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11月17日(火)

暖簾 (新潮文庫)
『暖簾 (新潮文庫)』
山崎 豊子
新潮社
464円(税込)
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IN
『IN』
桐野 夏生
集英社
1,620円(税込)
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 昨夜家に帰ると妻がコタツに入りながら近所の書店のカバーがかかった文庫本を読んでいた。
 よくある風景かもしれないが、我が妻は愛読書が生協のカタログと折り込みチラシという本と無縁の生活をしている人間なのでビックリして、漫画のように目をこすってしまった。夢じゃない。

 まあそうはいってもダイエットとか節約とかその手の実用文庫だろうと思いつつ、妻が味噌汁を温めにいった隙に確認すると、なんと山崎豊子の作品であった。

「ど、どうしたの小説なんて読んで」
「え? だってあんたと娘でいつもバカにするじゃない。」
「そりゃそうだけど、読めんのか」
「読めるよ」
「面白いか?」
「まだ読み出したばっかりだからわからないわよ」

 しかし私の手にある本は、なぜか映画で大騒ぎしている『沈まぬ太陽』でもなく『白い巨塔』でもなく『華麗なる一族』でもない。『暖簾』である。なぜ?

「だって他のはみんな何巻本だし、それになんていうの、有名なのから読んだら書いている人に失礼かなと思って」
「失礼って......」
「最初の作品から読むんじゃないの? 小説って」

 そういえば先日蓄膿症で一週間入院したとき、さすがに暇だろうと我が最愛の小説でもある『アカペラ』山本文緒(新潮社)を貸したのであるが、その感想は「よくわからなかった」なのである。えっ?! と驚いて理由を正すと「この話つながってんの?」というではないか。日頃小説を読まない妻には中編集とか短編集というのが理解できなかったらしい。本はぜんぶひとつの話が繋がっていると思って読んでいたのだ。

 でも、なんで山崎豊子?

「テレビでやってるし、なんか本屋さんにいっぱいあったし」
「いっぱいあると買いたくなるの?」
「そりゃ売れてるからあるんでしょうよ。私だって書店員だったからそんなことはわかっているのよ」

 もう夫婦の会話ではなく、マーケティングしている気分である。

 そして私は気付いたのである。
 今まで何度か妻が本を読もうかなと言った時に、私はいわゆる家族小説や少年小説やスポーツ小説といった一般小説を渡してきたのが、もしかするとこういう本を読み慣れていない人にはミステリーのような、謎という原動力のある本が良かったのかもしれない。謎を解くためにページをめくる。そういえば娘が日頃読んでいる青い鳥文庫も探偵ものがいっぱいだし、ルパンやホームズから本の世界にどっぷりつかった人も多い。

 私が食事をしている間も、妻は文庫本を手に夢中になって読んでいるようであった。こうなったら私はミステリーが弱いので、妻をミステリーマニアに育ててみるか。そんなことを考えていたら妻が顔を上げて聞いてくる。

「あんたの部屋にある『IN』ってさ、ずーっと昔に読んだ『OUT』の続き? 面白そうだよね」

 妻よ、あれは違うのです......。

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