埼玉を営業。
昨年末に何軒かの書店で担当者さんが退職されてしまったりしているので、新しい担当者さんにご挨拶。初対面のときは、とにかく緊張し、余計なことを言ってしまったり、何も言えなかったりで、失敗ばかりだ。また名前を覚えてもらって、信頼してもらえるようになるまでどれくらい時間がかかるだろうか。
そんななか浦和のK書店では旧知のSさんから、「この間、杉江さんそっくりの女の子が来たけど、あれ娘さんかな?」と言われ、たしかにこのパルコには家族で来ることもあるし、母娘で来ることもあるようなので動揺するが、レジに差し出した本が、メッシが表紙のサッカー雑誌ということで、人違いであることが判明する。娘が買うのは青い鳥文庫とつばさ文庫ばかりだからだ。
夜、池袋の「連家」にて、浦和レッズ観戦仲間と新年会。
昨年、イギリスの留学していたキリから散々プレミアリーグの話をされ、「杉江さんは来ると思ったのに残念だったなあ」と嫌味を言われる。
そりゃあ、私だって行きたかったのだが、「ひとり営業の会社で、12月に1週間休みが取れるか」と反論すると「そう思っているのは本人だけですよ」と、その12月にイギリスを旅し、プレミアリーグに、チャンピオンズリーグに、阿部勇樹のいるレスターの試合など1週間で5試合観戦してきたヒラサワが、口をはさむ。
私の手元には、頼んで買ってきてもらったスパーズの帽子があった。
いつか私の夢は叶うだろうか。
営業から帰ると、浜田を筆頭に、みんなが私の机に集まっている。
すわ! ヤバい資料かつい買ってしまった『少女時代』(アスペクト)がバレたのかと思ったら、机の上に24本入のビールのケースが置かれているではないか。しかもそれは私やスタッフが日頃飲んでいる第3のビールではなく、プレミアム・モルツだ。椎名さんのところからおすそ分けされる以外目にしたことがない高級本格派ビールではないか。
「どうしたの?」と目を血走らしヨダレを垂らした浜田に聞くと
「カクヤスが持ってきたんですよ、てっきり椎名さん宛かと思ったら杉江さん宛で......」と答える。
それにしてもなぜにみんなでそのプレミアム・モルツを取り囲んでいるのかと思ったら、盗まれないように守っていたらしい。誰が盗むんだ?!......って椎名さんか?
「もういいから」とみんなを追い払おうとするが、全員が一斉に手を出してくるではないか。
「守っていたんです」
「無事なのは俺たちのおかげだ」
「世の中には報酬というのがあります」
今、私の机の上には24本あったビールが私の机の上に3本しかない。
その3本を立て続けに飲み干す。しかしなぜ内澤旬子さんはこんな立派なビールを贈ってくれたのだろうか。
もしや原稿が......。
『だいたい四国八十八ヶ所』を直納しに、八重洲ブックセンターさんへ。
仕入れのある地下2階へ降りて行く階段を、20年前の私は、毎日何度も上り下りしていた。
当時私は、こちらのお店でアルバイトしていたのだが、毎日失敗ばかりで、フロアー長はじめ社員の方々にバックヤードに呼び出され叱られていた。仕事というものは真剣に取り組むものだと教えてくれた大切な場所であり、時代だった。そして本というものはそうやって向い合っても尚、越えられないような大きな存在だと教えてもらった。
その階段を、自分が作った本の追加納品で下りていく。
誇らしいような、随分と時が経ったことを実感したのであった。
企画会議。
よくわらかないうちに私がすべての企画を考えることになっていた。
会社には人が何人もいるのに、ひとりで働いているような不思議な感じだ。
会議が長引いたので、そのまま書店さん向けダイレクトメールの作成と注文書を何種類か作る。
帰りにブックファースト新宿店へ本を買いに行く。
相変わらず面白いフェアがそこかしこでやられており、素晴らしいお店だと思う。
何ごともなかったかのごとく浜本が出社。
実はこの浜本、松村の不在の間、とてつもなく大切な役割を私が果たし、しかもそこでありえないミスを発見し、会社の損害を数十万〜数百万円単位で阻止していたのである。
だからこの日は栄えある私のファインプレーに対し、金一封はもちろん、社員栄誉賞の授与及び特別リフレッシュ休暇とヤクルト一年分の授与が行なわれると思ったのだが、一切そのことに触れられずに、仕事が始まってしまった。
ありえない......。
しかし私はものすごく恥ずかしがり屋の上、このような自分の成功話をわざわざ人に言うほど厚顔ではない。なんとなくみんなが気づくように該当箇所を開いたりしてみるが、一向に気づく様子がない。
会社を飛び出し、バイクに乗ってグレることにした。
★ ★ ★
丸善ラゾーナ川崎店だけでなく、各書店で『だいたい四国八十八ヶ所』が売れていて、追加注文をいただく。自分が作った本がこのように売れていくのは、本当に楽しい。重版がかかったら、ファインプレーとともに増長することとしよう。
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夜、紀伊國屋書店新宿本店で行なわれていた『苦役列車』西村賢太さんのサイン会に並ぶ。丁寧にひとりひとり深く頭を下げお礼を言っている西村賢太さんの姿が印象に残る。
松村はインフルエンザから復帰したものの、社長は函館から帰って来ず。
「海炭市叙景ごっこ」の結末やいかに?
とか言っていたら、自分も風邪をひいてしまい、鼻水が止まらない。
飲み会を早めに切り上げ、『千年を耕す 椎葉焼き畑村紀行』上野敏彦(平凡社)を読みながら帰る。
宮崎県椎葉村といえば、古本屋で見つけお宝本となった『秘境を行く』宮内寒弥(人物往来社)でいの一番に紹介され、『罠猟師一代』飯田辰彦(みやざき文庫)のあたりで、なんとこちらでは一年目にソバ、2年目にヒエやアワ、3年目に小豆、4年目に大豆と輪作したのち、その土地を雑木林に戻す、焼畑農業がいまだに行なわれているそうだ。
この本では、そんな土地で暮らす人々と暮らしが紹介されているのだが、いやはや生きるとはいったいどういうことなんだ!
通勤読書はまたもや食べもの本の定番『土を喰う日々』水上 勉(新潮文庫)。まさにタイトルにあるとおり、土から出てきたものを食べる料理エッセイだが、いやはや前日同様の書き方で恥ずかしいのだが、料理とは、あるいは食事とはなんて豊かなことなのだろう。エッセイとしても素晴らしい。
久しぶりの訪問となってしまった流水書房青山一丁目店を覗き、ひっくり返る!
なんじゃこりゃ?! 文芸書の棚に坪内さんのエッセイの出て来るようなシブい作家さんたち本がズラズラと並んでいるではないか。一瞬古本かと思ったが、もちろんそうではなくということは新刊でこれだけまだこれらの作家さんの作品が読めるということなのか。ここ数年で一番驚き、感動した棚かもしれない......と思いつつ、担当者さんを探すが本日はお休みとのこと。この棚の秘密を知りたいのだが、それは次回のお楽しみだ。
興奮しつつ、246沿いに営業していき、青山ブックセンター本店へ。
青山ブックセンターの面白さはいまさら書く必要もないのかもしれないが、それでもここ最近のこの面白さは何なんだろうか。フェアはどれも突き抜けているし、とんでもない本がとんでもない感じで置かれている。恐るべし。
夜、高野さんに追加でサイン本と作っていただき、その後、中華の鍋家で打ち上げ。
昨日、営業から会社に戻ると、編集の松村がコートを来て首にマフラーを巻いていた。
「もう帰るのか」と思ったが、その格好で机に座り、相変わらず仕事を続けている。
そういえば、昔、うちの会社には一年中、首にタオルを巻いて、スウェット姿でふらふらしている人が、今はもうみんな普通の格好で働く普通の会社だ。
「どうした? 松村」と訊ねると「寒い」という。
たしかに今は季節が冬で、特に今年は寒い気がするが、それにしたってここは会社の中である。先ほどまで寒風吹きすさぶ外にいた私からみたら天国であり、それじゃなくたって空調は28度に調整され、心地良い風を吹きつけているのだ。いくら氷結と異名を持つ、冷たい女松村でも異常なのではなかろうか。
「それ、熱があるんじゃない? インフルエンザだよ」
「いえ、そんなことないです。花粉症かも......」
今朝、松村から連絡が入る。
「や、やっぱりインフルエンザでした」
というわけで医者から1週間休むよう宣告された松村の仕事をみんなで振り分けていると、再度松村から連絡があり、なんと旦那さんの会社は家庭で誰かがインフルエンザにかかったら出社できないらしく、家に帰ってきたという。
「本の雑誌の人、大丈夫ですかね......」
その瞬間、大きな声で「みんな、帰ろう」とうれしそうに叫んだのは編集発行人の浜本であった。
「それ逆でしょう!」と思い切り突っ込んだのは、事務の浜田だった。
そうか、私たちは家に帰ってはいけないのだ。家庭にインフルエンザを持ち込む可能性が高い。
「今夜は鍋でもしますかね」とキッチンに置いてあった日本酒を大事そうに抱えてきたのは、編集の宮里だった。