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6月28日(月)

 宮田珠己さんと群馬県の迷路温泉へ、昨日から来ているのであった。
「webちくま」で連載している『四次元温泉日記』の取材に、なぜ私が同行しているのかというのは謎だ。なんとなく返事をしているうちにこうなったというか、流されてみたのであった。

 ただ温泉に着いて気づいたのだが、私は温泉が嫌いだった。

 応援していたイングランドが敗退しガックリ。CBの穴は最後まで埋まらなかった。
 誤審は残念であるが、多くのイングランド人があの誤審によって燃え上がったであろう。
 浦和レッズの試合でもそうなのだが、相手よりの判定を繰り返す審判ほど、試合を盛り上げる要素はない。フガーと鼻息荒く床を踏み鳴らし、椅子を蹴飛ばし、そしてハーフタイムに引き上げる審判団へのブーイングは、サッカーの楽しみ(苦しみも含めた)のひとつだ。
 
 ああ、早くJリーグよ、再開してくれ!!

6月25日(金)

 久しぶりの徹夜で、ワールドカップ日本VSデンマークを観戦したので、眠いのなんの。

 しかしそんな眠気をぶっ飛ばしてくれたのが、『本の雑誌』5月号の執筆予定を見てから、ずーっと楽しみにしていた熊谷達也の『銀狼王』(集英社)。

 私も大好きなヘミングウェイの『老人と海』へのオマージュとして書かれた作品なのだが、仙台藩白石領片倉小十郎邦憲お抱えの山立猟師として蝦夷地へ開拓移民として向った二瓶とアイヌが「ホロケウ・カムイ!」といって崇める狼との一騎打ちを描いた物語である。

 とてもシンプルな話なのであるが、だからこそが持つ力強さとそして奥深さがたまらない。早く出社したのをいいことに、駅前のエクセルシオールカフェに飛び込み、最後まで一気読みしてしまった。

『羆嵐』吉村明(新潮文庫)や『羆撃ち』久保俊治(小学館)などが好きな人は、絶対のオススメだ。

 北千住のK書店Hさんと棚構成の話。
 こちらのお店はしばらく前まで文芸書が著者の五十音順で並べられていたそうだが、それを国内小説、ミステリー、時代小説と分けたところ、年配のお客さんの多い土地柄か、時代小説の売れ行きがかなりよくなったとのこと。ミステリーもこれが売れるのかという感じのものがしっかり売れていくようになったそうだ。

 これはまた別の横浜のK書店さんで伺った話なのであるが、こちらは国内の小説と男性女性の著者名五十音順から、性別関係なしの五十音順に変えたそうだ。その理由は、女性のお客さんが多いお店で、女性作家で括ってしまうと男性のお客さんが、買いづらいだろうという配慮からだそうだ。

 一見同じに見える棚構成も、細かいところでお店によって違うのだ。そしてそれらの違いの基準は、お客さんなのであった。

6月24日(木)

  • こびとづかん (cub label)
  • 『こびとづかん (cub label)』
    なばた としたか
    長崎出版
    3,500円(税込)
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 京王線を営業。
 前回の訪問で、店全体が統一テーマでフェアをしているように感じた八王子の有隣堂さんを訪問すると、店長のSさんから「あっ! 7月にもう一度覗きに来てよ」と言われる。

 なんと7月には、手作りクラフトを集めたおもしろフェアを開催するとかで、「本じゃないんですけどね」と自重するSさんなのであるが、本屋さんという場所を面白くするという意味では大変意義深いことなのではなかろうか。そういえば昨年の今頃は、『こびとづかん』なばたとしたか(長崎出版)のフェアを大々的に行っており、やはりフェアの大変面白い書店さんなのであった。

 また別の書店の文庫担当者と話していたのだが、一時期の時代小説ブームに陰りが出てきたそうだ。以前であれば新刊をすべて買われていくお客さんもいたのだが、そういったお客さんが「もう飽きた」と話して帰るとか。

 時代小説と警察小説が、文庫を引っ張っていたように見えるのだが、果たして次はどんなジャンルが時代をつかむのか。そして「時代小説」を読んでいた読者は、どこへ向かうのか。

6月23日(水)

 通勤読書は、すっかりハマっている田中慎弥『犬と鴉』(講談社)。

 戦争が始まり父親が向かうのであるが、空から黒い犬が降ってきたり、足元には言葉が落ちていたり、水道管から声を聴こえたり、生きてるか死んでるかわからないお祖母さんがいたり、ストーリーを追う読書をしたら意味不明で頭を抱えてしまうが、一文一文の文章が素晴らしく、思わずシビレてしまった。すごいな、田中慎弥。

 本の雑誌社に入った当時、当たって砕けろであちこちの書店さんに飛び込んでいたのだが、年とともに、というか経験という贅肉が突き出すと、つい楽な方にと流れてしまっていた。

 こんなんじゃいけないと一念発起し、改めてどかどか飛び込んで行く。
 何度も自爆するが、お店に入る前に膝も震える緊張感がたまらない。失敗してナンボ。まさにFW魂炸裂!

 しかし夜には精神的にクタクタになったので、ランニングへ。イングランド戦まで起きていられるのだろうか。

6月22日(火)

  • 社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年
  • 『社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年』
    木村 元彦
    集英社
    1,320円(税込)
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 通勤読書は、『オシムの言葉』や『誇り』などを書いた木村元彦氏が綴った溝畑宏を中心とした大分トリニータのルポ『社長・溝畑宏の天国と地獄』(集英社)。

 ハコモノ行政と同様に官が主体となってサッカーチームを作るとどうなるのか。あるいは多くの人間を狂わすサッカーの恐ろしさと魑魅魍魎とした人間社会の物語とでも言えばいいのか。

 美術に狂った人間たちを描いた小説『蒼煌』黒川博行(文春文庫)に相通じるものを感じたが、『浦和レッズの幸福』大住良之(アスペクト)とはまったく正反対の本かもしれない。

 埼玉を営業。
 会えたり会えなかったりしつつ、とある書店員さんから「一生懸命やっているんですが、なかなか同僚や上司から認めてもらえなくて」とこぼされる。

 なーに、私なんか本の雑誌社に入って13年、誉められたのは第1回本屋大賞の発表会のときに、思わず浜本が「お前よくやった」と口を滑らせてしまったときだけだ。

 もちろん誰かに認められたい、という思いは人間誰にでもあるだろうが、それが社内の人である必要はないのである。外に出れば会社の人間関係とはまったく違う「社会」があり、そこできちんと評価してくれる人がいるはずなのだ。

 そういえば先日別の失業中だった元書店員さんと会い、その方はちょうどその日出版社への就職が決まったと喜んでいたのだが、私が彼が失業していたとき贈った言葉は、「それぞれのお店や会社で考えると不安になるけど、出版業界という大きな会社に入ったと思えば安心できるでしょう。」という言葉であった。

 それは以前「本の雑誌休刊騒動」で落ち込んでいた私に向かって、とある書店の店長さんがかけて言葉の受け売りなのだが、その店長さんは、私が知っている限り書店を3軒、出版社を1社渡り歩いた出版流浪組のひとりである。

 そんな方が年齢も関係なく、それもステップアップするかのように転職してこれたのは、まさに出版業界という大きな会社に身を埋め、どこでも真剣に本気で仕事をしてきたから何かがあるとそれまでの仕事を認め、声をかけれくる人がいたからだろう。

 その言葉を聞いたとき私はどんな状況に陥ってもとにかく本のために頑張ろうと思ったのだった。

 裏切る人もいるし、自分が誰かを裏切ることもあるかもしれない。
 でもたぶん誰か見ていてくれる、私はそう信じて今日も歩いている。

6月21日(月)

  • 哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスン
  • 『哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスン』
    マーク ローランズ,Rowlands,Mark,みね子, 今泉
    白水社
    2,640円(税込)
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  • 土の文明史
  • 『土の文明史』
    デイビッド・モントゴメリー,片岡夏実
    築地書館
    3,080円(税込)
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  • 銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
  • 『銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎』
    ジャレド ダイアモンド,倉骨 彰
    草思社
    2,090円(税込)
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    honto
 ゴールデンウィーク以降のこの売上の悪さはいったい何が原因なのであろうか。

 給料日明けには回復するだろうと考えていたのだが、一向にその気配はなく、各書店さんで話題に出る前年比はとんでもない下落ぶりだ。面白そうな本が出ていない、ワールドカップのせい、天候不順などいろいろ原因はあるのだろが、やっぱり私も含めて世の中にお金がないのが主たる要因だろう。

 多くの書店さんで語られるのは一部の本だけ売れて、それ以外はさっぱりということである。この出版業界にも勝ち組負け組がハッキリする、社会の構図が現れているのだろうか。

 そんななかある取次店の人と話ていたのだが、マーク・ローランズ著『哲学者とオオカミ』(白水社)が「週刊ブックレビュー」で石川直樹さんが紹介して以来どどどっと売れており、いい本はやっぱり売れるんだという出版性善説は、回復傾向にあるのではないかと指摘されたのであった。

 そういえば名著の匂いをプンプンさせているデイビッド・モントゴメリー著『土の文明史』(築地書館)も売れており、そもそも朝日新聞のゼロ年代の50冊で1位に輝いたジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(草思社)も上下巻で4000円近いのにベストセラーになっているではないか。


★   ★   ★

 夜、小・中・高・専門学校の仲間達と上野で飲む。
 たまり場だった私の部屋に毎日来ていた連中だ。IMG_3662.JPG

 みんなで会うのは数年ぶりで、お互いのその変化(主に毛髪)に驚きつつ、なぜか最後は私がどんだけ嫌な奴かという話題になる。

 わがまま、根性なし、すぐ怒る、料理が下手などなど。どれも思い当たるふしがあり、もう笑うしかないのだが、笑っていると「何年か前だったら暴れて帰っていたな」とツッコまれる。

 確かにそうかもしれないが、もうなんかどうでもいいのである。

6月18日(金)

 パスは回るが勝てなかったスペインの代表的選手シャビの自伝『シャビ バルサに生きる』(実業之日本社)を読む。ファン・ハールやライカールト、あるいはロナウジーニョやエトーのことなどが実直に語られており好感をもつ。そして何よりもシャビ以上に熱い家族にちょっと笑ってしまった。

 大雨のなか中井の伊野尾書店さんを訪問すると「あっ、ちゃんと営業に来ましたね」と驚かれてしまう。そうか。伊野尾さんとは飲み会などでご一緒しているので会っている気がしていたが、お店で会うのは久しぶりなのであった。深く反省す。

6月17日(木)

 川崎を営業。

 丸善ラゾーナ川崎店のSさんを訪問するとちょうど新刊の検品作業中であった。

 私がアルバイトしていた八重洲ブックセンターでは、当時仕入部が検品しながら各フロアの商品を分け、各フロアのバックヤードに届けられていたが、ここ丸善では、その日の新刊を一度作業台の上にすべて並べ、それらを各ジャンルの担当者がすべて見るという方法がとられていた。

 すなわち書店員さんは、その日到着した新刊をすべて一度は目にするのである。

「これ人文かな?」
「いやエッセイじゃないですかね?」
「あーこれ生物でも置きたいなあ」

 なんて会話をしながら、どのジャンルで売るか、あるいはジャンルを越えて置きたいものはその時点で追加注文したりするようだ。これならば自分のジャンル外の問い合わせを受けたときにも見覚えがあるだろうし、商品知識も付くし、素晴らしい仕組みだと思って眺めていた。いやそんなことより、この新刊を目にしているときに書店員さんの幸せそうな顔といったら......。

 Sさんは「この時間が一番楽しいよね」と話していた。

 ちなみにこの日届いた新刊で一番書店員さんが熱心に手にとり語り合っていたのは『塩図鑑』塩屋(東京書籍)であった。それは私もいの一番に気になった本なのであったが、書店員さんたちは「専門料理のところにも置いてみようか」とアイデアを出し合っていた。 

 その後、Sさんと昼食へ。
 本日から始まった「大人の社会科見学」フェアのしおりを見せていただいたり(必見!)、最近の動向などを伺っているうちに面白いフェアのアイディアを思いつき、一気に進んでいったのであった。

 本日はそれ以外の書店さんでも実の有る話ができ、充実の一日であった。

6月16日(水)

 高野秀行さんの取材に立会うため、直行で東京外国語大学へ。

 1時間早く着いたのは予想どおりだったのだが、駅前に時間をつぶせるドトールなどもなく、呆然とする。

 参った。何かないかと駅に設置されていた地図を覗くと「多磨霊園」があり、御丁寧なことに多磨霊園の詳細な地図まで設置されているではないか。そこには有名人のお墓がかなりあるようで、しっかり記されていた。田山花袋、向田邦子、江戸川乱歩、吉川英治。まるで文庫の棚みたいではないか。早速、お墓見学に向かう。

 多磨霊園を訪れたのは初めてなのであるが、もしかしたらお墓楽しいかもと思いつつ歩く。いろんなかたちのお墓があり、なかには立派な銅像まで設置されている人もいたりして、そしてそしてそれがいい感じに苔むして味わい深い雰囲気を醸し出しているのである。ついでにそこかしこに植えられている樹木も素晴らしく、あれもこれもと見ているうちに、私はいったいどこにいるのだろうか。

 そうなのである、また迷ってしまったのである。

 うーん、周囲の景色は、当然のことながらお墓ばかりで、どれも同じに見える。さきほど前「えっこんなお墓が?」なんて喜んでいたのだが、所詮どれもこれも石の塊であって、どっちが出口か書いていないのである。しかも道を聞くにも早朝のお墓には誰ひとりとしていないのである。ミイラ取りがミイラになるのは自己責任だが、お墓見学がお骨になってしまうのは誰の責任なんだろうか。

 そこかしこに立っている地図を見て、あちらの方向かしらと歩き出すが、どうも曲がる場所を間違えてしまったようで一向に出口にたどり着かない。腕時計を見ると高野さんとの約束の時間まで10分と迫っている。まずいではないか! と当てずっぽうに走り出したらどうにか駅に向かう道に出る。奇跡!

 取材が無事終わったので、新宿を営業。

 最近、私が注目しているのは紀伊國屋書店新宿南店の4階で展開されている「ワンテーマ、スリーブック」のフェア棚である。こちらはそのタイトル通り、ひとつのテーマにつき3冊の本が並べられているのだが、そのテーマが面白いのである。

 例えば本日訪問した際のテーマは、「猫」や「待望の復刊」などに混じって「この刹那」や「ロックな感じ」なんて抽象的なものを含まれているのである。そこに並んでいる本を見ると納得!という感じである。テーマは毎月1日に変っており、私はその日を楽しみにしている。

 その後ジュンク堂書店新宿店を訪問し、私以上のサッカーバカであるSさんと、ワールドカップのあまりの低調さについて語り合う。

 私がワールドカップの存在に気づいたのは1982年スペイン大会なのであるが、そのときから見ていて、今回ほどワクワクする選手もチームもいない大会はないのではなかろうか。いやメッシやクリスチアーノ・ロナウドなどスター選手はたくさんいるのだが、どうも輝いていない。まだ各チーム初戦だからなのかもしれないが、それにしても選手たちが疲れきっているように見える。長いシーズンを戦ったこの時期しょうがないのかもしれないが、もしやワールドカップは選手にとって、4年に一度の罰ゲームになってしまったのだろうか。

 そんななかひとり盛り上がっているマラドーナ。なんて素敵なんだろう。

6月15日(火)

 通勤読書は『実験』が気に入った田中慎弥の『神様のいない日本シリーズ 』(文藝春秋)。

 豚殺しの祖父のことと女みたいな名前でイジメられひきこもってしまった息子に、壁越しで父親が家族の歴史を独白する異色な小説である。そこで歴史として語られる日本シリーズが、1986年の西武ライオンズの奇跡的大逆転のシリーズなのであるが、あれはもう歴史として語られるようになったのかと妙に感慨深いものを感じてしまった。学校の授業をサボって見ていたことが昨日のことのようなのに。

 それはともかく、シリアスなはずなのに、父親の独白にどこか笑ってしまいそうになるのはなぜなんだろうか。

 一日中、社内で仕事。

6月14日(月)

 朝、とある書店さんから相談されたのは、文芸書の棚構成に関してだった。

 そのお店は男女一緒に五十音順にした「小説」を中心に「ミステリ」「海外文学」など分かれているのだが、宮部みゆきなどを代表として、今やジャンルをクロスオーバーして書く作家が増えているため国内の小説はすべて著者別五十音にするのをどう思うか? という内容であった。

 ブックオフはたしかすでにそうなっており、今や書店とのファーストコンタクトがブックオフという子どももいる時代だから何がスタンダードなのかわからない。とにかくいろんな書店の棚構成を確認してみますねと電話を切り、向った先は横浜だった。

 営業しつつ棚割りを拝見すると、エンターテインメントや国内作家など呼び方はともかくとしてどこも「小説」「ミステリ」「時代小説」「海外文学」と分けられているではないか。もちろん「エッセイ」や「サブカルチャー」あるいは「タレント」なんて棚もあるのだが、今日見ているのは小説に限ってであるので脇に置いておく。

 そうなのである。おそらく私がこの業界に入った18年前から書店さんの棚はずーっとこういう分け方で構成されており、それが悪いという気もないし、私自身も不便を感じたこともまったくないのであるが、これだけ不況が続く世の中で何も変化がないというのは不思議だ。

 たとえば今の人はそういうジャンルで本を読んでいるのだろうか。
 唯一そのジャンルの強さを感じるのはSFなのであるが、なぜかSFという棚を作っているお店は少ない。少ないからかもしれないが、そういうお店ではSFが売れていたりする。

 それはともかくとして、ジャンルというのは今の時代そこまで有効なのだろうか......って書きながら今気づいたのであるが「本の雑誌」の新刊めったくたガイドも、大まかそのようなジャンルで分けられているのだ。むむむ。

 そこで思い出したのは、とある書店員さんとの会話だ。
「なんか嫌なんですけど『泣ける本』っていうコーナーを作ったらすごい売れているんですよ」

 影響力のある書店のPOPを研究してみると、その本を読んだときの効用が書かれていることが多い。「泣ける」「笑える」「気分が楽になる」など。ということは読者はどんなジャンルの本なのかよりも、その本を読んだ後の気分を知りたいのではなかろうか。

 そうだとしたら「ミステリ」や「時代小説」などという分け方よりも、「泣ける本」や「笑える本」「スカッとくる本」などという棚構成もありなのではないか。

 ただジャンルや棚構成というのは本当に強固で、高野秀行さんとともに「エンタメ・ノンフ」などといって、一生懸命新たなジャンルの確立を騒いだりしたのだが、なかなか今ある棚に割って入ることはできなかった。

 それにしてもだ。
 ずーっと本が売れないのに、私たちは何も努力していないのかもしれない。

 それは本作りに関しても一緒で、本があり、カバーがあり、帯があり、そして四六版に、文庫本に、新書に、と本そのものの面で変化はずーっとないのである。これが最終型なのかもしれないが、商品というものはその時代の消費者に合わせて姿を変えていくものなのではなかろうか。

 本が邪魔にされるなら文庫よりも小さいサイズにしてもいいのではないか。あるいは薄い紙を使ってもいいのではないか。単行本のページの概念をもっと変化させてもいいのではないか。安くするためにカバーや帯をやめてもいいのではないか。

 そう考えると書店も出版社もまだまだやれることがあるのであった。
 それはとても楽しいことだと思う。

6月11日(金)

 通勤読書は『フリン』椰月美智子(角川書店)。
 タイトルや装丁から受ける印象と違って、ここで描かれるのはどこか爽やかな不倫である。だから「フリン」なのか。
 結婚しても恋をしたい人はスタジアムに来るといいと思う。思い切り片思いできるから。

 高野秀行さんのところへ訪問し、打ち合わせ。
 前回訪問した際、手みやげに持っていった大福を食べられなかった恨みつらみを書いたせいか、なんと高野さんがお米を炊いて待っていてくれたではないか。うれしいのだが、担当編集&営業マンとして大変問題なのではなかろうか。食事をおいすくいただきながら、もろもろお話。

 その後、吉祥寺のブックス・ルーエを訪問し、前回会えなかった花本さんと話をしていると、なんとそこへ『辞めない理由』(光文社文庫)や『ブックストア・ウォーズ』(新潮社)の碧野圭さんがやってきたではないか。おお、今日は碧野さんがブログで行っている「めざせ! 書店営業100店舗」の取材なのであった。しばらく邪魔をして、次なるお店へ移動。

 いよいよ本日よりワールドカップ開幕。
 私が欲しいのはナビスコカップなのであるが、すでに浦和レッズの手からこぼれ落ちてしまった。

6月10日(木)

  • 芭蕉―「かるみ」の境地へ (中公新書)
  • 『芭蕉―「かるみ」の境地へ (中公新書)』
    田中 善信
    中央公論新社
    7,600円(税込)
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 10キロ走ってから出社。
 私のふくらはぎは、「ししゃも」から「ケンタッキーフライドチキン」くらいに成長している。
 そのうち何か生まれるだろう。
 
 リブロ渋谷店を訪問すると『「悪」と戦う』(河出書房新車)が好評の、高橋源一郎さんの「著名人の本棚」が開催されていた。外国文学などとともに、私も大好きな『シズコさん』佐野洋子(新潮社)や『滝山コミューン1974』原武史(講談社)などが並んでいた。またそれだけではなく、リブロ版「ゼロ年代の50冊」というフェアも開催されており、こちらは2000年〜2009年の10年間に刊行された本を対象に、リブロの店員さんが好きな本を推薦しているようだ。1位『〈民主〉と〈愛国〉』小熊英二(新曜社)に納得。

 次に訪問した青山ブックセンター本店では「本の島」フェアが相変わらず奥行き深い棚になっていて何度見ても飽きない。担当のTさんに話を伺うと近々中身を入れ替えるそうで楽しみだ。それにしてもバックヤードに置かれていた「オン・ザ・道路」というフェア看板は、いったいどんなフェアが始まるのだろうか。

 お店を出たところで、ちょうどバスが来たので、青山学院前から乗り込み、六本木へ。
 こちらの青山ブックセンター六本木店では、田口俊樹さん、鴻巣友季子さん、堀江敏幸さんの翻訳家3氏の推薦本が並ぶ本棚が展開されており、それぞれここでしか読めない推薦文も掲げられている。これをこのまま雑誌に掲載したいくらいである。

 ある1点の本を売り出す「仕掛け」販売が注目を集めがちだが、このように独自に面白いフェアを開催している書店さんがたくさんあって、営業しながらそれらを見るのがとても楽しい。新刊、既刊問わず「こんな本があったのか」という発見の喜びこそが、リアル書店の最大の魅力だろう。それにしてもここ最近の青山ブックセンター本店の勢いは何だろうか。

 帰宅時、ブックファースト新宿店に寄って、「本の雑誌」で渡辺十絲子さんが紹介されていた『芭蕉 「かるみ」の境地へ』田中善信(中央公論新書)ほかを購入。好きな本を買ってお店を出るときの、この喜びもまたリアル書店のなにごとにも変えられない喜びである。

6月9日(水)

 通勤読書は、『影法師』百田尚樹(講談社)。

 友情時代小説といえばいいのだろうか。胸が熱くなる本であるが、それにしても出世したからといって大切なものを忘れてはいけない。気づいたときにはまさに後の祭りである。

 こういう男にはならないようにと決意するが、そもそも出世などしないので、心配ご無用。それ以前に友達がいないという可能性もなきにしもあらず。

 会社の前にトラックが着いたら突然土砂降りの雨。
 どうして「本の雑誌」搬入日はいつも雨なんだろうか。「本の雑誌」が濡れないよう、みんなで駆け足で社内に運び込む。

 今月は、「本の雑誌」らしくもなくタイムリーな特集「電子書籍の時代が来たぞ?!」である。企画会議の際に、発行人浜本が躊躇したのを、編集の松村が「私は読みたいです」と行って、GOした特集である。乞うご期待!

6月8日(火)

 とある書店さんで「本の雑誌社さんとかヤバイですよ」と言われる。
 何かと思ったらその書店さんはここ数年システム化を進めており、返品に書店員さんの意志や本の良し悪しなど関係なく、ある期間経て売れないものはリスト化され、すべて返品に回さられるというのである。こうなると瞬発力のある本だけが棚に残り、それ以外のいわゆるロングテールな本はどんどん売り場から返されてしまうだろう。

 確かにそれは「ヤバイ」ことなのであるが、そのヤバさは十年前に比べると小さくなったというか、最悪書店さんの棚から返品されても、ネット書店で購入してもらえばいいと開き直れる現状があるのも事実。

 特にロングセラーとなった評価のハッキリした商品は不見転でも読者は買いやすいものなのか、ネット書店での売上比率がグーンとあがる。例えば本の雑誌社でいうと清原なつの『千利休』なのでがあるが、この本はコミックでありながら、歴史書でもあり、また茶道の実用書ともなりうるもので、こういうどこにでも置ける本は意外と書店さんの棚からなくなりやすいのであるが、このネット書店販売率たるや驚くほど高い。

 他の出版社の人に話を聞いても、地味だけどいい本ほどネット書店での比率が高くなっており、そのことを考えるとネット書店というのは、結局書店さんが切り捨てた部分を拾って成長してきたのかもしれない。

 そうは言ってもやはり棚に並んでナンボなので、私は私鉄を乗り継ぎ遠くまで営業に出かけるのであった。

6月7日(月)

 直行で健康診断。
 ランニングの成果で体重はどどどっと減っているのだが、果たしていちばんの問題である「尿酸値」はどうなっているのか。こちらはその場ではわからないので、結果が郵送されてくるのを待つしかない。これで下がっていなかったら私はどうしたらいいのだろうか。

 血を抜かれた腕をもみながら営業へ。

 とある書店さんで相談されたのは、もしここに全国の書店員さんが必要としている情報があったとして、それを迅速に伝える方法が、この業界にはないのではないかということであった。

 要するに書店員さんだけが見ることができるクローズした通信網が欲しいのだそうだ。そこでパブ情報や売れるであろう本の情報を共有し、もっと書店を活性化したいというのがその書店員さんの思いであるのだが、どこに相談してもうまくいかないと嘆いておられた。

 そういえば本屋大賞を作っている同時期、いろんな書店員さんが参加するメーリングリストが稼働していたことがあった。そこには出版社の人間も入り活発な情報交換が行われていたのだが、mixiができるといつの間にか立ち消えになってしまった。

 もちろん今はTwitterを利用して多くの書店員さんが情報交換しているわけだが、そこでは実は読者が目にする必要のないものまで書き込まれていたり、あるいは目にさらすことのできない情報は当然書き込まれず、なんだか勿体ないのである。

 それにしても同業者=ライバル会社の世の中で、出版というのは不思議な業界だ。

6月4日(金)

 昨日の朝、妻がいきなり携帯の画面を見せつけてきた。
 そこには赤色と黒色の手作り風小物入れが映っており、まるで浦和レッズのグッズのようであった。

「幼稚園のバザーに出品されるものなんだけど、なんなら番号入れて作ってくれるってよ」

 そういえばここ数日妻からこれをプリントアウトして欲しいとかいろいろ頼まれていたのだ。そうかバザーが近いのか。じゃあ頼もうかなと画面を見ていると、妻が何番?と聞いてくる。この質問が実はいちばん困るのであった。実は私は誰か特別好きな選手が浦和レッズがいるわけではなく、浦和レッズそのものが好きなのであった。そうはいっても象徴的な番号はあるわけで......と考えていると。

「やっぱり一番好きなの福田でしょう?」

 と聞いてくる。さすが結婚13年(おそらく)。私が唯一浦和レッズ以上にその人そのものが好きな選手はわかっているわけだ。ところがその後妻が漏らした言葉によって、私の家の朝の平和な風景は一転したのであった。

「福田って何番だっけ?」

 まさか浦和に住んでいる人間で福田の背番号を知らない人がいるだなんて知らなかった。というかそんなの人間としてどうなのだ。妻を怒鳴り飛ばし、土下座させ、私は説教を垂れる姿を想像したのであったが、もちろんそんなことはできるわけがないのである。ただでさえ、「散歩の達人の取材だよ」と言い含め、新潟だ仙台だと行っているのを苛立ちながら見られているからだ。

「9番」

 不機嫌に答えるが精いっぱいであったが、妻の前で不機嫌な表情をすることすら日常的に出来ないので、どこか愛想笑いしているように見えたようで、妻は「ああ、9番、9番」とのん気に言い、台所へ向かっていたのであった。

 それが今朝になって妻がまた言ってきたのでる。

「福田って8番でいいんだっけ?」

 8番は広瀬治だ!

6月3日(木)

 通勤読書は『早雲の軍配者』富樫倫太郎(中央公論新社)。北条早雲に見出された風間小太郎が軍師として育っていく物語なのだが、これからというところで物語が終わっており驚く。シリーズものということなのだろうか......。

 校正が終ったという連絡を受け、太田和彦さんのところへ。
 赤(直し)がいっぱい入るのは作業として大変なのだが、どれも的確な直しで、どんどん原稿がよくなっているのが伝わり、感動を覚える。

 そのまま営業へ。
 新横浜の三省堂さんでは、相変わらず『恋愛中毒』山本文緒(角川文庫)が売れ続けているそうで、ならばこれに続く恋愛ものをと担当のYさんと話しあうがなかなか作品が浮かばない。爽やかなのはいろいろあるんだけど。Yさんは現在『私が語りはじめた彼は』三浦しをん(新潮文庫)を隣で展開していた。

 学芸大学の恭文堂書店を訪問すると、店長のTさんがiPadを片手にテレビの取材を受けているではないか。画面には「東京カレンダー」が映っており、どうも電子書籍の取材のようであった。

 当然といえば当然なのだが、ただいまどこへ行っても「電子書籍」の話題となり、主に書店さんは「レコード屋さんがなくなったように本屋もなくなるのでは」と不安がっており、出版社は乗り遅れてはならぬと焦っている感じである。こんなにみんなが同じことを話題にするのはamazonがオープンしたときと、いつぞやの再販制度撤廃騒動の時以来ではなかろうか。

 電子書籍に関しては来週発売となる「本の雑誌」7月号で特集するので、ぜひそちらを読んでいただきたいのだが、電子書籍騒動のかげで、現状の出版業界のことが忘れ去られているような気がしてならない。

6月2日(水)

  • 熱帯雨林を歩く―世界13カ国31の熱帯雨林ウォーキングガイド
  • 『熱帯雨林を歩く―世界13カ国31の熱帯雨林ウォーキングガイド』
    上島 善之
    旅行人
    2,970円(税込)
  • 商品を購入する
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    honto
 通勤読書は『熱帯雨林を歩く』上島善之(旅行人)。
 2835円と決して安くない本なのだが、カラー写真がふんだんに収録されており、世界中の「熱帯雨林」を横断的に紹介した本なんてそうそうないので、見つけてすぐレジに向ったのであった。

 おそらく私は一生このような熱帯雨林に足を踏み入れることはないだろうが、見ているだけで旅した気分になれる素晴らしい1冊。

 ちなみに出版元の旅行人が発行する雑誌「旅行人」は、編集長の蔵前仁一さんが本づくりに関わるすべてのことをやる体力がなくなったと休刊することを発表(といっても165号までは発刊するそうだ)。雑誌づくりに体力が必要なのはよくわかるが、寂しい気持ちでいっぱい。熱帯雨林の動植物同様、雑誌や書籍の多様性はどんどん失われていきそうだ。

 中央線の続きを営業。

 そういえばと思い出し、夕方、紀伊國屋書店新宿本店さんを訪問。こちらで開催されている「出版社社員が選ぶマイベストブックリレー」に参加させていただいているのだ。

 1階レジ前のかなり大きなフェア台で展開されていて驚くが、それ以上に提出した写真が思いのほか大きく展示されているのにびっくりする。しかもその写真が携帯で自分で撮った写真なので、妙に人相が悪く、とても営業マンとは思えないのであった。

 何はともあれこのフェア、それぞれの推薦本の1ヶ月間の売上が集計され、順位によって自社本を大きく展開できるスペースをいただけるのだ。うれしいような恐いようなご褒美なのであるが、果たして結果はどうなることやら。

 そんなフェアを見つつ、担当のKさんとお話。『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』ティナ・シーリグ(阪急コミュニケーションズ)や『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル(早川書房)あるいは『レンタルチャイルド』石井光太(新潮社)が売れており、一頃より本格的な本が売れているとのこと。

 それはもしかして単行本の価格を出すならきちんとした物を読みたいという欲求が強くなったというか、千五百円の対価としてそれだけのものをお客さんが求める状況になってきたということなのだろう。逆に小説はデフレ化が進んでおり、成長小説や家族小説は単行本ではうんともすんともいわないくらい売れなくなっている。500円前後の文庫で十分なのだろうか。

 このことを電子書籍を絡めて考えてみると、今後リスクとコストの面から、まず作家は電子書籍でデビューし、少し人気が出ると文庫で、そこでも人気が出ると単行本で出してもらえるようになるのではなかろうか。現在とまったく逆の順番かと思うが、「オレ、やっと単行本を出してもらえるんだよ!」なんて言葉がまるで賞を取ったときのように話される時代がくるかもしれない。

6月1日(火)

  • ペンギン・ハイウェイ
  • 『ペンギン・ハイウェイ』
    森見 登美彦,くまおり 純
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    15,728円(税込)
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『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦(角川書店)読了。

 私の娘と同学年の小学4年生の男の子が、ペンギンやコウモリやクジラを生み出す不思議なお姉さんの謎を解明していく森見的成長小説であり、甘酸っぱい初恋小説であり、そして何よりもSFだ!

 中央線を営業。
 武蔵境の八重洲ブックセンターを訪問。K店長さんと客層について話す。

 国立の増田書店さんで、Y店長さんと話していると『くじけないで』柴田トヨ(飛鳥新社)の問い合わせ。98歳のおばあさんの詩集が、いまやテレビや様々な媒体で紹介され、大ヒットへ。98歳の書評家はどこかにいないだろうか。

5月31日(月)

「あっ、そうですか......、はい......」

 なんとなく流れに逆らえずに返事したことが、もしかしたら人生を大きく変えることになるではなかろうかと思う週末が続いている。

 今年の4月、娘が所属する女子サッカーチームの監督から「コーチとして手伝ってもらえませんか」と声をかけられたとき、そんなことはとてもできないという戸惑いと、やり出したら週末はすべてつぶれてしまうという恐れと、それでも心のどこかでずっとやってみたいと思っていたことなのではないかという喜びが交錯したのであった。

 しばらく悩んでいたのだが、絶対出来ないと思っていたランニングが一年以上続き、もう増えることはあっても落ちることはないだろうと思っていた体重が7キロも落ちたことから、私の心はその体重同様どこか軽くなっていた。なにやら自信らしきものを手に入れていたのだった。もしかして意外と何でもできるんじゃないかと。

 監督には「コーチは引き受けますが、浦和レッズの試合のある日は勘弁してください」と話し、私のコーチ生活は始まった。

 しかし私が習っていた頃とサッカーの世界は劇的に変化しており、あの頃、というのはもう30年ぐらい前だが、サッカーの練習といえばシュート練習とミニゲームで、練習メニューなんて数えるほどしかなかった。

 それが今ではサッカー協会の指導方針のもと、様々な指導書が出版されているのだ。あわててそれらの本を購入し勉強しているのだが、これがもう面白いのなんの。というか私は今、浦和レッズの試合とプレミアリーグのテレビ観戦含めて年間200試合ほどサッカーを見ているのだが、それでもまったくサッカーをわかっていなかったのだと打ちのめされている。

 こうなると知識欲は止まらなくなり、次から次へと指導書やそこから派生する生理学の本やストレッチの本などを片手にノートをとるようになり、まさに学生に戻った気分で勉強しているのであった。

 その成果が試されたのがこの週末で、チーフコーチが仕事で不在で、なんと10歳以下のチームを私が練習メニューも含めて面倒をみたのである。

 あんなにくたくたになった1週間だったのに、金曜日の夜は、メニューをあれこれ考えたり、明日はどうなるだろうかと緊張感で眠れなず、迎えた土曜日。

 メモを盗み見ながら練習をしていると、1子どもたちの特徴が今度は目に突き出し、例えば○○ちゃんはもうアウトサイドでドリブルができるんだなとか、△△ちゃんはこの間まで声も出せなかったのに今は他の子に指示まで出しているぞとか、いやはや面白さがどんどん広がって行くのであった。

 もちろんそうやって関心している暇はなく、子どもたちはすぐ飽きてしまったり、逆にのめり込みすぎてケンカになったりするもんだから、その辺はこちらがしっかり進めていかなければならないし、メニューに捕われているといったい子どもたちに何を伝えたいのかとかもっと大事なところが抜け落ちたりして、はっきり言ってものすごく楽しいのである。

 その晩ひとりで酒を飲みながら、私はコーチ会議のときに、チーフコーチが話していた言葉を思い出していた。

「日の丸につながる最初の一歩を僕たちは面倒見ているんですよ。でも何よりも大切なのはうまくなることじゃなくて、サッカーを楽しく感じる気持ちを育てるってことです」
 
 娘のおかげで、私は人生の宝物を手にしたのかもしれない。

★    ★    ★

『エデン』近藤史恵(新潮社)読了。
『サクリファイス』の続編であり、今作では自転車ロードレース界の最高峰と呼ばれる「ツールドフランス」が舞台となる。前作よりもミステリー色が弱まり、スポーツ小説としての要素が強い。

 本屋大賞も落ち着き、ついに本業である営業に没頭できる。

 時間ができたらすぐに訪問しようと考えていた大好きな書店さんのひとつ、清澄白河のりんご屋さんを訪問。久しぶりにお会いしたH店長と長話をしつつ棚を見ると、なんとそこに高桑信一の新刊が、既刊『古道巡礼』や『山の仕事、山の暮らし』とともに面陳されているではないか。

『希望の里暮らし』(つり人社)

 うーん、私は毎日1000坪を越える書店も含め10件近い本屋さんを廻っているが、いやはや高桑信一の待望の新作が出たなんてまったく知らなかった。それなのにこの30坪の町の本屋さんで手にすることができなんて、まさに本屋さんはサイズじゃないということを物語っている。そして何よりも「あっ杉江くんも好きなの? 俺も好きなんだよねぇ」と話すH店長さん、恐るべしである。

5月28日(金)

 何気なく読み出した『実験』田中慎弥(新潮社)が面白く、一気に読み進めてしまう。

 エンターテインメント小説ではないので、あらすじを紹介したところでその面白さは伝わらないと思うし、この小説の不思議な味わいを私はうまく言葉にすることができないのだが、端正な文章は初期の丸山健二作品のようで、頭を使いながら読むのがとても心地よい。むむむ、すべての著作を読んでみようと思う。

 電子書籍特集(「本の雑誌」7月号・6月9日搬入)のため会社にキンドルとiPadが置いてあり、いろいろ試してみたのだが、iPadは電子書籍の文字をを読むにはにあまりに不向きで(今ある電子書籍の問題かもしれないが)、キンドルは文字を読むのにまったく抵抗を感じなかったものの、日本語対応していないというちぐはぐな状況。どうしてこんなものに出版業界が騒いでいるのかわからない。何かの陰謀なのではなかろうか。

 そもそもせっかく新たなメディアを手に入れようとしているのであるなら「書籍」や「雑誌」というかたちを取っ払って、新たな「物」を作る取り組みをしたほうがいいのではなかろうか。こんな子ども騙しみたいな「電子雑誌」や「電子書籍」ではとても紙の本に勝てるとは思えない。たぶんそういう新しい「物」は出版業界と関係ないところで生まれる気がする一日であった。

『ミーツへの道』の部決後、営業へ。今日こそ早く帰る。

5月27日(木)

 通勤電車のなかで一通のメールが届く。

 差出人はずいぶん長い間お世話になっていた書店員さんだった。その書店員さんは二人目のお子さんを出産した後も職場に復帰したのだが、配属先が書籍売り場からCD売り場となり、ここしばらくお会いしていなかった。

 メールの件名には「転職しました」とあり、転職先は「あえて出版業界を離れ」たと書き記されていた。

 私はいつも一番苦しいとき常磐線に乗って、その書店員さんに会いに行っていた。すると決まってその書店員さんは笑顔で「杉江ちゃん、何言ってんのよ、元気出しなよ!」と背中を叩かれ、お客さんとの愛情あふれる本のやり取りを話してくれたのであった。その話を聞いていると私はいつの間にか心が軽くなり、もう少しがんばってみようと思うのでだ。

 あんなに本と本屋さんが好きだった人が「あえて」離れる出版業界とは、いったいどんな業界なんだろう。ああ、涙が止まらない。

★    ★    ★

 夜、前田司郎さん作・演出の演劇「家の内臓」を見に行く。
 私は演劇を見るのがは初めてで、どちらかというと生身の人間が目の前で「演技」することに抵抗を感じていたのだが、灯りが暗くなり、舞台に役者さんがあがるとすぐに、そのあまりの演技の自然さ(それは多分に前田さんの脚本と演出によるものだと思うが)に引き込まれ、しかも主演の平田満さんの熱演に夢中になってしまった。

 これはまさにサッカーに似た、その場限りの面白さであり、新たな趣味を見つけた予感。散々腹を抱えて笑った後、会場である「雑遊」のオーナーである太田篤哉さんの半ば強制的な追込み漁によって池林房で酒。

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