第3回ミャンマー辺境映像祭で、高野秀行さんが講演されるというので、『辺境の旅はゾウにかぎる』展示販売に向かう。
するとそこに八重洲ブックセンター時代のアルバイト仲間Dがいてビックリ。
「どうしたの?」
「えっ?! 自分が作った本を売ろうと思って」
そういって抱えていた袋から『見えないアジアを歩く』見えないアジアを歩く編集委員会編(三一書房)を取り出した。
「あっ、その著者が講演するんだ?」
「うんうん。こういう本、好きな人がいるかなと思って。そうでもしないと今なかなか売れないし。作ったからには責任持たないとさ。」
というわけで、Dと約20年ぶりに肩を並べ、本を売ることになったのである。
ちなみにこの日、会場に集まったのは100人以上のミャンマー好きの人たちで、休憩時間と講演後で『辺境の旅はゾウにかぎる』は持っていた分のほとんど42冊が売れたのであった。
作り手であり、売り手でもある僕としては、おそらく本が出来てから、今日が一番うれしい日であった。というのも編集者はもちろん、営業マンだって実は自分のところの本が実際に売れる現場に立ち会うことはほとんどなく、「売れた」というのは注文やデータという仮想のなかでの出来事なのである。
それが今日は自分の手で本が売れ、そして隣で高野さんがサインするという、すべてが現実にそこで起きていることであり、こんな手応えを感じることはそうそうないだろう。しかもお客さんが「これ待っていたんですよ!」なんて目の前で喜んでくれるのだ。
そして僕は営業だから、どうしてもお金のことを考えてしまうけれど、この日の売り上げは42冊×1575円=66150円なのである。本の雑誌社には休日出勤手当も代休制度もないから、僕の人件費はかからない。というか休みより、こうやって本を売っている方がずっと楽しい。ということはこの売り上げをあげるためにかかった経費は、僕の交通費数百円と片道の送料のみ。しかも直接お客さんに本を売るということは、取次店への卸しではないから、約30%の掛けもない。営業として、こんな楽しいことはない。
イヤラシイ計算はともかく、この目の前で本が売れ、スリップの束と売り上げのお金を見るということは営業としてとても大事なことだと思っている。というのは日常の営業の際にいただく注文書に書かれる数字に実感が増すのである。30冊の注文だとこれくらい、50冊の注文ならこんなお金でこれくらいのスリップ。そういう実感は営業をしていく上でとても大切なことだ。
この日、そうやって忙しく本を売りながら考えたのは、本が売れない売れないとずーっと嘆いたけれど、では果たしてこうやって積極的に売りにいったことがあっただろうかということだ。こういう小さな努力の積み重ねによって売り上げは、変わってくるのではなかろうか。
そして隣で本を売るDの姿を見ていると、もはや編集も営業も関係なく、作ったら売る、いや作ったからには売る、ということをより強く意識しなければならないと思った。
僕たちはあまりに無責任に本を作ってきたのではなかろうか。
ちなみにDは、こんなイベントも行うとか。ご興味のある方はぜひ。
「見えないアジアを語る〜国境とタブーを越える冒険者たち〜」
バックパッカーも未踏の魅惑の7地域を紹介する旅行ガイドブック『見えないアジアを歩く』(三一書房)の著者たちが集合する。カレン、スリランカ北東部、アチェ、ナガランド、チェチェン、チッタゴン丘陵、イラクなど、いずれも外務省が「退避を勧告します」「渡航の是非を検討してください」などと警告する紛争地・危険地域ばかりを繰り返し歩いてきた冒険家たちだ。お上の勧告に逆らって行くのはどうしてか? そこには何があるのか? 誰とどう歩くのか? 病気や銃の対策は? 本当は行きたいと思っていたあなた、この夜は聞きたいこと、なんでも聞けるぞ! 現地料理のメニューもアリ。
日時:6月18日(水) OPEN18:30 / START19:30
会場:阿佐ヶ谷ロフトA(東京)
杉並区阿佐谷南1−36−16−B1 [MAP]
TEL:03-5929-3445
本をお持ちでないお客様:¥1,500(飲食代別)
本を事前に買って当日持参、もしくは入場する時に本を購入したお客様:¥1,000(飲食代別)
前売チケットは5/18より店頭チケットと電話予約で受付中。