« 前のページ | 次のページ »

8月18日(水)

哀愁の町に霧が降るのだ
『哀愁の町に霧が降るのだ』
椎名 誠
三五館
2,621円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
EV.Caf  超進化論 (講談社文庫)
『EV.Caf 超進化論 (講談社文庫)』
村上 龍,坂本 龍一
講談社
720円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS
 川崎のM書店を訪問するとSさんから「ちょっと話したいんだけど時間大丈夫?」と訊かれる。大丈夫も何もSさんに会いに来たのだから問題はないのだが、その後、話されたSさんの話は考えさせられる内容だった。

 それはこの約10年近く、自分の仕事は大げさに言えば「ベストセラーを作りだす」というような仕事だった。そのためにPOPを書いたり、出版社と話をしたり、その他もろもろしていたわけだが、ふと気づくと、ゼロか百かみたいな感じになっており、5部売れる本を15部、20部にするような、いわばもっと裾野を広げるような方法はないのだろうかという話であった。

 先日のゲラの話ではないけれど、"仕掛け"ることも大事だけれど、もっと地道に本を売る、いやお客さん自身が面白そうと思って本を手にとってもらうにはどうしたらいいのだろうか。

「あれだけ売れている東野圭吾の読者は、東野圭吾の作品をすべて読んだ後にどうするんだろう?」

 とSさんは言うのであるが、もしかしたら次の東野圭吾の作品が出るまで本を読まずに待っているんじゃないだろうか。それは我々(Sさんと私)が、ゲームはドラクエ以外やらないというのと同じなんじゃないか、

 じゃあ我々はどうやって自分で本を選んで買うようになったのか。例えば私とSさんの読書の面白さを開眼させてくれた本はたまたま一緒で、それは椎名誠の『哀愁の町に霧が降るのだ』(三五館)なのであるが、それで面白いと思って自分たちがとった行動を振り返ってみる。

 そうすると当時椎名さんの著作は今ほどなく、それらをすべて読んだ後は、椎名さんの友だち(あやしい探検隊の面々)や椎名さんと対談している人、椎名さんが好きな作家、あるいは椎名さんと似たテイストそうな本をどこかの嗅覚を働かせ、そして追体験できた作家の本をまた読んだのではなかろうか。

 そういえばこれと似た話をちょうど先日、別の書店さんとしたのだが、そのときお互い若い頃に『EV.Cafe 超進化論』村上龍、坂本龍一(講談社文庫)を読んでそこに登場した吉本隆明や柄谷行人や浅田彰らの本を背伸びして読んだよねと。

 要するにSさんが悩んでいるのは、どうしたらそういった「読書の愉しみ」みたいなものを、売り場で伝えられるかということなのだろう。そしてそういう本の読み方を伝えられれば、今までお店で5部しか売れなかった本が10部、15部と売れるようになるのではないかと。

 ふたりで延々話し込んでいたのだが、当然そんな簡単に答えは出るわけはなく、そして話は元に戻るのだけれど、私たちはどうしてドラクエ以外のゲームを買わないのだろうか。

※「炎の営業日誌」10周年まであと6日 

« 前のページ | 次のページ »