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10月27日(火)

  • 図説古代仕事大全
  • 『図説古代仕事大全』
    ヴィッキー・レオン,本村凌二日本語版監修,本村凌二日本語版監修
    原書房
    4,180円(税込)
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 朝、埼京線のホームからくっきりと富士山の姿が見えた。あまりの美しさに息を飲む。ランニングの次は山が待っているような気がする。

 思う存分働けるので、そそっと営業に出る。銀座。
 相変わらず教文館さんの階段上がって正面のフェアが素晴らしい。文庫約200点ほどが並んだ「食読」フェア。こんな本が出ていたんだと思わず営業を忘れて買いそうに。いやもっと欲しくなったのは棚にささっていた『図説 古代仕事大全』ヴィッキー・レオン(原書房)。注文より買った本が多くてどうする。

 夕方、丸善丸の内本店さんを訪問し、書店内書店として松岡正剛さんがプロデュースした松丸本舗を拝見。凸凹の什器(棚)や棚の並べ方は出版業界人必見の価値あり。おそらくこれから書店の取材はこの棚の前でされることが相当増えると思われる。

 また並んでいる本はいわゆる往来堂書店さんのいう文脈棚であり、さすが松岡正剛さんなのであるが、書店というよりは人の本棚を覗いているような感じである。

 外に出ると、ちょうど日が沈むところで、その空のコントラストの美しさと、丸の内ビル街の姿がまるで異世界のような景色になっていた。しばらく佇んで、その様を堪能した。

10月26日(月)

 冷たい雨が降る中、妻は無事退院した。

 日頃、アウェーの試合に行けないとか本が買えんとか妻がいる不自由さを嘆いていたのだが、こうやって8日間妻がいない生活をしてみると、思うようにランニングできなかったり、子どもの世話でプレミアリーグを観られなかったりと謳歌していた自由さに気付かされる。夫婦生活というのは4の字固めなのではなかろうか。ひっくり返されると技をかけた方が痛くなるあの4の字固め。家庭というリングのなかでゴロゴロ転がっているのだ。

 そして、こんなときこそ西村賢太である。最後の無頼派にして破滅型作家の描く同棲私小説『瘡瘢旅行』(講談社)が素晴らしかった。身勝手で嫉妬心の強い僕が、パートで働く女と暮らしているのだが、帯にあるとおり「こういう風にしか生きていけない」暮らしをしている。暴力や喧嘩が絶えないのであるが、もうここまで来ると笑いであろう。各所で吹き出してしまう。

10月25日(日) 炎のサッカー日誌

 私の家は、浦和レッズの二つのホームスタジアムのほぼ中間にある。
 ほぼというのは、駒場スタジアムには自転車で10分、埼玉スタジアムには自転車で20分の違いがあるからなのだが、今までこの10分の差を感じることはなかった。

 が、この日ダービー大宮アルディージャに3対0で負けて帰るとき、この10分が違いが身にこたえた。昔はいつもこうやってうらぶれた気持ちで駒場スタジアムから帰ったものだが、まさかまたそういう時代が来るとは思わなかった。笛も吹かず、選手も踊らず。早く家に帰りたい。つらい、つらすぎる。

10月23日(金)

 明日は休みだ。
 シングルファザーの一週間がやっと終わる。娘も息子も学校や幼稚園がない。ということは前夜、何度もカバンのなかをチェックしないで済むというわけだ。良かった。良かったけれど、妻からは音信不通だ。イギリス・プレミアリーグ仕込みの私のウィットある会話は伝わらなかったようだ。明日は子どもを連れて面会にいこう。

★    ★    ★

 先日、横丁カフェでもお世話になっていた名古屋の精文館書店中島新町店久田かおりさんが上京されたので、都内の書店さんをいくつか一緒に訪問した。

 久田さんは大変恐縮していたのだが、私の気分は自分の知っているおいしいラーメン屋やとんかつ屋と、あるいは馴染みの飲み屋に友達を連れていくような感じであった。ただ「おいしい」というのは分かりやすいのであるが、本屋さんの場合、なかなか一般の人にはその良さが伝わりにくい。だからこうやって同業であり、プロである書店員さんを自分の好きな書店さんに連れていくのは、とっても楽しい時間なのである。それと営業マンとはまったく違う視点で書店を観察するので、そこも楽しみなのであった。

 まず行った先は、今や往来堂とともに街の本屋を代表する書店である茗荷谷のブックスアイさんである。私が一緒に入るとお邪魔になりそうなので、久田さん一人で入店してもらったのであるが、実は20坪程度の書店さんでありながら、久田さんの滞在時間はその後に廻った書店さんのなかで一番長かった。お店から出てきたときのビックリしたような表情が忘れられない。

 その後は、こういう場合必ず連れて行くお茶の水の丸善さんである。こちらは行き届いた売場の管理にそれぞれ担当者の個性が宿るお店で、ブックスアイさんが「本屋」の代表なら、丸善お茶の水店は「書店」の代表だろう。久田さんも店内に入るやいなや「キレイですねえ」とつぶやき、その後は有名な文庫のPOPや狭い中での人文書の品揃えなどを食い入るように見つめていた。

 もし時間が許されるなら都内の面白い書店さんや川崎や吉祥寺、そして我らが酒飲み書店員のいる千葉の書店さんも廻りたかったのだが、許す時間は残り30分。

 明大前の坂を下って、神保町へ向かう。三省堂さん、東京堂さん、書泉さんと案内し、この日の書店巡りは終わった。

 次は私が久田さんのお店を訪問する番だ。

10月22日(木)

 朝、妻からメールが届く。
「鼻にガーゼを詰められているから口でしか呼吸ができず、それだと酸素不足になるらしく、頭痛がひどい」

 私はそれに「平地で高山病が体験できるなんてすごいじゃん!」と返信したのだが、次から届くメールには絵文字がなくなっていた。

 夕方、改めて妻からメールが届く。
「鼻に詰めているガーゼを明日抜くんだって。相当痛いらしい。怖いなあ」

 私の返信は「ガーゼを抜かれるとき村上ショージみたいに『ドゥー』と言うように」であったのだが、その後、妻から連絡は途絶えた。

★   ★   ★

 午前中高野秀行さんと11月発売の『放っておいても明日は来る』の帯コピーを練る。昼に中井へ移動し、伊野尾書店伊野尾さんと食事をしながら雑談。

「杉江さん、iPhone買ってみるといいですよ。本を読まなくなりますから」

 ケータイの次は、iPhoneか。世の中読書の敵だらけだ。

 その後、池袋へ移動し、ジェフサポーターのジュンク堂の田口さんとサッカーの話。

「急に良い監督が来て強くなったりするとその後が大変なのよ。うちもそうだし、大分だって。これって小さな出版社がベストセラーを出して倒産しちゃうベストセラー倒産と一緒よね、本の雑誌もあれよ、ベストセラーなんか出さないんでいいんだからね」

 人生に必要な智恵はすべてサッカー場で学んだ。

10月21日(水)

  • 帰ってきちゃった発作的座談会
  • 『帰ってきちゃった発作的座談会』
    椎名 誠,沢野 ひとし,木村 晋介,目黒 考二
    本の雑誌社
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    honto
 私の労働基準法は朝9時から夜8時までの11時間労働を基準にしているのだが、シングルファザーの現在、朝起きた瞬間から家事という労働が始まり、しかも面会やら風呂入れやらで残業が出来ないため、本来の仕事はもちろん、サッカーも見られず、苦しい日々だ。どうにか時間を作って5キロのランニングをするのが精一杯。

 しかもこういう慌ただしい気分のときは、小説がまったく読めない。人の人生なんてどうでもいい気分なのである。そこで本日の通勤読書は、対談集『倶楽部亀坪』亀和田武×坪内祐三(扶桑社)。

 新宿や吉祥寺などを歩きながら、そこから思い出す様々なことを二人で話すのであるが、ほんとうにこの二人の知識はどこまで広がっているんだろうとビックリする。私などはこのなかで語られている99%のことを知らないと思うのだが、それでも面白いと思えるのが二人の芸であろう。対談というのはどうもいわゆる書き物より下に見られる風潮があるが、私は対談本が好きだ。

 というわけで日本一不毛な対談集『帰ってきちゃった発作的座談会』が本日搬入となりました。

10月20日(火)

 朝イチで妻は蓄膿症の手術に立ち向かうわけだが、私はその頃、息子の弁当づくりに追われていた。人様に弁当を作るのは初めてなので、何かしら工夫がしたい。弁当といえば海苔で絵を書いたりするよなとはさみでチョキチョキ。両津勘吉弁当の出来上がり。

 無事ふたりの子どもを送り出し、会社へ急ぐ。

 いつものように営業していたのだが、突然、朝日新聞出版社のPR誌『一冊の本』で内澤旬子さんが書かれている「身体のいいなり」を思い出す。この連載は身体の弱かった内澤さんが、病気遍歴を綴っているのだが、そのなかで確か乳がんを患ったときに、今まで何もしてくれなかった旦那さんを思い出すのだ。

 その文章を読んだとき私はビカーンと雷に打たれた気がしたのである。なぜなら私がその一節を読むまで頑に信じていた「女のポイントは貯蓄性じゃない理論」は良い面に関してだけで、恨みや悪い面は一生覚えているものなのだと気付いたからである。そして何らかの拍子にすべて思い出すのであるという、まさに「怒り貯蓄式確率変動理論」である。いい面はすべて水に流され、悪い面だけ覚えているなぞ、恐ろしすぎるではないか。

 というわけで恐らく手術後で不安いっぱいであろう妻の病院へ慌てて駆けつけたのであるが、時すでに遅し。

10月19日(月)

 本日より妻が入院するため、私はシングルファザーとなる。
 妻の病状は蓄膿症の手術のため生命の危機はないと思われるが、私と私に育てられる子どもはかなり生命の危機に接することになるだろう。

 一日の家事というものがどれぐらいの時間で終わるのか見当がつかない。

 もしかしたら一日以上時間がかかるのではないかと心配になり、今日の分と明日の分と明後日の分の洗濯を今朝しておいた。また料理もどれぐらい時間がかかるのかわからないので、今日の分と明日の分と明後日の分を今晩作っておこうと思う。

10月16日(金)

 取締役営業本部長の沢野ひとしさんから営業の会議をするぞと招集される。

「地方の書店さんを大事にしなさい」
「はい」
「どんどん出張しなさい」
「はい」
「絵本専門店とか雑貨屋さんとか本が売れそうなところにはどんどん営業に行きなさい」
「はい」
「村上春樹を拉致してきなさい」
「はい?」
「新作を本の雑誌社で出すまで、このビルに閉じ込めておきなさい」
「は、はい」
「それからのりぴーの旦那の高相祐一の読書日記を『本の雑誌』で連載しなさい」
「は......」
「女は選んじゃいけない」
「はい」
「人生はやったことではなくやらなかったことが大切だ」

10月15日(木)

  • 殺人者たちの午後
  • 『殺人者たちの午後』
    トニー・パーカー,沢木 耕太郎
    飛鳥新社
    1,870円(税込)
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『帰ってきちゃった発作的座談会』の見本を持って、取次店を廻る。

 新刊抑制のためか、取次店の仕入れ窓口には受付点数が表示されていたりするのだが、「20日280点」とあった。これでももちろん多いのであるが、少し前までもっと多かったような気がする。これだけ出版社が潰れているのだから、自然減しているのか。

 4件の取次店を廻った後、新宿のジュンク堂さんへフェアリストを持っていく。

 そこで『はじめての神保町』飛鳥新社編集部編(飛鳥新社)という本を発見する。
 そうか語り尽くされたように思えていた神保町もこのような視点とデザインで編集し直す方法があったのかと驚く。神保町の名物であるカレーを食べるためのスプーン型のしおりが挟まっていたり、奥付はシール風に印刷されていたり、装丁にはビニールカバーがかかっていて素晴らしい。丁寧に本をつくるということの大切さを教えてくれる1冊でもある。

 書店員さんに話を聞くと「売れていますよ」とのこと。ついでに、飛鳥新社といえばと教えていただいたのは『殺人者たちの午後』という翻訳ノンフィクションなのであるが、なんと訳者は沢木耕太郎さんだった。

 夜は、本屋大賞の会議。いよいよ始まるのである。

10月14日(水)

  • 帰ってきちゃった発作的座談会
  • 『帰ってきちゃった発作的座談会』
    椎名 誠,沢野 ひとし,木村 晋介,目黒 考二
    本の雑誌社
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    honto
 スットコランドへ宮田珠己さんに会いにいく。
 「本の雑誌」で使用する資料を借りる。

 確か昨年の今頃、途中まで書いている小説がぜんぜん進まないという話になり、土日は抜いて一日7枚ノルマにすれば年末までに書き上げられるではないか、またもうひとつ暗礁の乗り上げているユーラシア大陸横断紀行もその勢いで一気に書き上げてしまいましょう。そうすれば2009年は『スットコランド日記』に、初小説に、旅ものと3冊の単行本が出せタマキングの年になりますよ! とたいそう士気が上がった記憶があるのだが、上がったのは息だったようだ。

 どちらもあのときからびた一文、いやびた一枚、進んでいないみたいだ。

 夜、10月の新刊『帰ってきちゃった発作的座談会』の事前注文〆作業。
 こんなとんでもない題名が付いたのは、私が仮題として営業チラシに「帰ってきた発作的座談会」と適当に入れておいたのを椎名編集長が見て、「『帰ってきちゃった』がいいなあ」と呟いたからである。上品な発行人・浜本茂は「ほんとにいいの?」といまだしつこく聞いてくるのであるが、社員一同「発作的座談会」らしくでいいではないかと、もうすでに印刷製本され見本が届いているのに話し合っているのである。

 椎名編集長はあとがきで「このシリーズは自分がかかわりあった本の中でも最高のものだったと自負している」と書いているが、私も本の雑誌社の単行本で一番好きなシリーズである。こんなバカバカしくて腹の底から笑える本はそうそうない。

10月13日(火)

 我が浦和レッズは、天皇杯2回戦で松本山雅FCに敗北を期す。

 松本山雅はアジア・チャンピオンズ・リーグに出場している中国のチームで......というのはまったくの嘘で、北信越リーグ1部に所属しているチームである。地域リーグに関しては『股旅フットボール』宇都宮徹壱著(東邦出版)に詳しいが、おそらく、たぶん、私の記憶に間違えがなければ、浦和レッズが所属するJ1リーグより、3つ下の半分はアマチュアのリーグだと思うのだが、もはや私の記憶は16年前に飛んでいるので定かではない。天皇杯で、地域リーグのチームにJ1のチームが負けたのは史上初という言葉が私のうつろな頭を彷徨っているが、それもよくわからない。とにかく来年の元日に、私が国立競技場にいないということが、10月11日に確定したということだけ理解している。

 その翌日の月曜日、春日部の実家に行く用事があったのだが、晴れ渡る空を見て、私は唐突に走って帰ろうと思ったのであった。

 ちなみに私が住む浦和から春日部まで15キロあり、この一年間ランニングを続けている私にとってその距離は未知の世界であった。ただ最近私はランニングの怖さというものに気づき出したのであるが、私は平日5キロ、休日10キロほど走っており、これを続けていると例え10キロ走っても達成感や疲労感などほとんど感じなくなってしまうのである。

 ランニングを始めた頃は3キロ走っただけで息が上がり、心臓の鼓動は耳元で聞こえるほど大きかったのであるが、今では10キロ走っても汗をかくくらいで、そのままサッカーの試合をしても問題がなさそうである。それはそれで体力や筋力が付いたから良いのかもしれないが、運動をしたからにはそれなりの苦労を味わいたい。ヒーヒーハァハァ言いたいのである。

 おそらくマラソン大会に出場している人は、ここから飛躍するのだと思う。いったいどれくらい走れるのだろうか? あるいはどれくらいの早さで走ることができのか? そう思って各地域の大会にエントリーしているのであろうし、一度そうやってタイムが計測されたら、おそらく一生そのタイムと戦うことになるのだろう。

 危なかった。
 実は私も先日「さいたまシティマラソン」にエントリーしそうになったのである。ただ、その我らが聖地・駒場スタジアムをスタートし、大宮方面へ走る20キロという距離を私は走ったことがなかったのだ。10キロまでは走れる自信があるが、それ以上については皆目検討がつかない。コース途中に相棒とおるの家があるので、つらくなったら風呂にでもいれてもらう方法もあるかもしれないが、それにしたって不安である。

 いや、そもそも私は一人になりたくてランニングを始めたのに、集団になって走ってどうするというのだ。しかも私は死ぬほどの負けず嫌いで、一度でもタイムを計ったら、それをクリアするために何でもするだろう。

 というわけで、私はエントリーを諦めたのであるが、しかし心のなかに「私は何キロ走れるのだろう?」という想いがわいたまま消えないのだ。その挑戦が今日なのである。

「1時間経ったらスタートしてくれ」と車で実家に向かう妻には言い残し、いつも車でひた走る道を走り出す。

 30分経っても軽快で、1時間が過ぎてもどこも痛くない。しばらくすると「パパ、すげー」という声が聞こえ、娘が助手席から大きく手を振って、過ぎ去っていった。その頃から私にとって未知の距離、未知の時間に突入し、少しだけ息が上がり出したのだが、もう実家はすぐそこであった。

 その瞬間であった。私はランニングでこのような感情がわき起こるとは想像もしなかったのであるが、サッカーの試合でゴールを決めたような、あるいは直球で4番打者から三振をとったときのような、爆発的な歓喜が、心の底からわき起こってきたのである。実家の玄関をあけると、私はマラドーナのように絶唱したのであった。

 次の瞬間、私が思ったのは「ヤバい」であった。
 なぜならこんな感情を一度でも味わってしまったら、ランニングがやめられなくなってしまうではないか。


 ★    ★    ★

 思わず長くなってしまいましたが、本日は、そんなことよりも『本の雑誌』11月号が搬入となりました。特集は昭和の文学が面白い!です。高野秀行さんの「名前変更物語(中)」と永江朗さんのルポ「『1Q84』24時」も必読です。

10月9日(金)

 通勤読書は、『時は過ぎゆく』田山花袋(岩波文庫)。

 古今東西、人がどのように暮らしてきたか?ということに私は大変興味があり、そういう意味でいうとこの『時は過ぎゆく』は明治維新前後に、田舎から主人に従って東京に出てきた良太という人間の一生を描いたものであり、当時の人間がどのように生きてきたか手に取るようにわかり、大変面白い一冊だった。

 どんな時代も親は子を想い、しかし子は想うように育たず、家族は嫁や姑と悶着を起こし、また銀行の破産などで金を失い、人生に不安を感じながら生きているのだ。せつない。

 紀伊國屋書店新宿本店を訪問すると、2階の雑誌売場と文庫売場の間の棚で、河出書房新社の「文藝別冊」バックナンバーフェアが開催されていたのだが、その関連図書も一緒に並べられており、小冊子も配布されている素敵なフェアだった。

 が、その関連図書のなかに1冊、まだ「文藝」で取り上げられていない作家・作品が混じっていてそれはいつか取り上げて欲しいという願いからなのだそうだが、その1冊がどれなのかわからず、ついじーっと見つめてしまう。いろんな意味で面白い試みだが、結局待ち合わせの時間が来てもわからずじまい。残念。

 昼飯を私がもっとも尊敬する営業マンC社のAさんと食べる。
 Aさんはもう還暦を過ぎているのだが、日夜書店廻りを続けており、しかも一切威張ることもなく、淡々と営業活動をしているのだ。

 たいていの出版社は出世すればデスクワークや人材育成が主な仕事になるだろうが、Aさんは40年以上に渡って、書店の現場を歩き続けている。「すごいですね」と言えば、きっとAさんは「出世しなかっただけなのよ」と笑うだろうが、そんなことはないであろう。そういう辞令が降りたら断ること間違いなしの人なのだ。まさに私の目標の人である。

 昼食後は、小田急線に乗って成城学園を営業。店長のUさんを訪問すると、3連休で雑誌が大変なことになっているんですよ、とまさしく雑誌の山から声が聞こえてくる。

 夜は、鮎川哲也賞受賞パーティー。
 『午前零時のサンドリヨン』相沢沙呼さんが、受賞スピーチの代わりに手品を披露したのには、驚いた。本屋大賞でも誰か何かやってくれないか。

10月8日(木)

 私はとっても会社に行きたいのであるが、JRの力によって押しとどめられる。

 私が乗る武蔵野線、京浜東北線、埼京線すべて台風の影響で、運転見合わせ。しかも再開のメドもたたないという。空は晴天なのであるが......。

 ああ、会社に行って猛烈に仕事がしたいのであるが、ここはぐっと我慢して一旦お家に帰ろう。お家に帰って、臨時休園で休んでいる息子と久しぶりに遊ぼう。

★   ★   ★

 というわけで私が会社に着いたのは、2時過ぎであった。
 そこまでして会社に来たのが偉いか、あるいはこの時間まで来られなかったのはダメダメか、評価の分かれるところである。どちらにしてもすべてJRのせいである。

 しかも風邪をひいており、鼻がぐじゅぐじゅして頭がぼーっとするのである。家族の人生を考えると私の身体はとても大事なため、早く帰ったほうがいいだろう。実働時間4時間。

10月7日(水)

  • 晴れた日は巨大仏を見に (幻冬舎文庫)
  • 『晴れた日は巨大仏を見に (幻冬舎文庫)』
    宮田 珠己
    幻冬舎
    713円(税込)
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    honto
 通勤読書は、話題の『ヘヴン』川上未映子(講談社)。
 斜視でいじめられている男の子と汚いといじめられている女の子が文通などの交流のすえ、自分たちの存在を確認していく。人が集まったところに生まれる社会というものをあらわにした小説だ。ただ、帯にあるような「驚愕と衝撃! 圧倒的感動!」あるいは「涙がとめどなく流れる──」のような作品とは思えなかった。読んでいる間、ずっと胸に手をあてたくなるような作品だった。

 台風直撃前日。中央線を営業。

 とある書店さんで「今日は人がいなくて。すいません、もし何かあったら手短にお願いできますか」と顔を合わすとすぐに言われた。こういう申し出は実は営業マンにはありがたい。気付かずにダラダラ話して迷惑をかけずに済むし、大切な話がアポを取った上で訪問すればいいのである。

 吉祥寺のブックス・ルーエさんを訪問すると2階の文庫売場の一角で『スットコランド日記』が手書き看板とともに展開されていた。担当のHさんにお礼の言葉をかけようと思ったら、残念ながらお休みだった。ちなみに宮田珠己さんがウルトラマンより大きい大仏を見て歩いた『晴れた日は巨大物を見に』が幻冬舎文庫になった。

10月6日(火)

  • ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)
  • 『ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)』
    宮田 珠己
    幻冬舎
    586円(税込)
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 雨。娘の運動会はまたも延期。よって朝から弁当を食わされる。

 京王線を営業すると、啓文堂書店さんで「第3回おすすめ文庫大賞最終候補作フェア」が行われており、そこになんと『ときどき意味もなくずんずん』(幻冬舎文庫)が並んでいるではないか。

 この啓文堂書店さんの「おすすめ文庫大賞」は第1回の「床下仙人」原宏一、第2回の『TENGU』柴田哲孝(ともに祥伝社文庫)がベストセラーになっており、この手の書店イベントとしてはいちばん販売力があるのではなかろうか。

 おお、ついに、金がない、原稿が書けない、足が熱い、胃が痛いと嘆きまくっている宮田珠己さんに幸福が訪れるのではないか。そういえば先日のジュンク堂さんでのイベントで、宮田さんが家を買ったことを報告したら、内澤旬子さんから「家を買うと人生変わるよ。私、マンション買ったら『情熱大陸』の取材が入って、おかげで『世界屠畜紀行』が売れたし」と言われていたのだ。そのとき宮田さんは「おれ、情熱ないし」と苦笑いしていたのであるが、こんなところに人生が好転するきっかけがあったとは......。

 しかし、ほかの13点が強力なのだ、ってエッセイは宮田さんだけでないか。

我孫子武丸 『弥勒の掌』
百田尚樹 『永遠のゼロ』
香納諒一 『冬の砦』
橋本紡 『ひかりをすくう』
加藤実秋 『モップガール』
山田健 『遺言状のオイシイ罠』
小川洋子 『ミーナの行進』
黒崎視音 『六機の特殊』
沼田まほかる 『九月が永遠に続けば』
宮田珠己 『ときどき意味もなくずんずん歩く』
朱川湊人 『わくらば日記』
小泉喜美子 『弁護側の証人』
桜井鈴茂 『終わりまであとどれくらいだろう』
伊園旬 『ブレイクスルー・トライアル』

 ちなみにこのおすすめ文庫大賞は、啓文堂各店で10月30日までにいちばん売れたものが大賞に選ばれるのだ。頑張れ! 宮田珠己! ずんずん歩け!!!

★    ★    ★

 と興奮しつつ、営業を終え、会社に戻ると、浜田が不思議そうに私に話しかけてきた。

「今、書店さんから電話注文があったんですけど、『スットコランド日記』なんかありました?」
「えっ?」
「いや、『おそらく今注文が殺到していると思いますが、在庫ありますか?』って聞かれたんですよ。週末の新聞の書評に出たか、テレビで紹介でもされたのかと思って」

 テレビは知らないが、私は毎週日曜日、図書館で全新聞の書評欄をチェックしているが、『スットコランド日記』が書評に出ていた記憶はない。

 むむむ、これは宮田さんに何かあったのか。確か宮田さんは現在お遍路中で、今回は四国で一番高い山・石鎚山に登っているはずだから遭難にでもあってニュースに出ているとか、それとも白い粉でもやって逃走したりしているのではないか。どうなっているんだ、宮田珠己。

「で、注文殺到しているの?」
「いやふつうです」

10月5日(月)

  • 二つの時計の謎 アジア本格リーグ2
  • 『二つの時計の謎 アジア本格リーグ2』
    チャッタワーラック
    講談社
    26,690円(税込)
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 台風の影響で今週は一週間雨とのこと。娘の運動会はいつできるのだろうか。
 そして雨の営業はまったく気にならないのであるが、ランニングできないのが非常につらい。3日走れない日が続くと「走れないストレス」が体内で暴発しそうになるのだ。

 午前中は企画会議。いろいろ出して、いろいろ通ったり、ボツったり。

 午後から営業に出かけるが、新浦安に行くつもりがなぜか錦糸町に着いてビックリ。ああ、総武線快速じゃなくて、京葉線に乗らなきゃいけなかったのだ。東京駅でホームを間違えてしまった。そのまま総武線を営業。

 船橋のときわ書房でUさんとオープンされたばかりの「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の話。翻訳ミステリーの凋落(売行き)が叫ばれる昨今、それをどうにか盛り上げようと有志が集まり、企画されたそうだ。

 しかし翻訳ミステリーに限らず、洋楽、洋画と海外から入ってくるものがすべて落ち込んでいるわけで、これはSFや文学というジャンルの栄枯の話とは違う土俵の話なのではないかと思うのであった。そして映画や音楽のことを考えるとならば、韓流ブームのように次はアジアなのではないかと思ったら、すでに『錯誤配置<アジア本格リーグ1>』『二つの時計の謎<アジア本格リーグ2>』(ともに島田荘司選・講談社)がでているそうで、Uさん曰くたいそう面白いとのこと。

 夜は松戸へ移動し、9月いっぱい行われていた「出版営業ガチンコ対決」の結果発表会に参加。残念ながら私は10人中9位という散々な結果に終わったのだが、1位の二見書房の営業マンが推した他社文庫が、なんと我らが宮田珠己の『ときどき意味もなくずんずん』(幻冬舎文庫)で、ぶっちぎりの売上であった。そういえば私がお茶の水丸善さんで勝ったときも、この本だったのだ。恐るべし、宮田珠己。

10月3日(土) 炎のサッカー日誌

 浦和の小学校のくせになぜかレッズ戦のある日に運動会をするという暴挙。もちろん私は運動会よりも浦和レッズをとるべく、みんなでお弁当を食べた後は学校を抜け出し埼玉スタジアムへ向かう予定であったが、なんと開会の挨拶の後3種目やったところでどす黒い雲が学校の上空を覆い大雨が降り出したではないか。岡田正義よ、早く中止を宣言しろ! と叫んでいると、校内放送で校長先生が中止宣言したではないか。

 というわけで私は心置きなく埼玉スタジアムへ向かったのである。
 内容はともかく試合も勝ったので、良き週末であった。

10月2日(金)

  • ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)
  • 『ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)』
    東村 アキコ
    集英社
    817円(税込)
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  • ママはテンパリスト 2 (愛蔵版コミックス)
  • 『ママはテンパリスト 2 (愛蔵版コミックス)』
    東村 アキコ
    集英社
    817円(税込)
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 本日も直行で埼玉営業。
 とある書店でお世話になっていたSさんが退職されていて唖然呆然。落ち込んでいるとそのSさんを紹介してくれた出版社の営業マンから連絡があり、「お世話になりました」と伝言をいただく。お疲れさまでした、そしてありがとうございました。

 浦和の紀伊國屋書店Sさんのおすすめは『ママはテンパリスト』東村アキコ(集英社)であった。相当面白い育児マンガらしい。

10月1日(木)

 終日、埼玉を営業。
 自分の住んでいる土地は営業しにくいと思っていたのだが、最近埼玉の書店さんが元気なので、つい夢中になって営業してしまう。

 さいたま新都心のK書店Uさんは、常連さんとコミュニケーションを取り、棚つくりに活かしているとか。すごい!

9月30日(水)

  • 英国のダービーマッチ
  • 『英国のダービーマッチ』
    ダグラス ビーティ,Beattie,Douglas,元子, 実川
    白水社
    2,970円(税込)
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  • イングランド紀行〈上〉 (岩波文庫)
  • 『イングランド紀行〈上〉 (岩波文庫)』
    プリーストリー,Priestley,J.B.,槇矩, 橋本
    岩波書店
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  • イングランド紀行〈下〉 (岩波文庫)
  • 『イングランド紀行〈下〉 (岩波文庫)』
    プリーストリー,Priestley,J.B.,槇矩, 橋本
    岩波書店
    858円(税込)
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 私と一緒に浦和レッズを見ている人が、5対0となったある試合で「もっと俺をイカせてくれ〜」と叫んだことがあったが、この本を読んでいる間、私はイキっぱなしであった。サッカー脳がびんびんに刺激され、はっきりいって興奮状態である。

 その本とは『英国のダービーマッチ』ダグラス・ビーティで、我らがサッカー版元・白水社から発売されたのである。

 値段は2700円+税とJリーグの自由席よりも高いけれど、はっきり言って1試合観戦を我慢しても読むべき1冊。

 先日のオーウェンのゴールも記憶に新しいマンチェスターのユナイテッド×シティのダービー、リヴァプールのリヴァプール×エヴァートン、あるいはグラスゴーのセルティック×レンジャースなど英国8都市のダービ・マッチの歴史とその試合日を追っているのだが、その取材力たるや冒頭に推薦文を寄せているサイモン・クーパーなみである。

 しかも記者席でなくアウェーサポーター席などに紛れ込むからその迫力たるやハンパではないし、またダービーが生まれる歴史性や都市性などもしっかり書き込まれているので、読み応えも充分だ。ああ、世界にはこんな素晴らしいサッカー本があるのか。

 私はこの本を読んだ後、『イギリス紀行(上・下)』プリーストリー(岩波文庫)を読んだのであるが、この本が出版された1930年よりずっと前から英国のサッカーチームは存在しているのである。そういう町に生まれ育ちたかったけれど、もはやそれは願わぬ夢なので、浦和の町をそういう町にしたい。

★    ★    ★

 水道橋の山下書店さんを訪問しようと思ったら、東京ドームに向かっておばちゃん達のものすごい流れが出来ているではないか。世界らん展? いやペ・ヨンジュンであった。こんな日に訪問しては大迷惑と違う路線に向かったのであるが、同じチェーンの大手町店で話を伺うとどうも昨日だけで2835円もする『韓国の美をたどる旅』(日刊スポーツ出版社)が、1000冊以上売れたしまったそうだ。

 しかもそれは山下書店さんだけであって、東京ドーム内ではもっと販売しているとのこと。すごい世界があるんだな。来週にでもO店長さんに話を聞きに行こう。

9月29日(火)

  • 丼本―3ステップで作れる簡単で旨い丼レシピ厳選50 (TWJ BOOKS)
  • 『丼本―3ステップで作れる簡単で旨い丼レシピ厳選50 (TWJ BOOKS)』
    小嶋 貴子
    トランスワールドジャパン
    1,100円(税込)
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  • 麺本―3ステップで作れる簡単で旨いパスタレシピ厳選50 (TWJ books)
  • 『麺本―3ステップで作れる簡単で旨いパスタレシピ厳選50 (TWJ books)』
    小嶋 貴子
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 本日はふつうに営業。秋葉原の有隣堂さんでは、『やる夫1』(ワニブックス)が売行ベストテンに入っていた。場所柄か。ほかに『丼本』『麺本』小嶋貴子(トランスワールドジャパン)が多面展開されており、この判型は確かに料理をおいしく見せるかも。

 夜は高野秀行さんと内澤旬子さんが育てた豚を食う会に参加。
 たくさんの人が、豚の映像と鳴き声が映されるホールで、その豚を食っていたのであるが、ただただ豚が美味かった。3匹の豚を無事に育てた内澤さん、お疲れさまでした!

9月28日(月)

 事務の浜田から私服で出社するよう連絡があり、ジーパンとTシャツで顔を出すと、そのまま太田トクヤ氏が経営する小ホール「雑遊」へ連れて行かれる。なんと明日、明後日に秘密で開催される椎名誠映画祭「もぐら座」の会場設営だった。

 こういう仕事は嫌いじゃないので喜んで床を拭いたり、椅子を並べたりしていたのだが、予想以上に早く終わり、いちばん楽しみにしていた労働後のビールはお預けで会社に戻る。一緒に手伝っていた助っ人諸君は、新宿しょんべん横丁に消えていった。

 久しぶりに人を殴りたいと真剣に思った。

9月27日(日) 炎のサッカー日誌

対横浜Fマリノス。
また負ける。
うう。

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