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8月27日(水)

 真っ赤なユニフォームを鞄に隠し、高野秀行さんのところへ。本はすでに出来上がってしまっているから特に用事という用事があるわけではないのだが、月に一度くらいお会いしないと何だか淋しい。喫茶店でだらだらといろんな話をする。世界を旅するのにサッカーほどの公用語はないと気付いた高野さん。サッカーを勉強したいというので、このまま国立競技場の浦和レッズの試合へ連れて行こうかと思ったが、あの場で僕は人間ではなくサポーターという人種に変わってしまうため、それは控える。いきなり大人しい編集兼営業マンが、「ボケコラ殺せ!」とか叫びだしたらビックリされるだろう。高野さんも「何だか地域リーグの試合とか見たいんですよね」とここでも辺境ぶりを発揮されるので、今度ご一緒しましょうと約束す。

 吉祥寺へ移動し、先日担当のMさんがお休みで営業出来なかった啓文堂さんへ。相変わらず素晴らしい外文の棚を作られていて、見入ってしまう。ああ、吉祥寺に引越たらさぞや休みの日の書店めぐりが楽しいだろう。ルーエ、弘栄堂、リブロなど。しかしこの地には浦和レッズはないのである。

 西荻窪、荻窪と営業し、新宿へ。異動になられるKさんにご挨拶しようかと思ったが、いらっしゃらず、南口へ移動し、紀伊國屋書店新宿南店へ。なんと売り場の一等地に『ミステリー交差点』日下三蔵著が積まれており、しかも手書きPOPまで付いているではないか! 感動してPOPを書いてくれたSさんにご挨拶。「いやーほんと日下さんのおかげでどれだけ作家を知ったことか。そのお礼です」。Sさんの読書は、外文がメインだと思うのが、ミステリーも古典も現代小説もとにかく信じられないくらい造詣が深い。僕なんかではとても追いつかないので、いつか日下さん自身と語りあっていただきたい。

 歩いて国立競技場へ。僕はこの新宿南口から新宿御苑沿いに千駄ヶ谷に向かう道がとても好きだ。都心のど真ん中とは思えない静けさが、これからサッカーに向かう高揚した気持ちを落ちつかせてくれるのだ。

 浦和レッズはダメダメで首位の座を1節で失う。エメルソンやマリッチやワシントンが国立で活躍した頃が無性に懐かしい。強かったレッズはどこへ行ってしまったのか。そしてどうしたら挑戦者の気持ちを取り戻せるのか。

 家に帰り、U2のRe-Mastered Versionの「WAR」とGREEN DAYの「INTERNATIONAL SUPERHITS!」を交互に聞きながら、明け方まで単行本版『炎の営業日誌』のゲラ直し。真っ赤。

8月26日(火)

狂い咲き正宗 刀剣商ちょうじ屋光三郎
『狂い咲き正宗 刀剣商ちょうじ屋光三郎』
山本 兼一
講談社
1,680円(税込)
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 唐突に涼しくなったが、騙されないぞ。こんな簡単に猛暑が終わるわけがない、が久しぶりに上着を着て営業へ出かける。

 水道橋の山下書店を訪問するが、O店長さんはお休み。巨人ファンがちらほらいる東京ドームを越えて、後楽園へ。丸の内線に乗って茗荷谷へ。現在注目の町の本屋さん、ブックス・アイへ。K店長さんとお話。

「新規店だからなかなか新刊は入ってこないけど、単価の高い文庫とかで頑張ってるよ」

 ちくま文庫や講談社文芸文庫など、シブイ文庫にPOPがつけられているのだが、なかにはすでに30冊以上売れているものもあるとか。すごい。

 御茶ノ水に移動し、丸善を訪問。文芸担当のYさんから「すごい面白かったよ〜」と『狂い咲き正宗 刀剣商ちょうじ屋光三郎』山本兼一(講談社)を薦められる。山本兼一の刀ものといえば我が父親生涯の1冊になった『いっしん虎徹』(文藝春秋)を思い出す。これは買わねばならぬが、給料日前で金がない。残念。文庫売り場でとんでもない本が、とんでもなく売れていた。やっぱりすごいな、文庫担当のYさん。

 金がないなら行かなきゃいいのに、千駄木の往来堂を訪問し、棚を横目で見ながらO店長さんとお話。なんだか往来堂はO店長さん以外にも適材適所で人材が集まり、いちだんと面白くなっている印象を受ける。それでも「まだまだです」と謙遜するO店長さんであるけれど。

 そういえば何もやることのない日曜の午後など。近くに往来堂のような本屋さんがあったらいいのに......といつも思うのだ。別に往来堂じゃなくてもいいんだけど、いろんなジャンルの普段気付かないような本がそっと棚にささっているような本屋さんが身近な場所にあったらいいんだけど。

 千代田線で御茶ノ水へ戻り、飯田橋へ。久しぶりに兄貴分である深夜プラス1の浅沼さんとD出版社のKさんと酒。オリンピックの話題で盛り上がる。

8月25日(月)

ミステリ交差点
『ミステリ交差点』
日下 三蔵
本の雑誌社
2,100円(税込)
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日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)
『日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)』
網野 善彦
筑摩書房
1,260円(税込)
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 先週20日から休みをもらったので、5日ぶりの出社。残念ながら会社は消滅しておらず、いつもどおりの日常が始まった。

 その休みの間に搬入となった新刊『ミステリ交差点』日下三蔵著が、なかなか良い動きで売れていてうれしい。タッキーがわざわざ数えて帯にうたったのだが、言及作家530人以上、言及作品2000冊以上のまさに博覧強記の書評集である。僕のようにミステリに造詣のない人間でも楽しめるので、ぜひ、どうぞ。

 5日ぶりの営業は、やはり膝が震え、胃がキュッとした。

 五反田のA書店Fさんを訪問すると「出版社は一発当たれば業績が一気に回復するからいいですよね」と言われるが、どうしたら一発当たるのだろうか。一発どころか二,三発当てて、早く浦和美園に真っ赤な自社ビルを建てたいのだが。

 通勤読書は、休み中に読みだした人生の課題図書『日本の歴史をよみなおす(全)』網野善彦(ちくま学芸文庫)。中世の営業マンは果たしてどんな営業をしていたのか。

8月16日(土) ぼくのJリーグライフ

Jリーグ 第21節 FC東京戦 1対0 味の素スタジアム

 妻がパートで働き出したのは、ひとえに生活費を稼ぐためであったのだが、これが棚からぼた餅というか、ドラッグストアから浦和レッズって、なんのこっちゃであるが、とにかく我がJリーグライフに好影響をもたらしたのである。

 妻が働いているのはとあるドラッグストアなのであるが、そこのパート仲間3人が、なんと猛烈な浦和レッズサポだったのである。そりゃあ地元なんだから当然のことなのだが、妻にとって今までレッズサポというのは自分のダンナ、すなわち僕だけだったわけで、だから比較対象がなく、うちのダンナだけこんなアホな生活をしているのかと考えてイライラしていたわけだ。ところがそこで出会ったパート仲間のレッズサポも、自分のダンナとまったく同じような行動をとっており、そこではじめて浦和レッズサポの生態というものを知ったのである。

 試合があったら会社を休む。試合があったら絶対行く。行けない試合のためにスカパー!に入ろうとする。スカパー!に入る金がないから、そういう日は近くのジャスコの上新電機に行く、などなど。そして徐々に妻のなかのレッズサポ理解度が広がりをみせ、なんと最近ではアウェー年1回規定が破棄される気配なのである。ありがとうパートのレッズサポよ。というわけで、先日鹿島戦にも行ったが、堂々とアウェー第2弾のFC東京戦へ向かったのである。

 いまやすっかりお得意様になったFC東京から、相馬のゴールで勝利。真っ赤なスタンドで封印解除された「We are Diamonds」を歌う。隣で見ていたカタちゃんは泣いていた。そういえば……って気付かないふりをしていたが、ほんとうはこの1カ月ずーっと気になっていたのであるが、我が浦和レッズ、7月17日以来の勝利であった。

 家に帰ったら妻はかなり不機嫌だった。でも新潟も大阪も札幌も行っちゃうもんね。

8月15日(金)

サッカー戦術クロニクル
『サッカー戦術クロニクル』
西部 謙司
カンゼン
1,575円(税込)
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 昨夜、『サッカー戦術クロニクル』(カンゼン)の出版記念、西部謙司さんのトークショーがジュンク堂池袋本店であった。ホワイトボードを利用した西部さんによる戦術の話は非常にわかりやすかったし、「戦術は選手に規制される」などつい忘れてしまいがちだ。またインタビュアーであった「サッカー批評」の編集長・森さんも、聞いて欲しい話をどんどん引き出してくれるので、非常に有意義な1時間であった。

 しかし家に帰ると娘がいなかった。家出するにはまだ若い。渋谷もクラブも知らない7歳である。妻に聞くと昨日泊まりに来ていた子の家に今日は反対に泊まりにいったらしい。これでは眠れないではないか。仕方なく妻から息子を奪い取り、抱いて寝ようとするが、息子に「ママ、いいな」と言われ、撃沈する。

 朝起きたら、猛烈な暑さで、まったく仕事をする気がなくなる。夏は嫌いではないが、いい加減にして欲しい。休んでしまおうか悩んでいたら、娘が帰ってきて「ママ、ご飯。○○ちゃん家は野菜ばっかりでお腹空いちゃったよ」と叫びつつ、2階へあがっていった。

 我慢して、会社に向かい、定時に退社。ジュンク堂書店新宿店を2時間ほどぶらつく。

8月14日(木)

野村再生工場 ――叱り方、褒め方、教え方 (角川oneテーマ21 A 86)
『野村再生工場 ――叱り方、褒め方、教え方 (角川oneテーマ21 A 86)』
野村 克也
角川グループパブリッシング
740円(税込)
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『十五少年漂流記』への旅 (新潮選書)
『『十五少年漂流記』への旅 (新潮選書)』
椎名 誠
新潮社
1,050円(税込)
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 昨夜、家に帰ったら娘がひとり増えていた。いや近所の子が泊まりに来ていたのであるが、しかし教えたこともないのに、誰かが泊まりに来ると枕投げをするのはどういうもんなんだろうか。枕投げというのはもしかしたら人間の本能なのではなかろうか。

 そんなことを考えていたら、寝室から僕の布団が運び出され、敷けないから居間で寝ろというお達し。ハッキリいうが、娘が生まれて以来、僕はひとりで寝られないのである。困った。

 敬愛する山口瞳氏のエッセイのなかで、毎晩妻と足を絡めて寝ていた友人が、妻に先立たれ、それ以来バットに足を絡ませて寝ていたという逸話が書かれていたが、僕の場合、娘が隣りにいないと眠れないのである。仕方がないので、そこらに落ちていたくまのプーさんのぬいぐるみを抱いて寝てみるが、やっぱり寝られず、明け方まで本を読む。

『野村再生工場』野村克也(角川ONEテーマ21)と『十五少年漂流記への旅』椎名誠(新潮選書)。いったいどれだけ地球を移動しているんだ、我が編集長は。

8月13日(水)

 朝、電車で座れた。夜、電車で座れた。うれしくなって乗換駅で降りず、大宮まで行ってみた。電車で座れたくらいで、浮き足立つ人生でいいのだろうか。

 新刊の流通は止まっているが、普通に営業している営業マンは多し。書店さんは場所によるけれど、結構混んでいた。

8月12日(火)

吐カ喇列島 (光文社新書 365)
『吐カ喇列島 (光文社新書 365)』
斎藤 潤
光文社
903円(税込)
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 宮田珠己さんのいるスットコランドへ本を借りにいく。
 いつも行く喫茶店がお休みで、仕方なくスットコランドにも出店しているマクドナルドで打ち合わせ。

 打ち合わせでは結構いいことをいう(「スットコランド日記」7月21日参照のこと)宮田さんなのだが、宮田さんに会うと、なぜだかその後、まったく仕事をする気がなくなってしまう。

 ここに来るまであれほどやる気満々で、なんだったら俺は夏休みもいらないし、9月や10月の祝日も仕事してやると考えていた自分はどこへ行ってしまったのか。

 このまま夏休みに突入し、ついでに正月休みも貰いたいくらいの気分になってしまったのだが、そこはやはり僕と宮田さんの格の違いである。しょぼい僕は、ウリャアと気合を入れ直し、営業マン方面に路線を戻すしかできない。

 読んだ本は『吐(カ)喇列島 」斎藤潤(光文社新書)。ちょこちょこと出てくる観光コンサルタント的記述が気になるが、やはりどーんと夏休みが取りたくなる本であった。

8月11日(月)

宿屋めぐり
『宿屋めぐり』
町田 康
講談社
1,995円(税込)
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「本の雑誌」9月号の搬入日。しかし製本所からのトラックの到着が早く、僕と鉄平が出社したときには、すでに浜田や小林や松村によって社内に運びこまれていた。「すいませんです」と謝る鉄平の顔に「ラッキー」と書かれていたのは、見逃せない。

 その鉄平が「『宿屋めぐり』町田康(講談社)読んでますか?」と質問してきたのであるが、僕と鉄平は一緒にライブに行くほどの町田康ファンなのである。そりゃ当然新刊が出たら読むだろうと答えたかったのが、実は40頁まで読んで、まったく内容が理解出来ず、どうしたもんか悩んでいたところだったのだ。

 しかしただでさえ「ヤクルトは弱いですね。我が阪神は強いですよ」と駅で会った瞬間に言い出すような鉄平に対して、そのまま告白することができず「これから読むよ」と嘘をついてしまった。後で考えてみると、もしかしたら鉄平もまったく理解出来ず悩んでいたのかもしれない。

 暑いが、営業に出かける。
 十号通り商店街を歩いていたら、なんと目の前に侍がいるではないか。侍は甲州街道をすたすた渡り、東京三菱銀行のキャッシュディスペンサーに並んだ。

8月9日(土) ぼくのJリーグライフ

Jリーグ 第20節 柏レイソル戦 2対2 埼玉スタジアム

 30秒でできること。
 カップラーメンは2分半足りず無理。たぶん麺がかちかちの上、まだくっついているだろう。
 本を1頁読む......のもおそらく無理。レジでお金を払って雑誌を1冊買うのはできるだろうか。

 30秒でできること。
 ロスタイムに逆転ゴールを奪った浦和レッズから、同点ゴールを奪うこと。
 そんなの無理!とほとんどの人が思うかもしれないが、この日の埼玉スタジアムでは、その無理が僕らの目の前で起きたのだ。

 1対1で迎えた柏レイソル戦のロスタイム。永井が高原とのワンツーから抜け出し、決勝ゴールを奪ったとき、僕は隣にいた森川と抱き合った。劇的勝利という文字が頭に浮かび、これだからサッカー観戦は辞められないと思ったのだ。

 その時点ロスタイムの残りは2分もなかっただろう。しかも柏のキックオフのボールを浦和レッズが奪取し、後はキープすればいいだけなのだ。僕の後ろで観戦しているB書店のYさんが叫ぶ。
「終わりだよ、終わり。時計みろ、コノヤロー」

 あと30秒持ちこたえれば、あるいは主審が気を利かせてゲーム終了を早めていれば浦和レッズの逆転勝利で終わり、僕らは幸せに勝利の歌を歌ったであろう。しかし、目の前で起きたことは、あまりに衝撃的で、そして馬鹿らしかった。カウンターからボールを受けた柏フランサのシュートが、浦和のゴールネットを揺らしたのであった。

 僕は海中の魚が一気に釣り上げられたときのように、口から何かを吐き出しそうになった。

 ドーハの悲劇に代表されるようにように、サッカーは試合終了のホイッスルがなるまで何が起こるかわからない。わからないけれど、起きちゃいけないことがある。まさに天国から地獄。とんでもない試合が終わり、出るのはため息ばかり。

8月8日(金)

おそろし 三島屋変調百物語事始
『おそろし 三島屋変調百物語事始』
宮部 みゆき
角川グループパブリッシング
1,785円(税込)
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宿屋めぐり
『宿屋めぐり』
町田 康
講談社
1,995円(税込)
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出星前夜
『出星前夜』
飯嶋 和一
小学館
2,100円(税込)
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「おっ、そろばんの日じゃん!」と社内で今日は何の日してみたが、誰も反応してくれなかった。

 単行本版『炎の営業日誌』の原稿整理と「はじめに」や「おわりに」を書いて、無明舎出版・安倍さんに届ける。7月いっぱいに終わらせる予定だったのだが、あまりに稚拙な表現が目に付き、直しまくっていたら、1週間余計にかかってしまった。日記を書き直していいんだろうか。ちなみに単行本版には2004年以降の日記が収録される予定で、発売時期は9月か10月とのこと。どんな本になるんだろう。

 猛暑日らしいが、営業に出る。リブロの矢部さんから「もうこんな日に来るのよしなよ〜」と言われるが、そういうわけにもいかない。他の出版社の営業マンもへろへろになりつつ、営業に出ているのだ。

 例年8月は、ニッパチで棚枯れするはずの棚が、何だか今年はどかどかと新刊が出ていて驚く。しかも分厚い本ばかり。

『おそろし』宮部みゆき(角川書店)、『宿屋めぐり』町田康(講談社)、『出星前夜』飯嶋和一(小学館)。誕生日にもらった図書カードを使って、全部買う。カバンがパンパンになって、肩が痛い。

8月7日(木)

 とある書店さんの話。
「最近の文芸書の営業は楽だよね。書店員にゲラ読ませて販促物を作らせて、営業で廻ってくれば『何かないですか?』だもんね。それを持ってくるのが営業の仕事だろうってさ」

 また別の書店さんの話。
「店頭のワゴンに置いてくれってうるさいのよ。売れている本だがら、そこに置けば売れますからって。当たり前じゃないの。そこに置けば売れるって。一番目立つ場所なんだから。だからさ、こっちはそこに置かないと売れない本を一生懸命探しているのよ」

 最近、営業で書店さんに入ったとき、ぐるっと一周して棚に付いているお客さんを観察している。恐ろしいことであるけれどひとつ気付いたのは、雑誌や実用書やその他の棚にはお客さんがいるのに、文芸書の棚にはお客さんがひとりもいないということがしょちゅうある。

8月6日(水)

 頑張って猛暑のなかを歩いても、決してうまくいくわけではない。ことごとく書店員さんの休みに当たってしまい大撃沈。なんだったんだ小田急線。

 これからとある書店さんの暑気払いに出かける。できることなら厄払いもして欲しい。

8月5日(火)

 35度を越えるなか歩き回るだけでも大変なのに、豪雨の上に雷である。
「いったい俺は何をしているんだろう」とビショビショになりならが考える。いや考えている場合ではない。靴の中まで水が侵入してきているではないか。営業の前に雨宿りしなきゃ。

 夕方から町の書店さんの集合体「ネット21」の文庫会議に参加。
「なんかいつも同じような会議をやっているとだらけてくるから、杉江さんなんか売り場のこととか適当にしゃべって。ギャラはないけど」とムチャクチャな依頼をしてきたのは、「本屋プロレス」をした伊野尾書店の伊野尾さんなのであるが、もちろん当然断ろうと思った。人前で話すのは苦手だし、そもそも結構忙しいし、売り場のことなんてわからないし。

 でも、である。伊野尾さんのお店で僕は客注を出すことがあるのだが、そのときの客注短冊の依頼主のところに「杉江様(店長友人)」と書かれているのである。友人の頼みは、金貸してくれから、部屋貸してくれ、ツラ貸してくれまで、人生で一度も断ったことがない。ならば、これは引き受けざる得ない。というわけで、「ラリホー」を唱えつつ僕の好きな売り場について話したのである。

 家に着いたら娘と息子が耳を塞いだまま寝ていた。

8月4日(月)

アカペラ
『アカペラ』
山本 文緒
新潮社
1,470円(税込)
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 ああ、ビックリした。
 表題作の「アカペラ」の書き出しが、ちょっと不思議ちゃんぽい感じだったから、今の俺はそういう小説を読むモードじゃないんだよと積ん読にしそうになっていたのだが、高野秀行さんから「傑作です」とメールをいただき、あわてて再開したところ、確かに『アカペラ』山本文緒(新潮社)は、傑作だった。

 直木賞受賞後にうつ病となった著者は、「うつ病だった間、とても孤独でした。じゃあいまは孤独じゃないかというと、そうでもない。やはり孤独なままです。でも、それでいい。みんなそうなんだと、すごく当たり前のことが腑に落ちて、やっと元気になりました」と『波』8月号で語られているが、まさにその気分を描いた「ソリチュード」が最高なのである。

 20年ぶりに実家に帰る主人公、それを迎え入れる家族や友人達。一度切れたようにみえた関係性は実は切れておらず、それどころかまた新しい関係も生まれる。孤独でありそうで、孤独でない。

 おそらく僕は今後の人生でこの作品を20回は読み返すであろう。他の2作も素晴らしく、やはり山本文緒は小説家なのだ。ぜひともゆっくりで良いから、書き続けて欲しい。

 午前中はデスクワーク。午後はホームページの打ち合わせ。その後もデスクワークで、営業としては不完全燃焼な一日。山本昌、おめでとう。清原もおめでとう。

8月1日(金)

 新人編集者タッキー初の制作本『ミステリ交差点』の校了日を迎え、タッキーはやっと編集者らしい面構えになってきた。がんばれ! タッキー。

 昼、営業に出ようと駅へ向かうと、十号通り商店街を元単行本編集者のカネコッチが歩いてくるではないか。
「どうしたんですか?」
「心配だからさ」

『ミステリ交差点』の組版をカネコッチに半分頼んでいたのだが、タッキーがあまりに心配なので、自分の仕事を休んで来てくれたらしい。

 夜、第2回目黒杯争奪ボウリング大会を中野サンプラザにて開催。第1回大会では、大森望さんに負けたので、今回はリベンジあるのみ!と燃えていたのだが、なんと急遽参戦した早川書房チームのYさんが、まるでファミスタの安田のようにぐにゅーと曲げ、ストライクの連発。大森さんにはリベンジを果たすが、Yさんには2ゲームで308対306の僅差で負け。また2位か。

7月31日(木)

夏から夏へ
『夏から夏へ』
佐藤 多佳子
集英社
1,575円(税込)
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「私は、高校陸上のスプリンター達をモチーフにした小説を書くために、陸上部の練習や試合を四年に渡って見るという経験をして、この世界の魅力に取りつかれた」と書くのは、佐藤多佳子で、もちろんその小説は第4回本屋大賞に選ばれた『一瞬の風になれ』(講談社)だ。

 そして待望の新作『夏から夏へ』は、「世界陸上大阪大会」に出場したトップレベルの四継選手(塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治)を追った著者初のノンフィクションである。果たして小説家がいかにノンフィクションを書くのか......と思いつつ読みだしたのだが、僕がサラリーマンである以前にサッカーバカであるように、佐藤多佳子は作家である以前にスポーツバカであったのだ。ひたすら観察すること、そして聞くことによって、「走る」ということが真摯に描かれる。

『一瞬の風になれ』のような感動ではないが、スポーツとスポーツ選手が持つ本来の感動がここにはある。オリンピックにはまったく関心がなかったが、やはりこの本を読んだら四継だけは見たくなるし、佐藤多佳子が描くであろう続編が楽しみだ。

 新宿K書店さんを訪問すると、仕入れのTさんから『本の雑誌』8月号の「サッカー本ベストイレブン代表選考会」がむちゃくちゃ面白かったと褒められる。うれしいかぎり。

 しかし暑くない、のは自分が慣れたせいかと思っていたのだが、そうではなく実際にそれほど暑くなっかったのだ。ちょっとガックリ。

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