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7月22日(水)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)
『イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)』
絲山 秋子
文藝春秋
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ニート (角川文庫)
『ニート (角川文庫)』
絲山 秋子
角川グループパブリッシング
473円(税込)
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袋小路の男 (講談社文庫)
『袋小路の男 (講談社文庫)』
絲山 秋子
講談社
432円(税込)
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「本の雑誌」の新企画「図書カード3万円でお買いもの」の第3回目の収録のため、絲山秋子さんの住む高崎へ向かう。

 絲山さんは今私が一番好きな小説家の一人なので、訪問前夜は眠れず、また昨日のような失敗をしないよう浜本と待ち合わせの大宮駅で、中途半端な時間にも関わらず、たぬきそばを食べたのであった。これで安心である。

 絲山さんの作品はすべてダメ人間が出てくるのであるが、私は逆に完璧な人間などどこにもいないと思っているので、ダメ人間という言い方が実はあまり好きではない。好きではないけれどそれぞれ絶望の手前にいる登場人物を絲山さんは安易に癒したり、救ったりしない。しない代わりにじっとどこかで見つめていてくれるような気がする。

 そう絲山さんの小説を読むと私はいつも思い出す出来事がある。
 それは中学一年の夏休みのことで、私は毎日サッカーに明け暮れていた。といっても一年生はボールを触れず、しかも水も飲めない炎天下のなか、声出しと球拾いをしていただけなのだ。それでは当然物足りないので、夕方家に帰ると、私は自宅の前にある小学校の校庭に潜入し、1時間も2時間も一人でボールを蹴っていた。今、思い返しても不思議なのであるが、私はそのとき上手くなろうと思って、練習していたのではなかった。ただサッカーがしたかっただけなのだ。

 そうやって1ヶ月が過ぎ、夏休みの終りが近づいて来たときだった。その時には3年生が引退していたので、一年生もちょっとずつボールを蹴れるようになったのであるが、ある日シュート練習でシュートを打った後、自分のボールを貰って、列に並ぼうとすると、それまで一度も話しかけられたことのなかったマキノ先輩が声をかけてきたのだ。

「スギエ、上手くなったな」

 まず私は、マキノ先輩が私の名前を覚えていることに驚き、また上手くなったと誉めてくれたのことにさらに驚いた。いやマキノ先輩の言葉がなければ、私は自分が上手くなったことにも気付かなかったかもしれない。そしてその言葉があったからこそ、今も私はサッカーと続けているのだ。

 絲山さんの小説を読むといつもマキノ先輩を思い出す。

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 煥乎堂、紀伊國屋書店前橋店、ブックマンズアカデミー前橋店のどのお店も素晴らし書店さんだった。前橋なら住める。

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