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9月4日(金)

水神(上)
『水神(上)』
帚木 蓬生
新潮社
1,620円(税込)
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水神(下)
『水神(下)』
帚木 蓬生
新潮社
1,620円(税込)
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『水神』上下 帚木蓬生(新潮社)は上巻だけでも一編のお百姓さん小説として楽しめたのであるが、下巻に突入すると堰つくりが始まり、ものづくり小説となって感動の大団円。素晴らしい。あまりの興奮に寝られなくなり、冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、乾杯。

 時は1600年代、筑後川が流れるとある地域は、毎年のように苦しんでいた。なぜなら水がないのである。そこに川が流れているにも関わらず、水の便が悪くほとんど田に流れてこない。例え米が出来ても、他の所ではクズのように扱われる米しかできなかった。水の来ない田では、打桶といって人間が川から桶で水を汲み、田に流していた。それは信じれないほど根気のいる仕事であった。

 水の来ない地の5人の庄屋が立ち上がり、筑後川に堰を作って水を流すことを考える。この小説は、まさにその戦いを描いた小説なのであるが、それと同時に当時の暮らしを百姓の目線から描いた小説でもある。読書友達のFさんは「長いかも」と言っていたが、私のようにその時代の暮らしに興味がある人間は、その詳細に描かれる部分が楽しいのであった。

 今や人間はメールを打ったり、パソコンをポチポチするくらいしか出来ない生き物になってしまったが、かつてはこんなすごいことをやり通せたのである。そしてこの小説を読むと一粒一粒の米が大切に思えてくる。ああ、堰を見に行きたい。

★   ★   ★

 本の広告や帯で書店員の名前が出ない日はないという感じなのであるが、書店の現場は悪化する一方なのではなかろうか。売上減のなか唯一削れる経費である人件費縮小のため、どこの書店さんも売場から人が減っていく。新規出店数や閉店数、坪数などの統計は発表になるけれど、そこで働く人の人数というのはどこか調査していないのだろうか。私の感覚でいうと十年前の半分くらいになっている印象を受ける。しかも「社員」として雇用されている人は一握りなのではないか。

 あるベテラン書店員さん(社員)は、部下(契約社員)が新聞を読んでいないことを散々嘆いた後、「でもさ彼らの給料を考えたら、月3000円とか4000円も新聞に出せないよね」と諦め顔であった。

 本を読むにもお金や時間がかかる。文芸書はプルーフやゲラが出回るようになったから良いかもしれないが、それだって一部の書店員さんに限られたことであるし、読む時間もないというのが現状かもしれない。いや、くたくたの身体で、眠い目をこすり、他にすることを我慢してプルーフやゲラを読んでくれているのだ。そのことを出版社の人間は忘れてはいけないと思う。

 草臥れ果てた書店員さんの姿を見ながら、どうしたらこの状況が変わっていくのだろうかと考える。まあ、自分も草臥れているのだが......。

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