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9月25日(木)

おかしな時代
『おかしな時代』
津野 海太郎
本の雑誌社
2,940円(税込)
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罠猟師一代―九州日向の森に息づく伝統芸 (みやざき文庫 38) (みやざき文庫 (38))
『罠猟師一代―九州日向の森に息づく伝統芸 (みやざき文庫 38) (みやざき文庫 (38))』
飯田 辰彦
鉱脈社
1,470円(税込)
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 すごい本ができちゃったな、と見本が届いたときに思った。とてつもなく素晴らしい本だ。
『おかしな時代 「ワンダーランド」と黒テントへの日々』津野海太郎著(本の雑誌社)。

 10月1日(水)搬入なのであるが、連載時に加筆修正の上、貴重な写真も収録し、そしてそして平野甲賀さんの装丁である。ハッキリいってこれ以上「本らしい本」もないのではなかろうか。胸を張って取次店さんを廻る。

 先日『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)が素晴らしいと紹介したが、上には上があるもんで、同じ罠猟師本の『罠猟師一代 九州日向の森に息づく伝統芸』飯田辰彦著(鉱脈社)はもっと具体的で素晴らしい。罠をはじめ、解体の仕方も写真でしっかり紹介されており、また猟師の知恵と本質が描かれている。

 この本の存在を知ったのは、リブロ池袋店である。文芸担当の矢部さんに『ぼくは猟師になった』が面白かったと話したところ、「うちの人文書売り場でも盛り上がって、猟師本フェアやってるよ」と言われ、そのフェアを覗いたのである。そこに『世界屠蓄紀行』内澤旬子著(解放出版社)や『熊を殺すと雨が降る』遠藤ケイ著(山と渓谷社)ともに並べられていた。

 こういうことがあるとやっぱり書店の力はすごいと思う。さっきまで存在すら知らなかった、でも読みたいと考えていた本がそこにあるのである。まさに発見以外の何者でもない。またこんな本が出版されている日本の出版の奥深さにも関心させられてしまった。

 地方小出版流通センターで『「本の雑誌」炎の営業日誌』の注文を見せられる。具合が悪くなる。これは著者がみるものではないですな......。

9月24日(水) ぼくのJリーグライフ

「頭に来ちゃうのよ」

 まもなくクウェートのアルカディシアとアジアチャンピオンズリーグ(後ACLと略す)準々決勝セカンドレグが始まろうとしている埼玉スタジアムのゴール裏で、67歳の我が母親は怒っているのである。

「お父さんはさ、巨人もそうだけど強いときだけ応援してファンだとかいうでしょう。巨人なんて負けているとテレビのチャンネル変えて逆転するとまた見たりして、お母さんはそんなのファンじゃないと思うのよ。それでさ、今朝、ACLの話していたら、『最近浦和レッズは行っても勝てないから応援に行くの辞めようかな』とか言いだしたのよ。もう頭に来ちゃって、『勝手にすれば』言ってやったわよ。ただ勝ってるときだけ応援しているようなのは、サポーターでもファンでもないねって嫌味を言ってやったっけど」

 私は両親がケンカするところをほとんど見たことがない。ただ二人の性格が似ているかというと真逆のような気がしていた。

「それにさ、会社に行けばお兄ちゃんが、監督がどうしたとか戦術がどうしたとかぐちぐち言ってるのよ。あんたバカじゃないの、そんな偉そうなこと言ってスタジアムにほとんど来てないんでしょう? 言っちゃ悪いけどお母さんはもう歳だからアウェーまではさすがに行けないけど、年間チケット買っているホームの試合はどんなことがあったって観に行って、それで応援して、結果がどうであろうと2時間楽しませてもらった気持ちで帰るの。J2に落ちなきゃいいじゃない、負けたって。うちの男どもはアンタを除いてみんな理屈っぽくてダメだね。まあアンタは理屈がなさ過ぎて問題だけど」

 おそらく私の血の大半はこの母親から受け継がれているのだと思う。

★    ★    ★

 人間は見えるものだけをどうしても信用してしまうが、目に見えない「気」というものが絶対存在することを教えてくれた試合であった。絶対に勝たなければいけないこの試合、仕事帰りで駆けつけたサポーターを迎え入れた午後7時30分、埼玉スタジアムには恐ろしいまでの殺気が生まれていた。

 コールのひとつひとつ、ブーイングの声量にその気は乗りうつり、それは、ときには浦和の選手達の後押しをし、ときにはアルカディシアの選手を恐怖に陥れた。

 母親の気炎に恐れをなしたのか、父親も結局スタジアムにやってきた。そして声のかぎり浦和の選手を鼓舞した。そういえば、父親が独立するかサラリーマンを続けるか悩んでいたとき、「いい加減にしなさい! 毎日愚痴を聞かされるくらいなら貧乏の方がましだ! 好きに生きればいいでしょう」と怒鳴りつけたのは母親だった。

 過密日程も何のその今年花開いた相馬が惚れ惚れするようなボレーシュートを決め、闘莉王がセットプレーから追加点を奪い、我らが浦和レッズは準決勝進出を決めた。 

 勝利の歌「We are Diamonds」を歌うと、我が両親は、仲良くゴール裏の階段を降りていった

9月22日(月)

 単行本版『「本の雑誌」炎の営業日誌』再校を無明舎安部さんに戻す。
 これで著者としての役割はほぼ終わったわけで、ここから営業に勤しむ。

 原稿を直している間、ずーっとこんなまとまりのない文章を本にして良いのだろうか…と悩んでいたのだが、今現在もその気持ちは変わらない。ふつう営業マンが出す本なら営業についての本だったり、あるいはせめて出版業界への提言みたいなものになるだろう。『「本の雑誌」炎の営業日誌』はどのどちらにも当てはまらずあまりに等身大なチビ出版社のチビ営業マンの日常でしかない。

 それなのに先日『文化系トークラジオLIFE』の営業で訪問した神保町のS書店人文書売り場では、リトルプレスの担当もされているOさんと名刺交換したところ「あっ!来月本出ますよね、楽しみにしています」なんて、いきなり声をかけられる。恐縮どころか、狼狽。仕事も忘れてお店を飛び出してしまったではないか。ほかの書店さんでも知らぬ間に本部の方が集約してくれていたり、場所を空けて待っているよなんて言っていただいたり、ネット書店さんではいち早く商品ページを作っていただいたりと、ほんとうに有難いかぎりなのだが、中身がそれに答えられるとは到底思えず、落ち込む一方である。

 まあ年8万点近くある新刊に埋もれるのは確実なのであるが、何だか本当に苦しい日々だ。

 昼は、成城学園の三省堂さんを訪問し、出版営業マンを主人公にした『平台がおまちかね』(東京創元社)の著者大崎梢さんと戸川安宣さんの対談を拝聴。マイクが1本しかなかったので会話にならなかったのがちょっと残念だったが、大崎さんの作家らしい語り口と、戸川さんの原稿を読む際のポイントなどが面白かった。

 夜は、飯田橋で、日下三蔵さん、白夜書房のFさん、ダイヤモンド社のKさん、そして深夜プラス1の浅沼さんと酒。僕を除いたこのメンバーの共通項は、ミステリーの造詣が深いということなのだが、特に日下さんとFさんの、昭和のミステリーに関するディープすぎる話は、合いの手も相づちも入れられず、こんな話を無料で聞いていいのかと悩んでいるうちに、3時間が過ぎてしまった。まさに知の巨人だ。

9月21日(日) ぼくのJリーグライフ

 ビジター席以外での赤いものの着用は禁止とか、競輪場に待機させられるとか、開門になったと思えばひとりずつ厳しくチケットをチェックされるなど思い切りアウェーな気分を味わった。これで騎馬隊とかドーベルマンがいたら海外なのにと思ったが、それもスタジアムに入るまで。入ってしまえば、そこはかつて通い慣れた大宮サッカー場であって、愛すべきスタジアムに変わりない。

 試合が始まってすぐ雨が激しくなるが、まだできる範囲だろう、と思っていたのだが主審はよほど雷が恐かったらしく、ボールを拾い上げて中断の宣告をするではないか。おお、鹿島に続いて年2度目の雷雨による中断を味わえるとは珍しい。

 約1時間後に再開し、高原のFWらしいゴールで勝利する。
 歩くとびしゃびしゃ言う靴のまま、日本で一番近いアウェーから帰宅する。

9月19日(金)

ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち
『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』
速水健朗
原書房
1,575円(税込)
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 リブロ渋谷店を訪問し、Yさんとお話。
 『ゼロ年代の想像力』宇野常寛(早川書房)の話題から『ケータイ小説的 "再ヤンキー化"時代の少女たち』速水健朗(原書房)をお薦めされる。

 夜はその渋谷店を今月退職されたHさんの送別会に参加。またひとりパルコブックセンターを知る人が、書店業界を去っていくのかと思うと寂しいかぎり。

9月18日(木)

なみのひとなみのいとなみ
『なみのひとなみのいとなみ』
宮田 珠己
朝日新聞出版
1,575円(税込)
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 嫌な予感がしていたのだが、ドーンと落ちた。
 先週から何だかジワジワと腹の立つことが起き、スウェーやクリンチをしてかわしていたのだが、週末になんだコノヤローと真剣に腹がたつことがあり、しかもそのときの自分の対応もすっきりしなかったと考えているうちに落ちてしまった。いやもしかしたら山野井泰史さんのことで落ちこんでしまったのかもしれない。いやいやクウェートに行けない自分が嫌になっているのかもしれない。

 参ったなあと思いつつ本日も営業に出かけたのであるが、その店頭にて我らがタマキングこと宮田珠己さんの新刊『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)を発見! 早速購入し、いつもなら山手線の人になるのであるが、宮田さんの本が電車で読めるわけがない。どうしたって「クククッ」と笑い出してしまい、周りの人に不審者がられたところで、あわてて「♪わたしの青い鳥〜」なんて歌って誤魔化すことになるのだから。

 というわけで人気のない公園に向かいベンチに座って心おきなく「クククの人」になったのであるが、数篇読んだところで気が付いた。電車のなかで笑っている人より、人気のない公園で笑っている方が危険なのではなかろうか。すでに随分笑って気持も軽くなったので、ここは先を読みたい気持をぐっと我慢し、営業に戻ることにしたのである。

 帰宅後、心おきなく『なみのひとなみのいとなみ』を読もうと思ったら、娘と息子が起きていた。息子はここしばらく「レスキューフォース」という戦隊ものにすっかりやられており、変身しては寝転がっている私の顔面に膝蹴りを食らわしてくるのである。邪魔なのでカニバサミしてもだえ苦しませていると、今度は娘が「ポケットモンスタープラチナ」が進まないとDSを差し出してくる。これでは全然読めないではないか。

 というわけで作戦変更し、娘と息子を寝かせようとしたのだが、いつの間にか自分が寝ていて、目覚めたら11時。ガバリと起きだし、居間で『なみのひとなみのいとなみ』を読みだしたのであるが、1行読んでは「ククク」と私が笑うもんだから、妻にうるさいと蹴られてしまった。

 35年の住宅ローンを背負わせられておきながらなぜかこの家には私の部屋がない。寝室も居間もダメなら、あとはトイレしかない。というわけで本を持ってトイレに向かったのであるけれど、トイレに入るとどうしたものかズボンとパンツを脱ぎたくなる。結局、下半身を晒して『なみのひとなみのいとなみ』を読み続ける。

 宮田さんはこの本に対して「もうぜんぜん統一感はないし、僕には日常エッセイが書けない」と会う度に苦しい話していたのだが、何をいう宮田珠己。充分過ぎるほど面白いではないか! しかも初めは「ククク」と笑わせておいて、途中から「そうだそうだタマキング」と唸らされるエッセイが詰まっている。おかげで私はパンツとズボンを履いて居間での生活に復帰できた。

 もしかすると『なみのひとなみのいとなみ』は、今までベトナムの盆栽とか巨大仏とかシュノーケルとかどちらかというと地味なもの地味なものと目立たないものを書いてきた宮田珠己の読者の間口を一気に広げる作品になるのではなかろうか。

 『永遠の出口』森絵都(集英社文庫)の文庫解説で北上次郎は「本書は森絵都が、児童文学を離れて新しい地平をめざした記念すべき一冊である。面白い小説はないかなと思っているあなたに贈る挨拶がわりの一冊だ。凄みのある一冊だ。」と紹介しているのだが、まさに『なみのひとなみのいとなみ』は面白いエッセイはないかとおもっているあなたに贈る、宮田珠己からの挨拶がわりの一冊になるだろう。例え本人にとってそれが不覚であろうが。

9月13日(土)ぼくのJリーグライフ

 なかなか勝てない大分戦、というかいつの間にか勝ち点一緒の、3位と4位の争いだ。ここで突き放しておかないとどんぐりの背比べJ1リーグから抜け出せない……なんてことを考えているうちに午後2時を迎え、埼玉スタジアムはキックオフ。

 間もなく僕の下唇はみるみる腫れ、しわがれ声になっていくではないか。出てきた言葉は「ダメだこりゃ!」いかりや長介だ。走らない、走らない、走らない。数年前の、あの躍動感溢れる浦和のサッカーはどこへ行ってしまったのか。見ているのもつらいけど、これが僕たちのチームなのだから応援する以外すべはなく、とにかく声の限り叫ぶ。結果は0対0の引き分け。

「もうこんなサッカー見たくない!」と怒り心頭で家路につくが、なぜか途中のローソンで、アウェー新潟戦のチケットを購入しているではないか。ダメなのは、オレか。

9月12日(金)

パイナップルの彼方 (角川文庫)
『パイナップルの彼方 (角川文庫)』
山本 文緒
角川書店
504円(税込)
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 通勤読書は今更ながらの『パイナップルの彼方』山本文緒(角川文庫)。6年ぶりの新刊『アカペラ』(のなかの「ソリチュード」)にすっかりやられてしまったので、山本文緒を遡り読書。

 とある書店さんを訪問すると「聞いてくださいよ〜」と泣きつかれる。
「先日作家の○○さんが出版社の人と一緒に来店していただきサイン本を作ってくれたんですけど、5冊か10冊で充分なのに、あるだけしますよってどんどんサインされちゃって......」

 委託配本の本でもサイン本は返品不能というのが業界のルールなのである。

「もういいです、って言いたかったんですけど、作家さんにそんなこと言えるわけもなく、手元にあった本、みんなにサインされちゃいました。売れればいいんですけど、なんか編集者とか営業マンが事前に事情を説明して、このお店は何冊くらいって打ち合わせしておいて欲しいですよね」

 作家さんの書店廻りは、よもや日常茶飯事で、下手をすると僕の営業ルートに一日のっていて追い駆けっこしていることもある。ちなみにこの日伺った作家の○○さんのサイン本も、僕がそれまでに廻った書店さんの多くで積まれていた、ってそんなにあちこち大量にサイン本があったら、サイン本の稀少価値もなくなってしまうではないか。

 これは別の書店員さんから聞いた話なのだが、そちらでは事前に作家さんが来店することがわかっていると、在庫を隠しておくことがあるらしい。それは「あれ知ってる作家もいるね。サイン本返品できないの。わざと大量にしていこうとする人いるもん」という行為に対しての自己防衛なのである。

 まあ、作家さんが自分の本が売れる、売りたいという気持ちを持つのは当然なことだろうから、ここはやはり出版社の人間がきちっと事情を説明するのが正しい判断だろう。せっかくお互い大切な時間を使うのだから、ありがた迷惑にならないよう気をつけていかなければならないだろう。

 夜は新宿・池林房でヒートアップ!

9月11日(木)

ぼくは猟師になった
『ぼくは猟師になった』
千松 信也
リトル・モア
1,680円(税込)
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 半分猟師の生活を過不足なく描いた『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)があまりに面白く、電車を降りるのももどかしい。これは『TOKYO 0円ハウス0円生活』坂口恭平(大和書房)とともに今年のエンタメ・ノンフ大賞を争うことになるだろう。ってそんな賞があるのか知らないけれど。『世界屠蓄紀行』内澤旬子(解放出版社)を楽しく読んだ人にもオススメだ。

 あまりにくたびれたので早く帰り、娘と息子と久しぶりに遊ぶ。

9月10日(水)

 夜、京王プラザで行われた新潮社の新刊ラインナップ発表会にお邪魔する。
 僕が気になった新刊は、『ばかもの』絲山秋子(9月29日発売)、『天使の歩廊』中村弦(11月21日発売/第20回ファンタジーノベル大賞)、『建築家 安藤忠雄』安藤忠雄(10月24日発売)あたりか。

 流れるままに新宿・犀門へ。

 そこでとある出版社の編集者に、「編集とはなんぞや」や「カバーや帯の発想法」や「良文悪文の違いなど」かなりみっちり講義していただき勉強になったのであるが、最後にその編集者がこぼした言葉に腰が砕けてしまった。

「杉江さん、オレ、営業に異動願いだそうかと思って」

 なんとこの一年自分で作った本がほとんど売れず、自信喪失というか、何が売れるのかまったく見当が付かなくなってしまったそうなのだ。まあ編集をすでに15年以上続けている人なので半分冗談だと思うけれど、おそらくこういう編集者は多いのではなかろうか。でも営業だって売れている本はわかっても売れる本はわからないと思うけど……。

9月9日(火)

 秋になった、かもしれない。
 営業で外を歩いていても心地よい。

 愛する町の本屋さん、清澄白河のりんご屋さんを訪問。店長のHさんと長話。

「周りの本屋さんがどんどんなくなっているからかもしれないけれど、調子良いんだ」

 それはおそらくしっかり品揃えしているからなのではなかろうか。地元にこんな本屋さんがあったらいいなと思わせるお店なのである。

 そこから東西線、総武線を営業。

 実は昨日、秋田の無明舎さんから単行本版『炎の営業日誌』の営業チラシが送られてきたのである。というわけで、自社本とともに自著の営業。これが尻の穴がムズムズするくらい恥ずかしい。ただでさえダメな営業なのに、いちだんとダメダメ化し、もはや何を言っているのかわからない状態。しかし無明舎さんに迷惑をかけるわけにはいかないので、営業しなければならない。

 夜は、船橋で某作家さんと打ち合わせ。

9月8日(月)

「杉江さん、もうすぐ死ぬんじゃないですか?」

 月曜の朝イチにかける言葉か? と思わないわけでもないけれど、僕自身もどこかでそう思っていたりするので、浜田のその問いかけに頷きそうになってしまった。

「金曜日は大好きな高野秀行さんと宮田珠己さんとカヌーに行くし、来月には本も出るし。人生そんな良いことばかり続かないですよ」

 確かに人生はそう良いことばかり続かないだろう。水戸の黄門様も言っている。
 しかし浜田よ、良いことばかりじゃないんだよ。我が浦和レッズは3位で、しかもその順位以上に内容が酷い。それからもはや休刊相次ぐ出版業界にいること自体、苦しみ以外のなにものではないであろう。それでも僕は、開高健氏が残した言葉を胸に、奥歯を噛みしめ、頑張っているのだ。

「明日世界が滅びるとしても今日あなたはリンゴの木を植える」

★    ★    ★

 町田のY書店Sさんが明後日から産休に入られるというので、あわててご挨拶へ。

「大好きだった『マイナス・ゼロ』広瀬正(集英社文庫)を最後に売れたのがよかったです。でも『ムボカ』原宏一(集英社文庫・9月刊)は間に合わなくて残念。産休中に松本清張を全部読もうと思ってます」

 また売り場で再会しましょうと約束し、町田の他の書店さんを営業。そして新横浜のS書店へ向かうが、売り場に着いた瞬間にYさんの公休日だと思い出す。何をしているんだオレは。

★    ★    ★

 通りがけの電器屋で、欲しいと思っていた腕時計を発見したのであるが、文字盤というか本体が想像以上に大きく、購入を見送る、って買う金もないのだが。

 腕時計で思い出したが、高野さんと宮田さんと一緒に行った那珂川の帰り、道に迷い北関東自動車道真岡インターに辿り着けず、困ったのである。そこでナビゲータの宮田さんが「これ、北に向かってますよね、西に行きたいんですよ」と行った時、助手席に座っていた高野さんが腕時計をピコピコし、「今、南に向かってますよ」と答えたのだが、なんだかその瞬間、辺境作家の辺境作家たる瞬間を垣間見たというか、あっ、高野さんはほんとうに探検している人なんだと実感したのであった。

9月4日(木)

 今朝、唐突にあの日のことを思い出した。そして泣いてしまった。
 あの日というのは2004年11月20日。浦和レッズがJ1リーグで初めて優勝した日だ(セカンドステージ)。思い出したのは、その試合でもなく、浦和の街での興奮でもなかった。

 チケットを手に入れられなかったサポーターが、駒場スタジアムを囲み(見ることができないのに)、旗を振っていたのだ。その旗が、スタジアムの中にいた僕らから見えた。まさに旗だけが見えた。旗は力強く右へ左へ揺れていた。

 あの光景は、僕の人生において一番感動の光景だった。

9月3日(水)

コウノトリ、再び
『コウノトリ、再び』
小野泰洋,久保嶋江実
エクスナレッジ
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 その番組(NHKスペシャル「コウノトリがよみがえる里」)を見たとき、誰かこの話を本にしてくれないかと思ったのだが、なんと出たではないか。ありがとうエクスナレッジ!!

 というわけで『コウノトリ、再び』小野泰洋、久保嶋江実著(エクスナレッジ)を読む。これは兵庫県豊岡市で絶滅寸前だったコウノトリを繁殖させ、改めて自然に放つという非常に難しいことを追ったノンフィクションである。

 繁殖させるだけで二四年の月日がかかり、また自然に戻すためには環境を変えなければならない。無農薬の米作りに挑む農家や、またそれを見守る市民など。哀しい結末を迎えた『朱鷺の遺言』小林照幸(中公文庫)のまさに遺言が生きたのではないか。

 この本を読んで思ったのは、環境は経済になりうるということだ。無農薬のお米を僕は食べたいと思ったし、コウノトリを野に放つというドラマに付加価値があるだろう。また豊岡に行こうと計画を練りだしたし、無農薬の田んぼで素晴らしさを生で見たらおそらく住みたくなるだろう。もちろん実際の生活は甘くないであろうが、今や里山というのは一種の憧れの対象なのである。いい本だ!


 新宿、高田馬場、飯田橋、水道橋と営業。本日の話題はどこも「嵐」の本。ジャニーズ関係の本はどうしていつもこう飢餓感を出すような感じで発売されるのか。書店さんは大変だ。

9月2日(火)

 京王線を営業。

 聖蹟桜ヶ丘のK書店Sさんが異動されていてビックリ。入社以来10数年に渡ってお世話になっていたので残念無念であるけれど、こうなったら駅から遠い(らしい)次のお店も訪問するしかない。

 Sさんにかぎらず、9月は各書店さんの人事異動の季節で、「はじめまして」の挨拶が多い。こうなるとまた1からやり直しで大変なんだけど、新たな出会いのなかに楽しいこともいっぱいあるはずだから、頑張ろう。

 京王線から都営大江戸線を乗り継ぎ、六本木の青山ブックセンターへ。
 洋販さんの件で現在民事再生法の申請をし、ブックオフの支援など話題になっているのだが、お店は変わらず営業中。

 というよりは9月5日には堀江敏幸さんのミニトーク&サイン会があり、10月7日には池澤夏樹さんのサイン会もあり、また9月14日からは若竹七海×近藤史恵×畠中恵三氏による「オススメ本フェア」も開催されるようで、パワーダウンどころかパワーアップしているではないか。MさんやNさんとしばしお話。

 夜は、前回「雨天予備券」という実際には試合のない日のチケットを持って野球観戦を誘ってきた元助っ人の横溝君と、こんどは正式なチケットを手に神宮球場へ。ヤクルト対中日。久しぶりに目の前でヤクルトが勝つところを見たが、横溝君は中日ファンなので、回が進むに連れて不機嫌になっていく。仕方なく8回表終了を待って、外へ出る。

 横溝君は今週末、結婚の申し出を彼女の御両親にするらしい。「がんばれよ〜」と声をかけ、神宮球場の前で別れた。

9月1日(月)

 布団のなかで娘がつぶやく。
「泣いちゃいそうだなぁ。学校いやだなあ」
 人生において9月1日ほど嫌な日は確かにないだろう。しかしほとんど学校に行っていなかった僕としては「学校楽しいじゃん」なんてウソはつきたくない。楽しいことに気持を向けてやろう。
「もうすぐポケットモンスタープラチナの発売だね」
 娘はがばりと起きて歯を磨きに行った。


 今日も暑くなりそうだと思いつつ、娘が育てているナスの鉢植えに水をやっていると、ランドセルにお道具箱に宿題で作った写真立てと荷物を抱えた娘が玄関から出て来た。その表情はやっぱり不安げで、心細そうだった。「いってらっしゃい」と言っても返事はない。
 なんとなくじょうろを置いて、通学班の待ち合わせ場所に向かう娘に着いていく。すると突然娘が振り返る。
「パパ、何してんよの。2年生にもなって親が付いてくるなんて恥ずかしいでしょう」
 僕は立ち止まり、そして家に戻った。


★    ★    ★

 夜、リブロ矢部さんの対談を収録するため、待ち合わせ場所になっているお店へ向かうと、雑誌売り場は2重3重の人垣ができていた。様々な雑誌の休刊や廃刊が発表になっているのだが、まるでネットサーフィンを楽しむような意識で、多くのお客さんが立ち読みをされている。

 雑誌をコミックのようにビニールパックしたら売り上げはどうなるだろうか。例え雑誌の売り上げが上がったとしても、書店の集客力が落ちて全体は下がるだろうか。

8月29日(金)

 プレミアリーグが始まると読書量がガタンと落ちた。3日で2冊を目標にしているのが、3日で1冊も読めない。まずい。

 朝、昨日思いついた企画を、下版でテンパりつつもサンドイッチをムシャムシャ食っていた浜本に話す。「いいじゃんそれ、面白そうじゃん」というわけで一気に動き出す。

 ここ最近ずーっと調子の悪かったパソコンがついにダウン。これは買い換える以外ないだろうということで、iMacのカタログとともに購入申請を今度はおにぎりにパクついていた浜本に話すと、聞こえないフリをされてしまった。

 午後から営業へ。常磐線。
 夕方、柏を彷徨いていたら、南の方から真っ黒な雲がやってきた。ゲリラ雷雨間違いなし! というわけで直帰したが、その連絡を受けた事務の浜田は「笹塚は晴れてますよ。今日は、大丈夫でしょう」と笑っていた、が、その後下版明け祝いで松村とふたりで飲みにいったら、笹塚も大雨。お店から出られなくなったとか。ゲリラ雷雨を舐めないように。

8月28日(木)

どすこい 出版流通
『どすこい 出版流通』
田中 達治
ポット出版
1,890円(税込)
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 出版業界人必読の書といわれる『どすこい出版流通』田中達治(ポット出版)を読む。詳しい紹介は『本の雑誌』2008年9月号の「今月の一冊」で書かれているのでそちらに譲るが、筑摩書房の元・取締役営業局であった著者の、出版流通側から見た出版業界論である。

 出版流通といのは、わかっているようでわからないことが多く、例えば僕が前にいた医学書の会社と、本の雑誌社では注文受注後の処理がかなり違っていて入社時に戸惑ったことを思い出す。それぞれその規模やジャンルや習慣によって違うわけで、僕の場合、地味なところから地味なところへ転職してしまったから、いまだに主流の出版流通というのが実はまったく分かっていなかったりする。そういう意味でも非常に勉強になった一冊である。できることなら生前お会いして直接いろんな話を伺いたかった。

 本日訪問した書店さんでの話をいくつか書くと「先日ある人に言われてそうだなあって思ったんですけど『出版不況』じゃなくて『出版衰退』なんですよね」や「出版社の人に昔のような棚にしなさいと言われてやってみようとしたらほとんどの本が品切・絶版だった、そういう現状を出版社が招いているわけでしょう」だったり、「出版社が本の置き場所を戻してくれっていうのよ、元々出版社がこっちに置いてくれっていうからわざわざ変えたのにさ。それがあんまり調子よくなかったから戻して欲しいらしいんだけど、売れる本はどこへ置いても売れるし、そもそも売れる売れないの一番の要因は置き場所じゃなくて、内容でしょう」など。それにしてもこの半年明るい話題がこの出版業界にはほとんどなく、出版衰退というのを肌身で感じてしまう。

 何だかまたぐったりしてしまいそうだったので、夜、出版業界を少しでも明るくしようと無謀なイベントをしている「本屋プロレス」の仕掛け人である太田出版のUさん、Mさん、伊野尾書店の伊野尾さんと池林房で酒を飲む。すっかり3人に影響され、「出版業界にプロレスを!」と叫びつつ新宿駅へ向かう。

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