9月24日(水) ぼくのJリーグライフ
「頭に来ちゃうのよ」
まもなくクウェートのアルカディシアとアジアチャンピオンズリーグ(後ACLと略す)準々決勝セカンドレグが始まろうとしている埼玉スタジアムのゴール裏で、67歳の我が母親は怒っているのである。
「お父さんはさ、巨人もそうだけど強いときだけ応援してファンだとかいうでしょう。巨人なんて負けているとテレビのチャンネル変えて逆転するとまた見たりして、お母さんはそんなのファンじゃないと思うのよ。それでさ、今朝、ACLの話していたら、『最近浦和レッズは行っても勝てないから応援に行くの辞めようかな』とか言いだしたのよ。もう頭に来ちゃって、『勝手にすれば』言ってやったわよ。ただ勝ってるときだけ応援しているようなのは、サポーターでもファンでもないねって嫌味を言ってやったっけど」
私は両親がケンカするところをほとんど見たことがない。ただ二人の性格が似ているかというと真逆のような気がしていた。
「それにさ、会社に行けばお兄ちゃんが、監督がどうしたとか戦術がどうしたとかぐちぐち言ってるのよ。あんたバカじゃないの、そんな偉そうなこと言ってスタジアムにほとんど来てないんでしょう? 言っちゃ悪いけどお母さんはもう歳だからアウェーまではさすがに行けないけど、年間チケット買っているホームの試合はどんなことがあったって観に行って、それで応援して、結果がどうであろうと2時間楽しませてもらった気持ちで帰るの。J2に落ちなきゃいいじゃない、負けたって。うちの男どもはアンタを除いてみんな理屈っぽくてダメだね。まあアンタは理屈がなさ過ぎて問題だけど」
おそらく私の血の大半はこの母親から受け継がれているのだと思う。
★ ★ ★
人間は見えるものだけをどうしても信用してしまうが、目に見えない「気」というものが絶対存在することを教えてくれた試合であった。絶対に勝たなければいけないこの試合、仕事帰りで駆けつけたサポーターを迎え入れた午後7時30分、埼玉スタジアムには恐ろしいまでの殺気が生まれていた。
コールのひとつひとつ、ブーイングの声量にその気は乗りうつり、それは、ときには浦和の選手達の後押しをし、ときにはアルカディシアの選手を恐怖に陥れた。
母親の気炎に恐れをなしたのか、父親も結局スタジアムにやってきた。そして声のかぎり浦和の選手を鼓舞した。そういえば、父親が独立するかサラリーマンを続けるか悩んでいたとき、「いい加減にしなさい! 毎日愚痴を聞かされるくらいなら貧乏の方がましだ! 好きに生きればいいでしょう」と怒鳴りつけたのは母親だった。
過密日程も何のその今年花開いた相馬が惚れ惚れするようなボレーシュートを決め、闘莉王がセットプレーから追加点を奪い、我らが浦和レッズは準決勝進出を決めた。
勝利の歌「We are Diamonds」を歌うと、我が両親は、仲良くゴール裏の階段を降りていった
まもなくクウェートのアルカディシアとアジアチャンピオンズリーグ(後ACLと略す)準々決勝セカンドレグが始まろうとしている埼玉スタジアムのゴール裏で、67歳の我が母親は怒っているのである。
「お父さんはさ、巨人もそうだけど強いときだけ応援してファンだとかいうでしょう。巨人なんて負けているとテレビのチャンネル変えて逆転するとまた見たりして、お母さんはそんなのファンじゃないと思うのよ。それでさ、今朝、ACLの話していたら、『最近浦和レッズは行っても勝てないから応援に行くの辞めようかな』とか言いだしたのよ。もう頭に来ちゃって、『勝手にすれば』言ってやったわよ。ただ勝ってるときだけ応援しているようなのは、サポーターでもファンでもないねって嫌味を言ってやったっけど」
私は両親がケンカするところをほとんど見たことがない。ただ二人の性格が似ているかというと真逆のような気がしていた。
「それにさ、会社に行けばお兄ちゃんが、監督がどうしたとか戦術がどうしたとかぐちぐち言ってるのよ。あんたバカじゃないの、そんな偉そうなこと言ってスタジアムにほとんど来てないんでしょう? 言っちゃ悪いけどお母さんはもう歳だからアウェーまではさすがに行けないけど、年間チケット買っているホームの試合はどんなことがあったって観に行って、それで応援して、結果がどうであろうと2時間楽しませてもらった気持ちで帰るの。J2に落ちなきゃいいじゃない、負けたって。うちの男どもはアンタを除いてみんな理屈っぽくてダメだね。まあアンタは理屈がなさ過ぎて問題だけど」
おそらく私の血の大半はこの母親から受け継がれているのだと思う。
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人間は見えるものだけをどうしても信用してしまうが、目に見えない「気」というものが絶対存在することを教えてくれた試合であった。絶対に勝たなければいけないこの試合、仕事帰りで駆けつけたサポーターを迎え入れた午後7時30分、埼玉スタジアムには恐ろしいまでの殺気が生まれていた。
コールのひとつひとつ、ブーイングの声量にその気は乗りうつり、それは、ときには浦和の選手達の後押しをし、ときにはアルカディシアの選手を恐怖に陥れた。
母親の気炎に恐れをなしたのか、父親も結局スタジアムにやってきた。そして声のかぎり浦和の選手を鼓舞した。そういえば、父親が独立するかサラリーマンを続けるか悩んでいたとき、「いい加減にしなさい! 毎日愚痴を聞かされるくらいなら貧乏の方がましだ! 好きに生きればいいでしょう」と怒鳴りつけたのは母親だった。
過密日程も何のその今年花開いた相馬が惚れ惚れするようなボレーシュートを決め、闘莉王がセットプレーから追加点を奪い、我らが浦和レッズは準決勝進出を決めた。
勝利の歌「We are Diamonds」を歌うと、我が両親は、仲良くゴール裏の階段を降りていった