坪内祐三さんが『考える人』(新潮文庫)で取り上げ、また宮田珠己さんも大推薦する『崩れ』幸田文(講談社文庫)を読み始める。
これが想像していたようなものとまったく違い、おもしろいのなんの。72歳の著者がよれよれになりながらも、魅了される滑落、地滑りの地形へ出かけて行くのだ。
本屋大賞の準備だけでも大変なのだが、それはボランティア活動であり、私はいつもどおりの営業がある。池袋などを営業。リブロのYさんを尋ねると、3月の文芸書は、『ロスト・シンボル』ダン・ブラウン(角川書店)が調子良く、売り上げも好調のようだ。Yさんから都筑響一『Showa Style--再編・建築写真文庫』(彰国社)、『シブヤ遺産』村松伸+東京大学生産技術研究所村松研究室(バジリコ)を教わり、私は昨年テレビで衝撃を受けたドキュメンタリーの単行本『ヤノマミ』国分拓(NHK出版)を紹介。本の情報交換は楽しい。
夜6時半から新橋のシステム会社で「WEB本の雑誌」のリニューアル会議。
9時に終了すると雨が降り出していた。
明日は休みだ。
真冬のような寒さのなか、本日リニューアル増床オープンの良文堂書店八千代台店を訪問。
駅直結のショッピングモールのせいか、雨が降っているにも関わず、店内は大賑わい。
約250坪のお店に、きちんと品揃えされた店内が気持ちいい。やっぱりこれぐらいの大きさが、今の本の売り上げ、そこから雇える人件費を考えると適切なのではなかろうか。
そのお店の一等地では、良文堂名物と化しつつある「ガチンコ対決フェア」が展開されていた。私は『SF本の雑誌』と大竹聡著『今夜もイエーイ』を推薦中。松戸店でも同様にスタートしており、そちらでは『SF本の雑誌』と清原なつの『千利休』を並べている。こっそり初優勝を目指しているのだがどうなるやら。興味のある方はぜひ覗いてみて欲しい。
その良文堂書店で、<ブラディ・ドール>シリーズの姉妹編である『遠く空は晴れても』北方謙三著(角川文庫)を購入し、京成線のなかで読み始めるが、頭のなかに色濃く前シリーズが残っており、なかなかページが進まない。ここはやはり少し時間を置いた方がいいだろう。というわけで『恋愛延長戦』山本幸久(祥伝社)を読了。犬好きにはたまらない小説かもしれない。
我々営業マンですら、年度末の駆け込み新刊洪水で大わらわの書店員さんに声もかけられずお店を後にすることが多いのであるが、そんなときに店頭を訪問している作家さんがいて驚く。それはたとえどんな人気作家だったとしても迷惑なのではなかろうか。案の定、作家さんが帰った後に書店員さんは深いため息とともに荷物の山を見つめていた。どうして編集者や営業マンは止めてあげないのだろうか。
それにしても作家さんが書店を廻ると本が売れるのか?
もしそうならば、私の『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)は大ベストセラーになって良い。
★ ★ ★
夜、もっとも私が尊敬している営業の大先輩であり、人間としても目指すべき人柄を持つY書店の外商マンNさんと酒。
そのNさんから「形見分けだよ」とプレゼントされたのは、いつぞやこの日記で欲しいと書いた『高丘親王航海記』渋澤龍彦(文藝春秋)の、単行本版であった。私がいつだかこの日記で欲しいと書いたのを読まれていて、わざわざ蔵書を探して持ってきてくれたらしい。箱入りのむちゃくちゃかっこいい本であった。ありがたや。でも死んではいけません、Nさん。
三連休にしていたこと。
土曜日:午前 サッカー
午後 ランニング15キロ(ちょっと迷う)
日曜日 午前 サッカー
午後 ランニング5キロ
月曜日 午後 ランニング10キロ
私にとってサッカーは生き甲斐で、ランニングは精神安定剤だ。
そして身体はキレキレで、サッカーをすればたちまち点を取り、妻から高いところのモノを取ってと言われれば軽やかに跳躍し、娘からランドセルを持って来いと言われれば爆裂ダッシュで階段を駆け上がる。
しかし残念ながら私の本職は営業マンで、この鍛え上げられた下半身とボールテクニックを披露する場がない。たぶん南アフリカにはあると思うのだが......。
★ ★ ★
週末に第9巻『聖域』を読んだので、ついに<ブラディ・ドール>シリーズの最終巻『ふたたびの、荒野』北方謙三(角川文庫)を読み始める。いちはやく読み終えたい気持ちと、いつまでも取っておきたい気持ちが半々だったのだが、ページをめくりだしたら止まらない。笹塚駅前のエクセルシオールカフェで、始業時間まで読み続ける。
読みながら今後の読書スケジュールを考える。
この<ブラディ・ドール>シリーズを読み出してからまったく他の本が手につかず、新刊も買うばっかりで積読状態で、いい加減読み始めないとどんどん増えていく一方なのである。ところが、この<ブラッディ・ドール>シリーズの姉妹編のようなかたちで<約束の街>シリーズというのがあり、こちらは現在8作目まで出ているそうだ。ハードボイルド脳となっている私は今すぐにでも読み始めたいのであるが、そんなところに元田町のT書房Kさんからメールが届く。
「久し振りに炎の営業日誌を見てみたら<ブラディ・ドール>シリーズにハマっているんですね♪ そこで北方謙三フリークのオイラが来ましたよ!! 単純なオイラは各巻とも何十回と読み直しています(笑)。<ブラディ・ドール>シリーズを読み終えたら、<約束の街>シリーズを、その次は川中と並ぶもう一人のキーパーソン・老いぼれ犬もお薦めします。
『檻』(集英社文庫)
『牙』(集英社文庫)
<挑戦>シリーズ
『挑戦:危険な夏』(集英社文庫)
『挑戦:冬の狼』(集英社文庫)
『挑戦:風の聖衣』(集英社文庫)
『挑戦:風群の荒野』(集英社文庫)
『挑戦:いつか友よ』(集英社文庫)
<老いぼれ犬>シリーズ
『傷痕』(集英社文庫)
『風葬』(集英社文庫)
『望郷』(集英社文庫)
この順番でどうぞ!」
参った。
北方謙三マンスリーになってしまいそうだ。
★ ★ ★
営業は川崎方面へ。
あおい書店川崎駅前店では、かなり力を入れた<文学少女>シリーズのフェアをされていた。出版社に協力を願い、ポスターや品切れ本なども並んでいた......といっても私はこのラノベに詳しいわけではないのだが、棚はとっても素敵だった。
有隣堂川崎BE店では、これは有隣堂全店に行われているようだなのだが、『1Q84』BOOK3(新潮社)の発売を前にして12ページにも渡る特別小冊子が配られていた。
「1Q84」の人物相関図やキーワード、書店員さんの推薦コメントはもちろん、各社の編集者の書評まで掲載されている力作である。様々な書店さんが予約獲得のために方策を練っているが、この小冊子は一歩抜け出しているような気がする。
その村上春樹コーナーの隣では、高野秀行と宮田珠己のフェアが行われており、思わず担当のOさんに間違っていますよとツッコミそうになったが、高野さんの新作は『間違う力』(メディアファクトリー)なので、間違っていいのであろう。
反対側の丸善さんを訪問するが、担当のSさんはお休みで残念無念。
こちらはこちらでそのSさんが、「最近読んだ本」という個人書評誌を配布しており、今、川崎の書店は面白いのである。
★ ★ ★
テレビ『プロフェッショナルの流儀』の三浦知良の回を見ようと急いで帰るが、新宿駅で埼京線も山手線も止まっていた。四谷経由南北線→埼玉高速鉄道で帰るか、神田から京浜東北線に乗るか悩んだが、何かあったときに逃げ場の多そうな神田経由で帰宅。
最初の10分を見逃したが『プロフェッショナルの流儀』にどうにか間に合う。
カズ最高。
通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第8巻『鳥影』北方謙三(角川文庫)。
残り3巻。読み進むのが惜しい気分になる。
銀座・教文館で、椎名誠無計画一挙集中出版によるトーク&サイン会イベント。
6時過ぎにやってきた椎名さんが私と浜田に向かって「悪いなあ、本の雑誌の本じゃないのに」と頭を下げる。
ここにひとり<ブラディ・ドール>シリーズの主人公・川中みたいな男がいるのである。
参った。
会が終わってから「つばめグリル」で打ち上げ。生ビール×2、ハンブルグステーキ、ロールキャベツ、アイスバイン。ウマい。
通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第7巻『残照』北方謙三(角川文庫)。
動き出した物語はもう止まらない。怒涛の展開で、ここまで出てきた登場人物の人生が動きだす。涙にくれる埼京線。
動き出したら止まらないのは本屋大賞も一緒で、4月20日の発表会に向けて、今月2度目の会議。
夜7時半から10時過ぎまでかかってもろもろのことを決めて行く。途中空腹で腹が鳴りそうなるのを必死に抑える。たぶん実行委員の誰もが一瞬「なんでこんなことやっているんだろう」と思っただろう。そりゃあ当然の疑問で、この活動で誰ひとりとして儲からないどころか、このようにして会議は飲食一切なしで行われること多々なのである。
ならばなぜやっているかというと、とにかく「面白い本いっぱいありますよ」と伝えたいのと、発表会の後の打ち上げのビールの美味さを求めてである。あの至福の一杯を飲みたいがために、この1年間、育児や家庭を旦那さんや親に頼み込んで、ここに来ている書店員さんが何人もいる。
目標の10回まで、あと4回。
そこまで本屋大賞が続けられるかわからないし、その時、実行委員の多くが40歳を越え、身体と気持ちがもつかも分からないが、今は第7回の本屋大賞の打ち上げのビールを目指して頑張るのだ。
通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第6巻『黙約』北方謙三(角川文庫)。
4巻『秋霜』、5巻『黒銹』と物語としてかなり安定していたので、その気で読んでいたら、いきなりものすごい展開に突入し、ひっくり返る。マジかよ、謙三! 電車のなかで泣く。
小説の登場人物が死んで、こんなショックを受けるのは久しぶりだ。
中央線立川などを営業していると、顔見知りの営業マンがふたり、引継ぎで挨拶していた。
引継ぎ......。私の人生では、出世と同じくらい縁の遠い話題である。
夜は、助っ人の送別会。
当然ながら一年ごとに卒業する助っ人学生とは1歳づつ年が離れていくわけで、もはやすっかり娘や息子を見るような気分。
うちの娘は22歳のときいったい何をしているんだろうか。
通勤読書は<ブラディ・ドール>シリーズ第5巻『黒銹』北方謙三(角川文庫)。
途中で本を読み終えてしまう恐怖心から、残りの巻はすべて購入した。そのうち2冊をいつもカバンのなかに入れている。
「本の雑誌」で連載していただいている、はらだみずきさんから「サッカー・ストーリーズ」の新原稿が届き、誰よりも早く読める喜びをかみしめつつ、堪能。素晴らしい。早く本にして、営業したい。サッカー小説史上はもちろん、すべての小説のなかでも傑作になること間違いなし。
営業は相変わらず低空飛行。
それでも廻らなければのがこの仕事のつらいところだが、上昇するきっかけが意外と営業先にあったりするから面白い。総武線を営業。
船橋のときわ書房Uさんが、まもなく出る道尾秀介の新刊『光媒の花』(集英社)の素晴らしさを滔々と語っておられた。
夜は早く帰って、ランニング。
8キロ。
気分がだいぶ軽くなる。
不吉なメールが私の携帯に届いたのは、2月の初旬だった。
「椎名さんが杉江さんを探してました。5時には戻ると伝えました」
送り主は、事務の浜田であるが、そのとき私は横浜におり、時間は4時を過ぎていた。まだまだ訪問しなければならない書店さんが何軒もあったし、直帰する気まんまんだった。5時に戻る? 誰がそんなこと言った?
しかし戻らなければならない、なります、なれ、なろ、なろ。
椎名さんが私に用があるなんてそうあることではない。かつてあったときは「明日暇か? 沖縄に行くぞ」と突然言われた。はじめたばかりの浮き球△ベースの大会に急遽連れ出された。今回は何だ? 今度は北か、北海道か?
会社に戻ると4時56分だった。セーフ。
私が戻ると同時に浜田は内線をまわし、杉江帰社の報告をする。
トイレに行きたかったが、すぐに椎名さんがやってきた。
でかい、怖い。
いつでもそう感じる。
「おお、悪いなあ」
「いえ......」
「あのなあ、俺、ここんとこいっぱい本が出てるじゃんか」
「はい、はい」
「それでさあ、各出版社が書店でサイン会とかトークショーをやってくれないかって言ってきてるわけさ」
「はい、はい」
「そうなんだけどさあ、一社で引き受けたらそこの本しか売れないじゃんか」
「はい、はい」
「返事は一度でいい」
「......」
「......」
「あっ、はい」
一瞬殺されるかと思ったが、椎名さんはすぐに優しい表情に戻った。
「それでなあ、著者にとってはどれも大事な本なわけよ。だから全部一緒にできないかと思っているわけさ」
「は......い」
「合同慰霊祭ってあるじゃん」
「ははは」
「面白いだろ?」
私は、この会社に入って13年過ぎているわけで、それは椎名さんとの付き合いの長さでもある。その間に気づいたのであるが、椎名さんの「面白いだろ?」は、危険なのだ。沖縄に突然連れて行かれたときも八丈島に流されたときもいつもはじめは「面白いだろ?」であった。
そういえば本の雑誌社に勤める前に働いていた会社には「敬称三段活用」というのがあった。
いつもは先輩から「すぎえ」と呼ばれているのが、突然「すぎえくん」と「君付け」で呼ばれる。それはたいてい書類仕事などを頼まれるときだった。たまに「すぎえちゃん」と呼ばれるときがあった。そのときは危険度50%で、土日の休日出勤を意味していた。そしてもっと危険なのが「すぎえさん」と呼ばれるときで、これはもう間違いなく長期出張を意味していた。
そのちゃん付け同様に危険なのが、椎名さんの「面白いだろ?」なのであるが、ほんとうに面白そうだから困る。
5冊同時期刊行の合同慰霊祭だって? 面白いじゃないか。
気づいたら私は笑っていた。
そこからの椎名さんの指示は簡潔にして、明瞭であった。その合同慰霊祭をやらせてくれる書店さんを探してきて欲しい。時期は2月末から3月中旬。できれば都内で2軒ほど。
走った。私はすぐさま走った。そして二つ返事で了解してくれたのが、銀座の教文館さんと池袋のジュンク堂さんだった。
椎名さんに報告すると「早いな」と褒められた。早いのは私の得意とするところだ。
そのトーク&サイン会の第一弾が本日ジュンク堂池袋店で行われた。
大盛況に終わったのであるが、最後に片付けをしていると、同様に手伝いにきていた浜本と浜田が同時に声を上げた。
「いっぱい本が売れたけど、うちの本ないんだ」
そうなのである。本の雑誌社からの新刊はしばらく先なのである。
------------------------------------
椎名誠のトーク&サイン会!
いっぺんにたくさん本が出てしまいました。
だからトーク&サイン会。
「本の力・写真の夢」
開催日時:3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場:教文館9階ホール
参加方法:教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
入場料:1000円(税込)
問い合わせ先:教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447
不吉なメールが私の携帯に届いたのは、2月の初旬だった。
「椎名さんが杉江さんを探してました。5時には戻ると伝えました」
送り主は、事務の浜田であるが、そのとき私は横浜におり、時間は4時を過ぎていた。まだまだ訪問しなければならない書店さんが何軒もあったし、直帰する気まんまんだった。5時に戻る? 誰がそんなこと言った?
しかし戻らなければならない、なります、なれ、なろ、なろ。
椎名さんが私に用があるなんてそうあることではない。かつてあったときは「明日暇か? 沖縄に行くぞ」と突然言われた。はじめたばかりの浮き球△ベースの大会に急遽連れ出された。今回は何だ? 今度は北か、北海道か?
会社に戻ると4時56分だった。セーフ。
私が戻ると同時に浜田は内線をまわし、杉江帰社の報告をする。
トイレに行きたかったが、すぐに椎名さんがやってきた。
でかい、怖い。
いつでもそう感じる。
「おお、悪いなあ」
「いえ......」
「あのなあ、俺、ここんとこいっぱい本が出てるじゃんか」
「はい、はい」
「それでさあ、各出版社が書店でサイン会とかトークショーをやってくれないかって言ってきてるわけさ」
「はい、はい」
「そうなんだけどさあ、一社で引き受けたらそこの本しか売れないじゃんか」
「はい、はい」
「返事は一度でいい」
「......」
「......」
「あっ、はい」
一瞬殺されるかと思ったが、椎名さんはすぐに優しい表情に戻った。
「それでなあ、著者にとってはどれも大事な本なわけよ。だから全部一緒にできないかと思っているわけさ」
「は......い」
「合同慰霊祭ってあるじゃん」
「ははは」
「面白いだろ?」
私は、この会社に入って13年過ぎているわけで、それは椎名さんとの付き合いの長さでもある。その間に気づいたのであるが、椎名さんの「面白いだろ?」は、危険なのだ。沖縄に突然連れて行かれたときも八丈島に流されたときもいつもはじめは「面白いだろ?」であった。
そういえば本の雑誌社に勤める前に働いていた会社には「敬称三段活用」というのがあった。
いつもは先輩から「すぎえ」と呼ばれているのが、突然「すぎえくん」と「君付け」で呼ばれる。それはたいてい書類仕事などを頼まれるときだった。たまに「すぎえちゃん」と呼ばれるときがあった。そのときは危険度50%で、土日の休日出勤を意味していた。そしてもっと危険なのが「すぎえさん」と呼ばれるときで、これはもう間違いなく長期出張を意味していた。
そのちゃん付け同様に危険なのが、椎名さんの「面白いだろ?」なのであるが、ほんとうに面白そうだから困る。
5冊同時期刊行の合同慰霊祭だって? 面白いじゃないか。
気づいたら私は笑っていた。
そこからの椎名さんの指示は簡潔にして、明瞭であった。その合同慰霊祭をやらせてくれる書店さんを探してきて欲しい。時期は2月末から3月中旬。できれば都内で2軒ほど。
走った。私はすぐさま走った。そして二つ返事で了解してくれたのが、銀座の教文館さんと池袋のジュンク堂さんだった。
椎名さんに報告すると「早いな」と褒められた。早いのは私の得意とするところだ。
そのトーク&サイン会の第一弾が本日ジュンク堂池袋店で行われた。
大盛況に終わったのであるが、最後に片付けをしていると、同様に手伝いにきていた浜本と浜田が同時に声を上げた。
「いっぱい本が売れたけど、うちの本ないんだ」
そうなのである。本の雑誌社からの新刊はしばらく先なのである。
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椎名誠のトーク&サイン会!
いっぺんにたくさん本が出てしまいました。
だからトーク&サイン会。
「本の力・写真の夢」
開催日時:3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場:教文館9階ホール
参加方法:教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
入場料:1000円(税込)
問い合わせ先:教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447
やめられない、とまらない<ブラッディー・ドール>シリーズ。
第3巻『肉迫』読了。二部構成になっているのだが、後半部分では、いわくつきの土地を巡ってフロリダ帰りの主人公の娘が攫われてしまう。それだけで私の胸は押しつぶされそうになる。娘に何かあったら許さんぞ。ああ、娘を小説に使うのは禁止してくれないか。
11時、本屋大賞の副賞図書カード10万円をスポンサードしていただいている日本図書普及(株)を訪問。スケジュールの確認など。
昼食に飛び込んだ中華料理屋が、空調設備の故障で妙に煙い。霧の中でチャーハンを食べていると、けたたましい音をたてて非常ベルが鳴り出す。店員さんも止める方法がわからず、そのまま黙って食い続ける。
神保町に移動したが、まだ昼時で書店は混雑。しばらく古本屋をぶらつきワゴンを覗いていると、「がらんどう」で、遠藤ケイの『雑想小舎便り』(中公文庫)を発見(300円)。房総半島で自給自足の暮らしをはじめた頃の画文集。欲しかったのだ。
落ち着き出した書店を回る。
東京堂書店ふくろう店は、3月から書肆アクセス→東京堂書店3階で地方出版物やリトルプレスを温かい目線で販売してきた畠中さんが担当となる。
「まだぜんぜんダメダメだし、そもそもわたしがダメダメで、こんな広いお店をやったことがなかったから、雑誌もコミックもはじめてなんです。だから雑誌の付録付けもはじめてで、同僚に迷惑ばっかりかけちゃって」
そういいながらも豆本の素晴らしいフェアが行われていたり、交流の深い石田千さんの選書した棚もある。あっ! とびっくりしたのは、現在日本最高のフリーペーパーと名高い北九州市発行の「雲のうえ」があることだ。「毎号、配布させていただいているんですよ」とのことで、当然1部いただいて帰る。
畠中さんはおそらく、じわじわとお店を発展させていくだろう。楽しみだ。
3時になったので、新橋にある「WEB本の雑誌」のシステム会社を訪問。
4月に大々的なリニューアルが行われるそうで、その打ち合わせ。WEB関係は、刻々と状況が変化して行くので大変だ。
私は、やっぱり本がいい。
「本の雑誌」4月号搬入。
綾瀬の良文堂書店では、一足先に「出版営業ガチンコ対決」と「新書ガチンコ」のフェアが始まっており、その様子をうかがいにいく。同様のフェアが3月末より、松戸店と増床リニューアルの八千代台店で行われる。お店によって若干違うのだが、私が綾瀬店で出品しているのは『SF本の雑誌』と『スットコランド日記』。店長Iさんに話を伺うと「SFはこの辺では弱いかと思ったが売れている」とのこと。SF者はどこにでも潜んでいるのだ。
その足で、新松戸や柏を営業。
夜は、松戸の「生つくね元屋」にて良文堂のTさんやほかの書店さん、出版社を交えて酒。
生ビール、生グレープフルーツサワー×4。ここのやきとりは美味しく、特に一日限定8本の白レバーは、ほっぺが落ちるが我々が頼んだときには4本しかなく、私の口には入らなかった。残念。
ランニングを始めてから天気予報が無性に気になるようになった。
いつ走れるか、いつもそればかり考えている。
今夜は雪になるようなので、朝5時半に起きて走る。
春を控え日の出の時刻が早くなったので、朝も長い距離走れるのがうれしい。
通勤読書は、当然の<ブラッディー・ドール>シリーズ第2巻『碑銘』(角川文庫)。
1巻の『さらば荒野』も十分面白かったのだが、表現のところどころわかりづらい部分もあった。それがどうしたことか、この2巻からびっくりするほどのリーダビリティーで、まるで映画を見ているように物語が進む。これは後に東えりかさんと話をしていて判明したのだが、『さらば荒野』と『碑銘』の出版には4年も間が空いているそうだ。その間に北方謙三という作家は猛烈に伸びたのだろう。しかしここまで劇的に変わるものだろうか。恐るべし北方謙三。
一日中、社内にこもって、新刊チラシとDM作成。
予報通り、夕方から雪となる。
ランニングを始めてから天気予報が無性に気になるようになった。
いつ走れるか、いつもそればかり考えている。
今夜は雪になるようなので、朝5時半に起きて走る。
春を控え日の出の時刻が早くなったので、朝も長い距離走れるのがうれしい。
通勤読書は、当然の<ブラッディー・ドール>シリーズ第2巻『碑銘』(角川文庫)。
1巻の『さらば荒野』も十分面白かったのだが、表現のところどころわかりづらい部分もあった。それがどうしたことか、この2巻からびっくりするほどのリーダビリティーで、まるで映画を見ているように物語が進む。これは後に東えりかさんと話をしていて判明したのだが、『さらば荒野』と『碑銘』の出版には4年も間が空いているそうだ。その間に北方謙三という作家は猛烈に伸びたのだろう。しかしここまで劇的に変わるものだろうか。恐るべし北方謙三。
一日中、社内にこもって、新刊チラシとDM作成。
予報通り、夕方から雪となる。
北方謙三さんの秘書を長年勤め、現在は書評家として活躍されている東えりかさんから「うちのボスの本で、とにかく"ブラッディ・ドール"シリーズは読んで欲しいのよ」と言われたのは、私が『三国志』や『楊家将』で遅すぎる北方謙三デビューをした頃だから何年も前だ。
その言葉が頭のどこかに引っかかっていたのと、久しぶりにハードボイルドを読みたい気分になったので購入したのが"ブラッディ・ドール"シリーズの第1巻『さらば、荒野』 (角川文庫)。
これがもうめちゃくちゃ面白くて、久しぶりに出社前に笹塚駅前エクセルシオールカフェに飛び込み、始業開始時間ギリギリまで読みたかったのだが、本日はそんな時間はなく、鏡明著『二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分』の見本を持って、取次店廻り。
この本、A5判変型で448頁もあるもんだから1冊がなんと540グラム。見本出しには13冊が必要だから、私の肩には7キロの荷物と通常の営業カバンがのし掛かってくるのである。
持ってられるか......というわけで、目黒さんが置いていったカートに載せて、ゴロゴロと引いていく。
毎年、怒涛の新刊ラッシュとなる3月だから、当然ながら取次店の窓口も混んでいるかと思ったが、そうでもなかった。
しかし取引している印刷会社は、始まって以来の印刷量で、土日も関係なく機械を回していると言っていた。ピークはこれからか。
N社、T社、TA社、O社と回った後、地方小出版流通センターへ。担当のKさんとお話した後、以前から気になっていた『島--瀬戸内海をあるく〈第1集〉1999‐2002』斎藤潤(みずのわ出版)を見せていただく。斎藤潤氏は光文社新書の『日本《島旅》紀行』以来追いかけている書き手なのである。良さそうな本だったので、給料が出たら買おう。
帰り際、『さらば、荒野』の残りページが20ページほどになっていたので、ブックファースト新宿店に寄って、2巻目にあたる『碑銘』(角川文庫)を買う。一安心。
これまで営業日誌と名付けておきながら、浦和レッズの試合があると突然「サッカー日誌」なんていうものを割り込ませてきたのだが、今年からここではサッカーのことは書かないことにした。なぜなら「散歩の達人」という雑誌から「浦和レッズ応援記」という連載の依頼が届いたからだ。
浦和レッズと散歩というものを無理矢理関連づけてみようと三日三晩考えたのであるがまったく見当がつかない。見当はつかないが、浦和レッズを見に行くことが仕事になるのであれば、これは妻や子供に大手を振ってサッカーを見に行けるようになるではないかと引き受けることにしたのである。
というわけで、ここでサッカーのことを書くと、「散歩の達人」に書くネタがなくなりそうなので、私と浦和レッズの関係に興味のある方は、ぜひとも「散歩の達人」を読んでいただきたい。いないと思うけど。
それはそうと、大宮アルディージャの2番、塚本泰史。頑張れ!!
通勤読書は中村うさぎの『狂人失格』中村うさぎ(太田出版)。
自己を探求し続ける中村うさぎ、今度はネット界で有名な狂った女性を自分の鏡像のように感じ、彼女を馬鹿にしている人間に復讐しようと考える。しかし中村うさぎが考えていた以上にその女性は狂っており、たいへんな騒動を起こすのであった。
ここまで来ると中村うさぎも含めて、狂人なのか病人なのかよくわからなくなってくる。
12日搬入の新刊『二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分』の初回注文〆作業。
「本の雑誌」5月号の特集「○秘新作」のゲラが出来上がったので、約70人の作家さんにメールやらFAXやら郵便やらでお届けする。この企画、3年目に突入したのであるが、相変わらず私一人でやっており、気がふれそうである。アドレナリンを大量放出しながら、どうにか夕方には終える。
夜、140BのAさんが江さんの単行本の打ち合わせでやってくる。その後、笹塚「牛角」へ。にこやかに話している私たちであったであったが、明日は鹿島スタジアムで敵対する関係であり、心の底では赤く燃える炭のように熱いのであった。
昼、業界紙「新文化」を退職されたIさんと食事。何か面白いことができないか話し合うが、同じように書店に興味を持っていても微妙に方向が違うのが面白い。
午後、高野秀行さんがサハラマラソンから帰国したので旅の話を聞きにいく。
ほとんど一睡もしないまま朝イチで出社。
携帯にメモしておいた企画データを会社のメールに飛ばし、会議資料を作成。
会議は無事終了。私がいちばんやりたかった特集企画が通る。
その後、新入りの単行本編集者ミヤサトと単行本の打ち合わせ。こちらも一読惚れしていた企画が、単行本にできることが決まり、思わず昼から乾杯したい気分になる。
昨夜の本屋大賞の会議の事後処理をしてから、営業へ。
最近とみに感じるのは売り場の若い書店員さんたちの不安というか自信のなさだ。彼ら彼女らは入社時点でバブルはとっくに崩壊しており、その影響で多くの会社はリストラをした後に入ってきてわけだ。だから仕事を教わる時間も相手もいないまま現場に放り出されている。
かつてであれば書店員というのは入社3年ぐらい先輩社員に徹底的に基本を植え付けられ、それこそ平台だって触らさせてもらえないような世界だった。たとえ平台に触れたとしても翌朝にはすべて変えられていたりした。その基本が、今、失われようとしている。どうにか伝える方法はないのだろうか。
ちなみに先日、私がもっとも尊敬するベテラン書店員さんのひとりに「書店員の仕事の基本」を尋ねたところ、「棚整理!」と断言された。その方は「それ以外に書店員の仕事ってないんじゃない?」とまで言っていた。
昼、水道橋のとんかついもやに向かうが1時過ぎなのに行列。待つほどの時間はなく、とぼとぼとすぐ近くにあったラーメン屋「エイト」に飛び込む。野菜炒め定食。そういえばこのお店は生まれて初めて行ったコンサート、ジェネシスの武道館公演の後に立ち寄ったのだ。あれは中学校の卒業式の日で、かれこれ23年が過ぎたということだ。
お茶の水の丸善を訪問し、担当者のYさん、N店長さんとお話。明日発売のダン・ブラウン著『ロスト・シンボル(上下)』(角川書店)が、バックヤードに保管されていた。こちらは全国一斉発売をうたう協定が業界内で結ばれており、明日まで店頭に出してはいけないのである。
その後、茗荷谷の名店・ブックスアイが、初の支店を根津にオープンさせたのでさっそく訪問。Kさんがにこやかな笑顔で迎えてくれたのだが、その笑顔の向こうにはさっそく雑誌を購入していく女性が多数。根津は書店の隙間スポットだっただけに、町の人々に喜ばれる存在になるだろう。「まだまだ恥ずかしい棚だから」と話すKさんであったが、そこかしこにこだわりの本が置かれていた。
そのまま千駄木に移動し、「本の雑誌」5月号から連載をお願いしている内澤旬子さんと打ち合わせ。
内澤さんより一足先に待ち合わせの喫茶店に着いたのだが、私がひとり席に座っていると、隣のテーブルにまるでプロレスラーのような男性がやってきた。その個性たるやまさに『おやじがき--絶滅危惧種中年男性図鑑』(にんげん出版)にぴったりで、高野さんはじめどうしてエンタメノンフ作家はネタが近寄ってくるんだろうかと考えていると内澤さんがやってきた。
内澤さんは「あんまり寒くて眼鏡が曇っちゃった」と言いながら眼鏡を外した瞬間、私の隣に座るその圧倒的な存在感のおっさんを見つけ、目が釘付けであった。釘付けになる気持ちもよくわかるのだが、あんまり見つめるのもまずかろう。心配していると大きなテーブルが空き、大きなおっさんはそちらに席を移動し、ほっとする。
内澤さんとの打ち合わせの後、駆け足で会社に戻り、今度は本屋大賞の会議に向かう。
この時期はさすがに忙しい。もろもろの議論を終えたのが22時半。家に着いたのは23時半。このまま眠りたいところだが、明日は「本の雑誌」の企画会議のため資料を作り出す。
企画というのは明日会議だからと言って、一夜漬けのように考え出して突然浮かぶものではなく、毎日24時間アンテナをたて続けていると、唐突に引っかかってくるものだ。だから私は常にノートや携帯に思いついたことをメモしており、ひとまずそれらをすべて大きな紙に書き出す。その思いつきを種としていくつかの特集案と連載、単発の企画を練る。
以前も書いたかもしれないが、前田司郎の小説の素晴らしいところは、人間が24時間のうち16時間起きていたとして、そのうちまともなことを考えているのはおそらく10%ぐらいであろう。それ以外の時間は、ろくなことを考えていないか、考えていたとしても考えをやめた瞬間に考えていたことも忘れてしまうようなことか、まったく何も考えてないかのどれかだ。その無意識と半意識とでも呼べばいいような状態の意識を表現するのが猛烈にうまいのである。あっ、俺、電車に乗っているときこんなこと考えているかも......と思わされることしきりだ。
最新刊『逆に14歳』(新潮社)でもその才能はいかんなく発揮されており、特に今作の主人公は余命14年ぐらいと自分たちで考えている老人たちで、そのふたりが奇妙な同居生活をするものだから、その半意識のぼけっぷりがたまらないのでる。しかしおかしくて笑っていると、突然真剣なことを言ってきたりするから危険である。まるで高野秀行や宮田珠己のエンタメノンフを読んでいるような感じである。
同時収録のシナリオ「お買い物」を読んでいて気づいたのだが、前田司郎の本職は劇団の作・演出家で、そうすると小説で書いているような意識下のことは、自分で表現することができないのである。そこは役者の演技がものをいうわけで、なるほどだからこそ前田司郎は小説を書くのかと思った。
『誰かが手を、握っているような気がしてならない』(講談社)『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』(幻冬舎)で少しわかりにくい方面に進んでしまったかと心配していたのだが、今作はハッキリ言って傑作である。半意識の描き方はもちろん、どちらの作品も最後の幕引きが非常にうまいのだ。前田司郎の才能はとどまるところを知らない。
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朝、会社に行こうとすると娘から声をかけられる。
「パパ、今日、3年生最後の学習発表会なんだ。パパ来られるよね」
うん、と言いたいところだったのだが、本日は本屋大賞〆切の週明けで、ファックス投票の打ち込みをしないといけないのだ。また「本の雑誌」5月号の特集「○秘新作」の〆切明けで、こちらも作家さんからの原稿に返事を書いたりしなければならない。だからどう考えても1時半の学習発表会には参加できないわけで、首を縦に振ることはできなかった。娘は「わかったよ」と言って、階段を駆け上がっていった。
会社に着くとやはり大量のFAXとメールがあり、私は意識をシャットダウンし、一心不乱に仕事をこなす。ふと顔を上げたとき、娘の学習発表会が始まる時間であった。
夜、妻からメールが届く。
「発表会の後の懇親会で、先生から褒められたよ。読書マラソンは全校生徒でトップなんだって。あと校内ランニングも3年生でいちばん走っているんだって。」
本とランニング。私とまったく同じではないか。ということは......。その答えは妻からのメールに書かれていた。
「あんたが勉強すれば娘も勉強するんじゃない?」
DVDレコーダーが壊れたので、上新電機へ持っていく。購入したとき値引きに値引き5年保証はいらないと伝えたのだが、「ハードディスクレコーダーは壊れやすいから絶対入っておいたほうがいい。じゃあいいです、その分ポイントを上乗せしますから入ってください」と言ってくれた店員さんに感謝。無料で修理してもらえるとのこと。
自宅に帰って塩焼きそばを作る。3食入っているのだが、妻、娘、息子の3人でこれではまったく足りない。昨日の残りご飯があったので、チャーハンを追加。娘はそれでも足りない様子で、パンを食べていた。どんなウンコをしているのやら。
雨がやんだのでランニング。10キロ走ってシャワーを浴び、都庁へ向かう。
本日は『放っておいても明日は来る』に登場した屋久島の怪人・野々山富雄さんの結婚パーティなのだ。会場は駒沢大学探検部、東京農大探検部の面々でいっぱい。私が知っているのは同じく「あすくる」メンバーの旅行会社の乱暴者・金沢昇太さんのみ。頼みの綱だった高野秀行さんは、海外遠征中で欠席。会途中、和光大学探検部OGの母娘が、ミャンマーの少数民族の踊りを披露。それがあまりに素晴らしく、つい涙腺が緩んでしまった。
金沢さんと新宿で別れたのち、新宿をブック・クルージング。
私がいま最も注目している若手作家ふたりの新作が出ていたので購入。
『逆に14歳』前田司郎(新潮社)
『南の子供が夜いくところ』(角川書店)
それ以外に購入したのは
『グレートジャーニー 人類5万キロの旅2』関野吉晴(角川文庫)
『崩れ』幸田文(講談社文庫)
『さらば、荒野』北方謙三(角川文庫)
『眠狂四郎無頼控(一)』柴田錬三郎(新潮文庫)
である。
阿佐ヶ谷や吉祥寺など中央線を営業。
阿佐ヶ谷の書楽は、もし『書店百名山』という本を出すなら絶対その1軒に入るだろうお店。スタンダードでありながら発見のある、私の大好きな町の本屋さんである。また吉祥寺のリブロを訪問すると文芸のフェアコーナーで「長嶋有漫画化計画」というフェアが開催されていた。日本でここだけで行われているフェアである、漫画家のPOPはなんと直筆だという。必見!
会社に戻ると顧問の目黒さんがサイン本(『帰ってきちゃった発作的座談会』)作成のため来社。久しぶりに北上節炸裂の読書トーク。「大島真寿美の『戦友の恋』(角川書店)は、発売時期(11月30日)が悪いからどのベストや賞に入ってこないけど、年間ベスト1級だぜ。『対岸の彼女』『肩ごしの恋人』以来の女性友情ものの傑作だよ。」
7時(夜のだよ)に飯田橋の沖縄料理屋「島」へ。太洋社Tさん、コスミックのAさん、学陽書房のTさん、Sさん、建築技術のTさん、千倉書房のKさん、ミシマ社のWさんと飲む。一見なんのつながりもなさそうな出版社の集まりなのだが、元を正せば山下書店にいらしたNさんを中心にする飲み会だったのである。
そのNさんは書店員を辞め、カイロプラクティックドクターとなり、いまや都立大前で病院を開いている。そのNさんがいなくなっても飲み会は続けられ、年に2、3回、すでに10年以上の付き合いではなかろうか。
出版業界のもろもろについて話していると「本を置くだけで売れる時代があったのよ」とコスミックのAさんは言う。Aさん、コスミックの前は春陽堂で働いており、書店営業40年の大ベテランの人である。
そういえばこの「島」は、今はなき文鳥堂四谷店のSさんや同じく文鳥堂赤坂店のHさんとよく飲んだ店だった。そんなことを思い出しつつ、オリオンビール、泡盛水割り。ラフティ、麩チャンプルー、焼きそば。焼きそば、まいうー。
帰路の京浜東北線で、優先席に座って携帯をいじくっていた若い女性に向かって、酔っぱらったおじさんが叱りつける。いいぞいいぞと思ったのもつかの間、若い女性に「うるせー」と怒鳴り返されたおじさん、あろうことか「ファック・ユー!」と叫んだのであった。
おじさんは上野駅で降りていった。おそらく常磐線の乗り換えて、茨城に帰るのだろう。あの町には「ファック・ユー!」が大好きな輩がいっぱいいるのだから。
池袋・ジュンク堂の田口さんを訪問すると「やっとね」と話される。そうなのである。Jリーグ開幕はもうすぐそこなのである。しかし田口さんの応援するジェフユナイテッド千葉市原は今年からJ2だからスタジアムでお会いすることはないのである。
すっかり弱気になっている田口さんは「ホームで18試合あったら半分は勝つわよね? 去年なんか行けども行けども勝てなかったんだからそれだけ勝ち試合が見られたらJ2でも十分だわ」と低い目標を語られる。「いやいやあのメンバーなら一年で昇格できますよ」と言いつつ、あれほどのメンバーで最終節まで苦労した浦和レッズのことを思い出す。
J2といえば『J2白書--51節の熱き戦い』J's GOALJ2ライター班(東邦出版)という本が出ていて、これを読むとJ2を楽しんでいるサッカー文化が伝わってくる。浦和が降格した年は入れ替え元年で、その恥辱ばかりが頭にあり、リーグ自体もJ2を楽しむなんて風潮はどこにもなかった。
地下のコミック売り場のTさんを訪ねると、「あっ杉江さんちょうど良いタイミングでいらっしゃいました」と色紙を差し出される。なんだろう、田口さんの3作目の著作『書店員のネコ日和』(ポプラ社)が出るから、またその出版記念用の寄せ書きかと思ったら、その田口さんとリブロの礎を築き、東京にジュンク堂を根付かせた中村文孝さんへ贈る色紙であった。なんと明日で退職されるという。嗚呼。ひとつの時代が確実に終わろうとしている。
5時に神田へ移動し、大竹聡さんの新連載「浅草、上野、神田ぶらりぶらり」の取材。今回はお酒大好きの新入り編集者ミヤサトも同行。
神田をぶらぶらした後、大竹さんに無理を言って銀座のバー・ロックフィッシュへ連れて行ってもらう。噂のハイボールは、まいうーで、素晴らしいお店だった。
読み出してすぐ「何なんだこの本は?」と驚き、あわてて表紙を見直してしまった。
そこにはいたって真面目な様子で『マンチェスター・ユナイテッドクロニクル』ジム・ホワイト著(カンゼン)とあるが騙されてはいけない。世界に名だたるサッカーチームのいっけんまともな<正史>に見える600ページ近いこの本の中身は、マンチェスター南部に生まれ育ち、小学生からサッカーに目覚め、どこへ行っても出身地を聞かれることを誇らしく感じていた正真正銘マンチェスター・ユナイテッドサポーターである著者の偏愛にまみれたユナイテッド130年の物語なのである。
だからこそ<正史>であればページの隙間に隠されるであろう恥ずかしい出来事も愛憎なかばするサポーター心理で描かれ、しかも<正史>のなかでは存在すら埋もれさせられてしまうサポーターの行いも掘り起こされている。そういう意味ではこれはマンチェスター・ユナイテッドの物語ではなく、どこの国のどこのチームにもあてはまる、おらがチームの物語だ。しかしマンチェスター・ユナイテッドには語られるべき物語がたくさんあるのだ。ミュンヘンの悲劇はその筆頭でこのシーンは特に涙なしには読めない。
最初に書いたようにこの本は600ページ近くある。しかし英国人ならではの皮肉たっぷりの文体で描かれる文章は、まるでサッカー本ベスト1でもある伝説の名著『ぼくのプレミア・ライフ』ニック・ホーンビィ(新潮文庫/品切)なみで、まったく飽きさせられることはない。正真正銘のサッカーバカ本であろう。浦和レッズが50周年を迎えるとき、私はこういう浦和レッズ・ストーリーを読みたい。
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ここのところ訪問するたびに「むむむ」と感じていたのが有隣堂ヨドバシアキバ店である。以前はまだどこかスタンダードな棚作りだったのだが、ここ数ヶ月いい意味で開き直ったようで、棚や平台に勢いを感じていたのだ。
本日訪問した際も、入り口平台のいちばん目立つところに『おかき本』吉松文男・直子(オークラ出版)という犬本が積まれていたり、その隣には『世界のどこかで居候』中山茂大(リトル・モア)が多面積みされていた。面白いお店ではないか。
ただこの数ヶ月訪問した際に新しい担当者さんに話を伺うことができず残念に思っていたのだが、本日やっとその秘密を知ることができた。
「スタッフみんなノリがいいんで、面白い!って思った本をどんどん展開しているんですよ」
文芸担当のEさんはうれしそうに話される。その楽しむ姿勢が棚に反映しているのだろう。しばらく目の離せないのお店だ。
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雑誌の「anan」までもが本の特集をしていてびっくりする。
こうなったら「本の雑誌」は「honhon」と雑誌名を改め、「抱かれたい作家」特集をしましょうよと社内で提案するが、いつもどおり無視。
おわび:『おかき本』は猫本でした。ごめんなさい。
いきなり春の陽気。
外回り日和なのだが、一日中社内にこもって新刊チラシとDM作成。
編集部は「本の雑誌」4月号制作の佳境を迎え、発行人浜本の十八番、割り付けベンベン音頭が始まる。
「これがこう来てベンベン♩ あら、そうするとこちらが入らぬかベンベン♩」
そのあまりに独創的な仕事ぶりを初めてみた新入社員のミヤサトはあんぐり口を開けている。
「なんだなんだ俺の文句あるのかベンベン♩ 俺を敵にまわすと怖いんだベンベン♩」
ミヤサトが会社を辞めないことを祈る。