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3月27日(金)

  • 旅する人びと (ヨーロッパの中世 4)
  • 『旅する人びと (ヨーロッパの中世 4)』
    関 哲行
    岩波書店
    3,080円(税込)
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  • 異形のロマネスク  石に刻まれた中世の奇想
  • 『異形のロマネスク 石に刻まれた中世の奇想』
    ユルギス・バルトルシャイティス,馬杉 宗夫
    講談社
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  • 実体への旅―1760年-1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記
  • 『実体への旅―1760年-1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』
    バーバラ M.スタフォード,高山 宏
    産業図書
    8,800円(税込)
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 散々営業した後、リブロの矢部さんを訪問。矢部さんは仕事の師匠でありながら、読書の師匠でもあるので、面白本の情報交換。といっても小説ではなく、地味なノンフィクションなど。

 私はちょうど新刊台で見つけた『旅する人びと』関哲行(岩波書店)や『異形のロマネスク 石に刻まれた中世の奇想』ユルギス・バルトルシャイティス(講談社)の話をすると、当然矢部さんも既にチェックされていて、逆にユルギス・バルトルシャイティスについてレクチャーを受ける。瞬間的に教養というものについて考えてしまう。

 そんな矢部さんからは『実体への旅--1760年-1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』バーバラ M.スタフォード(産業図書)を教えていただく。8000円以上する本だけど、「キャプテン・クックはじめ18世紀西欧の探険家たちが未踏異域の驚異の情報を文明界に伝えた厖大な旅行実記に今、前代未聞の光が当てられる。近代の出発点が経験した文明と自然の関係をめぐる知恵が、近代の終着点が抱えた<環境>の難問(アポリア)を解く手掛りとなる!」とあるではないか。これは買わねばならない。まずお金を貯めよう。

 夜は助っ人送別会(これを書いている今も会社で酒が酌み交わされている)。今年は長く勤めた関口鉄平と古本青年・大塚啓高が卒業していくので淋しい。卒業するはずだった松倉と朝倉の倉コンビは何をしているのだろうか。

3月26日(木)

  • マタギ 矛盾なき労働と食文化
  • 『マタギ 矛盾なき労働と食文化』
    田中康弘
    エイ出版社
    1,650円(税込)
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 吉祥寺の啓文堂書店を訪問する。

 担当のMさんが棚下のストックを開けて悩んでいたのは、あまりの新刊の多さに、何を平台から外し、そして返品するかであろう。3月末の書店員さんを見ていると波打ち際で、砂のお城を作っている子どもを思い出す。一生懸命考えて置いた平台が、一日で崩される。

 そのMさんと新刊から目をそらしつつ、外文の棚の話をしていると、『アラブ、祈りとしての文学』岡真理(みすず書房)がずーっと売れているので、アラブ文学のフェアをするというではないか。時間はかかるかもしれないけれど、しっかり棚を作るとやっぱりお客さんはつくということなのだろう。

 同じように一生懸命棚を作っているブックス・ルーエの文庫担当Hさんを続いて訪問すると、こちらはこちらで「もっと普通にした方がいいのかなとか悩んじゃうんですよ」と話される。棚作りはほんとうに難しいものなのだ。

 しかしなんだかんだいっても相変わらず面白い棚を作られていて、『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)や『くう・ねる・のぐそ 自然に「愛」のお返しを』なんかとともに『マタギ 矛盾なき労働と食文化』田中康弘なんて本を置いていた。まさか、えい出版がこんな本を出すとは......。というか、えい出版が出しているからちょっとキレイなレイアウトで、これは古くて新しい本なのではないか。なんだか入ったばかりなのに売れているらしい。皮を剥がれた熊が美しい。

3月25日(水)

  • 日本の島々、昔と今。 (岩波文庫)
  • 『日本の島々、昔と今。 (岩波文庫)』
    有吉 佐和子
    岩波書店
    8,109円(税込)
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 書店さんへ営業に出かけると台車の上に大量の新刊が積まれていた。
 「林カケ子の新刊番台」を見ればわかるとおり、年度末の新刊大洪水であった。

 これではとても我ら営業マンを相手にしている時間はないであろうし、そもそもこんなに新刊を置く場所もないだろう。邪魔になっては行けないので、ほとんどの書店さんで声をかけずお店を後にする。

 営業友達、化学同人のヤマちゃんから「最近の日記は不安な内容が多いですが、どうかしたんですか?」とメールが届く。別にどうもしていないのだが、営業でいろんな話を聞いているうちに暗黒な気分になってしまったのだろう。ごめんね、ヤマちゃん。

『日本の島々、昔と今。』有吉和佐子(岩波文庫)、読了。
 今といってもこの本は、1981年に集英社から単行本が出たものの、再々文庫化作品だから、30年近く前の話である。しかし焼尻島、天売島、屋久島、福江島、対馬、波照間島、与那国島、隠岐、竹島、父島、択捉、国後、色丹、歯舞、尖閣列島と漁業と歴史を中心に書かれた有吉和佐子のレポートは、膨大な知識に裏打ちされており、大変面白いのであった。見返しにある「昔の問いは今も新しい」は確かにそのとおりであった。

3月24日(火)

 突如野球ファンになった浜本と浜田が、インターネットの一球速報を見ながら「おっ!」「なにやってんだよ!」と騒がしい。あまりにうるさいので2階のテレビで見ればいいじゃないですかと進言すると、仕事しなきゃという。どうみても仕事が出来ていると思えないのだが......。しかしそんな大騒ぎを、浮世離れ松村が「なんかやっているんですか?」と質問を投げかけ、一同を沈黙させる。

 WBCにはまったく興味がないので、営業に出かけるが、街中では携帯を手にワンセグ放送を食い入るように見つめるサラリーマン多数。三省堂書店神保町本店の入り口でも、何かちょうど野球関係の店頭販売をしていたようで、そのモニターでWBCを放映しているから、黒山の人だかりであった。その黒山が、会社にいる浜本や浜田のように「うお!」とか「やったー!」とか叫んでいるではないか。どうせ叫ぶならアメリカに届くくらい大きな声で叫びなさい。

 と思っていたら神保町の谷底に嘆きの寒風が吹きすさび、どうも最終回に同点にされたようであった。いやはや大変ではないか。私も黒山の仲間入りをすると延長に突入し、その後は誰もが知るイチローのヒットになるわけだが、私はそのときカズこと三浦知良のことを考えていた。

 あれは98年のフランスワールドカップ。そのアジア予選でカズは不振を極め、当時はまだ日本代表の試合を見に行っていた私は、カズを外せと叫んでいたひとりであった。確かバスを囲んだときもあった。それでもやっぱりワールドカップ直前合宿にカズは呼ばれ、そのときには私はここまで来たらカズは残したほうがいいんじゃないかと思っていたのだが、加茂周から監督を引き継いだ岡田武史は、カズを外したのであった。

 黒山の隙間から、イチローの打ったボールがセンターに抜けたとき、「岡ちゃんあれはやっぱりカズを残したほうが良かったんじゃないか」と思ったのである。スーパースターっていうのはそういう星の下に生まれたからスーパースターであって、後にゴン中山がジャマイカ戦で日本人初のワールドカップで得点した男になったことを考えてもやっぱりそうだったよ、岡ちゃん。

......って営業だ、営業。

3月23日(月)

  • ニッポンの恐竜 (集英社新書 483G)
  • 『ニッポンの恐竜 (集英社新書 483G)』
    笹沢 教一
    集英社
    15,501円(税込)
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  • LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。 (ほぼ日ブックス #)
  • 『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。 (ほぼ日ブックス #)』
    飯島 奈美,糸井 重里,ほぼ日刊イトイ新聞
    東京糸井重里事務所
    1,760円(税込)
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 やたら私の安否を気遣うメールが届くと思ったら、浦和レッズの練習場で強風により鉄製扉が倒れ、37歳男性会社員と21歳女子大生が怪我されたとのことだった。確かに私は37歳会社員であるが、残念ながら浦和区在住でなく、緑区在住であった。レッズサポのひとりとして、お二人の一日でも早いご回復をお祈りするが、私は無事ですので皆様、ご安心ください。

 強風と鉄扉といえば、私は幼稚園の年長さんのとき、自宅の前にある小学校でひとりで遊んでいたとき、強風に飛ばされ、なんと鉄扉の角に顔面を強打したことがあった。ぶつけた眉毛の生えているところを手で押さえると、その手が真っ赤になり、血が流れているのが分かった。私は泣きながら家に帰ったのであるが、その日は父と兄が入間の航空ショーに行っていて、家にいたのは母親だけだった。

 母親は悲鳴をあげて驚いたが、私の家の隣が内科と産婦人科の病院で、ひとまずそこへ駆け込んだところ、近所付き合いしているせいか、休みにも関わらずすぐに治療してくれたのである。今から考えてみれば血が流れただけで、たいした傷ではなく、3針ほど縫うとすぐに治療は終わった。

 しかし私は家に帰れなかった。
 なぜなら病院で私の傷をまじまじと見た母親が、あまりの衝撃に倒れてしまったからだ。

★   ★   ★

 通勤読書は『ニッポンの恐竜』笹沢教一(集英社新書)。
 恐竜不毛の地と言われていた日本で見つかった恐竜たちのそれぞれの発掘をルポした好著。大切な化石のなくなったイナイリュウや南樺太で発掘されたニッポンリュウなど胸躍る発掘物語が描かれる。今もあるのか知らないが、「化石取り」という仕事には大変興味が湧く。

★   ★   ★

 新宿の一部を営業した後、中央線へ。

 新宿のルミネ2にあるブックファーストさんではこんな本がベスト1になっていた。
『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん』飯島奈美著(東京糸井重里事務所)
 「ほぼ日」の本なのだが、いやはやどんな出版社よりもヒットの確率が高いのでは......。

 そして荻窪のBOOK・OFFではこんな棚を発見した。
「中古じゃないでも安いんです B☆コレ」

 こちらはどうも出版社が売れ残った本をBOOK・OFFに卸しているようなのだが、いやはやこうなるといろんなもののボーダーラインがわからなくなってくる。

3月19日(木)

  • マンボウの刺身―房州西岬浜物語 (文春文庫)
  • 『マンボウの刺身―房州西岬浜物語 (文春文庫)』
    岩本 隼
    文藝春秋
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 御茶ノ水のM書店さんへ『尾道坂道書店事件簿』を直納した後、千葉方面を営業。

 船橋のイトーヨーカドーのなかにあるT書房でKさんに話かけると、学習参考書の山のような入荷に大わらわしていた。3月のこの時期は学参担当者は毎日大変なのである。ちなみにまったく門外漢なのでついつい興味を持って話を聞いてしまったのだが、中学受験と大学受験の本は売れるが、高校受験の本は売れないそうだ。なんだか高校受験が推薦と別口の2回になり楽になったからとかで、いやはやこればっかりは当事者でないとわからない。私たちの時代は受験といえば高校受験だったのだが、学参出版社も大変だ。

 大変といえば、この時期書店の外商部の人も大変で、教科書のセットなどで日夜倉庫で格闘しているはずである。かつて同じT書房の新松戸店にいらしたKさんは今は外商部に移っており、おそらく持病の腰痛と闘いながら毎日過ごしているのだろう。

 それと気になったのはA書店のYさんの話で「最近、本好きの人が良いっていう本ほど売れない」ということだ。いや他のまったく売れない本に較べたら、少しは売れるのだろうけれど、本好きの人が薦めるような本がどれだけ書評やテレビに取り上げられても思ったほど効果がないということらしい。その代わり、本好きが読んだら欠点が目につくような作品が、一気に読めて簡単に感動できるということからベストセラーになっているようだ。

「読んでいる人と読んでいない人にすごい開きが出ているような気がする」と言っていたが、同様に私は文庫なら売れる人と単行本でも売れる人の何が違うのかが気になっている。

 夜はそのまま船橋ではらだみずきさんと酒。
 はらださんとはそもそもサッカー話で盛り上がるのであるが、今回は話しているうちにお互い『マンボウの刺身ー房州西岬浜物語』などの著作で知られる岩本隼さんのファンだと分かり、いちだんと話に花が咲く。いやはや今まで岩本隼さんの話など人としたことがなかった。

 しかしはらださんの方がずっと先を行くファンというか、海人で、自分でも岩本さんのように釣りや素潜りで魚を捕っているそうだ。こんど連れていっていただく約束をしつつ、『サッカーストーリーズ』の今後の展開なども話す。

3月18日(水)

 本屋大賞の取材かなにかで知り合ったNHKの記者の方は「いつか王さんの番組を作りたいんですよ、ほんとうに人格者で......」と話していたのを思い出し、『王貞治 背番号89のメッセージ』永谷修(小学館)を読む。ソフトバンクの選手が「王監督を胴上げしたい」と常々言っていた気持ちがわかる。私は王さんと一切関係がないが、胴上げしたい。

 横浜を営業。

 M書店のYさんと、とことん文芸書(小説)が売れない話。
 そりゃこれだけ文庫になるのが早くなれば買い控えもされるだろう。というか私だって、文庫化が異様に早い某社の単行本は買わないようにしているし。これは出版社が蒔いた種だから仕方ないといえば仕方ないのだが、文庫を持たない出版社まで巻き添えをくらうのはちょっと悔しい。ようは1500円とか2000円出しても欲しい本を作るしかないのだが、この不景気で1冊の本に1500円を払うのはかなりの勇気がいることだと思う。

 しかしかたやビジネス書や実用書などは1500円でも売れているわけで、その辺の疑問をYさんにぶつけると「すぐ役立つものにはお金を出すんじゃないですかね」と言われ、納得。

 もういっぽうではグーグルの書籍のデータ化なんて話もあがっていて、果たして私達出版社はいつまで「商品」を持ち続けられるのだろうか。

3月16日(月)

  • くう・ねる・のぐそ―自然に「愛」のお返しを
  • 『くう・ねる・のぐそ―自然に「愛」のお返しを』
    伊沢 正名
    山と溪谷社
    12,802円(税込)
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  • ウンココロ ~しあわせウンコ生活のススメ
  • 『ウンココロ ~しあわせウンコ生活のススメ』
    文平, 寄藤,紘一郎, 藤田,寄藤 文平,藤田 紘一郎
    実業之日本社
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「すべてのことは模倣から」と誰が言ったか言っていないのか知らないけれど、私はサッカーがうまくなりたいので、すべて模倣から入っている。

 例えば、十年前に草サッカーチームを作ったときはアルゼンチンの10番を背負いマラドーナを模倣し、その後はユニフォームを変える度に、ロナウジーニョになり、ルーニーになっている。スパイクは中田英寿モデルからカカモデルを経て現在はクリスチアーノ・ロナウドモデルを履いている。

 しかしなぜか試合が始まるって5分間は「10番マークね!」と叫ぶ敵DFが、時間の経過とともに「10番は大丈夫!」に変わるのであろうか?

 昨日あった試合では、3本の絶対決めなければいけないシュートを外し、まさに「10番は大丈夫」であった。せっかくフェルナンド・トーレスを真似て、ヘアバンドをしたのに、効果はなかったようだ。

 その外したシュートを何度も思い出しながら出社するとお遍路から帰ってきた宮田珠己さんから「今日なら時間がとれますよ」と連絡が入ったので、スットコランドへ打ち合わせに向かう。

 宮田さんは会うなり「あれ嘘でしょ」と指摘してきたのは3月8日の私の日記で、学生時代モテモテだった話だ。

 どうして嘘とバレたのだろうか。

 「嘘です」と素直に告白すると、うひゃひゃひゃと笑うタマキング。悔しい。

 ちなみに宮田さんはものすごい二枚目でそれはそれはモテたでしょうと話を聞くと、自分でもそう思っていて、女の子に告白したら3連続でフラれて女性不信になったとか。今度は私がうひゃひゃひゃと笑ってしまった。

 しかしお遍路に加え、JALの機内誌の連載もあり、旅作家は忙しそうである。本人は小説を書きたいそうなのだが......。

 旅作家といえば内澤旬子さんと斉藤政喜さんの共著『東京見便録』(文藝春秋)が、発売されている。こちらは名著(なのに現在品切れ!)『東方見便録』の続編の、トイレルポである。東方に較べたら東京なんてと思われるかもしれないが、東京のトイレもナメてはいけない。新旧それぞれであるし、SM専門ホテルや新宿想い出横丁など個性豊かなトイレはあり、また日本人(東京の人)がトイレ=排便排尿にどのような意識を持っているかがよくわかる、やはり傑作である。

 先日「杉江さん、ウンコ好きだよね!」と嬉しそうに声をかけてきたのは松戸のR書店のTさんであり、それはこの日記で年に1回はウンコネタがでるからだそうだが、ウンコ好き(?)の私は、ぜひこの『東京見便録』と『くう・ねる・のぐそ』伊沢正名(山と渓谷社)、『ウンココロ』寄藤文平(実業之日本社)を連続して読むことをおすすめします。

3月14日(土) 炎のサッカー日誌2009.01

 世間では3月14日をホワイト・デーというそうだが、チョコを貰わなかった私には当然そんなもんは関係なく、それどころか浦和レッズのホーム開幕戦であるから白ではなく赤、レッズ・デーなのであった。予定ではやんでいるはずの雨の降るなか自転車を飛ばし埼玉スタジアムへ。

 そこで起きたショーはレッズ・デーではなく、新生・浦和レッズのバースデーであった。
 まだ4バックの守り方、両サイドバックの運動量、縦へのボールの出し方など発展途上であることは間違いないが、それでもこの日浦和レッズが魅せたサッカーは、今までの浦和レッズとはまったく違う、ヨーロッパ・スタンダードなフットボールであった。私には一瞬浦和レッズが、プレミアリーグのアーセナルに見えた。

 サッカーチームを応援するというのは、もちろん勝利が第一の目的であるのだが、当然その次はサッカーの質が問題になる。勝ってもつまらないサッカーをすれば批判されることもあるし、負けても楽しいサッカーをすればオランダのように評価されることもある。得てしてそれはイコールにならないことが多いのだが、もしかするとこの浦和レッズは夢のようなチームになるような気がする。いや希望が持てるのだ。

 だからこそ3対1で勝利するとすぐ次の試合が見たくなった。こんな気分になるのはいつ以来だろうか。

 それよりもこの日の埼玉スタジアムで、もうひとつ大きな出来事があった。
 78分に交代出場した彼は、闘莉王からボールを貰うと絶妙なコントロールでパスをした。
 その瞬間、私の胸の真ん中、ハートな部分がドキンとした。その後、素晴らしい運動量で敵を追い時には奪取し、そして坪井のオーバラップからパスをもらうと、敵ディフェンダーに囲まれながら、その前に位置を確認していたポンテの絶妙なパスを送った。
 私のハートな部分は信じられないくらい激しく脈打ち出した。

 そうなのだ、恋をしてしまったのだ。
 相手は浦和レッズの背番号34番、山田直輝。山田は山田でも暢久ではないぞ。18歳の山田だ。彼の姿が今私がもっとも愛しているサッカー選手のひとり、セスク・ファブレガスを彷彿させた。

 早く彼が見たい。でも次はアウェーだ。妻よ、私と直輝の恋路を邪魔するな。

 

3月13日(金)

 出張明けで出社すると、「WEB本の雑誌」「たなぞう」「本屋大賞」のサイトのアドレスが変わっていてビックリした。聞いていた段取りとまったく違うので怒りの連絡を入れる。

 今回のアドレス変更は本の雑誌社とは一切関わりがなく、システム会社の内紛の結果であり、はっきりいってこちらも大迷惑である。ただし迷惑は私や「本の雑誌」以上に、利用者が被るわけで、システム会社に変わって私が謝ります。ごめんなさい。できることならブックマークやリンクを下記アドレスに変えてください。

「WEB本の雑誌」
http://www.webdoku.jp/

「本屋大賞」
http://www.hontai.or.jp/

「たなぞう」
http://review.webdoku.jp/

「炎の営業日誌」
http://www.webdoku.jp/column/sugie/

 って変わった先のアドレスで書いても仕方ないのかもしれませんが、以前のアドレスは廃棄されてしまったようなので、こうするしかできないのです。ごめんなさい、そして、よろしくお願いします。

3月12日(木)

 そのまま東京に帰るのももったいないので、新幹線を途中下車し大阪を営業。
 私はどうしてこうもマジメなんだろうか。このままだとマジメ過ぎて病気になるような気がするので、天啓を受けてサラリーマンを辞めた宮田珠己さんの爪の垢を煎じてもらおう。

 紀伊國屋書店梅田店、旭屋書店本店、ブックファースト梅田店、ジュンク堂天満橋店、ジュンク堂難波店、旭屋書店なんばCITY店、スタンダードブックストア、紀伊國屋書店本町店、ジュンク堂書店梅田ヒルトンプラゼ店、ジュンク堂書店大阪本店と廻るが、なんということだ!? ほとんどの書店さんで担当者さんが休みではないか。大阪の文芸担当者さんは、床屋さんみたいに一斉に木曜休みとかにしているのだろうか?

 しかも、フェアをやっていただいているブックファースト梅田店とジュンク堂天満橋店の担当者さんには、どうしても会ってお礼が言いたかったのだが、共に不在であった。大阪は昨年のガンバ大阪戦といい、どうも私の鬼門のようだ。

 そういえば妻の実家が大阪だった。

 しかし一番の要件であった「本の雑誌」で連載していただいている元「ミーツ」編集長にして、現140Bの編集責任者・江弘毅さんにはアポイントを取っておいたのでしっかりお会いできたのであった。

 江さんは新作『街場の大阪論』(バジリコ)の著者近影がうそじゃねーかと思うほど、男前でしかも身長も高く、同じ岸和田の中場さんと違ってスリムであった。中場さんと同じなのはめちゃくちゃオシャレなことで、シャツにジーンズ姿なのだが、危うく惚れそうになるほど格好良かった。

 そんな男前の口から出てくるのは、やはり中場さん同様、とんでもない話であり、ここには再現できない。ただあまりに面白いので気付いたら1時間があっという間に過ぎていて、私は新幹線の予約時間に間に合うよう、梅田の地下街を疾走することになったのである。やはり大阪は鬼門だ。

 もうひとつの鬼門は新幹線で、どうして私の隣はいつも靴を脱ぐおっさんなのであろうか。たとえ実際に臭わないとしても靴下姿のおっさんはそれだけで臭いのである。行きも帰りもそんなおっさんで、旅は道ずれどころの話でない。泣けてきたので、啓文社の地元本コーナーに並んでいた『放浪記』林芙美子(新潮文庫)を読む。

 娘と息子の顔が一刻でも早く見たかった。

3月11日(水)

 夜、児玉さんが手でアクセルとブレーキを操る車に乗って、宿泊するホテルに向かっていた。国道の脇には造船所の灯りを反射させた海があり、海には大きな船がいくつも停泊していた。

 昼に尾道に着き、それから啓文社各店を案内していただいた。
 啓文社は、私が「良いだろうな」と想像していた以上に、素晴らしい書店で、それは店頭だけでなく、レンタルやCDショップ、あるいはネットカフェ、リサイクル本などの複合書店として新しいかたちを追求しているのが見えたからだ。これはもしかするとナショナルチェーンにはできないことを啓文社がやろうとしているのではないか、と思ったりもした。

 人生のなかで、この瞬間はおそらく一生心に残るだろうと思うときがあるけれど、私はこの児玉さんと一緒に車に乗ってホテルに向かっている時間がそうであることを確信していた。私はこれから何度もこの日のことを思い出すだろう。

 素晴らしい一日が、今、終わろうとしていた。

3月10日(火)

 昨年末に椎名と浜本から社員一同呼び出され「本の雑誌」の今後についてどうしたいか意見を聞かれた。続けるには相当の我慢を強いられるとのことで、それぞれ生きる道を考え結論を出さなければならないわけだが、全員一致で継続の道を選んだ。

 その道がどこにつながっているのかわからないけれど、何もしないで「本の雑誌」をなくすわけにはいかないだろうし、私たちだって「本の雑誌」を愛しているのだ。

 というわけで、「俺たちは頑張るぞ!」の狼煙をあげるためのリニューアル会議が、それから何度も行われたわけだが、そのひとつの結果が、本日搬入の『本の雑誌』4月号になる。

 ただしこれはまだスタートラインであって、ここからどこまで「昔は面白かったんだけどね」と話す読者や新たな読者を増やすことができるか戦いが続くのだ。何年後かに「あのとき頑張って良かったね」と話せる日を迎えるために。


3月9日(月)

  • 6万人の熱狂(ビート)
  • 『6万人の熱狂(ビート)』
    山中 伊知郎
    ベストセラーズ
    1,540円(税込)
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 通勤読書は『6万人の熱狂』山中伊知郎(ベストセラーズ)。

『浦和レッズ敗戦記』小斎秀樹(文藝春秋)といい、負けても本が出る浦和レッズ。『6万人の熱狂』はサポーター目線でみた浦和レッズであり、なんだか読んでいると試合前で待機列で酒を飲んでいるときやアウェーに車で向かうときのような気分になる。我らと変わらん浦和レッズバカ話が続くのだ。しかしなによりも、いちばん最初に取材を受けているのが、娘の所属するサッカーチームの監督の奥さんでビックリした。まさにローカル。

 一昨日の試合を見て、今年一年、忍耐の年と位置づける。

 朝、会社に行くと、事務の浜田が「きょうはありがとうの日なんですよ」と騒いでいる。なるほど「3月9日で、サンキューの日なのね」と答えると、あっそうなんだぁ!とまた騒ぐ。彼女はいったい何でありがとうの日だと思っていたのだろうか。

 営業に出かけようかと思ったのだが、自分の予定を考えると今やっておかないとずっと後になりそうだと気づき、6月刊予定の『本の雑誌別冊 SFの雑誌』の企画を練る。こういうものは好き者が作らないといけないので私が叩き台を作り、あとはSF者の編集者・タッキーに任せる。頑張れ、タッキー!

 我が師匠のひとり、上大岡のY書店Mさんから電話があり、また飲みの誘いかと思いきや、なんと『尾道坂道書店事件簿』が気に入ったから、仕掛け販売したいという申し出と注文だった。明日重版があがるので、パネルとともに納品する手配。うれしいかぎり。

3月8日(日)

「本の雑誌」フェアの一環として行う編集長・椎名誠トーク&サイン会3本勝負!の1本目の戦いが銀座・教文館で行われた。(2本目は3月20日(金):オリオン書房ノルテ店、3本目は4月16日(木)ジュンク堂書店池袋本店で開催の予定)

 トークは教文館の方々の的確な仕切りと、もはや落語家のような独特な間(ま)で会場を笑わす椎名さんの力によって無事終了。続いてサイン会となるのだが、私は椎名さんの脇に立ち、ずらりと並んだお客さんから本と名前の書かれた紙を受け取り、椎名さんがサインしやすいよう補助する役目となる。まあ、慣れた役割なので別にいいのだ。

 何人目かの方が「一緒に写真を撮らせていただけますか?」と願いでて、椎名さんが了解したところから、サイン+写真撮影会の様相になだれ込む。そしてもちろんその隣に意味もなく(ほんとはあるんだけど)立っている私が、シャッター係になる。

 こちらも慣れているので「はい、撮りますよ〜、笑顔が素敵ですね〜、はいチーズ」なんてインチキ篠山紀信となり写真を撮るのであるが、いやはや、デジカメに携帯にと日常的にカメラを持ち歩いている人がここ数年でぐっと増えているから、何度もカメラを構え、シャッターを押す事になる。

 その被写体は椎名誠+読者であり、椎名誠は64歳の、言うなればおっさんである。悔しいではないか。私は現在37歳で、背は低いが毛はまだある。腹も出てなければ水虫でもない。親友シモザワが唱える中年4大苦のうちのひとつしかクリアしていないのである。それなのに、私は「はい、キムチ」なんて、写真を撮り続けなければならないのである。

 これでも中学校の卒業式の日は、女子生徒が家に列を作り、ボタンどころか、制服もジャージもカバンも、すべてなくなったのである。高校の卒業式は、学校にほとんど行っていないにも関わらず、下級生からラブレター入りの花束をたくさん貰い、写真撮らせてくださいといわれて、校門で何人もの女の子と並んで写真を撮ったのである。私のボタンや写真をいまだ大切に持っているであろう彼女たちが、今のこの私の姿を見たらきっと泣き崩れるであろう。いや私が「見ないでぇ」と泣き崩れるだろう。

 というわけで、写真を撮りながら、椎名誠と私を比較してみる。背は較べる必要もなく負けている。財力も負けているのは間違いない。ケンカだって、私が強いのは口喧嘩であって、腕力ではどうしたって柔道黒帯、ストリートファイト多数の椎名誠には、かなわないだろう。

 そういえば私も本を出しているのだ。作家としてはどうだと思ったが、実はこの会が始まる前に教文館の人が気を利かせて「本日は炎の営業・杉江さんもいらしているのでご希望の方はサインを申し出てください」なんて言ってくださったが、誰も私の前に本を持ってくる人はいなかったではないか。著書多数、作家生活30周年と処女作にして引退作の私とは、明らかに差がある。

 しかしなあ、例えばこれが女性だったらどうだ。いくら遺伝子的に負け組を引き継いでしまったとしても、64歳の女性と37歳の女性が並んでいたら多くの男が37歳の方に並ぶのではないか。そういう意味でいうと、男の勝負は年齢という絶対差が役立たないため、モテ・カーストに下克上がありえないということなのではないか。というわけで、私は「はい、チーズ」の人となり、約100人のサイン会&撮影会を終えるとヘトヘトになり、酒も飲むパワーもなくなり、家に帰った。

 家に着くと、そこに最後の砦である妻がいたので「俺と椎名さんと両方独身だったらどっちと結婚する?」と聞いてみたところ、妻は「椎名誠」と即答。たぶんその回答は、椎名誠以外でも同じ結果になったのではないかと思うが、完敗の夜。

3月6日(金)

 私は本屋大賞の集計で四苦八苦しているのに、書店さんではもう来年の本屋大賞の話題が出たりする。しかしこれだよね!と指差された『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)には、まったく異存がない。私にとっても今、現在2009年ベスト1の小説だ。

 生まれたとき上下の唇が癒着していた少年が、あるきっかけでチェスを覚え、のめり込んでいく。チェスは彼、リトル・アリョーヒンにとって全世界であり、そもそもチェスは世界の象徴なのである。大きくなることを恐れ、小さいまま生きていくリトル・アリョーヒン。

 ああ、まったくうまくストーリーを紹介できないが、これほどまでに美しい小説を私は知らない。そして小説に込められたメッセージの深さ。私は、これからの人生で何度もこの『猫を抱いて象と泳ぐ』を読み返すことだろう。

 問題はこんなに素晴らしい小説なのに「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで、いまだ取り上げられていないことだ。もしこれを取り上げないまま過ごしたらそれは書評誌の恥だと思う。誰も紹介しないなら私が編集後記を乗っ取って紹介しよう。

 営業の合間に新幹線を予約に行く。
 来週ついに尾道だ。

3月5日(木)

 青山ブックセンター本店を訪問し、青山通りを渋谷に向かって歩くと、右側に古本屋さんが並んでいる。何の気なしにワゴンを覗くと、もっとも敬愛する作家の一人、山口瞳さんの<男性自身>シリーズの単行本『禁酒時代』(新潮社)が並んでいた。

 私は山口瞳さんの著作を集めており、たいていのものはそろっているのだが、この<男性自身>シリーズの単行本はまだコンプリートしていない。問題は27点あるこのシリーズのどれを持っているのか把握していないことだ。いつもリストを作ろうと思うのだが、つい億劫がってこういう結果になる。

 値札を見ると500円であった。それが相場なのかわからないが、私のなかでは「買い」の値段である。ただしダブった場合はもったいない金額でもある。妻は家にいるはずなのだが、こんなことで電話するのも恐ろしい。でも、コンプリートに近づくためには妻の壁を越えなければならない。

「もしもし家? あっそう。じゃあさ、悪いんだけど俺の本棚を見て、右端の一番上の棚に山口瞳がいっぱい並んでいると思うんだけど......」

 妻は素直に本棚のある部屋に移動し、棚を見てくれているようだった。

「手前の文庫をどかすと奥に単行本が並んでいるんだけどそこに『禁酒時代』って本があるか見てくれない?」

 ゴソゴソと本を動かす音がした後、ないとの返事を受ける。

「あっ、良かった」

 そう言うと妻は突然大きな声で話出した。

「良かったってどういうことよ? 仕事で使うんだったら、なきゃ困るじゃない」

「違うんだよ。今、古本屋さんで見かけてね、俺このシリーズ集めていてどれを......」

 深く息を吸い込む音が聞こえたような気がした。

「あんた仕事しなさいよ!」

 私は「その通り!」と叫び、あわてて電話を切り、『禁酒時代』をレジに差し出した。

3月4日(水)

 こういうことをもう6年もやっているんだと感慨にふけったのは、6回目を迎えた本屋大賞の集計作業である。この日も仕事を終えた夜遅くに実行委員の面々が集まり、創設時と変わらず、誰かの差し入れのサンドイッチとウーロン茶を飲みながら、二次投票を確認していく。

 本屋大賞ノミネート作品史上最大のボリュームになった今回も、昨年とほぼ変わらないくらいの書店員さんが投票してきてくれた。すごいもんだなぁ...と他人事のように考えてしまうが、これから発表会まで約1ヶ月は、もう大変なのだ。

 腹が減ったのでイチゴサンドに手を伸ばすと、「杉江さん、私に半分ちょうだい!」と実行委員の高頭さんが言う。ふたつ入りのパックからひとつだけ取り、残りを高頭さんに渡す。高頭さんとの付き合いももう10年以上だ。いやそれは高頭さんだけでなく、他の実行委員の書店員さんともそれくらいの付き合いになる。

 短いようで長く、長いようで短かった6年目の本屋大賞ももうまもなく発表です。

3月3日(火)

 朝、娘が突然「今日は学習発表会だから来て」と言い出す。
 あわてて手帳をめくると、絶対今日でないといけない用事というのはなかったので、午前中だけ会社に顔を出し、メールなぞをチェックした後、早退する。

 学習発表会になっている5時間目の授業にどうにか間に合い教室に飛び込むと、すぐに一番目の発表者として娘が「朗読」を始めた。一年生の時はもじもじした小さな声しか出せなかったのだが、今では私のゴール裏なみの大きな声でうさぎさんの声を演じているではないか。

 娘の朗読が終わったので教室を出ようとしたら妻に袖を引っ張られ「他の子のも聞いていきなさい!」と怒られる。私は学校が嫌いで、なぜかわからないけれど学校にいると暴れたくなるのだ。つい消化器や火災報知器の場所を探してしまうが、教室には置かれていなかった。

 全員の発表が終わると「しょう来のゆめ」の発表となり、私の娘は「パン屋さんになる」なんて今まで一度も言ったことがないことを発言していた。後に聞くと「パン屋さんになりたくないけど、別になりたいもんもないからそう答えておいた」とのこと。そりゃそうだ、なりたいもんなんてないよな。

 我が娘の夢はどうでも良いのだが、クラスの男の子のうち、4人が「中村俊輔のようなサッカー選手になりたい」と言ったのはどういうことだ。「親よ出て来い!」と思わず怒鳴りそうになったが、「闘莉王のようになりたい」と2人の男の子が言ったのでぐっと我慢する。まあ、それも問題あるのだが......。

3月2日(月)

 昨日の日曜日は、午前中、娘のサッカーチームの中学生の部と試合をし、午後は自分のチームでフットサル。早く寝てしまった子どもたちを尻目に、夜は録画しておいたプレミア三昧。私は完全にサッカーにやられている。

 通勤音楽は「How to Dismantle an Atomic Bomb」から4年半ぶりの新譜となった、U2の「No Line on the Horizon 」。これがもう本なんて読んでいられないほどのカッコ良さで、私は埼京線のなかでボノになり、エッジになり、アダムになり、ラリーになりと忙しい。いやあ、いつまでも前進し続けるU2は凄い。

 立川のオリオン書房ノルテ店に追加分のフェア商品を直納。こちらでは3月20日に、椎名編集長と浜本発行人の公開対談があり、みなさま奮って申し込みください。

 その足でアレア店に伺う。そういえばこちらのHさんは、U2の大ファンで、思わず新譜の話で大盛り上がり。Hさんも休日にネットで視聴していたが、これは視聴している場合ではないと買いに走ったそうだ。しかし久しぶりの陽気に誘われたのか次から次へとお客さんがやってくる。迷惑にならないうちに退散。

2月27日(木)

 通勤読書は『トイレのポツポツ』原宏一(集英社)。食品メーカー「鴨之木製麺工業」を舞台に、大きくなっていく会社の軋みを、各部署の人間を通して描く連作短編集。もし書店の棚に「北上次郎」というジャンルがあったとしたら間違いなくその真ん中に差されるであろう作品だ。隣に並ぶのは山本幸久の『カイシャデイズ』(文藝春秋)で決まりか。

 いつの間にか「本の雑誌」の執筆者になっている中井の伊野尾書店・伊野尾さんを訪問するとレジに小社助っ人・鉄平が立っていてビックリ。いや私が派遣したのだから、いて不思議はないのだが、訪問時にいたのは初めてなので驚いたのだ。本の雑誌社では見せたことのない1500部くらいの笑顔で「いらっしゃいませ」と言っていた。まだまだ甘いな。

 伊野尾書店といえば私が年末にアルバイトをさせていただいた書店で、その日のことを「本の雑誌」でルポしようと原稿を書いていたのだが、時機を失い、没になってしまった。残念。

 そういえばとある書店員さんに教えられ、2冊の本の帯を見てビックリしたのだ。なぜなら片方には「2008年 フランス 本屋大賞 受賞作」とあり、片方には「フランスの「本屋大賞」受賞」とあったからだ。

 ちなみに2冊の本は、『ノーと私』デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン(NHK出版)と『優雅なハリネズミ』ミュリエル・バルベリ(早川書房)で、あわててそれらの本を開いて確かめてみると、『優雅なハリネズミ』の著者略歴に「Prix des libraires」受賞とあるから、おそらくこれを「本屋大賞」と意訳というか、超訳しているのだろう。しかしなぜかこの著者略歴では「書店員賞」と訳されていたりする。

 どちらにしても「Prix des libraires」が、たとえフランスの書店員の投票で決める賞であったとしても、それはどこまでいっても「Prix des libraires」であって、本屋大賞は、我々が何回も何回も議論して決めた、あのルールに乗っ取ってやっているものをさすのである。だから超訳されては困るんだけど、もしかして私が「春日部のマラドーナ」と呼ばれているのと一緒だろうか。

 『週刊文春』が昨年「R40本屋さん大賞」なんて特集もしたけれど、この先、日本では「本家・本屋大賞」とか「元祖・本屋大賞」とか「本屋大賞総本山」などと、どこぞの和菓子屋みたいになっていったりしたりして。いや、そういうことにならないよう「本屋大賞」は商標登録しているんだけど、みなさん類似品にお気をつけ下さい。

 そして本屋大賞の二次投票投票締切は明日だ。

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