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7月7日(火)

デンデラ
『デンデラ』
佐藤 友哉
新潮社
1,836円(税込)
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 あー、つい数日前『学問』山田詠美(新潮社)と『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)が今年ナンバー1小説なんて断言してしまったのだが、それらと肩を並べるほどすごい小説を発見し、本日も出社前にエクセルシオール・カフェの人となってしまった。

 その小説とは『デンデラ』佐藤友哉(新潮社)で、佐藤友哉といえばメフィスト賞でデビューし、2007年には三島賞を受賞しているから、北上次郎=目黒考二から小説の面白さを教わった私には関係ない作家だと考えていたのが大間違いだった。これは『コインロッカー・ベイビーズ』村上龍や『告白』町田康や『ミノタウロス』佐藤亜紀のようにジャンルなんて関係なく、人の心を鷲掴みにする「小説」であった。

 70歳になると『村』から『お山』に姥捨てされる世の中で、その『お山』から救出された老婆50人がこっそり『デンデラ』という集落を形成していた。そこで幸せに老後を暮らしているのかと思いきやある者は村への復讐に思いを馳せ、ある者は死ねなかったことを恨む。そんな『デンデラ』へ飢えにより冬眠することに失敗した巨大羆が襲ってくるのだが、その怖さは吉村昭の傑作『羆嵐』なみだ。ああ、こんな小説を手にして会社に行っていられるか......。


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「品切れになりそうになったら、在庫を机の下に隠すんだよ」

 とずーっと昔に教えてくれたのは、同業営業マンだったか、書店員さんだったか。ようは在庫がなくなりそうになったら、自分の担当している書店さん用に在庫を隠し持ち、いつもお世話になっているお礼じゃないが、迷惑がかからないようにするのが営業マンの腕の見せ所なのである。

 まあそうはいっても在庫数がデータ化され、なかなかそうもいかなくなっているようだが、そんなことはチビ出版社の本の雑誌社には関係ない。実は月曜日の朝の時点でこれは品切れになると予想し、私は200冊の『SF本の雑誌』を隠していたのであった。

 書店さんからの電話注文は面白い。通常の注文であれば、電話に出た人間にそのまま注文するのであるが、急ぎや在庫の心配があるときは担当の営業を呼び出す。というわけで本日は朝から私宛に電話があり、浜田にバレないよう小さな声で「大丈夫です。持って行きます」なんてやっていたのであった。

 そうこうしているうちに昼になり、幻の国・ソマリランドから帰国した、高野さんと打ち合わせ。笹塚駅前のドトールで3時間に渡って旅の話を伺えるのは、役得以外の何ものではない。幸せだ。

 そうして外へ出ると、会社から携帯にメールが届く。

「浜田です。秋葉原のS書店さんから『SF本の雑誌』の2回目の追加注文が届いたんですが、杉江さんの机の下にある奴から抜いて直納しました」

 バレバレではないか......というか、夕方会社に戻ったらその机の下も空っぽであった。
 よく考えてみたら、本の雑誌社で営業は私しかいなかったのである。

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