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12月27日(火)

白水社WEB「蹴球暮らし」第20回:トレセンを更新。

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仕事納め。

一年間、「本の雑誌」及び単行本、WEB本の雑誌をご愛読いただきましてありがとうございました。もはや家族のように付き合いの長くなったこの仲間たちと、自分たちの好きな雑誌を作り、面白いと思う本を出版できたこと、大変幸せに感じております。私だけでなく、編集長兼発行人の浜本をはじめ、全スタッフがその幸せを深く噛み締めています。

本や雑誌を作り、暮らしていくことは、年々厳しくなっておりますが、こんな楽しいこともありませんので、来年以降も続けられるよう頑張って参ります。

一年間、ありがとうございました。そして皆様、良いお年を!

12月16日(金)

 息子は7歳になった。
「ガマン」をおぼえた。
 仮面ライダーフォーゼに変身した。

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「ぼく泣きそうだったんだよ」

 ろうそくが七本立ったケーキを前にして、息子は登校の様子を語りだした。

「イトーくんとかユウダイのお兄ちゃんとかセイゴとかナリマサとか、みんながぼくに『誕生日おめでとう』って言ってきてくれたんだよ」

 イトーくん以外は、みんな年上の友だちで、ほとんどが娘の同級生だった。物怖じしない息子は公園で彼らに会うと、「いーれーて!」と声をかけて、4つも5つも離れたお兄ちゃんたちと遊んでいるらしい。ときには鬼ごっこでいつまでも鬼役から抜けだせず泣いていることもあるのだが、そんなときは娘が変わって鬼になり、同級生を追いかけまわしているそうだ。

「ねえ、この『おめでとう』って書いてあるチョコのプレート、半分ちょうだい」
「いいよ!」

 息子はいつもなら「やだ!」と言いそうなお姉ちゃんの申し出を素直に受け入れる。
「でもぼくの上には、いちご絶対二つ乗せてよ」

 包丁についた生クリームを舐めながら、妻はそれぞれのお皿の上にケーキを置いた。

12月13日(火)

 書店さんの忘年会を終えて、家に着くと、居間の窓から明かりが漏れていた。たいてい子どもと一緒に寝てしまう妻がこんな時間まで起きているのは珍しい。静かに玄関を開けると、ゆっくり風呂につかった。はあっと息を吐き出すと、アルコールの匂いが温められた風呂場のなかを漂った。

 頭を乾かし、相変わらず明かりのついた居間に顔を出すと、そこにいたのは妻ではなく娘だった。おかえりの言葉も発せず、こたつに座って一心不乱にノートに何かを書き写している。時計をみると12時を回っており、そんな時間まで娘が起きている姿をみるのは初めてだった。

「どうした?」私が声をかけると、娘は振り返り一瞬怒ったような顔して、そのあと大きな声をあげて泣き出した。目をこする手のひらは、鉛筆の芯で擦れ、銀色に光っていた。

 台所でお茶を飲んでいた妻に理由を訊ねると、学校で漢字ノートを持ってくるように言われたのだが、娘はとっくにやり終えていた1冊目のノートを先日部屋の片付けをしたときにもう使わないと思って捨ててしまったそうなのだ。そのことを先生に話したら「ほんとはやってないんじゃないか」と疑われ、全部やって持って来なさいと言われたらしい。

「2冊目のノートにハンコが押されているんだからそれが1冊終わった証拠のはずなのに、ぜんぜん聞き入れてくれないのよ」

 この日の午後、学校に行って説明してきた妻が呆れたような表情を見せて、私にお茶を差し出してくる。

「そんなもんだろ、学校の先生なんて」とつぶやきながら私が思い出していたのは、私が中学1年のときの三者面談のことだった。そのとき私の担任は大学を卒業したばかりの新任の女性教師で、毎日「帰りの会」ではそれぞれの生徒に他の生徒の悪かったところを発言させ、その数によって木の棒で叩くということを繰り返していた。一番クラスで叩かれていたのが私だった。

 静まり返った教室の真ん中に二つの机が並べられ、目の前にはその女性の教師が真っ赤な口紅を塗りたくった口を歪ませ、母親に早口で私の生活態度の悪さを訴えていた。校則を守らない、服装がなっていない、口答えする、睨みつけてくる。反論したかったけれど、言っても聞く気がないことがわかっていたので、私はだまって下を向いていた。母親もずっとだまって聞いていた。

 しかし教師が私の悪口を言い尽くしひと息付いた瞬間、母親ははっきりした口調で一言だけ言い返した。

「この子、いい子ですよ。先生にはわからないかもしれないけど」

 そう言って母親は席を立つと、カバンを手に持ち、ささっと教室を出ていってしまった。教師が何か声をかけたが一切振り返ることはなかった。私も慌ててその背中を追って、教室を飛び出す。階段で追いつくと母親は肩を揺らして笑い始めた。

「あんまりしつこいからアタマに来ちゃった。先生っていったって、いろんな先生がいるのよね。でもあんた我慢しなさいよ。どうせ一年だから」

 すでに私のほうが背が高かったけれど、その日の母親はずっと大きく見えた。それは階段の段差のせいではなかったはずだ。

 妻から事情を聞いたあと、私は娘の隣に座って、ノートの端っこをおさえた。あと10ページほどドリルから漢字を書き写さないといけないらしい。

「おい、代わりに書いてやろうか? パパ、字が下手だからバレないぜ」

 私がそう訊ねると娘は私の顔も見ずに「バカじゃない」と言って、漢字を書き写し続けた。
 それでも口元は笑っているようだった。

12月12日(月)

「本の雑誌」2012年1月特大号搬入。

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 朝、起きると息子がストーブの前に座って、目の前の大きな箱を一心に見つめていた。

 その箱は、一昨日イオンモールに行った際に買って来た仮面ライダーの変身ベルトで、そのベルトはネットでも高額で販売されるほどなかなか手に入らないものだった。私と息子はたまたま朝早くイオンに行ったところ、限定販売分の残りがレジのなかにあるのを発見したのだ。

「おい! ベルトがあるぞ」
「パパ、あれはベルトじゃないんだよ。ドライバーっていうの」
「どうする? お前、誕生日プレゼントはプラレールの「E5系はやぶさ&トミカ駅前ロータリーセット」がいいって言ってたじゃん」

 息子と話している間にも、レジの変身ベルトを見つけ、大きな声をあげて購入していく親子がいる。おそらくクリスマスプレゼントにするのだろう。

「うーん、やっぱりドライバーが欲しいんだよ。ぼく、ひとつも持ってないから。でもね、ママがダメって言っていたんだよ」
「そうなのか?」
「うん。スイッチとか他の部品が欲しくなるからって」

 息子が言うには、変身するのにいろんなスイッチがあるそうで、元々4つは付いているのだが、他のものを揃えようとするといろいろ買わないといけないらしい。

「それは我慢すればいいじゃん」
「そうだね。ぼく、『テレビくん』に付いていた龍騎のスイッチは持ってるしね」

 そういえば息子は幼年雑誌の付録で付いていた紙でできた変身ベルトをいつもお腹に撒いて「戦い」をしていたのだ。そのベルトはすでにボロボロで、止めるところがちぎれ洗濯ばさみで止めている。

「じゃあ、これ誕生日プレゼントにするか?」
「うん。でも、ぼくの誕生日は、こんどの金曜日だよ」
「そうなんだけど今、買わないと売り切れちゃうんだよ。だから買っておいて金曜日まで開けるの我慢するんだよ。男の約束だぞ」
「わかった」

 それから三日経った今日も、息子は箱を舐めるように眺め、箱に書かれた文字をひとつひとつ声をあげて読んでいる。その姿はまるでビクターの犬と蓄音機のようだ。

「開けていいぞ」という言葉をぐっと飲み込み、私は着替えのため階段を降りていった。

12月9日(金)

「ギャンブル酒放浪記」の取材のため、終日、大竹聡さんと平和島競艇場。

 本来、麻雀やパチスロなどギャンブルが大好きだった私なのだが、子どもができたのを境にすべて辞めていたのだ。それがこんな取材のせいで、すべてご破算どころか、居ても立ってもいられなくなり、あわや取材と関係なくギャンブル場に行きそうな心持ちである。しかも少ない小遣いは取材のたびに減っていくし、どうしてくれる。

12月8日(木)

  • サッカーと独裁者 ─ アフリカ13か国の「紛争地帯」を行く
  • 『サッカーと独裁者 ─ アフリカ13か国の「紛争地帯」を行く』
    スティーヴ ブルームフィールド,実川 元子
    白水社
    3,300円(税込)
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 火曜に続き、高野秀行さんと打ち合わせ。
 なぜか白金の有名店のチョコをもらう。

 その後、『おすすめ文庫王国2012』の直納ラッシュ。駅ナカ書店に立て続けに納品していったのであるが、切符というのはいったいどれくらい駅構内に滞在していていいのだろうか。不安になって一軒一軒改札を出て、切符を買っていったのだが、それが正解なのかよくわからない。

『サッカーと独裁者 アフリカ13か国の「紛争地帯」を行く』スティーブ・ブルームフィールド著、実川元子訳(白水社)を読み始めたら、あまりに面白いので、就業時間まで営業し直帰することにした。1分1秒ももったいないくらい。

12月6日(火)

  • おすすめ文庫王国2012 (本の雑誌増刊)
  • 『おすすめ文庫王国2012 (本の雑誌増刊)』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
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    honto
12月の新刊『おすすめ文庫王国2012』本の雑誌編集部編が搬入となる。

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本来であればこの新刊の搬入をもって私の2012年の業務は終了し、ひっそりこっそり過ごすはずだったのだが、迷宮名古屋からほうほうの体で逃げ出して来て以来、とんでもなく忙しい。

営業はもちろんのこと単行本の打ち合わせ、連載の相談、取材、忘年会、血迷った編集者からの原稿依頼と、とてもこの日記を書いている時間がとれない。紹介したい本もたくさんあるし、代官山にオープンした蔦屋書店の感想なども書きたいのだ。

それどころか私の最低生活保障である1日7時間の睡眠と4時間の読書、それに1時間半のサッカー観戦(録画)すら守られず不愉快も甚だしい。週40キロのランニングだけ続けるのが精一杯だ。

もう私も40歳だ。
ここらできちんと自分のなりたいものを定め、そこへ向かって一直線に努力していかなければならないはずだ。

うーん、なりたいものってなんだ?

サッカー選手だな。
サッカー選手になって浦和レッズを暗黒時代から救いだすのだ。
それが私の使命のような気がする。

というわけで今日からリフティングの練習をしようと思う。

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