8月26日(水)
「ぼく幼稚園やめる」
朝、昨日から始まった幼稚園に息子が行くのを拒む。
「お家でママとネネと遊んでいたほうがいい」
夏休みですっかり里心がついてしまったのであろう。
4月の入園以来、バスが来る20分前には家を出るような息子だっただけに驚いてしまったが、しかし登園拒否といえば、こちらは娘で散々苦労させられたのである。いくらでも手はあるのだ、と思っていたら、娘が大きな声で息子を叱責しだすではないか。
「幼稚園行かないなら、家、出て行きなさいよ! 北海道にそういう子が集まる町があるから、そこへ行きな」
それは私が娘を脅していた言葉であり、もうひとつ付け足すなら、私が登校拒否をしていたときに母親から言われていたセリフでもあった。思わず吹き出してしまいそうになったが、娘は私に向かってウィンクをした。
結局、息子はおねーちゃんの説得によりバスに乗っていったのであるが、親子の関係というのはおそらく基本的に、混乱、溺愛、無視、理解、反転となるだろうと考えている。娘は現在8歳で、いつ私は娘から無視される日が来るのだろう。来年かもしれない、来月かもしれない、明日かもしれない。私は毎日おびえている。
そのすべてを描いたのが山本幸久の新刊『床屋さんへちょっと』(集英社)である。
今回は山本幸久が得意とする仕事小説でありつつ、なんと父娘の家族小説にもなっているから、もう涙が止まらないどころの騒ぎでない。最後の章で、しゃくりあげるように泣いてしまったではないか。ハンカチを忘れた日には読んではいけない本だ。
主人公は、父親から受け継いだ製菓会社を潰してしまった、個性のない男。ただ個性のないのは私も一緒である。特に家に帰れば存在すら希薄で、ほとんど家族と口を聞かず、録画したサッカーを見ているか、本を読んでいるかだ。ときたま怪獣や王子様に変身し、子供の相手をするものの、もしある晩となりの家のおっさんがやってきたとしても、家族はそれを難なく受け入れると思う。
ところがしかし、そんな個性のない男も心のどこかで、せめて最小の単位である家族の間ぐらい、何かしら影響を残したいと思っている。だからつい人生訓めいたことを呟いてしまうのだが、実はそんな格好わるい言葉に一番笑っているのは自分だったりする。物語のヒーローのように生きることはできないのだ。
そんなほとんど多くの人が送るだろう人生に、もしそれほど劇的ではないけれど最良の幸せが訪れるとしたらどんなものだろう。その答えがこの『床屋さんへちょっと』に凝縮されていると思う。ハードボイルドが成立しなくなった世の中の、カッコイイ男というのは、意外とこういう男なのかも知れない。
★ ★ ★
営業に出たが、あまりの新刊の多さにほとんどの書店さんで声をかけられなかった。
「我らのウダケン」こと宇田川拓也氏が、「野生時代」連載時から大騒ぎしていた『ダブル・ジョーカー』柳広司(角川書店)もついに発売となる。
★ ★ ★
泣き虫の私は、夜一人で酒を飲みながら、ダイニングテーブルでまたもや泣いていた。
テーブルの上には8月23日付けの「北海道新聞」と「SPA!」9月1日号があり、前者には大竹聡さんの著者インタビューが、後者には『スットコランド日記』の書評が掲載されていたのである。
しかも両方ともものすごく愛のある文章で的確に作品や著者を紹介されており、うれし涙が止まらない。どうお礼を言っていいのかわからないが、岩本茂之様、卯月鮎様、ありがとうございました。「本の雑誌」も、本気の、気持ちのこもった原稿が載る雑誌であり続けようと思います。そして面白い本を作り続けます。
朝、昨日から始まった幼稚園に息子が行くのを拒む。
「お家でママとネネと遊んでいたほうがいい」
夏休みですっかり里心がついてしまったのであろう。
4月の入園以来、バスが来る20分前には家を出るような息子だっただけに驚いてしまったが、しかし登園拒否といえば、こちらは娘で散々苦労させられたのである。いくらでも手はあるのだ、と思っていたら、娘が大きな声で息子を叱責しだすではないか。
「幼稚園行かないなら、家、出て行きなさいよ! 北海道にそういう子が集まる町があるから、そこへ行きな」
それは私が娘を脅していた言葉であり、もうひとつ付け足すなら、私が登校拒否をしていたときに母親から言われていたセリフでもあった。思わず吹き出してしまいそうになったが、娘は私に向かってウィンクをした。
結局、息子はおねーちゃんの説得によりバスに乗っていったのであるが、親子の関係というのはおそらく基本的に、混乱、溺愛、無視、理解、反転となるだろうと考えている。娘は現在8歳で、いつ私は娘から無視される日が来るのだろう。来年かもしれない、来月かもしれない、明日かもしれない。私は毎日おびえている。
そのすべてを描いたのが山本幸久の新刊『床屋さんへちょっと』(集英社)である。
今回は山本幸久が得意とする仕事小説でありつつ、なんと父娘の家族小説にもなっているから、もう涙が止まらないどころの騒ぎでない。最後の章で、しゃくりあげるように泣いてしまったではないか。ハンカチを忘れた日には読んではいけない本だ。
主人公は、父親から受け継いだ製菓会社を潰してしまった、個性のない男。ただ個性のないのは私も一緒である。特に家に帰れば存在すら希薄で、ほとんど家族と口を聞かず、録画したサッカーを見ているか、本を読んでいるかだ。ときたま怪獣や王子様に変身し、子供の相手をするものの、もしある晩となりの家のおっさんがやってきたとしても、家族はそれを難なく受け入れると思う。
ところがしかし、そんな個性のない男も心のどこかで、せめて最小の単位である家族の間ぐらい、何かしら影響を残したいと思っている。だからつい人生訓めいたことを呟いてしまうのだが、実はそんな格好わるい言葉に一番笑っているのは自分だったりする。物語のヒーローのように生きることはできないのだ。
そんなほとんど多くの人が送るだろう人生に、もしそれほど劇的ではないけれど最良の幸せが訪れるとしたらどんなものだろう。その答えがこの『床屋さんへちょっと』に凝縮されていると思う。ハードボイルドが成立しなくなった世の中の、カッコイイ男というのは、意外とこういう男なのかも知れない。
★ ★ ★
営業に出たが、あまりの新刊の多さにほとんどの書店さんで声をかけられなかった。
「我らのウダケン」こと宇田川拓也氏が、「野生時代」連載時から大騒ぎしていた『ダブル・ジョーカー』柳広司(角川書店)もついに発売となる。
★ ★ ★
泣き虫の私は、夜一人で酒を飲みながら、ダイニングテーブルでまたもや泣いていた。
テーブルの上には8月23日付けの「北海道新聞」と「SPA!」9月1日号があり、前者には大竹聡さんの著者インタビューが、後者には『スットコランド日記』の書評が掲載されていたのである。
しかも両方ともものすごく愛のある文章で的確に作品や著者を紹介されており、うれし涙が止まらない。どうお礼を言っていいのかわからないが、岩本茂之様、卯月鮎様、ありがとうございました。「本の雑誌」も、本気の、気持ちのこもった原稿が載る雑誌であり続けようと思います。そして面白い本を作り続けます。