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9月7日(月)

狂乱西葛西日記20世紀remix
『狂乱西葛西日記20世紀remix』
大森 望
本の雑誌社
2,592円(税込)
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 朝、妻が突然「何か本ない?」と尋ねてきた。
 自慢にもならないが、私の妻はまったく本を読まない。図書館通いが癖になっている娘から「ママも少しは本を読みなさいよ」と叱られるほど読まない。その妻が、突然本を読みたいと言い出したので驚いたのであるが、理由を伺うと本日、蓄膿症のCT撮影があるため、その撮影の結果が出るまでの1時間半の暇つぶしに欲しいと仰るのであった。

 むむむ。これは千載一遇のチャンスなのではないか。本を利用して、私という人間を分かっていただき、今後の待遇の変化を生み出していただくことも可能なのではないでしょうかって、どうして私は妻とのことになると敬語になってしまうんだろうか。

「ちょっと待て」と心の中で言いつつ、本当は「しばしお待ちください」と言って、私はいつも妻からどうにかしろと言われている本棚の前でしばし考える。

 ここはひとつ私が作った本を渡し、私の偉大さを理解してもらうのはどうか。うちの旦那はこんな立派な作家先生に愛されているということは立派な人間なのではないかという錯覚作戦である。

 そこで『スットコランド日記』と『辺境の旅はゾウにかぎる』を抜き取るが、いやいや常識人の妻に、かたや旅がしたくて会社をやめいまは外出ばかりしている人と国境も関係なく辺境を旅している人の本を渡したら、私たち家族はこんな人のために旦那が遅くまで帰らず、私が子供の世話を押し付けられているのか、そんな仕事は早く辞めろと言われかねない。

 何より『スットコランド日記』には、私が本を出したことが書かれているので、必死に隠し通した一年が水の泡になってしまう。ならば誰もが涙する『尾道坂道書店事件簿』をと思ったが、これから病院に行って検査する人に渡すべき本なのかしばし悩む。

 うう、どうしたら良いんだ。ここで本の1冊も献上できないようでは、私の仕事以前に「本の雑誌」をバカにされてしまう。ここは素直に『くまちゃん』角田光代とか渡せばいいのだろうか。しかしこちらは失恋小説であるから、何かメッセージがあるのではなかろうかと勘ぐられそうで怖い。やはり手堅く椎名誠編集長の『わしらは怪しい雑魚釣り隊』や『すすれ! 麺の甲子園』がいいのかもしれない、そう思って本を抜き出したところに妻が降りてくる。

「やっぱいいや、生協のカタログ持っていくから」

「ああ、そうかい」と心の中で呟く。

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 お弁当箱のような新刊『狂乱西葛西日記20世紀remix』大森望著が搬入。表紙は大人しいが、中味は「噂の真相」である。

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