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7月1日(木)

夏の入り口、模様の出口
『夏の入り口、模様の出口』
川上 未映子
新潮社
1,296円(税込)
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 通勤読書は、椎名さんがPR誌「波」で、「この人の才能はますます文章界のタカラモノのような存在になっていく」と最大級の評価をしている『夏の入り口、模様の出口』川上未映子(新潮社)。「週刊新潮」連載のエッセイなのだが、見た目や名前から想像するようなとがった感じはまったくなく、とても常識的なのであった。なんだろう、この文体がいいのだろうか。

 とある書店さんを訪問するといきなり「杉江さんはエライわよ、こんな暑い中汗かきながら営業に来て」と褒められる。いきなり予想外の展開なので準備が間に合わなかったが、いつも私のことを見下し、そして見放している妻と両親を連れて正座させて聞かせたいところだ。

 そう言われるといっぱい汗をかいた方が良い気がし、しかし俳優ではないのでそうすぐ汗も出ず、とりあえず出ているふりをしようとハンカチで顔をゴシゴシ拭いていたのだが、しかしどうしてただ営業に来ただけで誉められるのだろうか。

 謎だと思って話を聞いていると、なんだか今度、大手出版社で相当な給料を貰っていた人が希望退職し、その顛末を書いていたブログが本になるとかで、どうもその本の営業の後に私が訪問したようであった。

「どうしてそんな本売らなきゃいけないのよ。こっちの給料の何倍も貰っておいて、それでやめるからなんだっていうのよ。そもそもみんなもっと苦労して仕事探したりしているのよ」

 書店員さんはプンプンなのであるが、話を聞いている限り、そのようなブログがどうして本として成立するのかよく分からない。

 とりあえず「天国と地獄」というPOPとともに超零細出版社の営業マンの真実の悲哀を描いた『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)を隣に置くようオススメすると、なんと冷蔵庫からキンキンに冷えたペットボトルの水を渡されるではないか。

「頑張ってね!」

 クーラーのかかったお店を後にすると、モワッとする暑さに本当の汗が吹き出してきたが、それは心地良い汗であった。

★   ★   ★

 会社に戻ると、朝、発行人の浜本が「今日から本の雑誌社も社内公用語は英語だ!」と宣言したおかげで、沈黙が支配していた。

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