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1月22日(金)

 最近考えているのがクチコミに関してである。

 例えば、新刊を出す。
 評判が気になってタイトルでネット検索をする。
 早い人は発売日に感想をアップしたりするが、そうでなければ1週間、1ヶ月、あるいはずーっと後になって、ブログやamazonやたなぞう、読書メーターなどで感想が書かれる。

 書かれた量に比例して、本の売れ行きは当然上がっていく。
 広告ではないけれど、出版社や著者にとって、これほどありがたいことはないし、そこから出てくる答えは、「いい本(面白い本)を作ればいつか伝わる」という性善説のような思いである。

 しかし問題なのはその時差だ。
 新聞やテレビ、電車の中吊りなどで大々的に広告を打てば、本が出たことや面白いことが不特定多数の人に伝わり、一気に動き出すこともあるだろう。

 しかしこのクチコミはもっと時間がかかる。明日かもしれないし、来月かもしれないし、来年かもしれない。たとえツイッターのように即時性があったとしても、やっぱり時間がかかると思う。

 そうなったときに完全にミスマッチしているのが、いまの出版業界なのではないか。

 新刊の点数が膨大なため、2週間とか1ヶ月で書店さんは本の見切りをつけなければならない。数日前に書いた返品の話だ。しかし読者がクチコミでその本の存在を知るにはもうちょっと時間がかかる。知ったときには店頭になく、諦める人もいれば、ネット書店で購入する人もいるだろう。つけ麺が美味しいと噂になっているラーメン屋に行ったら、つけ麺は先月までで、今月からは味噌ラーメンですと言われているようなもんだ。

 またそれは出版するほうも一緒で、作家や作品を売れ出すまで我慢できなくなっている。沢木耕太郎の『旅する力--深夜特急ノート 』を読んだとき、それは沢木さんがどうやってノンフィクション作家になっていったかの部分なのであるが、こんなにじっくり育ててもらえたのかと思ったのである。今だったら文章修業はもちろん、3作も待ってくれない会社ばかりだろう。磨けば光材料を磨き切るまえに諦めているか、あるいはもう磨く能力もないのかもしれない。

 
 クチコミとはまったく違うところに辿りついてしまったが、こういう状況をどうしたらいいんだろうか。いろんなことを考えていると、いつだか書店員さんが言っていた言葉を思い出す。

「お客さんにとってはその日手に取った本は、みんな新刊だからね」

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