのであるが、その量がハンパではない。はっきりいって誰か勝手にやってくれないかと思う気持がないわけではないけれど、少しでも良くして世に出さなければならないという製造物責任者の気持ちは当然ある。

 いやその前に、誰が買うの?とか、こんなの本にしていいの?とか、もろもろの思いは当然あるのだが、それはひとまずここでは書かない。

 発売はおそらく9月か10月になるそうで、とにかく無明舎出版に迷惑をかけないよう頑張らねばならない。

6月23日(月)

 夜、ニコリの創設25周年パーティーに出ていた浜本から電話が入る。

「すぎえ、すぎえ、聞いてよ〜。ニコリの創立25年周年パーティーの会場で、変なメガネかけた太ったおっさんがいたのよ。太った顔にそれはないだろうってメガネに、着ているジャケットが水色なのね。太っているのに膨張色着るなよって。髪型もさ、キダタローみたいでさ、変なおっさんだったのよ。気色悪いから遠巻きで見ていたら、なんか乾杯の音頭で壇上に向かっていって、そしたら司会の人が『めぐろこうじさま』って紹介するだよ。もうビックリしちゃって。あれは、道ばたで会っても気付かないよ」

 そういえばもう2カ月近く目黒さんは会社に来ていない。
 そういうことだったのか。

6月20日(金)

 健康診断。
 僕が心配なのはコレステロール値なのだが、野菜をほどんと食べないのだから仕方ない。とりあえずこの一年間野菜ジュースを飲み続けた効果がでるといいのだが。

 通勤読書は、『磯崎新の「都庁」』平松剛(文藝春秋)。同著者の前作『光の教会 安藤忠雄の現場』は僕のオールタイムベストテン級の本なのであるが、それは安藤忠雄の魅力……だとばっかり思っていたのは間違いだったようだ。この著者の構成力や人物造形が見事だからこそ、ほとんど知らない建築の世界が楽しく読めるのである。
 今のところ僕の2008年ノンフィクション部門第1位。

 健康診断を終えて会社に戻ると、入れ替わりで事務の浜田が健康診断へ。
 彼女は去年、それはひとに言えないくらい太ったそうで、今年はそのリベンジに燃えていた。1週間前から昼飯抜きを始め、通勤の自転車も通常の倍の距離を走っていたようだ。
 結果は果たしていかに。ちなみに浜本とタッキーは撃沈。

6月19日(木)

『さよなら渓谷』吉田修一(新潮社)、『ラン』森絵都(理論社)と話題になりそうな小説が出、また前作が局所的なベストセラーとなった『まこという名の不思議顔の猫』の続編『続 まこという名の不思議顔の猫--まことしおんと末っ子しろたろの巻 』前田敬子・岡優太郞(発行:マーブルトロン、発売;中央公論新社)も並び、これで少しは文芸書も活気づくのではなかろうか。ガンバレ文芸書!!

頑張っている吉祥寺を営業。

「酒飲み書店員」同様、地域書店で自主的に集まった販促集団「吉っ読」は、すでに「ちょっと早めのナツヨミ文庫カーニバル2008」を開催しており、30冊+独自の推薦本を店頭で並べていた。駅ビルの弘栄堂さんでは、今のところ『半生の記』松本清張(新潮文庫)が一番売れているとか。(開催書店は、BOOKSルーエ、弘栄堂書店、リブロ吉祥寺店です)

 その「ちょっと早めのナツヨミ文庫カーニバル2008」の冊子を見て驚いたのだが、我らが編集長・椎名誠の代表作『わしらは怪しい探検隊』(角川文庫)に、版元品切れのハンコが押されているではないか。本当だろうか? 本当だったら僕が全集(選集)を編む日も近いかも。

 そして啓文堂書店さんを訪問すると、担当のMさんがフェア看板を作っているところだった。「エコ文学」フェアとのことで、『「場所」の詩学 環境文学とは何か』生田省悟他編(藤原書店)を中心に、テーブルに本がたくさん並べられていた。

「新刊が売れないなら売れないで、既刊をいろいろ売るのが楽しいですよ。フェアを考えるのも楽しいし」とMさんが話すので、小声で「エンタメ・ノンフ」フェアをどうぞと呟いてみた。

「エンタメ・ノンフ」フェアといえば、ジュンク堂新宿店さんがすでに第2回エンタメ・ノンフフェアを開催してくれていて、なんとなんと結構売れているのだ!

 先日「坂の上のパルコ」の第3回を収録したのであるが、そのなかでいかにして書店にサブカルという棚が出来たのかを伺ったのであるけれど、いつか「エンタメ・ノンフ」と呼ばれる棚が書店に常設される日を夢見るのであった。

6月18日(水)

 朝、息子が新聞の折り込みチラシを見て「パパがいるよ」と騒いでいる。指さすチラシを見ると、パルコ浦和店の「浦和レッズ応援セール」のチラシであった。

 そういえば息子には「パパの仕事はサッカー選手なんだよ」と伝えていたので、それを信じているのだろう。それにしても息子が執拗にある部分を指さすので、よく見てみると息子の指は、山田暢久を指しているのであった。

「これがパパ?」
「そう。パパ」

 激しいムラっ気があることがすでにばれているのだろうか。

★    ★    ★

 通勤読書は、先日お会いした無明舎出版の安倍さんが薦めてくれた『かもめの日』黒川創(新潮社)。

 これがどういう小説かというと、作中に出てくる作家が書こうとしている「それぞれの話が互いにどこかで有機的につながっている。そして、それらの全体が、この世界のような姿をなしている。」作品であり、永江朗さんが「本の雑誌」6月号で書かれているように「気分はグーグル・アース」のような作品であり、あるいは電車の車窓から見えるマンションの明かりの下で、どんな暮らしが営まれているか想像するような小説である。他人が他人でなくなる、美しい小説だ。

★    ★    ★

 常磐線を営業。
 久しぶりに、おおたかの森のK書店さんを訪問すると、なんと以前笹塚店で散々お世話になったIさんがいてビックリ。こちらに異動していたのか。諸々懐かしいお話などしつつ、夜は船橋へ向かい千葉会へ。

 その千葉会では、『ジョーカーゲーム』柳広司(角川書店)が、傑作と大騒ぎ。一緒に騒ぎたいのであるが、この本、8月の新刊で、ようは皆さんゲラで読み終えているのである。しかししかし、僕は当然まだ読んでないわけで、ひとりだけその話題に加われない。しかも宇田川さんが、結末を話そうとするからあわてて耳を塞ぐ。

 飯嶋和一の待望の新刊といい、最近は書店員さんに、いろんな新刊のゲラが出回っているから、こちらとは、読書のタイミングがズレ、話が合わないことが多い。

 まあ、ゲラが届いているのは一部の書店さんだけなのだが……。

6月17日(火)

 先日、早めに帰宅したら、椎名さんがテレビに出ていた。

「おっ! 椎名さんだ!」と叫んだら、娘が寄ってきて、「椎名さん? あっ、パパの会社の、字の下手な人ね」と呟き、去っていった。

娘は以前、浮き球△ベースで椎名さんにサインをもらったのだ。

6月16日(月)

 商品調達スピードは上がっているもんだと思っていたのだが、某取次店さんは、水曜日の午前中に搬入した新刊が今日の午後書店店頭着。都内の書店さんなのだが……。

 新宿などを営業。

 どこのお店も『AB型自分の説明書』JamaisJamais(文芸社)がバカ売れ。売り切れ店も続出しているようで、すでに刊行されていた『B型』『A型』とともにベストセラーランキングを3冊が占めている。JamaisJamaisは、寺尾聰か?
 
 それと『からだにおいしい 野菜便利帳』板木利隆(高橋書店)も売れている。

「野菜の本って売れるんですか?」とIさんに伺うと「偏食の人にはわからないと思うんですけど」と苦笑されつつ、夏は野菜本が売れるとのこと。そのなかでも特に今年はこれが売れているとかで、いやはや畑違いのジャンルのことはわからないことばかり。

 しかしである。日頃、文芸書の売れない理由の第一に挙げられる、本が高いということであるけれど、この野菜本は1365円、血液型も1050円と、高いはずの文芸書とさほど変わらない値段で、売れているのである。参った。

 その辺のことを先週訪問した錦糸町B書店Sさんと話していたのだが、Sさんは「やっぱり小説は最後まで読めるか不安だし、せっかく買って最後まで読めなかったときのショックはデカイんじゃない」と話されていた。そういう意味で実用書は必要なところを読んでも充分なわけで……、うーんならば短篇集やアンソロジーなら売れるのだろうか。そんなことないか。

 売れている本とは関係なく、ジュンク堂書店新宿店で『本の雑誌』の隣に置かれていた直雑誌<大衆を挑発するお茶の間襲撃マガジン>『PLANETS』VOL.04(第二次惑星開発委員会)が面白い。

 我が前田司郎のインタビューに、文芸評論家ミシュランなんてのも載っているではないか。ただし残念なのは「文芸評論家」であって「書評家」でないことだ。だから北上次郎などはミシュランされていない。

 ちなみにミシュランされていた大森望さんが、編集長・宇野常寛氏と対談されているのだが、そこで本屋大賞のことがかなり言及されていて、いやはや何だかありがたいやらこそばゆいやら。そういうものだったのか……本屋大賞。

6月15日(日)

 第3回ミャンマー辺境映像祭で、高野秀行さんが講演されるというので、『辺境の旅はゾウにかぎる』展示販売に向かう。

 するとそこに八重洲ブックセンター時代のアルバイト仲間Dがいてビックリ。

「どうしたの?」
「えっ?! 自分が作った本を売ろうと思って」

 そういって抱えていた袋から『見えないアジアを歩く』見えないアジアを歩く編集委員会編(三一書房)を取り出した。

「あっ、その著者が講演するんだ?」
「うんうん。こういう本、好きな人がいるかなと思って。そうでもしないと今なかなか売れないし。作ったからには責任持たないとさ。」

 というわけで、Dと約20年ぶりに肩を並べ、本を売ることになったのである。

 ちなみにこの日、会場に集まったのは100人以上のミャンマー好きの人たちで、休憩時間と講演後で『辺境の旅はゾウにかぎる』は持っていた分のほとんど42冊が売れたのであった。

 作り手であり、売り手でもある僕としては、おそらく本が出来てから、今日が一番うれしい日であった。というのも編集者はもちろん、営業マンだって実は自分のところの本が実際に売れる現場に立ち会うことはほとんどなく、「売れた」というのは注文やデータという仮想のなかでの出来事なのである。

 それが今日は自分の手で本が売れ、そして隣で高野さんがサインするという、すべてが現実にそこで起きていることであり、こんな手応えを感じることはそうそうないだろう。しかもお客さんが「これ待っていたんですよ!」なんて目の前で喜んでくれるのだ。

 そして僕は営業だから、どうしてもお金のことを考えてしまうけれど、この日の売り上げは42冊×1575円=66150円なのである。本の雑誌社には休日出勤手当も代休制度もないから、僕の人件費はかからない。というか休みより、こうやって本を売っている方がずっと楽しい。ということはこの売り上げをあげるためにかかった経費は、僕の交通費数百円と片道の送料のみ。しかも直接お客さんに本を売るということは、取次店への卸しではないから、約30%の掛けもない。営業として、こんな楽しいことはない。

 イヤラシイ計算はともかく、この目の前で本が売れ、スリップの束と売り上げのお金を見るということは営業としてとても大事なことだと思っている。というのは日常の営業の際にいただく注文書に書かれる数字に実感が増すのである。30冊の注文だとこれくらい、50冊の注文ならこんなお金でこれくらいのスリップ。そういう実感は営業をしていく上でとても大切なことだ。

 この日、そうやって忙しく本を売りながら考えたのは、本が売れない売れないとずーっと嘆いたけれど、では果たしてこうやって積極的に売りにいったことがあっただろうかということだ。こういう小さな努力の積み重ねによって売り上げは、変わってくるのではなかろうか。

 そして隣で本を売るDの姿を見ていると、もはや編集も営業も関係なく、作ったら売る、いや作ったからには売る、ということをより強く意識しなければならないと思った。

 僕たちはあまりに無責任に本を作ってきたのではなかろうか。


 ちなみにDは、こんなイベントも行うとか。ご興味のある方はぜひ。

「見えないアジアを語る〜国境とタブーを越える冒険者たち〜」

バックパッカーも未踏の魅惑の7地域を紹介する旅行ガイドブック『見えないアジアを歩く』(三一書房)の著者たちが集合する。カレン、スリランカ北東部、アチェ、ナガランド、チェチェン、チッタゴン丘陵、イラクなど、いずれも外務省が「退避を勧告します」「渡航の是非を検討してください」などと警告する紛争地・危険地域ばかりを繰り返し歩いてきた冒険家たちだ。お上の勧告に逆らって行くのはどうしてか? そこには何があるのか? 誰とどう歩くのか? 病気や銃の対策は? 本当は行きたいと思っていたあなた、この夜は聞きたいこと、なんでも聞けるぞ! 現地料理のメニューもアリ。

日時:6月18日(水) OPEN18:30 / START19:30
会場:阿佐ヶ谷ロフトA(東京)
杉並区阿佐谷南1−36−16−B1 [MAP]
TEL:03-5929-3445

本をお持ちでないお客様:¥1,500(飲食代別)
本を事前に買って当日持参、もしくは入場する時に本を購入したお客様:¥1,000(飲食代別)

前売チケットは5/18より店頭チケットと電話予約で受付中。

6月11日(水)

 ついに高野秀行著『辺境の旅はゾウにかぎる』が搬入となる。
 ここからは営業マンとして頑張らなければならない。

 といわけで、刊行記念のイベントをふたつ行うことになりました。

-----------------------------------------------------------------------------

高野秀行「辺境の旅はゾウにかぎる」出版記念
高野秀行さん&宮田珠己さんトークセッション(司会・東えりかさん)

『辺境の旅はゾウにかぎる』の刊行を記念いたしまして、現在朝日新聞紙上で「往復書簡」を連載されている高野秀行さんと宮田珠己さんのトークセッションを行います。
怪獣捜しなどの未知なものを追い続ける辺境作家・高野さんと、巨大仏像や不思議の盆栽“ホンノンボ”などの不思議なもの探すエッセイスト・宮田さんの旅と本をめぐる話。
司会にはふたりの本をこよなく愛す書評家、東えりかさんをお迎えします。
爆笑必至のトークセッションをどうぞお楽しみ!!

※トークセッション後に高野さん、宮田さん両氏のサイン会を行う予定です。
開催日時 2008年7月11日(金) 18:00開場 18:30開演
会場 三省堂書店神保町本店8階特設会場
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-1
参加方法 三省堂書店神保町本店にて『辺境の旅はゾウにかぎる』(本の雑誌社・税込1,575円)をお買い上げの方、先着100名様に整理券を配布します。
お問合せ先 三省堂書店神保町本店 1階 03-3233-3312(代)
------------------------------------------------------------------------------

高野秀行の旅、上映会とトーク【ジュンク堂書店新宿店】

本の雑誌社から発売される『辺境の旅はゾウにかぎる』の刊行を記念して、早大探検
部としてコンゴの奥地へムベンベを探した探検と、ついに……した(?)、トルコの
ジャナワールの探索の旅の映像を 上映します。上映後はミニトーク&サイン会を予
定しております。
開催日時 2008年7月18日(金) 18:30開演
会場 ジュンク堂書店 新宿店8階喫茶
〒160-8455 東京都新宿区新宿3-29-1
新宿三越アルコット6F・7F・8F
参加方法 ご予約は7階カウンターで承ります。お電話でのご予約も承ります。(
03−5363−1300)
入場料 1000円(1ドリンク付き)
定員 40名
お問合せ先 ジュンク堂書店新宿店 TEL 03-5363-1300
------------------------------------------------------------------------------

乞うご期待!

6月10日(火)

「本の雑誌」301号特大号が搬入される。いつもは4結束(=120部)を抱えて社内に運び込むのであるが、48ページ増の160ページのこの号は重いので、2結束ずつ運ぶ。

 しかし本当は今までやったことのない、もっと厚い例えば200ページを超える「超特大号」にしたかったのであるが、編集部から「俺たちを殺すのか!」と罵られ、事務の浜田からは「定期購読者用のツメツメ袋も160ページが限界です!」と泣きつかれたので、あきらめた。

 神保町を営業。

 東京堂がリニューアルされていて、1階はかなりすっきりされた印象を受ける。先日惜しまれつつ閉店した、書肆アクセスのHさんも地方小コーナーの店員として3階にいるとかで、今後が楽しみ。

 その後、三省堂の店内を歩いていると、何だか見たことあるような装丁の、見たことあるような著者名の本が積んであるではないか。平松剛? 『磯崎新の「都庁」 戦後日本最大のコンペ 』(文藝春秋)?
 ムーンウォークで戻り、本を手にして気付く。フォー! これは我がオールタイムベストテン本の1冊『光の教会—安藤忠雄の現場」(建築資料研究社)の新作ではないか!!

 ビックリ仰天で、その後は仕事どころではなくなる。

6月9日(月)

「本の雑誌」をデジタル雑誌にしてみませんか? と言われ、試しにつくってもらったのだが、いまいちピンと来ない。

 そのデジタル雑誌は、画面上で本物の雑誌のようにページをめくることができ、本物の雑誌のように読むことができのであるが、ならば本物の雑誌を読めばいいのではないかとつい考えてしまうのだ。

 もちろん本物の雑誌は読んだ後に邪魔になるとか、これから紙代ほか制作コストが上がっていくであろうが、わざわざデータでやりとりできるのに、雑誌の形を踏襲する必要があるのだろうか。

 いやたぶんこういうかたちにしないとお客さんがお金を落とさないんだろうし、出版社も新たにデータをつくる手間がないから入校時のPDFデータがそのまま使えて便利なんてことを考えると、こういうデジタル雑誌になっていくんだろう。

 でも、それにしたって色や読みやすさを含めて、まったく本物の雑誌に勝てず、売りのひとつが目次の文字を押すとそのページに飛ぶんですといわれても、そんなもの本物の雑誌だって目次を見て、ページをペラペラやっていけば、すぐそこに行くのである。ああ、文字検索は楽かもしれないが。

 しかしどうみても子ども騙しのように思えて、これに値段を付けて売るというのは、今現在の僕のなかではかなり抵抗がある。電子化もネット化も当然進んでおり、おそらく何か今いう本や雑誌ではないものが、どんどん出てくるだろうけれど(現に出てきているんだろうけど)、なんかこの「デジタル雑誌」とは決定的に違う気がする。

 とりあえずペンディング中。

★    ★    ★

 午後、CD業界で本屋大賞みたいなものを作りたいという人とお話。

 CD業界は出版業界以上に大不況なようで、しかし書店員さんと同じようにCDショップの店員さんのなかにはどうにかしたいと考えてる人がたくさんいるらしい。

 そんな人たちが集まって立ち上げられたHPが、この「全日本CDショップ店員組合」だとか。音楽のことには疎いので、何もアドバイスなどできなかったけれど、いつか発表会にプレゼンターを入れ替わりで出来たらいいですね、と盛り上がる。

★    ★    ★

 夕方、一日早く帰国された高野秀行さんが旅の疲れも関係なく、サイン本を作りに来社。『辺境の旅はゾウにかぎる』200部にサインしていただくが、僕の視線と意識は、高野さんのかぶっている帽子に釘付けだった。

「その帽子、もしかして?」
「そうそうセルビアを取材したときにもらったんだ。レッドスター・ベオグラードの帽子。」

 レッドスター・ベオグラードといえば、以前トヨタカップで来日し、コロコロを破って優勝したユーゴスラビア(当時)の名門チームで、ストイコビッチも所属していたチームである。そういえば、高野さんが取材中にやりとりしていたメールには「セルビアでは、ストイコビッチの人気がすごい。名古屋グランパスエイトのファンになっちゃおうかなぁ」なんてとんでもないことを書いてきたのであった。

 高野さんがグランパスのサポーターになったら僕は編集者として付き合えるだろうか。いやそんなことより、今はその帽子が欲しい。いや、きっとサインが終わったら、本が出来た記念に僕にくれるのだろう。だからこそわざわざかぶってきたのだ。そう思って200冊のサインが終わるのを待っていたのであるが、くれたのはトルコのチーズであった。

 そういえば高野さん『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)で、コンゴのテレ湖でマラリアにかかり、フラフラになって村に帰る探検部の後輩の、ギリギリの精神状態にまったく気付かず、文庫版あとがきを書くために連絡をとって、初めて知ったと書いていたのである。そんな人が、サッカーバカが、どれだけ帽子を欲しがっているかなんて気付くわけがないのである。恨めしく帽子を眺めつつ、笹塚駅前の居酒屋で打ち上げ。

 後日、メールでやりとりしていたら、高野さんはつい最近までストイコビッチとリトバルスキーを間違えていたらしい。

6月8日(日) ぼくのJリーグ・ライフ 10

 サッカーの点差について考えてみる。

 例えば1対0である。やっぱりこれは興奮する。負けているなら1点返すことによって試合は振り出しに戻り、勢いがついて逆転の可能性も高まるし、逆に1対0で勝っているなら、DFのワンプレーワンプレーを見る目はより真剣になるだろう。

 これが2対0だとだいぶ余裕とあきらめがでるもので、ただ、しかし2対0から逆転なんていったらそりゃお祭り騒ぎの大興奮だ。年に1回くらいそういう日があると人生はとても楽しくなる。そして3対0である。これはもう3点目を取ったり取られたりした時点で、あとはどこで飲むか、あるいは早く帰ってふて寝することを考えるだろう。

 難しいのは1対3とか1対2で負けたときで、これは試合の展開によってかなり気分が違うのだ。例えば先制点を取っていて逆転された場合、帰宅時に自転車を漕ぐスピードは猛烈にあがるだろうし、そうでなく後半30分に1点返した場合なんかは、俄然盛り上がって何だか面白い試合だったのではないかと錯覚したりする。引き分けに関してもその印象は展開がかなり左右されるものだ。

 さて、ホームの試合で1対5で負けた場合はどうか。
 そんなもん例え消化試合だったとしても、屈辱以外のなにものでもない。
 俺は、もう寝る。でも寝られない。

6月6日(金)

 暑い。

 渋谷のL書店さんを訪問すると、パルコの入口でJJモデルの水着ファッションショーをやっていた。しばし観る。

 そのL書店のYさんとの話題は、表紙カバーのイラストと本の売れ行きについて。何人かのイラストレーターやマンガ家の名前を教わる。もしかして文芸書のラノベ化? なんて思ったけれど、カバーイラストも挿絵も昔からあるわけで、それは間違いだろう。

 そういえばこの辺のことは新人編集者・タッキーが詳しいのだけれど、先日タッキー初編集の7月刊行予定の新刊『ミステリー交差点』日下三蔵著の装丁打ち合わせをした際、タッキーが出してきたラノベ系イラストの装丁案を思い切り却下したのであった。もしかしたら僕が随分遅れているのかもしれん。改めて話を聞こうではないか。

 夜、会社で座談会の収録。僕は非常に面白かったけれど、立ち会っていた浜本はちんぷんかんぷんだったようだ。

6月5日(木)

『辺境の旅はゾウにかぎる』の見本を持って、雨の中、取次店廻り。
 もうまもなく(11日搬入)この本がお店に並ぶ。

 地方小出版流通センターで、先日お金が無くて変えなかった『中国低層放談録 インタビューどん底の世界』廖亦武(中国書店)を購入。

 するとすっかり僕の読書のツボを押さえたKさんがこれも面白いんだよと見せてくれたのが『サラリ−マン野宿旅 PART2』蓑上誠一(八月舎)。うーむ、それは来月買います。

 午後、浜田が本屋大賞の経理作業の打ち合わせのため外出するので、あわてて帰社。たまに外に出て行くのはいいだろうと思ったのだが、打ち合わせの場所が、神保町の名物ビアホール・ランチョンだったので、真っ赤な顔をして帰ってきた。

 夜、会社にて、晶文社の書店販促紙「スクラップ通信」の取材を受ける。この販促紙は僕が作っている「本の雑誌通信」の目標であり、またそこで連載されているコラム「営業の友」はいつも楽しみにしていただけに、とてつもなく嬉しい。

 しかし飲み会でしょっちゅう会っているTさんに、今更真面目なことを聞かれるのはとても恥ずかしい。できるかぎり立派に働いているフリをして、インタビューを終える。

6月4日(水)

 昼過ぎ、印刷会社のTさんが、『辺境の旅はゾウにかぎる』の見本を持ってやってくる。
 ついに出来上がったのだ!

 この感動を著者の高野秀行さんと分かち合いたいのだが、そのためには現在取材中の南アフリカかセルビアか、とにかく世界のどっかに飛び立たなければならないので、ここはひとり、本を捲ったり、匂いを嗅いだり、頬ずりしてみたり、カバーを外してみたりする。ジワジワと喜びが湧いてきた。

 本を作るというのは予想通り大変なことであったが、僕の場合この後、売るというもっと大変なことがあり、しかし両方やってみると、猛烈に責任を感じるもので、これはこれでやりがいがある。

 そうやって頬ずりしていると、発行人の浜本が近寄ってきて、隣で浜本も頬ずりし出しす。
 そして「いいじゃん」と呟いた。

 浜本に褒められたのは、第1回本屋大賞の授賞式のとき以来である。もう5年も過ぎているではないか。それは浜本が人をめったに褒めたりしないからなのか、僕が褒められるようなことをしていないかは不明である。しかし、まあ嬉しいので、今日は酒。

6月3日(火)

 雨。

 『多甚古村』井伏鱒二(新潮文庫)を読みだした瞬間、これは僕の一番好きなパターンの本だと確信する。その確信どおり最後まで思い切り楽しむ。海辺の村の多甚古村の駐在所に赴任した巡査の日記を通して、村人の姿が描かれるのであるが、その村人の姿がまるで日本昔話の読んでいるような素朴さ(といっても酒を飲んで暴れたりするんだけど)がたまならい。

 日記といえば先日読んだ『グチ文学 気に病む』(マガジンハウス)は、現在僕を含めた一部でダウナー系漫画家として人気のいましろたかしの「釣り」日記である。『釣れんボーイ』(イーストプレス)の文章版といえばいいのだるか。ウフの連載当時から楽しみにしていたので一気読みしたが、しかしなぜ「釣行記06〜」という連載タイトルが、こんなタイトルになってしまったのだろうか。

★    ★    ★

 とある書店さんで伺った話。

「この間ね、『カニの本ちょうだい!』っておばちゃんが来て、料理か生物の棚に案内しようと思ってどっちですかって聞いたら『テレビでやってたカニの本よ』っていうのよ。なんだろうってしばらく考えたんだけど、もしやと思って『蟹工船』小林多喜二(新潮文庫)を見せたら、『それそれ』だって。でもね、ペラペラ見て『これ、難しそうね』って戻してきたけど」

 こういう話を聞くと、売れるということは、何なんだろうと考え込んでしまう。

6月2日(月)

 沢野さんから突然荷物が届く。
 トマトであった。
 先日は、ネギが届き、その前は靴と傘が届いた。年の初めには、お年玉も届いた。
 なんだろう。

★     ★     ★

 昨日やったフルコートのサッカーで、足の裏にマメができ、痛いのなんの。
 年々走れなくなっていく自分に残された生きる道は“司令塔”だろう。
 声なら自信があるぞ!

 通勤読書は『駅前旅館』井伏鱒二(新潮文庫)。

 数ヵ月前、実家の近所の古本屋で見つけ喜んで購入したのであるが、なんと実家に戻って何気なく兄貴が残していった本棚を見ていたら、ささっているではないか。しかもしばらくしたら新潮文庫の「大人の時間」フェアで復刊されていた。ガックリ。

 しかし内容は、今からみたら古き良き日本人というか、当時の生活がありありと描かれていて非常に面白い。一緒に買った『多甚古村』井伏鱒二(新潮文庫)も楽しみ。

 とある書店さんを訪問すると
「杉江くん、聞いてよ、聞いてよ」と売り上げベスト100を見せられる。

「あのね、売り上げベスト100から単行本の小説だけのベスト5を作ろうと思って抜き出していたら、なんと100冊のなかに4冊しか入ってなくてベスト5が作れなかったのよ! しかもその4冊が結構前にでた小説で、最近の新刊は全然入ってこない!!」

 うーむ。

「それとさ、最近新刊が少ないのよ。もしかして出版社ももう本作れなくなってる?」

 うーむ、うーむ。

 また別の書店さんで伺った話。

「文芸書の売り上げってね、たいてい月初あたりから低空飛行で、それで月末に向けて上がってくるのよ。新刊も給料日の25日あたりにまとまって出るし。でもね、最近はずーっと悪いまま。新刊も少ないし、出ても反応ないし」

 そのあと、最近のめぼしい新刊の売れ行きを伺ったのであるが、ひと昔前なら最低注文数くらいの数でビックリ。そ、そんな売れないんですか?

「その分、文庫にいってる……ってほど文庫が売れているわけでもないんだよね。」

 もはや本を読む人のなかで、小説を読むという人は、よほど少数なのだろうか。
 ならばなぜ小説は読まれなくなったのか? 現実の方が小説を越えてしまったからとか、物語を楽しむ余裕がないとか、まことしやかに語られることがあるけれど……。

 そもそも小説ってどういうときに読むもんなんだ? なぜ読むのだ!?

5月30日(金)

 暑くなったり、寒くなったりするのは仕方ないけれど、この10度を越える気温差は勘弁してほしい。身体がまったくついていかない。

 通勤読書は『rockin'on BEST500 DISC 1963-2007』(ロッキング・オン)。

 今から20年前、高校生だった僕は、バイトの給料が出ると、片道1時間半かけて渋谷のタワーレコード(当時は東急ハンズの奥にあった)に向かった。そしてベストヒットUSAや5歳離れた兄貴の推薦するCD(輸入盤)を買い漁った。毎月その日と何を買うか悩むその間の日々が楽しかった。

 しかしいつ頃からか、ほとんど音楽を必要としない人生を送るようになり、CDは年に1枚買うか買わないかという生活になっていた。

 それがここのところ、おそらくロック好きの書店員として「本の雑誌」6月号にご寄稿いただいた松戸・良文堂書店の高坂さんの影響とiPodの出現で、また音楽を聴くようになっている。

 そんな人間にとってちょうど良いのが、この『rockin'on BEST500 DISC 1963-2007』だ。(いやロック大好きの高坂さんも深夜+1の浅沼さんもこの本は素晴らしいと言っていた)いやーほんと為になるし、個人的な思いなども綴られた渋谷陽一氏を始めとしたレビューを読んでいるだけでも面白い。

★    ★    ★

 直行で千葉へ。しかし担当者さんにことごとくお会いできず、撃沈。

 総武線をじわじわとのぼり、どうにか船橋のときわ書房で宇田川さんにお会いできホッとする。ホッとしたついでに千葉県ではここでしか買うことができない『クラッシック・ミステリのススメ PART1.』ヴィンテージ・ミステリ・クラブ刊を購入。ちなみに東京では飯田橋の深夜+1ほか何店舗かで扱っているようなのだが、詳しくはこちらを(http://d.hatena.ne.jp/sugiemckoy/

 その後も書店さんを回りつつ、午後3時に会社に戻る。
 日本図書設計家協会の方々と打ち合わせ。本屋大賞に大変興味を持っていただいているようで、何か一緒にできないかという話。

 夜は成城学園のS書店Uさんと新宿B書店のKさん、Sさんと池林房で酒。
 何だか妙に盛り上がる、楽しい酒であった。

« 2008年5月 | 2008年6月 | 2008年7月 »