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5月11日(水)

サムライブルーの料理人 ─ サッカー日本代表専属シェフの戦い
『サムライブルーの料理人 ─ サッカー日本代表専属シェフの戦い』
西 芳照
白水社
1,728円(税込)
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 あー、ダメだ。
 涙が止まらない。まだ朝の8時で、これから仕事でたくさんの人と会うのに、私の目玉は真っ赤に充血し、まぶたも腫れてしまった。しかもここは満員の埼京線で、涙だけではなく鼻水も止まらない。恥ずかしい。恥ずかしいけどページをめくる手も止められず、数行読んでは涙が溢れてくる。

 私がそうやって今朝号泣しながら読んだのは、『サムライブルーの料理人 サッカー日本代表専属シェフの戦い』西芳照(白水社)だ。この本は、2004年3月31日にシンガポールで行なわれたドイツW杯アジア予選からサッカー日本代表チームに帯同したシェフの回想録である。

 シェフであるから当然、日本代表チームにどのような食事を、どのような理由で提供してきたか、あるいは世界各地でどうやって食材を手に入れてきたのかが綴られているのだが、食欲とメンタルを刺激するために導入されたライブキッチンでラーメンやパスタを作りながら、西さんはフラットな視線で選手を見つめてきたのである。

 西さんは地元Jヴィレッジの料理人になるまでサッカーも知らなければ、後に接することになるジーコのこともよくわからないほどサッカーに無関心の人だった。だからかどうか選手を変に持ち上げることもなければ、逆に批判的になることもなく、まさに一職業人(料理人)と一職業人(サッカー選手)の関係で、どんなスポーツライターもかなわない最強の観察者なのであった。

 選手に美味しいおにぎりを食べさせたいがために、一般の人のブログを頼りに自腹覚悟で圧力鍋を購入するまでの西さんをプロとして認める選手たちの想いは、カバーに使われている日本代表のサイン入りユニフォームや、裏面の代表エンブレム入りシェフコート、そして帯の推薦コメントから伝わってくる。

 特に私を号泣させたのは、2010年南アフリカW杯を日記形式で綴られた文章だ。
 ここから垣間見える選手を含めた代表チーム全員の想い、あのPK戦にいたるまでのふんばり、そのなかで格闘する西さんの姿が、私を涙に誘うのであった。

 サッカー本は大きな大会ごとに傑作を残してきたが、この『サムライブルーの料理人 サッカー日本代表専属シェフの戦い』が、間違いなく南アフリカ大会を代表するサッカー本になるだろう。

 そしてまた「あとがき」に追記として記された7行の文章がものすごく重い1冊にするのであった。
 3.11以後、これから目にするサッカー日本代表チームは、同じように見えて実はある意味決定的に違うのであった。しかし私たちは、南アフリカ大会のパラグアイ戦で敗れた後、夕食の席で岡田武史監督が選手にかけた言葉を何度も何度も読み直し、生きて行くしかない。

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