3月12日(金)
- 『五つの旅の物語』
- 椎名 誠
- 講談社
- 3,240円(税込)
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- 『いいかげんな青い空』
- 椎名 誠
- 朝日新聞出版
- 2,700円(税込)
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- 『波照間の怪しい夜』
- 椎名 誠
- 雷鳥社
- 1,620円(税込)
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不吉なメールが私の携帯に届いたのは、2月の初旬だった。
「椎名さんが杉江さんを探してました。5時には戻ると伝えました」
送り主は、事務の浜田であるが、そのとき私は横浜におり、時間は4時を過ぎていた。まだまだ訪問しなければならない書店さんが何軒もあったし、直帰する気まんまんだった。5時に戻る? 誰がそんなこと言った?
しかし戻らなければならない、なります、なれ、なろ、なろ。
椎名さんが私に用があるなんてそうあることではない。かつてあったときは「明日暇か? 沖縄に行くぞ」と突然言われた。はじめたばかりの浮き球△ベースの大会に急遽連れ出された。今回は何だ? 今度は北か、北海道か?
会社に戻ると4時56分だった。セーフ。
私が戻ると同時に浜田は内線をまわし、杉江帰社の報告をする。
トイレに行きたかったが、すぐに椎名さんがやってきた。
でかい、怖い。
いつでもそう感じる。
「おお、悪いなあ」
「いえ......」
「あのなあ、俺、ここんとこいっぱい本が出てるじゃんか」
「はい、はい」
「それでさあ、各出版社が書店でサイン会とかトークショーをやってくれないかって言ってきてるわけさ」
「はい、はい」
「そうなんだけどさあ、一社で引き受けたらそこの本しか売れないじゃんか」
「はい、はい」
「返事は一度でいい」
「......」
「......」
「あっ、はい」
一瞬殺されるかと思ったが、椎名さんはすぐに優しい表情に戻った。
「それでなあ、著者にとってはどれも大事な本なわけよ。だから全部一緒にできないかと思っているわけさ」
「は......い」
「合同慰霊祭ってあるじゃん」
「ははは」
「面白いだろ?」
私は、この会社に入って13年過ぎているわけで、それは椎名さんとの付き合いの長さでもある。その間に気づいたのであるが、椎名さんの「面白いだろ?」は、危険なのだ。沖縄に突然連れて行かれたときも八丈島に流されたときもいつもはじめは「面白いだろ?」であった。
そういえば本の雑誌社に勤める前に働いていた会社には「敬称三段活用」というのがあった。
いつもは先輩から「すぎえ」と呼ばれているのが、突然「すぎえくん」と「君付け」で呼ばれる。それはたいてい書類仕事などを頼まれるときだった。たまに「すぎえちゃん」と呼ばれるときがあった。そのときは危険度50%で、土日の休日出勤を意味していた。そしてもっと危険なのが「すぎえさん」と呼ばれるときで、これはもう間違いなく長期出張を意味していた。
そのちゃん付け同様に危険なのが、椎名さんの「面白いだろ?」なのであるが、ほんとうに面白そうだから困る。
5冊同時期刊行の合同慰霊祭だって? 面白いじゃないか。
気づいたら私は笑っていた。
そこからの椎名さんの指示は簡潔にして、明瞭であった。その合同慰霊祭をやらせてくれる書店さんを探してきて欲しい。時期は2月末から3月中旬。できれば都内で2軒ほど。
走った。私はすぐさま走った。そして二つ返事で了解してくれたのが、銀座の教文館さんと池袋のジュンク堂さんだった。
椎名さんに報告すると「早いな」と褒められた。早いのは私の得意とするところだ。
そのトーク&サイン会の第一弾が本日ジュンク堂池袋店で行われた。
大盛況に終わったのであるが、最後に片付けをしていると、同様に手伝いにきていた浜本と浜田が同時に声を上げた。
「いっぱい本が売れたけど、うちの本ないんだ」
そうなのである。本の雑誌社からの新刊はしばらく先なのである。
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椎名誠のトーク&サイン会!
いっぺんにたくさん本が出てしまいました。
だからトーク&サイン会。
「本の力・写真の夢」
開催日時:3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場:教文館9階ホール
参加方法:教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
入場料:1000円(税込)
問い合わせ先:教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447
「椎名さんが杉江さんを探してました。5時には戻ると伝えました」
送り主は、事務の浜田であるが、そのとき私は横浜におり、時間は4時を過ぎていた。まだまだ訪問しなければならない書店さんが何軒もあったし、直帰する気まんまんだった。5時に戻る? 誰がそんなこと言った?
しかし戻らなければならない、なります、なれ、なろ、なろ。
椎名さんが私に用があるなんてそうあることではない。かつてあったときは「明日暇か? 沖縄に行くぞ」と突然言われた。はじめたばかりの浮き球△ベースの大会に急遽連れ出された。今回は何だ? 今度は北か、北海道か?
会社に戻ると4時56分だった。セーフ。
私が戻ると同時に浜田は内線をまわし、杉江帰社の報告をする。
トイレに行きたかったが、すぐに椎名さんがやってきた。
でかい、怖い。
いつでもそう感じる。
「おお、悪いなあ」
「いえ......」
「あのなあ、俺、ここんとこいっぱい本が出てるじゃんか」
「はい、はい」
「それでさあ、各出版社が書店でサイン会とかトークショーをやってくれないかって言ってきてるわけさ」
「はい、はい」
「そうなんだけどさあ、一社で引き受けたらそこの本しか売れないじゃんか」
「はい、はい」
「返事は一度でいい」
「......」
「......」
「あっ、はい」
一瞬殺されるかと思ったが、椎名さんはすぐに優しい表情に戻った。
「それでなあ、著者にとってはどれも大事な本なわけよ。だから全部一緒にできないかと思っているわけさ」
「は......い」
「合同慰霊祭ってあるじゃん」
「ははは」
「面白いだろ?」
私は、この会社に入って13年過ぎているわけで、それは椎名さんとの付き合いの長さでもある。その間に気づいたのであるが、椎名さんの「面白いだろ?」は、危険なのだ。沖縄に突然連れて行かれたときも八丈島に流されたときもいつもはじめは「面白いだろ?」であった。
そういえば本の雑誌社に勤める前に働いていた会社には「敬称三段活用」というのがあった。
いつもは先輩から「すぎえ」と呼ばれているのが、突然「すぎえくん」と「君付け」で呼ばれる。それはたいてい書類仕事などを頼まれるときだった。たまに「すぎえちゃん」と呼ばれるときがあった。そのときは危険度50%で、土日の休日出勤を意味していた。そしてもっと危険なのが「すぎえさん」と呼ばれるときで、これはもう間違いなく長期出張を意味していた。
そのちゃん付け同様に危険なのが、椎名さんの「面白いだろ?」なのであるが、ほんとうに面白そうだから困る。
5冊同時期刊行の合同慰霊祭だって? 面白いじゃないか。
気づいたら私は笑っていた。
そこからの椎名さんの指示は簡潔にして、明瞭であった。その合同慰霊祭をやらせてくれる書店さんを探してきて欲しい。時期は2月末から3月中旬。できれば都内で2軒ほど。
走った。私はすぐさま走った。そして二つ返事で了解してくれたのが、銀座の教文館さんと池袋のジュンク堂さんだった。
椎名さんに報告すると「早いな」と褒められた。早いのは私の得意とするところだ。
そのトーク&サイン会の第一弾が本日ジュンク堂池袋店で行われた。
大盛況に終わったのであるが、最後に片付けをしていると、同様に手伝いにきていた浜本と浜田が同時に声を上げた。
「いっぱい本が売れたけど、うちの本ないんだ」
そうなのである。本の雑誌社からの新刊はしばらく先なのである。
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椎名誠のトーク&サイン会!
いっぺんにたくさん本が出てしまいました。
だからトーク&サイン会。
「本の力・写真の夢」
開催日時:3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場:教文館9階ホール
参加方法:教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
入場料:1000円(税込)
問い合わせ先:教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447