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4月16日(金)

 『1Q84 book3』の販売で邪魔になるだろうと、腰を引きつつザリガニ営業。

 夕方になったので、会社に戻ろうと山手線に乗っていると、いきなり頭を叩かれた。なんじゃ!と顔を上げるとそこに立っていたのは兄貴だった。広い東京、やたらに走る山手線、長い車両に扉がたくさん。こんな偶然があるだろうか。

 それにしても目の前に立つ兄貴は、普段着にニット帽、その耳には立派なヘッドフォンが装着されていた。父親の会社を継いでいるはずなのだが、もしや私の知らないところで倒産してしまったのだろうか。

「あっ、これ? 別に服が仕事するわけじゃないじゃん」

 昔から自由というか、常識なんて関係ない男だった。不思議に思った私がバカだった。

 なんだか兄貴は出版業界のリストラ中のブログを読んで怒り心頭のようであった。
「紙の束にインクを載せているだけのもん作って年収1000万以上だと? お前らの業界はバランスが完全に狂っているよ。小売りにもっと金を落とさないと崩壊するのは当然だよ」

 そういえば、昔から正義感の強い男だったのだ。
 いつも私は怪獣役をやらされ、泡を吹くまでウルトラマンになった兄貴にぶちのめされていたのだ。

 兄貴は保育園に預けている息子を迎えに行くと言って高田馬場の駅で降りていった。
 私はこの日、仕事のことで頭がこんがらがっていたのだが、その背中を見ていたら、まあどうにかなるさという気がしてきたから不思議だ。

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