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6月10日(金)

いねむり先生
『いねむり先生』
伊集院 静
集英社
1,728円(税込)
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 通勤読書は『いねむり先生』伊集院静(集英社)。
 これは大人の小説だ。いろんな価値観があって、そして勝ちも負けもない人生がある。あるいは全勝でなく、八勝七敗を目指す生き方がある。それを体現していたのが「いねむり先生」こと、ナルコレプシーという突然眠ってしまう病気を患っていた色川武大(阿佐田哲也)だ。私は、高校時代、麻雀に明け暮れていて、その頃、阿佐田哲也の小説は、エンターテイメントでありつつ、バイブルだった。

 伊集院静は妻(夏目雅子)を亡くして身も心も壊れていたとき、その色川武大に出会う。そして一緒に時を過ごすことによって、再生されていく。何気ない文章が胸に迫り、ページをめくる手を止める。何度のその文章を読み直していると自然に涙がこぼれていた。

 色川武大が生きていたら、今どんな小説を書いていただろうか。

 仕事を終え、ドサ健もさまよっていた上野へ。麻雀に明け暮れていた頃からの付き合いがある仲間たちと酒を飲む。
 
 ひとりは、ここ最近やたら聞くようになった「協力会社」に勤めており、あの日も福島の第一原発のなかにいたのだった。震災の日から何度も電話やメールをしていたが、一向に連絡がつかなかった。胸が押しつぶされそうになっていた二日後に、「帰ってきたよ」と電話があったときには、自然と涙が溢れていた。

「いつ応援要請の声がかかるかわらないよ」
 誰よりも喧嘩っぱやい男が、小さな声で話す。家族を養うための仕事が、家族を不安にさせる。
 飲むしかないだろう。

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