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4月21日(水)

天地明察
『天地明察』
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
1,944円(税込)
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 昨夜は疲労困憊で本屋大賞の打ち上げも途中で切り上げたが、今朝になってもどっぷり疲れは残っていた。膝から下に力が入らない。いつまで経っても布団を出る踏ん切りがつかず、だらだらと横になっていた。

「ドン!」
 その背中を突然蹴飛ばされる。この春、小学4年生になった娘である。娘は女子サッカーをやっているから、その蹴りが半端ではない強さである。
 痛みに悶絶していると
「父ちゃん、いつまで寝てるんだよ」
と今度は馬乗りになってくる。マウントポジションだ。

 ふと気づいたのだが、いつの間にか私の呼び名は「パパ」から「父ちゃん」になっている。
 どんな心境の変化があったんだろうか。いや今はそれどころではない。とにかく馬乗りの娘をどかさなければならない。

「だって昨日本屋大賞の発表会だったよ」
「ほんやたいしょう? だから?」
「お前知ってる? 本屋大賞って?」
「はあ? 朝からめんどくさいこと言ってないで起きてよ。早く私の服、用意して」
 娘は業を煮やしそう叫ぶとどすんどすんと強い足音で寝室を後にした。

 私はというと相変わらず布団にくるまっていたのだが、娘の言葉を思い出し、こみ上げてくる笑いに肩を揺らしていた。

「本屋大賞? だから?」

 その通りである。

★    ★    ★

 しかし世の中は、どうもそうではなかったようだ。
 昨夜の発表会にテレビカメラが11台も入っており、朝のニュース、ワイドショーでその様子が映され、大賞を受賞された冲方丁さんが生出演している番組もあった。

 露出が増えればそれだけ本も売れるのか、午前中から『天地明察』が信じられない勢いで売れ出し、amazonでも『1Q84』や『体脂肪計タニタの社員食堂』に継いで3位にランクイン。忘れてならないのはこれは昨年11月末に出た本だということだ。笹塚駅前のK書店Mさんを訪問すると「お疲れさまでした。おかげさまで朝から売れてますよ」と声を掛けられ感無量。

 しかも、ある書店さんでは、年配のお客さんが店員さんに「本屋大賞っていつからやっているの?」などと問い合わせ、『天地明察』とともに過去の受賞作である伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)や湊かなえ『告白』(双葉文庫)を購入されていた。

 うーん。これはここ数年でいちばん強烈な勢いかもしれない。なんだか第1回目の『博士の愛した数式』が受賞したときに似た動きだ。あのときゴールデンウィーク前にほとんどの書店から本が消えた。

★    ★    ★

 あちこちの書店さんを駆けずり廻っていると、古希を迎えた母親から電話が入った。
「昨日本屋大賞だったんでしょう?」
「そうだよ」
「お母さん、朝からずーっとテレビ見ているんだけど、あんた全然映らないね。なんか沖縄のお笑い芸人、なんだっけ? あんたが好きだったハウンドドッグの歌を真似する人......」
「山口智充? ぐっさん?」
「そうそう。それに似た人が偉そうに映っているけど、あんた出ないじゃない」
「そりゃあそうだよ、俺、裏方だから。会場なんてほとんど入ってないもん。受付でお土産の準備したり、舞台の袖で進行確認したりして」
「嘘つきなさい!」
「えっ?!」
「お母さん気づいたんだけど、本屋大賞が始まって今年で7年目だけど、あんたが映ったことないのよ。それでよく考えてみたんだけど、あんたが本屋大賞なんてできるわけないのよ。だって運動会も文化祭もサボって麻雀していた子よ。それどころか学校の掃除だってしないで先生を泣かせていたのに、こんなに大勢でひとつのことできるわけないじゃない。協調性もないし、わがままなんだから。きっとこのぐっさんみたいな人がやっているのを自分でやったって嘘ついてるんでしょう」
「......」
「じゃあね、土曜日は埼玉スタジアムね。バイバイ」

 私のなかに流れている血は、いったいどんな血なんだ。

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