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11月30日(火)

百年前の山を旅する
『百年前の山を旅する』
服部文祥
東京新聞出版局
1,851円(税込)
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栂海新道を拓く 夢の縦走路にかけた青春 (山溪叢書)
『栂海新道を拓く 夢の縦走路にかけた青春 (山溪叢書)』
小野 健
山と渓谷社
1,836円(税込)
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 早起きし、街灯をたよりにランニングしていると、しばらくして東の空が白くなってくる。着込んでいたウィンドブレーカーを脱いで腰に巻く頃には、世界が色を取り戻している。

 6キロほど走ってシャワーを浴び、コタツに入って北方謙三の『傷痕』(集英社文庫)を読む。布団から抜けだしてきた5歳の息子が私の膝に座ってくる。そうして首をくるりと回し、「バレちゃったんだよ」と言うのであった。

「何がバレたんだよ? またおもちゃ壊したんだろう?」
「違うよ。あのね、ゆーちゃんに『私のこと好きなんでしょう?』って言われちゃったんだよ」

 ゆーちゃんとは息子が好意を寄せている幼稚園の女の子だ。
 先日公園でたまたま会ったとき、息子はもじもじして近づけもせず、ジャングルジムの影から見つめていた。私と娘はそんな姿を見て「あれじゃストーカーだよ」と苦笑いしたのだった。

「それでどうしたんだよ。好きって言ったのかよ?」
「言うわけないじゃん。」
「じゃあ、ゆーちゃんに僕のこと好きって聞いたか?」
「聞いてないよ。たぶん僕のこと好きじゃないよ。パパ、どうしたら好きになってもらえるの?」

 息子は真剣な様子で私の顔を覗き込んできた。

「それはお前、カッコ良くならないと」
「え? どうしたらカッコ良くなれるの?」

 それを探すのが人生ではないか。たぶん北方謙三ならそう答えるだろう。
 いや私のサッカーもランニングも読書も仕事も、みんなカッコ良くなりたくてやっているのだ。

「あのな、パパの背中を見なさい」
「えっ?」

 そういうと息子は膝から降りて、私の背後にまわった。

「ああ、虎になればいいのね」

 それは虎じゃなくて、ピューマだけどな。
 でも、虎になればいいのかもな。

★    ★    ★

 通勤読書は、山の本特集。

 『百年前の山を旅する』服部文祥(東京新聞出版局)。
 食料や装備を極端に減らし、自らの力で山を登る「サバイバル登山」の実践している服部文祥は、この本では、装備などがまだ未整備だった時代の本や資料を頼りに、当時の格好で山を登っていく。まさに「コスプレ登山」であるが、山登り、あるいはその登るための道とは本来どういうものだったのか、教えてくれる好著。

 そうして次に読んだのは、もしかしたら服部文祥の思想とはまったく逆の方向かもしれない、登山道(縦走路)を作る話、『栂海新道を拓く 夢の縦走路にかけた青春』小野健(山と渓谷社)だ。

 北アルプスの朝日岳から海抜0メートルの日本海親不知海岸へ、仕事仲間結成した「さわがに山岳会」で、必死に整備していくのであった。もう少し道をつくる際の具体的な話を読みたかった気もするが、人間の器の違いのようなものを著者に感じた。でっかくて狂った人で、それはまるで『放っておいても明日は来る』のメンバーのようだ。


★   ★   ★

『おすすめ文庫王国2010-2011』の見本を持って、直行で取次店を廻る。

 増刊号の場合だけ、志村坂上のK社を訪問することになるのだが、いつの間にかユニクロや無印良品の入ったショッピングセンターが出来ていて驚く。前回訪問したときは『本屋大賞2010』のときだから、あれから8ヶ月も経っていたのか。

 これが年内最後の書籍で、しばし川辺に立って感慨にふける。
 来年はもっと頑張ろう。そう虎になって。

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