直行で取次店へ向かいながら2010年度大宅壮一ノンフィクション賞受賞作『日本の路地を旅する』上原善広(文藝春秋)を読む。
路地とは被差別部落のことをさし、著者自身もそこで生まれ育った一人なのであるが、その著者が全国の路地を旅する。重苦しいテーマなのだが、なぜか以前そこにあったはずの文化をたどる旅行記としてふつうに面白く読める。エンタメ・ノンフとはまた違うのだろうが、読み応えがありながらも、読みやすさを兼ね備えている素晴らしいルポルタージュ。
『ミーツへの道』の見本を持って取次店廻り。それほど混んでおらず、無事終了。
昼飯は月に一度の楽しみである、神楽坂・らーめん黒兵衛の味噌ラーメン(野菜入り)。
ジュンク堂新宿店へ移動し、柴崎友香さんの図書カード3万円企画の立ち会い。柴崎さんは「文藝」夏号で長編小説「寝ても覚めても」を、「新潮」6月号では「ハルツームにわたしはいない」を発表されたばかりなのであった。「ハルツームにわたしはいない」では、さっそくiPhoneを小道具として使っており、その使い方が絶妙なのである。iPhoneを使った最初の小説なのではなかろうか。
3万円分(以上!)買い終えた柴崎さんと別れ、一路駒場スタジアムへ!
水曜日の、しかも駒場スタジアムで行われる試合は、日常のなかに突然現れる非日常空間として大好きなのであるが、そこで行われた試合は散々であった。まさに「This is 駒場スタジアム」的なヒドイ内容で、僕らはいったいこんな夜を何回過ごせばいいんだろうかと途方に暮れる。
それにしても今季ワーストの試合が、駒場とは......。
もしや浦和レッズが悪いのではなく、このスタジアムが悪いのではなかろうか。聖地なんていって特別視していたが、実は地中深くに「シュトウタセン」とか「ヤルキナシン」といった有害物質が埋まっており、それが選手に悪影響を及ぼしているのだ。あるいは南米のようにカエルが埋められているのかもしれない。この体たらくはそうとか考えられん!
なんて憤っていたら、バスに乗りはぐれ、ついでに弁当も忘れてきてしまった。
歩いて帰宅。
今週は死ぬほど忙しく、しかも昨日は昇進ビックリパーティで遅くまで飲んでいたのに、なぜか早朝5時半に起き出して、8キロも走ってしまった。晴れていると条件反射的に走ってしまう身体をどうにかしたい。
疲れてくると本が読めない。特に小説がダメ。『小暮写真館』宮部みゆき(講談社)も37ページでストップしたままだ。
『ミーツへの道』の事前注文締め作業を終えてから、大竹聡さんの待つ浅草へ。
ぶらりの取材の後、銀座・ロックフィッシュへ流れ、そこで「酒とつまみ」の渡邊さんと合流。渡邊さんは、日曜日に府中で大酒(もちろん競馬の後)、月曜日は横浜で取材後、気づいたら吉祥寺で始発を待つ爆飲で、テーブルに置かれたハイボールが一向に減っていかない。こんな「酒とつまみ」の人は見たことがない! と驚いていたのだが、私が眠くなって帰った後、復活したようだ。どうしてそこまでして人は酒を飲むのか。
夜、知人というか友人というか縁のある人の昇進パーティーを、私の出版記念パーティー同様ビックリバージョンで開く。知人には、「新入社員が飲みたがっているので」と誘い出し、約束した池林房で、40人以上の人がこっそり待つという趣旨である。しかもそこには知人が一人で作る雑誌をもじった文集まで用意され、最後には奥さんやお子さんの手紙まで披露するほどの手の込みよう。
そのほとんどの段取りを本屋大賞実行委員の人たちがやっていたのだが、その姿を見て、8年前に本屋大賞が出来た理由がよくわかった。この人たちの面白がる力、実行力、そしてお祭り好きは、尋常ではない。そして私はいつもそこへ巻き込まれてしまうのだ。
それにしても一生懸命やっている人は多くの人から応援されるのだ、ということがあらためてわかった夜だった。
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- 『散歩の達人 2010年 06月号 [雑誌]』
- 交通新聞社
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「本の雑誌」で「黒豚革の手帖」を連載スタートしていただいた内澤旬子さんと打合せ。
内澤さんが何度も「スーツ男子」を連呼していたのだが、目の前にいる私はその「スーツ男子」にカウントされていなかったようだ。スーツは着ていても、男子ではないということだろうか。38歳だから仕方ないと思うが、もしや年齢の問題ではなかったのかもしれない。そのことは深く考えないようにしよう。
「炎の浦和レッズ応援記」を連載させていただいている「散歩の達人」6月号が店頭に並んでいた。こういうものは書き手への献本の方が遅くなるわけで、店頭で自分のページが本当に載っているのか確認したいのだが、なんだか恥ずかしくて手が出ない。載ってますように......。
夕方、「ミーツ・リージョナル」のホームである関西の書店営業をお願いしていた140BのAさんと打合せ。自分が営業せずに注文が集まるというのは私にとって初めての経験で何だか不思議な気分だ。
毎年、今年こそ全国の書店さんを訪問しようと誓うのであるが、怒涛の日常に追われ、目標は達成出来ず。本が出来たら、絶対関西の書店さんを回ろう。
やっぱり天才だなあ......と思わず声が出たのは、『絶叫委員会』穂村弘(筑摩書房)を読んでである。
「本の雑誌」の連載「続・棒パン日常」でも、いつも「うわっそう来るか」と感心することしきりなのだが、なんだろう、歌人ならではの的確な言葉選びはもちろんなのだが、人が普通気づかない、あるいは無意識に聞き流してしまうことをしっかり拾ってくるセンスが、やっぱりもう別世界の人なのである。
といっても難しい話でなく、電車の中で読むと結構キケンな思わず吹き出してしまうエッセイであり、そういう意味では宮田珠己さんに相通じる部分があると思うのだ。
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中央線を営業。
今さらながら五木寛之の『親鸞』(講談社)が売れているそうなのだが、それは上巻をネット上で全文無料公開したからというよりは、そのニュースが新聞の社会面やあちこちで取り上げられたことによる広告効果のようだ。面白い。
週末に走れなかったので5時半に起きてランニング。10キロ。
朝から気温が上がっており、走り終えるとTシャツはびっしょり。
通勤読書は『ジョージ・ベストがいた マンチェスター・ユナイテッドの伝説』川端康雄(平凡社新書)。
1960年代から70年代にかけて活躍したジョージ・ベストの伝記。サッカー選手でありながら「5人目のビートルズ」とまで言われるほどの人気を博し、サッカー界初のポップスターとなった人である。そんなサッカー選手の伝記をなぜか日本人の著者が書いているのだが、著者略歴からは想像がつかないほどサッカー及びジョージ・ベストに詳しく、いったいこの著者は何ものなのだろうか。
本文はもちろんだが、酒や女に溺れ、混乱した人生を送ったのが手にとるようにわかる巻末の年譜が面白い。
イエティを探しにブータンへ行っていた高野秀行さんが帰国したので、さっそく旅の話を伺いに行く。かなり面白い旅だったようで、作品になるのが楽しみ。
その後、渋谷や神保町を営業。
とある書店さんで伺った話が興味深い。
そのお店は以前、二つある入り口の近いところに、レジカウンターが二つあったのだが、これを改装でひとつにした。
書店の経費削減策としてはよく取られる方法で、レジがあればそこに人が必要であり、そういう意味では人件費の削減にもなるし、そもそもレジのレンタル料も減るのだろう。
しかしそれはお客さんにとっては不便を生むわけで、売り上げ減につながるのではないかと改装時に私は考えていたのだが、こちらのお店ではその不便が逆に売り上げ増につながっているというではないか。
今まで雑誌1冊買って帰っていたお客さんが、清算するために奥まで歩くことによって、ほかの本や棚も目に入り、購入していくそうで、平均客単価が上がったそうだ。
店長さんはそれを見込んでの改装だったそうだが、私はこういう人の行動の不思議さ、みたいなものがとても好きだ。
週末は浦和レッズ対ベガルタ仙台の観戦のため仙台で過ごした。
試合観戦では想像を絶する出来事があったのだが、詳しくは「散歩の達人」にて。次々号での掲載予定。
翌日曜日は仲間たちと別行動し、仙台の書店さんを駆け足で廻った。「仕事熱心ですねぇ」と言われたがそうではなく、本屋さんにしか興味がないのである。丸善、ジュンク堂2軒、あゆみブックス2軒、ブックエキスプレスを覗く。
通勤読書は、山本幸久の『ヤングアダルト パパ』(角川書店)。14歳の男の子が子どもを持つという変化球な設定なのだが、中身はかなりシリアスで、著者名を見ずに読み出したらとても山本幸久の作品とは思えないだろう。そういう意味では評価が分かれる作品かもしれないが、私はかなり楽しめた。
太田和彦さんのところへゲラをお届けした後、営業は川崎方面へ。
「NEWS本の雑誌」でも報告したが、丸善ラゾーナ川崎店では『階段途中のビッグ・ノイズ』越谷オサム(幻冬舎文庫)を返金保証付きで展開していた。
担当の沢田さんは、以前より「もう書店員は向こう側(出版社側あるいは広告側)として見られ始めている。だから面白い本だと伝える新しい方法を考えないと」と話していたのだが、ついにこのような新たな試みが(以前ときわ書房で茶木さんがやっているが)行われるとは驚いた。
もちろん「売らんかな」という発想ではなく、沢田さんは心底この作品に惚れ込んでいて、ひとりでも多くの人に読んで欲しいという展開なのであった。
夜は本屋大賞の会議。発表会の反省など。
明日から一泊二日の仙台遠征。そのことを考えただけで思わずにやけてしまう。
思えば今週は『TOKYO 0円ハウス0円生活(大和書房)の坂口恭平さんや今もっとも新作を楽しみにしている小説家・前田司郎さんに会えたりして幸せな一週間だった。
何か気が乗らず日記を更新しないでいたらとある書店さんから「生きてるか?」と心配のメールをいただいてしまった。ふと気づいたのであるが、この日記は2000年の8月から始まっており、今年で10周年なのではないか。すごいというか恐ろしい。記念に1ヶ月の休暇をもらおう。
午前中は、企画会議。
会議が終ると私はまるであしたのジョーのように真っ白になってしまう。
おかげで夜の飲み会が変なテンションになってしまい伊野尾書店の伊野尾さんに「どうしたんすか?」と心配されてしまった。
通勤読書は『限界集落』曽根英二(日本経済新聞出版社)。テレビ報道記者である著者が、岡山と鳥取の県境の「限界集落」と呼ばれる村に3年間通いつめ、田畑の現状や固有牛の復活にかける牛飼、ぶどう栽培に希望を燃やす町など、その限界と希望を描いたルポルタージュ。告発書というよりは、人が今そこでどのように暮らしているのか丁寧に取り上げた好著である。
東京駅のY書店を訪問すると担当のUさんから「今年のベスト1が出ましたよ!」と大推薦されたのが、『日本のセックス』樋口毅宏著(双葉社)。樋口毅宏といえば昨年『さらば雑司ヶ谷』(新潮社)が圧倒的なドライブ感で大変面白かった超注目の新人で、この『日本のセックス』もすでに購入していたのであった。ああ、早く読まなくては。
その後、地下鉄構内の消防法だかの問題で残念ながら閉店となった山下書店銀座店の新店である、東銀座店を訪問。ちょうどいいサイズの店内にはオープンして間もないのに多くのお客さんがおり、すっかり街の本屋さんとして根付いている様子だった。
ドキドキで待っていた日本代表の発表であるが、私のサプライズ選出はなかった。2年連続チーム得点王、過去最高のコンディションで迎えたシーズンだったので、落選の結果に大変落ち込む。
2014年に行われるブラジルワールドカップのときは、42歳であり、さすがに選手としてのぞむのには無理があるだろう。こうなったら監督としてワールドカップを目指すか。
夜、池林房にてJ書店を退職されたIさんの送別会。
「ドスン!」という音ともに、ところどころ芝のめくれたサッカーコートの真ん中で女の子が倒れた。相手の蹴ったボールをもろにお腹で受けたようだったが、ベンチからはそれが誰だかわからなかった。私の娘のチームであることは間違いない。審判が試合を止めるホイッスルを鳴らすと選手たちがその倒れた子の周りに集まり、一層見えなくなってしまった。隣で指揮をしていた監督は立ち上がるとその輪に向かって走っていった。
監督が抱え上げたのは私の娘だった。
急に心臓の音が大きくなったような気がした。私も慌てて駆け寄ると、監督から娘を抱き取った。娘はお腹を押さえて泣いていた。泣くのも苦しい様子だった。
★ ★ ★
少女サッカーは、アンダー12(5、6年生)とアンダー10(4年生以下)に分かれて試合が行われる。一昨年の冬からサッカーを始めた娘は、この春4年生になったので、アンダー10の最上級生というわけだ。
昨年までは週末の練習や試合のうち片方だけ行けばいいやとのん気に考えていたようだが、さすがに4年生になってからは、サボらずに行くようになっていた。ただそうは言っても、私がうるさいから行くというような感じであり、真剣に取り組んでいなかった。だからアンダー10のチームのなかでも下手な方から数えた方が良い実力だった。
それがゴールデンウィーク前に行われた大会に出場し、2日目の最終戦まで優勝の可能性を残したあたりから目の色が変ってきたのである。「優勝するとトロフィー貰えるんだよね? 誰が貰いに行くの? キャプテン? 明日私がキャプテンの番なんだけどどうしよう」と、すでにサッカーボールを蹴った少女がてっぺんに付くトロフィーを手にしたような話しぶりだった。
しかし残念ながら決勝戦で負けてしまった。
それもディフェンスである娘が、一度はボールを奪ったのに、再度相手フォワードに奪い取られゴールを決められてしまった。だれも娘を責めはしなかったが、みんなそのことを知っていた。そして誰よりも娘が知っていた。
帰りの車のなかで、娘はポツリと呟いた。
「負けるの、くやしいね」
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それから一週間後、新しい大会が行われていた。
娘のチームは前日が1勝1敗の成績で、その1敗は県内で一番強いチームに5対0と圧倒的にやられたのであった。そして2日日の1試合目は勝利し、また決勝戦でその強いチームと当たったのだった。
その試合前、監督が選手たちに質問する。
「昨日めちゃくちゃやられたチームだけど、試合できるのうれしい人?」
ハイと手を上げたのは娘だけだった。
娘は堂々とコートに入っていくと、監督に支持されているセンターバックの位置に着いた。その姿は、もはや立派なサッカー選手だった。それから十数分後、娘はお腹にボールを当てて、治療のため退場となった。
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前半を終えハーフタイムになると、チームメイトたちが集まってきた。
「大丈夫?」
「無理しないでいいよ」
「私、代わりに頑張るから」
いつもはそんなに仲が良くない子も真剣な表情で娘を励ましていた。
その言葉を聞いて娘の泣き声はより一層強くなったのだが、その涙はおそらく別に意味に変っていたのだろう。
監督から「いけるか?」と聞かれると、娘はユニフォームの袖で涙を拭い、力強く頷いた。
後半が始まる。
娘がグラウンドに立つ。
私が親指を立てて手を上げると、娘も手を上げた。
ドリブルで一気に駆け上がってきた敵のフォワードに、娘は突っ込んで行く。